< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

第二十話 『出撃』 後編 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その家の前を通って、自分の家に帰るのは私の日課だった。

 どうやっても連絡がとれない以上、後は偶然に頼るしかなかった。

 幾度・・・溜息を吐きながら、この道を通っただろう。

 このまま、私は彼女と二度と会う事は無く、別々の道を歩むのかな?

 何時の間にか、弱気になっていた自分を知って・・・苦笑をしながら歩く。

 

 でも、大きなお屋敷に相応しい立派な門の前には、先客が居た。

 

「お久しぶりです、アユミさん」

 

「ル、ルリルリ?」

 

 照れ臭そうに笑うルリルリを見て、二、三度瞬きをした後、私は―――

 

 

 

 

 

 

 

「この薄情モ―――ン!!」

 

 

         スパ―――ン!!

 

 

 

 常日頃から通学鞄に忍ばせていたハリセン(自作)で、ツインテールの頭を思いっきり叩いていた。

 

 

 

 

「いや〜、スッキリしたわ♪」

 

「・・・私は深く後悔してます」

 

 ミスマル家に通されて、暖かい紅茶を飲みながら私は上機嫌だった。

 ルリルリも怒ったような口調をしているが、本当に怒ってはいない。

 それ位、口調や仕草で分かるくらいには、友達付き合いをしてきたつもり。

 

「で、どうして急に連絡が取れなくなったのよ?」

 

「それは秘密です・・・話して面白い事じゃないですし。

 ただ、毎日この家にアユミさんが足を運ばれていると聞いて、顔を出したんです。

 本当は今日のお話も、手紙で済ますつもりでした」

 

 余りに他人行儀なルリルリに、私の顔が険しくなる。

 今までも感じていたルリルリが引いている境界線が、今日は何時もより強く感じる。

 そして、ルリルリがこういう態度に出る場合、大抵の事情は決まっている。

 

「・・・軍が関係してるんだ?」

 

「・・・」

 

 顔を下に向けて沈黙したまま、ルリルリは自分の紅茶を飲む。

 その姿は、見た目は少々変っているけど・・・普通の15歳の女の子だ。

 なのに、どんな重い荷物をこの娘は背負っているんだろう?

 

 どう考えても、同じクラスの女子には作り出せない雰囲気を、ルリルリはかもし出していた。

 カズヒサ君が惹かれたのは、ルリルリのこういう所かもしれない。

 

「もしかして・・・お別れを言う為に、待ってたんじゃないよね?

 国に帰るにしても、メールや手紙のやり取りくらいしてもいいじゃない?」

 

 たとえ軍人になっても、そんなプライベートまで潰されるとは思わないし。

 沈黙に含まれる拒絶感に怯えながら、私はそうまくし立てた。

 このままだと、今日の出会いが本当に最後になってしまいそうで・・・怖かった。

 

「・・・一ヶ月だけ待って下さい。

 一ヵ月後には、全部終わってるとおもいますから。

 ですから、その間はこのミスマル家にも・・・近付かないで下さい」

 

 やっと顔を上げたルリルリは、真剣な目で私にそう言った。

 一ヵ月後といえば・・・中学の卒業式と重なる。

 例の『火星の後継者』騒ぎで雲行きは怪しいけれど、卒業式は予定通り行われる。

 宇宙で行われているテロなんて、私やクラスメイトにとっては遠い世界の話。

 だって、日常生活は何時もと同じ世界が続いていくと、信じているから。

 私が生きていく世界は、今も、これからも、絶対に変らない、と。

 

 

 ―――でも、私の目の前には、その日常生活から抜け出した女の子がいた。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・卒業式、絶対一緒に写真をとるんだから。

 約束だからね?」

 

「ええ、分かりました」

 

 微笑むルリルリと指切りをしながら、私はそれ以上何も聞けなかった。

 これ以上の質問は、ルリルリを苦しませるだけだと、分かってしまったから。

 

