右の拳が空を切る。
アキトの右頬をかすめその風圧で髪をそよがせるが、実際には触れる事さえできていない。ミリ単位で見切られているのだ。見切りはよく知られている技術だが、このレベルで体得している者はそうはいない。少なくとも俺はアキトに会うまで出会った事は無い。
右の拳を引く、その隙にアキトは反撃してこなかった。
まあ手加減されているのは知っている。そうでければ最初の一撃で自分は沈められているはずだ。それぐらいの実力差がアキトと俺の間には在る。だが、それを理解していても面白くない事には変わりない。
(今日こそ、せめて一泡吹かせてやる)
そう思って次の一撃を繰り出す。
姿勢を低くしての相手の足を刈るような左の水面蹴り。
これも一歩下がってかわされる。だが、これは考慮済みだ。蹴り足を軸にして回転の勢いを殺さず右の後ろ回し蹴りにつなげる。それもハイからミドルへの変化付だ。
ガードをかいくぐってアキトの右脇腹に十分に力の乗った右の踵が入った。
そう思った瞬間だった。
(なっ!!)
手ごたえが全くない。まともに入れば石でも砕けれる一撃だったはずだが、確かに入っているにもかかわらずまるで空を切ったかのようだ。アキトはほんの少し体をひねっただけだ。それだけで完全に威力を殺されてしまった。
(冗談だろ)
そう思ったときには遅かった。俺の左脇腹に軽く拳をあてられ、そのまま突飛ばされて仰向けにひっくり返った。
ダメージは無いが、今日は此処までだろう。また、一指報いる事もできなかった。仰向けにひっくり返って空を見上げながら、そんな思いを軽口に乗せて告げる。
「あーあ、また駄目か。今日こそはと思ったんだがなあ」
「最後の一撃はまあまあでしたよ。受け流せなかったら結構なダメージを負いかねませんでしたからね」
そんな事を言ってくる。
「ああも完璧に受け流しておいてよくもそんな事が言えるな。空振りしたかと思ったぞ」
せめてもの皮肉で返す。
「ちょっと素直すぎましたね。変化をつけたのはよかったですけど、狙いがすぐに判断できましたから。俺にダメージを与えるには、もう一工夫要りますよ」
「あーそうですか。肝に銘じますよ、師匠」
相変わらず空を見上げながらそう答えた。うん、いい天気だ。軽口をたたきながらその言葉を心に刻む。同じ失敗は二度としない。次こそ一泡吹かしてやる。そう考えていると立会いを見守っていた仲間達が集まってきた。
「あーあ。またナオさんは良いとこなしね」
サラちゃんが何気にきつい事を言ってくる。まあ、事実だし反論のしようも無い。
「ま、健闘した方じゃないか、今回は」
「そうですね」
貴方達も容赦ないですね。シュン隊長、カズシさん。
「あの……」
追い討ちをかけてくるかと思ったアリサちゃんが意外にもそれをせず質問をしてきた。
「アキトさんの最後の一撃、突飛ばしただけでしたよね?ナオさんなら受身ぐらいは取れたんじゃないですか?」
へえ、其処まで見えたのか。それなりの動きを見せていた自信はある。それなりの実力が無いといきなり俺が吹き飛ばされたようにしか見えないはずだ。さすが‘白銀の戦乙女’だな。
「取っても意味が無いんだよ。あの時点で思いっきり手加減されたんだから」
「どういうことです?」
「アキトが俺の脇腹に拳を一瞬当てたのは見えたかい」
「ええ、なんとか」
そう、ほんの一瞬アキトは拳を当てて動きを止めた。そのあと単に拳を押し出したに過ぎない。
「その一瞬で本来なら俺は致命傷をもらってるよ。寸打を打つには十分な隙があったはずだ」
俺の言葉を聞いてみんなの視線がアキトに向かう。
「まあ、そうですね。確かに打てました。それなりの威力がありますから内臓の一つぐらいは取れたと思いますよ」
さらっとそんな事を言いやがった。全く何処まで人外なんだお前は。こいつだけは本気で怒らせるのはやめようと改めて心に刻む。無手でも武装しているようなものだ、こいつは。本気で動かれたら姿すら捕らえられずに殺られるだろう。命がいくつあってもたりやしない。
