第六話

【アキト機:テンカワ・アキト】

現在俺達は戦闘中だ。
ナデシコは火星上空までやって来たのだが、そこで敵のお出迎えにあっているんだ。
「ほーら、お花畑ー」
「あー、あははははーっ」
「ふざけていると棺桶行きだよ」
リョーコちゃん達が先行して、敵を倒しまくっている。
「何だよ、楽しそうじゃんかよ」
何で彼女達あんなに楽しそうに戦闘出来るんだ。

「まぁまぁ、そんな事言わないの」
俺の言葉が通信に入ったのか、ラズリちゃんが声を掛けてきた。
「何で君まで戦場に出てるんだよ。嫌いだったんじゃないのかよ」
「君達の手助けをしたかったから。エステからでもオペレート出来るようにって、わざわざ電子戦フレーム作ったんだからね」
「電子戦フレーム?」
そう言えば、ラズリちゃんの乗っているエステは、オレ達の0G戦フレームと全然違う。
まず目立つのは、背中に翼のように広がる展開式アンテナ。
腰の後ろに付いた丸いドーム。
頭部に兎の耳の様に長く伸びた二本のアンテナ。
他にも胸元や手足にいくつかアンテナやセンサーが付いている。
フレームの色は黒だが、材質の所為かアンテナ類は白色。
しかもフレームのあちこちに付いたセンサーのカバーのため、全体のフォルムは曲線が主体で、女性的に見える。
顔つきまで、ヘッドギアに付けたマスクでその印象を強めている。
要するにどの様に見えるかっていうと。

翼の生えたバニーガールみたいな機体。

こんな物誰が作ったんだと思った時、通信が入った。
「そう! それは、この俺の力作!
 何とエステの大きさで戦艦以上の探査、通信能力を持つって代物だ!」
ウリバタケさん……。性能はともかく、造形は趣味に走りましたね……。
「その代わり、武器はほとんど持てないですけど」
「ぐっ。だが、ナデシコとリンクする事により、その能力はさらに増大するんだぜ!」
「その間無防備になりますけど」
「ぐぐっ。……ラズリちゃん、もしかしてあんまり気に入ってない?」
まぁ、こんな妙な機体ならねぇ……。
「事実を述べているだけですけど。それに、自慢ならアレが完成したら存分に出来ると思いますよ」
「……そうだな。んじゃまあいいか」
あっさり引き下がったな。でもアレって何だろう。
「そうそうラズリちゃん、その機体の名称『ダンシング・バニー』でどうだ?」
見たまんまだな。
「あはは、この機体に花の名前を付けるってのも似合わなそうですし、それにしましょう」
いいのか? そんなんで?
俺がそう思っているのも構わず、ウリバタケさんとの通信は切れた。

「話を戻すけど、アキト、自分が前よりだいぶ巧くなっているのわかる?」
通信が切れると、いきなりラズリちゃんがこんな事を聞いてきた。
「え?」
俺が聞き返そうとした時、ラズリちゃんは先攻しているリョーコちゃん達に向かって叫んだ。
「敵戦艦、フィールド増大してる! 気をつけて!!」
見ると、リョーコちゃん達の攻撃が、敵戦艦に弾かれていた。
「くうっ!!」

リョーコちゃん達の行動を見てなかったのか、ガイが突っ込んで行く。
「喰らえー! 正義の鉄拳!!」
で、ものの見事に弾き返された。
「あぶねぇだろ、ヤマダ・ジロウ! 特攻してどうする!!」
「違う! 俺の名前はガイ! ダイゴウジ・ガイだ!!
「格好いいけど間抜けな特攻だね〜。ダイゴウジ・ジロウ君」
「混ぜるな!! しかも、何故ガイの方を呼ばない!!」
「うるさいよ。ヤマダイゴウジ・ガイジロウ」
「だ〜か〜ら〜!!!」
ガイがリョーコちゃん達につっこまれている。

