< 時の流れに Re:Make >

 

 

 

 

 

blank of Eight months

エピローグ

 


2197年9月

道場の真中で、胴着を着たユウとアキトが木刀を片手に、真正面から相対をしていた。
その周囲には同じ様に胴着を着用した人達が、正座をして二人の姿を見守っている。

アキト達が放つ張り詰めた雰囲気に圧される様に、見学者達も額に汗を浮かべていた。

「――――――っは!!」

「せい!!」

先に仕掛けたのはアキトだった。
視認する事を許さない剣速で木刀が揮われる。
ユウはその一撃を受け止める事無く、体捌きのみで避けた後、カウンターとなる反撃を繰り出す。

しかし、そのユウの反撃に既に反応をしていたアキトは、同じ様に僅かな移動で攻撃を避けてみせた。

アキトの成長を改めて確認したユウが、微かに笑みを浮かべた後、鬼人の如く攻撃を開始する。
その攻撃に対して、アキトは躊躇う事無く正面から挑んだ。


神速の攻防は十分以上に及んだ。


最初に息を乱したのはユウだった。
後、十年・・・いや、五年早くアキトが産まれていれば、と益体の無い事を考えつつ、最後の業を放つべく足を止め居合いの構えを取る。
師匠の考えを悟り、アキトも同じ様に殺傷圏内に足を止めて居合いの構えを取った。

ユウに師事をしてからの八ヶ月が、次々とアキトの脳裏に蘇る。

自分がここまで心身ともに強くなれたのは、師匠を始めスバル家の人達と、キリュウ達のお陰だった。
アキトの言葉にしては言い尽くせない感謝の念を感じ取ったのか、正面で木刀を構えるユウが苦笑をしながら攻撃を促した。

「遠慮はいらん、本気でこい」

「はい、師匠」

雑念の混じりようが無い一撃が空を奔り、片方の木刀を半ばで断ち切った。





「テンカワ アキトに「昴流抜刀術」皆伝を与える」

「ありがたく頂戴いたします」

キリュウの形見となった日本刀を手渡しながら、ユウが見学者の前で宣言をする。
ユウの目の前で正座をしていたアキトは、刀を受け取った後、深々と礼をした。

「お前が修めたのは「業」だけだと言うの事を忘れるな。
 それに経験が伴えば、お前はまだ強くなれる。
 日々の精進を忘れるなよ」

「はい、師匠」

その後、アキトの皆伝授与を祝う為、本家にて参加者全員に食事が振舞われた。
色々と噂の絶えないユウの内弟子という事で、話には出ても顔を見る事は無かったアキトに全員が興味津々であり、食事後にも多数の人間に囲まれていた。
今も各地で道場を開いている道場主達が、アキトの若さに驚きつつもその腕前を褒めている。
周囲からの惜しみない賞賛の声に、アキトが真っ赤になって頭を掻いている姿を見て、その人柄に皆が益々好意を抱いていた。

そんな輪から外れた場所で、ユウともう一人の老人が手注ぎで酒を飲んでいた。

「珍しく連絡を入れてきたと思ったら、次に日に顔を見せに来いなんて言うか、普通?」

「仕方なかろう、アキトの奴が週明けに宇宙に上がるのだ。
 今日しか関係者に顔見せをする時間が無かったのでな」

全然悪いとは思ってない態度で、ユウは旧来の友人のコップに酒を注ぐ。

「そりゃあお前さんの門下の弟子と、派生した流派の当主連中には後継者の顔見せは必要かもしれねぇけどよ。
 政治家やってる俺に、アイツを紹介する必要なんてあんのか?」

タダ酒を飲ませてくれるのは嬉しいけどよ、と笑顔で言いながらユウに尋ねる。

「何時か・・・アキトの名前は世間に轟く。
 その時、あいつの手助けを少しでもしてやってくれ。
 剣では斬れない、政治の世界があいつを襲う可能性は高いのだ、ワダツミよ」

「お前ぇ・・・」

目の前で頭を下げたユウの姿を見て、ワダツミは心底驚いた。
そして、人に頭を下げる事が何よりも大嫌いな友人に、ここまでの行動をさせるアキトという青年に深い興味を持つ。

「俺が生きてるうちに、俺に頼るような事態が発生したら、事務所に電話をしてきな。
 最大限の手助けをしてやるよ」

「何、この先一年でアキトの名前は世間に嫌でも広まる。
 何しろわしの自慢の後継者じゃからな」

「けっ、言ってろ」

心底楽しそうに笑うユウを見て、ワダツミも釣られたように笑みを深めた。






「・・・ここがメモの場所?」

「・・・ああ、その筈なんだけど」

「・・・まるで意味が分からないわ」

キリュウからの遺品とも呼べるメモには、住所だけが記入されていた。
拠点地となっているネルガル本社から近い位置にあるその場所に、アキトは暇だろうと決め付けたアカツキを誘って足を運んだ。
その際、アカツキが嫌がらせとしてエリナを呼び出したのは、アキトにとって誤算だった。

もっとも、先週の事件により欝に入りかけている男二人を、奮い立たせる事が可能なエリナが参入する事は、現状ではベストなパーティかもしれない。

そんな私服姿の三人が何時もの如く賑やかに騒ぎながら向かった先は、落ち着いた佇まいの「SUN」という店名の喫茶店だった。

「もしかして、テンカワ君に手渡すメモを間違えた?」

「あのキリュウさんが? 今わの際に?」

「・・・あり得ないでしょう、それは」

首を捻りながらも三人が入った喫茶店では、カウンターで一人の大柄な男のマスターが珈琲カップを一人で磨いているだけだった。

「いらっしゃい」

「三人ですけど席は空いてますか?」

それほど大きくない店内には、マスター以外に人影は無かった。

「見た目通り、全然余裕ですよお客さん。
 良かったらテーブル席ではなく、カウンター席に座られますか?」

アキトの質問が面白かったのか、顔の右側に大きな傷跡を残すマスターは、微笑みながらカウンター席を勧めてきた。
特に密談をする予定でも無いので、マスターの勧めにのって三人はカウンター席に並んで座った。

「テンカワ君、珈琲位奢ってくれるよね?」

「いや、俺にたかるのは止めろって、アカツキは大金持ちだろうが」

「・・・ねえ、テンカワ君。
 もしかして、ウチの会社の大株主っていう意味分かってない?」

可哀想な人を見るように、アカツキとエリナがアキトの顔を見る。
その視線に本気の同情を感じてアキトは目を白黒させた。

「後で社に戻って再教育だね、こんな危ない人に株券握らせたら駄目だよ」

「本当にねぇ」

疲れたような溜息を同時に吐く二人に、何故か申し訳無くなったアキトは肩身の狭い思いをしていた。



「あら、結構美味しい」

エスプレッソを一口飲み、エリナは思わず感嘆の声を上げた。

「やっぱり、美人さんに褒めて貰えると嬉しいねぇ。
 顔と腕前は別物ってね。
 普段は近所のおっさんとおばさんしか来てくれないから、若い顧客は大歓迎だよ」

腕前を褒めれて嬉しいのか、マスターの機嫌は目に見えて良くなった。
それから暫くの間、エリナを相手に豆の講義をしたり上機嫌に会話を交わす。
その会話の中でマスターが以前事故で大怪我を負い、足に障害を残したので前の仕事を辞めて、この店を開いた事を全員が知った。
エリナが親身になってその話に頷いている間、アキトは興味深そうに店内を観察し、アカツキは雑誌を取り出して芸能欄を真剣な目で読んでいた。

