第十六話
【リョーコ機:スバル・リョーコ】
「ラズリ! お前の機体じゃ直接戦闘は無理だ! 下がれ、どうしたんだよ!」
敵の隊長機らしい機体を確認するや否や、ラズリの様子がおかしくなった。
前衛に出ようとせず、フォローばかりしているあいつが、何かに取り付かれた様に、敵機に向かって行ったんだ。
オレは慌てて追いかけようとしたが、それを妨げる様に残りの六機が立ち塞がった。
「親方様に立ち向かうとは、哀れな踊り子だな」
「ならば我等は親方様の愉しみに水を差されぬ様、こやつ等の相手をする事にしようぞ」
「残された雑魚でも、愉しみ様は有るか」
戦いの中、何やら話し合っている通信が聞こえる。
「やっぱり相手は人間かよ!!」
「うーん、わかっちゃうと、ちょっと嫌だねぇ」
オレの叫びを受けてヒカルが呟く。
「なに言ってるんです。私達、戦争してるんですよ。
戦いに出る以上、自分が相手を殺す事と、逆に殺される事も理解してから出てこないといけないんです。
それが出来ないなら、戦っちゃいけないはずです」
戦意が下がりかけたオレ達に、新入りのイツキが、生真面目な顔でぴしりと言いきった。
「確かにその通りだけどねー。殺す必要が無いなら、しない方がいいよねー」
微妙に不満げな顔で言い返すヒカル。
「だけど、少なくともこんな奴らなら、手加減とかそういう事考えずに済みそうだがな」
今まで黙っていたヤマダが、ぼそりとこう言った。
その言葉に、頷くアカツキ。
「そうだね。こいつらは間違い無く裏家業の人間で、人殺しを楽しんでるって感じだよ。
下手すりゃ僕らもその餌食になりそうだ。
人間、死んだら終わりだからね。
いくら才能が有ろうが、未来を期待されていようが、それは確かな事だよ。
で、残された人間は、余計な苦労を背負い込む事になるんだ。
特に、僕等みたいな有能な人間が死んだらね。
だから、気合入れていくよ!!」
……言い方はすげぇ傲慢な気もするが、なんか実感篭ってる様な気がする。
そして、オレもまだ死ぬ気は無いって事も確かだ。
「ようし、やってやるか!!」
【アカツキ機:アカツキ・ナガレ】
「避けられましたっ!」
「この六人コンパチ野郎どもが!」
まずいね、六対五っていうのが厳しい。
しかもこいつら妙に連携が上手く、劣勢になりかけるとすぐにフォローを入れてくる。
その時、とんでもない加速と共に、漆黒の機体が戦場を突っ切って行った。
ラズリ機に攻撃を掛けようとした敵隊長機に向かって、その加速のまま一撃を叩きこむ。
あれは……、ラズリ君が作っていた機体だねぇ。
誰が乗っている……テンカワ君かい?!
仕方ない、今回だけは、お姫様を助ける王子様の役、君に譲るよ。
……なんて、思いかけたけどさ。
君が行ったせいで、ラズリ君のパニック、余計酷くなったんじゃない?
後で少し問い詰めてやりたくなってきた。小一時間ほど。
ユリカ君を取るのかラズリ君を取るのかと。
「ロンゲ! そっちいったぞ!!」
おっと、とりあえずはこいつ等をどうにかしないといけないって事かい!
【ブラックサレナ:テンカワ・アキト】
三つ巴の戦いの中、赤い機体の男がこう言った事で、事態はまたも大きく変わり始めた。
「うふはははは、楽しい、楽しいぞ。
我と同格、いや、それ以上の力を持っている奴が居たとは。
お主らこそ、我が倒すに相応しい相手よ!」
男のその言葉に、彼女の殺気が膨れ上がった。
「やかましい!! 今の我だとて、こ奴だけは譲る訳には行かんのだッ!!」
ウズメが手を振り上げ海老ぞった。
その反動を利用するかの様に振り下ろされる上半身と前方へと伸ばされる両手。
そして高速で打ち出される羽根の一群。
「なにぃっ?!」
ドガガガァっっ!!!
DFSを持つ羽根が赤い機体のフィールドを切り裂き、その裂け目に打ち込まれる残りの羽根。
「そこで暫く黙って居ろ」
彼女の言葉と同時に動きを止める赤い機体。
こんな事が出来るって事は、やはりあれは彼女なのか?
彼女は二重人格か何かで、何かのショックで隠れていた人格が出てきてしまったという事か?