それをラズリちゃんは暫く楽しそうな表情で見ていたが、飽きたのかこっちを向いて聞いてきた。
「さてアキト、どうしたらいいと思う?」
口調は軽いけど、何かを見極めようとしている感じがする。
「う〜ん。そうだ!」
料理でも、堅い材料を切る時は力だけじゃなくて角度なんかが大事だから……。
俺は、思いついたこの方法を試すため、敵戦艦へと突っ込んでいく。
「アキト君も特攻?!」
「違うよ!! 入射角さえ合えば!」
俺の予想したとおり、上手く角度と速度を併せた一撃は、敵戦艦本体まで届いた。
次の一撃で敵戦艦は火を噴き爆発。
よし! 上手く行った!

皆から次々に通信が入る。
「やるじゃねぇか、見直したぜ」
「もうびっくりー」
「なかなかやるわね」
「やはり正義の鉄拳に砕けぬ物無しだな!!」
「うんうん、アキトはやっぱり才能あるよ」
皆が口々に誉めてくれる。何か、くすぐったいや。
でも、悪い気分じゃないかも。

「テンカワ、オレ、お前気に入ったぜ! だから今度シミュレーションで勝負だ!」
リョーコちゃん?
「あらら、アキト君リョーコに認められたみたいだね。ある程度腕がないと、こんな事言わないんだよ」
ヒカルちゃんの言葉は予想外だった。
もしかして、それなりに巧くなってるのか、俺?
「実は、それ以外の意図もあったり」
「ほほう? なるほどぉ」
「「うふふふふふふ………」」
「ば、ばっきゃろ、何言ってやがる!」
イズミちゃんの言葉にヒカルちゃんは面白そうに頷き、二人とも息の合った笑いを浮かべてリョーコちゃんを見る。
慌てて叫び返すリョーコちゃん。
はぁ? それ以外って、何だ?
それに、俺に勝ったって自慢にはならないと思うんだが。
俺がそう言おうと思った時、割り込んでくる声。
「勝負なら俺ともだ! コックに負ける訳にはいかないからな!」
ガイの言う通りだぞ。俺はコックなんだから。
そう思った時、暫く驚いている様な怒っている様な妙な表情で黙っていたラズリちゃんが、笑顔で俺を呼ぶ。
「よかったね、アキト。だからまた後でボクともシミュレーションやろうね」
あの、ラズリちゃん、なんか目が笑ってないような?
どうして?

【ブリッジ:ホシノ・ルリ】

「ルリちゃん、ちゃんと重力制御してね」
「え?」
エステバリス隊が着艦するなり、ラズリさんからこんな事を言われて、私は少々困惑しました。
ですが、その困惑は、その後の艦長の命令で氷解しました。
「グラビティ・ブラスト発射用意。地上に第二陣がいるはずです。艦首、地上に向けて下さい」
これのためですか?
確かに、大気圏突入のために重力制御はそれ用にセッティングしてあって、こんな行動には対応してませんでしたが。
艦長が命令する前にそんな事を言うなんて、艦長の命令を予見していたと言う事でしょうか。
ラズリさん、なかなかの戦術眼です。
記憶喪失と言いつつ、隠し技の多い人ですね。

【会議室:テンカワ・アキト】

ナデシコは火星にやって来た。
今はこれからどうするか検討中だ。
でも俺、火星に着いたらどうしてもやりたい事があったんだ。
「すみません、俺にエステを貸してください!
 生まれ故郷を……ユートピア・コロニーを見に行きたいんです!」
俺がそう言った事で、皆が驚いた表情でこっちを見る。
特にラズリちゃんが驚いていた。
でも、俺の言った事に対してというより、何か別の事に対して驚いている様にも見える。
どうしたんだろう?

