< 時の流れに >

 

 

 

 

 

第十五話.遠い星からきた「彼氏」・・・今度の出会いは・・・

 

 

 

 

 

 

『・・・夢が明日を呼んでいる〜♪』

 

「誰だ〜? ゲキガンガーなんか歌っているのは!!」

 

「違うッス!! こん中からッスよ?」

 

「んな訳あるか!! 無人兵器なんだぞ。」

 

 そして、破壊された無人兵器の胸部がクレーンによって開かれる。

 

 

 グァァァァァァァァ・・・

 

 

『レッツゴー、ゲキガンガー3!!♪』

 

「・・・こいつは、まさかパイロットがいたのか!!」

 

 

 

 

 

「・・・無事、ナデシコに乗り込まれた様ですね。」

 

「・・・私は会った事無いんだよね。」

 

「彼が、ミナトさんの・・・」

 

 

 

 

 

「確かに・・・何者かが乗っていた形跡があるわね。」

 

 キノコが、そんな事を言ってます。

 現在、ナデシコはアキトさんを迎えに行く為に、月へと向っています。

 ですから、アキトさんが不在の時を狙って、キノコは自室から生えてきました。

 

 ・・・艦内の湿度が高いのでしょうか?

 

「しかし!! そんな事があるんでしょうか?

 木星蜥蜴は全て無人兵器だし。

 第一、普通の生物はチューリップを通過出来ないって、イネス先生が言ってましたよね。」

 

 ジュンさんが一つ一つ、確かめる様に意見を述べています。

 ・・・本当は軍人として優秀な人なんですよね。

 キノコより数倍マシなのは確かですね。

 

 

「お黙んなさい!!」

 

 

 あ、キノコがキレてる。

 

「とにかく!! 艦内にて敵パイロットを探し出すの。

 ・・・極秘でね。」

 

「はあ。」

 

 押しが弱いです、ジュンさん。

 そこで弱気になるから駄目なんですよ。

 

「どうぞ御勝手に。」

 

 あ、この人が居ましたよね。

 

「は?」

 

「へ?」

 

 突然の発言に、間抜けな声を返すキノコとジュンさん。

 そして、二人の視線の先には・・・

 

「何で俺達整備班が、そんな事しなくちゃなんね〜んだよ。

 ま、保安部にでも任せれば?」

 

 

 おぉぉぉぉぉおおおおおおお!!

 

 

 キノコとジュンさんに背を向けたまま、床に座っているウリバタケさんがそう言います。

 もっと言ってやって下さい、ウリバタケさん。

 整備班と私も応援してますよ。

 

 

 

「ルリ、私も・・・」

 

「だからって物理的(クレーンの荷物を落す)に、手助けをするのは駄目です。」

 

「・・・ちぇっ」

 

「ほ、本気だったの、ラピス?(汗)」

 

 

 

 

 

「そんな事したら、みんなばれちゃうでしょ!!

 パニックになるじゃない!!

 駄目よ!!

 上からも絶対に内密に、って言われてるんだから!!」

 

 

 ・・・既にパニックしてる人がそんな事を言っても、説得力は無いですね。

 

 

 

「・・・ラピス、スタンバイ。」

 

「OK、ルリ」

 

「ちょっと、ラピスそれは!!」

 

 

 

「まさかこのデカブツ・・・連合軍の新兵器、ってな訳じゃ無いよな。」

 

「へ?」

 

「俺達ナデシコと戦わせて、実験データを採っていたとかよ・・・

 まあ、テンカワの相手には、役不足だったみたいだけどな。」

 

 ウリバタケさんが自分の推理を述べます。

 う〜ん、でもそれは違うんですよね。

 

「・・・そうなのかしら?」

 

 けど、そのウリバタケさんの意見を聞いて、考え込むキノコが信じられませんね。

 貴方には主義主張と言うモノは、存在しないのですか?

 

 

 

「ラピス、GO」

 

「ポチッ!! とな。」

 

「ああ、押しちゃ駄目だ!!」

 

 

 

 

 ガラガラガラガラガラガラ!!

 

 

 ドッスゥゥゥゥゥゥンンン!!