「でも、ナオさんはかなり腕を上げられましたよ」
フォローのつもりかアキトがそんな事を言ってくる。それに対するみんなの反応は……
「そう?最初と変わってないように見えるけど?」
「うーん。お前は解るか?カズシ」
「いえ……」
「アキトさんとの差があり過ぎますから……」
順にサラちゃん、シュン隊長、カズシさん、アリサちゃんの台詞だ。
ひどいなあ。そりゃ立会いだけ見てたらそう見えても無理ないけどさ。それはアキトが凄すぎるだけだ。実際自分でもかなり腕が上がったと思う。アキトはどうやら教官としても一流らしい。まあ、あれだけ的確に弱点を突かれ続けたら誰だって対応策が身につくぞ。おかげで2ヶ月前の自分となら百回戦っても全勝できる自信がついた。
「そうだと良いんだがな」
その思いは口には出さず軽口をたたく。せめて一撃まともに入れてからだ。それを誇るのは。
「ようし。じゃあ今日の訓練は此処まで。当直と整備員以外は休憩だ。休める時には休んでおけよ。出撃が掛かったら何時休めるかわからんからな。特にアキト。お前はほっとくと全然じっとしてないからな。休め。疲労でエースを失ったりしたら目も当てられん」
シュン隊長がそう言って訓練の終わりを告げる。皆それぞれ自室なりに散っていく。アキトも食堂へ行こうとしたのを止められて苦笑しながら自室へ向かった。俺もミリアに電話でもすることにしよう。訓練場を立ち去る前に一度振り返って一言。
「明日こそ、見ていやがれ」
月夜
西欧の冬は厳しい。まだ11月の半ば、つまり初冬とも言えない時期だが、日が暮れれば急激に気温は下がる。既に深夜、周囲の空気がまるで凍りついたかのような感じを受けるほどの寒さだ。
かすかな物音を聞いたような気がして目を覚ましてしまい。そのまま寝なおすのも気になるのでわざわざ様子を見に来たのだが、上着を着て来るんだったとアリサは痛烈に後悔していた。寝間着でこそ無いが昼間用の普段着ではこの冷気には薄すぎる。この地で生まれ育ち、寒さにはかなり強い方だが、この時期でもう此処まで冷え込むとは予想外だった。
「今年は例年以上に冬が厳しそうですね」
そう独り語ちる。吐いた息は白く曇った。
天は人の都合など気にしない。できるなら暖かい冬が来て欲しかったのだが、そんな身勝手な願いはかなえてくれないらしい。
戦乱が続き住む家を失った人々も多い。避難所ではこの寒さはきついはずだ。この2ヶ月で自分達はかなりの数の敵無人兵器を撃破したがそれでも未だ敵の正体すらつかめず、この戦乱の終わりは一向に見えない。せめて天候ぐらいは自分達の味方をして欲しかったのだが……
「願った通りには行きませんか……せめて雪が深くならなければいいんですが」
流石にまだ雪は降っていない。しかし、この寒さでは時間の問題だろう。雪が深くなれば此方に不利だ。敵無人兵器はほとんどが飛行能力を有するので影響は無いが、此方は異なる。特殊部隊たるMoon Nightは空戦エステが主力だからそれほどでもないが、他の部隊は陸戦や砲戦エステが主力のところが多い。終いには戦車まで動員して戦線を支えている所もある。雪が深くなれば部隊の展開に支障がでかねない。
「ま、心配しても仕方がありませんか」
その時なってから考えるしかない事だ。
それに自分達は既に戦鬼の加護を受けている。天の加護まで期待するのは贅沢というものだろう。
とりあえず今はさっさと気になる物音を確認して寝てしまおう。明日も作戦行動の予定だ。シュンの言うように休める時には休んでおくのが兵士の勤めの一つである。そう思ってアリサは物音のする方へ足を向けた。
物音がしていたのは訓練場だった。訓練場といってもただの空き地だ。現在Moon Nightは西欧全域の戦場を渡り歩いている。激戦地の基地に間借りしているのだ。西欧の守護部隊として名が上がってきたので待遇は悪くない。それでも場所が無い事には違いないので設備までは整っていない。この訓練場にも照明すらない。もっともだからといって全くの暗闇という訳ではない。天空には雲一つ無く、月が真円を描いている。その青い月光に照らされて一つの人影が見て取れた。