暫くして、マスターの人柄の観察が終ったエリナが視線でアキトに問い掛けると、アキトも店内に問題は無しと頷いた。

「ところでマスター。
 ここの店にキリュウっていう名前で、常連の人は居ないかしら?」

「ああ、大のお得意様さ」

エリナの問いに笑顔で応えるマスターだが、微妙に雰囲気が変わった事にアキトは気付いていた。

「実は私達はネルガルの社員で、キリュウさんの雇い主なの」

「・・・それで?」

「先週の金曜日に、キリュウさんが亡くなったわ。
 そのこに居る彼に、この店の住所が書かれたメモを残してね」

アキトが血に塗れたメモをテーブルに載せると、マスターは穴が開くかと思える程そのメモを凝視する。
その後で、溜息を吐きながらアキトの顔を観察した。

「君が受け取ったのか・・・このメモを」

「はい」

マスターの質問に頷いた後、アキトはキリュウの最後をポツポツと語った。
先日ユウに語った時には感情を激しく乱したが、一度その波を乗り越えていただけに、比較的落ち着いてアキトは話す事が出来た。

「キリュウ隊長の関係者として、マウロから連絡は入っていた。
 信じたくは無かったが、やはり本当だったんだな。
 しかし・・・そうか、笑って逝ったのか・・・」

涙を拭いながらそう呟いたマスターは、少し待っていろとアキト達に言った後、右足を引き摺りながら店の裏に姿を消した。
そして次に姿を見せた時には、手に高級そうなウィスキーが入った酒瓶を持っていた。

「これがキリュウ隊長の秘蔵の酒だ。
 お前さんにはこの酒を受け取る権利がある」

「何だかキリュウさんらしいですね」

最後に残されたのが、生前に拘っていたアルコールという事に、アキトは思わず苦笑を漏らした。
アキト自身はアルコールに弱いため、そうそう飲む事は無いだろうが、また機会があれば飲んでみようと心に誓う。

しかし、目の前に置かれた酒瓶に手を伸ばそうとするアキトに、マスターから静止の声が入った。

「この酒を受け取るという事は、瓶に掛けてある「鬼竜のメダル」を受け継ぐ事を意味する。
 つまり、『キリュウの後継者』として世に認識されるという事だ。
 お前さんはそれが何を意味するか・・・理解しているか?」






「また、とんでもないモノを引き受けたもんだ。
 僕がテンカワ君の立場なら辞退していたよ」

ネルガル会長室に入った後、アカツキが呆れたように呟く。

「キリュウさんからの大切な贈り物だ、無下には出来ないさ。
 それに・・・残された人に、自分の生きた証を残すという想いには共感する部分が有る」

首にぶら下がっている「鬼竜のメダル」を服の上から確認しながら、アキトが感慨深げに呟く。

「『キリュウの後継者』ね・・・改めて聞かされると、とんでもない意味があったのね」

同じく、アキトの着けているメダルの辺りを見ながら、エレナがソファーに座りながら嘆息をした。

「20年来、キリュウさんが戦場で命を助けた人達の協力を受ける代わりに、過去の怨敵には仇として狙われる。
 しかも、協力者も王族から保護した孤児まで多種多様すぎて、総数は把握出来ないときたもんだ。
 過去の戦歴が華々しいだけに、仇として大国を始めあらゆる札付きに睨まれているそうだし。
 ・・・良く今まで生き抜いてこられたよねキリュウさんって」

改めて聞くキリュウという男の凄まじい戦歴と実力の高さに、アカツキ達は戦慄を覚えた。

「あの店のマスターが言うには、近日中にあらゆる手段を使ってキリュウさんの死と、『キリュウの後継者』が現れた事を通達するらしいわね。
 それ以降、テンカワ君は気軽にそのメダルを、他人に見せられなくなるって訳ね」

「俺としても見せびらかすつもりは無いけどね。
 というより、俺程度の実力だと一週間もしないうちに殺されるかねない」

直接的な暴力には抗う自信は身についたが、搦め手にはまるで対抗手段が無い。
その事を今回の事件で思い知ったアキトは、軽々しく手に入れた力を披露する事の愚かさが身に染みていた。

「まあ、その話はまた別の機会に話すとして。
 実は昨日やっと、親父と兄さんの秘匿データベースをやっと閲覧する事が出来てね。
 テンカワ君が話してくれた内容について、色々と裏付けが確認出来たよ」

「ムトウ社長からパスコードを聞き出せたんだな?」

ネルガルの最秘奥とも呼べるデータベースの存在を、アキトはラピスから聞いてはいた。
しかし、嫌な予感しか浮かばなかったアキトは、直感に従いラピス達にそのデータベースへのアクセスを禁じ、アカツキに確認を求めていたのだ。

そしてその直感は正しかった。

「・・・あの内容は確かに、お飾りの会長には見せられないだろうねぇ
 ましてやラピス君やマキビ君が、係わる事を由としなかった君の判断は正しいよ。
 何て言うかな、血の繋がりを否定したくなるような内容だった」

「私にも教えてくれない位だしね」

ちょっとすねが入った口調で非難するエリナだが、アカツキが自分を守る為に口を開かない事は理解をしていた。

「知らない方がいいよ、この内容は僕が墓まで持っていくつもりさ。
 前に聞かされたボソン・ジャンプに係わった人間は不幸になる、改めて名言だと思うよ?」

「そんな名言は捨て去りたいもんだな」

アキトとアカツキはお互いに苦笑をしながら、腹の内に抱えた暗い感情を押し殺していた。

「さて気が滅入る話はこれまでとするかな。
 本題を話すけれど、来週早々に軍に対してナデシコ級2番艦「コスモス」を貸し出す事が、正式に決定されたよ。
 その時の臨時クルーとして、テンカワ君と僕とエリナ君が乗り込む予定だ」

「ちょっと待てよ、ナデシコに乗り込むのは俺だけで十分だろ?」

戦場の厳しさをお互いに肌で感じただけに、アカツキやエリナを態々危険な場所に連れて行く事は躊躇われた。
しかも今回は『戻る』前と違い、アカツキ達は後方で万全の援護体制を敷いて貰いたいと、アキトは思っていたのだ。

「勿論、テンカワ君の戦闘スキルに不安は無いよ?
 僕が心配しているのはそれ以外の脇が甘いところ。
 ついでにエリナ君が心配してるのは、テンカワ君の女性関係かな?」

「ぶつわよ?」

そんな注意をする前にアカツキの後頭部を、エリナは手に持っていた盆で叩く。

「この会長のお気楽発言は別として、テンカワ君の脇が甘いのは実際に怖いのよ。
 ネルガル株主としての意識も薄いしね。
 下手したら困ってる人に頼まれたって理由で、気軽に格安で譲ったりしちゃうでしょ?」

