「う・・・・ううう・・・・」

(ふふふふふ・・・ははははははは・・・・・あははははははは!)

「あ、あああ・・・・・」

(ははははははははははは!)

「やめて・・・その笑いをやめてぇっ!」

(ふふふふ・・・・ヤメテ、ソノ笑イヲヤメテェッ!・・・はははははははは!)

「いやぁ、お願いやめて・・・・・・」

(イヤァ、オ願イヤメテ・・・・・・あはははははははは!)

「やめてぇぇぇぇぇっ!」

 

自分自身の絶叫で舞歌は目を覚ました。

跳ね起きて荒い息をつく。

気が付くと、自慢の黒髪と肌着が汗でびっしょりと濡れていた。

うなじに張りついた髪が気持ち悪い。

肌着もべったりと体に張りついて不快この上なかった。

白塗りのピエロ・・・今日の昼間に見たそれがどうしても脳裏から離れない。

 

 

 

(舞歌・・・舞歌・・・)

「う・・・・ん・・・・」

舞歌が苦しそうに寝返りを打つ。

先程シャワーを浴びて着替えたばかりだと言うのに、その肌は早くも汗ばんでいた。

(舞歌・・・舞歌・・・・)

「誰!誰なの!?」

再び跳ね起きる舞歌。

声の主を誰何しつつも、舞歌はその声の主が誰であるか、はっきりと認識していた。

決して忘れる筈のない声。決して忘れる筈のない大切なひと。

だが、それと同時に理性が警告していた。この声の持ち主はもうこの世にはいないのだと。

(僕だよ・・忘れてしまったのかい舞歌?そうだよ・・・お兄ちゃんだよ・・・・)

「・・・・・・!」

(ふふふ・・・・待っているよ舞歌・・・・)

 

 

 

 

舞歌が物心ついた時、既に両親はこの世の人ではなかった。

少林寺の大僧正となる筈だった舞歌の父親はその直前、舞歌と兄の八雲を残して

事故で妻とともに呆気なくこの世を去ってしまっていたのである。

そして、舞歌の父に代って少林寺大僧正を継いだのは、

先代大僧正の孫にして唯一の直系男児である若干九歳の八雲であった。

時に舞歌三歳である。

 

 

大僧正として忙しい毎日の中で八雲はよく妹の面倒を見た。

それは唯一の肉親に対する兄としての義務感でもあり、

また齢三つにして両親を亡くした妹の事がいとおしくてたまらなかったせいかもしれない。

その兄との思い出は、舞歌にとって最も大切なもののひとつだった。

 

長ずるに従い、舞歌はその武芸の血脈に相応しい資質を見せ始めた。

大僧正たる八雲のそれすらはるかに凌ぐ、まさに天賦の才。

少林寺再興という願いを胸に燃やしていた八雲が妹の才と、

祖父がナデシコファイターであったと言う事実を結びつけたのは当然であった。

コロニーへ上がり、コロニーにおける武芸の中心地竹林寺で修行を積む。

そしてネオチャイナのナデシコファイターは竹林寺の修行者の中から選ばれる慣わし。

見事ナデシコファイターとなリ、ナデシコファイトで優勝すれば少林寺の再興も夢ではない・・・!

 

しかし、舞歌にとってそれは兄との別れを意味した。

故に八雲は一度たりとてそれを舞歌に言った事はない。

だが最後に決断したのは舞歌だった。

自分が兄といる幸せよりも、兄の願いである少林寺の再興を為し遂げる事を選んだのである。

それが八雲の終生の悲願であると知っていたから。

コロニーへのシャトル。

笑顔を作り、兄に手を振る舞歌。

それに応え手を振る八雲。

そして、これが兄と妹の今生の別れとなった。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、お兄ちゃん、元一朗!」

