< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、あのヤマダの奇行は何時もの事だしな、忘れよう。

 しかし・・・頑丈だよな、あの男も。

 

 俺は床に倒れて痙攣をしているヤマダを見て、溜息を吐いた。

 あの新型エステを操れるんだ、間違い無く腕は超一流だろう。

 しかし、性格の矯正が未だ追いつかね〜

 

 それでも以前の様な、突撃バカの癖は直っている。

 チームプレーも、それなりに考えて行ってるみたいだ。

 まあ、それは教官が優秀だからかもしれんが・・・

 

 アキトの戦闘の教え方は手加減無しだった。

 自分から攻撃をして、徹底的に相手の弱点を攻める。

 それはもう、見ていて面白いくらいにヤマダ達は撃墜されていた。

 そして、それ以上は何もしない。

 自分で考えて、工夫しろという事らしい・・・

 遅くまで、フォーメーションについて討論をしているパイロット達の姿を見た。

 何度も何度も、シミュレーターに挑む姿を見てきた。

 だからこそ、俺は信頼して新型エステの性能を、極限まで伸ばしたのだ。

 

 コイツ等なら完全に操れると信じて。

 

 そして、今日の戦闘で・・・

 まあ、相手も新兵器を出してきてたからな。

 撃墜されなかっただけで、良しとするか。

 でもな〜、ヤマダ・・・もう少し考えて戦えよ。

 

 俺は、ヤマダの新型エステ・・・『ガンガー』を見て、溜息を吐いた。

 俺達にとっては、修理も仕事だからな・・・別に文句は言わんが。

 

 だが、ヤマダにフルバースト・モードはやっぱり危なくないか〜?

 

「・・・見事に、壊れましたね。」 

 

「おう、全くだぜルリルリ・・・

 システムのメンテを頼むな。」

 

「はい、解りました。」

 

 俺の隣に来たルリルリも苦笑をしている。

 しかし、逆に考えればこの新型エステだからこそ、ヤマダは無事に帰還できたのかもしれない。

 通常のエステでは・・・撃墜されていただろう、な。

 

「でも『ガンガー』ですか?」

 

「ああ、幾ら自分で名前を付けていいから、ってな〜

 趣味に走りやがって・・・」

 

 フルバーストの解除コードは、そのまま自分のエステの名前でもある。

 アリサちゃんは『ルナ』

 リョーコちゃんは『マルス』

 そして、ヤマダが『ガンガー』だ。

 

「では、ヒカルさん達は?」

 

「私? 私の解除コードはね『煌』(こう)だよ。」

 

 ルリルリの言葉に、ヒカルちゃんが返事をしてきた。

 ヒカルちゃんの機体は、スタンダードな仕上げになっている。

 その分扱える武器の幅が広い。

 ライフルからランチャーまで、何でもござれだ。

 それは、イズミちゃんの機体にも言える事だが・・・

 そして、二人共に専用武器を持っている。

 

 ヒカルちゃんの『煌』『ノイズ・クラッシュ』

 

 これは電子機器に致命的な打撃を与える電波を、自分を中心に広範囲に発生させる事が出来る。

 勿論、味方機には防御機構が組み込まれている。

 しかし、指向性を持たせ収束して放つと・・・その防御機構すら破壊する。

 もっとも、この指向性を持たす為にはかなりのパワーが必要になり・・・

 当然そうなると、フルバースト・モードでなければ使用出来ないのが欠点だ。

 

「ヒカルさんの名前を、元にしてるんですね?」

 

「そうだよ〜、色々と考えたんだけどね。

 イズミの機体の名前を聞いたら、普通が一番に思えてきちゃって・・・」

 

 そう言って苦笑をするヒカルちゃん。

 ・・・俺も顔が引き攣るのを感じた。

 

「イズミさんが・・・どうかしましたか?」

 

「・・・『鯖』(さば)」

 

「・・・『鯖』、ですか?」

 

       コクン

 

 そう言って頷く、イズミちゃん。

 

 そして、背後に突然現れたイズミちゃんにちょっと驚きつつ・・・

 イズミちゃんの解除コード兼、新型エステの名前を聞き返すルリルリ。

 

 流石のルリルリの頬も引き攣っている。

 まあ、その気持ちは解らなくは無い・・・

 

「好物なの・・・」

 

「そ、そうですか。」

 

 イズミちゃんの新型エステは、基本的にはヒカルちゃんと同じだ。

 だが、その専用武器は右肩に装着された『キル・ディフェンス』だ。

 これは名前の通り、敵のディストーション・フィールドを無効化する装置だ。

 フルバーストを使用すれば、『ブローディア』のディストーション・フィールドさえ、一瞬だが中和できる。

 