 

 

 

「あんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「敵、殲滅を確認。」

 

「さすがですね、ラピス。」

 

「・・・生きてるかな?(汗)」

 

 

 

 そして格納庫では・・・

 

「俺達の船は俺達が守る!!」

 

 

「おお〜〜〜〜!!」

 

 

 何やら熱血をしてるみたいです。

 ・・・キノコの存在は、既に皆さんの頭の中には無いみたいですね。

 

 

 

 

 

 休憩所では何故か卓球を楽しんでいる、プロスさんを発見。

 その近くに・・・エリナさんがいますね。

 

 カコン、カコン!!

 

「意外ですな〜、ネルガル本社の意向はともかく。

 軍がよくテンカワさんを迎えに、月に行く事を許可しましたね〜」

 

 テンポ良く、ラケットでボールを跳ね返しながら、プロスさんがそう言います。

 ・・・結構、上手です。

 

 そのプロスさんの言葉を聞いて、椅子に座ってジュースを飲んでいたエリナさんが返事をします。

 

 カコン!! カンカン!!

 

「四番艦が軍の管理に置かれる前に乗り換えたい、という意向もあるらしいけど。

 軍には西欧方面から圧力がかかったらしいわよ。

 ・・・まあ、これは犯人が誰なのかは誰にでも解るけどね。

 それに、私としてはテンカワ君の事の方が気になるしね。」

 

 エリナさんのその発言を聞いて、プロスさんのラケットを振る手が止まる。

 

 ココン・・・

 

 卓球台から飛び出すボール。

 

「おやおや、やっぱりエリナ女史もテンカワさんに夢中ですかな?」

 

「う〜ん、今更どう言い繕っても、否定する事は出来ないわね。

 あの夜の事以来、ますます惹き付けられてるわ。

 ・・・実際、テンカワ君程魅力的な男性は、なかなか居ないわよ。」

 

 ちょっと頬を染めながら、プロスさんにそう言いきるエリナさん。

 プロスさんはその言葉を聞いて微笑んでいます。

 

「そうですか、まあテンカワさんが魅力的な男性である事は認めますよ。

 ですが・・・それ故に、ライバルは多いですよ?」

 

 眼鏡の位置を左手で直しながら、楽しそうに話すプロスさん。

 

「あら、私はそんなライバル達を追い抜いて、ネルガルの会長秘書になったのよ?

 新会長の秘書の地位も、恋人の地位も手に入れてみせるわ。」

 

 エリナさんは、何時もの冷たいイメージを疑うような、綺麗な笑みを浮かべます。

 ・・・悔しいですが、優しい雰囲気の綺麗な笑顔でした。

 それを見たプロスさんが驚く程に。

 

 

 

 

「強敵、ですね・・・」

 

「強敵、よね・・・」

 

「・・・」 (見惚れている)

  

 

 

 

「じゃ、そういう訳だから。」

 

 プロスさんとエリナさんの会話はそこで終わった。

 そう、この二人の会話は・・・

 

 

「納得出来ません!!」

 

 

「あら、艦長じゃない。」

 

 何処にでも出て来ますね、ユリカさん・・・

 

 ユリカさんの突然の出現に、少し驚いたエリナさん。

 しかし、直ぐに何時もの余裕を取り戻します。

 ・・・どうやら、この前の一件でアキトさんと私達に完全にやり込められ。

 良い意味で、人間として成長したみたいです。

 

 なら、私はライバルの成長の手助けをしたのですか?

 ・・・かなり複雑な心境です。

 

「アキトは私の大切な人なんですからね!!

 それと、これ以上変な実験にアキトを巻き込まないで下さい!!

 もしそんな事をしたら!!」

 

 キツイ眼差しでエリナさんを睨むユリカさん。

 アキトさんが月で無事だと知っていても、やはりあの光景には驚いたのでしょう。

 

「あら、恋愛の自由はこの艦の基本でしょ?

 それと・・・貴方は何もテンカワ君から聞いてないの?

