今日も街に爆音が響き渡る。
ちょっとした地震位の振動が近所を揺るがす。
それ程の物なのだが、街の住人たちは平然とした物だ。
何時もの事なのだ。あの家で爆発が起こるのは。
蜥蜴戦争、正式には木星戦役が終わって、あの家の主人が帰ってきてから殆ど毎日のことだ。
天才的な技術者なのは確かなのだが、戦争に行く前から変人と呼ばれていた性格がどうもさらに酷くなって帰ってきたと言われている。どうも戦争中によほど特異な環境に居たらしい。詳しいところは解らない。しかし、その家の隣人たちは、その家の主人が変人ではあっても狂人ではないことは知っていた。そして、ある意味悲しい事に、その謎を解明しようとするより先に毎日繰り返される爆発に慣れるほうが早かった。少しうるさいのに我慢することが出来るようになれば良いだけである。
そんな訳で、今では誰もその爆発を気にしない。
ただ、それだけ毎日爆発しているのにあの家自体には傷一つ無い。怪我人も出ない。
いったいあの家は何で出来ているのか?
あの家の住人はどういう体の構造をしているのか?
それが隣人たちの最近の疑問だ。爆発が起きる理由など話にもあがらない。世間一般の常識とは既に異なる所に彼らの関心は向いてしまっている。
人間の環境適応能力を賞賛するべきなのか、慣れと言う物の恐ろしさを実感するべきなのか難しいところだ。
そんな日常に変化があった。
いつも通りに爆発し、窓から煙を噴いているその家を一人の女性が訪れたのだ。
訪問者自体は珍しい事ではない。かの主人が天才技術者なのは疑いの無い事実なのだから。あちこちの企業からスカウトがよくやって来ていた。
しかし、組織に属するには不向きな性格の所為で契約がまとまったことは無かった。それどころか大抵の場合は実験を邪魔された主人の迎撃に遭って退散するのが普通だった。
それがその日は違った。
主人はその女性を迎え入れ、話を聞いて、女性に同行して出て行った。
そして、それ以後主人は家を空けることがまた多くなり、日常と化していた爆発は起きなくなった。
状況からして主人がどこかの企業のスカウトに首を縦に振ったのだろうとは解ったが、あの人物を組織に抱え込める企業が存在するとは!!、と隣人達は大いに驚きあった。
しかし、隣人達に解ったのは其処までで、主人が何処に所属することになったのかは解らなかった。たまに帰ってきた主人に直接聞いてみた者もいたが、はぐらかされてしまった。どちらかというと話し好きの主人だったのだがこの件に関しては頑として口を割らなかった。
そうして、この件はしばらくの間、隣人達の話の種となった。
だが、それも一時のことで何時しか忘れられ、隣人達も爆発の無い日常に再び慣れていった。
ある町での些細な出来事の一つである。
真名
ウリバタケ・セイヤは訳も解らないまま月へ向かって跳んでいた。
自宅「ウリバタケ私設研究所」に突然嘗ての仲間であるネルガル会長秘書―今は月支部長らしい―エリナ・キンジョウ・ウォンが訪ねてきたかと思ったらこれ以上無いという位真剣な目で言ったのだ。
「手を、貸して」
と。
そして、その目の真剣さに気おされて頷いてしまい。気が付いたら事情の説明も無いまま月行きのシャトルに乗せられていた
自分をスカウトに来るならまだ解る。事実戦後何度かネルガルからもスカウトがあった。だがそれならやって来るのはプロスペクタ―の筈である。スカウトはエリナの仕事ではない。月支部長というならかなりの多忙の筈だ。実際戦後エリナと会うのは‘あの’アキト達の結婚式以来だ。イネスの葬儀の時ですら会っていない。それが何故か?解らない。
だから聞いてみることにした。自分の横の席に座っているエリナに。
「なあ、エリナさんよ。いったいどういう事だ?そろそろ説明が欲しいんだが。スカウトなら悪いが……」
今は自分一人で研究を続けていたい。
「月に着いてからにして」
ウリバタケの言葉を遮りエリナが言った。
「事情の説明は月に着いてからちゃんとするわ」
(‘説明’をするのにふさわしい人物が)
「だから、悪いけど今は待って。……説明の後でもう一度私たちに手を貸すかどうか決めてくれて良いから」
そう言うエリナには、以前のような押しの強さは見られなかった。ただ、その真剣さ―必死さと言い換えてもいい―は十分に伝わったのでウリバタケは黙って説明を待つことにした。
月に着いてからもすぐと言う訳にはいかなかった。特別機に乗り換え移動した先は巧妙に偽装された施設。一見してもただのクレーターの一つにしか見えなかったその地下には最新技術の塊のような施設が存在した。
エリナはその施設の中を黙って進んでいく。そして、ウリバタケも黙ってそれ従った。
エリナに従って施設の中を進んでいく過程で、ウリバタケには此処が何処だか解ってきた。
どうやらナデシコ級、そして新型機動兵器関連のネルガルの極秘研究所らしい。最新鋭のドッグや組みかけのエステが存在し、その何れもがテストタイプだった。ただ、実戦の際には極秘基地としても運用できるつくりだ。ただの研究施設というわけでもないらしい。戦闘力すら有しているようだ。
