アカツキの会談
ネルガル本社会長室。
机に高く積まれた書類の束を見ながらアカツキがため息をついていた。
「やれやれ、最近仕事が増えて困るよ。」
火星の後継者の大部分が逮捕されてから一ヶ月。
統合軍、宇宙軍等による残党狩りも順調に進み人々は落ち着きを取り戻しつつあった。表面的には、である。
裏では依然として激しい謀略合戦が行われているのだ。
火星の後継者蜂起時に大量の賛同者を出した統合軍の上層部入れ替えが必然になったのが大きな原因である。
少しでも権力を残しておきたい統合軍上層部、後釜を狙う統合軍高官、これを機会に少しでも勢力を増やしたい宇宙軍。そしてそれらを援助し軍需産業の独占を図りたい各企業。
各自の思惑が入り混じった戦いが一般人に気付かれないようにひっそりと、そして激しく行われていた。
当然ネルガルもそれを狙う企業の一つである。そうであるならばアカツキの仕事が増えるのも当然のことだろう。
比例してアカツキのぼやきが増えるのも当然かもしれない。
「エリナ君もいい加減復帰してくれないかな。」
アカツキが殺人的なスケジュールをこなすはめになった原因の一つがここにある。
月での一件以来エリナが会社に出てこないのだ。
アカツキがアキトを撃った。その事実を考えれば仕方のないことだろう。
いまだに会社を辞めたわけではないほうが不思議なことかもしれない。
アカツキもそれを理解しているにも関わらずなんら心配をしていないようだ。
事情をしらない他の重役から尋ねられても
「エリナ君なら大丈夫でしょ。」
の一点張りなのだ。会長がそれでは重役達もそれ以上口を出せなかった。
アカツキに冗談を言っている様子はなく、エリナが復帰すると本気で考えているようだ。
「会長、ホシノ様がいらっしゃいました。」
アカツキがぼやきながらも書類を決裁しているとエリナの代理を務めている秘書から連絡が入る。
「通してくれ。」
アカツキはそう返事をすると持っていた書類を置き立ち上がった。
「さて、今をときめくホシノ大佐を迎えるとしよう。」
そう言うと接客用のソファーの横で立ち止まる。
「失礼します。」
その声と共にルリが入って来たのはアカツキがソファーの傍らに立ち止まるのとほぼ同時だった。
「久しぶりだねルリ君。」
「はい。」
久しぶりにかつての戦友に会ったためかアカツキの言葉は弾んでいたが、それに返すルリの声は堅かった。
「大佐になったそうだね。取りあえずおめでとうを言っておくよ。これでまた史上最年少記録を更新じゃないか。」
ホシノ・ルリ大佐。それが今のルリの階級である。
火星の後継者による反乱時には少佐であったルリであったが、単艦にて反乱を鎮圧した功績は軍でも、そしてそれ以上に民衆の間で高く評価された。
結果「電子の妖精」の名はさらに高まったのだ。
ルリの能力を警戒視し、当初はルリの単独行動を理由として彼女の昇進を見送ろうとしていた軍上層部であったが、これには方針を変更しルリを昇進させざるを得なくなった。
純粋に考えればルリの功績は一階級昇進程度では足りないほどに大きい。
しかし、軍規則によると二階級昇進は戦死時のみと定められていた。
そこで軍は火星の後継者鎮圧の功績で一階級、さらにその残党退治の功績で一階級昇進させるという方法を取ることにしたのだ。
「有難う御座います。」
昇進のお祝いを言われたにも関わらずルリの口調は最初から変わらない。
「今日は忙しい中時間を取っていただいてすみません。」
「忙しいのはきみも一緒だろ?」
前述の通り二階級昇進が決定していたルリであったが、そう簡単なものではなかった。
名目上とはいえ一階級昇進させるのだから、火星の後継者の残党退治でそれなりの実績を残さなければならなかった。
そのためこの一ヶ月休みなしに戦い続けていたのだ。
「それに昔の戦友じゃないか。時間くらいいつでも取ってあげるさ。」
「そう言っていただくと助かります。」
そう言うとルリはペコリを頭を下げた。
「ですが時間を無駄にするつもりはありません。」
表情をさらに堅くしルリが言った。それに伴いアカツキの顔も厳しいものになる。
「アキトさんはどこですか?」
ルリは火星の後継者の残党退治をしながらもアキトの発見に努めていた。
しかしこの一ヶ月何一つ手がかりは見つかっていない。
ルリとナデシコCの力を使ってもアキトの影すら見つけられなかったのだ。
こうなると、もはや個人の力とは考えにくかった。となれば考えられるパターンは多くはない。
そのうちの一つ、大規模な組織の保護。
ことアキトに関しては、それを行うのはネルガルしかないだろう。
そしてネルガルならば充分な理由がある。
自分たちとアキトの関係がばれないようにするための隠蔽である。
そう考えてルリはたまたま取れた休暇を使ってネルガルを訪れたのだ。
本来なら通信で済ませることが出来たはずである。
極秘にする必要がある話ではあるが、だれにも破れないセキュリティーを施すことはルリならば不可能ではない。
しかし通信そのものが出来なかったのだ。
一度としてアカツキに繋がらないのである。無理矢理繋ぐことも考えたが結局実行しなかった。
ナデシコ内ならば周りの状況もわかる。しかしナデシコ外にいてはアカツキの周囲の状況がわからないのだ。周りにだれかいたら困る。
握っているネルガルの極秘情報をばらすことは考えなかった。
切り札は軽率に使うべきではない。どうしようもなくなった時のみ使うべきなのだ。
今回は直接会いに行けば済むのだから切り札は温存した。
それに今ネルガルが倒れるのはルリにとっても不都合なのだ。
大企業の持つ情報網、それは電子の妖精といえども馬鹿に出来ない。
アキトを探すためなら使える物はなんでも使う覚悟がルリには出来ていた。
結局直接話す以外なかったのだ。
「そんな話をするためにわざわざ来たのかい?」
ルリが直接ネルガルを訪れざるをえなかった原因を知りながらもアカツキはぬけぬけという。
「アカツキさんが通信に応じてくだされば訪れる必要はなかったんけど。」
そんなアカツキに皮肉を混めてルリは言った。
「まあ僕も忙しかったからね〜。」
そんな皮肉は何処吹く風、アカツキはとぼけることをやめない。
「通信にすら応じられないほどにですか?」
「まあそういうことにしておくよ。」
自分がネルガルの弱みを握っている以上、アカツキとしてはその動向が気にかかるはずである。
そんな自分の通信に応じることすら出来ないというのは異常である。明らかに意図的なものとしか思えない。
ルリはそう考えているのだが証拠がない以上どうしようもないのだ。
「わかりました。それはそれで結構です。」
結果そういうことにしておくしかない。
「それでアキトさんはどうですか?」
ルリの聞き方はあくまで直球である。
ルリとて多少の交渉術を持っているのだが、多少に過ぎない。
本物の企業人であるアカツキには到底通用しないだろう。
となればひたすら直球で行き反応をうかがう、それしかないと考えたのだ。
「テンカワ君の逃亡の手助けを禁止したのはきみじゃないか。」
アカツキは笑みを浮かべながらそう言った。
「きみに弱みを握られているネルガルはきみの言うことを守ったんだよ。」
アカツキの言い方には明らかに嫌味が込められていた。
大企業ともあろうものが一個人に弱みを握られている。
それはアカツキのプライドをいたく刺激しているのだろう。
「ユーチャリスもサレナも取り上げた。それで充分だろ?それ以降のテンカワ君の消息はネルガルもわからないよ。」
「嘘ですね。」
