第十七話 Bパート

【アキトとガイの部屋:テンカワ・アキト】

「おまえ、なんであんな所に逆さ吊りになってた訳?」
不思議そうな顔で、ガイが聞いてきた。
アカツキ達に吊るされていた俺は、コミュニケを繋いできたガイに助けられたんだ。
でも、流石にそれは情けなくて言えない。

「いや、それはちょっと言いづらくて……。
 そういえば、何でお前、俺にコミュニケなんか繋いだんだ?」
仕方がないので、話を逸らす。
俺の言葉を聞き、ガイは珍しく悩み顔を見せる。

「俺はお前の親友だと思ってるし、お前は俺の親友だと思ってる。だから、相談しようと思う」
しばらく悩み顔を見せていたガイが、口を開いた。
「実はな。俺にゃこの戦争が、どっちが正しくてどっちが間違ってるとか、どっちが正義でどっちが悪か、なんて事が、さっぱりわかんなくなっちまった」
真剣な顔つきで、ガイは語り続ける。
「だってそうだろう? 元々の原因は地球側にありそうだけど、俺達が全然知らないって事はおかしいんだ。惑星間での交渉だったら、電波とか、漏れてきても良いはずだろう?
 木連は交渉したのは形だけでしかなくて、最初っから戦争する気まんまんで、いきなり火星を占領したかった様にも見える。
 だから、そこら辺、木連の奴等は悪いんだ」
言葉を切り、何か考えているらしく、暫く動きを止めるガイ。

「……あー、何か上手く言い表せねー!」
いきなりそう叫ぶと、ガイはごろりと横になった。
天井を向いたまま、またしばらく黙るガイ。

「でも、お前みたいな、料理してりゃ幸せだ、みたいな奴があんな風になるのは絶対間違ってんじゃねぇかって気がする」
ガイは独り言を言うかのように、ぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。
「木連の事を知ったあん時のお前、俺には、泣きたいのを堪えてるって言うか、なんていうか凄く、悲しく見えた。
 艦長もそう感じたから、お前を止めたんじゃないかと思う」

「いや、ガイ、あの時はそう見えたかもしれないけど、もう俺は大丈夫だから」
俺の言葉を聞き、ガイが、顔だけこちらに向けた。
「やっぱあんな事されちゃ、男だったら立ち直らないといかんよな。
 あの艦長が、ナナコさんやアクアマリンみたいな献身的な事するとは思わなかったぜ」
「まあ、な。確かに、あの時のユリカには感謝しているよ」
あいつのおかげで、俺は「俺」から戻って来れたんだから。

「かー、のろけやがって」
「い、いや、それは違うって」
「くっくっくっ、照れるな照れるな。別に、悪い事じゃねぇって」
呆れ声を上げるガイに、慌てて否定の言葉を掛ける。でも、聞き入れずに笑い続けるガイ。
憮然として黙り込む俺。

ガイはそのまましばらく笑いつづけた後、いきなり体を起こして叫んだ。
「やっぱり、一番納得がいかねぇ事は、木連の奴等はゲキガンガーを戦争の道具にしている事だ!
 ゲキガンガーってのはそんな事のためにあるんじゃねーんだよ!
 愛とか熱血とかもっと純粋なもんのためなんだよ!
 だから、俺があいつ等に真のゲキガン魂を見せてやる!!
 俺は木連の奴らの間違ったゲキガン魂を叩きなおすために戦う事にする!」
そこで、ニヤリと不敵に笑うガイ。
「まあ、木連だって、あんな暗殺者が居たんだから、そう簡単にいくとは思えねぇ。
 でもな、あの白鳥とかみたいな連中がいるなら、やる価値はあるってもんだろ」

それが、ガイの戦う理由か。
なら、俺は。

やはり、俺と「俺」の関係、そしてラズリちゃんの事、それに対する決着。
……そして、もしかしたら。
ユリカを護ってやりたいという事も。

…………。
参った。回りが皆茶化すし、「俺」の事もあるせいか?
こんな事考えるなんてな。

でも、悪い気分じゃ無い。自分でも驚きだが。

【休憩所:テンカワ・ラズリ】

ハーリー君何処行っちゃったんだろ。
ダッシュで走り去って行ったハーリー君を探しているボク。
でも、あまりの速さに完全に見失ってしまった。
仕方ないな。オモイカネに聞こう。