警備システムも厳重でさっきから何回セキュリティーチェックをしたのか解らなくなるほどだ。
(こりゃ相当の機密施設だな)
ウリバタケがそんな事を考えていると、エリナが一つの部屋の前で立ち止まった。
「ここよ」
「やっと説明が聞けるのか。随分な機密みたいだが、一体なんだ?これだけ見せられた後なら俺の手を借りたい理由は大体予想はつくが、これ以上の機密があるってのか?」
おそらく此処の施設は連合にすら秘匿されている。ネルガルの最重要機密施設だ。此処は。
「ええ」
エリナの口数は未だに少ない。どこか沈んだ感じも受ける。
「そりゃ大事みたいだな。幽霊でもとっ捕まえたのか?」
重くなってしまった雰囲気を変えようと軽口を叩く。
しかし、エリナはなんとそれを肯定した。
「そうよ。ウリバタケさん。私たちは幽霊を捕まえた。いえ、作り出したのかもしれない」
「はあ、どういう事だ?」
軽口を真面目に返されてウリバタケが戸惑う。
「会えば、解るわ。‘彼等’にね」
そう言ってエリナはドアの開閉スイッチを押した。
自動ドアが音も無く開く。その部屋にいた人物を見た時、ウリバタケの思考は一瞬停止し、その次の瞬間エリナの言葉を理解した。
確かに幽霊が、死んだ筈の人間が其処に居た。
研究中の実験事故でこの世を去った筈のイネス・フレサンジュが。
以前と変わらぬ微笑を浮かべて。
「…………」
驚きの前に声が出なかった。
死んだ筈だった。元ナデシコクルーの大半が、自分も彼女の葬儀に出ている。それはそう昔の事ではない。
そんなウリバタケの動揺にお構いなくイネスは声を掛けてくる。
「久しぶりね。ウリバタケさん。変わってないみたいで安心したわ。奥さんと子供さん達はお元気?」
本当にただ久しぶりに会ったかのように言うイネスにウリバタケはまず呆然とし、次に苦笑を浮かべながら言った。
「……なるほど。確かに幽霊だな。何でまた死んだりなんかしたんだ?」
「結構冷静ね。私はてっきり怒鳴り散らされるかと思ったけど」
「そんな分からず屋じゃねえよ。なんか意味があったんだろうが。あんたが無意味な事なんざする訳無いからな」
イネスは科学者であり徹底した合理主義者だ。彼女が何かをする以上其処には必ず意味がある。
……「説明」を除いて。
それに、死んだと思っていた仲間が生きていた。それは怒りを呼び起こす物ではない。歓喜をこそ呼び起こす物だ。
「ただ、こうまでされた以上、黙って帰れねえぞ。きっちり説明してもらうからな」
そう、仲間である自分達すら欺いたのだ。それ相応の理由がある筈だ。それを聞く権利が、彼女が‘死んだ’時心底悲しんだ自分達には、有る。
「もちろん説明はするわ。ただ、その前に確かめなくてはいけないの」
「何をだ?」
イネスの言葉にウリバタケが返す。答えたのはエリナだった。
「貴方の覚悟よ」
続ける。
「今ならまだ引き返せる。貴方が此処の事やイネスの事をもらすとは思わないから。ただ、その理由を聞いたなら、私達が貴方の手を借りたい理由を聞いたなら。引き返せなくなるわよ。それでも、聞く?」
エリナの目は厳しい。イネスもまた先ほどまでの微笑を消して真剣な表情をしている。
冗談事ではすまない。それが解ってなおウリバタケは宣言した。
「言ったろうが。黙って帰れねえと。さっさと聞かせろ」
これだけの事だ。エリナとイネス、そしておそらくは此処にいないアカツキも背負っている筈の物だ。彼等は、仲間だった。あの戦争の中で生死を共にした。此処まで知った以上彼等だけに任せておける物では無い。ナデシコで最年長者の一人だった自分が逃げる事など許せる筈が無い。
「ふふっ。相変わらずね。ウリバタケさんは」
イネスが表情を微笑みに戻して言う。
「本当にね。本当に一年もたったのかしらね。あれから」
エリナもまた表情を緩める。
「あたりまえだ。俺は俺だ。それが変わる訳ねえだろ」
轟然と胸を張って言う。その姿を見てエリナが悲しげに呟いた。
「変わらない人も入れば、変わる人も、いえ自ら変わろうとする人も居るのよ」
「ん?どういう意味だ?エリナさん」
「それは後で話すわ。今は状況の説明の方が先。頼むわ。イネス」
「……解ったわ。じゃあ始めるわよ」
そしてイネスはウリバタケに説明した。現時点でわかっている火星の後継者達の行動の全てを。
「ほぼ全てのA級ジャンパーの誘拐に人体実験だと。おまけにそれで成す事が木星戦役の再現だと。何を考えてやがるんだ。草壁は!!」
声に混じる激情は抑えようとしても抑えられない。
「彼等の正義の実現。それだけよ。おそらくね」
イネスが勤めて冷静に言う。
「人体実験なんて非道に手を出しておいて正義だと!?」
ウリバタケが怒鳴るように叫ぶ。
「正義のための礎。そういう事でしょうね」
「………!!!!」
もはや声も出なかった。
やはり、奴だけは草壁だけは殺しておくべきだった。せめて、捕らえておくべきだった。
あの戦争の木連側の最大の戦犯。熱血クーデターによる失脚の後、行方不明。そんな曖昧な決着で済ますべきでは無かった。そういう事だろう。同じ事を繰り返そうとしている。より非道な手段でもって。
