覇王大系・AKITOLEGENDアキトレジェンド


第八話  接触ファースト・コンタクト!」


〜〜〜後編〜〜〜









  レオーネが魔族 ― セフィアと接触する少し前、

 アキトも、あらかたのドゥーム・グレムリンを破壊していた。

 残りは、目の前に映し出されている2体のドゥーム・グレムリンのみ!!



  2体のグレムリンは、両主翼の先端に取り付けられているミサイルのようなものを発射してきた。

 その弾数は8発。高速で向かってくるミサイル擬き(命名:ディア)をアキトはモノともせず、一つ残らず切り裂く!!



 ズドドドッッンン!!



  高速の八連撃により、ほぼ同時に爆発するミサイル擬き。

 アキトはそれを気にする事なく、二人ディア・ブロスに現状を聞く!



 「ディア! ブロス! 周囲への影響は?!」


 〈大丈夫! アキトが全て破壊したお陰で、奴等の攻撃での被害はないよ。〉

 《それに、周辺の住民も避難しているから人的な被害は無いと思う。生体センサーにも反応ないから。》



  その言葉を聞き、ブローディアは一気に奴等との間合いを詰める。



 ギッ、ギッ、ギッ、ギッ!!



  叫び声なのか分からない奇声を発する2機のグレムリン。

 彼等は右手に持った長尺の得物 ― 槍を携え、自身が出し得る最高速で突撃してきた!



  俺はその攻撃をわざと・・・大きく回避し、彼等と一定の距離を保ちつつ街から離れる。

 敵も、俺を追うように付いてくる。こういった行為を数回繰り返すことによって、

 敵の興味を街から俺に向けさせ、出来うる限り街への被害を少なくしてきたのだ。



 「撃墜したとしても、落下先が街では倒した意味がないからな。」



  そう呟くと、不動の利剣ヴァジュラを握り直し、最初に接近してきたドゥームを、一撃の下に切り捨てる。

 直後! 最後のドゥームは、自分が最後の一機だと認識したからなのか、その身を翻し反転した!!


 ・・・・・・まるで俺から逃げるかのように!



 《アキト兄!》


 「分かっている。逃がすつもりはない!」



  ブロスが叫ぶ理由も分かっていた。

 もし、ここで逃がせば、この場は凌げてもいずれどこかで厄災を引き起こすのは事実!

 そのため、ここで完全に破壊しなければいけない!!



  俺は、剣に意識を集中する!

 呼応するように、剣は大気魔力ミスト・ルーンを吸収し、その輝きさを増していく!!





 「全てを切り裂け!


    秘剣! 飛竜翼斬!!