「・・・・・・ソンナコトシナイヨ?」

「気を許した身近な女性に迫られたりしたら、余計な事や機密関係をポロッと言っちゃうでしょ?
 というか機密レベルの判断とか、結構曖昧じゃないの?」

「・・・・・・ソ、ソンナコトナイヨ?」

「というより、この会長と二人で馬鹿をやってる時、私以外で止めれる人が居ないじゃない。
 それに、ここまで関わっておいて、今更仲間外れなんて許せないわよ。
 あまり冷たくすると拗ねるわよ、私でも」

そう言ってエリナは可愛く拗ねる仕草をするが、その視線にはアキトとアカツキの反論を封じ込めるだけの力が篭っていた。
正直に言えば二人には女豹が獲物を狙っているポーズにしか見えない。

「業務については、ミキの爺様とムトウ社長に任せておけば問題は無いさ。
 それに僕が自分で決めて戦争に関わろうとしているんだ、テンカワ君にそれを止める権利があるのかい?」

「・・・いや、確かにそんな権利は無いけどさ」

アカツキの視線を真っ向から受けて、先に顔を背けたのはアキトだった。

「僕と親父はそれほど仲が良い関係じゃなかった。
 特に小さい頃に母さんを亡くしてからは、疎遠になる一方だったもんさ。
 でもその分、兄さんとサヤカ姉さんが僕を構ってくれた。
 僕にとっての父であり、母と呼べる存在を奴等は奪ったんだ。
 ・・・テンカワ君、これは僕にとって降りる事の出来ない戦争なんだよ」



複雑な表情をしたアキトが不承不承ながらアカツキ達の参戦を認め、ラピスが待っているからと会長室から姿を消したのは30分後だった。

「結構テンカワ君の扱いが上手くなったわね」

「分かり易い性格をしてるからね」

お互いに苦笑をした後、アカツキはエリナに珈琲を頼んだ。

「テンカワ君の事が心配だから・・・なんて理由だと、意地でも参戦を認めないでしょうね」

珈琲を淹れながらエリナがアカツキに話しかける。

「実際、兄さん達の仇討ちも含まれているんだけどね。
 ・・・彼は優しすぎる、きっと一度信用した相手を切り捨てる事は出来ないだろうさ。
 今もこんな子供だましな僕の発言を、心の底から信じているんだからさ。
 でも今後、相手はそんなテンカワ君の弱点を確実に突いてくる。
 僕に出来る事は捻くれた性格を発揮して、彼の邪魔をする奴を見定めて炙り出す事かな」

「確かに会長の捻くれた性格は見事ですわ」

「絶対褒めてないでしょ」

極上の笑顔で渡された珈琲を受け取りながら、アカツキも楽しそうな笑みを浮かべた。







「本気で姉さんも戦争をしに宇宙に行くの?」

「そうよ、私が居ないと際限無く暴走するからね、あの馬鹿共は」

スーツケースに当座の着替え類を放り込みながら、エリナは背後で手伝いをしてくれているレイナに応えた。
レイナは例の誘拐から救出された当初はかなり混乱をしていたが、意外と芯が強かったのか翌日には落ち着いたので自宅に戻っていた。

「本当に姉さんが必要なのかなぁ・・・」

「どういう意味?」

ポツリと呟いたレイナの言葉を聞いて、思わずエリナはその真意を尋ねる。

「私がミサイルに狙われた時、テンカワ君が命懸けで守ろうとする姿に逆に怖くなった。
 恋人とかならまだ分かるけど、ただの仕事仲間を守る為に身を挺するなんて・・・
 命すら簡単に賭けてくれる彼に、私はどれだけの対価を払えるんだろ、って」

その時の事を思い出したのか、レイナは虚ろな瞳で自分の手を見ていた。

「きっと姉さんに危機が迫っても、同じ様に命懸けで助けてくれる。
 でもそう考えると逆に、テンカワ君の周りには守るべき人が居ない方が、彼は自由に動けるんじゃないかって思う。
 もしかして、私達は彼を必死に手助けをしてるつもりで、逆に足を引っ張ってるんじゃないかって」

「それは違うわよ」

震え出した妹を抱きしめながら、エリナは優しく否定の言葉を紡いだ。
レイナは内心では自分が浚われたせいでアキトが死に掛け、キリュウやサヤカが亡くなったと思いレイナは自分を責めていた。

「意外と精神的にタフなのは、アカツキ会長のほうよ。
 生まれ育った環境のせいで、信用していた人に裏切られても何処かで折り合いをつけて、独りでも何とか生きていける。
 でもね、テンカワ君は逆に誰かに必要とされないと駄目になる。
 とんでもない力を持ってるくせに、結局自分自身の為に使おうとしないから、明後日の方向に進んじゃうのよ。
 レイナが心配している通り、彼の自己犠牲については、散々会長達とも話しあったわ。
 その結果、彼を独りにする事の方が危ないと、皆の意見は一致してるの」

「でも・・・」

「あの人達は自分の信念に従って行動をして、その結果を受け入れたのよ。
 残された私達には、面倒な後始末を押し付けてね。
 レイナはその面倒事に巻き込まれた被害者なのよ?
 今は混乱していると思うけど、少し落ち着いたら改めて考えてみればいいのよ。
 今は無事に生き残った事を喜べばいいわ」

私はレイナが無事に救出されて嬉しかった。

姉に抱きしめられながら聞いた言葉に、レイナは静かに声を殺して泣いた。






「ラピスの事を宜しくお願いします」

「ええ、任せておいて。
 何しろ育児経験者よ私は」

コロコロと楽しそうに笑いながら、ラピスを後ろから抱きしめて御満悦のカナデがアキトにそう言う。
夕方のスバル邸リビングにて、もう直ぐ旅立つというアキトの話を聞いて慌てたカナデだが、ラピスの事を頼まれて機嫌を直していた。

「リョーコの面倒を一番見てたのは僕なんだけどね」

「ヒデアキさんは黙ってて下さいね」

アキトに余計な告げ口をする夫の脛を、手に持っていた扇子で一撃する妻。
その攻撃を受けて夫は無言のまま脛を抱えて悶絶した。

「まあお前ほどでは無いが素質は有るからな、基礎からゆっくり仕込んでおいてやろう」

「いえ、別にそういう意味で預ける訳ではないんですよ師匠・・・」

「そうなのか?」

アキトの発言を受けて、不思議そうに首を傾げるユウ。
ラピスの身の安全を守る上では、とても心強い存在の師匠だが、もしかすると早まったかもしれないとアキトは思った。

「私も強くなる。
 アキトの隣に居ても邪魔になりたくないから」

「うむ、本人もこういっておる」

「・・・お手柔らかにお願いしますよ」

カナデに抱えられたまま、両手を握り締めて決意表名するラピスにアキトは色々な意味で先行きの不安を感じた。
もっとも、その不安を感じた大本となる少年は、我関せずとばかりにテーブルの上に置かれているお菓子に手を伸ばしている。

「ハーリー君も本当に師匠に師事するつもりなのかい?」

「ええ、正義の味方を目指す者として、剣術を修めるのは当然です!!」

「だがお前に剣術の才能は無いぞ?」

ユウからその願いを一刀両断されるも、彼は揺るがない。

「足りない才能は努力で埋めるのです!!」

「・・・まあ、本人が習いたいと言うのなら、別に止めはせんがな」

視線でアキトに「何だコイツ?」と問い掛けるユウに、弟子は無言のまま首を左右に振った。




アキトがマキビ ハリという少年と初めて生身で会ったのは、アカツキが社長派との決戦に赴く前日の事だった。
ラピスの身柄を確保すると同時に、マキビの身の安全も確保しようと図ったのだ。