「さて、復讐人よ、勝負だ。早く出て来い」
俺の方を向き、殺気と共にこんな言葉を投げかける彼女。
「ラズリちゃん、どうしたんだよ? 元に戻ってくれ!!
君はそんな事するような子じゃないだろう?!」
でも、俺の呼びかけに返ってきたのは、こんな言葉だった。
「小娘なら、「我」が押さえた。
そして「我」は今の主には興味などない」
俺が必死に呼びかけても、彼女の状態は変わらない。
そして、彼女が、もう一人の彼女の人格が、俺に向けてまたも呼びかける。
「どうした、復讐人よ。「我」はこのような姿になってまで、決着をつけに来たのだぞ。
「我」は貴様と決着をつける、それだけが望みだ!!
それ以外の事は、もうすでにどうでも良い!
「我」の存在意義は、貴様との完全なる決着、それのみよ!!
この執念、貴様ならわかるであろうが!」
何故「彼女」はこんなにも俺にこだわるんだ?!
俺はナデシコに乗るまで彼女に会った事などない。あの「記憶」の中にだって、彼女の事は無いんだ。
動揺する俺を見て、「彼女」の顔が不服そうに歪む。
「主の中に「奴」が居るのはわかっている!
あの小娘は、それを押さえようとしていたが、「我」が出てきたからには、主の中の「奴」を引きずり出してやるわ!」
叫んだ後、彼女は俺に向け、にやりと笑みを浮かべた。
「その機体を扱える以上、お主も「奴」の存在に気づいているのであろう?」
いつもならば猫の様と感じる彼女の笑みが、今は、いつもならば含まれていた温かみが消えて氷の様に冷たく、変温動物の笑み、まるで爬虫類の笑みの様に見えた。
その笑みを見た瞬間、俺の心の奥底から、得体の知れない怒り、いや殺意といってもいい感情が湧き上がって来る。
「その笑み……そしてこの殺気……。
俺は、お前を知っている……お前は……お前は!!」
北辰!!
目の前の相手の名が浮かんだ瞬間、俺の心は殺意と復讐心に覆い尽くされた。
【ブラックサレナ:「テンカワ・アキト」】
「お前! 生きていたのか!!」
血を吐く様な「俺」の叫びに「北辰」はなんでも無いかの様に答えた。
「貴様が居るならおかしくないであろうが?」
くっ、そうだな、「俺」が過去に跳んだんだ。お前だって跳んでいてもおかしくはない。
「貴様は同じ自分の中に跳んだ様だが、我は別人の中に跳んだゆえ、こうして貴様と対面するのは苦労したぞ」
「そうか……。なら、今度こそ!!」
その体の持ち主には悪いが、こいつだけは生かしてはおけない。
今更善人ぶる気もない、少女一人を殺すぐらいの罪は受け入れるさ。
「うふはははは! あの時を再現したような言葉を吐くではないか!
だが、あの時の様には行かぬぞ!!」
「北辰」のウズメがDFSを抜き、「俺」のブラックサレナは銃を構える。
だが、この戦い、いや決闘が、始まる事は無かった。
決闘を止めたのは。
戦場を切り裂いた重力の奔流。
そして響き渡る、少女の泣き叫ぶ声。
「嫌ぁぁぁ! ラズ姉の声が聞こえなくなったのぉ!
ラズ姉を返して!! 返してよぉ!!」
「「ラピス?!」」
ラピスの悲痛な叫びが、「俺」には強烈な一撃を食らった様に感じた。
「そうだ、あの子はラズリちゃんなんだ……。俺は彼女に沢山の借りが……」
「北辰」にも影響があったらしく、頭を押さえている。
「くうっ、小娘め、今ので目覚めおったわ……」
【ナデシコブリッジ:ホシノ・ルリ】
いきなり発進したシャクヤクが作り出した、戦場を切り裂く重力の奔流。
「まるで、戦艦が黒い剣を振り回してるみたい」
横のメグミさんが、呆然とした顔で呟きました。
グラビティブラストが何十秒間も連続発射された上、発射している間にシャクヤクの姿勢がぶんぶんと変化しているんです。
だから、重力波の軌跡がもう、グラビティブラストというよりグラビティブレードとでも言えそうな代物になってます。
レーザーではこういう風に軌跡を振り回す事はありますけど、グラビティブラストでこんな事するなんて、流石はナデシコ級の最新艦です。Yユニットの物を含めた相転移エンジンと、「サルタヒコ」と「ダッシュ」の大型コンピュータがあるから、こんな事が出来るんでしょう。
……なんて、冷静に推測している場合じゃないです。
癇癪を起こした子供が棒を振り回しているようなものですが、でもその威力は強力です。
はっきり言ってこんな状態では、機動兵器戦なんてやってられません。
まだ被害は出ていませんが、時間の問題です。
「シャクヤクに攻撃中止させる様に言って!!」
艦長も同様に思ったのでしょう、そう言ってきました。
でも、こちらから繋ぐより先に、向こうから入ってきた通信。
シャクヤクからの通信には男の子。かなり慌てている様です。ハーリー君……でしたっけ?
