「ここにどんな御用で?」
「ここに来たミスマル・ユリカに会わせて欲しい」
 ナデシコ出航予定日前日、ルリとレンの二人が食堂を離れブリッジにもどってしばらくたった頃。
 この佐世保ドッグに一人の訪問者があった。
「はい、舌出して」
「手じゃだめか?」
「いいえ。舌です」
 オズオズと舌を出す男。
「ちょっと失礼。あ、あなたのお名前なんて〜の♪」
 プロスはさっと検査器をあてて遺伝子情報を読み取らせる。何故か嬉しそうだ。
 男は痛そうであるが
「テンカワ・アキトさん。全滅した火星、ユートプアコロニー在住?どうやって地球に?」
「覚えていない。コロニーが襲われて死にそうになって・・・・・気がついたら地球にいた」
 気落ちしたように話すアキト
 一方プロスはかすかに眼鏡の下の目を光らせた。
「そうですか・・・・・大変でしたね。あ、失礼。私こういうものです」
「ネルガル重工・プロスペクタ―・・・・・本名か?」
「いえいえ、ペンネームみたいなもので。それで、ミスマル・ユリカさんにどんな御用で」
「聞きたいことがある」
「ほう?」
「あいつは幼馴染だ。宇宙港でのテロ騒ぎ直前まで火星にいた。俺の両親の死についてなにかし知ってかもしれない・・・」
「そうですか・・・・・・ところであなた今お仕事は?パイロットですか?」
 手の甲のタトゥー、IFSと経歴を見て判断したプロス
「クビになったばかりだがコックを・・・・・・パイロットも一通りはこなせる」
「それはますます好都合、いや失礼。実は我々も料理人が必要で、パイロットもこなせるのならなおさら良いのです」
 よどみなく朗々と聞きほれるような声で勧誘するプロスはさすが営業マン
 獲物は目の前のテンカワ・アキトという青年
「どうです?あなたも働いてみませんか。ナデシコで」
「ナデシコ?」
「はい。お見せしましょう」
 プロスはアキトを施設内に導いた。
「この奥ですか?」
「ええ。そうです」
(綺麗な歩き方ですね)
 プロスはそれとなくアキトを観察する。
 体格も良くそれなりの訓練を受けている様子が見て取れた。
(これは、掘り出しものですな)
 時折アキトに説明をいれながら、そんなことを考えていた。
 

NADESICO
[The girl with black wing]

