「ま・・・まさか!まさかアンタは・・・!」

「俺様はテンカワ・アキト!そして言った筈だな!手前を・・・

絶対に許さねえと!」

怒号と共にゴッドのボディが赤く輝いた。

体中にまとわりつく菌糸をひきちぎり、立ち上がる。

ひきちぎられた菌糸が炎を上げて燃え、地面につく前に灰となって四散した。

その「気」に押され、ムネタケが思わず数歩後ずさる。

人であることを捨てたその顔に、純粋な恐怖の表情が浮かんでいた。

ゴッドの胸が開き、燃えるような輝きを放つエネルギーマルチプライヤーが解放される。

背中の放熱フィンが展開し、金色の・・ではなく「紅蓮の」日輪を描く。

常の黄金色にではなく「赤く輝く」ゴッドナデシコ。

それが意味する事に気がついたのは、会場ではわずか数人だった。  

 

「ゴッドナデシコハイパーモード・・・だが・・・赤い!?」

カズシ達三人と観戦していたナオの目がいぶかしげに細まる。  

 

「やっぱり、ね。」

首を傾げる九十九と元一郎をよそに、ゆっくりと舞歌が頷く。  

 

「あれはアキトじゃない・・・じゃあまさか!」

ジュンに紅茶を淹れさせていたユリカが大きく目を見開いた。  

 

「熱血馬鹿・・・か。よくやるぜ、まったくよ。」

リョーコが肩をすくめて苦笑を洩らす。  

 

「怒りのハイパーモード・・・・それを発動させただけでも大した物ね。」

地上60m、バリア発生装置のコントロールセンターの上で、腕組をしたままシュバルツが呟いた。  

 

(やはり・・・だがしかし?・・・む・・・そうか、そういうことかいテンカワ・・・)

「・・どうかしましたか、ホウメイ先生?」

「いいや、なんでもないさ。」

(ダイゴウジガイ・・・今日は、キサマとテンカワの友情に免じて見逃してやろうさ・・。)

ホウメイが太い笑みを浮かべる。

その下にどんな思いが隠されているのか、メグミに窺い知ることはできなかった。      

 

 

「俺のこの手が真っ赤に燃えるッ!」

ゴッドが・・・ダイゴウジ・ガイが咆哮する!

固く握った拳をスライドしたナックルガードが覆う!  

「勝利を掴めと轟き叫ぶッッッ!」

ナックルガードがスライドしたのと同時にゴッドが飛んだ!

天高く突き上げた拳が、全てを貫く炎に燃える!  

「爆ァァァァク熱ッ!」

急降下に転じるゴッドの視線が、まっすぐにムネタケの眉間を射抜く!  

「ひ・・ひぃぃぃっ!」

恐怖に耐えかねたムネタケの口から、遂に悲鳴が洩れた。

怯える子供の様に右手のビームナイフを闇雲に振り回す。  

「ゴッドォッ!フィンガァァァァッ!!!」

ゴッドナデシコとマタンゴナデシコ、二体の右腕が交差する!

爆熱する右掌が、すれ違う一瞬だけでマタンゴナデシコの右腕ごとビームナイフを蒸発させ、

マタンゴナデシコの頭部を捕えたっ!  

ゴッドフィンガーに鷲掴みにされたマタンゴナデシコの頭部から爆熱の波動が全身を駆け巡る。

「ひぎゃああああああっ!」

口から泡を吹き、ムネタケが絶叫する。

マタンゴナデシコの全身が内部からの高熱に焼かれ、微細なひび割れがその表面を覆い尽くす。

あまりの苦痛に、ムネタケは気絶する事すらかなわない。  

「ヒィィィィトォッ!エンドッ!」  

試合場のバリアの中を覆い尽くすほどの、巨大な爆発が起こった。

試合場を白く染めて蠢いていたキノコの肉片も、連鎖する様に爆発炎上する。

それを見届け、ゴッドナデシコが力尽きた様に膝を折った。

ガイが肩で息をしている。コクピットの床にはガイの流した汗で水溜りが出来ていた。

修練を積んだ武闘家でもない身でゴッドナデシコのハイパーモードを無理やり発動させたのと引き換えに

ガイは大量の体力を消耗していた。さすがにしばらくは動けそうにない。

もっとも、普通人なら死んでいておかしくないレベルの疲労ではあったが。

首を動かすのももどかしいかのように、ガイが目だけを動かしてモニターの一部を見た。  

 

 