  裂帛の気合いと共に、剣から放たれし三日月状の剣閃は、

 寸分の狂いもなくドゥームに向かって飛び命中する。


  こうして、最後のドゥームはあっけなく消え去った。




  周囲を見渡しドゥームがいない事を確認すると、

 アキトブローディアの右手に携えた剣から”刀身”が陽炎のように消え、手には柄だけが残る。




 「ふぅ、これで片づいたな。」



 〈そうだね。アキト兄もお疲れさま。〉

 《それにしても・・・。》



 「何だ、ブロス。何か気になる事でもあるのか?」


 《そうじゃないんだけど。アキト兄、空中戦に慣れるの早いなと思って。

  最初はあれだけ苦労したのに、今では昂氣なしでも、かなりの速度で空中戦をこなせるもんね。》



  俺は、その言葉に苦笑する。

 確かに最初は、”リューでの空中戦”に戸惑うしかなかった。

 しかし、ここに来るまでレオーネとの実戦に近い手合いのお陰で、今では、ほぼ自在に操る事ができる。



 ・・・・・・・・まあ、何度も死ぬ目にあったという隠された事実もあるのだが。



  その事を思いだし、冷や汗を流しつつ降下していく。

 だが・・・・・・、地表付近まで来た時に、あまりにも場違いな音が俺の耳に聞こえてきた。






 パチパチパチパチパチパチパチパチ・・・






  ドゥーム・グレムリンを殲滅した事で、安心していた事は事実。

 しかし、周囲への索敵を怠っていた分けでもない。



  にも関わらず、眼下には一人の男がこちらを見上げていた。

 ・・・・・・・・・俺たちにその存在を察知される事なく。




  俺の耳に聞こえてきた場違いな音。それはこの男の拍手・・・。

 男の格好は、一言でいえば騎士風の出で立ちだ。

  だが、彼の纏う雰囲気は、”騎士”のイメージからは大きくかけ離れている。



 「貴様、一体何者だ? それに先程の拍手、どういうつもりだ!!」



  俺の思考が急激に冷えていく。そして、その思考が俺に強く訴えてくる。

 『アレは敵だ!』・・・・・・・・・と。



 「フフフ・・・、これは失礼。私の名は”ガルデン”。見ての通り騎士を生業としている者。

  先程の拍手は、素直に賞賛した行為だ。貴様とリューの戦闘力に対して・・・な。」



  不気味な笑みを浮かべ、街の上空へと視線を移すガルデンと名乗る男。

 俺もそれに合わせるかのように、同じ場所に視線を移す。


  勿論、注意は眼下の男に向けたままなのは云うまでもない。



  街の上空には二つの光り ― ”真紅”と”白銀”が縦横無尽に飛び回っていた!

 最大望遠で見ると、一つの光りは知っている。レオーネが駆るリュー、”フリージア!!”



 (彼女らの動きに付いていける相手だと? アレは・・・、ドゥーム! それも有人か!!)



 「それに、貴様の連れも中々の腕だ。だが、セフィア相手に何処まで持つかな? クククッ・・・。」



  奴の言葉を聞き、彼女の元に向かおうとしたその矢先!

 猛烈な殺気が、ガルデンから放たれた!!



 「別に助けに行くのは構わんぞ。その代わりに、街が灰燼になってもいいと言うのならな・・・。」



  穏やかな口調・・・。だが、恐らくその言葉に嘘や偽りがない事を直感で悟る。

 この場を離れ、彼女の元に向かう事は出来ない。出来るのはこの男を倒してからだ!!



  俺の決意を感じ取ったからか、ガルデンと名乗った男は口元を歪める・・・。



 「それでいい、少しは私を楽しませてくれ。」



  胸元のアーマーの中央に埋め込まれている大きな赤い水晶 ― まるで目のようなものにガルデンは手を入れ、あるモノを取り出す!

 それは黒い物体だった。しかし、俺達には見覚えのあるモノ!!





   〈《カード!?》〉





  ディアとブロスの声が重なる。

 そう、ガルデンが取り出した物の正体は、”黒いカード”!

 カードからは彼と同質、いやそれ以上の邪悪な気配が漂ってくる!!



 「別に驚く事もあるまい。貴様も”カードのリュー使い”なのだろう?

  ならば知っているはずだ。 カードの力はカードの力を呼ぶ』 ・・・という事に!」



  確かに、同じような内容を、以前ナジーから聞いていた。

 しかし、よりによって呼び寄せたのはとんでもない存在バケモノ!!



  ガルデンはカードを翳し、ある言葉を唱える!



 「永遠とこしえなる闇の力よ。魔性の技をふるう騎士ナイトよ! 

  目覚めよ、我が呪われしリューナイト!!」



  詠唱と共に、カードからは膨大でそして深い闇が溢れ出ている!!

 それに伴い、周囲の空気が重々しい物へと変化していくのを感じていた。



  そして、その空気がピークに達した時!

 ガルデンの口から、キーとなる言葉が叫ばれる!!





 「出でよ! ダークナイト・シュテル!!」





  カードから溢れ出る膨大な闇は、まるで意志があるかのような動きを見せ、ガルデンを飲み込んだ。

 闇が晴れた後、その場に存在していたのは、・・・・・・”黒きリュー”!!



  俺の目の前に存在するリュー。

 ”シュテル”と呼ばれしリューの特徴として、頭部の頭頂部に一本の長いツノらしきものがあり、顎の部分が突き出ている。

 両肩のアーマー部分には腕を覆うかのようなマントがついていた。


  更に右手には、主に突撃に関して、絶大な破壊力を誇る円錐形の突撃槍ランスを持ち、

 左手には表面にシンプルな図形が描かれている盾を保有している。


  ブローディアと同じく、黒色系を基調としているのに、奴から感じる雰囲気は俺達とは異なる。

 いわば対極に位置するといっていい存在。完全な”ダークネス”。それも、底が見えない程の深遠なる存在モノ



  その”ダークナイト・シュテル”と呼ばれし存在は、俺がこの世界に来て出会った中、否、元の世界もひっくるめて

 最悪の存在である事を、今までの経験から直感的に悟る!!