「何だと、許可できる訳無いだろう」
くっ、やはりあっさり許可は下りないか。
彼女の事は気になるが、俺はどうしても故郷を見てきたいんだ。
だからここで引き下がる訳にはいかない。
「おねがいします!」
行っても、絶望を見せられるだけかもしれない。
でも、俺の中の何かが行かなきゃ駄目だと言っていた。

「行ってきたまえ」
フクベ提督?
「故郷を見る権利は、誰にでもある」
「しかし、フクベ提督……」
「私も、お飾りとはいえ、それなりの権限はあるはずだが」
ゴートさんはその言葉に引き下がった。
「ありがとうございます!」

俺はこの時、故郷を見てくるという事しか考えてなかった。
だから、提督が何故俺に許可を出したのかを知ったのは、もっと後だった。

【ブリッジ:テンカワ・ラズリ】

ユリカ艦長の機嫌が悪い。
原因は、メグミさんがアキトに付いて行っちゃったから。
「問題ですよね!」
「問題ですね」
ユリカ艦長の台詞に思わず同意してしまうボク。
「予知」通りなんだけど、何でか、ちょっと気にさわっちゃう。
「でも、行っちゃった者はしょうがないです」
ユートピア・コロニーの人を見つけて来るようだから、我慢。
「そうそう、別にいいじゃない。敵さんが来ないんだから、通信士の一人位居なくても」
操舵士のミナトさんも、ボクの言葉に同意してくれました。
「で〜も〜」
「ああっ、ユリカ、持ち場を離れちゃだめだって」
「じゃあジュン君、艦長代理やって」
「だめに決まってるだろ」
「むぅ、じゃあ」

出てきたのは代理の札をつけたゲキガン人形。

「ユリカ!!」
ジュンさんに叱られて一応艦長席に着いたけど、アキトの所に行きたくてうずうずしているのは見てわかる。
このままだと……。
「だからってナデシコごと迎えに行くのは無しですよ。ユリカ艦長」
ナデシコがコロニーに行ってしまうと、大変な事になってしまうはずだから。
「え〜。何で〜?」
「下手に迎えに行くと調子に乗りますからね。ここは帰ってきたのを問いつめるのが良いでしょう」
このもやもやした気持ちを何とかしたいから、帰ってきたアキトには色々させちゃおうかな、何て思ってたりするけど。
「でもでも、その間に何かあったらどうするのよ〜」
「ま、きっと何もありませんよ」
いえ、「何か」はありますけど、ユリカ艦長が思っているような事じゃないですよ。
生き残りの人を見つけたら、そっち方面やってる暇無いだろうから。
「どうしてそんな事がわかるのよ!」
え? ……「予知」なんて言うわけには行かないし。
「勘ですけど」
「そんなの当てにならないわよ」
ここであっさり引き下がると、ユリカ艦長はアキトの所に行きそうだから……。
「ふっふっふ、伊達に同じ名字にしてませんよ。アキトとは血のつながらない姉弟みたいな物ですから」
「何、それー?」
よし、注意がこっちに向いた。
後は適当に時間を稼いでっと……。

【同:ホシノ・ルリ】

アキトさんがユートピアコロニーに出かけてから、艦長の行動は呆れるばかりです。
何でこう、この艦長さんはこんなにお気楽なんでしょうか。
私は艦長が持ってきたゲキガン人形に向かってつぶやきました。

