< ナデひな >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの、忌々しい戦争が和平という奇跡の幕を閉じ。

 激戦を戦い抜いたナデシコの面々も、今は平和な世界へと溶け込もうとしていた。

 

 しかし、その平和を享受できぬ不幸な男が一人・・・

 

 これは、その男の愛と戦いの話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏、ですね〜」

 

「夏、だな〜」

 

 一時期は世界中を飛び回っていた彼等・彼女達も、目的(?)は一応達成されたので今は暇を持て余していた。

 アカツキはエリナとプロスに突かれながら、日々仕事をこなしている。

 ウリバタケも今まで遊んでいたツケなのか、仕事に家族サービスにと忙しい。

 ・・・もっとも、キョウカが連れてくるハーリーを撃退する事で、ストレスだけは発散しているみたいだが。

 

 しかし今日は夏の陽気に当てられたのか、畳敷きの居間で二人してダレていた。

 

「ラピスちゃんはどうしたんだ、ハーリー?」

 

「キョウカちゃんと一緒にプールですよ〜」

 

「・・・何で一緒に行かねぇんだ?」

 

「・・・誰かさんの息子さんが昼前に襲撃してきましたから」

 

 ちなみに、その誰かさんの息子さんは見事に返り討ちにあっていた。

 このハーリー、外見はお子様だが伊達に北極に君臨していた訳では無い(笑)

 ・・・暑さにこの二人が弱いのは、あっちの気候に慣れてしまったせいか?

 

「・・・手加減しろよ、お前もよぉ」

 

「・・・じゃあ、物騒な武器を渡さないで下さいよ」

 

 不毛な会話は、キョウカとラピスが帰ってくるまで続けられた。

 とにかく、まあ、今のところは平穏な時が過ぎていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十四話 海へいこう!

 

 

 

 

 

 

 

    ザザ〜〜〜ン・・・

 

 目の前では青い海が広がっていた。

 浪人生として、そろそろ勉強に本腰を入れなければいけないこの時期に、何故俺は海にいるのか?

 ルリちゃん達との和解は成った。

 生活資金についても、最早俺の口座を使う事に躊躇いは無い。

 ちょっとひなた荘の事がバレるとアレだが、まあ定期連絡と帰省をちゃんとしていれば問題は無いだろう。

 つまり、勉強をする上での障害は全て取り払われたはずなのだ。

 

「ほら、ボサっと立って無いで荷物運んでよ」

 

「あ〜い」

 

 背後から近づいて来たなるちゃんにそう言われ、足元に降ろしていた荷物を担ぎなおす。

 ひなた荘の住人5人分、ぷらす、はるかさんの荷物で6人分だ。

 俺からすれば運べない重さではないが、どうして俺が全部を運ぶ事になったのかが不思議だ。

 

 ・・・いや、別に文句は無い、です、はい。

 

 ちなみに、自分の荷物は既に宿泊先に運んである。

 

「アキト、それが終ったら浜茶屋の修理に入るぞ」

 

「・・・は〜い」

 

 予定より大きく遅れたピースランドからの帰還

 そのツケは、意外な形で現れた。

 つまり、はるかさんのこの一言だ。

 

『お前が地元で遊んでた時に、管理人の代わりをしていた分、今月の喫茶店の売上が落ちてしまってな。

 ―――金を払えとは言わんから、身体で払え』

 

 ・・・俺に拒否権は無かった。

 

 そして今現在、俺はひなた荘の住民を引き連れて海に来ていた。

 勉強が・・・進まないな・・・

 

 

 

 


 

 

 

「ほれほれ〜〜〜!!」

 

「ちょっとスゥちゃん!!」

 

「素子〜、何で木刀でスイカが斬れるんや?」

 

「愚問です、キツネさん」

 

「・・・質問の答えになってないですよ、素子さん」

 

 

 

 

 女性陣が楽しそうに遊んでいる中、俺は一人黙々と浜茶屋の修理をしていた。

 少なくとも仕事をしている間は、スゥちゃんも悪戯をしに来ないだろう。

 それにこの浜茶屋に結構ガタがきてる。

 修理に時間が掛かると判断した俺は、皆には海に出てもらって、一人で頑張っているのだ。

 

 ・・・あの女性陣に任せたら、修理じゃなくて破壊になるからなぁ〜

 

「・・・ナオさんでも連れてこようかな、喜んで手伝ってくれそうだけど」

 

 ふと、日曜大工が趣味だと言っていた人物を思い出す。

 しかし、流石の俺もハネムーン中の新婚さんを呼ぶほど馬鹿じゃなかった。

 もう一人、改造屋の主人の笑顔も浮かんだが、浜茶屋が『自爆』をしては洒落にならないので無視をする事にした。

 

     トントントン!!