「なんだユキナ、まだ起きていたのか?もう寝る時間だぞ。」

「もう、子供扱いしないでよね・・・って、そんな事いってる場合じゃないかもよ!」

部屋に備え付けの端末にかじりつき、操作を続けながらユキナが兄と元一朗の方を振り向く。

そのユキナの真剣な表情に二人も表情をあらためた。

「どう言う事だ?」

「舞歌姉のデータベースが何者かに侵入された可能性があるのよ。」

「それが本当だとしたらただならぬ事だが・・」

「・・・・・・お前はいつそんな事を覚えたんだ、ユキナ?」

元一朗が真剣な顔をする横で九十九がユキナを睨む。

笑って誤魔化そうとするユキナ。

「あ、ははははは・・・秘密。」

「ユキナ!・・・なんだ、元一朗。」

「今はそんな事を詮索している場合ではあるまい。・・・・舞歌殿のデータベースと言ったな?」

「うん・・・正確には舞歌姉の個人情報だけど。

ナデシコファイト国際委員会に提出されてるような通り一遍のじゃなくてもっと詳しい奴。」

「個人情報なら、プロテクトがかかっている筈だな?」

「もちろん。でもかなり強引なやり方で突破されてる・・・

舞歌姉の情報は洗いざらい持ってかれたと見て間違いないね。」

「一体どこの誰がそんな事を・・・・・?」

「今探ってる・・・・・・・・嘘。」

端末を操作していたユキナが一瞬硬直する。

「どうした?」

「このアクセス・・・ネオポルトガルの領事館からよ!」

「じゃあ・・」

「犯人はヤマサキか!」

「・・・・・ユキナ。舞歌殿を起してきてくれ。」

「うん、わかった。」

だが、ユキナが見たのは風に揺れるカーテンだった。

隣の部屋にいた九十九たちにも気配を悟らせず、舞歌は姿を消していた。

 

 

 

 

 

きい、きい、と音を立ててブランコが揺れている。

「ここは・・・昼間の・・・テント?」

気が付くと舞歌は暗いテントの中で一人立ち尽くしていた。

夢から醒めたように周囲を見まわす舞歌の後ろに唐突に気配が出現する。

振り向いたその目の前に立っていたのは・・・紛れもない、彼女の兄八雲その人であった。

 

「お兄ちゃん・・・・・・・」

「寂しかったぞ・・・」

「!」

はっきりと、怯えの表情を浮かべて舞歌が後ずさる。

それに合わせるかのように八雲が一歩踏み出す。

「何故来てくれなかった・・・?」

「あ、ああ・・・」

「一目でもお前に会いたかったのに・・・何故来てくれなかった・・・?」

「ああ・・・」

「舞歌・・・・・・」

「いやあああああああああっ!」

ぷつり、と精神の糸が切れた。

舞歌が頭を抱えて崩れ落ちるようにうずくまる。

「ごめんなさい・・ごめんなさいぃっ!私が・・・私が悪かったから・・・許して・・・お願い・・・」

 

 

 

 

「ごめんなさい、許して・・・・ごめんなさい・・・・」

「舞歌さん!舞歌さん!しっかり!しっかりして下さい!・・・失礼!」

「!・・・・アキト・・くん?」

どれほどそうしていたろうか。頬を叩かれて舞歌は我に返った。

ぼんやりした頭がまず目の前のアキトを認識して、

ついで自分の上半身がアキトによって支えられている事に気が付く。

「アキト君・・・どうして・・・?」

「ユキナちゃんから捜索の手伝いを頼まれまして。

忠告する立場じゃないですけど・・・貴女らしくないですよ?相手に心理戦でやられてどうするんですか。」

舞歌が無言のままアキトの胸元にすがりつく。

反射的に腕を回し、舞歌を抱きかかえる格好になったアキトの頬が少し赤らんだ。

「え・・・・」

「でも・・・私は・・・私は・・・」

「どういう事情があるのかは知りませんけど、俺で良かったら話して見ませんか。

吐き出してしまえば楽になるかもしれませんよ?」

「・・・・うん。」

 

ひとつ頷いてから切れ切れに舞歌は語り始めた。

両親を早くになくし、親代わりに世話をしてくれた兄がいたこと、

修行の為コロニーに上がった時それっきりになってしまい、

修行中の身故に兄の葬式にも出られなかったこと・・・。

 

「私は・・・兄の死に目に一目会うどころか駆け付けようともしなかった・・・。

私の・・・たった一人のお兄ちゃんだったのに・・・・。

だから・・・だからお兄ちゃんは・・・」

「舞歌さん・・・・。」

アキトが震える舞歌を抱きかかえている腕に力を込める。

それ以外、アキトに出来る事はなかった。

「ありがとう、アキト君・・・・。

・・・・・もうしばらく、こうしてていいかしら・・・?」

「・・・ええ。」

 

