「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
私立ネルガル女学園。
もとは華族の令嬢のためにつくられたという、伝統あるお嬢さま学校である。
……なんていうのは表向きの話。
確かに真実の一面ですけど、それだけでは括れないのがこの学園の人達。
噂では、能力が一流であるなら良いという方針で集めたんじゃないかって話。
ま、そうでなかったら、私、星野ルリはここに入学できなかったんですけど。
でも、やっぱり時々こう言いたくなります。
……勘弁して。
マルス様がみてる
「待て」
登校途中、背後から呼びとめられ、私は振り向きました。
いえ、振り向きかけ、声を掛けたのが誰かに気づき、驚きで固まってしまいます。
天河アキコさま、生徒会役員で、その美貌と生まれ育ちで、全生徒の憧れの方。
「タイが、曲がっている」
その言葉とともに、彼女は私の制服のタイを直し始めていた。
生徒会主催の新入生歓迎会で、初めてその姿を見かけた時から、気になっていて。
だからって、いきなりこんな急接近するとは、全く予想外で。
こういう時、マシンチャイルドと呼ばれるほど、感情が顔に出にくいタイプで良かったと。
「身だしなみはきちんとしておけ」
私がお礼を言う前にそう言い放ち、立ち去って行くアキコさま。
小さくなっていく後ろ姿を見つつ、思う。
私の……馬鹿。
折角の出会いが、こんな事なんて。
きっと、だらしなくて無愛想な生徒と思われた。
「ねぇ、ルリルリ」
放課後、私は教室を出た所で呼びとめられた。
呼びとめたのは遥ミナトさん。
写真部のエース、可愛い物好きで、特に女の子の写真を撮るのが好きな方。
やはり、この学校の生徒は、侮れません。
「ほら、これ見て」
差し出されたその写真に写っていたのは、朝の光景。
私がアキコさまにタイを直されているシーンが、ばっちりと写っていた。
「……これは」
「良く撮れているでしょう?
撮った瞬間からこれは傑作だと思ったから、お昼抜きで慌てて写真部の部室で現像したのよ」
そこでお腹を抑える彼女。
「もうお腹と背中がくっつきそうね」
お腹はスリムになっても、その胸は変わらないんですね。神様って不公平。
などと不謹慎な事を考えてしまいました。
その罰が当たったのか、ミナトさんはとんでもない事を言い出したのです。
「この写真、今度の学園祭でパネルにして発表しようと思うの」
な?! なんて事を言い出すのですか。
「ルリルリがアキコさまを気にしているのは知ってるのよ。二つばかし了承してくれたら、この写真プレゼントしちゃうんだけどぉ」
く、なかなか痛い所をつきますね。
「……わかりました、了承します。それで、もう一つは?」
「じゃあもうひとつ、アキコさまにもパネルの公開の許可を取る事」
「アキコさまが私の事なんか相手にする訳ありませんが」
全生徒のあこがれ、スターである人が、私のような無愛想な人間の相手など。
「どうして? この写真、まるで
……こんな制度があるというのも、侮れない学校です。
「やってみなくちゃわからないし、さ、行こう」
え? 何処へですか?
ネルガル女学園の生徒会は、何故か撫子会と呼ばれています。
その撫子会専用の会室、通称薔薇の館、の前に、私とミナトさんは居ます。
「撫子会に、何かご用?」
振りかえると、そこには葵ジュンさんが立っていました。
「
一年生なのに「
撫子会の役員は、普通に会長や副会長や書記というのではなく、三人が平等の立場で、三色の薔薇の名になっています。
そしてその妹達は、彼女達のお手伝いをし経験を積み、大抵次の薔薇さまになる事から、次回に咲く薔薇、蕾と呼ばれています。
ジュンさんが「
「私達、アキコさまにお話が」
「そう、じゃあどうぞ中へ。皆、二階に居るはずだから」
ミナトさんの言葉に、館の扉を開け、中に招き入れるジュンさん。
館の中は歴史のあるような重厚な雰囲気で、僅かに圧倒されつつ階段を昇っている途中に聞こえた声。
「断る!!」
驚く私達でしたが、何事もないかのように微笑むジュンさん。
「ああ、アキコさま居るみたいね」
じゃあ、今の叫び声はアキコさまなんですか?
クールで、あんな風に叫びそうには思えなかったのに。
そう思いつつ、二階の部屋のビスケットを思わせるような扉の前に立った時。
「なら、連れてくれば良いのだろう!!」
扉が向こうから開くと同時に現れた黒い姿。
「きゃあ!!」
いきなりで避けきれず、私は吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばした相手は、なんとアキコさまでした。
「大丈夫か」
言葉と共に抱き上げられた私。
「……大丈夫です」
また、急接近です……。
内心だけ慌てている中、耳元で囁かれました。
「君、
「……いいえ」
訳がわかりませんが、とりあえず答えます。
「なら、君は私の
……は?!