 いや、それが彼の優しさ、か。」

 

「ど、どう言う意味ですか!!」

 

 自分の発言の後で、考え込むエリナさんをユリカさんが問い詰めます。

 そう、それはアキトさんの不器用な優しさ。

 ユリカさんを自分の戦いに、なるべく巻き込まない為の・・・

 

 幾ら心身共に強くなろうと、アキトさんの不器用な優しさは変らない。

 木星蜥蜴との戦闘では、私達に頼る事を覚えてくれました。

 ですが、クリムゾングループに関しては・・・

 まだ、ユリカさんや私達を巻き込む事を悩んでいる様です。

 その事を話しても、誰も迷惑だなんて思わないのに。

 

 

「・・・艦長、私が言える所までなら説明してあげるわ。

 テンカワ君が自分で艦長に話す事は・・・まず有り得ないと思うからね。」

 

「・・・解かりました。」

 

 そして、二人は休憩室を出て行きました。

 

「さて、私はどうしましょうかね?

 まあ、女性の修羅場を見るつもりもありませんし。

 ・・・でも面白そうですね、やはり私も顔を出しますか。」

 

 そう呟いて、プロスさんも休憩所を立ち去りました。

 ・・・結構、ゴシップ好き?

 

 

 

 

「まあ、ナデシコのクルーですし。」

 

「それで、納得出来るの?」

 

「・・・納得出来るんだよ、ラピス。」

 

 

 

 

 この時、ある人物がソワソワしているのを、オモイカネとヤマダ ジロウ(別名 ダイゴウジ ガイ)は見ていた。

 

「なあ、オモイカネ。

 ・・・イネスさん、何だかソワソワしてないか?」

 

『まあ、一種の病気だね。』

 

「そうなのか?」

 

 そして一人と一台(?)は再びアニメに没頭した。

 

 

 

 

 和風式の落ち着いた部屋・・・

 意外な事に、エリナさんの部屋は落ち着いた感じの漂う、純日本風の部屋です。

 

 その部屋の中で三人の人物、ユリカさん、プロスさん、エリナさんがコタツに入っています。

 

 コポコポコポ・・・

 

 二人と自分にお茶を煎れるエリナさん。

 ・・・これも意外ですが手慣れています。

 

 あ、会長秘書だったんですよね・・・・一応。

 ま、まさか料理も出来るのでしょうか?

 

 

 一口、お茶を飲んでから話しを始めるエリナさん。

 

「百聞は一見にしかず・・・

 火星から月軌道上のボソンジャンプ中、何かが起きたわ。」

 

 エリナさん達の目の前には、あの火星からのボソンジャンプをした時の・・・

 アキトさん達が展望室で気を失っている時の、映像があります。

 

「つまり、私とアキトの愛の力で奇跡を起した訳ですね(はーと)」

 

 それ、全然違いますユリカさん。

 プロスさんも、エリナさんも呆れた顔をされてますよ?

 

「イネス先生はさしずめ、愛のお邪魔虫(ガスッ!!)

 

 背後からの攻撃に倒れ伏すユリカさん。

 ・・・ですが、イネスさんそれは、ちょっと。

 

「・・・ドクター、それは幾ら艦長でも。」

 

「そうね、さすがに気を失っているわ。」

 

 手に持っていたバインダーの角で、イネスさんはユリカさんを攻撃したのです。

 ・・・前回はスリッパだったと、思いましたが?

 

 その強烈なイネスさんの突っ込みを見て、冷たい汗を流すプロスさんとエリナさん。

 

「あうぅぅぅ・・・」

 

「あら、私とした事が・・・

 どうしてこう、アキト君の事になると見境が無くなるのかしらね?」

 

 ・・・さり気無く、問題発言をしてくれますね、イネスさん。

 

 

 

 

 

「なあ、オモイカネ・・・

 イネスさんは、何時の間に出掛けたんだ?」

 

『さあ? でも人間の第六感って凄いよね。』

 

「・・・はあ?」

 

 

 

 

 

 そして十分後に、ユリカさんは見事に復活しました。

 

 

「さて、それじゃあ艦長も気が付いたみたいだし。

 説明を始めましょう。」

 

「はいはい。」

 

 エリナさんを始め・・・誰もイネスさんを止める気は無いようです。

 もっとも、イネスさんの説明を途中で止める事程、困難な事はありませんが。

 

「当人によれば・・・

 アキト君はかつて、火星から地球にボソンジャンプした可能性があるわ。

 アキト君は特別な存在・・・そう言う事でしょ?」

 

 コタツに入ったまま、説明をするイネスさん。

 ちょっとした疑問ですが・・・艦内はクルーの過し易い、一定の温度に保たれているのですが?

