< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

       シュッ!!

 

「―――グワッ!?」

 

 俺が繰り出した背後からの一撃により、心臓を貫かれた男は絶命した。

 そのままナイフの回収をしつつ、男が完全に絶命している事を確認する。

 

 周囲の叢は、人が隠れる分には申し分無いが・・・相手が悪かったな。

 

 この位置から、ターゲット―――シュンまでの距離は300m弱、か。

 コイツの腕ではそれが限界なのか、それとも堅実な策を採用したのか?

 どちらにしろ、後数人のスナイパーが存在していてもおかしくないな。

 

「氷雨、次の予想地点を教えろ」

 

 シュンの奴に事前に見せて貰った周辺の地図は、イヤリングでもある『四陣』の一つ氷雨の中にきちんと納まっている。

 その氷雨からの指示にしたがい、予想をつけていた地点に俺は向かう。

 

 この土地では、身を隠す場所は限られている・・・何より、襲撃者の錬度はそれほど高くないようだ。

 

 

 

 

 

 ―――つまらん『仕事』になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほぼ予想通り、あの後3人のスナイパーを始末した。

 しかし、俺は憮然とした表情をしたままだった。

 無論、相手のレベルが低い事にいまさら愚痴を言うつもりは無い。

 

 だが―――

 

「・・・おい、何時まで隠れているつもりだ?」

 

      ザシュゥ―――!!

 

 振り切った右腕から走る鋼線が、一瞬にして背後の立ち木を切断する。

 しかし、立ち木の背後に隠れていた人物は、素早く距離をとって逃げ出した後だ。

 

 ・・・手加減をしていたとは言え、俺の初撃を避けるか。

 

 ―――面白い

 

 俺は笑みを浮かべ、追撃に入ろうとした瞬間・・・右に跳び退いた。

 

    バシュ!!

 

 俺が先程まで居た場所に、何かが着弾した。

 これは遠距離射撃・・・ライフルの弾丸か?

 

 少なくとも、先程逃げ出した人物ではあるまい。

 俺の知覚するギリギリの範囲内に、殺気を放つ存在はいない。

 

 と、なれば・・・

 

「初めから、俺自身をターゲットとしたスナイパーが居たのか。

 どうやら、シュンの奴を暗殺するのだけが・・・目的はないようだな?」

 

 木立の一つに身を隠し、相手の意図を探ってみる。

 相手の狙撃は、明らかに俺を待ち伏せしてのものだ。

 でなければ、シュンをターゲットにするには距離が離れすぎている。

 さて、心当たりが多すぎて・・・犯人が誰かなど予想も出来んな。

 

「だが、久しぶりの暇潰しだ・・・楽しませてくれよ」

 

 俺はそう呟き、笑顔を作るとそのまま木立から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の動きを追う様に、次々と弾丸が襲い掛かる。

 それらを紙一重で避けながら、俺はスナイパーの元に疾走していた。

 残念ながら、先程逃げ出した相手は既に俺の知覚圏外だ・・・しかし、少なくともスナイパーは残っている。

 

 スナイパーとしての腕は・・・まあ一流と呼べるモノだろう。

 

 捕まえた処で、相手が俺を狙った理由を知っているとは思えんが。

 ・・・情報が何も無いよりは良い。

 それに、このまま逃げられるのも腹が立つからな!!

 

        チュン!!

 

「ちっ!!」

 

 意外な角度から襲い掛かってきた攻撃・・・

 

 微かに足元で違和感を感じた瞬間―――

 

 ブービートラップによる下方からの槍の攻撃を、素早く後方に跳躍する事で回避する!!

 

 数本、前髪と被っていた帽子が持っていかれたが、俺自身は傷を負っていない。

 しかし、木立の枝を利用して俺が追撃する事を予想していたのか・・・相手は?

 

 いや、予想していなければ、普通の人間がこんな場所にトラップを作るはずが無い。

 

「随分、こちらの事情に詳しい相手のようだな・・・」

 

      チュイン!!

                     ―――ギン!!

 

 枝の一つに棒立ちの俺を隙有りと考えたのか、狙い済ました射撃が襲い掛かる。

 その一撃を、俺は無造作にブレスレット―――『蒼天』でその一撃を弾き落とした。

 

 ・・・『蒼天』の奴が何やら騒いでいるが、今は無視だ。

 

 しかし、敵の意図は俺の殺害か?

 それにしては、攻撃が余りに中途半端だ・・・それに一定の距離を保っている。

 先程のトラップの発動と同時に、スナイパーが逃走に入った事を俺は感知していた。

 

 ならば、これは―――時間稼ぎか?

 

 先程のトラップにより、上空に飛んでいた黒い帽子がヒラヒラと、俺の目の前に落ちてくる。

 それを無意識のうちに受け止め、頭に被りながら俺は今までの自分と敵の行動を考えていた。

 

「・・・少々、離れすぎたか。

 ―――生きてろよ、シュン」

 

 俺がそう言って背後に向かって飛び退る。

 追撃を覚悟していたが、どうやら相手もこれ以上は仕掛けてこない様子だ。

 

 ならば、相手の目的はほぼ達成された・・・と、いう事か。

 

 

 

 

 

 ・・・少々、急がなければいけない状況に追い込まれたみたいだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幸にもシュンの奴は無事だった。

 ただ、ナカザトの奴に背後からブラスターで狙われているがな。

 

 ・・・さてさて、どうしたものか?