そして、ラピスの案内の元、彼の部屋を訪れたアキトは・・・

「・・・随分と個性的な部屋だな」

「私は入りたくない」

大画面ウィンドに戦隊物の映像を流しながら、ネット上の特撮サークルの掲示板に必死に書き込みを行う少年の後姿。
その少年は何故か真っ赤なスーツのような物を着用しており、頭部にもヘルメットを被っていた。
そして決して狭くは無い筈の個室一面に飾られている、ポスターから雑誌類からフィギュアの数々。

そこは、正に足の踏み場も無い原色に彩られた趣味部屋だった。

「あ、ラピスにテンカワさん。
 お久しぶりです」

「ああ、まあ、久しぶり・・・なのかな?」

実にフレンドリーに挨拶をしてくるマキビ(ヘルメット付き)に、今迄知り合ったIFS強化体質達とは違う明るさをアキトは感じ取る。
もっとも、別の意味でも逝っちゃっているような気がアキトにはした。

「そういえば明日が社長派との最後の決戦でしたよね!!
 いやぁ、やっとこの狭い個室ともお別れです!!
 今度からは思う存分、ショップ巡りや買い物が出来ます!!」

「この部屋も十分広いと思うけどね」

テンション上がってキター、と叫ぶ真っ赤に染まった少年の後姿に、ちょっとルリに色々と問い質したいと思うアキト。
もっとも、そのルリは未だボソン・ジャンプの途中なので実際には尋ねようは無いのだが。

「しかし、マキビ君にこんな趣味があったなんて初めて知ったよ」

ある意味、年相応の趣味かもしれないな、とアキトはフィギュアの一つを手に取りながら納得した。

「・・・それに関してはテンカワさんに感謝しています。
 『戻る』前には斜に構えてて、素直に両親に甘える事が出来なかった僕ですけど。
 今回の事があって、改めて実験動物ではなく、息子として愛されている事を感じ取れました。
 昔は自分が特別なんだって粋がってて、結局育ててくれている人を見下していたんですよね。
 面と向かって初めて「育ててくれて、ありがとう」って言った時、両親に泣かれちゃいました」

ヘルメットを脱ぎさり、照れたように笑うマキビの姿にアキトは絶句した。
彼には彼の人生が有り、その人生を狂わせた一因は自分に有ると思っていた。
その事について責められ事は覚悟していも、まさか礼を言われるとは正に予想外だったのだ。

「あ、僕の事はハーリーと呼んでくれていいですよ。
 それでですね、それから子供らしい事をしてみよう両親にも甘えよう、って思って色々と試していて特撮に嵌っちゃったんです。
 こんな面白い世界があったのに、子供騙しだって鼻で笑ってた昔の自分を殴ってやりたいです!!」

「あ、そうか、うん、そうだね」

段々とボルテージを上げてくるハーリーに、アキトですらその場から後退を始める。
ラピスに至っては「だから注意したのに・・・」という表情で既に廊下に退避をしていた。

「僕には、いえ僕達には無限の可能性が秘められているんです!!
 この英知を結集して、無敵の正義の味方を作る!!
 いえ作ってみせます!!
 テンカワさんを先頭に戦隊を結成し、エステバリスによる6神合体を実現させる!!
 僕の理想には必ずウリバタケさんもヤマダさんも共鳴してくれるはず!!
 そう、僕達の手でこの戦争の勝利を勝ち取るんです!!」

アキトは無言のまま、ハーリーの居る部屋の扉を閉めた。

「ラピス・・・」

ハーリーの連れ出しを諦め、唯一の味方にその仕事を頼もうとする。

「何も聞きたくない」

しかし、ラピスにまで切り捨てられたアキトはもっとも手っ取り早い解決方法として、ムトウ社長の家族を救出する事を理由にして逃げ出した。


翌日、何も言わなくてもハーリーはラピスと一緒に、ネルガル会長室に現れた。
流石に一般常識は残っているのか、あの趣味部屋を出る時には通常の子供服を着ていた事に、アキトは人知れず感謝をしていた。




ハーリーとのファーストコンタクトを思い出し、少し頭痛を覚えたアキトだが、決して悪い人間ではない事を師匠に説明する。
愛弟子の保証を受けてしぶしぶながらも、ユウはハーリーの弟子入りを認めた。

「これで正義の味方へのステップアップが一つ為された訳ですね!!」

「ハーリー煩い」

「だってラピスもメンバーの一員じゃないか!!」

「そんなのに入った覚えなんて無い」

「照れなくても大丈夫!!
 実際にやれば結構快感だから!」

「・・・もう遅いし帰れば」

「えー、つれないなぁ。
 でもそろそろ帰らないと、母さんが心配するかな」

いそいそと帰り支度をするハーリーを送る為、アキトも外出の準備をする。
ラピスとしてはアキトに着いて行きたいが、その隣に天敵が居る事を考えると二の足を踏んでいた。

「ラピスちゃんは小母さんと一緒に、買い物に行きましょうよ。
 ほら、ヒデアキさんも何時までも蹲ってないで、車を出してくださいな」

「はいはい」

すこし片足をひきづりながら、苦笑をしたヒデアキが車を取りに車庫に向かう。
出来た人だなぁとアキトはその背中を見送ってから、ハーリーと一緒にスバル邸を出た。


暫し、無言のまま二人は歩く。


「ハーリー君は俺のしている事に賛成かい?」

「どちらかというと賛成、ですかね。
 まあルリさんにラピスが協力してますし、僕も協力は惜しみませんよ。
 でも・・・三郎太さんの事を考えると、木連の人達の窮乏を一刻も早く救って上げたいと思います。
 残念な事にその力が僕にもテンカワさんにも足りない事も、良く分かっていますから」

頭が良いっていうのも、ある意味不便ですよね。

苦笑をする大人びた顔をした少年に、アキトも同じ様に頷いた。
木連の人達の現状については、ある意味地球の誰よりもアキト達は把握していた。
だが、その人達に手を差し伸べる手段と力が、未だ揃っていない事も確かだったのだ。

幾らネルガルというバックをつけたところで、一つの国家の窮乏を救い出すのは並大抵の事ではなかった。

「貴重な資源を使用して無人兵器を作るより、食料プラントを増産する方が先決なんですよ。
 当時の木連の状態について、以前三郎太さんが教えてくれました。
 なのに次から次へと無人兵器が作られて、地球に送られてくる。
 ・・・本当に木連の上の人達が何を考えているのか、僕には理解できません。
 怨恨だけでこんな無謀な事をするなんて、信じたくないだけかもしれませんが」

「だけど、このまま両軍の被害が大きくなれば、ますます和平は遠のくだけだ。
 ナデシコが活躍を続ければ、木連の目はナデシコに集中する。
 そして何時か有人ジャンプを成功させた時、きっと何らかのコンタクトを取ろうとする筈だ」

