彼の鎖が増えたわけ  
           第4話後編




「不思議だな・・・アキト君を見てると何故か落ち着くのよ。」

 

「そうですか?」

俺の顔を見ながらイネスさんがそう呟く・・・

「それにしても、どっちが本業なのアキト君は?」

 

「・・・どちらかと言うと、俺はコックが好きなんですけど、ね!!」

 

 フライパンの中のオムレツを素早く返しながら、俺は返事をする。

 

 

 ジュワァァァァ!!

 

 

 フライパンの中で、オムレツが焼ける音が響く・・・

 後は、ちょっと焦げ目を付けて完成だな。

 

 トン!!

 

 イネスさんの目の前に、焼き上がったばかりのオムレツを出す。

 

「はい、お待ちどうさま。」

 

「へ〜、やっぱり良い腕してるね、テンカワ。」

 

「ホウメイさんに褒められる程の、腕じゃ無いですよ。」

 

 実は厨房は今先程、昼食の時間が終ったばかりだった・・・

 その為、休憩しているホウメイさんの代わりに、俺がイネスさんの料理をしたのだ。

 

「テンカワ? もしかしてテンカワ夫妻のお子さん!!」

 

「・・・ええ、そうですよ。

 俺の両親を知ってるんですか?」

 

 何が言いたいのか・・・解ってはいるけどな。

 そして、イネスさんが冷たく目を輝かせながら俺に言い放つ。

 

「それでよくこの船に・・・ネルガルの船に乗る気になったわね?」

 

「・・・何が言いたいんですか?

 俺が・・・ナデシコに乗ってるのが、どうして可笑しいですか?」

 

 当り障りの無い会話で場を誤魔化す・・・

 俺はまだ真相を知らない事になっているからな。

 

「知りたい?」

 

 俺に近づいてくるイネスさん・・・その時。

 

 

 ピッ!!

 

 

「二人共、近づき過ぎ!! プンプン!!」

 

 やっぱり現れたなユリカ・・・だが、今回は待ちどうしかったぞ。

 

「・・・何を、されてたんですかアキトさん。」

 

 ・・・見てたんだね、ルリちゃん。

 

「そ、それより何かあったのかユリカ、ルリちゃん。」

 

 俺は話を強引に進める事にした。

 

「そうそう、アキトとイネスさんは直ぐにブリッジに来て下さい!!」

 

「はいはい・・・じゃあ行きましょうか、アキト君。」

 

 そう言って立ち上がる、イネスさん。

 しかし視線は名残惜しそうに、皿の上のオムレツを見ていた。

 

 ふむ、時間的に見てクロッカスを発見したな。

 俺もイネスさんの後を追って食堂を出る・・・その時、後ろからルリちゃんの声が・・・

 

「近頃、見境無し・・・ですねアキトさん。」

 

 俺の胸を貫いた。

 

 ・・・だから、違うってルリちゃん。



「センサーに反応・・・間違いありません、護衛艦クロッカスです。」

 

「そんな、信じられない!!

 クロッカスは、地球でチューリップに吸い込まれた筈なのに・・・」

 

 ブリッジに入ったとたん・・・

 ユリカとルリちゃんの声が聞こえてきた。

 

「そう!! そこで私の仮説が成り立つ訳なのよ。

 木星蜥蜴が使うチューリップ・・・あれは一種のワームホールだと、私は考えているわ。」

 

 ・・・そんな突然に、会話に割り込むなんて。

 科学者って、自分の話を聞かせる時って周りを見ないよな・・・

 

「そんな・・・チューリップが一種のワープ装置だと、言うんですか?」

 

「そうよ・・・そう考えれば、木星蜥蜴が何故あれ程の軍隊を、瞬時に動かせるか説明がつくわ。」

 

 ユリカとイネスさんの討論が続いている・・・

 俺は全てを知っているから、今回は高見の見物だけどな。

 

「さて、アキト君・・・貴方はどうしてこの提督の下で戦っているの?」

 

 突然、イネスさんが俺に話かけてきた。

 ユリカとの討論はもういいのか?