驚いたのもつかの間、さらに驚かされました。
アキコさまは部屋の中の人々、撫子会の面々に向かって、こう言ったのです。
「天河アキコはこの子を
……はあっ?!
「はい、どうぞ」
差し出された紅茶のカップ。
先ほどのアキコさまの衝撃の発言も覚めやらぬ中、とりあえずテーブルに着いて話そうとなりました。
「お砂糖とミルクは?」
カップを差し出したのは、栗色の癖ッ毛と高めの声が元気そうな感じも見せていますが、大きな丸い眼鏡で、何となく文学少女って感じの方。
「
「え……いいえ……」
ああ、先ほどのアキコさまの発言で、私少々混乱しているようです。
しかし、流石撫子会、学校で生徒がこんな風に優雅に紅茶を飲んでいるなんて。
「あの、聞いてもいいかしら? 私には事情が全然わかんないんだけどぉ」
ミナトさんが、片手を上げ、質問しました。
「今度の学園祭、生徒会で劇をするのよ」
答えたのは、黒髪を耳元で切り揃え、いかにもやり手、最上級生の貫禄十分な美人、「
彼女の言葉によれば、毎年伝統で、学園祭では隣の男子校である木連高校とお互いに助けあう事、助っ人を出しあう事になっているのだそうで。
今年も、木連の生徒会長がやってくるそうです。
アキコさまは学祭も真近になった今になってそれを知り、劇を、しかも主役を辞退しようとしたのです。
ですが、妹も居ないくせにそんな事言うのかと言われて、ならば連れてくると、怒りと共に出て行こうとして、私と衝突した訳です。
代役は彼女の妹ぐらいじゃないとつりあいが取れないという事も有るのでしょうね。
「だからって、丁度そこに居た子を利用するなんて。
そんないいかげんな事、私の目の前でさせる訳には行かないわ」
「アキコが決めたんだもの、好きな様にさせてあげてよ」
エリナさまの言葉に、「
「アキコは私の妹なのよ」
「横暴だよ、アキコと私が互いの存在を知らないうちに、さっさと決めちゃっただけじゃない。
知ってたら絶対私の妹になってくれたはずだよ。アキコは私の王子さまなんだからね」
エリナさまとユリカさまがにらみあう。
でも、ユリカさま、妹になってくれたはずとか、王子さまとか言っちゃって良いんですか?
ジュンさんの方を向くと、彼女は、妙に透き通った、何だか悟ったような笑顔で答えてくれました。
「いつもの、ことだから」
……そうなんですか。
「
「紅」と「白」の口論に割り込む様に「
「……………………」
駄洒落だらけの歌詞に、思わず固まる私達。
「あー、この駄洒落好きの馬鹿姉はー」
呆れつつ突っ込みを入れた女性が一人。
制服を袴の様に着こなし、お嬢様学校に少々似合わない男っぽい口調の彼女は「
「気にする事ないぜアキコ。今は引っ込みがつかなくなってるだけだろ?」
リョーコさまの言葉に、アキコさまは皮肉げに口元を歪めました。
「今、ここで
言葉と共に彼女の胸元から取り出された、青い色の宝石がついた首飾り。
つまり、あれを受け取ったら、儀式が成立してしまう。
私は
でも今、私が彼女からそれを受け取って良いのでしょうか。
劇をやりたくないからとか、そんな理由で、今日偶然出会っただけで、妹になってしまうなんて。
「私、アキコさまの妹にはなれません」
気づいた時には、口に出していた。
「……理由は」
私の答に静まりかえった後、その沈黙を破り、アキコさまが問いかけました。
「本性を見て、嫌いになった?」
それに合わせる様にユリカさまも問い掛けます。
「そういう訳ではなくて」
嫌いになるどころか、嬉しくて、もっと興味が出てきていて。
「こんな事で
でも、上手く表現できなくて。
気持ちを言葉に表現する作業は、とても難しいです。
「ともかく、アキコも振られた訳だし、観念してもらいましょうか」
エリナさまの言葉が、面白がっているように見えて、アキコさまが、気の毒に思えてきた。
「アキコさまも嫌がっているのだし、何とかなりませんか?」
「あらあなた、今ごろアキコをフォローしようというの?」
「フォローとかそういうのではありません。
だいたい、今日までアキコさまに伝わっていなかったなら、それは薔薇さまにも問題があったわけで」
その時。
「黙れ」
大きくはないが、鋭い声。
「私のために言っているのはわかる。でも彼女達を非難しないでくれ」
声の主はアキコさま。
どうしてですか? 私、何かから回りした事してしまったんですか?
