第十四話 Aパート

【ハンガー:ウリバタケ・セイヤ】

「……似ている」
回収した木星蜥蜴のゲキガンロボの解体調査をしていた時、誰かがそう呟いたのが聞こえた。
作業の中その声が聞こえたのは、言葉の調子と、声の主が女性だったからだろう。
整備員は男しか居ないから、そこに女性の声が混じるとやはり目立つ。
気になり、声の主を捜すと、それはイズミちゃんだった。
彼女は俺の視線に気づくと、慌てた様に去っていった。
なんだってんだ、一体?

「班長、この頭部の中、何か歌が聞こえませんか?」
考えようとしたが、部下がそんな事を言いだしたので、俺の思考はそっちを優先させた。

「こりゃ、ヤマダが好きな、ゲキガンガーの歌じゃねぇのか?」

【アカツキの部屋:アカツキ・ナガレ】

いきなりムネタケ提督が僕に話があるとやって来た。
「あら、いい豆使ってるわね」
とりあえず出したコーヒーを口にして、提督は感心した表情をしている。
実は僕、コーヒーには結構こだわりがあるんで、提督の言葉は嬉しい。
だが、こちらにも色々とやる事があるわけで、彼の前に座って僕は聞いた。

「提督、一体何の用ですか?」
しかし、この提督も雰囲気変わったよね。
最初ナデシコに乗り込んできた頃は大した事ない相手と思っていたけどねぇ。

「そうね。まずは彼女が、テンカワ・ラズリが何故月にいるか、ね」
その質問は、僕には少々予想外だった。
「何故僕にそんな事を? それは、イネス女史とかの領分でしょう?」
僕の言葉に、提督は手にしたままだったカップを皿に戻し、真面目な顔でこちらを見た。

「アタシは、彼女が月に移動した理由を知りたいんじゃないの。
 彼女が何故月のネルガルの施設に居るのか、そして何故そこに居続けるのか、を知りたいのよ。
 他に、彼女があの時何であんな実験機に乗っていたのか、も知りたいけどね」
つまり、月ではラズリ君の力が必要になる物を作っているんじゃないのか。
そして、ネルガルは彼女に何かさせようとして居るんじゃないか、と。

「ですからどうして僕にそんな事を? たかがエステパイロットの僕に聞いても仕方がないのでは?」
「あなたが、ネルガル会長だからよ」
韜晦した僕の言葉に対し、提督は斬り込んできた。
ふむ、こちらにも僕の正体ばれていたか。

「ネルガルが月で何か作ってる様だってのは、そっちも企業だし、わからないでもないの。だけど」
そこで、提督の視線が鋭くなった。
「もしネルガルが彼女を何かの実験台にしようとしているなら、アタシはそれを止めさせるために動くわ。
 ネルガルと軍の関係、少なくとも極東軍の関係は、おしまいにする事ぐらいはやってみせるわよ、アタシ」
ほほう、言うねぇ。
人間、惚れた相手が出来ると変わるって言うけど、こいつは驚きだね。

さて、どう答えるか。
シャクヤクの件はそのうちばれる事だが、ここであっさり答えて与し易い相手と思われるのも癪だな。

「だが、あれは彼女が言いだした事だ。テンカワ君のためにってね」
さぁ、どう反応する? 惚れた相手が、別の男のために身を投げ出したと聞かされて?

「ふぅ、やっぱりね」
だが、提督は肩を竦めて、軽い溜息をついただけだった。
「あの子はやはり、自分の事より他の人の方を優先するのよね。見てて危なっかしいったらありゃしないわ。
 でも、だからこそアタシはあの子に惹かれるのかもね。今までアタシが居た世界には、そんな人間、ほとんど居なかったから」
そこで提督は、からかうような笑みと、こちらを見極める様な視線を同時に向けた。