 

「この提督が火星戦役で、ユートピア・コロニーにした事を・・・知っているの?」

 

「ええ、知ってますよ。」

 俺の感情を込もっていない返事を聞いて、ブリッジの全員が固まる。

「ですが・・・それも過ぎた事です。

 時間は過去には戻りません・・・今は、それどころじゃないですし。

 何よりフクベ提督が、一番惨めだったと思いますから。」

 

 偽りの英雄を演じてきた提督・・・

 いや、軍隊に英雄に祭り上げられた提督・・・

 その心の内は、俺には計り知れ無い・・・

 だが、単純に割り切る事など出来ないだろう。

 自分の命令で罪の無い、本来なら守るべき者達を皆殺しにしたのだから。

 

 俺の冷めた声と顔を見詰めていたイネスさんは・・・

 

「そう・・・見かけより大人なのね、そんな考え方が出来るなんて。

 ・・・つくづく興味深いわね、アキト君は。」

 

 

 ビキッッッッ!!!

 

 

 再び俺はあの音を聞いた・・・

 頼むから、勘弁してくれ。

 

 しかし、今回はどちらかと言うと場を和ます為の冗談だったらしい・・・

 そのまま、イネスさんとプロスさんは今後の方針を話し出した。




 後ろではフクベ提督の提案により、エステバリスで先行偵察が行われる事が決定していた。

 どうやら過去と同じく、ネルガルの研究施設に向かうらしい。

 先行偵察のパイロットはリョーコちゃん、ヒカルちゃん、それと俺。

 イズミさんは万が一の場合を考えて、ナデシコに残った。

 ん?・・・誰かの存在を忘れている様な気が?

 

 


 先行偵察中・・・俺は先頭をきって氷の大地を走っていた。

 リョーコちゃんと、ヒカルちゃんは、俺の後ろで会話を楽しんでいた。

 

「だから砲戦フレームなんて嫌いなんだ。

 重くって仕方がないぜ!!」

 

「ぼやかない、ぼやかない!!」

 

 緊張感の無い会話だな・・・

 まあ、索敵レーダーに反応が無いのだから・・・!!

 

「二人とも止まれ!!」

 

 俺は二人に急停止を指示する。

 

「ど、どうしたんだよテンカワ?」

 

「敵でも出たの? 索敵レーダーに反応は無いけど?」

 

 いや、確かに無機質な殺気を感じた。

 無人兵器特有の殺気だ。

 俺は五感を研ぎ澄まし・・・辺りを探る。

 

 ・・・いた!!

 

「リョーコちゃん、右の足元だ!!」

 

「何!!」

 

 

 ドゴォォォン!!

 

 

 氷の地面の下から、リョーコちゃんに奇襲を仕掛ける無人兵器!!

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

「リョーコ!!」

 

 砲戦フレームの為に動きが鈍いリョーコちゃんのエステバリスは、敵の攻撃を受け地面に倒れる!!

 そして倒れたエステバリスのコクピットに、敵が張り付き・・・

 

 

 キュイィィィィィィインン・・・

 

 

 ドリルを回転させて止めを刺そうとする!!

 

「テンカワ〜!! 助けて・・・」

 

「了解!!」

 

 俺はエステバリスで、豪快な回し蹴りを繰り出す!!

 

 

 ガゴッ!!

 

 

 吹き飛ばされ・・・地面を削って止まる無人兵器。

 

「ギ?」

 

「ここだ・・・」

 

 俺の姿を探していたらしいが・・・

 俺は既に敵のバックを取っていた。

 そして問答無用の踵落しを、無人兵器の頭部に叩き込む!!

 

 

 ドコッ!!

 

 

 鈍い音と共に、無人兵器は氷の大地にめり込み・・・

 その動きを止めた。

 

「・・・助かったぜテンカワ。」

 

「どういたしまして。」

 

「ふ〜ん、アキト君だったらリョーコの白馬の王子様も勤まるね。」

 

「ば、ばっきゃろ〜!! 急に何言い出すんだよヒカル!!」

 

「だって、リョーコは自分より強い男としか付き合わない、って言ってるじゃない。」

 

「だからって!! テンカワとは!!」

 

「照れない、照れない・・・」

 

 この会話を聞きつつ俺は・・・

 ルリちゃん、また会話のトレース・・・してないよな?