爆煙の中から、ぼとり、と言った感じで人間・・・いや、人間大の物体が岩肌に落ちた。

しばらくの間ひくひくと痙攣していた「それ」が立ち上がる。

一瞬の間を置いて、「それ」がなんであるか認識してしまった観客の間から悲鳴が上がった。

かつてムネタケと呼ばれた人間の肌を菌糸が覆い尽くし、大小の子実体・・・つまりキノコが

破れたファイティングスーツの裂け目から顔を出している。

それは、人間と別種の生物とのおぞましいキマイラであった。

・・・・単に本物のキノコになってしまったといえばそれまでだが。  

 

試合が終了した事により、試合場を覆っていたバリアが解除される。

ネオインドの兵士が立ち尽くす人影に駆け寄って行く。

それは、明らかに負傷したナデシコファイターに対する扱いではない。

現に担架の一つすら用意しておらず、全員が武装していた。

彼らが棒立ちしたままの「それ」を取り囲み、両脇から腕を掴む。

その途端、今まで微動だにしなかった「それ」が動いた。

ガンダムファイターとは思えない力任せの一撃、腕の一振りで兵士二人を薙ぎ払う。

残りの兵士達が一斉に麻酔弾を発射する。

殆どが命中するがムネタケの動きは鈍らない。

その指先から白い物が垂れ下がり、よじり合わされて一本の鞭のようになった。

触手鞭を振りまわし、あっという間に全ての兵士達を薙ぎ倒したムネタケが

アキトやガイをすら凌ぐかと思われるほどの、人間離れした早さで走り出す。

その人外の脚力でビクトリアピークの頂上まで急勾配の斜面を一気に駆け上がったムネタケが

ゴッドナデシコの方を向き、ありったけの大声で喚き始める。

「今日の所はこれで勘弁してあげるわ!でも、覚えてなさい!この借りは、いつかきっと返・・・」

「それは無理ですね。」

真後ろからかかった涼やかな声に、思わず捨て台詞を中断してムネタケが振り向く。

鈍い金色に光る装甲服。

それが、ムネタケが娑婆で見た最後の光景になった。

次の瞬間ごきん、と鈍く重い音がして彼の首は直角に折れ曲がった。

気がついたとき、彼はコロニー収監所特別隔離房の中にいる自分を発見してうろたえる事になる。  

 

 

「こちらはチェリーゲイル・ゴールド。ムネタケは私が責任を持って収監します。

あなたがたには決してご迷惑をかけませんからご安心下さい。それでは。」

短い通信を送ると金色の装甲服はガイ達の方に会釈し、

電磁ネットで絡めとったムネタケと共に止める間もなく姿を消した。  

 

 

 

それを見ながらぽつり、と言った感じでホウメイが口を開く。

「放っておいていいのかい?メグミ首相。」

「構いませんよ、別に。我々とのつながりを示す証拠は何もありませんし、どの道あの男は用済みです。

始末する手間が省けると言う物ですよ。

それに彼にとってはまだしも刑務所の中の方が安全なのではありませんか?ホウメイ先生。」

「フン・・・悪党だね、アンタも。」

「いえいえ。これでも有能な部下には手厚く報いる優しい上司ですよ?」

メグミが目を細めてくすくす笑う。

その魅力的な笑みには邪気のかけらもないように見えた。          

 

 

その翌日。ネオジャパン大使館の一角にある離れに布団を敷き、アキトがその身を休めていた。

その枕もとで、せんべいを食べながらガイが情報端末をいじくっている。

あの時、ムネタケの操っていたキノコの化物を倒して駆けつけた、

「バイオハンター・シルバー」と名乗る謎の賞金稼ぎの残していったワクチンによってアキトは一命を拾った。

だが、ムネタケの予測通り動ける状態ではなかったため、窮余の策として

摘出手術の後にもかかわらず平気で動いていたガイに白羽の矢が立ったのだ。

ちなみにアキトの体内の胞子は完全に死滅し、後は体力を回復させるだけである。  

 

 

情報端末を覗きこんでいたガイが、目当てのニュースを見つけて口を開く。

「ネオインドコロニー政府から公式声明があった。『あれ』はムネタケ本人ではなく、

ムネタケに擬態していた未知の生命体だとさ。今時謎の宇宙生命体ってか?まったく笑わせるぜ。」

「おそらくはどこかのバイオテクノロジー研究所で作られていた物をムネタケが手に入れたんだろうが・・」

「ま、考えても仕方ねえこった。」

「そうだな・・。」

一旦言葉を切り、アキトがガイの横顔をじっと見詰める。

「ガイ。」

「ん?なんだ、アキト?」

「・・・ありがとう。」

「・・・・・けっ!よせやい、水臭いぜ!」

照れ隠しのつもりか、そっぽを向いたガイが赤くなったほっぺたをぼりぼりと掻く。

子供の頃と全く変わっていないその仕草に、アキトが苦笑を洩らした。

二人とも無言のまま、だが決して苛立ちもしなければ気まずくもない、穏やかな時間が流れる。  

 