「あなたも、そうなんじゃない? 彼女の優しさ、純粋さに惹かれているからこそ、協力して居るんじゃないの?」

何だと? 僕はただ、彼女に協力した方がメリットがあると判断しただけ……。
だが、彼女の事を面白いと、好ましいと思っている自分が居る事も否定できない。

「彼女は記憶喪失のせいもあるかもしれないけど、余計な先入観に囚われず、相手の本質を見抜くのに長けているわ。
 アタシだって、自分にこんな所があるなんて、全然気づいてなかったもの」
からかうような提督の笑みが、そこでより深くなる。
「で、アンタは、そういう仮面の下、自分の本質の部分を見てくれる相手は嫌いじゃない。
 でしょ?」

つまり、僕が仮面を被っていると言うんだね、貴方は。
だが、それは仕方がないだろう。
僕はこれでもネルガル会長だ。人の上に立つ以上、僕個人ではなく、ネルガルの事を優先して動くべきだからね。
テンカワ君の様に成り行き任せだったり、ヤマダ君の様に個人を優先してばかりではいられない。

僕がそう言葉を返そうとした時、提督は何か思いついた様な表情になった。
「此処の小娘艦長も、直感部分は似たようなの持ってるわよね。
 あの娘は恋愛絡みだと思いこみ激しい所で相殺されてるけど」

「やれやれ提督、あなたは軍人より心理学者か占い師にでも成った方が良いんじゃないですか?」
提督がそのまま考え込みそうになったので、僕は牽制の意味も込めて、こんな言葉を掛けた。
僕の言葉に対し、提督はふんと鼻を鳴らす。
「おべっかやこびへつらいとかでこの地位まで昇ってきた様なもんだからね。
 相手の弱い所とか、興味とか見つけるのは結構慣れてるのよ」
使う方向に問題があっただけで、昔から能力はあったって事なんだね。
でもねぇ、今度の方向は恋愛の方に向いている訳だよね。
提督、貴方も「能力は一流、でも性格に問題あり」のナデシコの一員になるべくしてきたのかもね。
僕は運命とかは信じない方なんだけど……。

思考がそちらの方向にずれかけた時、提督は鋭い口調で言葉を掛けた。
「で、あなたは彼女をどうする気なの?」

どうする……ねぇ。
こう、真正面から聞かれるとは思わなかったね。
さてと、どう、答えるべきか……?

だが、僕が答える前に、こちらをじっと見ていた提督は、にやりと笑って口を開いた。
「ここまでにしといてあげるわ。今日のところは宣戦布告みたいなもんだから。
 それと、私の推測が外れてて、アンタは彼女を単なるビジネスの相手と思っているならそれで良いわ。
 こっちはライバルが減って嬉しいし」
笑みを浮かべたまま、提督はカップに残っていたコーヒーを飲み干し、席を立った。
「ああ、ラズリちゃんが月にいる訳とかはもういいわ。どうせ、もうすぐ彼女に会えるんだもの。
 彼女の意志で動いてるんなら、無理に止めて嫌われるのもいやだしね」

だが提督は部屋から出て行く時、何でもないかのようにこんな言葉を残していった。
「あの子、味方には一所懸命だけど、敵には容赦しない所もありそうよ。
 せいぜい気をつけると良いわね」

閉まった扉を見ながら、僕の心に浮かんだのは。
やれやれ、困ったね、って言葉だ。

色々と複雑に混じってはいるのだけど、それを何と言ったらいいのか。
でも、言えるのは、困ったねって事だ。

【食堂:テンカワ・アキト】

「テンカワさんの料理、食べに来ました」
彼女、イツキ・カザマは、食堂のカウンター席に座って俺の顔を見るなり、こう言った。
「えっと、どういう事?」
「初対面の時、言ったじゃないですか。貴方の料理を食べに行くと」
でも何かあんまり嬉しそうじゃないんだよな。
料理って物は楽しく食べてもらいたい物なんだが。

「と、とりあえず何が食べたい?」
「別に何でも良いんですが、そうですね、貴方の得意料理を」
そう言われて、俺はラーメンを作った。

「……………………」
作ってる途中にも、彼女から余り好意的でない様な視線がひしひしと感じられた。
何なんだろうか?