オモイカネに聞こうとした時、ボクを呼ぶ声がした。
「テンカワ・ラズリさん!!」

ボクを呼んだのはイツキ・カザマさん。
「あの時は助けてくれて、ありがとうございます!!」
マジンと戦った時の事かな。
「あはは、大した事ないですって。それより、ちゃんとアキトの料理食べてあげて下さいね?」
「そ、それは一応すでに……。あの、ラズリさん、どうしてテンカワさんにこだわるんですか」
えっと、「記憶」の事は話せないからどう言おうか。

「ボクの過去というか未来というか、そこに関わる大事な人だから、かな」
「み、未来?! しかも大事な人?!!」
いきなり凄いショックを受けたような表情をする彼女。
ガガーン!!とか効果音がつきそうな感じ。

「でも、恋人とか片思いとかじゃないんですよね!」
「え? 無いよー。アキトにはユリカ艦長ってぴったりの相手が居るんだから!」
「よかったーーーー」
こっちが呆れるほどの安堵の表情。
「どうして?」
まさかイツキさんアキトに気があるとか? いやそれなら安堵するのは変だし。はて?

「私、誰かに命を救ってもらうって初めてで」
妙にきらきらした目で語りだす彼女。
「しかも助けてくれたのが、その機体の美しい舞で敵も味方も魅了するっていうエステライダー「電子の舞姫」じゃないですか!」
味方のシステム掌握は、アキトの以外まだやった事無いぞ、ボク。
「私もう嬉しくって、また会ったらちゃんとお礼言わなくちゃってずーっと思ってたんです!」
何か思考が一直線な人だな。
ナデシコにやってくるだけの事はあるね、やっぱり。
と、いきなり彼女がこっちに顔を近づける。

「好きです!! ファンです!! 尊敬してます!!」
「え?!」
「だから、つき合って下さい!!」
「ええ?!」
ど、どう言う事??
「ボク達一応女同士だよ」
否定してくれるのを期待してこう言ってみる。好意を持ってくれるのは嬉しいんだけど……。
「そんなの、関係有りません!」
あうう、本気?

「私と、戦闘訓練、つき合って下さい!!」
……え?
「この間の戦いでは、格好悪い所を見せちゃったじゃないですか。だから訓練で私の腕前を確認して欲しいんですっ!」
あはは、そうだったんだぁ。ちょっとびっくりしちゃったよ。

【シミュレーションルーム:イツキ・カザマ】

彼女の事を知ったのは数ヶ月前。
私がパイロットとして戦果を挙げ始めた頃だった。

自分で言うのも何だが、私にはパイロットの才能があった様で、初陣からそれ程経たずに、エースパイロットの仲間入りをしようかという状態まで来ていた。

そんな時、聞こえてきた噂。

戦場の全ての出来事を見通す天使が居る、という噂。
その天使は、戦場を美しく舞い、味方へは優しい護りを、敵はその舞で魅了してしまうのだそうだ。

だからどうしたと私は思った。
幾ら見通す「目」があっても結局最後には、敵を倒す「腕」が無ければ意味がないと思っていたからだ。
そして私には「腕」がある。だからそんな天使の「目」なんてどうでもいい。
今思うと、とんだ思いあがりで、そのつけは直ぐにやってきた。


ある戦闘で私は突出しすぎ、敵に包囲されていた。

もう駄目だと思ったその時、純白の羽根が一枚、目の前にふわりと舞い降りた。
私は、お迎えの先触れかと思った。
でも、その羽根は白く輝く刃を伸ばし、木星蜥蜴を切り裂いたのだ。

同時に、通信機からこんな言葉が飛び込んでくる。
「いいですか、今から二時方向の敵を黙らせます。そこから脱出して下さい」
直後、酷いノイズ音を発しだす通信機。
私が驚きつつ二時方向を見ると、確かにそちら側の敵が動きを止めていた。
私は即座に機体をそこへ向かわせた。

何とか敵の包囲を脱出し、私が安堵の溜息をついた時、繋がった通信。
「無事で良かったですね」
その相手は、私には天使のように見えた。
艶やかな黒髪に神秘的な金の瞳。
無事に帰還できた事を本当に嬉しく思っているのであろうか、彼女は柔らかく優しげな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