震えが収まる頃、再び舞歌が口を開く。

「ねえ、アキト君。もうひとついいかしら?」

「・・・・・なんですか?」

困ったようにアキトが聞き返す。

普段通りに戻りつつある舞歌の口調に、ほんのちょっぴり警戒の色があった。

「子守唄、歌って。」

「ひとつしか知りませんよ、子守唄なんて」

「それでもいいから。」

「・・・・はいはい。」

しばしの間を置いて、テントの中に切れ切れな子守唄が流れ始める。

もちろん、上手くはない。

だが、舞歌にはその歌声に込められたアキトの心が何よりも嬉しかった。

幼い頃の自分に兄が歌ってくれたように・・・・・。

 

 

繰り返し何回か歌った後、アキトは舞歌が安らかな寝息を立てていることに気が付いた。

そのあどけない寝顔にふとアキトの表情が緩む。

結局その晩はアキトが舞歌を抱きかかえたままネオチャイナの宿舎までそっと連れ帰った。

 

・・・・ネオチャイナの宿舎まで行く途中同じように駆り出されていたガイやチハヤに見つかってしまい、

大いにからかわれたのはここだけの話である。

 

 

 

歓声がかつてクイーンズ・イーストロードと呼ばれていた場所にこだまする。

ドラゴンナデシコとジェスターナデシコのファイトが遂に始まろうとしていた。

自然な、立ち姿のドラゴンナデシコがライトアップされる。

その隙のない姿に観戦していたアキトが無言で頷いた。

 

対して、ジェスターナデシコの登場は派手な物だった。

いきなり戦闘フィールド内にロープ付きのアンカーが打ち込まれたかと思うと、

同じくライトアップされながらナデシコサイズの一輪車でロープを伝い、宙を渡る。

最後の数十メートルを回転しながら飛び下り、ポーズを決めると喝采が起こった。

 

 

「ふん・・・すぐに挽肉にしてあげるわ。・・・・ナデシコファイト・スタンバイ!」

「レディィィィ・・・」

「「GOッ!」」

 

 

戦いは拳の応酬から始まった。

「この・・・・」

「ふふふ・・・あはははははは!」

狂ったように笑いながら舞歌が繰り出す拳をことごとく外し、そらすヤマサキ。

思うように動かない自分の体にもどかしさを感じる舞歌。

「く・・・・・!」

 

 

「・・・・舞歌さんの動きがやはり鈍い・・・。」

アキトが唇を噛み締める。

隣のガイと、何故かいるチハヤも表情が暗い。

「映像を見た限りじゃ実力にはかなり違いがあると思ったんだけど・・・。」

「いくら実力があっても発揮できなければ同じ事だ。」

にべもなくアキトが言いきる。

だが、その表情には隠し切れない焦りと気遣いとがあった。

 

 

 

「ふふふ・・・お兄さんのことはもういいんですか、舞歌さん?」

「!?」

一瞬、動きが鈍った舞歌にヤマサキの膝蹴りがクリーンヒットした。

吹き飛ばされた舞歌の目の前に、ジェスターナデシコの両手が突き出される。

その指が怪しく踊るのを見た瞬間、舞歌の意識は暗転した。

 

 

 

(舞歌・・・・)

 

再び、舞歌の目の前に兄がいた。

 

「お、お兄ちゃん・・・」

(悪い子だ!)

「あうっ!」

打たれた頬を押さえ、怯えた表情で舞歌が後ずさりする。

その頬を、再び打撃が襲った。

(悪い子だ・・お前は悪い子だ!)

幻影の八雲が舞歌を打つ。そこには一片の容赦もない。

抵抗しない舞歌を言葉で責めながら打撃を浴びせ続ける。

顎を突き上げられてのけぞり、体をくの字に折ってもなお舞歌は抵抗しない・・・いや、出来ないでいる。

 

「悪い子だ!悪い子だ!・・・・あはははははははは!」

 

甲高い笑い声を上げながらジェスターナデシコがドラゴンナデシコを滅多打ちにしている。

何も知らない観衆からみれば、舞歌が戦意を喪失したように見えたろう。

いや、事実今の舞歌は半ば戦意を喪失していた。

 

「舞歌殿!そいつは幻です!惑わされないで!」

「でも・・・お兄ちゃんなのよ・・・お兄ちゃんなのよぉッ!」

 

悲痛に叫んだ瞬間、舞歌が吹き飛ばされた。

朦朧として大地に伏した舞歌をヤマサキの足が踏みにじる。

 

「貴様・・・ファイトに勝つためにここまでするか!貴様何様のつもりだ!」

「決まってるじゃないか・・・僕は天才だよ。だから、やっちゃいけない事なんてこの世にないんだ!」

 

一瞬、叫んだアキトのみならず、会場にいた全ての人間が絶句した。

 

「そもそも、人類の歴史を動かしてきたのは誰だ?人類を進歩させてきたのは誰だ?