              カンカンカン!!!

 

 ・・・炎天下の中、金槌の音だけが何故か浜辺によく響いた昼の一時だった。

 

 

 

 

「おお、もう殆ど修理は終ったんかいな?」

 

「ま、一応はね。

 でも今年の夏位なら十分に凌げるはずですよ」

 

 黒いビキニに白のパーカーを羽織ったキツネさんが、俺の様子を見に来てくれた。

 俺は屋根や壁の修理は一段落ついたので、今は内装の修理をしていた。

 しかし・・・ひなた荘の修理で培ったスキルが、こんな事で活かされるとはね。

 人生、何処で何が起こるか分かったもんじゃないな。

 

「ピースランドから帰ったそうそう、あんさんも大変やな〜」

 

「そう思うなら、スゥちゃん達の面倒をちゃんと見てて下さいよ。

 それだけで、俺に掛かる負担が減るんですから」

 

 日陰でくたばっているキツネさんに、俺は苦笑をしながらそう返事をした。

 多分、スゥちゃんの相手に疲れて、ここに逃げてきたんだろうな。

 

「あかん、あかん、ウチにはもうお手上げやわ。

 スゥと同時に、なるや素子の我儘に付き合うあたり、やっぱりタダモンやないで、あんさん」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・ご自分の事を棚上げして、よくもまあ」

 

 ちょっと金槌を握る手に、余計な力が篭もってしまった。

 お陰で壁に新しい穴が出来てしまったじゃないですか。

 まあ、俺の正体を知りつつ、以前と同じ態度をとってくれるキツネさんに、感謝をしていないと言えば嘘になるかな。

 でもそれはそれ、これはこれという言葉もあるわけであって・・・

 

 憮然とした表情で、その穴を覗いている俺に、キツネさんからまた声が掛かった。

 

「あんさんがおらん間、やっぱりなる達も元気が無かったわ。

 その反動もあるんやろな、帰ってきてからははしゃぎっ放しや」

 

「―――そうですか」

 

       カン!!

 

 俺はその言葉を背中で聞きながら、金槌を使って修理を続ける。

 とりあえず、以前と同じ日常が戻ってきて、喜んでもらえたという事かな?

 

 そう思うと、俺は自然と微笑みを浮かべていた。

 

 

 


 

 

 

 あの後、何とか浜茶屋の修理を終えた俺は、今はその浜茶屋の厨房で料理に励んでいた。

 夜になって少しは涼しくなっていたが、大きなコンロの前で鍋を振るう俺には意味が無い。

 今も汗だくになって野菜炒めを作っていた。

 

 ・・・考えたら、もっと涼しげな料理にすればよかったな。

 

「おお、相変わらず見事な腕前だな」

 

「ははは、はるかさんに誉めてもらえて嬉しいですよ」

 

 厨房の入り口で、柱にもたれかかりながらビールを飲んでいるはるかさんから、そんな誉め言葉をもらった。

 白いワンピースを着て、ほろ酔い気味なのか少し頬が赤い。

 

 まあ、誉められて悪い気になる人間はそうそういないので、俺としても気分が良かった。

 

「さすが、コックをしていただけの事はあるな」

 

「えっと、はるかさんにそんな事言いましたっけ?」

 

 記憶を振り返ってみるが、ちょっと思い出せない。

 ・・・コックになりたかった、と皆に言った事はあるはずだが。

 どう考えても、コックをしていたとはるかさんに言った覚えはない。

 

 頭を捻っている俺に、はるかさんの口調をガラリと変えて答えを教えてくれた。

 

「瀬田は私の・・・まあ、言ってみれば腐れ縁だ。

 その関係上、ヤガミ ナオとも何度か会っている。

 先日、瀬田が私の店に顔を出しに来たからな。

 誰かさんが、あのヤガミ ナオを急いで連れ去ったという言葉で、確信したよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の動きが止まった。

 暫くしてから、無言のままに鍋の中身を皿に移し、盛り付けをしてはるかさんに手渡した。

 

 真っ直ぐに俺の顔を見詰めたまま、はるかさんはその皿を受け取る。

 