「あの、さっきのは貴方が……?」
「ええ、戦線が乱れているんで見てみたら、貴方が孤立していて、吃驚しました」
しれっと言うが、周囲の機体に彼女の識別信号は無い。
そして、あの羽根。

「それじゃ、貴方が「電子の舞姫」?!」
噂の天使の別名を思い出し、私は思わず聞いていた。
「あはは、そう呼ぶ人も居るみたいですね」
照れ笑いをしつつ、答える彼女。
……なるほど、これならあんな噂が立つのもわかる。
私はその姿に見惚れかけ、つい、こんな言葉を口にしていた。

「やっぱり、二つ名を持つ様な人は違うんですね。姿も、出来る事も。まさかあんな事が出来るなんて」
でも、私の言葉を聞いたとたん、彼女の顔が真面目なものになる。
「ボクがしたのは、ほんの少しの手助けだけです。今貴方が生きているのは、貴方の力ですよ」
きっちりと言いきる彼女。
大抵の人間なら、誉められたらつい受け入れてしまう事を、相手の力と言いきるその考え。
私は驚きつつも、益々惹かれて行く気がした。
そして私は、さらに彼女の姿に驚かされてしまう。
「そう、ボクが呼びかけても、聞き入れて貰えなかったり、ボクの手が届かなかった事だってあったんですから」
言葉と共に現れる、寂しげな表情。そのまま消えてしまいそうな、儚げな姿。

私は、彼女の力は凄いだけでは無いという事、色々な物が見える「目」であるという事は、見たくない物まで見えてしまうという事に気づいた。
だから私は、その彼女の危なげな姿に、魅了されてしまった。
彼女が「目」なら、彼女を護る「腕」になりたいと。

以来、私はどうにかして彼女にもう一度会いたいと、方々に手を尽くした。
そしてとうとう、それは叶った。
今、私は彼女と同じ艦に、本物の彼女が居る艦に乗っているのだから!


「……ツキさん、ちょっとイツキさん、どうしたんです?」
気づくと、文字通り目の前いっぱいに彼女の顔があった。
「わわ!!」
「だから、どうしたんですってば」
驚いた私を見て、不思議そうに首を傾げる彼女。
えっと、シミュレーションを何度かやって、腕前見てもらって、それで、休憩してた所だったわね。
彼女がそばにいるのが嬉しくて、つい昔の事を思い返しちゃったのよね。
ハンカチで汗を拭くふりをして表情を隠しつつ、話を逸らす。
「えっと、汗かいちゃいましたね。一緒に、お風呂行きませんか?」
「あ、良いですね」
よしっ、ナイスな展開だわ。

【リョーコとヒカルとイズミの部屋:スバル・リョーコ】

「はぁ……」
「うう、イズミが変だよぉ」

困り顔でイズミの様子を見ながら、ヒカルがこちらに囁いてくる。
イズミが変なのは前からだけど、前の変は、一応芸として変だった訳で、今の変は、ただ変なだけで……。
心ここに有らずって感じで、アンニュイな雰囲気を漂わせつつ溜息なんかついちゃったりしている。

「くふふふふ……」
「なんか今度は、頬に手を当てて、妙に乙女チックな感じで体をくねらせ始めたよー」

やっぱり原因は、木連で何かあったんだろうな。

「はぁ……」
「あ、また戻った」

「あー、もう、うっとうしい!!」
わかんねえからって、ただ横で考えてるより、行動する方がオレには合ってる!

「風呂行くぞ、何とかして聞き出しちゃる!」
こういう時は、裸の付き合いって奴だ!

【ブリッジ:ハルカ・ミナト】

「ふう……」

「ミナトさん、どうしたんですか?」
私の溜息を聞きつけ、ジュン君が声を掛けてきた。
「ううん、別に……」
生返事をしつつ、話を逸らそうと辺りを見まわす。
ルリルリ達は、新しく入ってきたオペレータの子と顔合わせ中で、メグちゃんは休憩中。
ブリッジに居るのは私とジュン君だけ。
……あら?