 (こいつガルデン&シュテル等は、かなりやばい! 倒せるのか、この俺に?!)



  内心では焦りつつも、”奴”に悟られないように冷静さを保ち、俺はある疑問を口にする。



 「少し聞きたい事がある。」

 「何だ? 出来うる限りお答えしよう。

 『悩み事があって負けた』等とあの世で言い訳されても困るからな。フフッ・・・。」



  自分の”力”に絶対の自信があるのか、俺の言葉に応じてくれた。



 「それは、助かる。では、聞かせて貰う。何故この街を襲う?」

 「いきなり核心から来るのだな。首謀者の名を最初に聞かれると思ったが。」

 「馬鹿にするな。この状況下ではそんな事など一目瞭然だろう!」

 「確かにそうだな。では、お答えしよう。・・・・・・私は 【ある御方】 の為に強力な魔法の品を集めている。

  調べるうちに、この街に目的のモノがあるらしいという事が分かった。・・・と言えば理解してくれると思うが。いかがかな?」

 「つまり、”魔法の品”を奪いに来たと言う事か!!」

 「フフフ・・・・。」


  俺の答えに、不気味な笑みで返すガルデン。

 俺は、心の中で渦巻く感情 ― ”怒り”を抑えきれなくなっていた。

 同時に、右手に持つ不動の利剣ヴァジュラの柄に、高密度の大気魔力ミスト・ルーンが集中し始める。



 「何も怒る事もはないだろう。”魔法の品”は、選ばれたものが使ってこそ真価を発揮する。

  たかだか虫けらから奪い取る事の何処に、間違いがあるというのだ?」



 「貴様ッ!!」



  ゴウッ!!



  その言葉が引き金となり、アキトは行動を起こす! 柄からは光り輝く”刀身”が出現していた!!

 大気を震わせ、シュテルに飛びかかり切り裂こうとするブローディア。


  しかし、シュテルはいとも簡単に斬撃を見切ると、得物で弾き返す!!



 「そのスピード、パワー。そして斬撃の鋭さ。確かに並の”乗り手”と”リュー”ではない。

  確かに、グレムリン部隊を圧倒しただけの事はある。だが、私を倒すのには不十分だ!!」



  突如として、俺の視界から消える”シュテル”。


 《〈消えた!?〉》


  二人ディア・ブロスの声が重なる。現れた場所は、目の前!!


 「ちいッ!! (なんてスピードだ!!)」



  咄嗟に身を捻り、ランスの突撃を紙一重で避ける。と同時に空高く飛び距離を取った。

 あと一歩反応が遅ければ、確実に串刺しにされていた事は想像に難くない。



 「中々の反応だ。だが、何処まで保つかな?」



  シュテルはゆっくりと地上から浮き、飛び立つ!!





  空中で幾度となく衝突し合う、二体の”黒の巨人”

 見た目には互角。いや、蒼銀の翼を持つ巨人の方が、徐々に押され始めていた!



 (このままでは負ける! ・・・・・・身体の痛みなど気にしてはいられない!!

  ここで死ぬ訳にはいかないんだ。俺は!!)



  俺は、ここまで昂氣を使用していない。それには理由があった。

 実は現在、昂氣を使用すると、全身に痛みが奔る。軽く纏うだけで。

 もし、全開にしたらどの程度の痛みが襲ってくるか想像もつかない。

 だが、眼前に迫る”死”を消し去るには、昂氣を使う以外に手立てがない!!



 〔ディア、ブロス。今から昂氣を全開する。サポートを頼む!!〕


 〈《りょ、了解!!》〉


  二人も俺の言葉に躊躇しつつも、はっきりと返事をしてくれる。



  直後! ブローディアの機体が蒼銀の輝きに包み込まれた。

 それに伴い、アキト及び機体ブローディアのポテンシャルが、爆発的に跳ね上がる!!