 まあ、中和だけできてもな〜

 俺はそう思って苦笑をした。

 

 この二人の装置は、前衛にいる味方のバックアップを、主な目的にしている。

 ヒカルちゃんが『ノイズ・クラッシュ』で電子機器を一時的に麻痺させ。

 イズミちゃんが『キル・ディフェンス』でディストーション・フィールドを無効化する。

 そして、前衛三人の攻撃が活きる訳だ。

 

 リョーコちゃんの『赤雷』

 アリサちゃんの『ヴァルキリー・ランス』

 そして、ヤマダの『B・フィスト』

 

 ・・・ヤマダの『B・フィスト』は、別名ブラックホール・フィストと言う。

 右の拳に装着したナックルガードに、例のマイクロブラックホールを作り出すのだ。

 通常では、そこまでの出力は無い。

 それに、ヤマダの集中力の問題で、ブラックホールまでは出来ない。

 しかし、それを可能にするのがフルバーストだ。

 短い時間と決められた個所とは言え、ヤマダにアキトと同じ攻撃力が宿る訳だ。

 

 そして、今回の『B・フィスト』が無ければ・・・

 ヤマダは相討ちにまで、戦いをもっていけなかっただろう。

 もっとも、本人は『ガイ・ハイパー・ナックル』と呼んでいるがな。

 

 ・・・少しは俺達に感謝しろよ、ヤマダ。

 

「そして、これがカザマさんの機体でよね。」

 

「ああ、そうだ。」

 

 暗褐色の機体を見上げながら、ルリルリが俺に聞いてくる。

 この機体が特に目立つのは、その背にある二つの巨大な砲台の為だ。

 

 片方が、先程も言った『グラビティ・ランチャー』

 そして、もう片方は『フェザー・スマッシャー』

 

 『グラビティ・ランチャー』は、戦艦クラスに近い出力のグラビティ・ブラストが発射可能だ。

 そして、『フェザー・スマッシャー』・・・

 こいつは、『ブローディア』の『フェザー』を打ち出す装置だ。

 DFSと同じフィールドを纏った弾丸・・・・つまり『フェザー』と同じ材質の弾丸だ。

 これの貫通力は想像を絶する。

 少なくとも、戦艦のディストーション・フィールドなど紙と同じレベルだろう。

 それだけに、準備に時間が掛かるのが弱点だが。

 それもフルバースト・モードにすれば、連射が出来る様になるのだ。

 

 もっとも、フルバーストを実行すれば機体の冷却の為に、当分活動が出来なくなるがな。

 しかし、その事を差し引いてもフルバースト・モードは凄い。

 

 攻防を兼ねた『光翼』を展開し。

 ジェネレーターは瞬間的にだが、普段の3倍増のエネルギーを搾り出す。

 そのエネルギーから得られる、爆発的な加速と攻撃力の増大。

 

 まさに、奥の手だ。

 

「それで、カザマさんの解除コードは何なのですか?」

 

「・・・『白百合』、だそうです。」

 

 ルリルリの質問に、アリサちゃんが何とも言えない顔で答える。

 

「・・・本物、ですか?」

 

「・・・かも、しれませんね。」

 

 そして、二人して黙り込む。

 ・・・可愛い子なんだけどな〜、イツキちゃんも。

 でも、誤解かどうかしらないが女性陣からは避けられてるな、うん。 

 

「・・・まあ、この事は記憶の奥底に封印しましょう。

 ブリッジに居る私には、余り関係の無い話ですし。」

 

「でも、少し前ですが「ルリちゃんて可愛いですよね♪」と言ってましたよ。」

 

    スタスタスタ・・・ 

 

 そのまま、ルリルリは無言で格納庫を去って行った。

 ・・・当分、顔は出さないだろうな。

 

「でも、アカツキさんには何故、専用の武器を作らなかったのですか?」

 

「ん?