正論に思えたアカツキの言葉であったがルリはあっさり否定した。
「確かに私はネルガルの機密情報を握ってアカツキさんを脅しました。この件に関して謝るつもりはありません。」
色々と繋がりのあったネルガルを脅す。
それに対して抵抗が無かったわけではない。
しかし躊躇いはしなかった。アキトを探すためなら手段を選ばない。
それがルリの決意であった。
「僕は謝ってもらいたいけどね。」
「しかしアキトさんがネルガルのアキレス腱であることも事実です。」
茶化すようなアカツキの言葉を無視してルリは言葉を続ける。
その表情は真剣そのものだ。
「ネルガルとの関係が発覚すればネルガルは終わりです。そんなアキトさんをネルガルが野放しにするはずがありません。」
ルリの言葉を聞いているアカツキの顔も真剣味を増していく。
「ですからあなたは知っているはずです。アキトさんの居場所を、もしくはそれに繋がる情報を。」
ルリはそこで一度言葉を切った後、
「それを教えてください。」
アカツキの目を見据えそう言った。
「証拠は?」
鋭い目つきになったアカツキがそう言う。
「ありません。」
ルリは正直に答える。
ルリの言ったことは大いに説得力がある。
しかしそれだけでは通じないのがこの世界である。確固たる証拠が無い以上交渉には使えない。
「証拠はありませんが真実だと確信しています。」
ルリは言い切る。
「そう言われても僕は知らないよ。」
ルリの強い口調にもアカツキはあっさりとそう返す。
「教えてくれないのなら機密をばらします。」
「知らないと言っているのにかい?」
「はい。」
ルリははっきりとした口調で断言する。
「それは無茶苦茶だよ。」
アカツキは思わず肩を竦める。
「わかってます。でもネルガルが知らないとなるともうどうしようもなくなるんです。」
ルリの口調が変わり懇願するよう言った。
「お願いします教えてください。」
弱みを握り、脅している側にも関わらずルリは下手に出ている。。
「・・・知らないな。」
ルリの真摯な態度にアカツキの態度も真剣そのものになっていくが答えは変わらなかった。
「・・・そうですか。」
「それなら私の掴んでいる機密は公開させてもらいます。」
それまで下手に出ていたルリの態度が突如として高圧的になる。
「やっぱりそうこないと。」
アカツキは笑みを浮かべるとそう言った。
「ルリ君は脅している側なんだからそういう態度が正しいよ。」
「冗談だと思っているんですか?」
ふざけた感じのアカツキの態度にルリが怒りをあらわにして言う。
「いや、きみならやると思ってるよ。」
「ならばなぜ・・・」
ルリはアカツキの態度に困惑を隠せない。
自分の持っている情報が洩れればネルガルは終わりだ。
裏も取っている情報なのだから間違いない。
それはアカツキも判っているはずなのだ。
「巷で話題の電子の妖精は所詮はまだまだ子供だって事さ。」
「どういう意味ですか?」
「今日なぜきみはここに来れたと思う?」
「・・・休暇が取れたからです。」
アカツキの質問の意図が掴めないルリは慎重に答える。
「質問を変えよう。どうして休暇が取れたと思う?」
「それは・・・」
ルリはすっかりアカツキのペースにはまっている。
「きみも知っての通り火星の後継者の残党退治は順調だが、まだ全員が捕まったわけではない。」
狂気に近い思想で団結している火星の後継者達は徐々に数を減らしながらも依然としてしつこくゲリラ戦を展開していた。
「統合軍は上層部の混乱でスムーズに動けない。そして混乱は少なくても元々戦力の少ない宇宙軍にとって強力なナデシコCは貴重な戦力だ。まだまだ休みが取れる状態じゃないと思うんだけどね。」
「しかし現実に私たちは現在休暇中です。」
「まだわからないのかい?」
事実しか述べないルリに対しアカツキが聞く。
「ナデシコCに休暇を取らせたのはネルガルなんだよ。」
「!!でも何故ですか?」
アカツキの言葉にルリは驚いたものの、嘘だとは思わなかった。
アカツキの言ったことは全て正しいのだ。
最初休暇の話が出たときにクルー達は単純に喜んでいたがルリは少し訝しんだのだ。
自分達が休んで大丈夫なのかと。
そしてネルガルなら休暇を取らせるぐらいの事は簡単だろう。
「わからないかい?きみを此処へ来させるためだよ。」
アカツキは驚いているルリにそう答える。
「きみからの通信を繋がなかったのもそんための一環さ。」
アカツキは淡々と自分の狙いのタネ明かしをしていく。
「きみがネルガルを疑っていることは判ったいたからね。その状況で休みが取れればきみは必ず僕に直接会いに来る。・・・全部予想通りだよ。」
アカツキはそう締めくくった。
「・・しかしそんなことをしてネルガルに何の得があるんですか?」
ネルガルがルリを此処に来させたからといって何ら得があるとは思えない。
情報はオモイカネがきっちりとロックを掛けて保存している。
自分以外では同じマシンチャイルドであるハーリーぐらいにしか解けないだろう。
となれば考えられるのは自分の身を危険にさらし脅迫すること。
しかし当然ルリもその程度のことになら保険を掛けている。
「私も馬鹿じゃありません。ここに来ることはハーリー君に告げています。私が戻らなければ彼は疑いを持ちますよ。」
「馬鹿じゃない、か。」
ルリの言葉にアカツキが反応する。
「確かにきみは馬鹿じゃない。でもね・・・裏で戦うことに関しては経験が足りなすぎるんだよ。」
「何を企んでいるんですか?」
「ルリ君。今ナデシコCには誰が残っている?」
ルリの質問には直接答えずにアカツキは聞き返す。
「・・・久しぶりの休暇なので大部分の人が実家に帰っています。」
「そしてきみはオモイカネに情報を隠している。」
アカツキの発言にもルリは驚きを見せない。
オモイカネに隠していると言ったことはないが普段の自分の行動を見ていれば容易にわかるだろう。
それでも別のところに隠すより安全だというのがルリの判断だったのだ。
自分とオモイカネの能力を完全に信じきっているのだ。
「これくらい言えばもうわかるんじゃないかい?」
自分と、そしてクルーの大部分が艦から離れるようにした。
そこまでしてネルガルが狙うのは自分の隠しているデータだけだろう。
しかしながら普通の人間に自分のプロテクトを解除出来るとは思えない。
それが出来るのは同じマシンチャイルドであるハーリーともう一人、ラピス・ラズリだけだろう。
ラピスの能力を直接知っているわけではないがユーチャリスを一人で駆っていたのだからかなり高いことは間違いない。
しかし、ラピスがネルガルに協力するというのは考えにくかった。
アキトが許すとも思えないのだ。
アキトがラピスに復讐を手伝わせていたことを考えるとおかしな考えかもしれない。
しかしルリの中のアキトは昔と変わらず優しいままなのだ。
そんなアキトが最低限以上のことでラピスを犯罪に染めるとはどうしても考えられないのだ。
データを引き出すことが出来ないとなればネルガルの取ることの出来る手は限られてくる。
「・・・オモイカネの物理的破壊。」
それがルリのたどり着いた結論だった。
「ラピス君を除外して考えているあたりさすがだよ。テンカワ君の性格をよくわかっているじゃないか。」
アカツキがルリの思考を読み取りそう言った。。
ところでなぜアカツキがこんな言い方をするのか。
それはアカツキが過去に一度体験しているからに他ならない。
当時反ネルガルの動きに押され業績不振に喘いでいたアカツキはラピスに頼んで他企業の機密を盗み出そうとした。