俺の作ったラーメンを見て、何も言わずに食べ始める彼女。
「……どうかな?」
「確かに、味は美味しいです」
でも彼女の憮然とした表情は変わらない。

「あのさ、俺、君に何かした?」
思わず聞いた俺の顔を睨み付け、彼女はこんな事を聞いてきた。
「テンカワさん、テンカワ・ラズリさんとどういう関係ですか?」
「か、関係?」
関係って言われてもな……。
「そう言われても、何でか彼女の方が俺にいろいろしてくれて、それは感謝してるけど、それ以上は何も……」
「本当ですか?」
「うん、もちろん」
しばらくの間、彼女は俺を睨み付けて居た。

「わかりました、月で彼女に会ったら直接聞く事にします」
そう言って彼女は靴音を響かせて去っていった。
何なんだ、一体。

でも、ラズリちゃん、か……。
だけど、何でラズリちゃん月なんかにいるんだろ。
「知りたい?」
「うわっ!!」
いきなり後ろから声を掛けられ驚く俺。
エリナさん?!

「彼女が月にいる理由、教えてあげましょうか」
さっきの俺の疑問に対する答を、エリナさんは持っているみたいだ。
と言うか、俺、声に出してたのか?
「この前は敵の出現でごたごたしたから出来なかったけど、今ならちょうど良いでしょう」
彼女はそう言うと歩き出す。
「付いてきなさい。説明してあげるわ」

【通路:イネス・フレサンジュ】

「説明?!」

【エリナの部屋:テンカワ・アキト】

エリナさんの部屋、炬燵とか有って何だか意外な感じだな。
俺とエリナさんはその炬燵に向かい合って入った。
エリナさんが自分で入れたお茶を一飲みする。つられる様に俺も出されたお茶を一飲みする。
「さて、それじゃ……」
彼女が口を開きかけた時、部屋の扉が開いた。
「説明するわ」
イネスさん?!
「あ、アキト……」
それにユリカも一緒だ。

「やっぱり来たわね」
エリナさんが声を掛けると、イネスさんは俺とエリナさんの顔を見比べてから、口を開いた。
「彼女にも無関係な話じゃないでしょ。だから連れてきたわ」
「そうね、こうなったらもう艦長にも聞いておいてもらった方が良いかもね」
エリナさんとイネスさんの二人は、これから何を話すのか理解しあっている様に言葉を交わす。
イネスさんも知っているのか……。

俺達四人は炬燵に入って話を始めた。
「貴方達、何故ナデシコがチューリップを通って地球まで来られたと思う」
イネスさんの質問に、即座にユリカが答える。
「それは、アキトと私の愛のパワーで! ラズリちゃんは応援で、イネスさんはさしづめお邪魔虫!」

べしっ!×2 ……ぺしっ。

間髪入れずエリナさんとイネスさんはユリカの頭を叩く。
ついでだから俺も叩いちゃったけど。
「痛いよぅ……」
三人分のダメージはきつかったのか、ユリカは頭を押さえて呻っている。
それを思いっきり無視してエリナさんとイネスさんはこっちを向く。
「それは貴方、アキト君の力」
「もしかしたら彼女、テンカワ・ラズリの力かもしれないけどね」
何だって? 俺かラズリちゃんの力?

「アキト君やテンカワ・ラズリ、貴方達はボソンジャンプを成功させる何かを持っていると言う事よ」
驚いている俺に対し、イネスさんが説明を始める。
「貴方は火星から地球へ」
「テンカワ・ラズリは地球から月へ」
エリナさんも要所要所で言葉を付け加えるが、はっきり言ってこっちは驚きのせいもあって碌に理解できていない。
だがまあ、俺がユートピアコロニーからボソンジャンプで地球に跳んだって事は理解できた。

「彼女が月にいるのはイメージングが不完全だったのか」
「それとも他に理由があったからか」
イネスさん達はそのままラズリちゃんのジャンプについて説明し始めた。
そこへ復活したユリカが言葉を挟む。
「でも、この前のサセボの時点では、まだラズリちゃんがジャンプできるかわかりませんよね」
「チューリップを通った時、私達四人は展望台に集まったでしょう。だから、私達四人は可能性が高いのよ」
ユリカの疑問に対するイネスさんの回答を聞いて、俺には気になる事が出て来た。

イネスさんは研究するために必要、ユリカはナデシコの艦長だから無理。
残るは俺かラズリちゃんだろう?

