＜あの刻、あの場所で＞

そして一年後


「着きましたよ。ラピス。」


「これが『ナデシコ』…アキトの思い出の場所…。」


サセボのドッグでネルガルの新造戦艦ナデシコを見上げる

二人の少女の姿があった

三章　『ただいま、ナデシコ…』

「これはこれはお二人とも、なかなか早いお着きですな。」


私とラピスに話し掛けてきたのはお決まりの赤いベストを着たプロスさん


「して、如何ですか？我がネルガル重工の新造戦艦『ナデシコ』は？」


「ヘンな形…ユーチャリスの方がカッコイイ。」


「ははは、相変わらずですな。それよりルリさん、ラピスさんは

艦内をご存知無いのでは？宜しければご案内させてもらいますが…。」


そう言えばそうですね

私は知っていますが、ラピスは乗った事がありませんし


「じゃあ、プロスさん。よろしくお願いします。」


「お任せください。」


プロスさんのナデシコ艦内ツアーが始まりました









一通り艦内を回って残るはブリッジと格納庫だけになりました

格納庫…と言えばやっぱりあの人たちでしょうか？

そんな事を思いながら格納庫への扉をくぐると…


「あ〜〜〜っはっはっはっはっは！！」


やっぱりあの人が叫んでました


「なんなの？」


あの人、ヤマダさんの大声にラピスが訊てきます


「いや、お恥ずかしい。彼はナデシコのパイロットの

ヤマダ・ジロウさんでして…。」


溜息をつきながら説明するプロスさん


「違〜う！それは世を忍ぶ仮の名！

俺の真の名、魂の名はダイゴウジ・ガイだぁぁぁ！！」


聞いてたんですね、ヤマダさん？


「いいからとっとと降りやがれ！！

勝手に俺の愛しいエステに触ってんじゃね〜！！」


メガホンを持って大声で叫ぶ男性、ウリバタケ・セイヤさんです


「いいから黙って見ていやがれ！！今、必殺の！！」


ピンク色のエステが跳びはねてます


「ガァイ！スゥパァナッパァァァ！！」


と、奇声を上げてエステバリスが派手に転倒しました

はぁ、この人は何処の世界でも一緒なんでしょうか？

前回はアッサリと死んでしまいましたけど、今回は

少しぐらいアキトさんの役に立ってから逝って下さいね？


「この野郎！俺の可愛いエステの傷付けやがって！！」


セイヤさん、それは解かりましたからエステに頬擦りするのは止めてください


「ねえ、ルリ、あの二人って……………バカ？」


……ラピスが何か言いましたが聞かなかったことにしましょう

そんな事をしている内にセイヤさんが話し掛けてきました


「おう！プロスの旦那にルリちゃんにラピスちゃんか！

久しぶりだな！！」


「セイヤさん、乗ってくれたんですね。」


「あたぼ〜よ！女房と子供の相手も飽きたし、

それにアキトの奴の機体を俺以外の誰が面倒見るってんだ！！

で、アキトはどうしたんだ？あいつのエステが無いみたいなんだが…？」


そう言って格納庫を見渡すセイヤさん


「アキトさんなら遅れて来ますよ。新型が完成したんで取りに行ってるんです。」


「新型だって！？本当か！？」


私の言葉を聞いて怪しくメガネを光らせるセイヤさん


「「勝手に改造しないで下さいね（しちゃだめだよ）！？」」


私とラピスが同時に釘をさします

…なんですか、セイヤさん？そんな恨めしそうな目をしないで下さい！


「班長〜！またあのパイロットが勝手にエステに乗り込もうとしてます！」


「なにぃ！！」


整備班の人たちの言葉を聞いてセイヤさんは大急ぎでエステの方へと走っていきました

それにしてもヤマダさん、本当に懲りない人ですね？


「…で、では、私共はブリッジの方へと行きますかな？」


「そうですね。」


大声で叫び合ってる二人を横目に私達はブリッジへと向かいました

ミナトさんにも会いたいですし

それよりやっぱり、あのキノコも居るんでしょうか？

「皆さん、初めまして。オペレーター担当のホシノ・ルリです。」


「初めまして、サブオペレーターのラピス・ラズリです。」


ブリッジに着いた私達は自己紹介をはじめました

ブリッジを見渡すと懐かしい人たちが勢ぞろいです