part1-X


「これこそ!ネルガル重工が技術の粋を結集して作り上げた機動戦艦、ナデシコです!」
 地下ドックで水面に浮かぶ白い巨体を指し、プロスは誇らしげに叫んだ。
 一方のアキトといえば、呆然とその姿を見つめている。
「随分と驚かれたようですね。まぁ、これまでの戦艦とは形からしてまるで違いますが」
「・・・・・・戦艦なんですか?これ」
「そうです。美しいでしょう?でもそれだけではありませんよ」
 プロスの口調にも営業でみせる話術だけでない熱が入る。
 彼にもまた思い入れがあるのだろう。
「相転移エンジン搭載、核パルスエンジン四基装備。強力なディストーションフィールドを展開可能。なによりグラヴィティーブラストを装備した最初の戦艦。他に対空砲が前方に十、後方に四門装備。ネルガルが独自に運用することになっています」
「そ、そうですか・・・・・」
 未だショックから覚めないのか、生返事しか帰らない。
「あちらに見えるのが、ナデシコに搭載する機動兵器の一つ。エステバリスカスタムです。エステバリスはご存知ですよね」
「あ、はい」
「従来型より2倍の出力を誇る新型です。木星蜥蜴の小型機動兵器など圧倒するポテンシャルを誇ります。その分扱いは難しいですが、テンカワさんには慣れるまで出力を落として利用してもらうことになりますか・・・」
 まだエステバリス一機がまだナデシコに積み込まれずドックに佇んでいた。
「おや?」
 突然、そのピンクのカラーリングのエステが動き出した。
「おい、てめぇ!!それは今からナデシコに積み込むんだよ。なに動かしてやがる」
 整備班が次々とその周りに集まり、班長であるウリバタケがメガホン片手に怒鳴る。
『くぅ〜〜!!いいね、いいね。この動き、従来型よりずっと滑らかで力強いこの感触ぅ』
 なにやら妙なポージングを盛んに繰り返す。パイロットの趣味だろう。
『LET'Sゲキガイン!!』
 もっとも周りは呆れるしかないのだが。
 ついでにチェック及び搬入作業に追われていた整備班には大迷惑である。
「どうやらパイロットの方が乗り込んだようですね。到着は明日とのことだったのですが・・・・・・」
 プロスはコミュニケを操作してエステに繋げる。
「明日到着予定のヤマダ・ジロウさん・・・・・・『ダイゴウジ・ガイだ!!』・・・ですか。とりあえずその機体から降りてください」
『おう!だがその前に皆さんにお見せしよう。このダイゴウジ・ガイ様の必殺技』
「おい、あんな無理な姿勢したら」
『ガイ!スーパー・アッパー!!!』
「こけますな」
 ぴたっとお好みのポーズで止まったエステはバランスを崩し、手足を振り回し
 アキトとプロスの無慈悲な言葉と轟音とともに崩れ落ちた。
「ああ!!俺のかわいいエステちゃんになんてことを!」
 叫びながら駆け寄るウリバタケ
 整備班も次々と集まる。
「はははは、やあ、失敗失敗」
 そんな周りの様子などお構いなしでアサルトピットより顔を出すパイロット
 なんだかとても濃い顔である。
「てめぇ、整備終わったばかりのエステで馬鹿しやがって、とっとと降りて来い」
「おお、博士。このゲキガンガーほんとすげぇな」
「そんなこと・・・・・・て、おたく顔真っ青だぞ?」
 まったく悪びれない様子で飛び降りたのだが、急に顔色が悪くなる。
「いや、なんか足が物凄く痛いなぁ、て」
「折れてますな」
 プロスの無慈悲な宣告とともに自称ダイゴウジ・ガイは崩れ落ちる。
「おい、そこの少年。あのロボットのコクピットに在る俺の宝物、とっておいてくれぇ〜!」
 担架で運ばれていく本名ヤマダ・ジロウがその場に残した最後の言葉。
「・・・・・・あれもパイロットですか?」
「あれでも腕は確かなのですが」
「そうですか・・・・・」
 アキトは頼まれた通りアサルトピットに向かった。
 ため息をつきながら。
 そのとき
 突然ドックに警報が鳴り響いた。
 


《警告、敵影を多数確認》
 オモイカネからの警告と時を同じくして、佐世保ドッグ中に響き渡るけたたましい警報。
 連合軍駐留部隊が慌ただしく動き始める。
 ナデシコブリッジも例外ではいられない。
 ちょうど提督・フクベ予備役中将と副提督・ムネタケ・サダアキ准将がやって来た。
「すぐ迎撃よ!」
「マスターキーが無いので動きません」
 律儀にルリが答える。
 ナデシコの始動にはマスターキーが必要であり、艦長以下数名しか使えない。
「ちょっと艦長はどうしたのよ艦長は!」
「遅刻みたいです」
「どーーいうことよ!早いとこなんとかしなさい!!」
 淡々と答えるルリ
主のいない艦長席の後、相手構わずオカマ言葉で喚き散らすムネタケ。
一瞬首を掻き切って黙らせようと本気で思ったレン
『ビラカンサ三機、ジェステシア三機、発進準備。ブリッジに報告はいらない。ウリバタケにも黙っているよう言って』
『了解』
 とりあえず保険をかけておく。
『最悪、私の権限で全システム起動。上の施設ごと吹き飛ばして浮上する』
『大丈夫、艦長来た』
『そう』
 言葉にしなかったレンの指示、ホノカグヅチの答えが脳裏に響く。
 ヒステリックに喚き散らすキノコを冷めた目で一瞥すると、レンはブリッジを見渡した。
(ちょっと様子見)
 作業を進めるブリッジクルー
 さて、どの程度のものだろうか?
 一方ルリは静かに目を伏せてその時を待っていた。