「あ、あの、ラピスはあの敵を見て、さっきまで震えてたんですけど。
それなのに、いきなりこんな事を始めちゃって。
僕にはどうする事も……」
とは言っても、止めてもらわなければ困ります。
「ハーリー君、でしたよね。……どうにかして、止めてください。
今シャクヤクを止められるのは貴方だけなんです。お願いします」
「は、はい! 僕、頑張ってみます!」
……何か彼、頬が赤くなっていたような気がしましたが、今はそんな事どうでもいいです。
これで、何とか止まってくれたら良いのですが。
ですが、シャクヤクの動きが止まったのは、こんな理由じゃなかったんです。
【アマノウズメ:テンカワ・ラズリ】
ボクが気がついた時、シャクヤクが爆発した。
何時の間にか月面上に居た二機のダイマジン。
あれがシャクヤクを背後から攻撃した様だ。
「北辰殿! ご無事ですか?!」
「我々の目的であった新型相転移炉式戦艦は破壊しました! 退却してください!!」
そのパイロットは白鳥さんと月臣さんだった。
姿を見て取ったのか、ウズメの羽根を受け動けなくなっていた北辰が、通信を送った。
「……なぜお主等がそこに居る? 我等を囮にしたのか?」
「いえ、そのような事は。
こ奴等は私達が苦戦した相手です。いかに北辰殿が凄腕であっても、慣れぬ新型機で万が一の事が有ってはと」
「まあいい、現実に我はこの様な状態なのだからな」
北辰はそこでこちらを向いた。
「なかなか楽しかったぞ、踊り子よ」
あの爬虫類のような笑みを浮かべて、ボクに声を掛けてきた。
「正直、我を上回る力を持っているとは思わなかった。
だが、次はこうはいかぬぞ、覚えておれ」
言い捨てて退却していく北辰たち。
考えなきゃいけない事が沢山出てきて、何が何だかわかんないけど、ともかくシャクヤクが!!
「ラピス! ラピスは無事なの!」
【シャクヤク脱出廷:ラピス・ラズリ】
「ラピス! ラピスは無事なの!」
私を心配する声が聞こえた。
ラズ姉が戻ってきた!!
よかった……。大好きな人がまた居なくなるのは嫌だから。
あの時もいきなりだったから。
声は聞こえるけど、顔が見たくなって、通信を繋ぐ。
「私は大丈夫、ちゃんと生きてる」
「無事なんだね! よかった!!」
ラズ姉、私の事あんなに心配してくれてる。
嬉しい……。
「僕も居ますよぅ」
ハーリー、邪魔しないで。
【ラズリの部屋の前:ホシノ・ルリ】
今回の戦闘はなんとか終わりました。
人が乗った部隊が攻撃して来たり、ウズメやシャクヤクが手ひどい被害を受けたりと色々ありましたが、一つだけ良い事があったとすれば、あのダイマジンが、ミナトさんとイズミさんを置いて行ったという事でしょうか。
ミナトさんが戻ってきた事はとても嬉しいのですが、私としてはラズリさんの方が大事です。
ラズリさんは、青い顔をしたまま部屋に篭ってしまい、出てきてくれません。
戦闘時の状態といい、凄く心配です。
「オモイカネ、この扉、開けて」
私がそう命じると、意外に簡単に目の前の扉は開きました。
【ラズリの部屋:ホシノ・ルリ】
部屋の中は電気が点いていなくて薄暗く、でも点けるのは何だか憚られたので、そのまま部屋の中に入る私。
薄暗い部屋の中、彼女はベットの隅で膝を抱え蹲っていました。
「……来ないで、ルリちゃん。来ると、君を傷つける事になるかもしれない」
顔も上げず、こう言ってくる彼女。
何だか彼女の姿が、私から、いいえ、回りの全てから関わりを絶とうとしている様に見えました。
だから私は、ずっと考えていた事を聞く事にしました。
「ラズリさんが抱えている秘密。それは、ラズリさんが未来からやってきた人であるという事ですか?」
「な、なんでそれを?!」
顔を上げ、こちらを向く彼女。
「ああ、やっぱりそうなんですね」
ほとんど根拠の無い推測だったんですけど。
「ボソンジャンプは時間移動の可能性もあると言う事と、あの、ブラックサレナでしたっけ、あの機体が今の技術よりだいぶ先のものであるという事とか、色々考えてそうじゃないかって思ったんです」
これは、有る意味賭けでした。