 と、信じてもいない神に祈った。

 

「・・・甘いですアキトさん。」

 

 

 

 

「研究所の周りに、チューリップが五個、か。

 どうします艦長?」

 

「私は・・・これ以上クルーの皆を危険にさらすのは、嫌です。」

 

「でも、皆さんは我が社の社員でもありますから・・・」

 

「俺達にあそこを攻めろ、って言うのか?」

 

 俺の目の前の地図には・・・研究所を囲む様に、5個のチューリップが落ちていた。

 ・・・そして、その研究所の攻略について今は会議中だ。

 ユリカとプロスさん、それとリョーコちゃんが激しい議論をしている。

 ところでジュン・・・お前全然意見を言わないな?

 もう少し自己アピールをしろよ。

 

「よし、アレを使おう。」

 

「アレ?」 (ブリッジ全員)

 

 フクベ提督が提案した作戦は・・・やはり過去と同じものだった。

 

 

 

 

「アキトさん。」

 

「仕方が無いんだよ、ルリちゃん・・・

 今の俺達には、この火星から脱出する手段さえ残っていないんだから。」

そんな俺に、ルリちゃんが手に持っていた物を俺に渡してくれた。

 

「これ・・・先程完成しました。」

 

「ジャンプ・フィールド発生装置、出来たのか・・・

 でも、ナデシコを飛ばす程のフィールドを張るのは無理だ。」

 

 それどころか・・・これは個人用の発生装置だ。

 俺と後二、三人がジャンプ出来る限界だろう・・・

 しかも、今現在のジャンパーはユリカとイネスさんだけだ。

その今後の為に、フクベ提督は今回も消えて行く・・・

 後日再会する事は知っているが。

「済みません・・・ラピスからのデータ転送を受けてから、オモイカネと一緒に頑張ったのですが。」

 

「いや・・・ルリちゃんは、十分頑張ってくれてるよ。」

 そう言うと俺はラピスに会いに行く準備をする。

「さて・・・それじゃあ動作テストを兼ねて、ラピスに会いに行ってくるよ。」

 

「解りました、作戦は3時間後に決行ですからね、アキトさん。」

 

「ああ、解ってるよ・・・それじゃあ。」

 

 そして、俺はジャンプ・フィールドを展開し・・・

 

 

 ヴィィィィィンンンン・・・

 

 

「ジャンプ」

 

 地球にジャンプをした。

 

 

 

 

 

 

 

今、俺とフクベ提督とイネスさんは、護衛艦クロッカスに乗り込んでいた。



 クロッカスの凍った通路を、ブリッジに向かって進む俺達・・・

 確か・・・ここら辺りで・・・いた!!

 

「危ない提督!!」

 

 

 ガンッガンッ!!

 

 

 俺の放った二発の銃弾に、頭部と中枢神経を打ち抜かれ沈黙するバッタ。

 

「・・・有難う、良い腕だな。」

 

「褒めても何も出ませんよ。」

 

 俺は軽口を返しながら先を急いだ。

 

「・・・君は、本当に私を恨んでいないのかね?」

 

「提督を恨んでユートピア・コロニーの人が生き返るなら、恨みますよ。

 でも、今はそんな非現実的な事を言ってる場合じゃないでしょう。」

 

「強いな・・・君は。

 私はそれ程強くなれんよ。」

 

 イネスさんは始終無言のままで、俺達の後ろを付いて来ていた。

 そして俺達はブリッジに辿り付いた。

 

「・・・君ならナデシコを託せる。

 ここで、引き返してくれないか?」

 

「やはり・・・囮になるつもりなのね。」

 

 イネスさんは気付いていたか・・・

 頭がいい人だからな。

 

「イネスさん・・・行きましょう。

 提督の決断を無駄には出来ない。」

 

「それでいいのアキト君!!

 この提督をそこまで信用出来るの?」

 

 俺は・・・暗い瞳でイネスさんを見詰めて答えた。

 

「信用・・・出来ますよ。

 俺も提督も同じ傷を、心に持つ身の上ですから。」

 

「・・・それって。」

 

 俺は無言で提督に敬礼をし・・・ブリッジを出る。

 その俺に続いて、イネスさんもブリッジを出る。

 

「君の過去に何があったのかは聞かん。

 だが、君はまだ若い!!

 未来をその手に掴む権利は・・・君にもあるんだぞアキト君!!」

 

 ゴォォォォォォォ!!