 

 

 

 私に出来る事は―――卒業式で、ルリルリを待つ事だけだった。

 

 

 


 

 

 

「・・・ウリバタケさん、そろそろこのロープを解いてほしいんですけど」 

 

「ああ、晩御飯の準備が終わったらな」

 

 卓袱台に新聞紙を広げて記事を読みながら、ウリバタケさんがそう返事をする。

 返事をするだけで・・・全然僕を助けようとする気配はない。

 二階でラピスとキョウカちゃんが遊んでいる以上、後はオリエさんだけが頼りだ。

 久しぶりに僕とラピスが姿を見せた事と、今日は泊まって行く事を知って、キョウカちゃんは凄く喜んでいた。

 僕を縛り付けた犯人―――長男のツヨシ君は、今は自室に戻っている。

 ちなみに、僕が泊まる事を知って静かに闘志を燃やしていた。

 多分、今頃は自室でナニかの準備に余念がないだろう・・・と思う。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで僕は、こんな目にあってるんだろうな?

 

「しかしまぁ、ルリルリやラピスちゃんやお前を、一ヶ月も閉じ込めて集中訓練とはな。

 ・・・世の中、狂ってるよな、全くよぉ」

 

 ―――いや、狂ってるのは大人だけかもなぁ

 

 新聞を読み終わったのか、それを畳みながらウリバタケさんが最後に小さく呟く。

 そんな常識的な意見を言えるくせに、目の前の虐待には無関心みたいだ。

 

「仕方が無いですよ、相手が相手ですし。

 それに結局悪いのは誰なのかなんて・・・特定できないじゃないですか」

 

 未来を知っていても、『火星の後継者』の蜂起は防げなかった。

 思い返してみれば、テンカワさんの行動は確かに和平に繋がったかもしれない。

 でも、以前の『火星の後継者』の蜂起と比べて、今回の計画は更に綿密で・・・規模が大きかった。

 そう、統合軍も連合軍も、地球と月を確保する事しか出来ないくらいに。

 

 人的被害を除いても、その経済的な被害は、前回を確実に上回っている。

 

 縛られた身体でゴロゴロと畳を転がり、ウリバタケさんの隣に並ぶ。

 ウリバタケさんは厳しい顔をして、宙を睨んでいた。

 

「ハーリーが昔乗っていたナデシコCは、今のナデシコCと比べてどうだ?」

 

「スペック的には劣っていませんよ。

 それどころか、ルリさんとラピスのダブルハッキングに対応している分、明らかに戦力では上です」

 

 もっとも、向こうもダブルハッキングが可能ですけどね。

 

 最後の言葉を言う必要は無かった。

 そのダブルハッキングに対抗する為に、ルリさんと僕とラピスは集中訓練を行うのだから。

 以前のハッキング合戦の敗退は、ルリさんとラピスのプライドに傷を付けたらしい。

 

 ・・・何時もテストで負かされている僕には、二人の気持ちが顔から読み取れた。

 

 暇なのでゴロゴロと畳の上を転がりながら、僕は当時の事を思い出していた。

 絶対を誇っていた電子戦で負けた事は、二人にとってかなりのショックだったと思う。

 あのラピスが唇を噛んで悔しさに耐えているのを見て、僕に足りないモノを彼女は持ってるな、と思った。

 僕にはどうしても譲れない『モノ』って・・・あったかな・・・今も、『昔』も・・・

 ルリさんの事を想う気持ちにすら、最近では何処か冷めていると感じている僕に。

 

「で、キョウカと映画に行く約束をしたらしいな?」

 

「ああ、それはラピスが用事で行けなくなったから、僕に代わりに行けと―――」

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やられた。

 

 

 

 

 

 

 恐る恐る、顔を上げると微笑んでるウリバタケさんの顔があった。

 でも数々の修羅場を潜り抜けた、僕の勘が叫ぶ・・・逃げろ、と。

 

 ・・・ロープでグルグル巻きで、逃げられないけど。

 

 とりあえず、生き延びるために芋虫になって逃走を開始する僕だった。

 そうさ、最後まで生きる事を諦めちゃ駄目なんだ!!