 「ぐぅぅッ・・・・。」



  全身に、激痛が奔る! それも想像を絶する程のモノが!!

 だが、それに耐え、シュテルを射抜くように凝視する。



  「な・・・ぜ、貴様が、・・・使い手なのか。」



  理由は分からないが、ガルデンから感じていた威圧感が、一瞬緩んだ。



 (何に驚いている? なんにしても、この好機チャンスを逃す訳にはいかない!!)



  その隙をつき、あたかも瞬間移動の如く間合いを詰め、シュテルに斬りかかる!!

 だが、斬撃はシュテルの腕を掠めただけに終わった。全力で行ったにもかかわらず・・・。



 (まさか、あのタイミングで回避をするなんて。なんて強さだ!!)



  だが、回想をしている暇などない。今の状態では、全力でいられる時間も限られている。

 直ぐに、次の攻撃に移ろうとしたその時!!




 「フフフ・・・、ハハハハハハ―――――――ッ!!」




  ガルデンが、それこそ大声で笑い出したのだ!



 「何が可笑しい?」



  ガルデンの意図が俺には分からず、思わず聞き返す!

 それに対するガルデンの答えは、言葉でなく強力な攻撃だった!!




雷撃ライダース襲弾・ブレッド!! これでも喰らえッ!!」




  ランスの先から、幾筋もの強力な”雷の弾丸”がブローディアに向けて放たれる!!

 もの凄い音と光りを周囲にまき散らしながら。それも高速で!!



  俺は、不動の利剣ヴァジュラの力を高め、幾つかの”雷の弾丸”をうち払う!

 だが、消しきれない攻撃が、俺に迫りくる!!



 ザシュッ!!



  回避しきれない一つが、ブローディアの右脇腹を掠った。

 と同時に、俺の右脇腹から血が流れ落ちる。



 (まさか、昂氣で身体強化したにも関わらずダメージを受けるなんて。

  リューのお陰で大幅にポテンシャルが上がっているというのに!)



 「クククッ・・・、やはりその程度の力か。それにしても最初は驚いたぞ。貴様が纏う、その”光”に。

  まさか、失われたはずの”ソウル”の使い手が、我が目の前に居たのだからな。

  一瞬とはいえ、私に畏怖を感じさせた事には敬意を払おう。」



 「”ソウル”?」


  ガルデンから語られる単語の一つに、無意識に俺は反応する。

 その理由は分からなかったが、どうしても確かめずにはいられなかった。


 「そうだ。己の魂の色 ― 力を具現化しある力・・・を行使する者達の総称だ。フン・・・、その様子だと知らずに使っているか。

  だが、今の一撃と貴様の様子から確信した。貴様は、まだ完全には覚醒していない。その力を持て余していると・・・な。

  身体強化にしか、その力を使えていないのがいい証拠だ・・・。」



  俺が扱う力 ― ”昂氣”。還るべき世界においても、ごく一部の人間のみに口伝で伝えられていたモノ。

 世界アースティアからすれば”異端”と呼ぶべき力だと、この瞬間まで正直思っていた。


  にも関わらず、眼前の男 ― ガルデンの口から出た言葉は、明らかに俺の考えを否定するもの。

 呼び方の違いはあれど、ガルデンの言葉が真実だとすれば、

 俺が纏っている”昂氣”が、この世界に存在していたという事に他ならない。


 (俺が還るべき世界と、この世界アースティアには、何らかの関わりがあるのか?

  ならば、俺がここに跳ばされてきたのにもやはり何らかの理由がある・・・ということなのか?

  それに―――――。)



  俺の思考は半ば強制的に中断された。ガルデンシュテルから発せられる、強大な圧力プレッシャーを浴びて!!



 「貴様を生かしておけば、いずれ必ず主の障害となる。

  その前に、この場で抹殺する。シュテルの真の姿で! 完全に!!」



  シュテルの両目が紅く光る。すると、シュテル自体が紅い魔力光に包まれ、

 その身を変態メタモルフォーゼさせていく!!



 〈アキト兄! シュテルの魔法力が、もの凄い勢いで増大しているよ。!!〉



  警告音と共に、ディアの悲鳴がコクピット内に響く。だが、近づこうにも何らかの力場を展開している。

 そのため、近づく事はおろか、その場から一歩も動く事ができない!!