自らも責任をとることを忌避した連合上層部の判断で責任の所在は曖昧なまま行われた和平。
そのつけが今、噴出そうとしている。
「……連合に通達したんじゃ駄目なのか?」
「駄目ね。かなり上層にも草壁の親派はいる。そして、統合軍の中にもかなりの数が。今事を明るみに出しても奴等の決起を早めるだけ。そして、統合軍のかなりの数が奴等につくとなれば、統合軍は動けなくなる。弱体化した連合軍だけでは……勝てない可能性が大きいわ」
基本的な物量が違うので負けはしないが、勝てもしない。
おそらく、硬直状態が続くだろう。
そして、奴等が、ボソンジャンプの制御を実現した時、勝敗は決まる。
「なら、どうするんだ」
「連合軍にナデシコ級を供給するわ。それも一隻で、戦局をひっくり返せるほどの物を」
エリナがウィンドウを開く。それを見てウリバタケは絶句した。これが実現したなら確かに戦場に存在する全てを支配下における。文字通りの切り札だ。
だが、このシステムは……
「なあ、これひょっとして……」
「ええ。このナデシコCのハッキング能力を使いこなせるのはマシンチャイルドだけ。それも高度な電子戦能力を持ったね。そんな存在は今の連合軍には一人しか居ない」
ホシノ・ルリ。最近ナデシコBの艦長に就任した嘗ての仲間。連合軍史上最年少艦長。
その裏がこれ。ナデシコB自体がナデシコCの実験艦なのだ。
そして、ナデシコCはホシノ・ルリとオモイカネしか真の意味で操れない。動かすだけなら他のマシンチャイルドでも出来たろうがハッキング能力までは使いこなせない。それ故の史上最年少での艦長就任。
「事実上の専用艦か……。となると量産は無理。さすがにそれじゃきつくないか」
「中枢を抑えれられるのならいいのよ。奴等は草壁のカリスマで纏まり、ボソンジャンプの制御という戦略的優位を手に入れようとしている。それさえ奪えれば只の烏合の衆と化す。それで、勝てる」
イネスが断言するが、まだ不安要素は有る。
「どうやって中枢へ送り込む?」
「私が誰だか忘れたの?ナデシコCが完成したらボソンジャンプで送り込んでやるわ。A級ジャンパーの私にはそれが可能よ」
確かにそうだ。ナデシコCのハッキング能力とA級ジャンパー、イネス・フレサンジュこの二つがそろえば奴等に勝てる。中枢を抑えられた組織は脆い。奴等のように指導者のカリスマで纏まっている組織ならなおさらだ。
「問題は、ナデシコCの完成が間に合うか、か」
後二年は建造にかかる。奴等にその前にボソンジャンプを制御されれば、こちらの負けだ。
「そんな博打は打たないわ」
エリナが目を瞑りながら言った。
「今まで言ったのは第二案。第一案は奴等が決起する前に潰す。その為の準備に貴方が必要なの」
「どういう事だよ」
「さっきイネスが言ったでしょう。奴らの要は二つ。そのうちの一つを取り除けばいい。草壁は完全に潜伏している。決起まで捕らえることは出来ない。でもね、もう一つの方は在り処が解っている」
「ボソンジャンプの制御?遺跡の在り処が解っているのか?」
「ええ。チューリップを利用した太陽系圏ボソンジャンプ網、ヒサゴプラン。あれの正体はボソンジャンプの制御を解明したんじゃない。密かに回収した遺跡を利用しているに過ぎないのよ。だから、ヒサゴプランを形成する八つのターミナルコロニーそのどれかに遺跡は存在している。それは、間違いないのよ」
エリナが感情を殺したような声で続けた。それの意味する所は……
「ターミナルコロニーに襲撃を掛けるのか!?」
「ええ。奴等がボソンジャンプの制御を実現させるか、私達が遺跡を奪取するのか、それとも、ナデシコCの完成が間に合うか。どれが早いかで勝敗が決まる。決着のつき方もね」
2対1でこちらの勝率が高い。そうエリナは言った。悲しげに目を伏せながら。
「解ってんのか?ターミナルコロニーは無人じゃねえ。何の関係もねえ民間人だって働いてる。そんなところに襲撃を掛けりゃあ……」
「こっちの攻撃で壊滅する可能性も在れば、証拠隠滅のため奴等が自爆させる可能性も在る。いずれにせよ万単位で死者が出るでしょうね」
イネスが冷静に続けた。
「それを俺に手を貸せってか?」
「ええ」
「そうよ」
ウリバタケがうめくように発した問いにエリナとイネスは肯定の答えを返した。
「俺が断ったらどうする」
「私達の勝率が下がるだけ。正義の実現の可能性が上がるとも言うわね」
「それに貴方は断らない」
イネスが指摘し、エリナが断言する。
「何でそんなことが解る?」
「これを見たら貴方は断らないわ。そして、此処まで知った以上貴方は全てを知らなければ判断を下さない」
違う?そうエリナが尋ねた。
「…………」
その沈黙は肯定の証。
「貴方に手を貸して欲しいのは、ターミナルコロニーを襲撃する新型いえ個人専用の機動兵器の開発。目的に余りにも特化しすぎてる機体だから癖が強くてね。開発というより改造といった感じになってきたの。それなら、私の知る限り貴方の右に出る者は居ない」
イネスがまた断言した。確かにその自負はウリバタケにはあった。
「そして、その機体のパイロットは彼」
そう言って新たなウインドウを開き映像とデータを表示する。