 ああ、アイツはその場で劣勢な個所を、カバーしないと駄目だろう。

 だから重装備だと機動力が落ちるし、軽装備だと前衛は務まらね〜

 長所が無い分、短所も無いスタンダードが一番なんだよ。

 ・・・その代わり。」

 

「その、代わり?」

 

 アリサちゃんが不思議そうに、俺に聞いてくる。

 

「アカツキは『ラグナ・ランチャー』の使用許可をもらってる。

 本当に必要だと判断した時・・・アイツはあの『力』を使用出来るんだ。

 当たれば、『ブローディア』でさえ破壊可能な『力』を、な。」

 

 俺の言葉を聞いて、驚いた表情をするアリサちゃん。

 ・・・そう、この七人が一致団結すれば。

 アキトの『ブローディア』を倒す事も、可能になる。

 それは北斗の『ダリア』も同じ事だ。

 

 もっとも、その状況に持っていくのが、一番大変なんだけどな。

 

 テンカワの奴は、自分が更なる『力』を手に入れた分。

 その『力』を止める『力』も用意した。

 

 これは、テンカワの覚悟を示している・・・

 『俺を信じられ無いのなら、止めてみせろ』、と。

 

「・・・そんな事にばかり、気を使うんですね。

 アキトさんらしいです、本当に。」

 

「まったくだ。」

 

 俺は自分が作った最高傑作達を見ながら・・・

 コイツ等同士の戦いは見たくない、と心から思った。

 

「そう言えば、アカツキさんの解除コードは何なのですか?」

 

「・・・『ジャッジ』、苦笑をしながらそう言ってたな。」

 

「審判・・・ですか。

 一番辛い役目を貰ったんですね。」

 

 俺は格納庫の隅で、ブロスとディアと楽しそうに話しているアカツキを見た。

 あの男も、本当は断りたかったんだろうな。

 だが、抑止力は必要だ。

 それほどに、『ブローディア』の戦闘能力は異常であり・・・

 それを止められる、人間も限られている。

 

 テンカワからその真意を聞いた時、アカツキはどう思っただろう?

 自分達を鍛えたのは、北斗に対する為だけでは無く。

 自分を止める抑止力となる為だった、とは。

 

 きっと、引き攣った笑いをした事だろう。

 戦友を殺す術を、その戦友から伝授されたのだからな。

 

 アカツキの奴も、ナデシコに来てから変った。

 最初は何でも斜に構えて、生意気な野郎だったが・・・

 テンカワにプライドを粉砕され。

 俺達と馬鹿をやってるうちに・・・人間として、余裕を見せる様になった。

 細かな気配りとかも見せるし。

 結構リーダーシップも持ってやがる。

 そう・・・今では、俺達の大事な仲間だといえる。

 

 だから戦闘時には、フォーメーションのリーダーには適任だった。

 その結果が・・・テンカワを裁く立場に、立たされるとは。

 

 だが、その立場の人間がいなければ、際限無くテンカワが疑われるだろう。

 個人の力量を遥かに超越した域に、アイツはいる。

 これからも、ナデシコの単独行動を認めさせる為には、抑止力の存在は必要不可欠だ。

 

 それだけ・・・テンカワに、信頼されているんだ。

 期待を裏切るなよ、アカツキ。

 

「ねえねえ、ウリバタケさん。

 他に皆の新しい武器って無いんですか?」

 

「ふっ、艦長・・・俺達の仕事を、舐めたらいかんぜよ!!」

 

 俺は気持ちを切り替え、艦長の質問に応える。

 

「この新型イミディエット・ナイフは、何と刃にDFSのフィールドを展開可能にした!!」 

 

 先の事なんて・・・誰にも解らん。

 

「それとラピッドライフルも、個人に合わせて強化したぞ!!

 ヒカルちゃんや、イズミちゃんのライフルは連射能力を強化!!

 その上、『フェザー・スマッシャー』と同じ弾丸を使用可能だ!!

 ・・・もっとも、出力の関係上威力は落ちるがな。」

 

 明日には、もしかしたらナデシコは沈んでるかもしれん。

 

「個人の自由で、オプションとしてカノン砲、レールガンも選択出来るぞ。

 全部、テンカワが使用していた高出力な武器だ。

 その威力は保証するぜ!!」

 

 それでも、あのテンカワやアカツキ達が頑張るのなら・・・

 

「お約束の、ミサイル・ポッドもあるぞ!!

 それに、ワイヤード・フィストにも交換可能だ!!

 ・・・もっとも、これはヤマダしか喜ばなかったがな。」

 

 俺は、アイツ等の生還率を上げる為にも、精一杯整備をするだけだ。

 

 ムネタケ、お前は結局何も解ってね〜よ。

 俺達は精一杯、生きていただけだ。

 テンカワもそうだ。

 

 一歩、踏み出して。

 同じ馬鹿をやっていたら・・・お前も変れたかもしれんぞ。

 

 

 

 相変わらず騒がしい格納庫の中で、俺はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第十八話へ続く

 

 

 

 

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