 そして幸運か破滅かはわからないが、ついに女神がブリッジへと飛び込んできた。

「お待たせしましたっ!皆さん!
 私が艦長のミスマル・ユリカです。ぶい!」
「「「「「「ブイ!?」」」」」」
(これでみんなのハートをがっちりキャッチ♪)
 後ろで副長・アオイ・ジュンが頭を抑えている。
「どうするのよ!このままじゃ生き埋めよぉぉぉぉ!」
 どこか根本的にずれている(少なくともクルーの大半がそう感じた)艦長の登場
 さらに狂乱の様相を深めたムネタケを余所に皆は対策を検討していた。
 実戦。死と隣り合わせの状況。ミナトやメグミが混乱しない原因はユリカとムネタケ。言わば反面教師。いきなりボケをかましたユリカと、情けないムネタケの様子が逆に彼女達を冷静にした。以前の職場で培われた図太い神経も大きい。
 ボケボケでも状況はわかっているのか、ユリカはすぐにマスターキーを入れる。
「相転移・核パルス両エンジン起動」
 エンジンが起動し、各々仕事に取り掛かる。
 レンはそんな様子を一瞥しつつ一石投じてみる。
「近くの基地と地上部隊は?」
「地上部隊防戦中。でも全滅は時間の問題。敵・機動兵器群の狙いはおそらくこのナデシコ」
「周辺基地からの応援、間に合いません!」
 ルリとメグミが答えた。
 防衛部隊は完全に裏をかかれた。付近チューリップがほかならぬレンが率いていた出向部隊に破壊されている。気が緩んでいたのだろう。
(海中深く潜行し接近。奇襲してきた、と。バッテリーよく持つ)
 海中まで敵がいなくて幸いといったところだろう。
「メインゲートから発進する?」
「多分ゲートを開けた瞬間に敵に入り込まれて飛立つ前に撃沈されます」
ルリもすでにジェステシアなどの起動兵器が発進準備を整えていることに気付いていた。
しかし、用意したレンが黙っているので誰にも伝えなかった。
レンの意図が理解できたからである。
 だから、ミナトの問いに、ルリはそう答える。
「じゃ、真上に向けて主砲を撃ちなさいよ!」
「わぁ最低〜」
「そうですよ。全滅寸前とはいえまだ沢山人が残ってるんですよ!」
(キノコ使えない)
 なおも叫ぶキノコ頭にミナトとメグミが突っ込む。そしてレンが一瞬睨む。
 その冷たい瞳に震え上がるムネタケ
(ちょっとだけヒント)
 そしてレンは艦長の横に並んだ。
「ルリ。上の様子を出して」
「平面図を表示。敵味方の配置と活動状況を重ねます」
「お願い」
 声を張り上げるわけでもなく、ブリッジを沈めるレン。
 正面に現状図が現れる。ドック周辺図中には圧倒的多数の赤と、その三割くらいしかない青が描かれる。青の光は一同が見ている間も次々と消えていく。
「リアルタイムで状況を表示。バッタ、ジョロで構成された敵機動兵器群、数412機」
「ルリルリ、青いのは?」
「味方です。今全て沈黙しました」
 ミナトが尋ねたときに、最後の一つが消えた。
 レンは顔だけユリカのほうを向く。ユリカもちゃんと図を見ている。
「どうする?」
「いったん海底ゲートから出港、その後浮上してグラヴィティーブラストにて敵を殲滅します!」
ユリカは慌てず騒がずきっぱりと答え、ルリはすぐに発進準備に取り掛かる。
「その間敵がおとなしく待っていてくれるか?」
「敵が広範囲にわたる。一撃では倒せまい」
ゴート・ホーリーとフクベがもっともな意見を表明した。
「だから、囮を立てます。敵をうまく集めることができれば………」
『そう!そこでオレの出番!エステバリスで出撃!囮となって敵を引きつける。その隙にナデシコは脱出!』
 突然開いたコミュニケからユリカの意図を察して自称ダイゴウジ・ガイが名乗りを上げる。
 しかし
『あんた足が折れてるんじゃ・・・』
『そうだった!!』
 直ぐ隣に開いたコミュニケからウリバタケが冷ややかに突っ込んだ。
「ほえ?」
 再び緩み呆けた顔になるユリカ
「パイロット・ヤマダさん脚を折って、ただいま医務室。出撃は無理ですね」
「ええーーー!?」
「ちょっと! どうすんのよ! 誰か出しなさいよ!」
「あらら、こりゃピンチねぇ」
「あーあ、いきなりですね」
「どーーしよぉ〜〜!」
 叫ぶユリカとムネタケ
 どこか冷めたミナトとメグミ
「他にパイロットは!?」
「エステなら多分操縦出来ると思いますが・・・」
 あんまりうるさいのでルリが挙手をする。
「あんた行きなさい!」
「あ、足がとどきませんね。多分」
「ムキィーーーー!?」
 狙ってやったのか?ルリの一言にとうとう切れ、泡を吹いて倒れるムネタケ
「囮なら既に出てるけど・・・」
「「「「「「へ?」」」」」」
 ルリまで不毛な会話に巻き込まれていたので、代わりにレンが現状を伝えた。
 零G戦フレームのカスタムエステバリス一機、搬送用エレベーターで地上に向かっているのが映し出された。