その場には凄まじいプレッシャーが漂っていた。無人兵器が相手の戦場ですら感じる事が無いほどの物が。純粋な殺気。向けられただけで冥界が覗けそうなほどの物だ。アリサの足がすくむ。‘白銀の戦乙女’と呼ばれる彼女だが普段の相手は無人兵器だ。‘殺人’の気が漂う戦場にはあまり慣れていない。完全に場の雰囲気にあてられて逃げる事もできない。
凍った大気を拳が蹴撃が切り裂く音のみが聞こえる。その動きはアリサの目には捉えられなかった。あまりにも速過ぎる。そんな動きをできる者など一人しかいない。
「アキトさん?」
震える声で声をかける。返答はすぐにあった。
「アリサちゃんか、どうしたんだい?こんな夜更けに」
その答えと共に場に漂っていた殺気が霧散する。後に残ったのは、ただ月光降り注ぐ訓練場と一つの人影のみ。もう、何のプレッシャーも感じない。さっきまでは最前線のほうがまだ生ぬるい程の戦場に立っているようだったのだが……
その変化を生じさせた人影、つまりアキトにもさっきまでの雰囲気は無い。いつも通りの優しい彼だ。ふっと気が抜ける。
「それは私の台詞ですよ。こんな深夜に何やってるんです?」
返す言葉にも安堵が篭る。
「えっと……ちょっと気が昂ぶって眠れなくってさ。一汗流して気を落ち着かせようと思ってさ」
アキトもそう軽く返す。
「ひょっとして……起こしちゃったかな?」
そう続ける。
「ええ。物音で目が覚めてしまいました。まあ、寝なおしてもよかったんですけど、気になってしまいまして。確認しに来てしまいました」
「それは悪かった。つい気を入れすぎちゃってさ。アリサちゃんが来ていたのにも気がつかなかったぐらいだから、相当重症だな。鍛えておいて感覚を鈍くしたんじゃ本末転倒なんだけどな」
そう言ってアキトは苦笑する。
「確かに珍しいですね。アキトさんが人の気配に気がつかないなんて。何時もは気がつかれずに接近する事なんてほとんど不可能なのに」
サラと二人でアキトの意表を突こうとして、全て失敗に終わった経験がアリサにはある。それこそ背中どころか体中に目でも在るんじゃないかと思ったものだ。まあ、実際、空気の流れまで感じ取れるアキトにとっては、何の造作も無い事だったのだろう。声をかけるまで気がつかなかったというのは、おそらく今回が初めてだ。
そう、初めて見た。あんな気を身に纏ったアキトは。
戦闘中ですら見た事は無い。さっきの気は西欧の守護者たる‘漆黒の戦鬼’の物ではなかった。さっきの気は‘闇’を纏った破壊者の気。動きそのものは見えなかったが、確かに感じられた。相対する敵の存在を。その存在に対する‘殺’の気配を。
思い出すだけで全身に悪寒が走る。
そんなアリサの様子に気がついたのかアキトが声をかけてきた。
「……できれば、忘れてくれないかな。皆にも黙っていてくれると嬉しい」
何の事を言っているのかは、すぐに解った。
「忘れられはしません。でも、誰にも言いません。いえ、言えません。それでは、駄目ですか?」
そう答える。
忘れる事はできないだろう。あれほどの体験は。だが同時に軽々しく他人に話せる事でもない。
「十分だ。ありがとう」
アキトが礼を返してくる。
それにアリサは疑問で返した。
「どうしたんですか?アキトさんが気を制御しそこなうなんて」
アキトの過去は聞けない。アキトが何で己の牙を砥いだのか。それが容易に話せない物なのはアリサには解っていた。
だから、あくまで今の原因を尋ねる。
隠している物があるのは気がついていたが、それが何かは解らなかった。アキトはそれを完全に抑えきっていたから。それが何で今日その制御が外れたのか?それぐらいは聞いても良いだろう。自分は今アキトの仲間なのだから。