 

(こういうのも男同士の友情・・・っていうのかな・・・ガイ、お前はやっぱり最高の友達だよ)

柄にもなくアキトがそんな事を考えていた時、表が妙に騒がしくなった。

「何だ?」

「何か揉めてるみたいだな。ちょっとみてくらぁ。」

ガイがのっそりと立ち上がって離れの扉を開け、表に出てゆく。

しばらく経ってうとうとし始めた時、甲高い声がアキトをたたき起こした。

「アキトーっ!怪我してたんだって!?大丈夫なの?痛くない?」

「ユリカさん、少しは遠慮なさいな!情報を掴んだのはこの私なのですよ!」

「だってぇ・・・アキトが心配なんだもの。」

「それは私だって同じです!・・・・アキトさん、お体の具合はいかがですか?」

どこで聞きつけてきたのか、ミスマル・ユリカとカグヤ・オニキリマルの二人がそこにいた。

先ほどとはまた別の苦笑を浮かべつつ、アキトが快方に向かっている旨を告げると

二人が見るからにほっとした顔になった。

しばらく他愛もない話をした後、ユリカとカグヤが同時に風呂敷に包んだお重とバスケットを出す。

「ユリカ、アキトの為にお弁当作ってきたよ!」

「私もアキト様の為に手料理など作ってまいりましたわ!」  

一瞬、アキトの心臓が鼓動を停止した。  

幸か不幸か、ユリカの「料理」(あの物体をそう呼ぶのは料理に対する冒涜であるような気もするが)の

腕前をアキトは良く知っている。それはもう、十二分に。

そしてユリカの最大のライバルであるカグヤは、料理においてもまたユリカと互角の実力を誇るということも。

「ガ、ガイ!」

だが、最後の望みを込めた一縷の希望は無残にも裏切られた。

「あ、ガイ君だったら『ナデシコの整備が残っている』って先に帰っちゃったよ。」

「きっと、私とアキトさんの為に気を利かせてくれたんですわ。

アキトさんも良いお友達をお持ちですわね。」

「違うもん!ユリカとアキトの為に気を利かせてくれたんだもん!」

そう言えばガイも、この二人の『実力』を良く知るものの一人ではあった。  

(前言撤回だ!ガイ!お前なんか親友でもなんでもない!この薄情者〜!!)  

心で血の涙を流すアキト。

だが、もちろんそれで目の前の現実が変わると言うものでもない。

「さあ、召し上がれ。」

「はい、アキト。食べさせてあげるからあ〜んして。」

迫る破滅の運命を前に、アキトは指一本動かす事が出来ない。  

 

五分後。ネオジャパン大使館にこの世のものとは思えぬ絶叫が轟いた。          

 

 

次回予告  

皆さん、お待ちかねぇ!

アキトの次なる相手はネオネパール代表マンダラナデシコ!

これを操るファイターは戦いこそが己の存在意義と言いきる純粋戦士・北斗!

彼女を倒す為特訓に励んだアキトは、

新たなる必殺技、爆熱ゴッドスラッシュでこれに立ち向かうのです!

機動武闘伝Gナデシコ、

「狙われたアキト!国士無双の必殺剣」

レディィィ!Go!

 

 

 

あとがき   疲れたです〜。

これを書いている最中、仕事は忙しいわ食中毒で倒れるわ風邪を引くわ腱鞘炎になるわ、

散々な目に会いましたが・・・どうにか完成いたしました。

今回はムネタケ君が人間やめてます・・・まあ、元からキノコなんですけど。

ちなみに、前回は言い忘れておりましたが、

この作品で使用しているMidiはDomonさんの作品です。

この場を借り、使用を許可していただいた事にあらためて御礼申し上げます。

では、次回をお楽しみに!

ふっふっふ、気合を入れるぞォっ!

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第二十七弾の投稿です!!

読み終わって・・・ふと思った事。

もしかして、主役って―――ガイ?(爆)

だって、あきらかにアキトより目立ってるよ!!

しかも、美味しい処は全部独り占めだし!!(笑)

熱血を地でいってるよな・・・

根性で怒りのハイパーモードなんて発動させるし(苦笑)

 

ま、次回はあの人の登場ですし・・・アキトが活躍するでしょう!!

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

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