あんたの方がましかもね……。

私がそんな事を思っている横で、アオイさんやラズリさんが艦長をなだめようとしてたんですが。
「アキトとは血のつながらない姉弟みたいな物ですから」
「何、それー?」
ラズリさんのこの発言により話題はラズリさんの方に向かいました。
「ラズリちゃん、それどういう事?」
「何だかアキトって、他人とは思えないんですよねー。
 何となく行動が読めるって言うか、出来の悪い姉弟って言うか、そんな感じなんですよ」
それを聞いたアオイさんが、何か納得した様に言いました。
「言われてみると、確かにラズリちゃん、テンカワと何か顔立ち似てるよね。実は生き別れの兄妹とか?」
「あはは、そうだと嬉しいですね」
「テンカワにだけ丁寧語じゃないのも、そのせい?」
「ええ、何でかそんな口調でアキトに話してた様な気がするんですよ」
「でも、アキトはラズリちゃんの事知らないんでしょ?」
艦長が、不思議そうにラズリさんに聞きます。
「そうなんですよね……。ボク、ユリカ艦長の名前も覚えてたんですけど、艦長もボクの事知らないんですよね」
「うん、今まで会った事無いと思うよ。ジュン君もそうだよね」
「僕も知らないなぁ。他に何か覚えてなかったの?」
「後は、ラピス・ラズリって言う名前と、ルリちゃんの名前、ですね」
「両方とも、「瑠璃」って意味だね」
え、私と同じ意味の名前? じゃあラズリさん、やはり私と何か関係あるのですか?
「私はラズリンって、ルリルリと似てると思ってたけど、じゃあ、ラズリンとルリルリってなんか関係あるのかもね」
ミナトさんもその話には興味が出てきたのか、口を挟みました。
「あは、ルリちゃんと姉妹だったってのも、ありかもしれませんね」
嬉しそうに答えるラズリさん。
「いや、テンカワとの方が似てるよ。髪の毛も同じ黒だしね」
首を傾げてそう言うアオイさん。
「でも、瞳の色はルリルリと同じ金色だし、なんか、雰囲気が二人時々似てるのよね」
反論するミナトさん。
そのまま、ラズリさんが誰に似ているって話になっていきます。

「ルリルリは彼女誰に似てると思う? 自分、それともアキト君?」
と、ミナトさんが私に話を振ってきました。
私はどちらに似てるとも思えないのですが。
強いて言えばアキトさん、というぐらいで。
「あ、ボク、アキトと親戚でも良いけど、ルリちゃんの親戚ってのも良いな〜」
そう言いながらラズリさんは後ろから私に抱きついてきました。
「い、いきなりなにするんです?」
「顔を並べてみて比べてもらおうかなって思っただけだよ」
「だからって驚かさないで下さい」
驚きのせいか頬が熱くなるのを感じながら、私が文句を言うとラズリさんは笑顔でこんな事を言ってきました。
「あはは、でもルリちゃんの驚いた顔も、何だか可愛いかったよ」
ラズリさんにそう言われて、私はドキリとしてしまいました。
どうしてか、たまにラズリさんが男の人みたく見える時があるんですよね。

【ユートピアコロニー:テンカワ・アキト】

何事もなくユートピアコロニーに着いた俺達。
いや、何故かメグミちゃんがついてきた事を除けば何事もなく、だな。

「なんでメグミちゃん、俺についてきたの?」
「アキトさんの故郷、見てみたかったんです」
何で見たかったんだろう。俺には理由が有っても、彼女には無いのに。
「え? どうして?」
「ふふっ、秘密、です」
いたずらっぽい笑みを浮かべて答えるメグミちゃん。
何だかなぁ……。
困惑している俺に構わず、彼女は今度はこんな事を言いだした。
「あ、私の事は、メグちゃんって呼んでくれると嬉しいかな」
「え?」
「ほら、呼んでみて下さい」
「め、メグ……ちゃん」
「はい、アキトさん」
俺の呼びかけに笑って返事をするメグちゃん。
……なんか、照れるな。

「さて、これからどうします?」
「あ、そうだね、って、うわぁ!!」
何事もなかったかの様に聞いてくる彼女に、俺は答えようとした。
だがいきなり、俺のいた地面が崩れた。

【ユートピアコロニー地下:テンカワ・アキト】

ガラララ……どすん。

「あいたたたた……」
落下した先は、大きな地下空間になっていた。
フードとサングラスを付けた人影がこちらに歩いてくる。
「ようこそ火星へ」
慌てて辺りを見回すと、他にも何人もの人達がこちらを見つめている。
人間? 生き残りがいたのか?!
「歓迎すべきかせざるべきか。なにはともあれ、コーヒーぐらいは御馳走しよう」
驚く俺達の前でその人影はフードとサングラスを取った。
現れたのは金髪を編み上げた女性だった。
「私はイネス・フレサンジュ。ネルガルの研究員よ」
その女性の顔を見た時、何故か、アイちゃんの姿が頭をよぎった。