月臣から同じ様な話を聞いていたアキトは、彼等のコンタクト先として自分が選ばれるように動くつもりだった。
全ては未来の記憶に縋った行き当たりばったりの作戦だが、こちらから木連との連絡が不可能な以上、その記憶に頼るより方法は無かったのだ。

「ナデシコを・・・自分を餌にするつもりですか?
 確かにDFSを始めとした各種新兵器を使えば、木連にとって最優先で攻略する目標にはなるでしょう。
 でも、息切れして立ち止まれば死ぬような博打ですよ、それは」

「そうならないように、フォローを頼むよ。
 ルリちゃんやラピスそれにハーリー君が居ないと、俺は直ぐに息切れをして終わりだよ」

アキトが照れながら頭を下げると、ハーリーは笑顔で請け負いましたと返す。

「DFSについては僕に一任されてます、今後ドンドン新しい機能を載せますから楽しみにしていて下さい!!」

「あ、うん・・・お手柔らかに」

その輝かんばかりの笑顔に、一抹の不安を隠せないアキト。
どこまでも真っ直ぐなその性根を知っただけに、悪意なくトンでもない物を作りそうだとアキトは思った。

「それとアカツキさんの協力が得られたので、セカンドDにラピスが着手しました。
 基礎理論は出来てますから、案外近いうちに完成するかもしれませんよ」

「そうか、もうセカンドDを作っているのか・・・」

開発コードでファーストDはDFSを、セカンドDはアキトにとって二つ目の切り札を示していた。
後にDシリーズと呼ばれる兵器は順調に開発されている。

「ナデシコに合流する日は近いな」

「はい、僕とラピスも何時か乗るかもしれませんね」

夕闇に包まれた空をアキトとハーリーは揃って見上げた。







ネルガルが経営する病院のVIP対応の一室で、肥満体型の青年が一心不乱に朝から大量の食事を取っていた。
包帯だらけの身体を揺すりながら完食をした後、ごちそうさまと言い残して壁際に吊るされた黒の背広に手を伸ばす。
そして傷の痛みに呻きながらも何とか着替えを済ませると、ぎこちない動きながらも自分の足でドアと歩き出した。

「おいおい、全治1ヶ月の人間が何処に行くつもりだ?」

しかし、ダテがドアを開ける前に、アキトによってそのドアは開かれた。

「うるせー、こっちは仕事しないと食いっぱぐれるんだよー」

イテテテ、と溢しながらもダテがアキトに文句を言う。
そんなダテの姿に肩を竦めた後、アキトは後ろに着いてきていたアカツキと一緒に病室へと入ってきた。

「失業をしたんならネルガルで雇ってあげるよ?
 待遇から給料まで、クリムゾンには負けない自信があるけど?」

「会長直々の勧誘か・・・俺もやっと株が上がってきたみたいだなぁ」

嬉しそうに照れ笑いをするダテだが、アキトやアカツキにもこの男が誘いに乗りそうな気配を感じられなかった。
軽薄そうな態度をしているが、芯の部分では譲らない何かを持っていると思ったのだ。

「悪いが断らせてもらうわ。
 別にクリムゾンに恩義は無いが、寂しがり屋の恋人と仲間が待ってるからな」

「なるほど僕の誘いを断るには十分な理由だね。
 じゃあ、命の恩人に対して無粋なものだけど、これはせめてものお礼だよ」

かなりの金額が入っているカードをダテの胸ポケットに放り込み、アカツキがダテに道を譲る。
命の恩人でありサヤカとの最後の時間を作ってくれたダテに、アカツキは本当に感謝をしていた。
しかし、これから先の事を考えると、身内のネルガルで保護できない以上、クリムゾンに戻るダテの身の安全を保障する術は無かった。
もっとも、ここでアカツキの誘いに乗ってネルガルに鞍替えするような男なら、最初からアキト達を助けようとはしなかっただろう。

そして、ダテはアキトの前を通る途中で一度足を止める。

「・・・今回、お前さん達を狙ったのは「真紅の牙」の下っ端だ。
 あの組織のボスが出てきたら、こんな中途半端な結末は無かったろうさ。
 俺にしたって所属部署の上位組織の命令で、今回現地要員として徴用された三下だ」

次に仕掛けて来る時には、ホンモノが襲ってくるぞと、ダテはアキトに忠告をする。

「分かった、有難う覚えておくよ」

「へっ、よせよ俺達はダチじゃねえか」

「え? 誰と誰が?」



照れ笑いをしていたダテの顔が引き攣って止まった。



「テンカワ君、この話の流れでその台詞は無いよ・・・」

気の毒そうに首を左右に振るアカツキ。

「だってお前、クリムゾン所属のままじゃないか。
 俺はクリムゾンの人間にダチ呼ばわりされるのは嫌だぞ」

笑顔で本当に楽しそうに、ダテの親友発言を否定するアキト。
何気に今迄おちょくられてきた仕返しをしているのかもしれない。

「ちょっ、おまっ、此処でそんな事言う?
 俺の身を挺した友情に泥塗っちゃうわけ?ねえ?」

「まあダチは嫌だけど、悪友なら認めてやるぞ」

重症を忘れたかのように激高しかけたダテだが、アキトの「悪友」宣言を聞いて動きを止めた。
そして暫くの間、ブツブツと呟いていたが、やがて納得をしたのか大きく首を上下に動かした。

「そうだな、格好良い悪役を目指す俺様だからな。
 むしろ悪友という間柄の方が、俺達には相応しい」

「そういう事だ、悪友」

笑いながら握手をした後、ダテは懐から手の平サイズの小冊子を取り出しアキトに手渡した。

「俺の初めての悪友にプレゼントだ、「ダテっちグルメリポート 東南アジア編」!!
 是非とも活用してくれ!!」

「また、手作り感一杯なプレゼントを・・・大事に使わせて貰うよ」

受け取った手書きの小冊子を見て、アキトは知らず知らずのうちに笑顔になっていた。

「ちなみにこの小冊子は合計5冊存在していてだな。
 俺が善い人認定した人物で、さらに貢献度の高い人物にのみ与えられる一品なのだ!!
 ほら、表紙の裏の部分にアキトの善い人ナンバー389と記入してあるだろ」

「無駄に凝った設定だな、おい」

何処までもぶれない悪友の姿勢に、アキトは苦笑をする事しか出来なかった。
正直に言えばクリムゾンに戻った所で命が危ないダテを、ネルガルに引き止めたかった。

だが、それは無理だという事もダテと話していれば嫌でも分かる。

「じゃあな、悪友」

「次に有った時には食事を奢るよ」

「おう、またな悪友。
 それと豪華な食事を楽しみにしてるぜ、ネルガル会長さん」



そして振り返る事無く、ダテは病院から去っていった。






「じゃあ、俺はマウロさん達と今後の打ち合わせをしてくるよ」

「はいはい、僕はミキの爺さんに用事があるからね、ここで分かれるよ」

暫く二人してダテの姿を見送った後、アキトとアカツキはそれぞれの目的地に向けて移動を開始した。
特にマウロ達に用事が無かったアカツキは、サヤカが亡くなってから一度も顔を見せていないカズユキの元に足を運んだ。

