< 時の流れに >

 

外伝  漆黒の戦神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がこの研究所で目覚めてから、後少しで一年が経つ。

 ダッシュとの仲も良好だし。

 ハーリーを苛めて遊ぶのも楽しい。

 研究所の人達は、予想以上の成績を出す私には優しい。

 ・・・上辺だけの、良質の作品に対する優しさだけど。

 

 でも、いいの。

 本当の優しさはアキトがくれる。

 優しい微笑みも。

 暖かい気持ちも。

 いろいろな感情も。

 そして友人も。

 

 ホシノ ルリ。

 もう一人の私。

 アキトの大切な人。

 そしてハーリーと同じで、私の友人。

 ・・・私と同じ気持ちをアキトに持つ人。

 そう、人。

 私と同じ遺伝子操作をされたけど・・・人。

 それを教えてくれたのもアキト。

 

 

 アキト・・・心配だよ。

 アキトの心が乱れてる。

 過去に戻ってから、日毎に穏やかになっていた心が。

 今、散り散りになってるよ。

 何が苦しいの?

 何が悲しいの?

 せめて・・・私には話してよ・・・

 

 

 

 

(ラピス、ラピス!!)

 

(ん? ・・・アキト? アキト!!)

 

 私の目が一瞬にして醒める。

 アキトがナデシコから出向して以来、初めての会話だった。

 ・・・でも、今は深夜の2時だよアキト。

 

(御免、寝てたんだなラピス。)

 

(ううん、別にいいよ。

 そうそう、ダッシュとまた新しい技を考えたんだよアキト!!)

 

(そ、そうかい(汗))

 

 あ、アキトちょっと焦ってる。

 でも絶対に役に立つ技なんだけどな〜

 

(ラピス、俺は今西欧方面軍の最前線にいる。

 だから日本との時差がほぼ半日になる。

 今後は生活の違いからあまり話しが出来ないんだ、御免。

 それと・・・どうも納得が出来ないんだ。

 自分で言うのも何だが、俺を東南アジア方面軍が手放すとは思えない。

 何か裏が無いか調べてみてくれないか?)

 

 あ、だから夜中に話しかけてきたんだ。

 

(うん、解ったよアキト。

 別に夜中でもいいから、お話しして欲しいな。

 ・・・で、浮気とかしてないよね?)

 

 さり気無く・・・探りを入れてみる。

 この入れ知恵はルリから。

 

(ははは、何を心配してるのかなラピスは。

 俺はそんなにモテないよ。)

 

 ・・・なる程、ルリが言ってたこれが天然なんだ。

 

(じゃあ、お休みラピス・・・

 もう少しの辛抱してくれれば、迎えに行くからな。)

 

(うん、待ってるよアキト。)

 

 次の日から、私は連合軍へのハッキングを開始した。

 輝かしいアキトの戦歴。

 そして、そこにあるコメントを読むと・・・

 アキトの事がまるで新兵器の様に記されていた。

 

 ・・・アキトの本当の姿も知らないくせに!!

 

 アキトが軍を憎む訳が少し理解できた。

 私やルリも・・

 こんな風に見られているのかな?

 何だか嫌な気分。

 でも、昔はこんな事を考える事もなかった。

 私も成長をしてるのかな・・・人間らしく。

 

 その日はアキトがナデシコに乗ってからの戦歴を追うだけで終った。

 

 

 

 

 その日の夜。

 

(ハーリー・・・どうして軍の人は、アキトを兵器みたいに思うのかな?)

 

 何時もの作業をしながら、私はハーリーの意見を求める。

 

(う〜ん、強すぎる力は不安を呼ぶからね。

 しかもテンカワさん個人の力は、危険視されて当然のレベルだしね。)

 

(そんな、別にアキトは軍に戦争を仕掛けるつもりなんて無いのに。)

 

(そう解っていても・・・人の心は複雑なんだよラピス。)

 

 私には解らないな・・・

 何だかアキトと話しがしたいな。

 

 

 

 

 

 そして幾日か経ち。

 作業の合間を縫っての連合軍へのハッキングは、さしたる成果を上げていなかった。

 

 

 

 ある日の出来事。

  

(なななななななななななななな!!!!)

