< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、後は神に祈るのみ・・・か。

 ・・・偶然を期待するのは、性に合わね〜んだけどな。

 

 俺は、その瞬間を見定め様と転がる物体に目を凝らした。

 次の瞬間に、俺の運命は決まる。

 

 天国か、地獄か・・・

 二つに一つの現実。

 そう、既にサイは振られたのだ。

 

 

 カラン、カラン!!

 

 

 

 

 

 この事件の始まりは・・・

 『科学者』が俺達に、緊急呼び出しを掛けた事から始まった。

 

 例の秘密の部屋に集まったのは15人。

 某同盟の仲間が全員揃っているわけだな。

 ・・・非常時でもないのに、全員を揃えるとは何事なんだ?

 

 部屋の隅に転がっている物体に、少々興味があるが・・・

 何時もの愚か者の一人だろう。

 

 あ、今少し動いたぞ?

 

「『赤い獅子』、話を始めるわよ?」

 

「あ、ああ悪ぃ!!」

 

 俺は気持ちを引き締めて、この場の会議に臨んだ。

 ある意味、この場にいる女性は全員敵だからな!!

 

 ・・・同盟の意味が無いんじゃないか?

 

 

 

 

 

「さて、実はこれは医者としての意見よ。

 それを始めに宣言しておくわね。」

 

「はい、解りました。」

 

 『妖精』が『科学者』の宣言に頷いた。

 そして、俺達もその後に続き頷く。

 

「正直に言うと、アキト君のストレスがかなり溜まってるわ。

 これは今までの戦闘と・・・私達、ナデシコクルーに対する配慮の為の心労ね。」

 

 その言葉に・・・俺は何も言い返せなかった。

 怪我をしている俺を支えて、この部屋に一緒に来た『銀の糸』も黙っている。

 

「実際・・・かなりの苦労をさせたみたいね。

 その分、今回のクルーの判断が嬉しかったみたいね。

 今は医療室で熟睡してるわ。」

 

「で、でも医療室には、例のがいて安眠の妨害をするんじゃないの?」

 

 『裏方』が心配そうに『科学者』に尋ねる。

 

 

 ニヤリ・・・

 

 

 それが・・・『科学者』の返事だった。

 俺を含め、全員がその場から一歩退く。

 

「ふっ・・・呼吸さえ出来ていれば、生きてるという証明なのよ。」

 

 い、意味はそうかもしれないが・・・

 コイツに逆らうのは得策じゃね〜な。

 

 俺は改めてそう思った。

 

「さて、アキト君の安眠は確実に守ってるから大丈夫よ。

 ついでに同室の患者達にも、主と同じ処理を施しておいたから。」

 

 そう言いながら、再び 微笑みを浮かべる『科学者』・・・

 

 処理、って何だよ? おい。

 まあ、生きてるならいいか。

 どうせ、あの某組織の幹部クラスばかりだし。

 

 あ、カズシ補佐官は、全然関係無かったよな。

 ・・・不幸な人だな、あの人も。

 

「どうも話が横道に逸れてばかりね。

 まあ、結論だけ言うとアキト君には休養が必要な訳よ。」

 

「ふん、ふん。」

 

 『天真爛漫』がしきりに頭を上下に動かす。

 ・・・まあ、考えている事は想像が付くが。

 

「じゃあ、私がアキトにつきっきりで看病を・・・」

 

 

「余計に悪化します(するわ)(するだけです)(するだろうが)!!」

 

 

「ふ、ふみぃぃ!! 皆して怒らなくていいじゃない・・・」

 

 全員の口撃により、『天真爛漫』の計画は阻止された。

 ・・・でも、隙を見て実行するんだろうな。

 ここは、俺がちゃんと監視をしておかなければ!! 

 

「・・・実際には、心の問題だからね。

 身体は健康そのものなのよ。

 そう、アキト君は鍛え抜かれた身体をしてるから(ポッ!!)」

 

 ・・・ちょっと、待て。

 なんだ、そのポッ!!っていうのは!!

 

「・・・そうですよね(ポッ!!)」

 

「・・・そうだよね(ポッ!!)」

 

 『科学者』のその言葉に反応を示したのは・・・

 『妖精』と『幼き妖精』だった。

 

 ・・・お、お前等まさか!!

 

「貴方達・・・まさか、アキトの・・・」

 

 『金の糸』の声が震えている。

 俺もその気持ちは良く解るぞ!!