「……何でも無いことだよ。ちょっと昔を思い出しただけさ」
「そうですか」
過去に関係したことなら聞く事はできない。そう思ってアリサは話を切り上げようとした。
「昼間のナオさんとの立会いでさ……」
アキトが突然話し出す。
「受け流したとはいえ一撃入れられた。まだ2ヶ月だよ。ナオさんと組み手をするようになってさ。正直まだ入れられるとは思わなかった。凄いよナオさんは」
「そうなんですか?アキトさんの方が凄いように思えますけど」
単純にそう思う。一撃入ったといってもダメージは皆無だったのだ。
「今の俺と比べたらね。でもナオさんの成長速度は2年前の俺に匹敵する。あと2年修練を続けたら奴と遣り合えるようにすらなるかもしれない。そういう意味ではナオさんのほうが凄いんだよ」
「奴って……」
「俺の宿敵かな。俺はそいつを倒すために力を欲した。心さえ捨て去って、力のみを追い求め、辿り着いた領域。そこにナオさんは人のまま辿り着きつつある。何も捨て去ることなくね。だから、俺よりナオさんの方が凄いんだよ」
アキトの感じた感情は嫉妬。
己にできなかった事をナオは成し遂げようとしている。
心を捨てねば辿り着けない筈の領域に片手をかけている。
自分にもひょっとしたらできたのだろうか?
心を捨てずとも辿り着けたのだろうか、あの領域に。
自分にもできていたならあの未来は違った物になっただろうか?
その思いがアキトの制御をはずした。
否応無く思い出される己が罪。
この世界では誰にも咎められる事無き‘闇の皇子’の罪業。
咎められる事無きが故に、許される事も無き罪業。
そして、自らの本質。
それを思い出しただけだ。
「………」
アリサは無言。掛けられる言葉が無かった。
アキトが己の過去を語った事は無かった。
知りたくなかったといえば嘘になる。それでも聞いてはいけないような気がしていたのだ。
その一端を知ってしまった。
アキトが口にしなかった部分も場の雰囲気から感じ取ってしまった。
その思いを知ってどんな言葉が掛けられるだろう。
「俺にはできなかった事だからね。正直羨ましかった。できなかった自分が情けなかった。だから、つい昔を思い出してしまった。それだけだよ」
アキトが言葉を続ける。あくまで軽く、何でも無い事のように。それが却って痛々しかった。
「今日は多弁ですね。何時もは昔の事はほとんど話さないのに」
「月の所為かな。なんとなく話したくなったんだ」
古来、月光には魔力が宿るという。
満月は狂気を象徴するという。
「戦う事しかできない‘戦鬼’も狂えば過去に思いをはせる事もある。そう言う事じゃないかな」
自嘲気味に自らを皮肉る。
「それは違います」
それだけはアリサはきっぱりと否定した。
「アキトさんはただの‘戦鬼’じゃありません。戦うだけの存在じゃないですよ。そうじゃなかったら姉さんはもうこの世に居ません。おそらく、私も。貴方は戦って多くの人を助けてる。だから、ただの‘戦鬼’なんかであるはずは無いんです」
さらに続ける。
「西欧に生きる私達にとって貴方は‘希望’を司る存在。いつかこの地に平和がくることを信じさせてくれる人。今、西欧に生きる私達にとってはそれが真実。過去は、関係ありません」
‘漆黒の戦鬼’それは西欧の守護騎士の二つ名。
畏怖はある。しかし、決してそれのみではない。
西欧に生きる者達が戦乱の終わりという‘希望’を託す英雄の二つ名。
「だから、月を見て話したくなったのなら、それはアキトさんが話したいと思っていた事なんですよ。月光はその自制心をやわらげただけです」
「弱音を吐く資格なんて俺には無いんだけどな」
それでも頑なにアキトは言う。未だアキトの贖罪は終らない。決して終る事は無い。終らぬ贖罪を続け、煉獄の中戦いつづけるのが自分に与えられた罰。心とはいえ弱くなる事は許されない。
「誰だって心が揺らぐ事は在ります。それは責められる事じゃないですよ。人として当然の事です」