アキコさまの薔薇さまへの思いというのは、どんなものなのでしょうか……。
「わーい、アキコ、私嬉しい!!」
「叫ぶな、
そんな緊迫しかけた雰囲気を吹き飛ばす、ユリカさまの喜びの叫び。
「でも、確かにそれは一理有る。それに後輩に無理やり押し付けるのは少々問題があるかもね」
エリナさまはそれを無視しつつ、私の言葉に対し、口元に片手を当て、考え始めました。
「じゃあ、賭けをしましょう!」
と、いきなり楽しそうな顔で、ユリカさまが叫びました。
「学園祭当日までにアキコがルリにCCを渡す事が出来たら、劇を降りて良い。
これなら、アキトの気持ちもルリちゃんの気持ちも汲み取ってるよね! うん、OKOK!!」
しかし、それでは。
「ですがそれじゃ、アキコさまと薔薇さまの勝負ではなく、私とアキコさまの勝負になるのでは?」
「ほっとけない仏心が運の尽き、運がつきたらつきあう姉妹〜♪」
サイドから放たれたイズミさまの駄洒落ソングに、抵抗する気力も失せました。
帰り道の銀杏並木を歩く、私とミナトさん。
「ルリルリ、何であの時OKしなかったの?」
「私にもよくわかりません」
「あーあ、受けてくれたら写真の交渉もしやすかったのに」
「ミナトさんは写真の心配をしていたんですか」
「当たり前じゃない。私を誰だと思っているのぉ?」
写真部のエース、可愛い物好きで、特に女の子の写真を撮るのが好きな遥ミナトさん、でしたっけ。
軽く溜息をつきながら、私は今日の事を思い返した。
今日一日で、こんなにも撫子会の方々のさまざまな面を見せられた気がします。
でも、それは不快じゃなくて。
むしろ、とても好ましくて。
……人の出会いって、何だか不思議です。
「待て」
背後から呼びとめられ、私は振り向きました。
声を掛けてきたのは、アキコさま。
それは、朝と同じ状況。
「君を必ず妹にしてみせる」
一言放ち、立ち去って行くアキコさま。
「あらぁ、何だか格好良いわね」
後姿を見つめつつ、感心した様に呟くミナトさん。
その後ろ姿は、朝と同じで。
でも、前から感じていた思いが、今日、色々な面を見る事が出来た事で、もっと強くなっていて。
だから、私が呟いたのは。
「格好、つけすぎです」
後書き。
まず言っておきます。
この話、続けません!!
アニメも始まりましたし、一話分書いてみたんですけど。
マリみてらしさとナデシコらしさって、真正面から対立するんですよ。
しかも、ナデキャラでやる意味のない話になっている気がしますし。
でもHDに埋もれさせておくのも何だかなと、自己満足レベルですが、出しておきます。
こういう事はするべきではないかもしれませんが、一発ネタとして、ご容赦していただきたいかと。
個人的には、思いつきだけで始めるというのはどういう事なのか知りたいとか、幾つかタグ使ってみたいとか、そんな理由もあったんですけどね。
とりあえず考えてみた残りのキャラ配置も書いておきます。
ドリル:ラピス 触覚:イツキ
仏像好き:ハーリー 蟹:ユキナ
七三:メグミ ポニテ:イネス
男子校側も。
銀杏王子:アカツキ 弟:サブロウタ
金太:ムネタケ マッチョ:ゴート 会計:プロス 双子:ガイ&九十九
じじい:フクベ
こんな感じです。
……って愛称じゃわかる人にしかわからないですね。でも、はっきり書いてしまうのもネタばれだと思いましたから。
あ、名前の漢字は幾つか当て字です。ジュンとかエリナとかわからなかったので、一応断っておきます。
それとアキトの名前、マリみての女性はほとんどが〜子なのでやはりアキコしかないなと。
某ジャムの人とは関係ないですから(w
それでは。
代理人の感想
yuaniがあらわれた!
yuaniはさくひんをだいりにんにとうこうした!
だいりにんはさくひんをよんでいる・・・・
さくひんをつかったyuaniのこうげき!
39ポイントのダメージ!
だいりにんはせいしんぼうぎょしている・・・・
yuaniのこうげき!
59ポイントのダメージ!
だいりにんはホイミをとなえた!
だいりにんのたいりょくが35ポイントかいふくした!
yuaniのこうげき!
49ポイントのダメージ!
yuaniのこうげき!
45ポイントのダメージ!
だいりにんはよむのをちゅうだんしてロボットアニメのDVDを使った!
たいりょくが108ポイントかいふくした!
yuaniのこうげき!
67ポイントのダメージ!
yuaniのこうげき!
63ポイントのダメージ!
だいりにんはベホマをとなえた!
しかしじゅもんをおぼえていない!
yuaniのこうげき!
つうこんのいちげき!
239ポイントのダメージ!
だいりにんはしんでしまった!
・・・・・・・・・・・・と、言うわけで、代理人は現在死亡中につき感想を書けません。
うううっ、ダメだ、やっぱダメだわこれ(爆)