そこにはエステの訓練シュミレーション映像とデータが表示されていた。
「漆黒の機体の方よ」
戦闘を繰り広げる深青と漆黒の機体。力量は一見すると五分だった。どちらが勝っているともいえない。しかし、漆黒の機体のデータの方を見たときウリバタケは驚愕した。
「何だ!このIFS特性の数値は!高すぎるぞ」
マシンチャイルドほどではない。しかし、通常のパイロットとしては明らかに異常な数値だった。これではエステとの同調率が上がりすぎるぐらい上がる。高い同調率は諸刃の剣だ。パイロットの感覚とエステの動きに存在するタイムラグは小さいほどいいが、高すぎればパイロット自身の体の感覚を喪失しかねない。
「問題ないのよ」
イネスが沈痛な表情で言った。
「何がだ!!これじゃパイロット自身の感覚が……」
「喪失しているのよ。彼は、五感を。既にね。彼が外界から得られる情報はIFSを通した物が全て。それがどういう事か、貴方ならわかるでしょう?」
ウリバタケは絶句した。それなら、このパイロットは同調率をいくらでも上げられる。感覚とのタイムラグは限りなくゼロに近づく筈だ。それはエステサイズの肉体を使用する人間に等しい。レーダーやセンサーを目や耳として使い、ダメージレポートを痛みとして感じかねない。ある意味でIFSを使用した操縦の到達点にこのパイロットは居る。五感の喪失と自力では動くことすら出来ない肉体を代償として。
「たった半年よ。木星戦役の実戦経験者とはいえ素人の彼がネルガル最強のパイロットと五分で遣り合えるようになるまでね。おそらく、まだ彼は伸びる筈。時間さえあれば、太陽系圏最強の座すら手に入れられるほどにまで」
人の執念を、その糧として。
「何でそんな奴を乗せる。パイロットとしては優秀でも半死人のような状態の奴を……」
奥歯をかみ締めながら、搾り出すように告げる。
そう、時間さえあればだ。あそこまで高いIFS特性は脳にかかる負担も大きい。
寿命を、命を削って戦うのと同義だ。
「止めようとはしたわよ。私達も。でも止められなかった。もう私達に出来ることは、少しでも優れた機体を彼に与える事しかない。少しでも彼の力になるためには……」
イネスが沈痛な表情のまま告げる。エリナもまた目を伏せて肩を震わせている。
「誰だ……まさか、俺の知ってる奴か?」
「そうよ」
あっさりと帰ってきた肯定の言葉に絶句する。
パイロットと直接の交流を持ったのはナデシコでしかない。だが、ウリバタケには心当たりが無かった。生き残ったナデシコのパイロット達は、それぞれ自身の道を歩んでいる。唯一エステに乗り続けているのは、リョーコだが、彼女は3ヶ月前のイネスの葬儀のときに会ったが健康そのものだった。条件に合わない。
「んな訳がねえ」
そう、そんなことはあり得ない。
そう言うウリバタケにイネスは悲しげに声を掛けた。
「死者は、幽霊は、私だけじゃないのよ。ウリバタケさん」
そう言って、新たなデータを表示する。
「!!!!」
其処にはパイロットの個人情報が表示されていた。
「………アキト……」
呆然としてその名を口にする。料理人を夢見て、その夢を実現させる寸前に死んだ筈の、戦友。
「生きていた……?だが、何故そんなことに……」
「あの事故は、奴等の仕業よ。2人のA級ジャンパーを誘拐するためにシャトルごと落とした。それが奴等のやり方だから」
「そして、人体実験のモルモットとされた。彼を生きて救出できたのは奇跡のようなものよ」
イネスとエリナが交互に言葉を紡ぐ。
「………その復讐か?」
五感を奪われる。それは殺されたと殆ど同義。ましてアキトは料理人。味覚の消失は夢さえも奪われた事に通じる。
「それも一つの理由よ。でもそれだけでもないわ」
「まだ、何かあるのか?」
「ええ。奴らがたくらむボソンジャンプの制御方は説明したわよね」
確認するようにイネスが言う。ウリバタケは思い出しながら言葉を紡ぎ、
「ああ。確か遺跡にA級ジャンパーを翻訳者として取り込ませて……」
その途中で気が付いた。
「そう。そこに3人目の幽霊が居る。死んだ筈の存在が。彼が全てと引き換えにしても取り戻そうとしている人物が生きている。彼と一緒に死んだ筈の彼の妻。テンカワ・ユリカが。遺跡と共に」
ウリバタケは絶句し、そして納得した。
それならアキトは戦おうとするだろう。たとえ自分がどうなろうと。たとえ己の手を真紅に染めることになろうとも。
そして、そうなったアキトをこの二人が、イネス・フレサンジュとエリナ・キンジョウ・ウォンが止められる筈も無い。唯一可能性があるとしたらアカツキだが、それもかなり分が悪い。
普段は優柔不断だが一度こうと決めたらてこでも動かない頑固さがアキトには有った。まして相応の理由があるとなれば、おそらく無理だろう。実際アカツキでも止められなかったようだ。
出来る事は、出来るだけのサポートをつける事のみ。
そうして彼等は行動してきたのだろう。この半年間。
そして、それはこれからの自分にも当てはまる。
自分でも止められまい。
止められないのなら自分に出来る最大限のサポートをしてやらねばならない。