流石に一人娘を亡くした事は心身共に堪えたらしく。
アカツキが会う度に萎縮していた、威圧的なオーラを放つ人物はそのベットの上には居なかった。

「ミキの爺さん・・・まるで要介護老人みたいだよ?」

「介護をしてくれる娘も亡くなりましたしな」

アカツキの悪態に噛み付く事もせず、淡々と返事をするカズユキ。
そして自分で放った台詞によって、更に激しく肩を落ち込ませる。

その覇気の無さに本来なら自分も陥っていたと思われる姿を見て、アカツキはアキトとエリナという存在に心の底から感謝をした。

「それで何か御用ですかな?
 今の会長に逆らうような気骨を持つような社員は、おりますまい」

「ミキの爺さんにまだ働いて欲しくてね。
 中立派と会長派の音頭を取れるのは、僕の知る限り爺さんしか居ない。
 ムトウ社長との協力は漕ぎ着けたんだから、後は社内の意思統一をすればそうそう相手も仕掛けてこれないでしょ?」

実際のところ、ムトウは今迄の行いを償う為に、必死になってアカツキのバックアップを務めていた。
その鬼気迫る仕事ぶりを見て、やはり長年の間、会社を実際に盛り立ててきた人間は違うと感心をしていた。

「確かにその通りですが、私としては引退をするつもりです。
 後の事は若い者がすればいい。
 アカツキ会長の若さに魅せられて、きっと有望な人材は集まってくるでしょう」

「そう言ってもねぇ、ミキの爺さん並みのカリスマと実力を持ってる人なんて、そうそう居ないよ?
 それに僕は週明けから宇宙に上がるしねぇ」

「宇宙ですか?
 ナデシコ級の建造を視察にでも行かれるのですかな?」

「いや、僕も戦争に参加してくる」

「何・・・ですと?」

次の瞬間、静かだった病室に怒声が響き渡る。
自覚が無いとは思っていたが、これ程までに軽率だったとは云々、と小一時間以上の説教が行われる。
もしアカツキが亡くなった時、親族間の派閥争いが再発しどれだけの社員に迷惑が掛かると思っているのか、から始まり。
途中からは老い先短い自分にこれ以上の激務をさせようというのか、この鬼畜生と罵られ。
最後の方では今は亡き娘の名を呼びながら、泣き落としに掛かった。

引き攣った顔をしたアカツキは、これも一種のショック療法と割り切り、病室に備え付けの椅子に座って辛抱強く説教を聴いていた。

やがて、喉を枯らしたのかあえぎ出したカズユキに、アカツキはコップに水を入れて手渡す。

「ここまで言っても堪えていない所を見ると、本気で戦争に参加するつもりのようですな」

「流石に冗談でこんな事は言い出さないよ。
 それと幾ら止めても無駄だだからね」

コップの中の水を飲み干した後、暫くの間無言でアカツキの顔を見た後、カズユキは深々と溜息を吐いた。

「マモル君には父親の悪癖が引継がれなかったが、弟には見事に引継がれているみたいですな」

「親父の悪癖って何さ?」

「チャンスが見付かれば、我が身を省みずに戦場すら赴く無鉄砲さですよ。
 昔から彼の後始末を・・・私が担当していました」

今では懐かしい思い出ですよ。

アカツキを見るカズユキの目には、既に孫を見るような色は無かった。






「褒められたと思う?」

「いや、呆れたんだろ」

マウロ達が屯している部屋で、アカツキから事の経緯を聞きだした後、マウロ自身が呆れたような口調で断定した。
ちなみに先行していたアキトは部屋に入った瞬間、リサに土下座を敢行し、止めろと言うリサの声に逆らい続けた挙句、後頭部を靴で踏み抜かれて倒れていた。

「おー、見事に靴跡が残ってるねー」

「というか、コイツ絶対リサの下着を見てたぞ。
 このムッツリスケベが」

「うわ、そんな趣味があったのテンカワ君?
 どうりでサド気質のエリナ君と気が合う筈だよ」

「・・・よし、良い度胸度だな二人とも」

怒りに震えるアキトが起き上がり、怒涛の如く連撃を二人に放った。



「いい加減、その何もかもが自分の責任って顔を止めてくれる?
 そりゃあ父さんが亡くなったのはショックだけど、これっぽっちも怨んでないわよ」

こんな仕事に就いてる以上、それなりに覚悟をしていたわ。

襤褸雑巾と化した二人の上に座り込むアキトに珈琲を手渡しながら、リサは気疲れしたような顔でそう宣言した。
しかし、肝心のアキトに至ってはまだ納得が出来ていないらしく、愚図愚図と小声で何かを呟いている。

その姿に苛ついたのか、リサはアキトの前に一つの書類を提示した。

「お父さん、元々先は長くなかったのよ。
 むしろ、あの場でアキト達を庇って死ねた事に満足してると思う。
 その事で、アキトやレイナちゃんが気に病むのは仕方が無いと思うけど。
 ・・・私や父さんが怨んでいないって事だけは分かってよ」

書類に記された難しい言葉の羅列はアキトには理解できなかった。
ただし、備考欄に赤丸がされている箇所にある、余命1年という単語だけは読み取れた。

「隊長は元々、死に場所を探していたんだよ。
 最初は無理矢理療養を取らせる為に、南アフリカの戦場からこの日本に来たんだ。
 アカツキの護衛を請け負ったのも、本当に小遣い稼ぎ程度の考えだったんだぜ。
 それが急に本腰を入れる対応に変わって、傍で見ている俺達にも活き活きとしているのが伝わってきたもんさ。
 誰も怨んでないよ、傭兵の死に方としちゃあ最上に近いんだからな」

青痣が浮かんでいる腕を押さえながら、マウロが立ち上がる。
それに続いてアカツキも、後頭部をさすりながら立ち上がった。

「今なら分かるけど、キリュウさんは後継者が欲しかったんだよ。
 でも自分が生きている間に、その後継者を見つける事を諦めてもいた。
 そんな中で、君を見つけ育てる事が出来た。
 ・・・そして、自分を犠牲にしてまで守りぬき、後継者としての道を固めた訳だ。
 断言しても良いよ、キリュウさんには後悔するような悔いは無い」

マウロとアカツキの言葉を聞き、アキトは胸元にぶら下がっているメダルを服の上から押さえた。
そんなアキトに対して、リサが改めて礼を言う。

「お父さんの跡を継ぐことがどれだけ大変なのか、私達は勿論よく知ってる。
 マウロなんかは怖気づいて、逃げ回っていた位だし。
 でもアキトはその理由を聞いたうえで、お父さんの意思を引継いだんでしょ?
 なら逆に感謝をしたいほどに、私は嬉しいわ」





「やっぱり引き受け取ってやがったな、アキトの奴・・・」

「まあ、予想してたけどね。
 やっぱり複雑だなぁ」

アキトとアカツキを送り出した後、マウロにもたれ掛かりながらリサは溜息を吐いた。
父親の理想は尊いと思う。
だけど、その理想を叶える為にはあらゆる事を犠牲にしなければならない。
キリュウ自身も色々なモノを犠牲にして、あれほどの業績を残してきた。
未だ若いアキトにその理想を背負わせるのは、酷ではないかとリサは考えていた。

