機動戦艦ナデシコSS

サレナ 〜希望の花〜
第二章
忘れえぬ思い出達
第四話 Aパート  救いの手、こぼれ落ちる命

 

町ではジュンが指揮しながら町の人の避難を進めていた。

負傷者も多数出ておりヒナギクでの、移送も進んでいる。

 

 

「すまない、数人ががれきに埋まっているみたいなんだ。」

「わかった」

 

「もっと人数が必要なんだよ!!」

「わかってる、今向かわせている。

もう少し待ってくれ」

 

被害者をこのまま放置して逃げるわけにもいかず、本格的な戦闘は郊外で起こっているという事実から

ジュンは避難と並行して救助活動を行うことを決めた。

避難と救助が同時におこなわれているため、警察などは避難者の誘導などで忙しく

救助活動には当たれない。

ボランティアも戦闘中ということもあり、完全に機能していない。

避難を警察に任せボランティアの指揮に当たる仕事が必然的にジュンの仕事になっていた。

 

 

「あんまり土木作業は出来ないんですけど・・・」

「それでも、エステバリスを使った方が全然スピードが違うんだ。

頑張ってくれ!!」

避難する方も逃げ出すのに手一杯で、救助どころではない。

もはや、救助活動は猫の手も借りたいと言う状況がふさわしい。

 

 

「やるぞっ!!」

「はぁ・・・・」

アキトはやる気であったが、サレナは救助活動にはほとんど無関心だった。

それは仕方がない。

ブラックサレナは救助活動用に作られていないのだ。

はっきり言って、ダイビングスーツを着てサッカーをするほどの無茶な仕事だ。

 

しかし・・・・

 

やってみるモノで・・・・・

 

戦闘用に作られたブラックサレナが救助活動に不向きかと思われたが

やってみるとこれが意外や意外、大活躍だった。

 

 

「あ、そっちじゃありません。

はいそっちです。」

「よっし持ち上げるぞ・・・・」

強力なレーダーはがれきに埋もれた人を速やかに発見。

 

「ガス止めますね。」

「うん、さすが持ち上げてるときに爆発したら埋もれている人が

あぶないからね。」

ブラックサレナに取り付けられた二本の多目的センサーは

人間には入り込めない瓦礫に埋まっているガスの制御装置などを操作することが出来た。

 

ブラックサレナの仕様で、ほとんど作業できないが

そこは、人海戦術を使ってあっという間に救出が出来る。

現在のブラックサレナの装備のほとんどは、過去にやってきた当時のものである。

過去では、実験用に使われたためセンサー類が大幅に強化されていた。

それが、この救助に大きく役立つことになる。

 

 

ブラックサレナのレーダーや多目的センサーは、生存者の発見に貢献した。

生存者がどこにいるのかが分かるだけで救助活動はグンと楽になる。

ブラックサレナ自体はほとんど救助に参加できないのだが、間違いなく

もっとも貢献しているのはこの機体だろう・・・・・

(装甲の拘束率が大きく、手もほとんど曲げることができない。

まぁ、曲げることができない手がなぜ付いているかは・・・・ないしょっ

 

そしてブラックサレナの中でも最も貢献したのが、AIであるサレナである。

救助に必要な情報を速やかに指揮者のジュンや操縦者であるアキトに

知らせることにより、少ない人数ながら円滑な救助が出来た。

 

 

仮設テント内

「・・・・頑張っているけどやっぱり死んじゃう人はでちゃうのかな。」

全ての情報が集まり、被害の全てが分かる司令室にいるメグミは

さしのべた手からこぼれる命の多さに落胆していた。

 

ジュンはこんな状況だからこそ、明るい材料を見つけたかった。

が・・・・、周りで見えるのは傷ついた人々が列になって治療を受けるために並んでいる姿だけ。

とてもじゃないが、場をなごませるモノではなかった。

 

「うん、でも助かってる人も多い。

こんな状況でこれだけの被害ですんでるのはさすがユリカだよ。」

こんな時ユリカならなんと言うだろうか?

このときばかりは、あのユリカがここにいればと思う。

 

「でもジュンさんも頑張ってるじゃないですか?」

「そ・・・そう?」

ジュンに少しばかり春が見える・・・・

 

「でも一番活躍したのはアキトさんですけどね。」

「・・・・・・(涙)」

・・・・一瞬にして地獄に舞い戻った。

このときばかりは、大活躍のアキトを憎らしく思うのだ。

(実はアキトはただ動かしてるだけなんだけどねぇ・・・・)

 

だけど・・・・

こんな時間が過ぎていくのはイヤじゃない。

殺伐とした時間の中での何気ない会話。

 

「ここも、ナデシコなんだな」

ナデシコという言葉は何かの魔法なのだろうか?

今までの暗い気持ちが少しばかり落ち着いたような気がする。

 

 

しばらく、無言の時間が過ぎる。

決して悪い雰囲気が漂っているわけではない、仕事に没頭しているだけなのだ。

仕事をする者たちの目には、やる気と気力が満ちている。

少しでも多くの人達を助けるんだ!!

そんな心の声が、頭の中でこだまするほどの熱気がこのテントにはあった。

 

 

心地の良い緊張感を破ったのは、バッタの攻撃でも現場から届く悲報でもなかった。

紙がこすれる音とキーボードを打つ音の間にかすかな悲鳴が聞こえた瞬間、

テントで聞こえる全ての音が止まった。

 

「だ れ か 〜 〜」 

 

そして全員がすぐに声が聞こえる方を向く。

普段なら綺麗であろう金色の髪がぼさぼさになりがら、走ってくる女の子がいた。

ヒナギクの近くまで来ると、気が抜けたのかそのまま崩れ落ちる。

そして人が見つかった安堵感で、彼女は泣き出した。

 

「どうしたんですか??」

「う・・・ううぅぅ」

すぐにジュンが受け止めるが、彼女はすぐには泣きやまない。

何度も何度も息を詰まらせながらやっとの事で言葉を口にした。

 

「お父さんとお母さんが・・・・家の下敷きに・・・

うぅぅ〜〜

「どこの家?」

一度泣き出してしまうと、本人ですらそうかんたんには止めることは出来ない。

そして、泣いていれば話すことなど出来るわけはない。

彼女自身はしゃべりたいのだが、泣きやむことが出来ないため満足に声を出すことが出来ないのだ。

 

「うぅぅ〜〜ぐすっ・・・

だれか・・・・・」

 

「ううううぅぅぅ。」

「泣いてちゃわからないでしょ!!」

「うぅぅぅ〜〜」

メグミは強い口調で話しかけたが逆効果だった。

今は泣く時じゃないということが彼女にも分かっているのだ。

だけど、人は本当に泣き出すと簡単に泣きやむことは出来ない。

 

「メグミさん、場所なら大体分かります。

この近くで倒壊した家はここを除いて一軒だけです。」

その間にも、サレナは彼女が来た方向と倒壊した家屋のデータからおおよその位置を把握していた。

(倒壊した家屋はそれほど多くはない、少数の人数で救助できる程度です。 by Fira)

 

墜落したバッタの直撃で、倒壊した家屋がこの先にある。

倒壊しているのはその一軒だけなので、ほぼ間違いないだろう。

 

 

「わかった、サレナさんはそちらに向かってくれ。

救急隊員を後から行かせる。」

 

 


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