たとえその結果があまたの悲劇と惨事を生み出そうとも。
自分の手をも血に染めることになろうとも。
アキトもまた仲間だった。
その戦いの理由を知って、放って置く事など出来る筈も無い。
歯をくいしばり、拳を握り締める。
握った拳は、力の込め過ぎで感覚が無くなっていた。
「……要求される性能は、どれだけだ」
それこそ搾り出すかのようにその言葉を紡ぎだす。
その声音で全て悟ったのだろう。イネスは手を貸してくれるのか、とは聞き返さずに質問に答えた。
「一応ナデシコ級の母艦も建造しているけど、オペレーターがまだ居ないの。ナデシコCの先行試験艦でワンマンオペレーションシステムを採用しているからマシンチャイルドのオペレーターが必須なのだけどそう簡単には見つからないわ。最悪、単独で艦隊に襲撃をかけることになりかねない。よってある程度のスタンドアローン、つまり大容量のバッテリー搭載が必要不可欠。包囲を突破するだけの突進力と飽和攻撃に耐えられる装甲、必要なら戦艦すら落せるだけの攻撃力、そして、ボソンジャンプを可能とするジャンプユニットの搭載。そんなところね」
「無茶苦茶だな。殆どエステの基本構想から外れてるぞ。全く別物になっちまうがそれでもいいか?」
「出来るの?」
要求しておいてなんだが殆ど実現不可能な代物だ。そもそも奇襲とはいえ一機で艦隊と戦える機体というコンセプト自体が無茶なのだ。敵を殲滅する必要は無いが、防衛艦隊を抜き、目標であるターミナルコロニーに辿り着く性能が必要とされる。ボソンジャンプが切り札となるだろうが、それでも無茶は無茶だ。
「何とかして見せるさ。俺を誰だと思ってやがる。ウリバタケ・セイヤだぞ。少なくとも俺が組んだ機体でパイロットを死なせる気はねえ。その性能が必要なら組み上げてやるさ。俺の持つ全ての技術でな」
「そう。お願いするわ。今回はコストは度外視してかまわないわ。量産を考えていない完全な一品物だからね」
エリナがそう言うとウリバタケは苦笑した。
「まさかエリナさんからそんな言葉を聞けるとはなあ。プロスの旦那の次に予算に関してはうるさかったのに。これだけでやる価値はあるかもしれん」
「ふざけないでよ」
そう言うエリナも笑っている。
「そうそう、これは聞いとかないとな。コストは問題ないとして期限は在るんだろう?何時までに仕上げたら良いんだ?」
「彼の訓練が後半年はかかる。早めに形を出してくれたら、その機体をシュミレートしての訓練も出来るから概形だけでも出来るだけ早くお願い。実機の完成は、出来たら半年。遅くても母艦ユーチャリスの完成の1年後までに」
新機体の開発にはかなり無理のある時間だ。だが、ウリバタケ・セイヤの改造なら可能にしてしまえる。
それだけの能力を彼は持っている。
「了解だ。任せろ。此処にあるもの勝手に使わせてもらうぜ。じゃ、早速始めるとするかな」
とりあえず設計からだからと電算室の場所を聞いてウリバタケは仕事にかかった。
5ヵ月後。
己が組み上げた機体を前にしてウリバタケは、呆れたような声をあげた。
「自分で組んどいてなんだが……とんでもねえ化け物ができちまったな」
普通のエステより一回りは大きい漆黒の機体を見上げる。
要求された性能は、ほとんど満たした。
作戦行動には十分なスタンドアローンを実現。
小回りこそ聞かない物の、並みのエステの3倍近い出力を持つ。
強力無比のDFと装甲による防御力も桁違い。
攻撃力が正面から戦艦を沈めるにはやや届かないが、並みの機動兵器相手なら一撃で落しきれる。
そして、完全な奇襲と撤退を可能とする機動兵器クラスでのボソンジャンプの実現。これを利用すれば、敵艦のフィールド内に跳躍しての攻撃すら可能だ。そうすれば、戦艦といえども落せる。
これに‘あの’アキトが乗れば、一個艦隊を相手にしても戦える。
ユーチャリスの援護があれば、殲滅すら可能だ。
「確かに化け物だね」
独り言に背後から返事が返ってきた。
振り返ってみると其処に居たのは長髪のネルガル会長。
「アカツキか……仕事はどうした?」
会長職は決して暇ではない。分刻みのスケジュールをこなしている筈だ。
「ちょっと月に来る仕事があったんでね。完成したって聞いたから実物を見せてもらおうと思って」
相変わらず軽く流された。
「逃げてきやがったな。後で知らねえぞ」
「まあ、一応理由はつくさ。これでもネルガルの上層で最も機動兵器に詳しいのは、僕だ。忘れたかい?」
「そうだったな」
自ら機動兵器を駆り、パーソナルカラーを許されるエース級の実力を持つパイロット。
アカツキはその顔もまた持っている。
現場のパイロットとしての評価も下せる。
「で、感想はどうだ?」
「言ったろう。化け物だ。だが、それ故、乗り手を選ぶ」
ウリバタケの問いに、アカツキは答えた。
「当たり前だ。これは‘あいつ’の専用機だ。‘あいつ’以外誰も乗りこなせやしねえよ」
出力の大きさゆえ並みの腕ではコントロールしきれない。エース級を遥かに超えるレベルの操縦技能を必要とする。その上にA級ジャンパーでなければならないのだ。そんな人間は一人しか居ない。
「‘あいつ’の様子はどうだ?」