 

「まぁ、待てや」

 

 一メートルも進まないうちに、あっさり捕まった。

 

「是非とも、父親として聞いておきたいんだがなぁ・・・

 お前さん、家の娘をどう思ってるんだ、ん?

 あれだけ露骨に好意を寄せられてて、アキト並の天然じゃないよな、ハーリー君は?」

 

「・・・目が笑ってませんよ、ウリバタケさん」

 

 

 

 

 

 ―――カズシさん、久しぶりにソッチの世界で会えそうな予感がします。

 

 

 


 

 

 

「よし、これで全員だな」

 

 目の前には、長い真紅の髪を首の後ろで括った女性が立っていた。

 彼女の二つ名を知る者は、その姿から数々の武勇伝を疑うだろう。

 しかし、その鳶色の瞳に睨まれた者は思い知るはずだ・・・その武勇伝すら、生易しいと。

 

 彼女の前に立つと、自然と背筋が伸びる。

 ここに居る全員が、彼女の機嫌が最高に悪い事を知っているのも、理由の一つだ。

 

 ・・・八つ当たりで再起不能にされてはタマリマセン

 

「とりあえず、隊長役を決めろ。

 俺にそういう役は不向きだからな・・・」

 

「そう言われても、アカツキの奴は本業で手一杯だし。

 各務とかいう優華部隊の隊長は、その手伝いしてるんだろ?」

 

 勇敢にも口答えをしたのは、ヤマダさんだった。

 僕はイツキの肩を押して壁際に下がる。

 アリサさんやリョーコさん、それにタカスギさんの三人も、素早く距離をとっていた。

 

「分かった、少なくともお前に隊長役は向かないな」

 

「いや、だってな―――」

 

 獰猛な笑みを浮かべた女性・・・北斗さんの右腕が一瞬だけ霞み、ヤマダさんの身体はその場に崩れ落ちた。

 あのタフで有名なヤマダさんも、相手が悪かったらしい。

 

「残りの五人・・・早く隊長役を決めろ。

 時間が無いんだ、死ぬ気で強くなれ。

 いや、生きて帰れると思うな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・初めから殺す気ですか」

 

 無茶苦茶な事を宣言する北斗さんに、タカスギさんが額に汗を浮かべて呟く。

 僕達はナデシコCのエステバリス隊として選ばれ、北斗さんに一ヶ月の間訓練を受ける事になった。

 タカスギさん、ヤマダさん、アリサさん、リョーコさん、イツキ・・・そして僕。

 

「おい、カインとか言ったな。

 お前がやってみるか?」

 

 段々不機嫌の度合いが高くなってきたのか、睨みつけられた鳶色の瞳が、爛々と光っているような錯覚を覚える。

 隣に居るイツキも、息を呑んで固まっているのが気配で分かった。

 

 ・・・ここまでくると、もう野放し状態のライオンだ。

 しかも、空腹状態。

 

「あ、あの、残念ですが僕は単独での戦闘しか経験が無いので。

 タカスギさんが一番適任だと思います」

 

「げ!!

 カイン、お前俺を売る気か?」

 

 反論をしようとしたタカスギさんの肩に、何時の間にか背後に移動していた北斗さんの手が置かれる。

 それだけで、タカスギさんの反論も動きも、全てが止まった。

 

「これ以上、時間を無駄使いする気は・・・俺には無いぞ?」

 

「りょ、了解であります!!」

 

 いっそ、優しいとも言えるその表情と言葉に、敬礼をしながら返事をするタカスギさん。

 最後まで沈黙を守っていたリョーコさんとアリサさんは、その返事を聞いて緊張を解いた。

 もっとも、それは僕もイツキも同じだけど。

 