「そう言えば艦長はどうしたのかしらね」
「ユリカはこの先の方針について、エリナさんと話し合ってるみたいです」
そっか、Yユニットの扱いとか、色々あるものね。
でも、艦長も無理するわね。
壊れたシャクヤクの残った部品を、強引にナデシコに取りつけちゃうんだもの。
「四番艦に付く物が一番艦に付かない訳無いです!」って、凄い事言うわよねー。
その所為で整備班の人は大変みたいだけど。

ウリバタケさんがぼやいてたわ。
「シャクヤク使えるようにしようと頑張ってりゃ壊れるし、参ったよなぁ。
 ま、不幸中の幸いか、その時電装系とかのチェックが出来たから。
 Yユニットをナデシコに取りつけるって言われても、やってやれない事はねえって言えたんだけどな」
そう言いつつも、ウリバタケさんの顔は疲れきっていて、シャクヤクが壊れた時その場に居た私としては、ちょっと胸が痛んだわ。

……そうよね、その時は白鳥さん、隣に居たのよね。
やっぱり、あの人の事思い出してしまう。

「ふう……」
「具合が悪いんだったら、部屋で休んだらどうですか? 当直なら僕一人でも十分ですし」
またついてしまった溜息を聞き、ジュン君が心配そうにこんな事を言ってきた。
ジュン君も、こういう所、気配りの人よね。
何というか、副官とか秘書とかが似合う人。

「うーん、そうしよっかな」
お風呂でリフレッシュして、寝ちゃうのが一番よね。

【ユリカの部屋の前:エリナ・キンジョウ・ウォン】

「いい、Yユニットの接続が終わるまでには考えておくのよ。
 貴方がこの艦の艦長として、これからどうしたいのか、その答をね」

そう言い残して、私は部屋を出た。
まったくもう、あの艦長ってば、ほんとお気楽極楽で、見てていらいらするわ。
なんであれが士官学校始まって以来の才媛なのよ。
あーもう、なんか疲れちゃったわ。
部屋のユニットバスより、サウナとか、おっきいお風呂で疲れをしっかり抜きたい気分ね。

【サウナ:ハルカ・ミナト】

「あら?」
サウナに入ると、先客が居た。
居たのは、パイロット三人娘。
何やら、イズミが話題の中心らしく、左右から責められている。

「あ、ミナトさん、良いタイミングだ〜」
「そうだ、お前なら木連でなにかあったかわかるよな」
入ってきた私を見て、リョーコ達はこれ幸いといった感じで話し掛けてきたけど。
「うーん、彼女のプライベートな事だしねぇ……」
でも、木連じゃあれだけ惚気られた、借りがあったりするし。
語っちゃおうかな、と思った時。

「ミナト、話したら貴方の事も喋るわよ」
ちょ、ちょっと、何を言い出すのよ。私と白鳥さんはそんなんじゃ。
「え? ミナトさんにも何かあるの?」
「ようーしっ、みんな纏めて聞き出しちゃる!」
「ここだけの秘密にしとくから。話しちゃった方が楽になる事もあるよー」
興味津々で迫ってくる、二人。
確かに、話した方が楽になるかもね。

【ゆめみづき格納庫:マキ・イズミ】

私達は一応、捕虜という名目でここに居た訳だけど、ほとんど実情は重要な客人といった扱いだった。
でも、何か問題が起きたらしく、私達は開放される事になった。

月臣さんは私へ愛情をもって接してくれたし、生きていてくれたと言う事だけで十分だったから、聞かないでいたけど、別れる前には、やはり聞いておきたい事がある。
「首飾り、無くされたんですのね」
「いえ、私はあれのおかげで、命を救われたのです」
私の質問に、彼は何かを思い返している様な顔で、答え始めた。
話を聞き、驚きつつも、私の思いが月臣さんを救ったという事で、胸が嬉しさと誇らしさでいっぱいになった。

その時、月臣さんが私の手を握る。
「その代わりと言っては何ですけど、今は用意できませんでしたが、また再会した時には、私から贈りたい物があります」
彼はそこで私をじっと見つめた。
「そして、あなたに言いたい事も」
「え、それってまさか……」
驚きつつ聞き返すと、顔が赤くなる月臣さん。
「あ、あの、それは……」
喋り出した月臣さんの口を、人差し指で抑える。
「今は、そこまでで十分です」
きっと、彼の言いたい事は、私が想像している通りの事なんだろうから。
今の私達の関係、地球と木連の関係では、まだ難しい事でしょうけど。