 

 ・・・これは、聞かない方が良さそうですね。

 

「そうか!! つまりアキトは私にとって特別な存在であって!!」

 

 

「「そうじゃない!!」」

 

 

 スパーン!! × 2

 

 

「い、痛いの・・・」

 

 絶妙のダブル突っ込み(今度はスリッパ)に、再び沈黙するユリカさん。

 まるで・・・漫才ですね。

 

 

 ズズゥ・・・

 

 

 そんな中、どこか達観した雰囲気でお茶を飲むプロスさん。

 でも、口元が笑ってますよ?

 

 暫くして、落ち着いたエリナさん達は会話を再開しました。

 ・・・実はこの三人、仲が良いのでは?

 

「テンカワ君の能力を解明する事は、生体ボソンジャンプの可能性を探求すると言う事よ。

 そうなれば、高度な有人兵器を木星蜥蜴に送り込める。

 ・・・戦況は一変するわ。」

 

「でも、その可能性は消え去った。」

 

 エリナさんの台詞の後を、イネスさんが引き継ぐ。

 

「え? それはどうしてですか?」

 

 ユリカさんがハテナマークを浮かべ、イネスさんとエリナさんに質問をする。

 

「ここからが、テンカワ君の秘密。

 ・・・だから彼の許可無しには私達は何も話せないわ。

 もっとも、私達も重要な事はテンカワ君から、聞かされてないけどね。」

 

 エリナさんが悪戯っぽく笑い。

 

「そう言う事ね、艦長。

 アキト君が帰って来た時に、聞いてみるといいわ。」

 

 イネスさんも微笑んでいます。

 

「ぶぅ!! 私だけ仲間外れ?」

 

 ユリカさんは・・・拗ねています。

 

「私達には・・・ある程度、話さないと止める事が出来なかったからね。」

 

「え?」

 

「まだ、一人で抱え込んでるのよアキト君は。」

 

「は?」

 

 エリナさんとイネスさんが、今度は寂しそうに笑います。

 

「正直な話し、テンカワさんはネルガルの暴走を止める為に、ナデシコに乗ったのでしょうな。」

 

 アキトさんがナデシコに乗る切っ掛けを作った、本人の言葉です。

 

「あのまま、生体ボソンジャンプの実験を続けても・・・意味は無かったみたいね。」

 

「ええ、それはアキト君から貰ったサンプルデータで解ったわ。

 彼は・・・本当に何者なのかしらね?」

 

 エリナさんの言葉を、イネスさんがフォローします。

 やっぱり良いコンビですよね、この二人。

 

「アキトの秘密・・・ですか?

 でもアキトは、ただのコック兼パイロットでしょ?

 そりゃあ、ずば抜けた実力の持ち主だけど。」

 

 ユリカさんがコタツに顎を乗せて、ブツブツと言っています。

 

「艦長、テンカワさんは貴方が思ってる以上に重要人物なのですよ。

 ・・・彼が、この戦争を終らせるキーパーソンだと断言しても、可笑しくないですな。」

 

「プロスさんがそこまで言い切るなんて。

 ・・・まだ、私はアキトの本当の姿を知らない?」

 

「もしくは、テンカワ君は艦長に知られたく無かった、か。」

 

「それも・・・考えられるわね。」

 

 イネスさんが独り言の様に呟きます。

 

「あら? 何か発見でもあったの?」

 

「ええ、あのサンプルデータを研究して、一つ解かったのは。

 ・・・特別な遺伝子情報を持つ人間にしか、ボソンジャンプに耐えられ無いみたいね。」

 

 もうそこまで解明しましたか!!

 流石ですね、イネスさん。

 

「なら・・・私達の実験は、やっぱり無駄だった訳ね。」

 

 少し、落ち込み気味のエリナさん。

 

「まあまあ、早い段階で事実が判明して良かったじゃないですか。

 時間もお金も、これ以上無駄に浪費する事は無いんですしね?」

 

「さすがプロスさんね、損得勘定なら切り替えが早いわ。」

 

「誉め言葉・・・と、受け取っておきますよドクター。」

 

 そんな朗らかな会話の中・・・

 ユリカさんは一人、思い詰めた表情をしていました。

 

 

 

 

「変に・・・思い詰めないといいのですが。」

 

「そうだね。」

 

「どうしよう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

第十五話 その2に続く

 

 

 

 

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