  程なくして、変態メタモルフォーゼが完了したシュテルが、圧倒的な存在として俺たちの前にに佇んでいた!!




 「クククッ・・・、”邪竜形態” になった以上、貴様に勝機はない。覚悟しろ・・・・・・。」



  シュテルの姿は、”リュー”と呼ぶにはあまりにもかけ離れた姿をしている。

 胸部には、一対の瞳が開かれ、臀部からは巨大かつ鋭利で長い尻尾が生え出ていた!!



 「お前、その姿、”ドゥーム”か!? 」


 「それは、あの世でじっくりと考るがいい!!」



  そう言い放ち、流れるような無駄のない動作で、ランスの切っ先をブローディアに向ける。

 向けられたランスの周囲には、雷が帯電しているのがはっきり見て取れた!

 それも只の雷ではない。黒く輝いている雷光だった・・・・。



  対してアキトの方は剣を持ったまま、その場に佇みシュテルのランスを凝視している。

 昂氣を纏っているだけで、それ以外の事は何もしていない。否、する事が出来ないでいた!!


 (げ、限界・・・だ。これ以上、昂氣を纏っていられない・・・。けど、今解除すれば、

  間違いなく待ち受けている結果は・・・”死”。残った手段は、もはや アレ・・しかない・・・・か。)


  自然にアキトの視線は、シュテルのランスから己の両手に移っていた。

 ・・・・・ある事を成す為に!




 「一撃で終わらせる。下手に経験を積まれて、完全覚醒されては困るからな・・・・・・・。」



  まるで自分に言い聞かせるかのようにガルデンは呟き、その後、ある言葉・・・・を口にした。

 それが、この闘いにおいて俺が聞いた最後の言葉であり、

 この先に於いて、決して忘れる事が出来ない忌まわしい言葉となる。








 「秘剣! 万象プロヴィデンス終焉・クラッシャーッ!!」








  ランスを構えての攻撃。だが、その攻撃は 雷撃ライダース襲弾・ブレッドとは比較にならない破壊力を秘めたモノ!

 一瞬、昼と勘違いする程の光りが周囲を覆い尽くす!! 


  直後、ブローディアはもの凄い勢いで地表に叩きつけられた!!




  上空に佇み、眼下を見るシュテル。だが、そのボディは至る所に亀裂が奔る等、大きな損傷があった!! 

 ランスに至っては、折れはしていないが所々が拉げ、折れ曲がっている!!

  なかでも右腕の損傷が最も酷く、肩を覆うアーマーは見る影もなく消滅していた。



 「ぐッ・・・! や、やってくれる。ま、まさか、あんな隠し手があったとは。

  私の秘剣と拮抗する程の”力”・・・か。未覚醒ながらも、やはり”ソウル”の使い手か。

  甘く・・・見過ぎていた。くぅ・・・。」



  ガルデンは苦痛の表情を浮かべ、左手で右肩を押さえながら呼吸を荒くしていた。

 どうやら、空中に浮いているのがやっとの状態らしい。


  そこに、何者から通信が入る。それを見たガルデンは、

 左手のひらに紅い水晶球を出現させ”エルゴ”に向かって放り投げた。

  放り投げられた水晶は途中で砕け、細かい破片となり街に降り注ぐ。



 「聞こえるか、セフィア。引き上げるぞ。」



  数瞬後、小さなウインドウが出現しセフィアが現れる。

 彼女はガルデンの姿を見て驚く。



 「ガルデン様、一体なにがあったのです? 傷だらけではありませんか!?」



  だが、セフィアの言葉には応ぜず同じ言葉を繰り返す。



 「聞こえなかったか? 引き上げるといったはずだ。」

 「・・・・了解しました。では、帰還致します。」



  色々と聞きたい事はあった。しかし、彼の言葉に逆らう事はできない

 セフィアは、言われた事を遂行する。



  通信を切った後、ガルデンはもう一度眼下に目を向け、その後、淡い残光を残し

 その場から消え去っていた。
















  ブローディアが地表に叩きつけられる少し前、エルゴの上空では、

 レオーネの駆る”フリージア”とセフィアの駆る”クンツァイト”が、一進一退の攻防を繰り広げていた!


