・・・・・・・終わった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・すべてが終わった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

北辰を倒し、ナデシコにユリカが救出されるのを確認し終わり

俺はユーチャリスの艦長席に深く座り込んだ。

 

・・・・ジャンプ

 

まわりの視界がぼやけ体がボゾンの粒子となって、宙を舞う。

いつも見た光景・・・・

 

 

ネルガル月ドック

「補給を頼む」

ドックに着くなり、単刀直入に俺は切り出す。

「はぁ?もう終わったんでしょう?」

作業服を着たサリナが一人で俺の前に立っている。

「アキト、どこかに行くの?」

俺の足下でしがみついているラピスは不安そうに俺を見上げている。

 

「ふふっ、すべてが終わったんだ。

これから少し、一人でぶらぶらするさ。」

嘘だ・・・・・

俺は今死に場所を探している。

俺のふさわしい死に場所に、ラピスはいらない。

いてはならない・・・・

 

「ウソ、アキトはどこかへ行こうとしている。

私は、アキトの目 アキトの足 ・・・・」

「やめろ!!」

俺は我慢できなかった。

そのラピスの言葉は俺のわがままが、ラピスを縛っている証拠だ。

「アキト君。

そんな口調だとラピスが泣いちゃうわよ。」

 

NADESICO in PHANTASY STAR
THE DARK SOUL
プロローグ ヤミの呼び声 

 

 

 

月上空

 

結局泣き出したラピスをあやし俺は、二人でユーチャリスの中にいる。

「ふふっ、結局俺は何をやっているんだか・・・・」

ズドン

思い切り壁を殴る。

さすがに戦艦の壁だ、穴は空きはしないが大きなへこみが出来ている。

俺の手には痛みはない。

 

感覚がないと言うことはこれほどまでとはな。

視覚はユーチャリスの制御用AIのオモイカネのサポートで影程度なら分かるのだが、

その他の感覚はラピスの補助がないと全くダメだ。

 

「ココロニ・・・・・・」

 

!? またか・・・

最近、ラピスの補助が切れると幻覚や幻聴が聞こえるようになってきた。

もはやほとんどの感覚がないため、幻覚と現実の区別も付けられない。

ただ、ラピスの補助がないと言うことがこれが幻覚であると言う確信を持たせているにすぎない。

 

『どうしました』

はっきりとした声が俺の中に響いた。

「オモイカネか・・・・いつもの幻聴だ。」

『現在の艦長の体調に異常は見られません。

先ほどの戦闘でつかれているものだと思われます。』

異常は無いか・・・

ふふっ、本来なら俺は重病なのだがな。

「ああ、そうする。」

そう、どちらにしろラピスとのリンクが切れた俺は、何もできないのだ。

 

「ヤミヲ・・・・ナカニ」

ふふっ、闇か・・・・

この幻聴は俺の心の中の声じゃないのか?

俺の心に巣つく悪魔の声では・・・・

「ヤミノナカ ワレノ コエヲキケ」

何だ!?

急に幻聴がはっきりとしてきた!?

「闇の中 我の声を聞け

我を受け入れよ 我と一つに」

 

くそっ、何だこれは!?

何が起こっているのかは、感覚が死んでいる俺には分からない。

ただ、不気味な声が俺の頭の中に響いてくる。

『艦長、ジャンプイメージを中止してください』

なに?

思いもつかないのオモイカネの声呼びかけに俺は混乱する。

「どういうことだオモイカネ?」

何が起こっている?

いったい、何が?

 

『艦長の周りに、ジャンプフィールドが形成されています。

直ちにジャンプフィールドを解除してください。』

俺はジャンプをイメージしてない。

まさか、俺の心の中の・・・・

くっ、俺は心を落ち着けようとする。

だが俺の心は何かを待ち望むかのように、期待と不安でいっぱいになる。

自分で自分をコントロールできない・・・・

 

「ジャンプイメージを中止してください。

このままではあと一分でランダムジャンプします。」

「闇の中 我の声を聞け

我を受け入れよ 我と一つに」

くそっ、もう幻聴がオモイカネの声と同じぐらいにはっきり聞こえてくる。

 

ぐっ

急に俺の意識が遠のいてくる。

急速に消えゆく意識の中に、次々と黒い意識が入り込んでくる。

・・・・これでもいいか。

消えゆく意識の中、俺は黒い流れに身をゆだねた。

 

不意に、ユーチャリスから見たルリちゃんの横顔が脳裏に浮かんだ。

そして、あの楽しかった四畳半の生活・・・・

もう戻れない・・・・そんな生活。

くそぉ

くそぉ

くそぉ

怒りがさらに黒い流れを加速させていく。

 

もう戻れない・・・そう思っていた生活。

はじめはその生活を「もう一度ほしい」、そう思っていた。

だがその叶えられない思いは 焦り、苛立ち、怒り、苦しみ の感情を生んでしまう。

苦しかった、叶えられない思いを胸に秘めるのは。

悲しかった、楽しかった思い出は現実をより冷たくさせる。

だから俺はその思いを心の奥にしまった。

そうすることで、俺は自分の感情から身を守っていたのだ。

 

イヤだ イヤだ イヤだ

イヤだ イヤだ イヤだ

イヤだ イヤだ イヤだ

 

 

絶対的な死を意味する闇の中、俺は大切な物を思い出す。

闇が思い出させたのか・・・・

心の中の何かが思い出させたのか・・・・分からない

 

 

絶対イヤだ。

くそぉ、こいつら俺を乗っ取るつもりか

俺は絶対戻ってやるんだ。

ユリカの元へ

ルリちゃんの元へ

みんなの元へ・・・・

 

黒い奔流は、俺の「怒り」を飲み込みさらに大きくなる。

俺の「苛立」ちを飲み込みさらに熱くなる。

俺の「焦り」を飲み込みさらに重くなる。

俺の「苦しみ」を飲み込みさらに激しくなる。

 

俺の黒い奔流は、大きな流れとなって、闇の元凶へと向かっていく。

「うぉぉぉぉぉ」

 

そして光に包まれ俺は完全に意識を失った。

 

 

 

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