それは凡人じゃあない・・・一握りの天才なんだ!

そして、天才の天才たるゆえんはその行動にある!

凡人たちが縛られる常識や慣習、そして倫理なんて言うつまらないものを超越した所にこそ、

僕のような天才は存在するのさ!」

 

楽しそうにヤマサキが笑う。誇らしげに、嬉しげに。

 

「あなたは・・・あなたはそんな理由で人の心を踏みにじるの!」

「心?そんなものは研究対象のひとつにしか過ぎないよ。

どうしてたかが研究対象なんかに気を使わなくちゃいけないのさ?」

 

激昂するユキナをなぶるように嘲笑うヤマサキ。

それを見た時、チハヤの中で何かが弾けた。

 

「舞歌さん!・・・舞歌さんが大好きなお兄さんなんでしょ!?

舞歌さんのことを大切に思ってくれていたお兄さんなんでしょ!?

だったら、そんな事を言うわけがないじゃないのっ!

いいかげんに、目を覚ましなさい!」

 

「チハヤ・・・・ちゃん・・・・」

 

朦朧としていた舞歌の眼が開く。

そして、もうひとつの叫びを聞いた時、その意識は完全に覚醒した。

 

「そんな奴に負けていいんですか!?

あなたの心の中の思い出を・・・大切な人を・・・いいように利用されて、弄ばれて!

そんなので・・・いいんですか!舞歌さん!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・!・・・・・・アキト君に、言われるまでもないわよ!」

 

 

舞歌は思い出していた。

舞歌がコロニーに上った後、八雲は地上での運動に着手した。

元々膨大な人口を抱えるネオチャイナである。

他国とは違いコロニーに人が昇ったとは言っても、けして少なくない数が地上に残っていた。

八雲は少林寺復興の為にそれらの人々の力を借りようとしたのである。

年の内半分は広大なネオチャイナの大地を巡って土地の有力者と懇談し、

また各地の達人を訪ねて交流を深める。

生来病弱とは言わぬまでも決して頑健ではなかった体には、それは酷であったのかもしれない。

数年後、病を得た八雲は悲願を果たすことなく遂に長沙の地に没した。享年二十一。

 

コロニーの竹林寺で修行に明け暮れていた舞歌の元に兄の客死の報せとともに、

八雲が生前託していた一通の手紙が届いたのはその三日後だった。

 

「たとえ私が死んでも、修行を終えるまで帰ってきてはならない。

私の事を思ってくれるならば、功夫を積みナデシコを授かる事、

そして何より少林寺を再興する事こそが私の願いだと忘れないで欲しい。

たとえ魂魄のみになろうとも、私はいつもお前を見守っている。 八雲」

 

手紙を持つ手が震えた。

落ちたしずくが筆で書かれた文字を滲ませる。

低い嗚咽を洩らしながら、舞歌は兄の墓前に必ず少林寺再興の報せを捧げる事を誓ったのだ。

 

 

「そうよ・・・・お前は・・・

お前はお兄ちゃんなんかじゃない!」

 

怒号。指を揃えた舞歌の両手が、またしてもゆらゆら揺れ始めた幻影の八雲の両手の指の付け根を打つ。

次の瞬間、ジェスターナデシコの十本の指が後ろに弾けて吹き飛び、

一瞬の間を置いてヤマサキが絶叫した。

全身に怒気をみなぎらせ、一歩、舞歌が足を踏み出す。

 

「今までよくも・・・人の古傷を抉りまわしてくれたじゃあないの。さあ、覚悟は出来ているでしょうね?」

 