「でも、何で俺じゃなくて彼女なんですか?」
「それは、彼女から言ってきた事なのよ」

どうしてだ? 何故彼女は俺をボソンジャンプに関わらせない様にする?

考え込んだ俺の横でコミニュケが開いた。相手はルリちゃんのようだ。
「艦長、このあいだの木星蜥蜴の機体にはパイロットが居たそうなんです」
「ええ! で、そのパイロットはどうしたの?」
「現在、艦内に潜伏中です」
「えええええっ!! 潜伏中!!!」
「はい、それでウリバタケさんがそのパイロットについて艦長達に重大な報告があるそうなので、至急こちらに来て下さい」

【会議室:アオイ・ジュン】

この部屋に居るのはユリカと僕、それにムネタケ提督。これが軍の側の人間になるのかな。
ネルガル側からはエリナさんとプロスさんが居る。
それで、今話している内容は。

「これが、あのゲキガンロボの中に有ったって言うんですか?」
テーブルの上にはゲキガングッズの山。
木星蜥蜴の機体が有人で、しかもゲキガンマニアだったっていう、普通だったら笑い飛ばしてしまうような状況。

「このグッズから言える事は、木星蜥蜴は地球人だったって事よ。証拠って言い換えてもいいわ」
だが、提督が真剣な表情でこう言った事で、雰囲気が緊迫した物となった。
「ほほう? では軍の方はこの事を前から知っていたと?」
プロスさんが、人差し指で眼鏡を押し上げつつ聞いた。

「ええ、木星蜥蜴の正体が、百年前、月で反乱を起こした人たちの子孫って言うのはね」
その月の反乱って言うのは、歴史の授業で聞いた事がある。
提督はそのまま、この戦争の真実について話し始めた。

でも、途中で僕には疑問が沸いてきたので、聞く事にした。
「ですけど、何でいきなり戦争なんです? 話し合いとか、無かったんですか?」
僕の質問に、提督は心底嫌そうな、呆れたような表情になった。
「お偉方は、そんな百年も前の生き残りの子孫なんて大して戦力も無いだろうから、そんな話受け入れる必要も無いって突っぱねたのよ。
 どちらかと言えばそんな昔の醜聞発表したくないってのが大部分だったでしょうけどね」
そこまで言って、馬鹿にする様に笑ってから、また言葉を続けた。
「そしたらあんなチューリップや無人兵器とかの戦力があって、火星大戦でぼろ負けしちゃったの。そのせいで面目丸潰れの状態じゃ、ますます受け入れる訳には行かなくなって。後は泥沼って感じよね」

提督の語った驚くべき話に、僕達は声も出ない。

横のユリカががっくりとした表情で溜息をついた。
「なんか私、何にも知らなかったみたい。お父様も知っていたんでしょうか?」
「あの提督は生真面目な人の上、親馬鹿だから、知っていたとしても貴方には言わないわよ。
 親としての優しさって奴よ。なるべくならそんな汚い世界を知って欲しくないっていうね。
 ま、欠点でもあるんだけどね」
何かを思い返しているかのような顔で答える提督。
確かにあの人はそういう人だなぁ。
僕がそんな風に思った横で、悩み始めるユリカ。
だが、それを見たエリナさんが、僅かに眉を顰め、こんな台詞を投げかけた。

「この事を知ってこれからどうするか、貴方はこの艦でどうしたいのかの方を、ちゃんと考えなさいよ。貴方この艦の艦長なんだから」

その言葉に、ますます悩みだすユリカ。
僕は助け舟を出してあげようと思い、こう言ってあげた。
「パイロットが発見されても、報告をするのは月に到着してからだから。今すぐ答えを出さなくても、考える時間はあるよ。少しだけどね」
そのまま僕は皆に、これからについての提案をした。

「まずはそのパイロットを確保してからです。捜索隊を組織しましょう」

【通路:アマノ・ヒカル】

木星蜥蜴のゲキガンロボにパイロットが居たって言う事が発覚して、現在捜索中。
とりあえず通路とかには居ない事がわかって、一人一人の個室を調査する事になった。
パイロットとか腕っ節に自信がある人が二三人ずつ組になって手分けして調査する事になって、私はガイ君とゴートさんと組んでる。