「よし、ならシミュレーターとやらで、全員の現在のレベルを計る。

 おい、ヤマダ!! 何時まで寝てるつもりだ!!」

 

「お、俺の名前は・・・ガイ・・・」

 

「時間が惜しいと言ってるだろうが」

 

 そのまま床で呻くヤマダさんの右足首を掴み、ミーティング室から立ち去る北斗さん。

 僕達はその姿を、ただ見送る事しか出来なかった。

 

「しかし、北斗殿に直接鍛えられるとはねぇ・・・光栄なんだけど、不幸だ」

 

「それに隊長ですしね」

 

 アリサさんの追い討ちに、頬を涙で濡らすタカスギさん。

 これから一ヶ月の間、隊の事について北斗さんに責められる未来を考えたんだと思う。

 

「機嫌悪いみたいだよな、仕方が無いけどよ」

 

「そうですよね」

 

 血だらけの零夜さんを抱えて、帰ってきた北斗さんの事を、この場の全員が知っていた。

 貴重な情報と引き換えに、北斗さんは大切な友人を失った。

 ・・・いや、正確には零夜さんは死んではいない。

 今も集中治療室で、眠り続けている。

 所持していた応急手当の薬と、北斗さんが仮死状態になる技を使った事で、辛うじて失血死は回避された。

 ただ、本当に辛うじての状態なので、峠は何とか越したものの、零夜さんの意識はまだ戻らない。

 イネスさんも、これ以上は手の施しようが無いと、北斗さんに説明していた。

 

「そう言えば、北斗さん・・・一人でシミュレーター室に行けるのかしら?」

 

 何気なくイツキがそう呟く。

 

「・・・・・・・・・・・・・」 × その場の全員

 

 

 

 

 

 

 

 結局、ヤマダさんに案内をさせた北斗さんがシミュレーター室に到着したのは、それから三時間後の事だった。

 

 

 


 

 

 

「・・・で、その頭のコブは引きずられた時の副産物か?」

 

「今でもイテーぞ」

 

 ぐったりとカウンターに座り込み、普段からは想像も出来ないような弱々しい声で、返事をするヤマダ。

 俺はそんなヤマダをからかいながら、珈琲を飲んでいた。

 本当なら酒でも飲みたいところだが、これから一ヶ月間・・・緊張をそう簡単に解くわけにはいかない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、君達がこの部屋に居る理由は?」

 

「ここしか居場所がないんだよ、俺とヤマダはウリバタケの旦那に目を付けられてるからな」

 

「そうだ、そうだ、何ならお前も北斗の相手をしてみるか?

 死ぬぞ? っていうか、いっそのこと殺してくれー

 あああ、その王手『待った』してください、駄目デスカー」

 

 ・・・追い詰められてるな、ヤマダ。

 奇天烈な悲鳴を上げたあと、ヤマダは再びカウンターに沈んだ。

 

「タニ君と将棋で勝負をしてるそうだけど・・・どう考えても向かないよね」

 

「だな」

 

 この部屋の主―――ネルガル会長が、呆れた顔でヤマダを見ていた。

 万葉君との結婚話を出したヤマダに、タニさんが持ち掛けたのは将棋での勝負だった。

 最初はタニさんの飛車・角・桂馬・香車抜きで始まったこの勝負・・・いまだヤマダは勝ち知らずだ。

 一応、艦長やジュン、それにナカザトという頭脳戦TOP3にも、暇を見て教えてもらっているそうだが。

 

 ・・・そういえば、この前はプロスさんにも相手をしてもらってたな。

 

「はぁ・・・エリナ君が月の工場で、ナデシコC開発の陣頭指揮をしてるから、やっと千沙君と二人っきりだと思ったのに」

 

 そう嘆きつつ、自分の仕事を諦めたのか書類を放り出す。

 ブランデーを自らグラスに入れて、俺達の隣に座り込んだ。

 