両手の苦痛すら忘れるほどの恐怖にヤマサキが硬直する。

彼の目の前にいるのは今までいたぶってきたような無力な獲物ではなく、

逆鱗に触れられた怒れる龍である事に気が付いたのだ。

凄艶な笑みを浮かべ、ゆっくりと間合いを詰めてゆく舞歌。

顔を醜く歪ませ、錯乱一歩手前の状態で両手を振りまわしながら後ずさるヤマサキ。

 

「ヒッ・・・来るな・・・来るなぁーっ!」

「私に近づいて欲しくないの・・?なら止めてみればいいじゃない。あなたのお得意の催眠術で・・・ね。」

 

汗だくになったヤマサキが狂おしいほどの歓喜を顔に浮かべて、

再び舞歌を催眠状態に陥れようと両腕を振り上げる。

そして顔の前に手をかざした時、その表情は底無しの絶望へと変わった。

 

「は・・・はわわわわ!」

「フ・・・指が無くては催眠術も掛けられないか・・・。」

 

薄く笑うアキト。そこには一片の情けもない。

 

「僕は・・・僕は天才なのに!天才のこの僕が何故ぇぇぇ」

 

恐怖に錯乱したヤマサキのセリフが唐突に途切れる。

ガードした腕ごとへし折りジェスターの顔面に拳をめり込ませたまま、舞歌が笑った。

美しい笑みに、凄みがある。

 

「ほぉら・・・もう一度笑って見なさいよ・・・・!」

「あは・・あはははは・・・ぶぎゃあぁっ!」

 

密着させたまま、寸剄を込めて放った拳がジェスターナデシコの頭部を撃ち抜き、爆砕する。

ヤマサキの顔面を舞歌の拳が砕き、道化師の仮面が砕けて落ちた。

 

「ありがと、アキト君。一つ、借りておくわね。チハヤちゃんも。」

「い、いいですよ、そんな・・・・それに、勝ったのは舞歌さん自身の力ですよ。」

「いいえ、一番私を力づけてくれたのはアキト君の・・・あの子守唄よ。」

振りかえった舞歌のウインクに頬を赤らめつつ、アキトが微笑みを返す。

舞歌もまた極上の笑みを浮かべた。

 

 

 

二日後 ミスマル家所有のペントハウス

 

ばちっ。

 

二人が互いの姿を認めた瞬間、両者の間に火花が散ったのを

その場にいる全ての人間(一部を除く)が見た。

 

「あら、まだいたの?とっくにネオチャイナに帰ったのかと思ったわ。」

「チハヤ姉こそ、なんでここにいるわけ?」

「・・・・・・・・私はまだ、このネオホンコンでやらなくちゃいけない事があるもの。」

「じゃあ、別にネオフランスの人と一緒にいる事はないでしょ!大体今の『間』は何よ、今の『間』は?」

「それを言うならネオチャイナクルーの妹なのにネオフランスのクルーと一緒にいるあなたはなんなの?」

 

無言のまま、凄まじい目でチハヤを睨むユキナ。その視線を正面から受けとめるチハヤ。

二人の間に稲妻が走り、雷鳴が轟く。

肝心のジュンは紅茶のトレイを持ったまま、石像の如く硬直していた。

 

何故かソファに並んで座っているユリカとアキトとガイがぼそぼそと低い会話を交わす。

「ジュンも結構もてるんだな。」

「アキトにだけは言われたくないと思うよ。」

「・・・俺もそう思う。」

「・・・・・なんでだ?」

返事の代りに大きく溜息をつき、ユリカは自分のカップに手を伸ばした。

 

 

「修羅場ねえ。どっちが勝つか非常に楽しみだわ。・・・・あ、ジュンくん紅茶おかわり。」

「大体、なんで舞歌さんまでここにいるんです!」

「あらあら、ジュン君って私に逆らえるほど強い立場なのかしら?」

 

ぴらっ。

 