「その後で、何とか婆さんと連絡をつけて正体を聞き出した。

 ・・・正直言って、流石に驚いたがな。

 ああ、別に騙していた事を責めやしないさ、そっちの複雑な事情は簡単に予想出来るからな。

 ただ、何処までが本当で、何処までが嘘なのかはっきりして欲しいな。

 それによって、私のこれからの態度も決まる」

 

 はるかさんのその言葉を聞いた瞬間―――俺は苦笑をしながら頭を掻いていた。

 

「東大受験は本当ですよ。

 じゃないと、あんなに転げまわってまで勉強なんてしません」

 

「・・・違いない」

 

 俺の手渡した野菜炒めを一口食べて、楽しそうに笑いながらはるかさんは厨房から出て行った。

 去り際に一言だけ残して。

 

「最後になるまで、この出会いが良い想い出になるかどうかは、まだ分からんが。

 あの娘達を傷付けるような事だけはするなよ」

 

「ま、前向きに、努力します」

 

 何故か敬礼をして、はるかさんを厨房から見送る俺だった。

 しかし・・・何だか加速度的に、俺の正体を知る人が増えてきてないか?

 

 

 

 

 

 

「ほら、厨房からの輸送品だ。

 しっかり食べて、明日から頑張って働いてくれよ」

 

「わ〜、この暑い中で注文もしてないのに野菜炒めとは、物好きな奴ね〜」

 

「おいおい、そう言うんやったら、なるも何か作らんかい」

 

「別にいいけど、素麺くらいしか作る気になれないわよ?」

 

「何でもいいやん、アキトの料理はどれも美味いんやし♪」

 

「カオラ、ちゃんと取り皿に分け無いと駄目だよ!!」

 

「でも確かに、相変わらず美味いですね、浦島の料理は」

 

 

「って言うか、ある意味プレミアもんやで・・・この料理」

 

 

「ほう〜、キツネにはこの料理の『価値』が良く分かってるみたいだな。

 ・・・そうか、そういう事か」

 

「え・・・は、はるかさん、もしかしてあの事を!!!」

 

「「「「?????」」」」

 

 

 


 

 

 

「いっらしゃませ!!」

 

「いらっしゃ〜〜〜〜い!!」

 

 皆の元気な掛け声を聞きながら、俺は厨房で働いていた。

 こういう活気に満ちた場所で鍋を振っていると、色々と昔の事を思い出す。

 それはサイゾウさんの所で働いていた時の事や、ナデシコでホウメイさんと働いていた時の事だった。

 

「アキト!!

 スパゲティ二人前、お願いね!!」

 

「了解、なるちゃん!!」

 

 女性陣の水着エプロンがヒットしたのか、初日から浜茶屋は大盛況だった。

 勉強の事も気に掛かるが、こういった仕事も俺は大好きだ。

 知らず知らずのうちに、ハミングをしながら料理を作っていた。

 

 ―――ま、休日とでも思って楽しまないと損だよな。

 

「あの〜、先輩・・・」

 

「うん、どうしたのしのぶちゃん?」

 

 しのぶちゃんがオロオロとしながら、俺に話し掛けてくる。

 上目使いをしている目が、潤んでいるのを見る限り・・・客とのトラブルか?

 でも、不埒者は素子ちゃんが―――

 

「当店はナンパ禁止です!!」

 

  ドバッ!!

 

「「あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜〜」」

 

 ・・・張り切ってるしなぁ

 

 何故か見覚えのある人物が2名、夏の海に消えていくの見送りつつ、俺は手をエプロンで拭く。

 とりあえず、しのぶちゃんの心配事を解決しておく事にしたのだ。

 

「で、何かあったの?」

 

「う〜、実はですね・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・あの娘、凄く慌てていましたね』

 

『仕方が無いでしょ、ついつい英語で話しちゃたんだから』

 

『ま、英語で話していると、ナンパをしてくる男性が減りますから。

 ヒカルさんも、良いアドバイスをしてくれました』

 

『ほんとうよね〜、今日は随分歩き易かったわ』

 

『はい、お待たせしました〜

 注文をお聞きしま、す、が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

『『・・・・・・・・あ!!』』

 

 ―――俺と金髪と銀髪の美女、合計3人の動きがその時完全に止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三十五話に続く

 

後書き

えへへへへ、だしちゃいましたね(苦笑)

この二人をこの場面でだすのは、大分前から決めていたんですよね。

この後はもうドタバタの予定です(笑)

 

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