 

「ふっ・・・医者として、患者の診察は当然の義務だわ。」

 

 勝ち誇った顔で、俺たちに勝利宣言をする『科学者』。

 

「・・・自分は科学者が本職だから、って最後まで医師のバイトを嫌がっていたくせに。」

 

 『裏方』のその追求に。

 

「遠い思い出、ね・・・」

 

 何処か遠くに視線を飛ばして、誤魔化す『科学者』だった。

 

「二人は・・・何を考えたのかな?」

 

 口調は穏やかだが、言外に底知れぬモノを感じさせる『三つ編』だった。

 そして、『妖精』と『幼き妖精』の返事は・・・

 

「私の仕事には、艦内の監視も含まれていますから。」

 

 薄く笑いながらそう応える『妖精』。

 

 これは・・・まだいい。

 仕事の領分を、かなり越えてる気がするが・・・仕事は仕事だ。

 

 ・・・プライバシーの侵害?

 何だ、それ?

 

 そして・・・

 

「私は、一緒にお風呂に入ったから。」

 

 

「何ですって〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 俺達の叫び声に・・・

 

「うきゃ♪」

 

 嬉しそうに悲鳴をあげる『幼き妖精』。

 その顔は優越感に浸っている。

 

 ・・・ちょっと前までは、例の侵入者のせいで落ち込んでいたが。

 テンカワと一緒にいる事で、調子を取り戻したみたいだ。

 

 取り戻しすぎてるみたいな・・・気もするが。

 

 

 暫しの時間が過ぎ・・・

 

 

「・・・まあ、『幼き妖精』への攻撃はこれで終わりにしましょう。」

 

 『科学者』の制止の言葉に。

 

「イエス!! マム!!」

 

 全員が声を合わせて返事をする。

 

「・・・酷いよぉ(涙)」

 

 

 

 

 

 

「なあ、ハーリー君。

 何も怪我をした時くらいは、ゆっくりと休んでいいんだぞ?」

 

「・・・いいです、僕が仕事をしたいんですよ。」

 

「・・・まあ、本人がそう言うならいいけどな(今度は何で脅されたんだ?)。」

 

「・・・(言えないよな、医療室に入ると問答無用で昏睡するなんて。)」

 

 

 

 

 

 

 そして事件が一段落をし・・・

 何だか話が全然進んでない、と思うのは俺の気のせいか?

 

「ふう、話を元に戻すわよ。

 つまり、アキト君に必要なのは休養なのよ。

 でも、アキト君が一人で休養を楽しむ事は、あらゆる意味で危ないわ。」

 

 

 コクコク・・・

 

 

 その説得力のある言葉に、俺を含め全員が頷く。

 

「月に到着したら、アキト君を月面シティにでも送り出すつもりなんだけど。

 ・・・ここで私達が付いて行くと、アキト君の休養にならないわ。」

 

「・・・」

 

 そりゃそ〜だ・・・

 

「しかし、アキト君一人だと・・・別の意味で危ない。」

 

「・・・」

 

 それも・・・十分にありえる。

 いや、半ば確定事項だと思ってもいい。

 

「そこで提案・・・

 一人、そう一人だけなら、アキト君に同行する事を許可するわ。

 名目は見張りだけど・・・この意味は解るわよね?

 勿論、他の人達は絶対に邪魔をしない事も条件よ。」

 

 『科学者』の爆弾発言に・・・

 

 

「それって・・・デート!!」(女性全員)

 

 

 俺達は嬉しい叫び声を上げる!!

 そして余りに美味しい話に、全員が『科学者』に確認をする!!

 

「そうとも言うわね・・・でも、話し合いでこの役目をする人を決めれないでしょう?」

 

 むう・・・バトルロイヤルなら、自信があるが。

 いや、『銀の糸』がいたな。

 それに、『金の糸』も中々侮れない。

 コイツは手加減とか容赦と言う言葉を、忘れる事が出来るタイプだ。

 『メンテ』も・・・実は、隠れた実力の持ち主だ。

 この前、ウリバタケを一撃で気絶させていたのを目撃したからな。

 しかも、今の俺は怪我をしている身だ・・・

 

 余りに不利過ぎる。

 くっ!! 身体が満足な状態だったなら、かなり分の良い戦いになったのに!!