アリサがそう言う。その言葉に縋れたら良かった。だが胸に宿った炎は、それを許さない。まだアキトは覚えている。
憎悪を。闇を。そして、自らの罪を。
「人である事は捨てたんだ。だから資格が無いんだよ」
誰も知らぬ罪でも、死者だけは忘れない。顔も知らぬ筈の死者が、自らを殺めし修羅を責める事を止める事は決して無い。死者は変わる事ができないのだから。
「アキトさんは人ですよ。私達にとっては。だから、私達に弱音を吐くのは許されますよ」
過去を知らないが故にできる事もある。アキトの過去を共に背負えるとは、まだ言えない。それほど簡単な事ではない事は、すぐ解る。それほどには、自分はまだ至っていない筈だ。だから、まだ、アキトの過去を知るべきでは無いだろう。
いつか、きっと。
その思いを胸に自らを磨く時だ、今は、まだ。
「そうかな」
どこか頼りなげなアキトの言葉に
「はい」
アリサはきっぱりと答えた。
少しの沈黙の後アキトがふうと溜息をついていった。
「ありがとう。少し、楽になった。それに思いだせたしね」
「何をですか?」
「今は、過去を振り返る時じゃない事を。今は、目的のため、未来のために戦うべき時だ。全ては、それを成し遂げてから考える。それで良い筈だ」
その後に待つのが断罪でも、許しでも、全ては辿り着いてからだ。
今は、辿り着く事だけ考えていればいい。
「とりあえず、今は、この西欧の地に平和を」
その後に、この世界に平和を。
あの悲劇の再現の絶対阻止。
それが、今、アキトが戦う理由。
それだけで、十分だ。
「はい!」
アキトがそれをもたらしてくれる事を、アリサは全く疑わず。返事を返した。微力でも、その力になる事を誓って。
これはある月夜の一幕。
‘白銀の戦乙女’が‘闇の皇子’を垣間見た一夜の顛末。
歴史に残る事の無い‘漆黒の戦鬼’の真の姿。
それを僅かながら知った‘白銀の戦乙女’が与えたささやかな‘癒し’。
それが後の戦いに与えた影響があったのか知る術は無い。
それから一月後、西欧における戦いは終結した。
西欧圏に存在した全てのチューリップを破壊してMoon Nightはその役目を終えた。
その最後の戦いで、失われた物も有った。メティス・テアという少女の命。それにより現れた‘闇の皇子’の真の姿を‘白銀の戦乙女’アリサ・ファー・ハーテッドは見る事になった。あの月夜に垣間見た‘闇’の真の姿を。それでもなお、彼女は更なる戦いに赴くアキトと共に戦い続ける事を選択した。アキトが今度は世界に平和をもたらすと信じて。それと自らの思いゆえに。
そして、アキトもまた更なる位階を登った。一介の兵から、民意をまとめ戦乱を終結へ導く存在へと。
‘漆黒の戦鬼’から‘漆黒の戦神’へと。
降臨した‘漆黒の戦神’は、その願いどおり戦乱を終結へ導き、ボソンの光と共に消えた。
その心が救われたかどうかまでは記録は語らない。
ただ、彼が残した言葉には‘闇’の気配は無かったとナデシコクルー達は証言している。
後書き
どうも
第六作です。
初めての時ナデ系列の短編でした。
そして、初めて何の設定もいじらずに書いた話です。
「武人」でさえ少しは変えたんですが、今回は時ナデそのままです。
理由は疲れたからだったりします。
「再臨」ともう一本の未発表作と同時並行で書きました。
その2本が2本とも設定に凝った話でした。イネスさんが出っ放し……
そんなのばかり書いてたら疲れてしまいまして、息抜きに書き始めたのがこの作品です。
ラストまで持っていけないだろうなあ、と思いつつ書いていたのが、何故かラストに辿り着いたので、まあ、せっかくだし発表する事にしました。
ちなみに完成は「再臨」とほぼ同時です。
本当になんでラストまで辿り着けたのか解らないんです。
今までの経験上(半年足らずですが)ラストを決めずに書き始めて辿り着いた事無かったんですけどねえ
ラストが変わった事はありましたが……
本当に何故でしょうか?