「でも、私の答は決まってますわ」
滅多に人に見せない、心からの笑みと共に、口を開く。
「漫談、楽しかったですわ。貴方と私は大事な相方、そういう事ですね」
冗談めかした私の言葉に、顔を輝かせる月臣さん。
「また会える日を楽しみに待っていますから」
「はい!」

【同:ハルカ・ミナト】

「ふふ、やっぱりあの二人はラブラブねぇ」
別れの場面で部外者がいるのは無粋だろうと、私は白鳥さんを引っ張って少々離れたんだけど、その甲斐があったみたい。
これから色々大変かもしれないけど、私、協力してあげるからね。

「み、ミナトさん!!」
いきなり、白鳥さんが私を呼んだ。
「この数日、私は、本当に楽しく過ごせました。
 あなたと出会った事で、今までと、世界の見方が変わってしまうほどでした」
そこで彼は私をじっと見つめた。
「また会いたい……、いえ、会いに行きます!」
熱も篭った視線の所為か、ドキリと、心臓が跳ね上がった気がした。
「その時は、会ってくれますね?」
「……ええ、もちろんよ」

【サウナ:エリナ・キンジョウ・ウォン】

「うふふふふふふ……」
「てへへへへへへ……」

「イズミが壊れた……。しかもミナトまで……」
「あんなのイズミじゃないよう……」

私がサウナに入ると、先客達が、妙な状態になっていた。
何やら乙女チックな感じに手で頬を押さえ、赤い顔でニヤけているイズミとミナト。
焦りまくっているリョーコとヒカル。
そして。

「はぁ……、そんな事があったんですかぁ」
感極まったかの様に溜息をつく艦長。
「艦長?! 何であんたが居るの?」
「部屋だと煮詰まっちゃうから、頭を柔らかくするために来てみたんです」
あんたの頭は今でも十分柔らか過ぎでしょ。

「でも、良い話が聞けました!」
いきなり目を輝かせて叫ぶ彼女。
「私、今の話を聞いて、私がこの艦でどうするべきか、何をしたいのか見えてきた気がします!」
へぇ、面白いじゃない。
「ふうん、じゃあ聞かせて」

「こんな風に、恋人同士が別れ別れになっちゃうのって、絶対間違ってると思います!
 だから私、そんな恋人同士が自由に出合えるように、戦ったりしない様にしたいです!!」

彼女の言いたい事を推測する。
「つまり、木連と地球の間を、平和にする。和平を実現させると言いたい訳ね」
それが本当に出来るのなら、凄い事だろう。
だけど、願望だけじゃ、駄目なのよ。

「どうやって、それを成し遂げるつもりなの?」
「それはまだわかりません!」
「……あのね」
真面目な顔での答に呆れる私。それでも言葉を続ける艦長。

「でも、絶対出来るはずなんです。在るはずなんです。
 誰も死ななくて済む、悲しまなくても済む方法が」
彼女はそこで一旦言葉を止め、瞳が別人の様に鋭くなる。
「こんな戦争するのは、間違ってます。
 私にはその上、この戦争にはまだ裏がある、そう思えます。
 そしてその鍵は火星にある、と。
 だから、それを何とかしちゃえば良いって思うんです」

……やるわね。私よりずっと持っている情報少ないはずなのに、それに気づくなんて。
この戦争は、古代火星人の技術の奪い合いという側面もある。
火星遺跡に存在する、ボソンジャンプの演算装置と思われる物。
あれを手にし、その謎を解き明かした者は、時間と空間を支配する事が出来るのだから。

この艦長の事、見直したわ。
だから、私はちょっとだけでも、賞賛の言葉を送ってあげようかと思った。

でも、その時。
『わにゃあっ!』

奇妙な嬌声が聞こえてきて、気がそがれてしまう。
「あら、なにかしらね」
「浴場の方からですよね」

【大浴場:テンカワ・ラズリ】

「あれ、貸切みたいですね」
大浴場には、誰も居なかった。
脱衣所のロッカーは、使用中のが有った気がしたけど、変だな。

でも、そんな事は、イツキさんの方を見たせいで、頭から消えてしまった。

イツキさん、胸、結構あるんだなぁ……。
着やせするタイプ?
つい、自分のと比べて寂しくなった。
……いいもん、個人差だもん。
ボクだって、イツキさんぐらいの年になったら、そのくらいになる気がするんだから。
思い込みかもしれないけど。