あの怖いラズリさんの事でショックを受けている彼女に、より大きいショックを与える事になるんですから。
でも、賭けには勝った様です。
ラズリさんの心を、こちらに向ける事ができました。
「そう……そうなんだ」
何かを思い返しているかのように呟くラズリさん。
私はベッドに乗り、膝立ちでゆっくりと彼女に近づき、俯いている彼女を、両手をついて下から見上げました。
「でもそうだとしても、今ラズリさんがここにいるという事に変わりは無いです。
だから、私にとってその事はあまり大した事じゃないんです。
私にとっては、ラズリさんが今ここにいる、それだけで十分です」
私の言葉に、目を見開く彼女。
「ですけど、あの怖いラズリさんだけは、それでは説明できません」
これこそが今聞きたかった事。
「教えて、くれますか?」
暫くの沈黙の後、彼女はゆっくりと頷き、驚くべき事を話し始めました。
【ラズリ自室:テンカワ・ラズリ】
ルリちゃんにボクがランダムジャンプで未来からやってきたであろう事がばれてしまった。
でも、彼女の心遣いは嬉しかった。
だって、彼女は、あの「北辰」を見ても、こうやってボクの事を気遣ってくれたんだから。
だからボクも心を決めて、今までわかっている事、推測できる事を全部話す事にした。
「未来」の事や「アキト」の事を。
話し終わった時、ルリちゃんは事態の大きさにも驚いたらしく、暫く黙り込んでしまった。
でも、とりあえず折り合いがついたらしく、彼女は口を開いた。
「……火星遺跡の事とか、火星の後継者だとかの話は、大きすぎますし今は置いておきましょう。
あの怖いラズリさんは、未来で「アキト」さんの敵だった人で、それがなぜかラズリさんの中に居ると。
そういう事ですか?」
「多分、ランダムボソンジャンプの影響だと思うけど」
この体には、ボクと、「北辰」、二人の魂が存在する。
二重人格とかの、一つの心の二つの側面という物ではなく、あくまで二人。
コンピュータに例えるなら、OSが二つあるようなもの。
たまに「北辰」の記憶を見たりする事ができたのは、またコンピュータに例えるなら、OSを切り替えても記憶装置は同じだから、もうひとつのOSをデータとして扱う事ができたというような物だろうか。
「わかりました」
「信じてくれるの?」
「ラズリさんは嘘をつく人じゃないですし、それにラズリさんは色々とんでもない事する人ですから、それくらい有りかなって思っちゃいます」
聞き返したボクにルリちゃんは少し笑みを浮かべこう答えた。
「でも、一番の理由は」
笑みは消え、真剣な表情でこちらを見つめた。
「私、ラズリさんの正体が何であっても信じます、って言ったじゃないですか」
彼女のその言葉が嬉しかった。
そして、今回の事でわかった事はもう一つ。
ボクは、「アキト」じゃないという事。
北辰を見た時に現れた「アキト」は、ボクが「アキト」だと思っていたから、いや、「アキト」でありたいと思っていたから作り出されたものだと思う。
「アキト」の記憶から、「アキト」のふりをしたというだけの事。
やっぱりコンピュータに例えるなら、ボクというOSの上で「アキト」をエミュレイトしたものでしかない。
北辰に殺されそうになって、命の危機に陥ったら、その仮面はあっさり剥がれ落ちてしまったから。
なら、ボクは、誰なんだろうか。
こんな不安定な状態で、あの「北辰」の相手が出来るのだろうか。
もしこの体が「北辰」に奪われたりしたら、あいつはアキトと戦うだろう。
いや、それどころか、それを邪魔する者は皆、傷つけてしまうだろう。それが、ルリちゃんやユリカ艦長であったとしても。
それをさせない為の一番簡単な方法は。
「……ラズリさん、居なくなったりしませんよね」
ボクの考えを見透かしたかの様に、またもボクの顔を見上げてルリちゃんが声をかけてきた。
「ラズリさんは私の、大切な人、ですから」
ボクの顔を見つめつつ、はっきりと言いきる彼女。
「このナデシコに乗ってから、いろいろな事を一緒にやって、沢山の思い出を作ってくれた人。
私に比べてずっと多くの事が出来るのに、何処か危なっかしくて、なのに時々叶わないと思うような事をしてくれる人。