「変わらないよ。一日中シュミレーターに篭っている。修羅さながらの様子でね」
「腕は?」
「半年前とはまた次元が違う。今の彼に勝てるものは居ない。そう思わせるほどにね」
「そうか……」
嘗てのアキトを知る者としては歓迎できない変化だが、これからの戦いには必要な変化だ。
そう変わる事をアキトが望み、自分達も止めることが出来なかった。
変わりいずるは‘修羅’。
訓練が終わりつつある今、じきに火星の後継者たちは知るだろう。
自分達の正義が、その礎と踏みつけて来た者の中から何が生まれたのかを。
‘闇の皇子’が振るうべき既に剣は砥がれた。
他ならぬウリバタケ自身の手によって。最強の、化け物が。
後必要なのは鎧。
「ユーチャリスの建造の方はどうだ?」
「後半年はかかるね。それに、オペレーターも見つかってないから、完成しても動かせない。あれもまた一隻で戦局を変えられる化け物だよ。それなりの能力がオペレートには必要だからね」
4門の多連装グラビティーブラスト、搭載の無人兵器、それらを完全に有機的に操ることを可能とするワンマンオペレーションシップ。A級ジャンパー、テンカワ・アキトを艦長に迎え単艦での跳躍も可能。それだけにオペレーターにはナビゲーションすら求められる。操るには‘電子の妖精’クラスの電子戦能力が必要となる。
「あては?」
「まだ無い。さすがにルリ君を引き抜くわけにはいかないからね」
このままでは鎧抜きでの戦いになるかもしれない。
それでもアキトは戦うだろうが、この機体も最強とはいえ無敵ではない。
最初のうちは何とかなるだろうが、後半になればターミナルコロニーの防備も厚くなる。
やはりユーチャリスの援護は必要だ。
この戦いに勝つためには。
「必ず戦闘が始まる前には見つけ出すよ。ネルガルの名にかけて」
アカツキが普段の軽薄さなど全く見られない様子で言い切った。
「頼むぜ。アカツキ」
「任せてくれ。僕としても負ける気は無い。奴らの正義は受け入れられた物ではないし、受け入れられないなら戦うしかない。テロリストと交渉の余地は無い。奴らの正義とはそう言うものだからね。そして、戦う以上勝たねばならない。そのためならどんな労力も惜しまないさ」
それが、戦いに望むアカツキの、ネルガルの覚悟。
一面ではクリムゾンとネルガルの戦争なのだ。今回の戦争は。
彼もまた当事者の一人である。
「だろうな」
勝算無き戦いなどアカツキはしない。必ず見つけ出すだろう‘電子の妖精’に匹敵するほどのマシンチャイルドを。
そうウリバタケが思っていたところにアカツキガ問いを発してきた。
「ウリバタケ君、一つ聞きたいことがあるんだけどね」
「なんだ?」
「何故、手を貸してくれたんだい?」
それはイネスが聞かなかった問い。
自分達ネルガルは情だけで動いているのではない。クリムゾンとの戦いでも在るからこそだ。
個人的な事情もあるにはあったが、それだけでは動かなかっただろう。
それが、ネルガルという大企業を動かすアカツキの立つ位置だ。
一方、ウリバタケは市井の改造屋だ。
その感覚は殺人を禁忌とする一般の物だ。
そして、この機体を組むということが、どういう事かウリバタケは承知している筈だ。
それは自らの手をもまた血に染めるということ。
戦うのはパイロットのみではない。後方を支える自分達整備員もまた同様の覚悟と信念を持っているのだ、と常日頃口にしていたウリバタケだからこそ、其処から逃げはしない筈だ。
だからこそ、断るという選択肢も存在したのだ。ウリバタケには。
これからの戦いは、民間人をもまた巻き込んだ正義無き戦争。
それに手を貸すに足る理由はウリバタケには無い。
嘗ての仲間というそのただ一点を除いて。
「仲間だからな。お前達も、アキトも」
ウリバタケの答えはその一点を正しくついた。
「俺は、戦争に、人殺しに正義なんて求めてねえよ。最初からな。俺の手も、もう血まみれさ。木星戦役で敵が人間だと知った後もナデシコに乗りエステを整備したんだからな。だから、今更それで躊躇う事なんて出来るかよ。俺が‘戦う’理由は一つで充分だ。仲間と家族を守る。そのために‘戦う’。それだけさ」
それが、ウリバタケの答え。それに……とウリバタケは続けた。
「奴等の求める世界では俺は生きにくそうだ。嘗てのナデシコの乗員というだけでも家族にまで類が及び兼ねねえ。草壁はそう言う奴だろう?」
己の正義を疑わないが故に敵に対して容赦は無い。悪としたものは全て滅する気だろう。
純粋すぎる狂人だ。テロリズムの権化とも言える。
奴が勝てば、おそらく粛清の嵐が世界を覆う。正義の名を借りて。
その中には嘗て敵対したナデシコに乗った自分も、家族も入っている筈だ。
「そうだね」
アカツキも肯定する。
所詮草壁の器はテロリストの物なのだ。カリスマ、指導力には優れているが、統治には恐怖政治をもってするしかないだろう。力で己の正義を強制する。それが草壁の限界だ。民意を統べ、世界を変革できるほどの人物ではない。そういった人間が権力を握り、世界を変えようとしたならどうなるか? 考えるまでも無い。