アイちゃん……、このユートピアコロニーで、俺が助けられなかった子。
「あの、貴方の親戚に、アイちゃんって子が居ませんか?」
「……いないわ。私、身寄りがないから」
思わず俺は聞いていた。だが、その質問は否定された。
彼女は少々考えた後、僅かに頭を振り、こちらを見つめて口を開く。
「それより、貴方達ナデシコでここまでやって来たのよね。で、来た理由は私達の救出」
「はい、そうです!!」
「でも、私達は乗らないわ」
何だって!!

【ブリッジ:テンカワ・ラズリ】

色々と会話をして時間を稼いでいると。
ととと。時計を見たユリカ艦長の表情がやばい。
「すねないで、ユリカ艦長」
せっかく時間を稼いだんだし、ここで無茶な事言われたら困っちゃうもの。
ボク、ユリカ艦長の事見ていて気づいたんだけど、艦長って真っ正面から攻めると、そのまま素直になっちゃうタイプなんだ。
だから、こういう時は、はっきり肯定してあげるのが一番。
「ユリカ艦長はアキトの幼なじみなんですから、大丈夫ですよ」
「本当にそう思う?」
「ええ!」
疑いの表情を浮かべるユリカ艦長に、はっきりと頷き返す。
だって、「予知」によってもそうだもの。
ま、それはそれとして、ボクの言葉にユリカ艦長は笑顔に戻った。
「そうだよね、アキトは私が大好きだもん!」
「そうですよ、だからユリカ艦長はここでアキトの帰りを待ってあげなくちゃ」
「そうだよね、やっぱり妻は夫の帰りを待つものよね! って妻なんて言っちゃって、やだもう〜」
そのまま顔を赤くして妄想へと突入するユリカ艦長。
何だかねぇ……。
でも、こうなるとユリカ艦長暫く戻ってこないから、結果オーライかな。

こんな事をやっている間に、アキトは帰ってきた。
「予知」通り一人の女性を連れて。
イネス・フレサンジュさんを……。

【ブリッジ:ホシノ・ルリ】

アキトさんが連れてきた、火星の生存者達の一人、イネス・フレサンジュさん。
彼女が言った、生存者達の意見は驚くべきものでした。
「私達は、ナデシコに乗るつもりはないわ。ナデシコじゃ、あいつらに勝てないもの」
「どうしてですか?! 私達、今まで勝ってここまでやって来ました!」
「今まではそうでも、これからもそうだとは限らないわ」
「そんな事!」
「ナデシコは私が造った艦だもの、それくらいわかるわ」
言い争う艦長とイネスさん。
それに割り込むように鳴り響く警報。

「敵、前方のチューリップから次々に現れます」
「ほら、これでわかるんじゃない?」
「わかりました。ナデシコの力を見せてあげます」
「ええ、いいわよ。仲間も隠れ場所から見ているでしょうから」
艦長の言葉に、イネスさんは小馬鹿にする様な笑みを浮かべながら答えました。
「グラビティ・ブラスト、フルパワー、準備!」
「エネルギーチャージ、よし」
「撃てぇ!!」

閃光、爆発。

「敵、小型機は殲滅するものの、戦艦タイプは依然として健在」
「グラビティ・ブラストを持ちこたえた?!」
「敵も強力なディストーションフィールドを装備しているようね」
驚く艦長にその理由を説明するイネスさん。
「これでこっちの優位はなくなったわね」
「敵、チューリップより更に出現。その数、続々増大」
「な、何よあれ? 何であんなにいっぱい入ってるの?」
「入ってるんじゃないの、出てくるのよ。あの多数の戦艦は、何処か別の所から、送り込まれているのよ。
 チューリップはここと別の場所を繋ぐ通路だと考えられているの」
ミナトさんの驚きに対するイネスさんの説明の間にも、木星蜥蜴は更に出現してきました。
この数は、幾らナデシコといっても……。
イネスさんは、何だか楽しんでいる様な表情で、艦長に問いかけます。
「どうするの、艦長?」
この状況に、答えあぐねてしまう艦長。