まずは操舵士のハルカ・ミナトさん…お久しぶりです、本当に会いたかったです。

また色々とよろしくお願いしますね。今回はきっと、白鳥　九十九さんを助けて見せます！


次に、通信士のメグミ・レイナードさん…アキトさんにチョッカイ出さないで下さいね？


フクベ提督・・・死に急がないで下さい。あなたが死ぬと悲しむ人がたくさんいますから…


ゴート・ホーリーさん…あなたについては特に何も言いません。強いて言うなら…

ミナトさんにチョッカイ出さないで下さい！


やっぱり、ユリカさん…艦長と副長のアオイ・ジュンさんはまだ来てません

そして…………キノコ……やっぱり居たんですか

一体、何処からナデシコに胞子が入ってきたんでしょうか？

あなたはどうでもいいですから人に迷惑がかからないうちに

どっかに逝って下さい！

ラピスに近寄らないように教えなければいけませんね

と色々考えてるうちにナデシコに振動が走りました

…マズイですね、まだアキトさんが到着されてません


「どう言う事よ！早く何とかしなさいよ！！」


…煩いですねキノコ、マスターキーが無いとどうしようもないって

さっきからプロスさんが説明してるじゃないですか！

本当に役立たずです！

そんな時


プシュッ！


その音と共にブリッジに入ってきたのは…


「皆さん、遅れてごめんなさい！

私がナデシコの艦長、ミスマル・ユリカです！！ブイッ♪」


ユリカさん…負けませんよ！アキトさんは渡しません！！


「…で、艦長。この状況をどう打開するかね？」


今までセリフの無かった提督が訊ねます


「ナデシコは海中ゲートを抜けて敵の背後に回りこみ

グラビティブラストで敵を一掃します！

あと、撃ち漏らしの無いように機動兵器で敵を海岸まで誘導してもらいます！」


「うむ、流石は戦略シミュレーション無敗の腕前だ。任せたぞ艦長。」


フクベ提督はユリカさんの作戦を聞いてその実力を認めたようです

まあ当然ですね。ユリカさんは私の知る戦艦の艦長の中で一番優秀な人です

『未来』の２２０１年においてもまだユリカさんを超える艦長は

私は知りません。常に私の目標の人ですから


「了解しました！オペレーターの…えっと…。」


「はじめまして艦長。オペレーターのホシノ・ルリです。」


「サブオペレーター―のラピス・ラズリです。」


「じゃあルリちゃんにラピスちゃんだね♪

私のことはユリカって呼んでね♪

あっ、パイロットの事なんだけど…。」


「現在ナデシコには二名のパイロットが配属されています。

その内一名はまだナデシコの到着されていません。

もう一名は…。」


ヤマダさん、骨折してるんですよね、確か

パイロットが居ません…どうしましょう？

アキトさんに連絡すればすぐにでも跳んで来てくれるんでしょうが…


『この俺！ダイゴウジ・ガイだ〜！！』


えっ？


「パイロットの方ですか？」


『おう！艦長、話は聞いたぜ！後はこの俺に任せてくれ！！』


地上に向かうエレベーターから通信を入れてくるヤマダさん

『前回』ヤマダさんはこの時点で骨折していた筈なんですが…

いきなり歴史が変わってますね？まあいいですけど…


『よっしゃ〜！！ダイゴウジ・ガイ、出るぜ！！』


雄叫びを上げながらヤマダさんのピンク色のエステは発進しました

『くらえっ！ゲキガンパ〜ンチ！！』


木連のジンタイプじゃないんですから叫んでも無駄ですよ？

そう言いたくなるほど煩い声を上げながらヤマダさんのエステは

敵を誘導していきます

しかしこの人、少しは静かに出来ないんでしょうか？


「ヤマダさん！？」


メグミさんが叫びます

わざわざ敵の多いところに突っ込んでいくから囲まれちゃうんですよ

ヤマダさんにとって絶体絶命って奴なんでしょうか？


『俺の名前はダイゴウジ・ガイだ！！』


…この期に及んでまだ言いますか？

あなた、自分の状況が解かってるんですか？

『前回』よりもさらに早いさよならですね

南無南無…

私がヤマダさんの冥福を祈り始めたその時


「ナデシコ後方より高速で接近してくる機体があります！？」


メグミさんの声がブリッジに響き渡りました

そして…まさに一瞬でした