 零夜の腕なら、充分にナカザトがブラスターを発射する前に、それを阻止できる。

 そして、それが可能な位置に、既に零夜は移動していた。

 それに気が付かない辺り、拍子抜けするような間抜けだな、このナカザトという男は。

 

 体格を見る限り、中肉中背のそこそこ鍛えられた軍人か。

 しかし、まだまだ経験不足に加え、枝織の奴の記憶を見る限り・・・意志薄弱に見える。

 さてさて、あのブラスターの引き金を引く『度胸』が、あの男にあるのかな?

 

 

 

 眼下にナカザトの興奮した声を聞きながら、俺は木立の上で己の気配を完全に殺した―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・貴方に恨みはありません、ですが存在自体が『悪』と思われる事もあるんですよ!!」

 

 ブラスターの構えは見事に型どおりだが。

 全然気迫が感じられないな・・・零夜の奴も、どう介入したらいいのか悩んでいるみたいだ。

 

 まあ、駄々っ子の世話は得意だからな、零夜の奴。

 ・・・自分で言っていて、少し頭が痛くなった。 

 

 ―――これでも俺は、少しは自覚をしているつもりだからな。

 

 

 

「あのな〜、もう少し気の利いた台詞は言えんのか?

 お前が俺の立場でそんな事を言われて、納得すると思うか?

 殺す相手に、趣向を凝らした手向けの言葉一つ言えんでどうする」

 

 

「な、納得するとか、そんな問題じゃ無いでしょう!!」

 

 

 随分楽しんでいるな、シュンの奴。

 まったく、良い度胸をしている。

 

 零夜の呆れた気配すらも、俺は委細漏らさずに捉えている。

 だからこそ分かっていた、シュンの周囲を取り囲むように集まってくる殺気を。

 

 ・・・さて、下の茶番が終わり次第、俺も本格的に動く事にするか。

 

「じゃあ、人の命を奪うのに・・・どんな理由が必要なんだ?

 軍人は民間人に出来ない事をするためだけに、存在しているんだぞ。

 お前も俺も、給料は税金から支払われているんだからな。

 そんな民間人の平和を護る為だけに『殺し』、『殺される』、それが突き詰めれば軍人の仕事だ。

 だが―――お前の今の行動は、『誰』の為なんだ?」

 

 シュンの真正面からの問い掛けに、ナカザトは何も返事を返さなかった。

 ただ、荒い息を吐きながら・・・シュンだけをブラスターでポイントしている。

 

「あ、貴方を殺す事が任務である以上、私はその任務を遂行するだけです!!

 軍人に自分の意志は必要無い!!」

 

 半ば自分に言い聞かせるように、絶叫をするナカザト

 

 しかし、酷く腹の立つ事を言う奴だな・・・

 一瞬、問答無用で首を斬り飛ばしてやりたくなったぞ。

 今、この男は自分で自分の事を『駒』だと認めたのだから。

 

「・・・それは考える事を放棄してるだけだ、一番楽な方法を選んでいるだけにすぎん。

 どんな残虐な行為でも、『命令』の一言で済ませるつもりか?

 お前の頭は飾りか? 今までの人生で形成してきた人格は幻想か?

 ようするに、お前は自分で考えて、自分で動き―――その『結果』と『責任』に、耐えられないだけだろうが。

 頭が堅いだけじゃなく、とことんつまらない男だな、お前って奴は」

 

 引き攣った顔で、反射的にブラスターの引き金を引こうとしたナカザトを・・・零夜の手刀が襲う。

 一瞬にしてブラスターは叩き落され、拾い上げようと飛び出したナカザトの首筋に、再び零夜の一撃が襲い掛かる。

 

「―――ガッ!!」

 

 

 

 

 

 そのまま、ナカザトは声も無く気絶をした。

 最後の最後まで・・・つまらん男だ。

 

 

 

 

 

 

「で、どうします?」

 

 面倒見の良い零夜ですら、扱いかねたように地面に横たわっているナカザトを見る。

 

「ま、この男も根は悪い奴じゃないんだけどな。

 ・・・先の戦争の教育で、模範的な『軍人』が大量に作られた。

 これでも、一応『被害者』の側なんだよ。

 ユリカ君やジュンの様に、親が高名な人物だったら下手な教育もされなかっただろうにな」

 

 何処かやりきれない口調でそう呟くシュンの言葉を、俺は枝に腰掛けたまま聞いていた。

 非常時だからこそ、全てが許される・・・何処の世界でも、『上』の考える事は一緒らしい。

 

 考えてみれば、木連も地球も元は同じ人種だ。

 たかだか100年やそこらで、それほど独特な成長をするはずが無いか。

 

 

 

 ・・・本当、似たり寄ったり、だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと・・・バール!! 来てるんだろ!!

 そろそろお互いに決着を付けようじゃないか!!」

 

 

 

 

 

 シュンが周囲に朗々と響き渡る声でそう叫び―――

 

 

 

 

 

「・・・相変わらず、態度のでかい男だな。

 もっとも、お前との付き合いも今日が最後だがな!!」

 

 

 

 そして、爬虫類じみた・・・あの男を思い出させる笑みを浮かべる、禿げ頭の中年がその姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その4に続く

 

 

 

 

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