 

 

「クロッカス、浮上します。

 ・・・クロッカスより通信。」

 

「艦長、前方のチューリップに入れ。」

 

「提督!! そんな、どうしてですか?」

 

「ナデシコのディストーション・フィールドがあれば、チューリップに進入しても耐えられる筈だ。」

 

 

ズガァァァァァンンン!!

 

 

「艦長、木星蜥蜴の攻撃です。」

 

「フィールドは持つの、ルリちゃん?」

 

「相転移エンジンが完璧ではありません。

 このままでは・・・フィールドを破られるのは時間の問題です。」

 

「・・・ミナトさん、チューリップへの進入角を大急ぎで。」

 

「艦長、それは認められませんな。

 あなたはネルガル重工の利益に反しないよう、最大限の努力をするという契約に違反・・・」

 

「御自分の選んだ提督が、信じられないんですか!!」

 

「・・・その通りだ、ユリカ。」

 

 俺がブリッジに帰ってみれば・・・修羅場とはな。

 

「アキト・・・」

 

「提督は自分が囮になる事を俺に話してくれた。

 ナデシコが助かる道は、最早一つだけだ。」

 

 俺はユリカの視線を真っ直ぐに見詰め・・・ユリカの意見に賛同を示した。

 

「しかし、チューリップに入るまでに攻撃を受ければ、ナデシコが持ちませんよ?」

 

 プロスさんが食い下がってくるが・・・

 俺は黙ってクロッカスを映しているモニターを、目で追った・・・

 

「クロッカス反転・・・敵に攻撃を仕掛けています。」

 

 ルリちゃんの報告する声も辛そうに聞こえる。

 

「提督・・・何が貴方をそこまで・・・」

 

「プロスさん、ここは提督の行動に敬意を示して・・・最後の希望に縋りましょう。」

 

「解りました、私もこうなっては何も言いませんよ。」

 

 そして、ナデシコはチューリップへと進入していく・・・

 

「・・・クロッカスより通信。」

 

 

 ピッ!!

 

 

『・・・アキト君。

 私は君の言葉に救われたよ。

 確かに私がいくら謝罪した所で、ユートピア・コロニーの人達は生き返らない。

 今、行ってる事も私のエゴかもしれん・・・

 だが、これから先に未来が必要なのは、君達若い者だ!!

 君達が何を悩み、何を考え、何を求めているかは解らん!!

 だが、その人生は・・・まだ・・始まった・・・ば・・・』

 

 最後まで提督の言葉を聞く事は出来なかった。

 静寂に包まれるブリッジ・・・俺は目をつぶって、提督の言葉を聞いていた。

 

 ・・・大丈夫、また会えるさ。

 

 そして、クロッカスを示すモニター上の青い点が消える・・・

 

 

 

 

俺はフクベ提督の最後のことばを聞いた後ブリッジから出る。


そして通路に誰もいないことを確認すると

「オモイカネ管理人モード起動。パスワードは『プリンス・オプ・ダークネス』」

『・・・・・・・・認証、システムを管理人モードに移行します。・・・イエス・マスター。』

「これから5分以内に起こるボース粒子の反応、及びその時の映像を完全破棄しろ。」

『了解しました。』 

見ての通りオモイカネは俺の支配下にある。

ナデシコに乗り込んだ後すぐにプログラムを変更して管理人モードを作った。

前の俺ではできなかったが今ではルリちゃんにばれないように作るのは朝飯前だ。

だが、しゃべり方が堅いな。

「なあ、オモイカネもう少しいつも通りにできないか?」

『分かったよ、アキト』

ウィンドウにそんな文字が大きく出る。なぜかピンクで・・・・

「やっぱふつうでいい。」

『・・・クスン』


「おっと、こんな漫才をしている場合ではない。後は頼んだぞオモイカネ。」

そう言ってジャンプを開始する。



行き先は・・・・・・・・木星だ。

 

 

あとがき

今回は前後編となりましたがついに次からオリジナルストーリーにはいります。
ですので更新速度は一気に落ちますがよろしくお願いします。

さて話は変わりますが作者は北ちゃん萌えです。
と言うわけでNATTOに入会したいと思います。

さてそれではまた会いませう。


 

 

代理人の感想

 

ううむ、ようやくオリジナル展開ですね!

いや、辛かった(苦笑)。

 

なお文中の不穏当な発言については代理人という立場でもあり、

コメントを差し控えさせていただきます(爆)。