ヤマダさんの周りを囲んでいるバッタが一瞬で墜されました


『大丈夫か、パイロット？』


通信を開いてきたのは闇を纏った漆黒の機体

『未来』においてまさしく『最強』の二文字を冠した一体の機動兵器

『ブラックサレナ』です

『ＳＯＵＮＤ・ＯＮＬＹ』

と表示された画面から流れてくるのは当然アキトさんの声です


「え〜と、貴方は？」


『ナデシコ、遅れてすまない。

パイロットのテンカワ・アキトだ。

作戦の指示を頼む。』


「は、はい！敵を海岸まで誘導して下さい！

その後、ナデシコのグラビティブラストで敵を一掃します！」


『了解した。それとパイロット…』


『俺か！？俺はダイゴウジ・ガイだ！よろしくな！！』


『じゃあ、ガイ。遅れるなよ！』


アキトさんの言葉と共に二人は敵の誘導を再開しました

でも、流石はアキトさんです

バッタの攻撃を全て紙一重でかわし、着かず離れずしてバッタを誘導します

もちろん、近づきすぎたバッタは一撃で沈められ

その動きは“流れるように”という形容がぴったりです


「すごい…まるで踊ってるみたい…。」


「ほんとすごいわね。どうやったらあんな動きができるのかしら？」


「流石…ですな。」


「素晴らしい…。」


皆さんがアキトさんを賞賛します

最早、誰もヤマダさんの事など気にも止めてませんね


「アキト、アキト……テンカワ・アキト……？？」


「ルリ、ユリカが何かブツブツ言ってるよ？」


アキトさんの事はまだ思い出せてないようですね

出来れば忘れていてもらいたいんですが…無理ですかね？


「ユリカさん、ドッグの注水完了しました。」


「えっ！？ありがとう、ルリちゃん。

よ〜し！ナデシコ、発進です！！」


「ヤマダさん、ナデシコが出ますので海に跳んでください。」


メグミさんがヤマダさんに告げます


『俺はダイゴウジ・ガイだ〜〜〜！！』


しつこいですよ！？

ヤマダさんのエステが海に飛びます

海に立っているかのようなヤマダさんのエステ

そのエステがどんどんと上がると思えば、その足元にはナデシコのブリッジ

ナデシコ浮上です


「敵、すべてグラビティ・ブラストの有効射程内に入っています」


「よーし！目標まとめてぜ〜〜〜んぶ！グラビティブラスト発射！」


ユリカさんのお気楽な言葉と共に黒い閃光がバッタをのみ込みました

「バッタ、ジョロともに残存ゼロ。地上軍の被害は甚大…だけど戦死者はなぜか皆無です。」


「お見事でしたな。艦長。」


「作戦成功だな。初陣としては最高の結果だ。」


「そんな………こんなの嘘よ！マグレ…マグレよ！」


皆さん、ユリカさんを認めたみたいですね。

まあ、一人役立たずが喚いてますけど…


『ナデシコ、着艦許可を貰いたい。』


『ＳＯＵＤＯ・ＯＮＬＹ』

の画面が変わり、アキトさんの姿がブリッジに映し出されます


「アキトさん、お疲れ様です。」


「アキト、お疲れ様。」


『ああ、ありがとう。ルリちゃん、ラピス。』


「あ〜〜〜アキト！アキトだ！思い出した〜〜〜〜〜♪」


むう…思い出してしまいましたか…残念です


「ちょ、ちょっと…ユリカ、あいつ誰なの？」


「うん！えへへ、アキトはねぇ、ユリカの王子様なんだよ！」


『ユリカ…久しぶりだな。』


とても懐かしそうで、悲しそうな顔をするアキトさん


「うん！アキトがユリカを護ってくれたんだね！さすがユリカの王子様！！！」


ユリカさんの言葉にアキトさんは苦笑してこう言いました


『護ったのは確かだが…悪いな。俺はお前の王子様じゃないんだ。

俺はルリちゃんとラピスの騎士だからな。』


「ええ〜〜〜！！」（ブリッジ一同）


『と言う訳で着艦する。』


アキトさんの一言で大混乱するユリカさん

煩いですよ？

もう、アキトさんは私の騎士なんですからさっさと諦めてください！

そんなブリッジを見つめながらアキトさんは呟きました


『ただいま、ナデシコ…』


と、ただ一言だけ…

つづく

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あきがき

アキト、二股男（爆笑）