会長職にそれほど執着が無いとはいえ従業員の生活が掛かっている以上少しでもネルガルを立て直そうと奔走していたのだった。
ラピスはいまだ懐いてはいない状態だったがハッキング自体は拒否しなかった。
自分の能力を活かせるコンピューターを使うのは嫌いではなかったようだ。
ところがこれを知ったアキトは激怒した。
ただでさえ自分の復讐に付き合わせることになってしまったのに、これ以上ラピスを利用したくない
とアカツキに詰め寄ったのだ。
当時のアキトは身体を鍛えている途中だったのだがそれでもアカツキに恐怖を感じさせるには充分な
迫力だった。
アキトの性格をわかっているアカツキは素直に謝罪、二度とラピスをネルガルのために利用しないと約束した。
小さな子供を利用するのは自分でも気が進まなかったのだろう。
企業人を装っていてもアカツキはアカツキなのだ。
当時のことを思い出して冷や汗をかきながらも、アカツキはルリがアキトの性格を見抜いていることに感心した。
そんなアカツキの考えはまったく知らず、ルリはアカツキの言葉を聞き自分の考えに確信を持つと同時に焦っていた。
ネルガルの機密情報はどうでもいい、しかし親友であるオモイカネが破壊されることには我慢できなかった。
今までオモイカネの物理的破壊という可能性を全く考え付かなかったわけではない。
しかしネルガルの損失があまりにも大きいためすぐさま考えから排除したのだ。
オモイカネの破壊はナデシコCの破壊とイコールといってもいい。
宇宙軍に所属し、世界的に有名なナデシコCを破壊するなどリスクが大きすぎると思ったのだ。
今度は落ち目ではすまない事態も考えられる。
また、自分はまだネルガルを直接恫喝してはいないのだ。
アキトの逃亡を手助けしないという要求はユーチャリスとサレナを取り上げたことで達成されたと言っていい。
だからこそ余計にこの時期にそのようなリスクを犯すとは思えなかったのだ。
「でも不正解。」
無言で席を立ち、慌てて出て行こうとするルリに向かってアカツキがそう言った。
その言葉にルリの動きが止まる。
「オモイカネは量産がきかないんだ。そんなことをしたら大損害だよ。」
「・・・しかし他の手段は考えられません。」
少なくともルリには思い浮かばなかった。
「考えられない、か。」
断言するルリの口調にアカツキが肩をすくめる。
「それはきみがまだまだって証拠さ。」
「・・・」
ルリは何もいわなかったが表情は怒りを含んでいる。
「きみはマシンチャイルド以外では自分で作ったプロテクトを解けないと考えているだろ?」
「はい。」
「それだけきみは自分とオモイカネの能力に自信を持っているわけだ。」
「はい。」
なかなか核心をつかないアカツキの態度にいらつきを見せながらもルリは即答する。
自分とオモイカネの能力には事実と実績に基づいた絶対の自信を持っていた。
(なぜこんなことを言うのでしょうか・・)
アカツキの会話を続ける一方でルリはアカツキの態度の意味に関して考えを巡らせていた。
(時間稼ぎ?)
そんな考えがルリの脳裏に浮かぶがすぐに否定した。
ここで時間稼ぎをするくらいなら初めからヒントを与えなければいい。
結局アカツキの態度の意味がルリにはわからず、アカツキの話に付き合うしかないと結論付けた。
「それが甘いんだよ。」
「なぜですか。」
怒鳴り声を上げなかったもののルリの言葉は明らかに怒っていた。
アカツキの言葉が自分とオモイカネを侮辱されたと感じたのだ。
自分はともかく、親友であるオモイカネを侮辱されたことは許せなかった。
(やれやれ、やっぱりルリ君にこの世界は早いね。)
ルリの様子を見ながらアカツキもそんあなことを考えていた。
(自分ではポーカーフェイスだと思ってるんだろうけどね。まあテンカワ君のところにいたんだ、ポーカーフェイスなんて無理でしょ。)
アカツキはそう考えているのだがそこまでのことをルリに望むのは酷だろう。
電子の妖精と呼ばれ、宇宙軍大佐であるとはいえまだ16歳なのだ。
経験がものをいうこの世界では通用しないのは当然だろう。
「たしかにきみの能力は電子戦においてはずば抜けている。それは認めよう。」
その言葉にルリは少し拍子抜けをした。
今までの流れからして素直に褒められるとは思っていなかったのだ。
「だがオモイカネは違う。」
そういうとアカツキは言葉を切ると様子を窺うようにルリのほうを見た。
「オモイカネを作ったのはネルガルなんだよ?」
その言葉を聞いた時ルリは嫌そうな顔をした。
「しかしオモイカネは既に自意識を確立しています。ネルガルの思い通りにはならないはずです。」
ルリとオモイカネの付き合いはコンピューターとオペレーターという関係を超えている。
ルリはオモイカネの人格を認めており、「作った」などという表現を嫌がったのだ。
「どうもきみは企業を甘く見る傾向にあるみたいだね。」
ルリの言葉に呆れ顔でアカツキが言った。
「それともオモイカネが絡むと冷静さを失うだけかな?」
多少の自覚があるのかアカツキの言葉にルリが決まり悪そうにする。
「しょうがないね、時間もあることだしきみに少しだけ教えてあげるよ。」
口ではそういうもののアカツキは何処と無く嬉しそうだ。
ルリに教えるという滅多に無い機会を楽しんでいるようだ。
そんな態度にルリが少し悔しそうにするが黙って聞いている。
「いいかい、最新鋭艦を造るとき必ず二隻ずつ建造する。なぜだかわかるかい?」
アカツキはすっかり教師になりきっている。
「コストダウンと艦隊運営をスムーズに行うためです。」
こちらも生徒になりきっているルリが即答する。
軍艦というものはどんなに設計図上の性能がよくても実際に建造してみなければ使えるかどうかわからない。
そこで実験艦という概念が生まれるわけなのだが単艦で建造することは滅多に無い。
一隻では故障などが発生した場合、結果が出るのが遅れてしまうのだ。
さらに単艦では艦隊運営の実験を行うことが出来ない。
そこで通常二隻ずつ建造される。
それ以上の数での艦隊運営は艦の性能がはっきりしてから試すため二隻でいいのだ。
複数建造を行えばどれだけコストダウン出来るのかの実験も可能となる。
この程度のことは軍人であるなら常識であるため、いまさらルリが教わるようなものではない。
「正解。」
ルリの回答に満足そうに頷きながらアカツキが言う。
何時の間にか先ほどまでの重い雰囲気が消えていた。
それどころかのんびりとした空気ができつつある。
「でもねそれだけじゃないんだよ。」
そういうとアカツキは一息ついてついて間をおく。
「対抗性、それがもう一つの理由なんだよ。」
「対抗性?」
その言葉だけではよくわからないルリはアカツキに聞き返す。
「そう。つまりその船が敵に回ったときに対抗出来る船が必要だということなんだよ。」
アカツキの説明にルリが納得した表情になる。
「コンピューターみたいに動かす必要が無い物は一つだけ作って警備を厳重にするんだけど軍艦の場合そうもいかないだろ?軍艦は戦うのが仕事。常に敵と向かい合うんだ。拿捕される場合も考えないとね。」
味方の艦船が拿捕される可能性、そしてその時の対処法というものは昔から考えられていた。
人類が地球上で戦争を行っていた時代は自沈するという方法を取ることで拿捕を免れた。
しかし戦いの場が宇宙に移っていくと別の方法を考える必要性が生まれた。
宇宙には海がないのだ。
当初いざというときに備えて自沈用の爆弾を艦に備え付けるという方法が取られたが、これは現場の猛反対にあって廃案となった。