 その噂の各務君は、今日は用事でこの場には居ない。

 ま、それを知っているからこそ、ヤマダを引き連れてココに避難してきたのだが。

 

「世の中そう上手く事は運ばんよ。

 今まで極楽トンボをしてたんだ、少しは働け」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・君、自分の雇い主が誰か知ってる?」

 

 その質問に、俺はサングラスを少し持ち上げて、苦笑で答えた。

 

 

 

 

「しかし、ヤマダも大変といえば大変だな。

 ミリアも俺にも親はいないし・・・百華ちゃんも、そうだからな」

 

「確かにね・・・僕も落ち着いたら、木連に挨拶に行くつもりだけどさ」

 

「・・・そうだよな、男として責任は取らないと」

 

 お、ヤマダが復活しやがった。

 

「お前さんの家族はどうなんだ?」

 

「親父が卒倒して、お袋は喜んでた。

 錯乱して飛び出した兄貴は、街角で変な宗教に勧誘されてハマってる」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうか、大変だな」

 

 ちょっと引いてしまった、俺と極楽トンボだった。

 しかし、ヤマダの話には続きがあった。

 

「ちなみに、ゴートさん関係の新興宗教らしいぞ。

 家でパンフレットを見た」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ヤガミ君、今度調査しといてよ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おうよ」

 

 突っ走ってるな〜、ゴートの旦那。

 これで調査結果が『黒』の場合は、本当にどうする、プロスさんよ・・・

 

「お袋はもう孫の事で頭が一杯だしよ」

 

「ま、それは先の話だね」

 

 笑いながらアカツキが、ブランデーを飲む。

 

「ああ、気が早いよな。

 まだ、十ヶ月先の話なのによ」

 

「そうそう、十ヶ月は経たないとなー」

 

 それで計算すると、ミリアの出産予定日は大体七月頃なんだよな。

 予定日の前後一週間は、絶対に有給取ってやる。

 

「少なくとも、二人だもんなー

 俺、自分が父親になるなんて、全然考えた事なかったし」

 

「分かるぞヤマダ、俺もそうだった」

 

 ミリアが妊娠した事を知った時、ショックが無かったといえば嘘になる。

 だがそれ以上に、後からきた喜びは計り知れなかった。

 俺の身の上を考えれば、子供を授からない可能性もあったのだから。

 生まれてくる子供の事も考えて、俺はこのクーデターが終わった後・・・SSを辞めるつもりだ。

 それに百華ちゃんの事もある。

 心にまで深い傷を負った彼女を加えて、俺は大切な家族を守っていくつもりだ。

 

「・・・何だかさ、微妙〜に話が噛み合ってないような気がするのは、僕の気のせいかい?」

 

 一気に酔いが醒めたのか、赤かった顔を青くしながらアカツキが呟く。

 俺もミリアと自分の子供に向けていた思考を、この場に戻した。

 そして考え無しに相槌を打っていた、ヤマダの台詞を思い出す。

 

『十ヶ月先の話』

『少なくとも、二人』

『自分が父親になる』

 

 ―――俺とアカツキの目に、正気の光が戻った。

 

「そういえば・・・北斗君の訓練に、ヒカル君と万葉君は参加してなかったね?」

 

「あ? そりゃそうだろ?

 二人とも先週の検査で、妊娠してるのが分かったんだからよ。

 あれだけ大騒ぎだったのに、お前等は知らなかったのか?」

 

 アカツキの質問に、馬鹿にしたように答える酔っ払い状態のヤマダ。

 どうやら、ヤマダが吹っ切れた原因はこれにあるらしい。

 今も何が楽しいのか、ケタケタと馬鹿笑いをしてやがる。

 度重なる過酷な訓練と、将棋による慣れない頭脳労働に、かなりストレスが溜まっていたのだろう。

 

 

 

 ―――だが、ソレはソレ、コレはコレだ。

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・とりあえず、絞めとくか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・手伝うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その10に続く

 

 

 

 

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