今作はタイトルから思いつきました。
「月夜」の一幕。
ラストシーンから入る私としては初めてのパターンです。
自動的に時間軸は時ナデの外伝の物になりました。ヒロインもアリサに自動決定。
月夜といえば外伝のMoon Night。外伝で月とくればアリサしかなかったんです。
私はカップリングには全くこだわりが無いんです。シーンに応じて決めますからね。これも短編を主としている理由の一つです。ちょうど影が薄いといわれているんで、短編としてはそうしたキャラにスポットを当てるという形もありですし、ちょうどいいと思いました。
で、あくまで息抜きに書き始めました。
「月夜」の会話、というシーンだけ設定してアキトとアリサが動くに任せて書き続けてみました。
ところが、最初ナオの一人称に挑んでみた辺りは楽だったんですが、途中からなんか息抜きにならなくなりました。
理由はアキト。
暗すぎ、悩み過ぎ。
こっちは息抜きなんだよ!!と、怒鳴りつけたくなるほどでした。
当初はもっとほのぼのとした物にしようと思ってたのに、そんな物は何処にも無くなってしまいました。
時ナデアキトってこんなに精神的に脆かったのか……あくまで私の印象ですが……
結果、余り息抜きにはなりませんでした。まあ、悩まないキャラより好感は持てますけどね。
おかげでやっぱりアリサの影は薄くなりました(爆)
宿命ですかねえ……
息抜きの今作を発表する事にしたのには些細な理由があります。
「再臨」で頂いた感想に
>今回‘も’実にダークでしたが〜
という物が有ったんです。
ちょっとショックでした。ダークなんて書いたつもりは全く無かったんです。
「再臨」は自分でもちょっとダークかなとは思いましたが、他はまったくの無自覚。
振り返ってみたらキャラが一人も死んでないのは「契約」だけ。なんと死亡率は8割に達していました。
で、ついてしまったらしい称号を返上すべく死者の出ない今作を発表する事にしたわけです。
これで死亡率は三分の二にまで落ちる筈(爆)
……まだ十分高いか(汗)
本当は新婚旅行前のアキトとユリカとルリの平和な家族の時代を書きたかったんですが
天真爛漫、天然のユリカはギャグの書けない私には書けなかったんです。
天才のユリカならまだ何とかなりそうなんですけどねえ……難しいキャラです。
長々とすいませんでした。
息抜きに書いた作品ですのでネタの練りこみを全くしてません。
その辺どうか広い心で見逃してやってください。
それではまたありましたら次回作で
乱文失礼いたしました。
代理人の感想
ふむふむ。
死亡率を下げることにこだわった(笑)からかもしれませんが、今回は作風が明らかに違いますね。
今までの作品は全て登場人物が「終りに向かって突っ走る」ものだったのに対し
今回は完全に原作の隙間を突いた挿話で、その分鮮やかさは足りないかもしれません。
こう言っちゃなんですが人が死にませんし、終わりませんから(爆)。
それとこの物語の主題は「アキトがアリサの助力によって決意を新たにする」ことなんですが、
原作の展開上これを余り劇的には書けなかった、と言うのもマイナス要因ですねー。
この場合盛り上がりはアキトの落ち込み具合と、その回復・成長具合に比例するわけですが
あんまり成長しちゃうと原作の展開とずれちゃいますからね。
そうすると、ネタの選び方が悪かったということになっちゃうのかなぁ・・・・(汗)。
>天然のユリカは〜
う〜ん。
ユリカだから、天然だからといってギャグにしなければいけないと言うわけでもないと思います。
天然ボケの部分は描写できないかもしれませんが、天真爛漫はまた別ですから。