「エステバリスに搭乗している者、名前と所属を名乗れ!」
 ゴートは無断でエステバリスに乗り込んでいる男に詰問する。
『テンカワ・アキト、先ほどコック兼パイロットとして雇われた』
 膝にゲキガンガーのオモチャを乗せた普段着の男は淡々と答えた。
「彼は先程雇いました。とりあえずクルーとして仮登録しといてください」
 丁度ブリッジに駆け込んできたプロスが説明する。
「わかりました」
 ルリが簡単に手続きを済ます。
『状況は聞いた。囮がいるんだろ?』
)状況、送ります」
 エステバリスが地上に出るまで時間が無い。
 じっとアキトを見つめるだけのユリカに変わり、何故かルリが指示を出す。
「作戦時間は十分、合流ポイントまで敵を引きつけてください」
『了解した』
 必要なことだけ伝え、指示を得たアキトはコミュニケを閉じた。
「アキト?・・・・・アキト・・・・・・」
「あれ、ここに来る途中トランクぶつけちゃった人だよ。ユリカ」
「アキト、テンカワ・アキト、確か・・・どこかで」
(ユリカさん、ブツブツ言ってないでちゃんと指示出してください。姉さん呆れています)
 ユリカはなにか考え込んでいた。ジュンもフォローしない。ゴートとフクベは黙ったまま。プロスは我関せず。
 レンが先程からブリッジクルー、特にユリカを値踏みするように見ている。
 ルリはドックの注水作業、エンジンの立ち上がりを確認しながらも、気になってならなかった。

 コミュニケを閉じると再び静かになる。
送られてきた状況を確認するアキト。
確認を終え、彼はコクピットの中で静かに目を瞑っていた。
 その間にもエレベーターは地上に向かう。
 上部ハッチが開き、光が差し込む。
 静かに目を開けるアキト
 地上に姿をあらわすエステバリス
 目に映るのは一面の敵機動兵器
 向けられた数々の武器が一切に火を噴いた。
 
 エレベーター付近が爆発に包まれる。
「「「「ああ!」」」」
 メインモニターで見ていた幾人かが叫ぶ。
 しかし、次の瞬間
 包囲していたバッタ、ジョロが次々と爆発した。
「ほぉ、見事ですな」
「むぅ」
「・・・・・・」
 プロスが感嘆し、ゴートがうめく。フクベが軍帽から覗く目を見開く。
 四方からの攻撃に為すすべも無く爆散したと思われたテンカワ機が再び映し出された。
 ラビットライフルの正確な射撃で次々と敵を打ち抜く。
 圧倒的な火線を潜り抜け、接近した敵をイミディエットナイフで切り裂く。
 地表すれすれを飛び、時折急上昇して敵を掻き回し引きつける様は舞うようである。
「どうやら、カスタム機の性能を完全に引き出しているようですな」
「ミスター、彼は何者だ?」
「先程雇いましたテンカワ・アキトさんです。宇宙軍火星・ユートピアコロニー駐留のエステバリス隊体長だった方です」
「全滅したユートピアコロニーの?何故この地球に?」
「本人はわからないと言っていましたが・・・」
 ユートピアコロニーという単語に、一瞬フクベの肩が震える。プロスもゴートも気付いた。そして礼儀正しく無視した。
「すごいわね〜」
「なんか綺麗ですね」
 状況図から次々と消えていく赤い光点。
 衛星やまだ生きているドック周辺のカメラから送られてくるテンカワ機の映像
 レン、ルリ、フクベ。気絶しているムネタケを除く面々は、その様子にしばし魅入る。
「ドック内水圧安定。発進準備完了。艦長?」
 注水作業が終わり、ルリがユリカに問い掛た。
 そのとき・・・
「ああぁ!アキトだぁ!テンカワ・アキト!」
 ミスマル・ユリカ、魂の叫び!
 その凄まじい声にブリッジクルーは思わず耳を抑えた。
 直ぐ側に立っていたレンは眩暈すら覚える。
「アキト!アキトアキトォ〜!返事してぇ!!」
「艦長、パイロットは作戦行動中です。邪魔になります」
 咄嗟にアキト、エステバリス双方のコミュニケをクローズにしたルリが注意する。
「それとも新たな指示があるんですか?」
「そうだね。すぐにお話できるよね。待っていて、アキト!ルリちゃん発進準備は?」
「・・・・・・すでに終わっています」
 皮肉も報告もまったく気付いていないユリカ
 ほんの少し眉をしかめ、それでもルリは先程の報告を繰り返す。
「解りました。ナデシコ発進」
「了解、ゲート開きます」
 海底ゲートが開きナデシコはドックを滑り出す。
「浮上と同時にグラヴィティーブラスト発射します」
「グラヴィティーブラスト・チャージ」
 ようやく戦艦のブリッジらしく・・・・・・・
「アキト、待っていてね!あなたのユリカが今行くから!!」
 ならなかった。