 

 と、俺の思考がバトルロイヤルに傾いていた頃・・・

 話は全然違う方向に向いていた。

 

「では、どうするんですか?」

 

 『妖精』がその目を光らせながら『科学者』に聞く。

 

 ・・・いや、マジで怖いぞ。

 一番、敵には容赦をしない奴だもんな。

 

 そして『妖精』の言葉を聞いた『科学者』は、懐に手を入れ何かを掴み出す。

 それは・・・

 

「ここに、15面体ダイスがあるわ。」

 

 おい。

 

「勿論、全ての面は真っ白よ・・・ここまで言えば、解るわよね?」

 

 そう言って、『科学者』は微笑んだ。

 へっ!! 面白え〜、やってやろうじゃね〜か!!

 

 そして全員が、その意見に賛成をした。

 実際の所、話し合いでは絶対に決まらない問題だった。

 俺たちは結局、この15面体ダイスに頼るしか、方法は残されていなかったのだ。

 

「・・・じゃあ、私から書かせて貰うわね。」

 

 『裏方』が一番に自分の本名を書き・・・

 

「順番に書いていくね?」

 

 『五花』達が一人ずつ、順番に自分の名前を書いていく。

 そして、『妖精』、『幼き妖精』・・・と続き。

 最後の面には、『科学者』が自分の名前を記入した。

 

「さて、誰が振るのかしら?」

 

 『科学者』が全員の名前の書かれたダイスを、手の平の上で弄びながら全員に尋ねる。

 

 しかし、誰も自分から進んでダイスを振ろうとはしない。

 ・・・まあ、仕方が無いか。

 俺もこんなに緊張するのは、初めてエステバリス乗った時以来だぜ。

 

「・・・仕方が無いわね。

 私が振るけど、後で文句を言わないでよ。」

 

 そして、全員が見詰める中ダイスは宙を舞った。

 

 そう、サイは投げられたのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 プシュ!!

 

 

「こんにちわ〜・・・あれ?

 ミナトさん、先輩が何処に行かれたか知りません?」

 

「はぁ・・・」

 

「ミナトさ〜ん?」

 

「ああ、無駄だよカザマ君。

 ミナト君はこの前の事件の時から、ずっとこんな調子なんだ。」

 

「ふ〜ん、そうなのですか。

 ・・・オオサキ副提督かプロスさんは、先輩の居所をご存知なんですか?」

 

「いや、俺も良く知らないんだが・・・

 ま、急用でも出来ない限り、呼び出す必要は無いだろう?」

 

「いやいや、私も知りませんな。」

 

「・・・そうですか。

 じゃ、私は他を探して見ます。」

 

「おお、頑張ってな。」

 

「でも、余り業務を疎かにしないで下さいね。」

 

「はい!!」

 

 

 プシュ!!

 

 

「うんうん、良い娘だな・・・」

 

「そうですな〜」

 

「・・・(どうして僕には聞かないんだよ。)」

 

 

 

 

 

 

 

 カラン、カラン!!

 

 

 勢い良く、地面を転がるダイス。

 そして、ようやく動きの止まったダイスの上面には・・・

 

「・・・」

 

「ま、悪く思わないでね。」

 

 ダイスの上部の面には・・・『科学者』の本名が書かれていた。

 

「くっ・・・!!」

 

 俺は唇を噛み締めて悔しさを誤魔化す。

 ここ一番で、俺の運は叶わなかった様だ。

 

 隣では『金の糸』『銀の糸』の姉妹が泣いている。

 『五花』達もお互いに慰めあっている。

 『メンテ』と『裏方』が二人して何やらブツブツと言っている。

 『天真爛漫』が『三つ編』に泣き付き、『三つ編』も一緒に涙を流し・・・

 

 そして、『妖精』と『幼き妖精』は静かにダイスを睨んでいた。

 

「さて、約束は約束よね。

 じゃ、ナデシコが月に到着したら・・・」

 

「待って下さい。」

 

 勝ち誇る『科学者』の台詞を、『妖精』が遮る。

 

「何かしら?

 今更文句を言うなんて、貴方らしく無いわね。」

 

「結果に文句は言いません。

 ですが・・・一つ、確かめたい事があります。」

 

 そう言って、足元に転がっていた例のダイスを拾い。

 投げる。

 

 

 カラン、カラン!!

 

 

「・・・二回連続ですか。

 15分の1の確率ですから、統計上では二回で225分の1、ですよね。」

 

「じゃ、私も。」

 

 そう言って、『幼き妖精』がまたダイスを投げる。

 

 

 カラン、カラン!!

