玄武戦記〜玄武終話〜
「御父様」
我の目の前に北斗が座っている。
紅い髪をポニーテールに結わえ、普段着の着物で正座をし正対している。
「御父様」
もう一度呼びかけられた。ふっ、何度聞いても心地よい声だ。
「何用だ、北斗?」
我は既に知っている事をまったく知らぬ気に聞いた。
北斗の頬が少し紅く染まる。その真紅の瞳といい、北斗には紅が良く似合う。
「御父様に会って頂きたい男性がいます。御父様も良く知っていらっしゃる方です」
「我も知っている……何時会えばよいのだ?」
ふふふ、我も役者よ。家の中の気配など容易く読み取れる。しかし、あ奴も緊張するのだな。
「あ、あの…」
少し落ち着きがないぞ、北斗よ。まぁ、そこもいいのだがな。
「何だ?」
「はい。もう来ています。今、会って頂けないでしょうか?」
覚悟を決めて言う北斗。その目が真っ直ぐに我を見ている。
「ふむ、我だけで良いのか? さな子も呼ばなくて?」
「御父様!!知ってらっしゃるのですか?」
北斗が目に見えて狼狽する。今日一日で幾つもの北斗の顔が見れたな。普段では考えられぬ。
「連れて来るがよい。さな子も呼ぶようにな」
「はい」
・
・
・
・
・
人気の無い荒れ果てた採石場。
時より吹く突風が砂塵を撒き散らす。
ここに立つ者は、3人だけ。
我、北斗、そして、戦神よ。
「北斗が欲しくば、我を倒してみよ!!」
我の宣言に、北斗が悲鳴を上げる。それを戦神が優しく止めた。
「全力で行かせてもらいます、御義父さん」
「主に義御父さんと呼ばれる謂れは無い!!」
戦神の体が蒼銀に彩られる。構えはない。あくまで自然体。
「……昴氣か」
我は力を抜いた。木連式裏柔術無位の位。表裏一体。つまり、戦神と同じ構え。
我は昴氣が使えない。
長き木連式柔術の歴史でも使えるのは、創始者、そして、10人に満たぬというに…
だが、我のもう一つの心臓が唸りを上げるのを感じる事が出来る。
使えぬ昴氣の代わりの圧倒的なパワーが体中に満ちる。
我が外道から極外道になった証。
「行きます」
「来い」
突然、戦神から輝きが失せる。
何!昴氣を消した……違う!手の一点に集中させたのか!!
馬鹿な!あれだけの氣を一点に…
そのわずかな驚きが、我の無位の位を解いた。
戦神は目の前にいた。
手が我に触れる。
何かが走った。
弾けた。
滅。
・
・
・
・
・
『きぃーーーーー!まだ、まだよ!!ボソン・エネルギーを照射するのよ!!!」
ドクターイネスの言葉が何処からともなく木霊する。
我の中の力が増大する。溢れる。留まらぬ。
我の意識が深遠に飲み込まれる。
こ、これは何だ!?
イ、イネス!?
謀ったな!!
『北辰、あなたはいい人だったわ。あなたの父上が悪いのよ』
そして、北辰は巨大化した!!
両腕を大蛇と化し、顔が二つ増え、
蛍光どピンクの昴氣を纏う!!!
「御父様ーーーー!!」
「駄目だ!もう御義父さんの魂は見えない!!もう倒すしかない!!!」
「そ、そんなーーー嘘、嘘……」
「北斗……」
「ダリアーーーー!!」
「な、北斗?」
「私が殺る!私がすべての決着を着ける!!」
「プローディア!」
「え?」
「一人で背負うな。いつも俺が一緒だ」
「アキト…」
「さぁ、一緒に行くぞ。御義父さんを解放しに!」
「……ああ、解放しに…」
ジリリリリィィィィィィィィィィンン!!!