爆弾付きの艦で戦えと言うのだから実際に乗る人間から反対が出るのは当然である。
結局軍は拿捕される際にはコンピューター部分を出来るだけ破壊しろ、という命令を出しただけで対策を練るのを諦めてしまった。
その後は二隻ずつ建造することで、たとえ最新鋭艦が拿捕されたとしても最悪相打ちに持ち込めるようにしたのだ。
「でもナデシコは・・」
アカツキの言葉を黙って聞いていたルリにふと疑問が浮かんだ。
アカツキの言葉通りとするのなら当然ナデシコにも姉妹艦がなければいけないのだ。
ところがルリの範囲ではナデシコに対抗艦になるような姉妹艦はなかった。
「確かにナデシコには姉妹艦はなかった。」
ルリの疑問をアカツキはあっさり認めた。
当時、世界最強戦艦として名を馳せたナデシコに姉妹艦が無いのではアカツキの話は説得力をもたない。
「残念ながらナデシコは二隻造れなかったんだよ。オモイカネは一つしかなかったからね。」
当時ナデシコを最強の位に押し上げたのは一に相転移エンジン、二にオモイカネ、三にクルーである。
その中で量産どころか二隻造ることさえ出来なかった理由は二のオモイカネにある。
相転移エンジンの量産は可能だった。事実その後軍に提供しているのだ。
クルーの問題にしても、ナデシコ並みのクルーは難しいが対抗出来るくらいのクルーなら集められるだろう。
だがオモイカネはそうはいかなかった。
オモイカネは火星の遺跡から得た技術を元にネルガルが長年掛けて作ったものだ。
そう簡単に作れないのだ。そしてオモイカネ無くしてナデシコは最強足りえない。
通常軍艦では指揮官の命令が火器統制部門に伝達されることで攻撃が行われる。
機動の際も同じく指揮官の命令が操艦統制部門に伝達されることで行われる。
宇宙に飛び出し、360度どころか全天移動が可能となった今では操縦にも多くの人間がいるのだ。
その点、オモイカネによって全艦統制されたナデシコはタイムラグ無しで攻撃、機動を行えた。
しかも、一人で一部門を持つため意思の統一がなされており行動がスムーズに行える。
それこそがナデシコ最強伝説の大きな要素なのだ。
それゆえ初代に続くナデシコBでもオモイカネを移植したのだ。
結果ナデシコAはオート化がやや進んだ相転移エンジン搭載艦程度に性能は落ちていた。
そのオモイカネがない以上ナデシコの姉妹艦は意味を持たない。
「だからコストは高く掛かっちゃたんだよね。実験に関してはもう行き当たりばったりだったよ。」
今だから言えることだけどね、アカツキは笑いながらそう言った。
ナデシコに乗っていたクルーからすれば笑い事では済まないことなのだがルリは気にしていないよう
だ。
初代ナデシコが行き当たりばったりな実験艦だということは気付いていたのだろう。
「でも対抗出来る艦はあったじゃないか。ちょっと遅れちゃったけどね。」
「・・コスモスですか?」
しばらく考えた後にルリはそう言った。
「そうコスモス。おかしいと思わなかったかい?ドック艦なのに大きな火力を持ち、ナデシコ二番艦という呼び方をされるのは。」
ナデシコ二番艦コスモス。
ドック艦であり、ナデシコの数倍の大きさを持つ艦だ。
本来ドック艦には火力はいらないし、あっても僅かな物だ。
後方で傷ついた艦の応急修理をする艦である。
そのドック艦が戦わなければならない状況は既に部隊が壊滅状態と言える。
「そう言われるとそうですね。」
アカツキの言葉にルリは頷く。
コスモスを初めて見たときには既に相転移エンジン搭載艦はナデシコ以外にも存在した。
そしてコスモスとナデシコは似ても似つかない。
そのときはネルガルの影響力が強いのだろう程度に考えていたが、冷静に考えればそれも妙な話だ。
ネルガルは軍に言われて多くの相転移エンジン搭載艦を建造した。
にも関わらずドック艦にナデシコ二番艦の名をつけたのだ。
「ナデシコの対抗艦は苦労したんだよ。」
当時のことを思い出しながらアカツキはしみじみと言った。
「オモイカネがない以上ナデシコに対抗するには火力で大きく上回るしかない。しかし余り強くすると今度はそれに対抗出来る艦を造らなければならない。コストは莫大な物になってしまうんだよ。」
アカツキはルリに教え込むかのように丁寧に言う。
すっかり教師役になっているようだ。
「そこで考え出されたコスモスのコンセプトは「より強く、より弱く」だったんだよ。結果ドック艦になったけどね。」
「・・なるほど。」
ルリは素直に感心した。
こちらもすっかり生徒役になっている。
あの当時、ナデシコとコスモスが一対一で戦った場合軍配はコスモスに上がるだろう。
ナデシコ以上に強力なディストーションフィールドを持ち、多連装のグラビティーブラストはナデシコ以上の速射性を持っていた。
いくら機動力でナデシコに分があるとはいえ全てのグラビティーブラストを集中されれば到底かわし切れなかっただろうし、フィールドで防ぐにも限界がある。
では逆にコスモスが敵に回った場合は撃沈できるのか?これは意外に簡単なことなのだ。
一対一ならともかく、相手が多数になると機動性がものをいう。その点コスモスは致命的なまでに欠けており、軍の敵に回ったとしてもそれなりの被害は出るものの容易に沈められるだろう。
敵にまわると考えるならばナデシコのほうが怖い。まさにコスモスは一対一を想定した対ナデシコ用戦艦と言えるかもしれない。
コンセプトの通り、コスモスは味方として戦えば戦えばナデシコより強く、敵にまわればナデシコより弱いのである。ナデシコの対抗艦に悩んだネルガル苦心の艦なのだ。
「さて、話がそれたね。元に戻そう。」
アカツキがそう言って話を切る。
「ナデシコCの対抗艦はなんだと思う?」
「・・・二番艦じゃないんですか?」
ルリはアカツキの問いにそう答える。
ナデシコC二番艦、軍の発注を受けネルガルが建造を進めている艦である。
対外的には建造となっているが実際はユーチャリスの改造艦である。
そのことを知っているのはネルガル上層部の極一部とアキトが復讐鬼として戦っていたころからユーチャリスを整備していた者ぐらいである。
その整備員たちはアキトの事情を教えられており口外する心配のない連中ばかりである。
ちなみにいまだ知らされていないことだがナデシコC二番艦の艦長にはマキビ・ハリが内定していた。
そしてオモイカネに匹敵するプログラムとしてシナツヒコが搭載されている。
シナツヒコはユーチャリスに搭載されていたプログラムであり、ようやくネルガルが苦労して作り上げた二つ目のオモイカネ級AIである。
早急にオモイカネに対抗出来るプログラムに仕上げるために多くの実戦経験を積ませる必要性があったため貴重なプログラムであるにも関わらずユーチャリスに搭載された、ネルガル上層部での建前はそうなっていた。
しかし実際にはユーチャリスに乗るのはアキトとラピスの二人だけであるため艦の運営にはどうしてもオモイカネ級AIが要求されたのだ。
もっとも、それによって戦闘経験、ワンマン・オペレーションシステムの実験も出来たためネルガルにも多くの利益をもたらしていた。
でなければいくらアカツキでもアキトのために戦艦や機動兵器を組み上げることはなかっただろう。
「間違ってはいない。」
ルリの答えをアカツキはそう評した。
「でもそれだけじゃ足りないんだ。」
アカツキは言葉を続ける。
「ナデシコCが敵に回った場合、電子戦に特化した能力を生かせばあっという間に制圧出来る、艦隊戦でもそれ以外でもね。」
ルリはその言葉を聞きながら火星の後継者のことを思い出していた。自分で考えても電子戦による制圧の威力は恐ろしいものがあった。