「木星蜥蜴って奴は今まで機械だけだったが、一体どんな生き物なんだろうな?」
「普通だとタコとかイカとか、もしかすると灰色で大っきな目をした奴だろうね〜」
「それはSFに出てくる宇宙人だろ。やっぱあの機体からしてキョアック星人みたいなんじゃねぇか」
「まだ捜索中だ、私語は止めてくれ」
軽口を叩いていた私達を、呆れた様にゴートさんが注意したので、捜索を再開する。
「はーい、捜索を続けまーす。で、次は誰の部屋?」
「ヤマダの部屋だ」
「ダイゴウジだって言ってんだろ」
「ともかく、開けるね」

部屋の中ではゲキガンガーのパイロットが、ゲキガンガーを見ていた。

「何か……シュール……」
「どっちがアニメだ……」
「そのパイロットスーツ、いい!! すごくいい!!」
予想外の光景に思わず固まってしまう私達。
一人だけ喜びで小躍りしている人もいるけど。

「くっ、しまった! みつかったか!」
その隙をついてゲキガンパイロット姿の彼が、私達を押しのけ通路に飛び出した。

「待て貴様! 貴様も相当なゲキガンマニアだな! ならば、今逃げずに事情を説明すればこのゲキガンガーシールをやるぞ!!」
その時、逃げる彼の背に向かいガイ君が叫んだ。
「そ、それは超レアものキラシール!!」
ガイ君が差し出したシールに目を剥く彼。
そのため彼はバランスを崩し、よろけてしまう。

と、その時。
「きゃあっ!!」
「うわっ!!」
不幸だったのは、彼がよろけたのが通路の曲がり角で、しかも彼は全力疾走中だったって事。
早い話、彼は曲がり角の向こうから歩いてきた相手とぶつかってしまい、その相手に覆い被さる様に倒れこんだのだ。

「「「「「「…………」」」」」」
通路に痛いほどの沈黙が満ちる。

「……きす、してる、よね」
「ああ、接吻、というやつだな」
「み、ミナト……」
「こういう時、どんな顔すれば良いのかわかんないんですけど」
向こうからやってきたのはミナトさんとメグちゃん。
で、彼に押し倒されているのがミナトさんで、私達はその周りで呆然としている訳。

「な、なにするのよっ!!!」
ぐきいいっ!!
「ぎゃああっ……」

……うっわー、急所に膝蹴りがもろだよ。
ミナトさんの一撃で彼は泡を吹き、気絶した。

「ミナト、立てるか?」
「え、ええ、何とか」
ゴートさんがミナトさんを助け起したんだけど。
「何で出歩いているんだ、ブリッジ要員は待機しているべきだろう」
「ちょっとお手洗いに行く所だったのっ。貴方にいちいちそんな事言われたくないわ」
「そんな訳にはいかんだろう。現にこうやって事件が起きたんだ」
「そういう建前ばかり言って人を動かそうとする所が嫌なのよ。どうして、「俺はお前の事が心配なんだ。だから頼む」って言えないの?」
何故かいきなり痴話喧嘩が始まっちゃって。

「あの、この二人って、もしかして……?」
メグちゃんが声を潜めて聞いてきた。
「ああ、メグちゃんはアキト君の方ばっかり見てたから知らなかったかもしれないけど、想像どおりだと思うよ。
 でも、この間、クリスマスの前あたりから、かみ合わなくなってきたみたい」
「へぇ……。でも、美女と野獣って感じで、似合いませんもんね」
「言えてる〜」

「お前ら、状況わかってんのか? この侵入者を何とかしないといけないんだぞ」
つい話に夢中になりかけた時、ガイ君が呆れた声を上げた。
「あ、ごめん」
慌てて私はガイ君が侵入者の彼を背負うのを手伝おうとした。
「いや、もしこいつが目を覚まして暴れたりしたらまずい。ゴートの旦那、悪いけど話は後にしてくれないか」
ガイ君て、結構フェミニストなんだよね。