そんな、一緒に居たいと思ってしまう人」
言葉を一旦そこで止め、彼女は僅かに照れた様に微笑んだ。
「「お姉さん」って言うのは、もしかしたらそういうのかなって思います」
「……ボクが……ルリちゃんのお姉さん……」
その言葉で、ボクの中で何かパズルのピースが一つ嵌ったような気がした。
「ありがとう。ルリちゃん」
ボクがルリちゃんを大事に思っている心。ルリちゃんがボクを大事に思っている心。
それがあれば、ボクは「北辰」なんかに負けない、そう思えた。
【ラズリ自室:ホシノ・ルリ】
「ありがとう。ルリちゃん」
感極まったかの様に、ラズリさんは私を抱きしめました。
四つんばいになった状態で抱きつかれては支えきる事ができず、そのままベットの上で倒れこむ私達。
私に覆い被さる様になったラズリさん。
と、その時。
「あのねラズリちゃん。シャクヤク、壊れちゃったでしょう。
それで、あのオペレータの子達ナデシコに乗る事になったのね。
だからせめてあの子達のために、出てきて話をして欲しいなって……。
わ、何してるの、二人抱き合って?!」
「「え?!」」
いきなり現れた艦長のコミニュケに驚く私達。
「わっ、わっ、私、邪魔しちゃったみたいね?! それじゃ暫く後でまたね!」
でも驚いたのは艦長も一緒らしく、わたわたおろおろと慌てつつこんな言葉を残してコミュニケを切りました。
「「……」」
コミュニケが消えた空間を沈黙と共に見つめる私達。
「あはは、誤解されちゃったみたいだね」
数秒後、苦笑いと共にこんな事を言うラズリさん。
「説明すればわかってくれます。やましい事してた訳じゃないんですし、艦長もいつもアキトさんに似たような事してますから」
私がこう答えたら、彼女はくすりと楽しそうな笑みを浮かべました。
「やましい事ねぇ? それってどんな事かなぁ〜?」
「知りませんよそんな事。さ、元気になったんなら早くブリッジに行きましょう。仕事も溜まってるんですよ」
「あはは、ルリちゃん頬が赤くなってる。可愛いなぁ」
元気になったみたいですけど、からかわないでください。
「私、少女ですからっ!!」
むっとした感じで言い放ってベッドから降り背を向ける私。
「うん、ごめんね」
謝る言葉と、背後で聞こえた彼女が立ち上がる音。
でもその直後、私は背後から抱きすくめられました。
そして、耳元で囁かれた言葉。
「本当に、感謝してる。ありがとう」
その言葉を聞き取り、振り向こうとした瞬間。
頬に触れた、柔らかく、温かい感触。
何をされたかに気づいた瞬間、頭に血が上り、頬どころか、顔全体が赤くなっていくのが感じられます。
「感謝の証、だよ」
なのに、こんな言葉を残してさっさと行ってしまうラズリさん。
頬への口づけは親愛の証だとも言いますけど、今の状況で、する事無いじゃないですか。
……馬鹿。
【後書き:筆者】
第十六話です。
今回書いてて思った事ですが、未来の出来事はどの位書くべきでしょうかねぇ。
逆行話である以上、読む人はすでに知っている訳だからと、だいぶ端折ってしまったんですが。
さて、今回の話です。
ラズリと北辰、二つの心。
一つの肉体の中で二人が共存するのか、どちらかが消えるのか、それとも……、ですかね。
ラズリの謎、六割ぐらいは語ったような気がします。
で、次はアキトの方になります。
それが終わったらピースランド話で、やっと本編系に戻れそうです。
それはそれとして、サレナは書いててこっぱずかしいけどケーキバイキングみたいで楽しいです(笑)。
いやまぁ、一般的なナデSSのサレナと意味が違うってのはわかってますが(笑)。
それでは、また。
(2003.10.誤字修正等微修正)
代理人の感想
・・・・・・6割。
ふーむふむふむふむふむふむふむふむふむ。(しつこい)
前の話で「アキトがラズリの中にいる」と言ってた事からすると、
今回言われていたことが全部正しいとも限らないんでしょうか?
いやいやいや、楽しみ楽しみ。
取りあえずルリちゃんとの睦言(爆)を聞いてると、北辰以外の男性格が入ってるような気はするんですがw