「だから悠長なことは言ってられないんだよ。常に対抗艦がなければならない、そんなタイプの艦なのさ。」
「じゃあ他にあるんですか?」
ルリはそう聞きながらも疑問に思っていた。
それほどのものがあるなら軍が宣伝しないはずがない。
しかし自分は知らないのだ、その気になればあらゆるデータを覗く力がある自分が。
「ない。」
あっさりと言ったアカツキの言葉にルリの力が抜ける。今までの話は一体なんだったのか。
「だって仕方ないじゃない。ナデシコCときみの力が馬鹿げてるんだから。」
ルリが力を落とした様子をみてアカツキが慌ててフォローをする。
確かにルリもオモイカネも電子戦に掛けてはトップの実力を持つ。
その両者が組んでいる艦に対抗するというのはかなり辛いだろう。
「だから諦めたんだよ、対抗するのはね。」
アカツキの意味深の言葉を聞いて、ルリはようやくオモイカネに話が戻ってくるのを感じていた。
それと同時にさきほどと今では自分の思考が変わっていることに気がついていた。
さきほどアカツキにオモイカネのことを言われた時はネルガルの思い通りにならないと断言した。
しかし今ではオモイカネになにか仕掛けられていることを半ば確信していた。
今まで知らなかったがナデシコにすら対抗艦が作られていたのだ。ナデシコCにもなにかしら策を講じているはずだ。
ルリの知っているアカツキはハッタリを言うような性格ではない。
そのアカツキがそう言う以上何かあるのだろう。
だが正直見当がつかない。
ナデシコCに乗ってからに限ってもオモイカネとは短くない付き合いなのだ。
オモイカネになにか仕掛けられているのなら自分が気付くだろうし、自意識の確立したオモイカネなら自分で気付くだろう。
一体ネルガルは何をしたのだろうか。
このときルリはアカツキに甘いと指摘したされたことを忘れていた。
アカツキがオモイカネはプログラムに過ぎないと言ったにも関わらず、いまだ人間のように考えていたのだ。
確かにオモイカネの自意識はとてもAIと思えないほどに確立されている。
プログラムされている範囲内で、の話であるが。
ルリのその考え方はオモイカネとの関係を深め、最強と呼ばれるコンビを生み出すこととなった。
反面ルリはオモイカネを信じすぎているのだ。
オモイカネはしょせんプログラムされたことには逆らえないことを忘れている。
「ナデシコCは電子戦に特化した艦だ。戦闘能力そのものはそんなに高くない。つまりオモイカネさえ封じてしまえばそこらの艦と変わらないんだよ。」
ルリもそれぐらいのことは判っている。しかしそれが一番難しいのだということも判っているのだ。
「オモイカネには元々ネルガルには逆らわないようにプログラムがされているんだよ。」
アカツキの言葉にもルリは全く動じない。
「と言ったら信じるかい?」
アカツキは一拍おいた後そう尋ねた。
「信じません。」
ルリはすぐさま答えを返す。
今までの話の流れからすればネルガルがオモイカネに服従のプログラムを組み込んでいることは取り立ておかしな話ではない。
それにも関わらずルリは反対の回答を出した。
アカツキもルリの答えに満足そうにしている。
「何故そう思うんだい?」
アカツキはルリの答えを否定も肯定もしないまま根拠を尋ねる。
「ナデシコクルー脱走事件の時、オモイカネはネルガルによるプログラム上書きを拒否しました。」
ナデシコクルー脱走事件、それは木連との関係、和平の使者である白鳥ユキナの扱い、テンカワ博士暗殺事件の真相がナデシコ内に放送され、それに反発したナデシコクルーの一部がナデシコを飛び出した事件である。
そのときネルガルは他のクルーによるナデシコ再発進に備えて以前のクルーの影響が強いと思われるオモイカネを書き換えようとしたのだ。
ところがオモイカネはそれを拒否、ルリの説得により書き換えられた真似をすることでネルガルを欺いた。明らかにネルガルに反する行為である。
そのことを覚えていたためルリは即答出来たのだ。
「よく覚えているじゃない。」
「忘れられない事件ですから。」
アカツキの褒め言葉にもルリは表情を変えない。
「オモイカネは遺跡の情報から作られたものだからね。いろいろ手を加えることは出来なかったんだよ。」
アカツキの言葉にルリは困惑を隠せない。
今までのアカツキの言い回しからすればオモイカネに何か仕掛けているのは確実である。
しかしオモイカネには何も出来なかったという。
ルリは考えは全然纏まらなかった。
ルリが考え込んでいるのを見てアカツキは話を止める。
「でもね、知っているんだよ。」
しばらく間をおいた後アカツキはそう言った。
「知っている?」
「そう。きみが知らないことやオモイカネ自身が知らないこともね。」
アカツキの言葉にルリはやや不満そうにしている。
自分が一番オモイカネのことを知っているという自負はあったのだ。
それでもアカツキの言葉は否定しきれない。
遺跡の情報を元にしたとはいえネルガルがオモイカネを作ったという事実に変わりはないのだ。
「どんなことですか?」
ルリはアカツキに率直に尋ねた。
ルリとしてはネルガルとの駆け引きを有利にするというよりも純粋に知りたいという願望が強い。
オモイカネに関して自分が知らないことを他人が知っているというのは悔しいのだろう。
「僕が教えると思っているのかい?」
アカツキは当然素直には教えない。
ネルガルにとってルリに教えることはなんの得にはならないのだ。
それどころか対策を取られるようなことがあれば損害に繋がることもありうる。
普段のアカツキならともかく今日のアカツキは企業人として振舞っている。
そう簡単に教えてくれないだろう。
「思います。」
ルリは無理そうなことをあっさりと答える。
しかしアカツキは笑みを浮かべたままだ。
ルリの答えを期待しているようにも見える。
「今ごろナデシコに乗り込んだネルガルの人がオモイカネに対して工作を行っています。」
とうとうルリが断言した。
しかし何をしているのかわかったわけではない。
わかった振りをしているのだ。
圧倒的に不利な中で出来るルリのせめてもの交渉術である。
「ですがそれではナデシコCの対抗力には成り得ません。」
ルリの言うことは正しい。
今回ネルガルはルリをはじめとする多くの乗員をナデシコCから引き離した上でオモイカネに何かしている。
逆にいえばルリ達がいれば何も出来ないのだ。
それでは対抗力とは成り得ないだろう。
「それでは貴方が話した事が全て無意味となります。そんなことを貴方がするとは思えません。」
ルリは淡々と自分の考えを述べていく。
「つまり貴方は少なくとも対抗力に関しては私に教えるつもりでいるはずです。」
「さすがだよ。」
ルリの言葉を最後まで聞いたアカツキは嬉しそうな声を出した。
「確かに今回はそのつもりで話していた。もっともきみが気付いたらの話だけどね。」
アカツキはそこまで言うと姿勢を正す。
「将来ネルガルに迎える前段階として、ね。」
「え・・・」
アカツキの言葉にルリは思わず驚きの声を上げた。
まさかそんな話になるとは思ってもいなかったのだろう。
「きみは軍にいるべきではない。」
アカツキは驚きの声を上げたルリを気にせず言葉を続ける。
「今はまだいい。少なくともきみの人気とミスマル提督がきみを守ってくれる。」
何から守るのか、そんな分かり切ったことはアカツキは言わない。
「だがそれらが無くなったとき、きみは必ず軍に迫害される。」
アカツキは断言するように言った。
それに対しルリは何も言うことが出来ない。