「ところで、ゴートの旦那、こいつの事、どう思う?」
何故かいきなりガイ君が真剣な表情になり、こんな事を言い出した。
「こいつ、あのゲキガンロボに乗っていた訳だろう? で、あのロボはチュ−リップから現れた以上、木星蜥蜴なんだよな。
 だけどこいつは見事なゲキガンマニアな上、人間みたいだ。これは一体何故だ?」
「軍やクリムゾンなどの実験兵器という線は考えられないか?」
「何でそれで街まで破壊するんだよ。
 こいつはなんかある。木星蜥蜴にはでっかい秘密がな」
考え込み始めたガイ君を、ゴートさんは諌めた。
「ヤマダ、推測で物を言うのは止めた方が良い。こいつの事を調べてからだ」
「そうだな。なら、まずはこいつを運ぶか」

うーん、ガイ君って、実は結構色々考えてるんだよね。
だから、熱血ゲキガン馬鹿モードでない時は、評価してあげても良いんだけど。

「でも、このゲキガンパイロットスーツ、なかなかの出来だよな。俺のもこんな風に出来ねぇか、今度ウリバタケの旦那に相談しよう」
すぐこうなんだよね。全く。

【会議室:ホシノ・ルリ】

あのゲキガンロボに乗っていた侵入者は無事捕獲され、尋問をする所です。
この部屋に居るのは艦長や提督達と、ネルガルの人間としてエリナさんにプロスさんも、後、捜索に関わったパイロットさんたちおよび、侵入者と出会ってしまったミナトさんたちが居ます。
……要するにこの艦のメインクルーですよね。
こういう時、皆が集まってしまうのも何かナデシコらしいと思います。

それはともかく、状況は、侵入者の方を中心に皆が周りを取り巻いています。
でもこの人、本当にあのゲキガンロボに乗っていたんですか?
どう見ても普通の人間にしか見えないんですけど。

その疑問を裏付けるように、プロスさんがこんな報告をしました。
「いや、驚きました。多少遺伝子を弄った形跡はありますが、彼はれっきとした地球人です」

ですが、プロスさんの言葉に、侵入者の彼は憮然とした顔でこんな事葉を返しました。
「自分は、木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ・及び多衛星国家間反地球共同連合体突撃優人宇宙部隊所属、白鳥九十九少佐。
 地球人ではなく、木連人だ」

……木星圏って、人間はまだ火星の向こうには到達していないはずでしょう?
「まだ人間は火星までしか到達していないはずなのに、どういう事ですか?」
「彼は嘘は言ってないわよ。木星蜥蜴は歴史から抹殺された人間だったって事」

提督の言葉に皆が驚く中、叫んだ人が居ました。
「それがどうした!! お前らのせいで、火星のみんなは!!」

バキイッ!!

叫び声と共に彼を殴り飛ばしたのは、アキトさんでした。

「ちょっとアキト君、気持ちはわかるけど、この人手錠付けられているんだから!」
足元に倒れこんだ彼を抱き起こし、ミナトさんが非難の声を上げました。
「知った事か!」
彼の胸元を掴み、アキトさんは彼に殴りかかろうとします。
「下がって下さい。彼の目標は私ですから」
ミナトさんを気遣うような彼の言葉で、アキトさんの雰囲気が変わりました。
「女子供は大事にする、か? だったら何であんな事をした!」
何か、逆鱗に触れてしまったのでしょうか?

「お前らは自分達だけが犠牲者だと思って! 自分達だけが正しいと思って! お前らは俺だけじゃない、ユリカやラピスにまであんな事をした! それが許せる事か!!」
彼を殴り続けるアキトさんの雰囲気が、前にオモイカネの説得時に現れた黒いアキトさんと同様に見えます。
これは一体どういう事でしょうか?