「ラズリさん、背中流してあげますよ」
そんな事考えていたら、イツキさんが声をかけてきた。
「あ、すいません」

備え付けの椅子に座り、ボディソープを付けたスボンジで背中を流してもらう。
彼女の背中の流し方は、つぼを抑えてでも居るのか心地よく、疲れが抜けて行くような気がした。

こういうゆったりした感じって、良いなぁ。
最近大変な事ばかりだったから、特にそう思うよ。

そう思ったのもつかの間。
「ラズリさん、肌、白くて柔らかくて綺麗」

きゅっ。

「わにゃあっ!」

いきなりイツキさんが抱きついてきた。
「あ、やっぱり抱き心地良いですね」
「ちょ、ちょっとイツキさん?!」
「別に、女の子同士じゃないですか。私、柔らかくて綺麗な物、大好きなんです」
や、でもボクはぬいぐるみじゃないんだから。
それに今の抱きつき方はなんか。

「やっぱりラズリさんは手だけじゃなくて、体も柔らかくて気持ち良いですねー」
「ええと、だからって首筋に頬ずりするのはちょっと……それに手の動きが何か……」
「体を洗うのには、手で擦った方が刺激が少ないんですよ」
「で、でも、あの、ちょっと……あっ……」
「うふふ、ラズリさん、ここは特に柔らかいですね。しかもなめらかな肌触りで、羨ましい」
はうう、この状況、何だか、凄くやばいんじゃないかって気がするよー。


「……何、してるの。二人とも」

そこに居たのはエリナさんにユリカ艦長にミナトさんにパイロット三人組。

「わ、皆さんどこから?!」
「そこのサウナ室から」
あ、ロッカーが使用されていた様なのに誰も居なかったのは、そういう訳だったんですか。

「やっぱり貴方、そういう趣味があったのね」
「ラズリちゃんはウサギだと思ってたけど、ネコだったのねー」
「どういう意味ですか、それ?」
呆れた顔をするエリナさん、にやけるヒカルさんに不思議そうに聞くユリカ艦長。
後は、赤い顔のリョーコさんと、生暖かい目で見ている残りの二人。
そんな皆を見て、軽い冗談だという様にぱたぱたと上下に片手を振るイツキさん。
「嫌ですねー、単なるスキンシップです。ラズリさん、抱き心地がすごく良いんですよ」
まぁ、そこら辺はボクもルリちゃんによくやるから、強い事言えませんけど。
ですけど、さっきのはなんか違う気がしたんですが。

「艦長もやってみたらどうです?」
続けて、イツキさんはユリカ艦長にそんな事を言う。
「本当? じゃあやってみようかな?」
「え? うわにゃっ?!」

ふきゅっ。

「あ、ほんとだ、気持ちいい。何か懐かしいような……」
何言ってるんですかユリカ艦長。
その上触れる背中にたっぷりとした重量感があって、それはイツキさんよりずっと大きくて、こんな状況でも、羨ましいなんて頭の片隅で思ってしまいます。
だけど、何とか見えるユリカ艦長の横顔が、優しげで、本当に懐かしく感じている様だったから、とりあえずそのままで居てあげた。

「ああもう、しょうがないわね、この艦長は。さっきまでは結構真面目な事言っていたのに」
そんなユリカ艦長を見て、軽く溜息をついたエリナさん。
「まったくこの艦ってのは、不思議な所よね。大事な事の基準が、普通とちょっと違うみたいね」
でも、そう言ったエリナさんの顔は、いつもより険が取れたような感じで、ちょっとだけ優しげに見えた。
だから何があったのか聞きたくなったけど、それは出来なかった。

「せっかくだから、私も抱きしめちゃおうっと」
「ちょっと、ミナトさんまでぇー」

ふにきゅっ。

感触が、さすがはミナトさんだなー……って、ちがうよぉ!
「勘弁して下さいよぉー」
「いいからいいから。子供はスキンシップが大切なのよ」
「ボクそんな子供じゃないですー」
「ラズリン記憶喪失だから、生まれて一年ぐらいなもんじゃない。だから良いのよ」
ああもう、そんな無茶な。
助けてもらおうと残りの人の方を見て、エリナさんと目が合ったら、彼女は何やらにんまりと笑った。