「・・・・・いい機体だな、これ」
 その頃、敵を確実に減らしつつ誘導していたアキトは、既に合流ポイントの近くまで来ていた。
 囮に専念したこともあり、ライフルの残弾数にも余裕がある。
「そろそろ、合流ポイントだが・・・」
『ナデシコ、一分後浮上します。同時にグラヴィティーブラストを発射。敵を一掃します』
「おいおい、俺はどこに避ければいいんだ?」
『そのままナデシコ後方に突っ切っちゃってください』
「酷いな」
『あ、ごめんなさい。でもそういう指示なんで』
 通信士、メグミは申し訳無さそうに謝る。
「いや、いいんだ。じゃ、後で」
 通信を切るとアキトは表情を引き締める。
「さて、やるか!」
 海に向かっていたエステバリスを反転させ、吸着地雷八つを敵に向けて投げつける。
 一斉に爆発したその呷りを受けてバッタ、ジョロの足が一瞬止まる。
 その隙に、アキトは一挙に海の上を突き抜けた。
 同時にナデシコがその姿を表す。
 四門のグラヴィティーブラストから伸びた重力波の帯が敵を一掃した。

「敵全機殲滅を確認。帰還します」
『お疲れさまでした』

 後方に出力を集めた加速重視のスラスター。
 エンジンを船体に埋め込んだ凹凸の目立たない滑らかなシルエット
 夕焼けに映える白い巨体は細長く優美で、四方に開いたブレードがまるでユリの花を思わせた。
「ほんと、綺麗な船だな」
 その姿に見惚れるアキトが呟く。
 ナデシコの初舞台はそうして終わった。


「レン君、メインコンピューター制御の機動兵器、何故出さなかったのかね?」
「クルーの様子を見たかったから。貴方もそれで黙ってた。違う?」
 フクベに聞かれ、一応レンは答えた。
「まぁ、奇跡的に死傷者ゼロですみましたが」
「しかし、出していればさらに被害は少なくて済んだ」
 プロスが口を挟み、ゴートが抗議する。
 他のクルーから離れたところ、一応声は抑えている。
「手札はふせる。別に囮が無くてもあれなら殲滅できた」
 最悪佐世保ドッグが壊滅してもナデシコが無事ならいい。
 敵に手の内を明かしたくないレンはそう考えたのだ。
 幸い、飛び入りパイロットの腕も良かった。
「それに、艦長気付かなかったしね」
 少し離れた、ブリッジ前方。
 その艦長・ユリカは先程からコミュニケで盛んにアキトに呼びかけている。
「アキト、ユリカの危機に駆けつけてくれたんだね」
『いや、そのな・・・』
「ユリカ感激♪」
「ちょっとユリカ!アキトって誰!?」
「ユリカの王子様♪」
「「「ええ〜〜〜!!」」」
 戦闘が終わってよいよ騒がしくなってきている。
 一番騒いでいるのがユリカだ。
 兵装、搭載武器を覚えてないのか?
 それに次の指示は?
 レンの横で聞いているルリもフォローできない。
「で、プロス」
「なんでしょう?」
「あれ指揮するの?私が?」
「嘘よ!ありえないわ〜〜」
 復活して盛んに喚いているキノコ
 アキトアキトと連呼しているユリカ
「ゆりか〜」
 情けなく涙を流すジュン
「俺のゲキガンガーかえせ!」
 パイロットの一人、ヤマダ・ジロウは肝心なときに負傷して使い物にならない上、いかにも変。
「ま、まぁそうなりますな」
「性格に問題があっても腕は一流・・・・・・問題ありすぎる気がするけど」
「こ、これからですよ。これから」
(性格のことをレンさんに言われたくはないと思いますが)
「そう」
 ハンカチで汗を拭うしぐさをしてみせ、内心思うところの在るプロスを冷めた目で見た後
 ちょっと
 ちょっと、これからのことを考えため息が出るレン。
 それでもとても立ち直りが早い彼女は、すぐ興味をひく対象のことを思い出した。
「ま、いいや。副長」
「は、はい!」
「後始末よろしく」
「え?」
 涙を拭い答えたジュンに無情の命令が下る。
「がんばって、お仕事」
 呆気に取られるジュンに近寄り、珍しく華開くような微笑みを浮かべる。
「それに艦長のフォロー、してくれる?」
 真っ赤になってガクガクと頭を振り頷くジュン
「じゃ、お願い」
 顔を近づけ、鼻を人差し指でチョンと押してからレンはそのままルリの元に戻る。
 出向部隊指揮官時代も、こうやって雑用係を見つけては押し付けていたレン。
 普段無表情で愛想が無い彼女も、短い時間の演技ならかなり綺麗に笑え、こんな芸当も出来た。
「どちらへ?」
「ちょっとあのパイロット見てくる。いい腕だった。どんなのか気になる」
「あ、私も行きます。知り合いに似ているもので・・・」
 話を聞いていたルリが後に続く。
「そうですか。しかしオペレーターが二人ともおられないのでは・・・・・・」
「大丈夫です。あとはオモイカネとホノカグヅチだけで充分ですから」
「エステバリス隊隊長ぐらい任せられるかも、あとで契約内容変更お願い。それからブリッジ教育も兼ねて艦長をよろしく」
「・・・・・・・・・わかりました。ではそちらは頼みます」
 そしてレンとルリの二人はブリッジを去っていった。
「あ、ユリカも行く!」
「艦長はお仕事です。それに遅刻の理由を説明して頂かないと」
「ふぇ〜!アキトぉ」
 後ろからはプロスに説教をされているユリカの情けない声が聞こえる。
(ユリカさんが来ないのは良いとして、姉さんが来るとちょっと困るのですが)