その時、ラズリさんからのコミュニケが割り込んできました。
「とりあえず、あの敵から逃げる事ぐらいなら出来ると思いますけど」
ラズリさん、パイロットスーツを着ていますね。という事は?
「テンカワ・ラズリ、出撃しますね」
ですがエステ一機ではどうしようもないと思いますが。
「囮になるつもり? ナデシコが見つかっている以上、エステ一機が囮になる訳無いじゃない。
 出るだけ無駄よ」
呆れたようなイネスさんの言葉に、ラズリさんはにっこり笑って答えます。
「そこです。敵からナデシコが見えなきゃ良いんですよ」
そう言って出撃したラズリさんは、敵の方へは向かわず、ナデシコの艦首に向かいました。
何をする気でしょうか?

「ハイ・ジャミングモード起動」
その言葉と同時にラズリさんの機体の各部が、展開し始めました。
背中の羽根は一枚一枚周囲を漂いだし、手足には振り袖のように板型アンテナが展開していきます。
特徴の一つだった腰のドームも外れて、柔らかい光を放ちながら周囲を巡り始めました。
頭の兎耳アンテナも、通信範囲の増大のためか展開し、髪の毛のように伸びてゆきました。
装備が展開したためますます細身となった姿は、前が肉感的なバニーガールなら、紗を纏った踊り子と言った所でしょうか。

そう、私が踊り子と思ったのは、装備が展開すると同時に、ラズリさんの機体がふわりと柔らかく動き始めたからです。
手足のアンテナの操作のための駆動のはずなのですが、それがまるで踊り始めた様に見えたのです。
機体の動きは、あくまで柔らかく、優雅でした。
その上、手足が動かされるたびに、羽根が煌めきながら宙を舞い散ります。
とても幻想的で、今が戦闘中と言う事を思わず忘れてしまいそうです。
ラズリさんの機体はそれ程の舞いでした。
ですが、この動きに何の意味があるんでしょう?

その答はすぐにわかりました。
「敵集団に変化。……こちらを見失ったようです」
「どういう事?」
艦長の質問に答えたのはウリバタケさんでした。
「これこそ、ラズリちゃんが乗る電子戦フレームとナデシコがリンクした時だけ使える能力だ!
 超強力なジャミングで、敵の電波通信、探査を妨害!
 光学探査はコミュニケのシステムを応用した光学迷彩でカバー!
 この状態になったこっちを見つけるのは、かなり骨だと思うぞ!」
自慢するウリバタケさん。
確かに機体も凄いですけど、本当に凄いのはラズリさんの方だと思うんですが。

戦闘空域全てにジャミングを掛けるため、中継装置となる羽根を全て操る事。
敵の妨害と光学迷彩の操作を一人で行っている事。
凄いです。私には光学迷彩の操作なら出来そうですが、ジャミングまでは無理です。
ジャミング中に全ての羽根を操る、これだけでもただ事じゃないんですから。
敵の動きを予測した羽根の駆動プログラムと、羽根同士の接触による直接通信で操作してる様ですが。
こんな事、一流パイロットかつ強力なマシンチャイルドであるラズリさんにしかできないと思います。

で、ウリバタケさんの言葉にブリッジの男性陣は感心してるんですけど、女性陣の反応は。
「でも、なんか色っぽい機体ですよね」
「セクハラです!」
「ウリピーのえっちー」
こんな感じの冷たい返答。
「何でそうなるんだよ……」
ウリバタケさん、悲しそうです。
自業自得だと思いますが。
一方、ネルガルの人達は。
悩んでるのが二人に感心してるのが一人。
「ウリバタケさん、勝手にあんなカスタム化を……。一体幾らかけたんですか……」
費用対効果の計算ですか?
「ナデシコ……オモイカネ……ならあの機体は、アマノウズメかしら」
アマノウズメは岩戸を開くんですけどね。
「電子の舞姫か……」
ゴートさん、なかなか良い表現してます。
姿には全く似合いませんが。