 

「きゃ!!」

 

 私は突然頭に響いた大声に飛び起きた!!

 30分前にダッシュと一緒に超時○要○ マ○ロスを見終り、就寝したばかりだった。

 でも、この声を私が聞き違える訳が無い!!

 

(アキト!! 大丈夫なのアキト!!)

 

(あ、ああ大丈夫だよラピス。

 す、済まん!! ちょっとこっちは今混乱していて・・・)

 

 私はアキトの思考に・・・

 二人の綺麗な女性とベットにいるアキトを見た。

 

(・・・アキト。)

 

(ええっと!! 俺は今から用事があるから!!

 御免ラピス!!)

 

 ・・・浮気したね、アキト。

 ルリに報告してやるんだから!!

 

 

 その日は頼まれていた調べ物をせず。

 ルリとアキトお仕置き計画を練っていた。

 ・・・ハーリーが凄く嬉しそうに企画立案をしてたけど。

 いくらアキトでも、グラビティ・ブラストの一撃を受けたら死んじゃうよハーリー。

 

 

 

 静かに時は過ぎて行く・・・

 アキトはそれでも忙しい合間を縫って、私に話しをしてくれる。

 いろいろな事があったらしいの。

 

 両親が戦闘に巻き込まれ、亡くしてしまった双子。

 双子の祖父であり西欧方面軍総司令との確執。

 結構気に入ってる部隊の隊長と副官。

 ネルガルから派遣されて来たエリナの妹。

 どうも憎めない不思議なガードの男性。

 妹の様の思っている少女。

 そして、優しくその少女を見守っている姉。

 

 アキトを囲む人は、それ程酷い人達ではないみたい。

 ・・・ちょっと安心した。

 

 

 

 

 

 そして、ある日のアキトとの会話・・・

 

(明日は久しぶりに街に出掛けるよ。)

 

(ぶ〜、私も連れて行ってよ!!)

 

 何時まで待たせるつもりなんだろう?

 早く迎えに来て欲しいな・・・

 

(御免、御免、でも年末には会えるよラピス。)

 

(確か12月にナデシコが日本に来るんだよね。)

 

(ああ、その時にきっと会えるさ、約束だラピス。)

 

 アキトの優しい笑顔のイメージが私に伝わる・・・

 心が暖かいモノで埋まっていく。

 

(うん、楽しみにしてるね!!)

 

 

 

 

 

 

 そして・・・

 二日後の真夜中に。

 アキトの咆哮が私の心を激しく揺さぶる。

 

 

殺してやる!! 殺してやる!! 

 テツヤァァァァァァァァ!!!)

 

 

 !!!

 

「あっ・・・あ、あ、あ・・・!!!」

 

 頭を抑えて蹲る私。

 ・・・しかし容赦なくその感情が、私の心の中に浸入する!!

 そして、その凄まじいまでの憎悪の感情に、私の心が耐えられなかった。

 ブレーカーが落ちるように・・・

 私の意識は強制的に途絶えた。

 

 薄れていく意識の中・・・

 私はアキトの身に起こった事だけが気懸かりだった。 

 

 

 

 

 あれから三日・・・

 私は意識不明だったらしい。

 担当医は身体に悪い所は無いのに、と首を捻っていた。

 ・・・それはそうだろう。

 私が受けた傷は心の傷なのだから。

 この人達は、私に心が有る事を認めたくないのかな?

 

 それとも・・・

 認めてしまえば、もう私で実験が出来なくなるから?

 私にはこの人達の考えが理解出来ないな。

 

 

 

 

 

 

 そして、突然アキトからの会話。

 

(ラピス・・・済まない。

 大丈夫だったか?)

 

(・・・うん、私は大丈夫。)

 

 アキトに何が起こったのか聞きたかった。

 でも・・・聞いてはいけないような気もした。

 

(ラピス、最優先でクリムゾングループの西欧方面での、物資の流れを追ってくれ。)

 

(え!! うん・・・解った。)

 

(・・・その流れに不審な点がでてきたら。

 その地点をトレースして場所の確認を頼む。)

 

 アキトが恐い。

 あの頃のアキトに戻ってる。

 一体何があったんだろう?