舞歌が取り出した一枚の写真。それを見たジュンの顔から音を立てて血の気が引いた。

ちなみに写真には頭をお団子にしたチャイナドレスの美少女が写っている。

ジュンにとっては睨み合っている二人が気がついてないのが不幸中の幸いであった。

「い・・・いつの間に!」

「さあ?」

「か・・返して下さい!」

しかし、写真を奪おうとするジュンの手はかすりもしない。

ジュンの手から遠ざけながらこれみよがしに舞歌が写真をひらひらさせる。

「あらあら、何を言ってるの。これは元々私のものよ?撮影も現像も私なんだから。」

邪悪とまでは言わないが、絶対に善良ではない笑みを浮かべる舞歌。

「写ってるのは僕でしょう!」

「でもぉ、持っているのは私なのよねぇ。・・・まぁ、そんなに欲しければ渡してあげても良いわよ?」

「ほ、本当ですか!?」

「もちろん、代価は払ってもらうけど♪」

一瞬戻りかかった血の気を更に失い、青いを通り越して白くなるジュン。

にっこり、と心底楽しそうに舞歌が笑う。

人によっては別の感想を洩らすかもしれないが・・・

 

その日も、やっぱりジュンはツいていなかった。

 

 

オマケ

 

ネオスウェーデンのファイター、メティス・テアは上機嫌だった。

姉と手を繋ぎ、はしゃいで歩くその後ろを

数十キロはあろうかと言う荷物を抱えたグラサン男がよたよたと歩いている。

 

「な〜、メティちゃん。ちょっと買い物が多すぎるんじゃないか?」

「もう、男の癖にだらしないわね、ナオおじちゃんは!」

「お、おじ・・・・お願いだからそれだけはやめてくれないかなメティちゃん・・・」

「何よ。メティに負けたくせに文句あるの?」

「・・・・ありませんです、はい。」

怒涛の涙を流しつつナオが首肯し、それを見たメティが機嫌良さそうに頷く。

ミリアの頬を一筋、汗が流れた。

 

 

 

次回予告

皆さんお待ちかねぇ!

密かに手を組んで悪事を企むファイター達!

その黒幕は、かつてアキトに破れたサイトウ・タダシ!

更に、謎の恐ろしいナデシコが現れて、空からアキトを苦しめるのです!

機動武闘伝Gナデシコ、

「サイトウの罠!逆襲のネロスナデシコ」に!

レディィィィィィ!GO!

 

あとがき

 

チハヤふっかぁぁぁぁつ!

全国七万八千五百飛んで三人のチハヤファンの皆さん!お待たせしました!

ダークで外道の展開で有名な「時の流れに」においても屈指の悲劇のヒロイン、チハヤの華麗なる復活です!

無論、誰も待ってなくても書いちゃいますけどねっ(爆)!

今回はGナデシコ初登場のユキナと共に大暴れ!

その一方で本来の主役がやや見せ場を食われてるような気もしないではないのですが・・・・

許せ舞歌さん、私は結構彼女が好きなのだ!

一方、ヤマサキにはイイ感じで挽肉になってもらいました。

雑魚としての数合わせ以外、出番は二度とありません(笑)。

ちなみになんで原作の物まねピエロ、ロマリオ・モニーニをこいつに当てたかというと

一、他人の精神をいじくり回していた

二、ロマリオを演じられた龍田直樹さんに「マッドサイエンティストの声」のイメージがある

三、ロマリオ、ヤマサキ双方とも私が大嫌いなキャラクターである(笑)。

の以上三つが理由かと思われます。

そもそもコイツの顔面に渾身の正拳突きをぶちこみたくてこの話を練ったような物なんですが・・・・

どこでこうなったんだろう(笑)?

 

さて、舞歌さんが持っていたあの写真、無論二九話のアレな訳ですが・・

なんか最近ジュンの出番が多いような気がしますね。

いや、出番があったからと言っていい目を見れるわけじゃないんですが・・・

でもいい目を見てるよな、コイツ(笑)。

 

 

 

管理人の感想

 

 

鋼の城さんから連載第三十一弾の投稿です!!

舞歌嬢の活躍の話なのですが・・・

チハヤとユキナのコンビが強すぎ(爆)

しかし、本編で書きたくても書けなかった部分を、鋼の城さんが実現してくれましたね〜

Benも始めはこの二人の戦いを予定していたんですけどね〜

助かる状況じゃなかったしね(ボソッ)

でも・・・

>ダークで外道の展開で有名な「時の流れに」

これはないんじゃない?(汗)

 

では、鋼の城さん!! 投稿有難うございました!!

 

感想のメールを出す時には、この 鋼の城さん の名前をクリックして下さいね!!

後、もしメールが事情により出せ無い方は、掲示板にでも感想をお願いします!!

出来れば、この掲示板に感想を書き込んで下さいね!!

 

 

ナデシコのページに戻る