そこへ入ってくるラズリさんのコミュニケ。
「あの……これ、結構きついんです……。速く……くっ……何とか……はぁ……お願いしま……ううっ……」
僅かに苦しげな表情と上気した頬、荒い呼吸が妙に色っぽいです。
普段はぽややんとしていて余り色気ってものを感じさせない人なので、ちょっと驚きでした。
そのせいで女性陣はウリバタケさんへの視線が氷点下で、男性陣は赤い顔です。
アキトさんまで赤い顔をしているのを見て、艦長は慌てて叫びました。
「このまま敵の探査範囲から撤退!」

で、敵もこっちを見失って退却して。
ユートピアコロニーの人達は、残りたい人は残り、乗りたい人は乗るという事になりました。
こっちに敵を倒せる力がないのは事実ですから、この判断は間違ってないでしょう。
でも、乗り込んできた人達のうち、あのラズリさんの機体とその搭乗者の事を聞いてきた人、男の人が妙に多かったんですよね。
しかも、ラズリさんの事を知ると、不思議な程嬉しそうになりました。
……男の人の考える事って。
私、少女ですから、よくわかりませんけど。
「……馬鹿?」








【後書き:筆者】

第六話です。

今回はやっぱり、電子戦フレーム、ですか。

最初はGPMの電子戦仕様機や、ド○グナーのD3ぐらいの機体だったのに。
これでは普通すぎるって電波が来て。
しかも代理人様にも当てられてしまって、予想以上にしなくちゃいけなくなって。
結果、このありさまです。

ま、出してしまった以上、活躍してもらいましょう。
これからしばらくは彼女、この機体に乗って、状況が拙くなったら舞います。
しかし、この機体とんでもないかも。
戦場を翔る羽根付きバニーガール。しかも危なくなったら脱ぐ(汗)。
はぁ、どうしてこんな感じに。
最初の予定は天使の羽根(前回ウリバタケがラズリの笑顔を見て付けたくなった様)だけだったのに。
何故にウサギが混じったのか?
「電子の舞姫」の二つ名も、出てくるのはもっと後だと思ってたし、こんな風に表現されるなんて思ってませんでしたよ。
あ〜。なんてこったい。
まあ、ハイ・ジャミングモードは回避力は上がっても、実際の攻撃力が上がる訳ではないはずっていうのが救いですね。
劇場版ルリのシステム掌握ほど無敵でないので、話が壊れませんから。
スパロボでいうと「かく乱」または「隠れ身」って感じですか。

……それはともかく、ユートピアコロニーの人々も死なず、ナデシコは無傷。
となると、そろそろ「予知」と「現実」のずれや「予知」出来ない事が起きても良いのかもしれません。
「予知」出来ない話は四話でやろうかとも思ったんですが。
あの時は「予知」出来てもあまり上手く行かず悩む方が面白いかと思ったので止めました。
でも、次回はフクベ提督の話ですよね……。

それでは、また次回に。


あ、電子戦フレームのイメージはスパロボAのアンジュルグを黒白にしてウサ耳ウサ尻尾つけた物。
ハイ・ジャミングモードはクロノアイズって漫画の『豪華な玩具』ウズメ、です。

 

 

代理人の感想

ああ、つまりその内鞭を持った機体にびしばしシバカれて墜ちると(爆)>ハイ・ジャミングモード

 

それはさておき。

 

今回のポイントは前回に引き続いてのアキト×メグミフラグとラズリ×ルリフラグ二本目(ぉい)。

後、妙にアキトの事が気になる御年頃のテンカワラズリ、と言うあたりでしょうか。

次回は・・・・次回こそ予知が外れるかな?