正直に言えば、アキトには父の理想を受け継いで欲しくなかったのだ。
己の命を使ってまで呪縛とも言える想いをアキトに伝えた父に、ある意味戦慄すら覚える。

「後はアキトが同じ間違いをしないように祈るだけかな。
 まず無理だろ、自分より他人を優先するところなんて隊長そっくりだ。
 きっと、頼まれればどんな難題でも全力で取り組むぞ。
 あの手の奴を止める一番の方法は、大抵女絡みなんだが・・・
 養女のラピスちゃんにしても、むしろ手助けするような性格だしねー」

「確かに・・・私を引き取ってから、無茶をする回数が減ったもんねお父さん」

目の前で母を亡くし、呆然としてリサに生きる場所と理由を与えたのはキリュウだった。
その時にさんざん我侭を言って、キリュウが死地に赴かないように制止した事を思い出す。

「物分りの良い女じゃ駄目なんだよ。
 むしろ我侭を言って、常に構ってくれないと嫌だって主張するような女性じゃないと。
 ・・・難しいよな、アキトには惚れるのは簡単だけど、着いて行くのは困難過ぎる」

マウロ自身、それがどれだけ大変なのか良く分かっていた。
ましてや、この戦争の行き着く先として、アキトの将来はどう考えても決まっている。

「英雄を地に縛り付ける存在か、難しすぎる」

「よっぽど利己的な性格じゃないと無理ね」

英雄を縛り付けるほどの利己的な女性など、二人にはそうそう思いつかなかった。
しかし、何時か取り返しがつかなくなる前に、アキトにそんな女性が現れる事を願うしかない。

「私達に出来る事は、せいぜい後ろが気にならないようにサポートをしてやるくらいかな」

「戦艦に乗り込むような戦いなら、それ位しか出来ないだろうな」


窓から見える夜空を見上げながら、二人は弟分の無事を祈った。







ラピスを寝かしつけた後、アキトは誘われるようにスバル邸の中庭へと向かった。

「明日には出立するのか?」

「はい、お世話になりました」

そこには予想通り、晩酌をするユウの姿があった。

深々とアキトが縁側に座るユウに向けて、頭を下げながら感謝の言葉を出す。
ユウはそちらを向いて頷いた後、アキトに隣に座るように指差した。

「わしとの誓約は覚えておるな?」

「勿論、肝に銘じています」

「うむ、ならば言う事は無い」

ユウがアキトに対して誓約させた事。
それは出来る限り人を殺さない、というものだった。
アキトの人の良さ、そして心の弱さを見抜いたユウは、人を殺す事によって相手の命を背負う事を防ごうと思った。
この弟子は例え相手が悪人であっても、その命を奪った事に対して後悔をし、そのまま修羅の道に落ちていくと分かっていたのだ。

「お前はわしとは違う。
 わしならば下衆を斬った所で、因果応報と割り切れる。
 だがお前はその下衆の命ですら、背負い込んでしまうじゃろう。
 過去に何があったか聞きだすつもりはないが、一度修羅に染まったお前が何故か元に戻れた幸運を喜べ。
 本来ならば、お前のような人間が修羅に染まった時、その行く先は破滅しかないはずなのだ」

「はい、同じ道に踏み込まないよう気を付けます」

ユウの言葉は正にアキトの『戻る』前の状態を言い表していた。
自分の復讐の対象、そしてその復讐に巻き込まれて命を落とした人達。
その犠牲を知るからこそ、アキトは立ち止まる事が出来ず、修羅の道をひた走った。
しかし、ユウのいう幸運・・・奇跡によって、アキトはその罪悪感から解放された。

――――――今、この世界には自分が命を奪ったはずの人達が、確かに生きているのだ。

その事をユウに指摘され認識した時、アキトは滂沱の涙を流した。
そして、今度こそ間違いは犯さないと、自分を導いてくれたユウに対して誓約を行ったのだ。

「かと言って、相手に弱味を見せるではないぞ。
 敵を切り伏せる時は、手足の一本でも斬り飛ばしてやれ」

「勿論です」

いい感じに師匠の思考に染まってきたアキトは、物騒なユウの言葉にも間髪入れず同意する。
どうやら悪人でも殺さなければ大丈夫、という定義に思考誘導をされたらしい。

もっとも、これもアキトの弱点を補う為に、ユウなりに深く考えた案ではあったのだが。

「あの〜、そろそろ血生臭い話は止めにして、最後の酒盛りをしませんか?」

「家政婦さんにお願いして沢山おつまみも作って貰ってるから、今日はアキト君は台所に立たなくてもいいわよ」

日本酒の満たされたお銚子を盆に載せて運ぶヒデアキと、オードブルを満載した大皿を持つカナデが廊下の方から声を掛けてきた。

「うむ、家族の出陣だ盛大に送り出してやろうではないか」

小難しい話は終わりだとばかりに、ユウはアキトの肩を叩いた。




アルコールは駄目だと必死に辞退するアキトだったが、師匠と世話になった夫婦には無駄な抵抗だった。
口当たりのいい日本酒の冷を立て続けに飲まされ、一時間後には見事に出来上がっていた。

「こちらの修行も積まなければならんのぅ。
 弟子と酌み交わす酒は、また格別だからな」

「うぃーす」

そのような返事をすれば、普段なら木刀で一撃を貰うところだが、酒の席であり、正体を無くしかけている事を考慮してアキトは罰を逃れた。
普段とは余りに違うその姿に、カナデは声を殺して笑い、ヒデアキは苦笑をしながらユウの杯に酒を注いだ。

「本当にお酒に弱いのねぇ。
 これはリョーコに教えてあげて、酔わせて襲い掛かるようにアドバイスしておかないと」

「まあ、あの子もそれほど強くないけどね」

返り討ちにはならないけど、せいぜい引き分けになるのがオチだよ。

そんな事を考えながら、ヒデアキは真っ赤な顔をしたアキトによく冷えた水を渡した。
水を一気に飲み干した後、アキトは頭を冷やす為に洗面所へと向かった。

その後姿を見送りながら、カナデが夫に呟く。

「とうとう戦争に行っちゃうのね」

「リョーコと一緒に戦ってくれるんだ、心強いと思わないと」

「でも例えアキト君でも、万が一って事があるじゃない。
 私達にラピスちゃんをお願いした事を考えると、余程厳しい戦いになるんでしょうね」

「多分そうなんだろうね」

この八ヶ月の間に生活の一部として馴染んだ青年が戦地へと向かう。
接していた限りでは、どう考えても戦争になど向かない性格をした青年が。

「アキトにはまだまだ教える事が残っておる、奴もそれを承知しておるのだ。
 きっと無事に帰ってくる、わしらはそれを待っておれば良い」

「その時はリョーコも一緒だと嬉しいわ」

「それを楽しみにして待つとするかな」


三人は無言のまま、アキトとリョーコの無事を祈り、月に向かって乾杯をした。







翌日、よく晴れた空の下で別れの挨拶をする人達が居た。

「アキト、頑張って。
 それとちゃんと連絡をして」

「ああ、当分は月軌道上でアカツキと一緒に待機状態だからな。
 また暇を見て連絡を入れるよ」

どうにもマメさが足りないと被保護者に責められて、6歳児の前で背を丸めて謝るアキトの姿を、苦笑しながら周囲の人達は見ていた。
ほのぼのとした別れにも見えるが、この青年が赴く先は命を賭けた戦場なのだ。

