万物は自然の乳房から歓喜を飲み、
全ての善人も全ての悪人もバラの小道をたどる。
自然は我々に接吻と、ワインと、死の試練を受けた友を与えた。
虫けらであろうとも快楽が与えられ、天使ケルビムが神の前に立つ。

 

 

 

第五話

 

 

 

 

「帰りましょう……。皆も待っています」

「それはもう、出来ない」

「どうしてですか!?」

「………君の知っている――は死んだ。
彼の生きた証、受け取って欲しい」

「それ、カッコつけてます」

「違うんだよ、――ちゃん」

「ヒッ!?」

「――に頭の中を弄くられちゃってさ。特に、味覚がもう、ダメなんだ。
それに感情が高ぶるとぼんやり光って……はは、まるでマンガだろ」

「そんな、そんな……」

「だから、受け取ってくれ」

「で、出来ません!!」

「受け取ってくれ! でないと、もう俺は……」

「――さん!? ――さん!!」

「俺は………オレは………オれワ………オ………」




イヤアアアアアアアアアア!!






ガバッ

ハァ、ハァ、ハァ…ハァ………


「ん……」

右を見る。左を見る。

自分の部屋だ。ということは……

「…夢」

ぼふっと音を立てて、布団に倒れ込む。


「草原……何処かで見た事が有る人……副提督? それにもう一人は……」

夢に出てきた『彼』と己の知る彼は、何処か違う。
このナデシコの中で出会った彼に比べると、夢の中の『彼』は何故か近しく感じ、
そして何故かそれ以上に隔たりを感じてもいた。

何という夢なのだろう。まごうこと無き悪夢に違いないのに、なんということだろう。





何故、夢のことを想うたびに、胸が締め付けられるように痛む?
何故、『彼』のことが恋しくて堪らなくなる?





「何故……」


結局、その日は眠れなかった。





 

 

 

手で掬え。されば人は救われん。




機動戦艦ナデシコ
〜 I bless you 〜

第五話:指の隙間から零れて落ちる







 

ゴオオオォォォ……


漆黒の巨人が凱旋してくる。

「お帰り」

「おー、やっと戻ってきたか。早速いじらせろ!!」

コクピットを出たアキトを迎えたのは、”あーやだやだ”といった顔をしたレキと、
”お帰りマイハニー”とでも叫び出しそうなウリバタケだった。

「…どうした?」

アキトは、先程の通信の時とは余りに違うその態度をいぶかしむ。

「いや、この後の展開を想像したら、なぁ」

そう言って、ブリッヂに続く通路へと視線を向ける。
その先から現れたのは……

「?」

ドドドドドドドドド………

爆裂妄想超・特・急!!(×2)

「アキトー! アキトアキトアキトーーーーーー!!」
「レキだー! レキだレキだレキだーーーーーー!!」


「げ」

運が悪く進路上に居合わせた整備員を蹴散らしながら、変する乙女が格納庫を駆ける。
彼女達の来襲に、アキトは恐れ慄いた。

助走!

跳躍!!

エアウォーーーク!!!


「「ぐっはあぁぁぁっ!!」」

ドシャァッ!

ユリカとケイのダイブタックルを受けた二人は車田風に、何故か垂直に落下。

「……な?」

「……あぁ」

同じように吹き飛ばされ、同じように車田落ちをし、同じように瀕死となった二人には
珍妙なシンパシーが生まれつつあった。

「「キャアア、アキト(レキ)大丈夫!? 非道い、一体誰がこんなことを!!」」

アンタらです。

安全地帯で野次馬をしていた整備員からのツッコミは、当然の如く二人には届きすらしない。
そんな異常事態の中でも動じない人間は居るもので。

「なぁ、あいつバラしていいか? いいよな? なっ? なっ?」

未だ立ち上がれないレキの襟首を掴んでがっくんがっくん揺さぶるウリバタケ。

「と、とりあえず各部のダメージチェックさえしてくれればバラそうが改造しようが自由にしていいよ」

「おっしゃぁ! そんじゃ準備してくらぁ!!」

ウリバタケは、叫ぶと手を放して走り去っていった。

べしゃ

奇しくも先程と同じ落ち方をするレキ。

「やれやれ………。よっと」

起き上がるレキを見て、倒れ伏したままのアキトがうめく。

「……なんで二回も落されたのに平気なんだ…」

「そりゃ、アレだ。タックルはウェイトが命だから」

「ユリカそんなに太ってないもん、プンプン!!」

それを聞いて、頬を膨らませて抗議するユリカ。
口で言うなよ、アキトはそう切に思った。
だが言った所でコイツが変わる訳が無い、と諦めてレキを再び見る。

「何か?」

アキトの視線に含んだものを感じ、問い掛ける。

「いいのか、ウリバタケさんに改造させて。研究所の試作機じゃなかったのか?」

だがレキはそんなこと、といった態度で答えた。

「あぁ、いいのいいの。あれはあくまでアンタ専用に創ったコロニーすら墜とす鬼子。
そこらの凡パイロット用に作った量産向けフレームとは完全に別物だよ。
試作型であることには変わりはないけど、研究所にとってはデータ取り以外に特に用は無いよ」