「つまり、俺にとってもこれは生存のための戦争さ。自分と家族を守るためのな。その戦いを仲間のお前達だけに押し付ける? それで自分だけが平和を謳歌する? そんなことが出来るかよ。ま、そんなところだな」
最後は軽くウリバタケは言い切った。
だが、その目の光は真剣そのもの。
それは覚悟を決めた者の瞳に宿る光。
それを見てアカツキは沈黙した。
「……馬鹿だねえ。僕等に押し付けとけば良いのにさ」
ようやく出てきた言葉は、そんな一言。
「訪れた平和を謳歌するのは人の当然の権利さ。事実世間は今回の一軒とは関係なく平穏そのものだ。今はまだ、だけどね。そこで関わらないことを選んでも、誰も非難は出来ないだろうに」
むしろ関わった方が非難を受ける可能性が高い。
自分達がしようとしていることもまた‘戦争’だ。
その犠牲者にとっては自分達こそが仇となる。
それを自分とは違い己の意思のみで選び取ったのだ、ウリバタケは。
純粋で、賢明であり、愚かだ。
それが羨ましく感じる。
「お前も一緒だろうが」
そう感じていたところにウリバタケがそう言ってくる
「僕は、ネルガルの会長さ。その役目を果たすための戦いでもある」
とっさに出たのは否定の言葉。だがそれを見透かすようにウリバタケが続ける。
「でも、それだけでもないだろうが」
「………」
アカツキは沈黙でもってその答えとした。
暫し続いた沈黙を破ったのは、アカツキだった。
「ところで、この機体なんて名前なんだい?」
直前までの会話が無かったかのように軽い口調で尋ねる。
「あん? 確か『プロト・アルストロメリア』って事で作らせてたじゃねえか」
そうさせてきたのはアカツキである。何を今更と言った感じでウリバタケが答える。
「ごまかす必要は無いさ。君の事だ独自の開発コードぐらい与えてあるんだろう?それが‘お約束’って物だからね」
意地悪く笑いながら否定する。ウリバタケは悪戯を見抜かれた子供のように頭を掻きながら答えた。
「……ちぇっ。見抜かれたか。お披露目のときに披露しようと思ってたんだがな」
実は最初からいろいろと考えていたのだ。
仮称『プロト・アルストロメリア』はその独自の設計コンセプトのおかげで『アルストロメリア』とは全くの別物になることは解っていたのだから。
相応しい名前を苦心して考えていたのである。
専用機には専用の名称が‘お約束’だ。
この辺りウリバタケは何処まで言っても趣味人であることが明白である。
「いろいろ考えたんだがな。結局、無難に花からとった」
「へえ?もっと凝るかと思ったよ。君のことだから」
意外そうに答えながら それで?と続きを促す。
「サレナ。ブラックサレナだ。こいつの銘は」
ウリバタケが振り返って、漆黒の機体を見上げながら告げた。己が鍛え上げた剣の名を。
「黒百合か……確かに相応しいかもしれないね」
黒百合。
『復讐』を花言葉にもつ呪いの黒花。
己と同朋の仇を討ち、捕われし‘姫君’を奪還せんとする‘闇の皇子’が振るうには相応しき名かもしれない。
「もう少し捻ろうかとも思ったんだがな。やっぱりこれしかねえ。そう、思ってな」
ウリバタケが語る。
「そうだね。僕にもそう思える。‘闇の皇子’の御剣としてはこれ以上無い」
「……だろ?」
アカツキの同意に何故かウリバタケは一瞬躊躇って頷いた。
「さて、じゃ僕はこれぐらいで失礼しようかな。聞きたかったことは聞いたし。最終調整の邪魔するのは本意じゃない。それにそろそろ仕事に戻らないとね」
そう言ってアカツキは踵を返してドッグの出入り口に向かった。
「そうしろ。本当ならここに来る暇もねえだろうに……今ごろエリナさんが切れてるぞ」
背中越しにかけた言葉にアカツキは振り返って答えた。
「まあ。ちょっと位は自由時間がほしいからね」
「この道楽会長が」
ウリバタケの言葉ににやりと笑って再び踵を返す。
そして、ドッグから出る直前に背中越しにウリバタケに声を掛けた。
「じゃ、出来たらまた来るよ。その時は、その機体の『真名』も教えて欲しい物だね」
驚愕して目を見開いたウリバタケが見えているかのように笑うとアカツキはそのままドッグを出て行った。
「あいつ……気が付いてやがったか」
一人残されてから、暫らくしてウリバタケが呟いた。
「『真名』もブラックサレナさ。アカツキ」
ただ、込めた意味が『復讐』とは異なる。
確かに黒百合の花言葉は『復讐』。だが、花言葉は一つきりの物ではないのだ。
そして、時に矛盾した意味をも同時につかさどる。
呪いの黒花は『守護』の意をもまた隠し名として持つのだ。
そして、その意こそウリバタケがこの機体にブラックサレナの名を与えた理由。
今は、まだこの機体は‘闇の皇子’の『復讐』のための牙として振るわれる。
だが、この戦いが終わった時、皇子に掛けられた呪いが解けた時、自分が鍛えたこの剣が『守護』の剣として振るわれる事こそを願って。
「願いは叶うさ。きっとな」
自分に言い聞かせるようにそう呟く。
そのために自分達が居る。
エリナとイネスがアキトを支え、
アカツキがそれを支援している。
プロスやゴート、月臣がアキトを鍛え、
自分はアキトが振るう剣を用意した。