玄武戦記〜玄武寝坊〜
「おい!起きろ!」
……煩いな……
「起きろ!出撃だ!」
……煩わしい……とりあえず狩るか…
「ゲキガン…」
ズベシッ!
まず裏拳を放っておいた。
「…ぬおぉ!この程度…」
シュ!シャ!シャ!
ついでに四方手裏剣と八方手裏剣、隠し千本を放っておいた。
「…なんのこれしき、ガイ式鉄身術・我慢!」
「木連式裏柔術奥義蛇王四方脚!!」
「…………」
返事がない。ただの屍のようだ。
我は、ハルカ・ミナトお手製北ちゃん式抱き枕を胸に再び眠りについた。
ふふふ、未熟者が……
・
・
・
・
・
ぬごぅ!!
は、ここはどこだ!
そうだ。火星で次元跳躍門から跳び通常空間に復帰したのだな。
しかし、先程まで何かを見ていた気がするが……まぁ、よい。思い出せぬ所をみるとたいした事ではあるまい。
何かを蹴りつけた覚えもあるが……まぁ、よい。思い出せぬ所をみるとたいした事ではあるまい。
それよりも、ここはどこだ。我の知っている通りなら、月付近で戦闘中のはずだが…
我は、まず周囲の確認をしようとしたが、ベットの足元に何かがあった。
例えていうなら、飛厘が作った何かに似ている赤黒い物体。
我は、何となく念入りに踏み潰してブリッジに向かった。
・
・
・
ブリッジでは……すでにナデシコは、ナデシコ級弐番艦ドック艦コスモスに収容されていた。
ぬぬぬぬぬぬ……我無く戦闘を終えたというのか!
我の欲求不満の捌け口がぁ!!
何故、大事な戦闘時に我を起こさぬ!
ヤマダ・ジロウが起こしに行った。
何故、誰も我の所に来なかった!
ヤマダの惨状見たし。
何故、妖精は我だけ起こさぬ!
嫌なことは、見ない主義だし。
・
・
・
我は今ブリッジで一人戦闘記録の整理をしている。
ミスターに怒られてしまった。いつまで寝ているのですかなと。
く〜勤務評定がA+から下がってしまったわ、不覚!
皆は、新乗組員を見に行った。
まー我は知っているから、構わんがな。
ん? そう言えばキノコが再合流なるのもこの時だな? 奴はどうなったんだ?
心の赴くままに破壊の限りを尽くしたつもりだが…
ところで、妖精よ。
『大丈夫です、奇跡的にも連合宇宙軍に死人は出ていません』
と報告しているが、我の目にはグラビティ・ブラストで一瞬で崩壊して行く有人機が見えるぞ…
直撃を避けた駆逐艦が脱出艇が出る前に爆発しているのが、確認できるぞ…
そう言えば、サセボでの初戦の後も妖精は、
『地上軍被害甚大ながら、奇跡的にも死者いません』
と報告していたな。
あの大地に散乱する真っ赤な肉塊はどうした。爆発した有人戦車群はどうした。
都合の悪いモノは、その目に映らぬか…
さすがは、妖精!人にあらざる魔女よの〜
人間、ああはなりたくないものだな。
なるなら、やはり誇りある外道よ!!
<あとがき>
え〜一人でも最終回!?と思ってくれたら、成功ですね。
書体が違う!何かある!と思った人は、電波系ですね。
次は、外伝玄武秘話です。
代理人の「ぱぱは仮面のお寝坊さん」のコーナー
・・・・むぅ、タイトルがいまいちだな。連載第五回にして早くもネタ切れか(爆)?
それはさておき、「奇跡的にも死者なし」ってそうですか、そう言うオチでしたか(爆笑)。
座布団二枚(笑)。
ちなみに一つ突っ込んでおくと昂氣を発動させたのは「木連式の創設者」の「師匠」で、
「十人に満たない」のも「木連式のもとになった古武術」の歴史の中でなんだそうです。
詳しくは十八話のその十(四日目)をどうぞ。