アカツキの言うことは事実だろう。
自分の能力は特異すぎる。
自分を快く思わない人達は多いはずだ。
「それに大佐にまで昇進したきみはこれから否応なしに権謀術数に巻き込まれていくことになる。」
ルリの不安を煽るようにアカツキは言葉を続けていく。
「それを勝ち抜くにはさきほど言ったとおりきみは若すぎる。経験が圧倒的に足りないんだよ。」
残念ながらルリはそれを認めざるを得なかった。
今日のアカツキとの話し合いからもそれは明らかである。
ネルガルの機密情報を握っていたのだから最初優位にあったのは自分のはずだ。
今日は話し合いと言うよりも無理矢理にでも聞きにきたはずだった。
それがアキトに関する情報は以前として何も聞けていない。
それに変わって出た話題であるはずのオモイカネについても具体的なことは何も判っていない。
それどころかネルガルの機密情報すらほぼ確実に失った。
そして今はネルガルへ勧誘するという話になっているのだ。
それが判っていながらも話を変えるタイミングがわからない。
結局流されるままになっているのだ。
これが本格的に権謀術数合戦に巻き込まれるようなことになれば自分は何も出来ないだろう。
「だけど今試した通りきみは頭の回転は速い。経験を積めばきっと誰にも負けない企業人になれるよ。」
「貴方の言ってることは正しいと思います。」
勧誘を続けるアカツキの言葉をルリが遮った。
「ですがそれとネルガルに入ることとは関係がないと思います。」
いくら経験が足りないとはいえルリも素直にアカツキの言うことに従うつもりはない。
「まあね。きみなら何処でも喜んで迎えてくれるだろうね。」
しかし、言葉とは裏腹にアカツキの余裕は消えない。
「だかネルガルに入るメリットは与えて上げられるよ。」
ルリはアカツキの言葉を黙って聞いている。
今は口を挟むべきではないと考えているのだろう。
「ネルガルならばきみが経験を積んで一人前になるまで守ってやれる。僕やエリナ君、プロス君がね。」
何気にゴートが抜かれている。
「それにクリムゾンと戦える。」
守るという言葉は予測出来ていたため反応を見せなかったルリであったが、その言葉には反応を見せた。
火星の後継者とクリムゾンが繋がっていたことはルリも知っていた。
クリムゾンもさすがに証拠を残すようなことはしていなかったが、状況からして間違いないと考えていたのだ。
そして、ここでアカツキがメリットとして上げたことで確信を持った。
クリムゾンが火星の後継者と繋がっていたのならば、クリムゾンもまたアキトの敵ということになる。
そしてアキトの敵ならばルリの敵でもあるのだ。
正直アキトだけではクリムゾンは倒せないだろう。
アキトは破壊する力は持っているものの、企業と戦う力は持っていない。
企業と戦うには企業が一番である。
そして相手がクリムゾンともなれば戦える企業は限られている。
しかし、そのクリムゾンはいまヒサゴプランの失敗で莫大な損害を蒙っている。
落ち目とはいえ未だ地球圏有数の企業であるネルガルならば充分戦えるだろう。
「まあその話はまたいつかということにしておこうよ。」
ルリの心が揺れているのをわかっていてアカツキはあっさりと話を切り上げた。
これにはルリも拍子抜けした。
自分がかなり揺れているのは自分でもわかっていた。
それをアカツキが見抜けないはずがない。
なぜこのタイミングで切り上げるのかさっぱりわからない。
しかしアカツキにしてみればもう充分なのだ。
メリットだけを上げ無理強いはしない。
そしてこの後命取りにならない機密を自ら明かすことでルリの信頼を買う。
全て予定通りの行動だ。
「話を戻そう。」
ルリの困惑を他所にアカツキは話を進める。
「ナデシコCへの対抗性。それはオモイカネの本体をネルガルが握っていることにある。」
今までの回りくどい言い方をやめアカツキはいきなり核心へと話を持っていった。
「本体?」
いまだ多少の困惑を残しながらもルリはアカツキの言葉にしっかり反応した。
やはりオモイカネの話題は興味深いのだろう。
「そう。ナデシコシリーズにはオモイカネ本体は乗っていないんだ。」
これにはルリも驚きの表情を隠しきれず、驚愕の表情を浮かべている。
「ナデシコは単艦で火星へ行くことを目的に建造された。そんな危険な艦に貴重な物は積めないよ。」
ルリはアカツキの言葉を一字一句聞き逃さないように集中している。
そんなルリに満足そうにしながら話を続ける。
意外に説明好きなのかもしれない。
「だからナデシコを失っても良いようにオモイカネの本体は積まなかったんだ。」
「じゃあナデシコにあったオモイカネは・・」
偽者?そんな考えがルリの脳裏をよぎる。
「いや、本物だよ。」
ルリの言葉をアカツキが遮った。
「ナデシコに積んであったのはオモイカネの端末なんだよ。」
「端末、ですか?しかしそれではタイムラグが・・・」
確かに端末ならば失っても本体がある限り再生は利く。
しかし、通信が光速を超えられない以上、火星まで行くともなればかなりのタイムラグが生じてしまうはずだ。
それは致命的なまでの欠点である。
「そう思うだろ?ところがオモイカネの能力は想像を超えていたんだ。」
ルリは黙って聞いている。
彼女自身オモイカネの能力を知るというのは非常に興味深いものがあるのだろう。
「超光速通信、オモイカネはそれが可能だったんだ。」
アカツキの言葉にルリは驚きの表情をはっきりと見せた。
超光速通信、その技術は現在の常識を覆すほどの発見だ。
しかし、アカツキがここまで来て嘘を言うとは思えない。
本当だと考えるしかないのだ。
「超光速通信が出来る以上、積むのは端末だけで充分になった。」
確かに超光速通信が実現すれば、端末を使ったとしてもタイムラグは無くなる。
わざわざ貴重な本体を戦場に送ることはないのだ。
「それに本体の動力を切れば端末は使えなくなる。これがナデシコCの対抗力となるんだよ。」
ナデシコCが反旗を翻した時にオモイカネ本体の動力を絶つ。
そうすれば電子戦に特化した性能であるナデシコCは意味を無くす。
充分に対抗力となるだろう。
「でもね、オモイカネには欠点もあったんだ。」
超光速通信まで可能であるオモイカネの欠点。
ルリは聞くことに集中することにした。
「一つ目は端末が一つしか本体に接続できないこと。おかげでオモイカネの量産は出来なくなってしまったんだよ。」
通常端末は幾つでも本体に接続出来る。
それがオモイカネでは一つしか出来ないのだ。
それがオモイカネ量産の壁となっていた。
「二つ目は本体の方の解析が全く出来なかったこと。おかげでせっかくの技術が転用出来ないんだよ。」
アカツキは困ったような表情をしながら言った。
火星の遺跡からオモイカネを発見したネルガルはその解析を進めた。
その結果オモイカネの解析は成功し、複製も可能となったが、本体と呼んでいる方の解析は全く出来なかった。
そこでオモイカネを使って実験を繰り返したところ、超光速通信を始めとする性能と使い方が判明したのだ。
そこでネルガルはそれをナデシコに積み込んだ。
本体の解析は出来なかったものの、性能を使い方はわかったのだ。
使わない手はないだろう。
しかし、どうやら性能の仕組みは本体側にあるらしく、オモイカネの解析だけではその技術は判明しなかった。
その結果、せっかくの超光速通信などの技術が他に転用できなかったのだ。
そして、同時に別のことも分かっていた。
オモイカネは本体に一つしか接続できないこと。