‘闇の皇子’は一人ではないのだ。
自分を含む多くの物に支えられアキトはまだ生きている。
ならば、いつかきっと呪いが解ける日も来るだろう。
その時、ウリバタケが鍛えた剣は、本来の意味で振るわれる。
その時こそ『守護』の剣は本来の力を発揮するだろう。
守護すべき物に害なす物を葬る最強の剣として。
その時を願ってウリバタケは漆黒の機体を見つめ続けた。
それから半年後、彼等の戦いは幕を開けた。
主戦力は漆黒の機動兵器と白亜の戦艦。
懸念されていた戦艦の操者は意外な形で現れた。
火星の後継者が再び生み出したのだ。彼等の業の中から。
‘闇の皇子’と契約を交わせし‘闇の妖精’を。
鎧を得、半身をえた修羅は完全な形で降臨した。
そして、それは予定通りの成果をたたき出した。
即ち、八つのターミナルコロニーの壊滅。
遺跡の奪還こそならなかったが、これが火星の後継者の研究を遅らせ、最終的な勝利の一因となったのは間違いない。
もう少し跳躍の制御が早く実現されていたら、ナデシコCの完成は間に合わなかっただろう。
結果として犠牲者は5桁を越えた。
成果に比して多すぎたかもしれない。
また、犠牲になった者達やその家族にとっては数は問題ではないだろう。
だが、彼等の戦いの正否は彼等自身のみが知る。
『亡霊』は最後まで捕らえられることなく歴史の闇に消えたからだ。
残されたのは火星の後継者の乱のナデシコCによる鎮圧という結果のみ。
後世には単なる戦場のフォークロアの一種として『亡霊』は語られた。
彼等の実在を示す一切の痕跡は残っていない。
振るわれた剣が『復讐』の牙だったのか、『守護』の剣であったのか?
その答えは歴史には残っていない。
ただ一つ確かなことはウリバタケ・セイヤは乱後もネルガルに所属し機動兵器の開発に関わりつづけたという。
そして、彼が以後ネルガルで開発した機体は全て同じ名をつけられたという。
『ブラックサレナ』と
『復讐』と『守護』を意味する花の名で。
後書き
どうも、第8作です。
……長くなりましたねえ。過去最長。
イネス以上の語り魔、設定魔でしたウリバタケ。
作者の言うことを全く聞きませんでした。振り回されっぱなし(涙)
今作の始まりはブラックサレナがウリバタケの作品じゃないかなあ、と思ったのが始まりです。
あんな特異な機体組むのはウリバタケ位だと思いまして。
そんな訳でメインはウリバタケです。
サポートに前半はエリナとイネス、後半にアカツキでした。
最初のネタではラストの命銘の所しか考えてなかったんですけどねえ(汗)
キャラが語るに任せたら横道にそれる、それる。
納得しないと動かないし、思いついたら語らずにはいられない。……ほんっと厄介なキャラでした。
花言葉の隠し名は私の創作です。『復讐』の意味だけで名づけたりはしないかなあ、と思いまして。
隠し名を『守護』にしたのは言わずと知れた時ナデから。
黒百合に『守護』なんて意味は無いです。本気になさらないように。
花にはぜんぜん無知なんです。
位置的には「契約」のちょっと前位のつもりで書きました。
話的にはつながりは無いです。
ただ、どうせ流されるならと開き直ってちょっと絡めて見ました。
一本の短編と見るか、‘闇’のプレと見るかはお任せします。
この辺、作者の意図は余りありません。
どちらにでもとってください。
で、今回の反省です。
メインストリームに関わらない所が多すぎる。
あっちにふらふら、こっちにふらふらしすぎました。
……少しは黙ってくれ。お願いだから(泣)
これは、いつものことですが
会話に比して情景描写がなさ過ぎる。
シーンが語りで移動が無いですから、書きようが無かったんです。
まあ、これもキャラが勝手に話し出した所為なんですけどね。
アキト、サレナ、ユーチャリスが強くなりすぎた。
知らないうちに強くなってました。
戦闘がメインの話ではないからセーフかな?
いつもならイネスですが、今回はウリバタケの所為です。
とりあえず以上3点
むう、いつもと反省点が変わらない。
……成長無いなあ。……未熟。
これからリアルで修羅場にはいるので次回作は当分先です。
というかSSかいてる暇有ったら論文書かないといけないんですけどね。
現実逃避してます(汗)
書いてみたいテーマが一つ有るんですが難しくて書けない。
「アキト達に対する復讐者」の話。特に今作書いてて読んでみたいと思いました。
どうしてもオリキャラが必要になる話で。私には無理っぽい。
どっかにありませんかねそんな話。
此処ならありそうな気が……情報求みます。
他には今はネタが有りません。逃避しながら練ってみます。
それでは長くなりましたがこの辺りで
今回もまた語りばかりの長文でした。読んでいただきありがとうございます。
ありましたらまた次回作で
乱文失礼いたしました。
管理人の感想
夕瞬さんからの投稿です。
良い味出してます、ウリバタケ!!
こういう大人な意見を言えるあたり、さすがですね。
ナデシコクルーの中で、伊達に年長組を担ってませんな(笑)
全てを受け止めた上で、アキトの為にブラックサレナを作る。
いやいや、良いお話でした!!