 ・・・でも、なんだか聞きたく無い。

 私に出来る事は、アキトの望みを叶えるだけ。

 

(解った。

 何か解ったら直ぐに知らせるね。)

 

(・・・いや、今の俺の思考はラピスには負荷が大きい。

 朝方と昼と就寝前に俺から通話をしよう。)

 

 何を・・・苦しんでるのアキト?

 何だか私も胸が苦しいよ・・・

 

アキト、アキト、アキト・・・

 

 私はアキトの・・・

 

(大丈夫、アキト?

 凄く苦しそうだよ?)

 

 アキトの心の鎧になりたい。

 

(ああ、大丈夫だよラピス・・・

 ・・・心配をさせたみたいだな。

 ただ自分の愚かさに潰されそうだったけどな。

 でも、ここで挫ける訳にはいかない。

 俺の使命はまだ終っていないからな。)

 

 少し・・・

 ほんの少しだけ。

 アキトの口調が柔らかくなる。

 その事を私は誇っていいのかしら?

 それとも私じゃあ、まだまだ力不足なのかな? 

 

(じゃあ、頼んだよラピス。)

 

(うん、任せておいてアキト。)

 

 そして、アキトの思考は途絶えた。

 

 今は・・・

 アキトの望みを叶える為に私は動く。

 

 

 

 

 

 

(ハーリー、何か見付かった?)

 

(う〜ん、流石に世界でもトップクラスの大企業だね。

 所々に怪しいモノを見付けるけど・・・

 お陰で逆に特定が出来ないな。)

 

 そうよね・・・

 私もかなりの情報を見付けたけど。

 逆に全部が怪し過ぎて、アキトの言ってた不審な物資の流れが特定出来ない。

 

(でもさ・・・この賄賂のリストを公開するだけでも、クリムゾンには大打撃だよ?

 こっちの脱税の証拠なんか税務署に送ったらさ。

 多分、社長クラスで首切りが発生するよ。)

 

 そんな事を言われても・・・

 今はアキトに話しが出来ないし。

 

 ・・・悲鳴でも上げたら気が付いてくれるけど。

 それだけはしたくない。

 

 あ!! でもあの時、アキトは確か。

 

(ハーリー、検索キーを『テツヤ』にしてサーチしてみて!!)

 

(え? 『テツヤ』? 誰だいその人?)

 

(多分・・・アキトの敵。)

 

 そう、アキトの敵よね。

 あのアキトの叫びは今でも、私の心の中に残ってる。

 ・・・絶対に後悔させてやるんだから!!

 

(あったよラピス!! どんぴしゃだ!!

 確かにテンカワさんのいる駐屯地の近郊に、不透明な物資の流れがあるよ!!

 責任者が『テツヤ』だね。

 ・・・凄いねこの人。

 クリムゾングループの諜報部の部長だって!!

 過去は抹消済み、か・・・)

 

 『テツヤ』のプロフィールを見てそう呟くハーリー。

 私はアキトを傷付けた奴の顔を睨む。

 ・・・何て、嫌な顔!!

 それにこの目!! 何故かあの男を思い出す。

 

(・・・!!

 ラピス大変だ!!

 この『テツヤ』の指揮下に、木連のチューリップが8つ配置されてるよ!!

 くそっ!! もうこの時期にクリムゾンは木連と手を結んでいたのか!!)

 

 そんな!!

 いくらアキトでも、8つのチューリップに同時に攻撃されては・・・ 

 

 その事に気付いた私とハーリーは黙り込んでしまった。

 

(ラピス、実はもう一つ大変な事を見付けたんだ。)

 

(何? ハーリー?)

 

(テンカワさんを西欧方面軍に派遣する様に、手を回したのがクリムゾン・グループらしいんだ。

 目的はテンカワさんの実力のテスト・・・

 そしてスカウトだったよ。)

 

 ・・・それは、アキトが始めに私に頼んだ事の答えね。

 悔しい事に、もう全部が手遅れだけど。

 

 

 そして、その後は結局アキトの判断を聞くしか無くて・・・

 私とハーリーの通信は終った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は祈る思いでアキトの思念を待つ・・・

 そして就寝前。

 アキトとの定時連絡が通じた!!

 

(アキト!! アキト!! 大変だよ!!)

 

(どうしたんだラピス?