  にも関わらず、レオーネの表情は焦りの色合いを見せている。

 目の前の敵にではなく、先程から感じている馬鹿でかい”魔法力”に対して。



 (何? この大きな魔法力は! アキトは何と戦っているの?)



  そう思った次の瞬間!




 ドガガアアアッンン!!




  魔法力を感知した方向の空一面が光り、

 直後! 何かが、地面にもの凄い勢いで叩きつけられる光景があった!!



  戦いの最中でありながら、それに目を奪われるレオーネ。

 彼女の目には、叩きつけられた物体の正体がはっきりと見えたからだ。



 「勝負・・・ありましたね。”力”を解放したガルデン様に、敵う存在などいないのです。」



  戦斧を構え直し、セフィアは再度レオーネと向き合う。

 だが、セフィアの言葉と現実に起きた光景を否定するかのようにレオーネは叫ぶ!



 「そんな事ない! アキトが・・・、アキトが負けるなんて、死ぬはずなんてない!!」


 「・・・”アキト”。それが貴女の連れの名前。・・・まあ、私にとってはどうでも良い事です。

  が、覚えておきましょう。ガルデン様の ”真の姿” を観た者として。」



  それだけを言うと、セフィアはレオーネとの決着を付けるべく力を込める。

 そして、まさに襲いかかろうとした矢先、ガルデンからの通信が入った!



  セフィアに出来た隙。レオーネ程の実力者であれば、攻撃に移行できる”隙”。

 だが、彼女にはその余裕がなかった。アキトを心配する余りに・・・・・・。



 「・・・決着は次に会った時に付けましょう。もし、貴女が生きていれば・・・の話ですけどね。」



  言うな否や、彼女の戦斧 ― ”デヴァイン・アックス”は強力な光りを発する。

 あたかも、星の煌めきの如く。



 「ッッ!!」


  あまりの眩しさに一瞬たじろぐレオーネ。

 光りが止み、周囲に再び夜の闇が戻った時、セフィアクンツァイトの姿は消え去っていた。



  セフィアが消えた事に一瞬、驚いた。

 しかし、直ぐ我に返り、未だ噴煙が立ち上っている場所 ― アキトブローディアが叩き落とされた地点へ飛んでいく。



  アキトの無事を信じて・・・・。
















  エルゴの郊外。広い荒野のある所に、半径100Mもの大きさがあるクレーターが出来上がっていた。

 それに、かなりの深さもある。


  最も深い部分 ― クレーターの中心には、漆黒の甲冑を纏っている一人の男が横たわっていた!!



 〈アキト兄! 大丈夫?!〉

 《ねぇ、返事して!!》



  二人の必死の呼びかけに、辛うじて意識が戻った。

 声を出す事ができない。かなりのダメージを負っている事を認識させられる。

 だが、二人とは思念で話せる事が不幸中の幸いだった。



 〔何とか生きているらしいな・・・・。〕



〈《!? アキト兄!!》〉



 〈大丈夫・・・なの?〉


  先程の歓喜の声とは一転、不安げなディアの声が聞こえる。



 〔辛うじて・・・な。指一本どころが声すらで出てこない。〕




  身体に奔る激痛を無視して、昂氣を全開にした戦闘。

 更には、ガルデンの最後の攻撃を相殺するために、咄嗟に繰り出した ”未完の秘術マイトによる反動。

 加えて、互いの攻撃が激突した際に生じた余波を浴び、止めに地表に叩きつけられた時の衝撃。



  幾つもの要因が重なった結果、俺の身体は深刻なダメージを受けている。

 それに伴い、一度は覚醒した俺の意識が、急速に失われつつあった。



  二人ディア・ブロスが何かを叫んでいるようだが、既に俺には聞こえなくなっており、

 意識を失う瞬間、俺の目に映ったのは、純白の翼を持つフリージア。


  そして――――――――――――――。






  やがて、夜が明け太陽が顔を出し始めた頃、少女が操縦する一台のワゴンが

 エルゴの街から旅立っていく姿があった・・・・・・・。



  こうして、エルゴの街を襲った悪夢は、朝焼けと供に過ぎ去ったのだと街の誰もが安堵した。

 だか、あくまで表面上でしかない事を、後に住民達は知る事になる。








第弐幕