「アキト君、リョーコに一度家に顔を出すように伝えておいて。
 それと、リョーコの事を宜しくお願いします」

「はい、必ず伝えます。
 そして、この家に無事に連れて帰りますよ」

アキトの右手を両手で握り締めながら、カナデが頭を深々と下げる。
そのカナデに向かって、アキトは力強く約束をした。

「リョーコの事は別にしても、僕達は君を本当の息子のように案じているよ。
 だから地上に帰った時には、是非顔を出して欲しい。
 家族として君を迎えたいんだ」

「・・・有難う御座います」

既に涙目になっているアキトの細身ながら逞しい肩を叩きながら、ヒデアキは真顔で頼み込んだ。

「俺って、家族と過ごした時間の記憶なんて殆ど無いんです。
 ですから、この家に来て、皆さんと一緒に過ごせて本当に楽しかったです。
 そんな人達に家族と呼んで貰えて、心の底から嬉しいです」

アキトはまた一つ負けられない理由が出来た事を、心の底に刻み込んだ。
この地、この家には守りたい家族が居る。

それを思うだけで、どんな死地に赴いても笑えるような心強さを感じた。

そして最後に、アキトはこの八ヶ月の間で一番世話になった人物に顔を向ける。

「存分に暴れてこい」

「はい、師匠!!」

ふてぶてしい笑みを浮かべる師に、アキトは満面の笑みで返事をした。







そして、様々な人達が、様々な思惑を持ち、それぞれの道を歩み始める。







「お父様、ネルガルからの技術提供を受けた以上、早急に明日香・インダストリーでも戦艦を製造しましょう!!」

「製造する事に反対はしないが、直ぐに戦争には参加させんぞ」

「どうしてですか!!」

「ネルガルとの技術提携と、対クリムゾンとの共同戦線にはメリットが有る事は認める。
 だが、まだ何も結果を出していないテンカワ君に、盲目的に肩入れする事は許さん。
 お前の好意のみで、会社とその社員を路頭に迷わせるような事は出来ん」

「・・・結果が出れば問題ないのですね?」

「ああ、そうだ」

「なら、1年後・・・いえ半年後を楽しみにして待っていて下さいお父様。
 私が選んだ男性が、どれほどの人物なのかその時には判明していますわ」

楽しそうに微笑みながら、カグヤは父親から背を向けて戦艦の建造現場へと足を運んだ。




「あの野郎、久しぶりに顔を出したと思ったら、明日から宇宙に上がるとか言いやがって。
 何の仕事をしてるのか知らねぇが、忙しい奴だぜまったく」

「あの木星蜥蜴が来る度に、震えて大声で喚いてた兄ちゃんだろ?
 サイゾウさんの直弟子なんだし、月でコックでもしてるんじゃないのか?」

「だと良いんだけどな、どうも突っ切った男の顔をしてやがったからなぁ」

「大将が追い出した事で、度胸が少しは付いたんじゃないの」

「そういう程度の顔付きじゃなかったんだけどなぁ
 ・・・ま、今度尋ねてきた時ににはラーメン一杯位サービスしてやるか」

弟子の将来に不安を抱きつつも、サイゾウは今も昔も変わらぬ店で同じ様に料理を作り続ける。




「何で私がまたネルガルの戦艦に乗らないといけないのよ・・・
 しかも、極秘任務とか言われて、ミスマル提督直々に開封厳禁命令書まで渡されるなんて。
 どのタイミングで開封するのかも未定って、怪し過ぎるんだけど?」

「お前の事を買ってくれたんだろ、光栄な事じゃないか」

「でもねパパ、ネルガルってどうにも胡散臭いのよ。
 あのナデシコって特に陰謀の塊って感じ出し。
 一番艦に乗っている時に、突然火星に単独で向かうと発表された時に心臓が止まるかと思ったわ。
 それなのに今度は二番艦に乗り込めって・・・苛めとしか思えないわよ」

「まあ、お前にとってはトラウマだからなぁ、あの火星での戦いは。
 それに意外と面白い事が待ってるかもしれんぞ?」

「・・・何を知ってるの、パパ?」

「それは行ってからのお楽しみだな。
 私自身、どうにも納得できないソースなんでな」

「ふーん・・・」

いまいち納得出来ないが、上官からの命令を逆らう事など思いも付かないムネタケは、テキパキと荷物の整理を行う。




「父親に似てきたな、あの会長殿も」

「やはり血の力は偉大だという事か・・・
 それにしても、ムトウ君とこうしてまた一緒に酒を呑めるとは思ってもいなかったな」

「・・・私こそ首でも心臓でもやるつもりで顔を出したんだがな」

「この年で刑務所は辛い、それに娘を亡くした今は会社の同僚位しか話し相手も居ない。
 それに会長派と中立派を纏める私と、社長派を纏める君が揉めていたらこれから先、話になるまい?」

「そうだな、すまんな卑怯な事をして」

「何、その分仕事を鬼のようにまわしてやる」

「ははは、散り際位は見事に咲いてみせないとな」

「その通りだ、幸いにも後を託す若い者に心配はない」

「全く、自分が老いたんだと、毎日身に染みてるよ」

「そう言えるうちは、まだ若いな」

病室に持ち込んだ酒を酌み交わし、老兵達はこらからの自分達と宇宙に向かった若者の戦いを思った。




「遅いわよ、二人とも」

「あー、定刻ピッタリだと思うんだけど?」

「だな」

「10分前には到着しておきなさいよ。
 基本でしょ、基本!!」

「・・・つまり、10分間ターミナルで独りで居て寂しかったと」

「ぶつわよ」

「痛そうだな、アカツキ」

「そりゃ滅茶苦茶痛いよ・・・スーツケースで殴られれば」

「さて、後ろに見えてるのがナデシコ2番艦「コスモス」よ。
 貴方達が乗るエステバリス・改、改め「エステバリス・カスタム」も搬入済み。
 後は月に向かうだけよ」

「そうか、とうとう月に向かうか」

「・・・色々とあったけど、これからも頼むよ二人とも」

「何よ急に改まって?
 背筋に怖気が走ったんですけど?」」

「いやいや、こういうのは言える時に言っておかないと。
 って、相変わらず僕に対して言う事が酷くない?」

「その意見には賛成だな。
 遂にここまで来れた、まだスタートラインとはいえ舞台に上がる事は出来たんだ。
 ・・・本当に有難う」

笑顔で手を差し出すアキトに、無言のままアカツキとエリナは手を重ねた。
この数ヶ月、色々な事を三人で乗り越えてきた。
笑顔もあった、泣き顔もあった、悲しい事があった、怒りを覚えた、我が身の不甲斐無さを叫んだ。

それらを全て呑み込み、己が血肉に変えて、三人はこの場に辿り着いた。

「後は突っ走るのみ、後ろは任せておきな相棒」

「暴走時にはきちんと止めてあげるわよ、私もチームの一人なんだから」

「ああ、頼りにしてるよ。


 さあ――――――行こう!!」









――――――研ぎ澄ました牙を携え、遂に戦士は宇宙へと昇る。





 

 

 

 

本編第八話に続く

 

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