 

 

「ふ〜〜〜〜〜ん、三回連続か〜〜〜

 凄い強運の持ち主なんだね、『科学者』さんて。」

 

 

 シ〜〜〜〜〜〜ンンンンン・・・

 

 

 部屋に・・・沈黙が落ちる。

 

 

 カラン、カラン!!

 カラン、カラン!!

 カラン、カラン!!

 カラン、カラン!!

 カラン、カラン!!

 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・

 

 

 『幼き妖精』のダイスを投げる音だけが、部屋に響き・・・

 

「これで四十八回連続で、『科学者』さんだね。

 ・・・宝くじでも買ってみる?」

 

「・・・遠慮しておくわ。」

 

 

 テンカワ アキト監視デート選考戦、『科学者』脱落

 

 

「ふっ・・・あの子達の冷静さに負けたわ・・・」

 

 

 

 

 

 次に全員で話し合った結果・・・

 ここは平等に、くじ引きで決める事になった。

 

 『裏方』の作ったクジを全員が引いていき・・・

 

「・・・ねえ、『裏方』さん。

 途中で、御自分の分を引いてみてくれません?」

 

「え!!」

 

 『三つ編』の予想通り・・・当たりクジは無かった。

 

「ふふふ、使い古したですね。」

 

「くっ!! この娘の策略好きを忘れていたわ!!」

 

 

 テンカワ アキト監視デート選考戦、『裏方』脱落

 

 

 ・・・以後、熾烈な戦いが繰り広げられる。

 

 時には笑い。

 

 時には泣く者が続出した。

 

 ジャンケンもした、あや取り(?)もした。

 『科学者』の作った、怪しい対戦ゲームもした。

 そして・・・

 

「『赤い獅子』さん・・・最後の勝負です。」

 

「おお、掛かって来い『銀の糸』!!」

 

 その前の勝負・・・七並べで、『三つ編』と『金の糸』は撃破していた。

 俺はこの手のゲームは苦手なのだが。

 それを知っている皆は、俺を戦力外と判断し、お互いに潰し合いをした結果。

 俺は最終ラウンド・・・二人ババ抜きに残っていた。

 

 最後のライバルは・・・『銀の糸』だった。

 

 全員の見守る中、俺達の手札は次々と減っていく。

 

 

 パシ!! パシ!!

 

 

「・・・私が残り一枚。」

 

「そして、俺が残り二枚。」

 

 そう、俺が今・・・Jokerを持っている。

 

 そして、『銀の糸』の手が伸び・・・

 

    スッ・・・

 

 少しの間、躊躇った後。

 俺から見て、右側のカードを引く!!

 

「・・・へっ!!」

 

「くっ!!」

 

 『銀の糸』は見事にJokerを引いていた!!

 ポーカーフェイスの苦手な俺が、ここまで無表情を保てるなど・・・

 やはり、人間は欲望に素直だと言う事だな!!

 

「・・・次、どうぞ。」

 

「・・・おう。」

 

    スッ・・・

 

 ・・・迷わず俺が抜き取ったカードは。

 

 Jokerだった。

 

「・・・」

 

「フフフフ・・・」

 

 お互いの眼光が、宙でぶつかり合う。

 

 ・・・この勝負、絶対に負けられね〜ぜ!!

 

「じゃ、こちらを・・・」

 

 良し!!

 

「と、思いましたけど、やはり隣を頂きます。」

 

 げっ!!

 

「・・・顔に出てますよ、『赤い獅子』さん♪」

 

「何!!」

 

「・・・馬鹿」

 

 『妖精』のその言葉が背後から聞こえ・・・

 『銀の糸』の腕が、ハートのAを俺の手元から奪い去った。

 

  パサ、パサ・・・

 

 二枚のカード・・・ハートのAとダイヤのAが地面に散り。

 

「あがり・・・です。

 ・・・やった〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!

 やりましたよ!!

 これでやっと、以前から楽しみにしていた、お気に入りの洋服が着れます!!」

 

 勝利者の、その声を聞きながら・・・

 俺は燃え尽きていた。

 

「へへへへ・・・

 真っ白になっちまったよ、とっつぁん・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・かなり、不本意です。」

 

「私達、あや取りなんて知らないもん!!」

 

「でも、リョーコさんがあや取りをされるとは・・・」

 

「・・・それも、意外だったよね。」

 

 

 

 

 そして、ナデシコは月に到着した。

 一人の幸福そうな乙女と・・・

 俺を含め、燃え尽きた多数の女性を連れて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十七話 その3へ続く

 

 

 

 

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