 落ち付いて話しをしてくれよ。

 ・・・何が大変なんだい?)

 

 私の焦りを優しく宥めるアキト。

 でも、今はそれどころじゃない!!

 

(アキトの言ってた『テツヤ』の居場所が解ったの!!)

 

(何!! 本当かラピス!!)

 

 アキトの思念に苛烈な何かが混じる。

 

(うん、アキトのいる駐屯地からかなり離れてるけどね。

 今のエステバリスじゃあ無理な距離だよ。

 それに・・・)

 

(それに? 何だラピス?)

 

 ここで止めないと、アキトは一人でも『テツヤ』を倒しに行ってしまう。

 

(・・・その場所にチューリップが8つも配置されてる。

 だからアキト、お願いだから無茶しないで!!)

 

(・・・)

 

 私とアキトの間で沈黙が続く・・・

 

 その沈黙を破ったのは・・・

 アキトだった。

 

(・・・済まんラピス。)

 

(アキト!!)

 

 私ではやっぱりアキトを止められないの?

 私では・・・

 じゃあ、私はアキトの何なの?

 

(ラピス・・・心配しなくても、一人でいきなり突入なんてしないさ。

 だから近日中に、例のテストタイプを駐屯地に送ってくれ。)

 

(え!! でもあのテストタイプだと・・・稼働時間は限られてるし。

 何よりジャンプの回数が重なると、直ぐにジェネレーターがオーバーヒートしちゃうよ?)

 

 アキトが言ってるモノは・・・

 独立した相転移エンジンを積んだエステバリス用オプション。

 

 ブラックサレナ テストタイプ

 

 この武器を使うなんて・・・

 アキトは本気なんだ。

 未完成とは言え単独でジャンプも可能。

 機動力、攻撃力・・・

 全てにおいて現存の兵器を遥かに越える能力を持っている。

 でも、その力の巨大さ故に。

 何時過負荷により行動不能になるか予想が出来ない。

 そんな武器をアキトに送るなんて・・・

 

 

(ラピス、これは俺のケジメなんだ・・・

 約束するよ、絶対に無事に帰って来る。

 そして、ナデシコで再会しよう。)

 

 アキトの言葉には真っ直ぐな感情しかなかった。

 ・・・そんな事を言われたら。

 止められ無い。

 

(・・・絶対に無事に帰ってきてよ?)

 

(ああ・・・)

 

(じゃあ、ブラックサレナのテストタイプが届いたら。

 『テツヤ』の居場所を教えてあげる。)

 

(ははは、解ったよラピス。

 ・・・俺は急ぎ過ぎたのかもしれないな。

 今日、ある男に言われたよ『自分達の名前を知ってるか?』ってね。)

 

 意味が解らないけど・・・

 私は黙ってアキトの言葉を聞いていた。

 

(過去を変えようとして・・・結局、同じ事を繰り返していたんだな。

 独り善がりでさ。

 もっと周りを見るべきだった・・・

 自分の置かれた状況を、しっかり把握するべきだった・・・

 俺が死んでも、逆に皆に迷惑をかける事もあるんだよな。)

 

 アキトに何があったかは私には解らない。

 でも、アキトの中の何かが変ってきている。

 それは、私にとって嬉しい変化かもしれない。

 

(・・・さてと、長話になっちゃったな。

 お休みラピス。)

 

(うん、お休みアキト・・・)

 

 そして、アキトの思念は離れていった。

 

 私はベットに寝転びながら・・・

 今日の会話と。

 アキトの変化を考えていた。

 

 

 アキトは強くなる。

 もっともっと、ずっとずっと・・・

 心も身体も。

 でも、それは他人を家族を守る為の強さ。

 私やルリやナデシコを守る為に強くなろうとしている。

 なら、私は・・・

 アキトの、その優しい心を守る鎧になりたい。

 誰よりも優しいのに。

 誰よりも傷付きやすい心なのに。

 それでも戦う事を止めないアキトの・・・

 

 ナデシコにはルリがいる、あのユリカもいる。

 その他にもいろいろな女性がいる。

 皆が皆、アキトの事想っている。

 

 でも・・・負けないもん!!

 

 そう決意を固めつつ。

 私は何時の間にか眠っていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九話に続く

 

 

 

 

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