「この娘がこんなに慌てているの見るの、何か気分いいわね。私もやっちゃお」

ぷにきゅっ。

あああ、エリナさんまでぇ。

「オレも、ちょっとだけやってみていいか?」

にきゅっ。

あ、リョーコさんは剣術家だけあって、筋肉質……。
いや、そんな事考えてる場合じゃなくて。

「ちょっとヒカルさん、イズミさん、助けて下さい」
「うー、創作意欲が湧きまくりだよー。次回のネタは姉妹愛にしよう!」
「一人一人、効果音が違うのが面白い」
あうう、助ける気無しですかー。

……結局、ボクはのぼせるまで皆に抱きしめられていたのでした。

【ハーリー自室:マキビ・ハリ】

「何だか僕、忘れられてるような気がする……」





【ゆめみづき艦橋:高杉三郎太】

「はぁ……」

「ふう……」

白鳥少佐と月臣少佐、どちらも気が抜けたような雰囲気だ。
やはり、あの地球人の女性を、帰してしまった事が原因だろうか。

……確かに、あのイズミさんという方の漫談は最高だった。
機会があれば、もう一度聞いてみたいものだ。

「何だお前等! 何気の抜けた顔してやがる!!」
その時、いきなりの大声と共に、艦橋に入ってきた人物が。
「「秋山!」」
その方は秋山源八郎少佐。
彼は白鳥少佐、月臣少佐と並び立つ人物で、彼等三人は木連三羽烏と称されている。

「よく来たな! ……だが何故お前がここに?」
「ああ、ヤマサキ博士の護衛でな。北辰殿が呼び寄せたそうだ」
「ヤマサキ博士の護衛だと?」
秋山殿の返事に、不審そうな顔をする月臣殿。

「ヤマサキ博士は人間の思考の情報化が専門だったが、もしや北辰殿が使っている微小機械に問題でも出たのだろうか?」
同様に不審げにしていた白鳥殿が、理由を推測した。
しかし、それは違った様だった。

「いや、そういう事じゃない。俺が博士を護衛してきたのは、ほら」
なにやら二人に書類を見せる秋山殿。
「「……むう、これは」」
書類の内容に、驚く二人。
それを受け、秋山殿は苦虫を噛み潰した様な表情になる。
「北辰殿とヤマサキ博士……。まさかここまでするとはな」

私もその書類に目を通し、驚いた。
北辰殿は何を考えておられるのだろうか。
その上、北辰殿は、我が木連の重鎮、四方天の一人でもある。
ならば最高司令官である草壁殿も承諾しているはずだ。
……この戦いは、木連が、地球を、故郷を取り戻すための正義の戦いだったはずなのに、何かが変わってきている気がする。
これは一体……?







【後書き:筆者】

第十七話 Bパートです。

ちょっと今回は流れが悪くなったかもしれませんね。
それでも、ここでやっとかないと後々色々面倒な気がしたもので。
ですが、やはり一人称って、視点が一方的で難しいですね。
ある視点はこう思っても、見られている方は全然そんな事考えてなかったりするんですから。
【戦場:nobody】とかやって、三人称シーンで書こうかと何度思ったか(笑)。

さて、イツキ、大方の予想通り、そっちの方向の人でした。
と言うか、ラズリが好きなだけで、女性が好きな人ではないと思うんですが。……時ナデの零夜?(笑)
いや、ムネタケを押さえる相手が欲しいかなって思ってたんで、彼女をそうしてみました。
アカツキは何か、すかしてて使いにくいので。
……私の筆力が無い所為かもしれませんが。


次は第十八話で、ピ−スランド話です。
お城でお姫様だし、ダンスシーンが書きたいなぁ。……相手が居ないんで無理そうですけどね(苦笑)。

それでは。

 

 

代理人の感想

えーと。詰まる所ノロケ話ですか?(爆)

 

それは冗談としてミナトとかガイとかハーリー(爆)とか、「らしくて」思わず頬が緩みましたけどね。

後ついでにジュンも(笑)。