「あ、ホノカグヅチ。ビラカンサとジェステシア引っ込めて」
『了解』
「ウリバタケ」
『なんだい!レンちゃん』
 通路を歩きながらコミュニケを開き呼びかけるレン。
「発進準備していたビラカンサ達、引っ込めるから一応チェックしといて」
『わかった』
「黙っててくれてありがと」
『いいってことよ。じゃ、飛び入りパイロットの受け入れがあるから切るぞ』
「わかった」
 コミュニケが閉じる。
「クルーをどう見ました?」
「要訓練」
「きついですね」
「ルリはどう思う?」
「ブリッジがちょっと・・・」
 さすがにあの状態ではルリも庇いようが無い。
「さっきのパイロットは掘り出し物かもね」
「そうですか?」
「うん、体捌きとか良さそう。エステの動き、あれは武術をやってる人間。カスタムエステを乗りこなした。性能を完全に引き出してた」
(おまけに結構カワイイ感じに見えた。ちょっと面白そう)
「はぁ・・・」
 ルリの歩調に合わせ、二人は格納庫に向かう。
 どうやらアキトに興味津々らしいレンを見て、ルリはこっそりため息をついた。
 






 初めての後書き

 はじめまして
 弥生櫻です。
 はじめてナデシコの二次創作に挑戦しました。
 色々不具合が多いかもしれません。その時は教えてください。

 今回出てきたナデシコ、及びカスタムエステバリスについて
 ナデシコ
 TV版ナデシコとはまったく姿形が違います。基本はユーチャリス。劇場版のユーチャリスは200メートル程度と聞きますが、このナデシコは全長350メートル。エンジンはナデシコシリーズのように船体から離れておらず埋め込まれています。八ヶ月前より相転移エンジン搭載の実験艦でデータを取っているのでTV版ナデシコより全体的に出力が上。ユーチャリスと同じ四つの可変ブレードによるディストーションフィールドはある程度集約展開可能。グラヴィティーブラストの射角は正面より五十度四方。船体を囲むように装備されているので射線が広い。対機動兵器・対ミサイルとして埋め込み式可動砲台が前方に十、後方に四装備。船体下部にハッチが一つ。ヒナギクや大型機動兵器はここから。エステバリスサイズはユーチャリスのバッタ射出口と同じく船体後方に四基の重力カタパルトが存在。ブリッジ、演算室、居住区までを一まとめに脱出艇として分離可能。船体上部に密着しているため見た目ほとんど目立たない。他の装備は追々紹介。
 カスタムエステバリス
 出力、機動力は劇場版のカスタムエステとほぼ同等。バッテリーはむしろ長持ち。ただし部品精度が劇場版ほどではなく、特に慣性制御が追いつかずかなりのじゃじゃ馬。リミターによってエステバリスより多少上程度に抑えることも出来るがアキトはリミターを解除。苦も無く操って見せた。