ガスッッ!!
「うぐっ……」
アキトさんの一撃で、壁際まで吹き飛ばされた彼。そこへゆっくりと歩いていくアキトさん。

「アキト、もう止めて!!」
私達がアキトさんの行動に呆然とする中、艦長が両手を広げて、アキトさんの前に立ちふさがりました。
「……ユ、ユリカ?!」
その姿を見て、驚愕の表情を浮かべるアキトさん。
「それ以上やったら、その人死んじゃう」
「お前が……そう言うのか……」
愕然とするアキトさんに、少しづつ近づく艦長。
「アキトは優しいから。自分だけじゃなくて、周りの人の苦しみも自分の物の様に受け止めて、一人で苦しんでしまう人だから。
 でも、私はアキトが大好きだから、アキトが苦しんでいるなら、それを癒してあげたいと思う」
そのまま、艦長は広げていた腕をアキトさんへと伸ばし、彼を抱きしめました。
艦長の胸の中で、アキトさんの表情が、だんだんと和らいでいきます。
「ユリカ、いいのか、それで……」
「いいの、私、そうしたいの。
 ……でも、不思議だね。何でだろ、私、ずっとアキトにこうしてあげたかったような気がするよ」
「そうか……。ユリカ、暖かいな、お前……」
「うん……アキトも……」

何だか、長年離れ離れになっていた恋人同士が出逢った様な雰囲気です。
そんな二人だけの空間が作られてしまっては、周りの私達はどうして良い物やらって感じです。
ジュンさんは泣きそうな顔ですし、メグミさんやリョーコさんも、すごいショックを受けているようです。
光景を嬉しそうにスケッチしてるヒカルさんとか、構わずに殴られた彼の手当をしているミナトさんなんかもいますけど。

「あー、ごほんごほん。形骸化しているとはいえ、うちの職務規程覚えていらっしゃいますか?」
暫くしてその空間に割り込んだのは、流石と言うか何と言うか、プロスさんでした。
「え?……きゃあっ?!」
プロスさんのその言葉で、艦長は皆の前でアキトさんの顔を自分の胸に埋めさせている事に気づき、慌てて跳びずさりました。
「あ痛ぁっ!」
そのためバランスを崩し、倒れ込むアキトさん。

「痛たたたた……」
「ああっ、ごめんねアキト!
 でもやっぱり私とアキトの間には深い絆があるわ!」
「何だと?! さっきのは単なる気の迷いだ!」
「もう、照れちゃって〜。
 私はアキトが大好き! アキトは私が大好き!」
「あのな、人の話を聞け! 抱きつくな!」
……ふぅ、今度はいつも通りですね。

でも、先ほどのアキトさんの様子、気になります。
ラズリさんが戻ってきたら、話しておいた方が良いでしょうか。






【中書き:筆者】

第十四話Aパートです。

いや、かなり間が空いてしまいましたね。
壊れたノートパソが、直したとしても新しく買えるくらいの修理費要求されて。
仕方ないから、メーカーに問い合わせて部品を注文したりして自力修理する羽目になったし。
しかもHDまでクラッシュしていたから続きは一から書きなおしだったし。
最終話までのα版が無くなったのも痛いんですよね。
愚痴を言ってもしょうがないんですけど。

さて、今回の話です。
今回は話が長くなりすぎたので、切りました。
場所と人を明記したザッピング方式で、なんでメモ帳に入らないくらい長くなりますか(苦笑)。

で、Aパートはとりあえずナデシコ側の話です。
ムネタケ活躍って感じですか。
でも、うちのムネタケ、有能系でも、汚れ役もやってのける「漢」っぽくないです。後ろで見守る年増女みたいです。なんていうか、コミック版ホウメイ系ですか? いや、ここでは舞歌系?
自分、「漢」を書くのが下手なんですかね。島本和彦でも読んで勉強します(笑)。

では、また次回に。
後半はもうほとんど出来ているのでそれほど待たせないと思います。

 

 

代理人の感想

う〜む、これも恋の鞘当なのかなぁ(笑)>ムネタケ・アカツキ会談

このままの展開で行けばいつかあるとは思ってましたが、

さて第二ラウンドはいつでしょうかね。(笑)

 

後やっぱりユリカ覚醒(?)と「一時の気の迷い」ですねえ。

いいもん見せてもらいました。w

 

>ウチのムネタケ

たとえて言うならガガガFの八木沼長官みたいな感じですか?(笑)。

まぁ、彼も自分にできることを精一杯やっているんですからいいじゃないですかw