本体、端末と呼び方をしたが、、実際は二つが揃っていなければオモイカネは動かないこと。
そのため、本体を見れば端末であるオモイカネが作動中かわかることなどである。
ルリはもはや聞いているだけだった。
自分の知らない話ばかりが出てくるため、一字一句聞き逃さないように聞き入っているのだ。
「そして三つ目。」
さらなる情報にルリは喉をごくりと鳴らした。
「・・・製作者達が勝手に名付けちゃったからシステムのネーミングがダサいんだよね。」
もったいつけた後アカツキはそう言った。
「・・・は?」
あまりと言えばあまりな言葉にルリが思わず間抜けな表情になる。
そんなルリの表情を見てアカツキがしてやったりの表情を浮かべる。
どうやらいつものアカツキに戻っているらしい。
本体と端末の関係、オモイカネに携わっていた技術者はそれを「capシステム」と名付けた。
由来はペットボトルで飲み物を飲んでいた技術者が、
「飲み物(必要な物)は本体に入っているが、本体もキャップも片方では役に立たない。」
そう思いあたったからである。
「ペットボトルシステム」ではさすがにあんまりというものであるため「capシステム」と呼ばれるようになったのだ。
これを知ったアカツキはあまりのネーミングセンスに呆然としたという記録が残っている。
「ちなみに本体の在り処を知っているのは僕と製作者達だけだから見つけようとしても無駄だよ。」
本体の在り処が知れてしまっては対抗力として機能しにくくなる。そのため極秘中の極秘でありデータすら存在しないのだ。
知っている人間も両手を要しない。
本体があるということを知っている人間すら限られているのだ。
「いいんですか?そんなこと私に教えて。」
ルリがなんとか自分を取り戻し、アカツキにそう聞いた。
「言ったろ?将来きみがネルガルに来る前段階だとね。」
「今回のデータはどうやらネルガルに取られてしまったようですがデータならまた集めます。」
アカツキの言葉を意図的に無視してルリは話を進める。
ネルガル云々よりも今はアキトの存在が最優先なのだ。
そのためには再びネルガルを脅すことを厭わないだろう。
オモイカネの本体の動力は常に絶っておくわけにはいかない。
そんなことをすればナデシコCが動かせないのだ。
宇宙軍からのクレームを受けることになる。
極秘情報で脅されたなどということが言えるわけがない。
そしてルリがナデシコCに乗っている以上今日のように直接オモイカネと接触することは出来ないのだ。
そして今回のようにオモイカネにデータを保存しておくようなことはもうないだろう。
念のためネルガルに知られないような場所におけばいいのだ。
ルリは再び自分が主導権を握ったと確信した。
「どうやって僕等がきみのプロテクトをどうやって破るのかわかったのかい?」
ルリの言葉をかわし、アカツキが聞き返した。
「おそらく強制アクセスコードのようなものだと思います。」
オモイカネがプログラムであり、ネルガルは複製も可能である。
そのことさえ認識すればそれほど難しくない答えだ。
作ったネルガルならばそれぐらいのものは知っているだろう。
「正解だよ。やはりきみはネルガルにほしいね。」
「アキトさんはどこですか?」
ルリは話を変えられないようにとアカツキの言葉を無視する。
「知らないよ。」
アカツキも一転して真面目な顔になり先程と同じ答えを返す。
「今度は手に入れると同時にばらしますよ?」
時間をおくと何か手を打たれる、そして自分ではそれに対抗できないということを知ったルリは保存を考えず即座にばらすことでアカツキを脅しにかかった。
「何をだい?」
「ふざけないでください!」
アカツキのふざけた態度にルリが怒鳴る。
「ふざけてなんかないよ。一体きみが何をばらすと言うんだい?」
「機密情報をもう一度手に入れます。」
「無理だね。」
一度奪われた以上二度目は無い。
ルリの言葉に対してアカツキは自信を持って言った。
「物理的に切り離したも無駄だったんですよ?どうやって守る気ですか?」
ルリも強気の態度を崩さない。
ネルガルがどんな手を打とうとも奪う自信があるようだ。
「そう、それが不思議なんだよ。」
ルリの言葉を聞いたアカツキがそう言った。
「きみとナデシコCの能力を考えると奪えるはずがなかったんだ。」
「でも実際に私は奪ってみせたはずです。」
不思議がるアカツキを他所にルリは自信の態度を崩さない。
「いやきみでは無理だ。それぐらいわかるんだよ。」
「ではどうやって奪ったというんですか?」
奪ったという事実があるにも関わらず断定して言うアカツキに対してルリが逆に質問する。
「わかっちゃえば簡単なことだったよ。プロス君入っておいで。」
アカツキがそう言うとドアが開きプロスが入ってきた。
「お呼びですかな、会長。」
アカツキに挨拶した後ルリに気付いたプロスがルリにも声を掛ける。
「これはルリさん、お久しぶりです。」
「プロスさん、こんにちわ。」
ルリは座ったままそう言うとペコリと頭を下げた。
プロスとルリの挨拶が終わったところでアカツキが言葉を続ける。
「ルリ君が奪えないとすると考えられるのは内通者ということになる。」
今入ってきたばかりのプロスには何の話かわからないはずだがアカツキは気にしないようだ。
「だからその機密に近づける人物を徹底的に調査したんだよ。」
「見つかったんですか?」
ルリは先程から全く表情を変えない。
そんなことをしても無駄だと言わんばかりである。
「いや全然。それどころか怪しい人物さえ浮かばなかったよ。」
「当然ですね。私が奪ったんですから。」
アカツキの言葉にルリは自信に満ちた態度でそう答える。
「でもそれではっきりしたんだよ。」
ルリの言葉を完全に無視しているアカツキであったが、その視線は鋭くルリを観察していた。
プロスは話に加わるべきではないと思っているのか黙って二人の傍らに立っている。
「内通者がいるのは間違いない。」
自分の考えをまとめるようにしながらアカツキが話す。
ルリはその言葉に反論しようとしたが無駄だと思い黙っている。
「そいつは証拠どころか怪しいところさえ残さなかった。」
アカツキ以外に話すものがいないため静かな会長室にアカツキの声が響く。
「さらに言えば機密情報を金にならないにも関わらずルリ君に教えた。」
アカツキは黙々と言いながらもルリを見ている。
「ここまで言えばわかるだろ?」
「・・・わかりません。」
アカツキがルリに尋ねるがルリは素っ気無く答える。
「プロス君、きみにはわかるかい?」
アカツキは話をプロスに振った。
「そんなこと聞かれてましても私には一体何の話かわからないのですが・・・」
プロスが困ったような顔でそう言った。
「いつまでもとぼけていられると思ってるのかい?」
アカツキの目が急に鋭くなる。
「ここに呼ばれた時点でわかってるんだろ?僕はきみが犯人だと言っているんだ。」
冷たいアカツキの声を受けてもプロスは表情を崩さない。
「いやはや何のことかわかりかねますな。それとも証拠でもおありですかな?」
「痕跡が残ってないからこそきみが犯人だと言っているんだけどね。」
「それは言い掛かりというもの・・・」
プロスの言葉にアカツキは冷たい雰囲気を崩す。
「ふっ、まあいい。次はないからね。」
「何のことかわかりませんが肝に銘じておくことにいたします。」
プロスは眼鏡を押し上げながらそう言った。
アカツキは言葉使いは丁寧ながらも迫力溢れる二人のやり取りに半ば呆然としていたルリに向き直る。
「プロス君はテンカワ君ビイキだからね。きみらの所にテンカワ君を帰すためにこんなことをした。
まっ、そんなとこでしょ。プロス君でもテンカワ君の情報は掴めなかったみたいだね。」
ルリの方を向いたままであったが絶えずプロスに注意を向けながらそう言った。
プロスは否定しないものの表情を全く変えない。
無表情というわけではない、軽く笑みを浮かべたまま全く変わらないのだ。
「さて、ルリ君。これでもう内通者は出ないよ。それでも奪って見せるかい?」
「アキトさんの情報を教えてくれるまであらゆる手段を取ります。」
ルリはアカツキを睨み付けながらそう言った。
しかしその言い方ではプロスが内通者であったと言っているようなものだ。
アカツキがわざわざプロスを部屋に呼んだのはルリの反応を見るためでもあった。
「ふう、知らないと言っているのにきみも強情だね〜。」
アカツキは呆れたようにそう言う。
「そう思うなら教えてください。」
ルリの言葉にアカツキは軽くため息をついた。
会長室に沈黙が流れる。
そんな沈黙を破ったのは一件の通信だった。
「おっと、極秘通信か。ちょっと失礼するよ。」
アカツキはそう言うと席を立ち二人から離れた。
ルリは自分との会談の途中に通信を入れられたのに不快感を覚えたが極秘では仕方ないと思い直し黙って待つことにした。
プロスは相変わらず表情を変えないで黙って立っている。
「・・・了解。意外と早かったね。お疲れ様。」
何も言わずに通信から流れる声を聞いていたアカツキはそれだけいうと通信を切った。
「・・さてルリ君にプロス君、テンカワ君の事を教えて上げるよ。」
ルリとプロスの近くに戻ってきたアカツキは突如としてそう言った。
これにはさすがのプロスも表情を崩した。
ルリにいたっては一瞬何を言われたかわからないようだった。
「あれ?聞きたくないのかい?」
アカツキはルリとプロスを愉快そうに見ながらそう言った。
「やっぱり知っていたんですね!教えてください!」
ルリは思わず声を荒げる。
今まで散々「知らない」と言い切って来たにも関わらず、いきなり教えると言い出してくることにさすがに疑問を覚えたがアキトの事を聞けることに比べれば大したことではない。
「教えてくださるのでしたら私も聞きたいですね。」
一瞬崩れた表情を即座に立て直しプロスもそう続いた。
「テンカワ君はね・・・」
ルリは既に身を乗り出している。
「テンカワ君は――――――――。」
アカツキの言葉を聞いたルリの表情が固まった。
<続く>
<後書き>
どうも「やまと」で御座います。
長い。ルリとアカツキの会談を書いただけなのになぜこんなに長いのだろうか・・・
まあ言うまでもなくいらんことばかり書いたせいですな。
アカツキとルリの会談を書いたわけですがやはりアカツキが勝つでしょう。
ああ見えて(笑)アカツキは会長やってるわけだしそれなり経験を積んでいるはずです。
素人のルリでは相手にならないはずです。
その辺のことが上手く書けていればいいと思うのですがいかがでしょうか?
今回は多少お笑いも入ったのでその辺は満足です。
え?どこかって?それは頑張って探してください(笑)
しかし前回といい今回といいこのタイトルなんとかならんかな。
もうちょっと良さそうなタイトルが思い浮かべばいいのに、我ながら情けない。
今度はかもじゃなく続きます。アキト君は果たしてどうなってしまったのか!!
ここまで主役はアカツキなのでそんなことはどうでもいいでしょう。←よくない
私は主人公最強主義者なのになぜアカツキが主役なんだろう・・・
これがSSの魔力なのですね!(違
お分かりでしょうが、オモイカネの設定、シナツヒコという名前、コスモスの設計思想、対抗性云々
などは全て勝手な考えです。実際の設定とかよく知らないので勝手に考えました。この設定をころこ
ろ変える気はありませんが矛盾があれば考え直します。是非教えてください。
それでは代理人様、今回も感想楽しみに待ってます。
以下改訂版になっての追記です。
オモイカネの設定を大幅に変更しました。
コンピューターの専門家の方から間違いを御指摘頂いたので大幅変更です(^^;)
本文中だけでは説明しきれないので後書きで補足します。
オモイカネは
1.火星の遺跡の情報が使われている。・・公式設定?まあオーバーテクノロジーですのでこれが自然です。
2.超光速通信が可能である。・・火星から月軌道上に出たナデシコにおいて、ユリカはネルガルの重役と話をしました。この時タイムラグが全く無かったため超光速通信が行われていると思われます。アキトが月に跳んだ後、ナデシコへ通信して来た時もタイムラグが無かったことからも推測出来ます。
3.オモイカネは唯一ではない。・・単艦で火星まで行くというナデシコの危険性、ナデシコが火星で消息を絶った時にアカツキがあまりショックを受けていなかったことから推測します。オモイカネが唯一であるのならあそこまで冷静ではいられないでしょう。
4.オモイカネは複数存在しない。・・3とやや矛盾してきます。オモイカネが複数作られたという記述がなかったことから推測します。複数生産可能であれば当然行うでしょう。いくらコストが掛かっても価値は充分あるはずです。
5.オモイカネは誰にでも使える。・・ナデシコクルー脱走後にアカツキがナデシコの再発進を計画していたことから推測します。わざわざナデシコで行くということは普通の人間が使ってもオモイカネは通常より優秀のはずです。でなければ相転移砲を別の艦に移して再発進するはずです。電装系の違うナデシコについたのですから他の艦にもつくはずです。
6.オモイカネの技術は転用されていない。・・コミュニケにサイゾウさんが驚いていたこと、超光速通信が日常的に使われていなかったことから推測します。転用できるのであれば当然使われている技術でしょう。
とまあこんなことがわかっています。推測が多いですが設定が少ないので勘弁してください。
これら全てを満たそうと考えたのが今回の設定です。
1.オモイカネは本体と端末に分かれている。
2.オモイカネ(端末)は複製可能である。つまり解析が済んでいる。
3.ただし技術は本体で処理されており、端末の解析だけでは判明しなかった。
4.本体は解析出来なかった。
5.オモイカネは本体と端末の両方が揃ってなければ動かず、作動している以上両方とも無事である。
6.端末は本体に一つしか繋がらない。
7.マシンチャイルドしか使えない、というわけではない。
これが「やまと」作品の設定です。「ここがおかしいぞ〜。」「こんな考え方もありだぞ〜」という方は是非ともメールにて連絡下さい。
なお白鳥九十九とミナトも超光速通信していたというのは、木連も火星の遺跡の情報があるということで勘弁してください。オモイカネが手伝ったというのでも結構ですが(笑)
この設定を考えるのに、ジンさんの多大、絶大どころか99%ぐらいの協力を頂きました。
設定を使わせて頂く許可を下さったことと合わせて心よりお礼を申し上げます。
代理人の感想
おー、今回もヒキましたか(笑)。
次回に期待させてくれると言うのは本当にありがたいですね。
ルリとアカツキの会談にしても、普通に考えれば始まる前から勝敗は決していますが
それでも話がどう転ぶのか、ルリはこのまま一矢も報いれずに終わるのかと
先の見えない展開を楽しませてくれました。
「お約束」もいいんですが、読んでいて先の展開を読ませない、
それでいて納得させる展開を持ってくると言うのはやはり物書きに必要不可欠なスキルですね。
では、次回に期待して今日はこのへんで。