「……君は何を知っている!?」

アキトはレキを睨んだ。
だが少年はその一言を無視して、特大の爆弾を落す。

「あー、かんちょー。副提督が是非ともつきっきりで看病してくれって」

「え、ホント?
分かったわアキト、ユリカが愛情の篭もったとびっきりの看病をしてあげるから!!」

「ちょ、ユリカ、止めっ」

アキトの制止を無視して、彼女なりの看病を始める。

「アキト、痛いのはここ? それともここ? 分かった、ここでしょう!」

…………

「さ、行くか」

「そだね」

この世のものと思えぬ悲鳴をBGMに、二人はその場を離れていくのだった。














「えっへっへぇ〜」

「……何だよ」

「久しぶりだねぇ」

「あぁ、そのことか。 って一月前に遊びに来たばっかだろうが、お前」

「だってほとんど遊べなかったじゃない」

「年中遊んでる奴が何ほざく」

「みんな構ってくれないんだもん」

「だからって、他人の部屋漁るか? リィの奴、プリン食われて泣いてたぞ」

「美味しかったぁ〜。あれって山田屋の限定スペシャルデコレートプリンだよね」

「……あれ買う為にアイツわざわざ徹夜までして並んだってのに……」

「あとねぇ」

「なんだ、まだ何かやらかしたのか?」

「えへへへへ、『ボク、カイトおにいちゃんだいすき!』とか」


………


「あぁっ、無いと思ったらお前か!?」

「レキの小さい頃って可愛かったのね、びっくり」

「手前ぇ……」


「……カイトさん、笑ってたね」

「……あぁ」

「あるんでしょ?」

「何が?」

「持ってきてるんでしょ、カイトさんの機体……」

「……あそこのコンテナに入ってる。この間改修してver.2,5になった」

「リィちゃん……寂しいだろうね」

「仕方ない……。置いておいたら、連中が何をするか分かったもんじゃない」



…………



「そういや、モトコには会ったか?」

「うん、ブリッヂで」

「…どう思う?」

「酷くなってるよ、確実に。あれじゃ昔の私とおんなじだよ……」

「……そだな」

「レキ、なるべくあの子と話してあげてね。きっとまた、敵ばかり作っちゃうから……」

「わかってる」

「もう、昔みたいに一緒に居られる日は来ないのかなぁ……」

「………」











「全く、人の話を聞かんか馬鹿娘が……」

コウイチロウは、トビウメのブリッヂで毒づいた。
その呟きを聞いたクルーは、二人の血の繋がりの濃さを果てしなく実感していたが、
それを口にする者は居なかった。
彼等は軍人。上司を公然と侮辱したらどうなるのか、よく知っているのだ。

「はは、後できつく注意しておきますので……」

不機嫌なコウイチロウに、ジュンが冷や汗たらたら詫びる。

「ん? アオイ君、まだ居たのかね」

コウイチロウは、突然現れた(と思っている)ジュンに驚いた。
てっきりナデシコに帰ったとばかり思っていたのだ。

「ははは、実は……」

「まだ何か用事があったかね? それともまさか、置いていかれたとか……」


ジュンは答えない。


「まぁ、そんな間抜けなコトは無いと思うがね、ワハハハハハ」


ジュンは答えない。


ブリッヂの中に笑い声が木霊する。
他のクルーも上司に合せて、笑い出した。


ジュンは答えない。


「……もしかして、図星?」


ジュンは答えない。
ポタッ、ポタッ、と何かが彼の足元を濡らした。


「……図星?」

よせばいいのに、コウイチロウは繰り返した。


「う、うわああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜ん!!」


ズダダダダダダ………


泣きながら駆けて行く。
ジュンの足は速かった。飛び散る涙が虹を創り出すほどに………。



シーーーーーーン



「……図星だったみたいだな」

コウイチロウの無情な仕打ち(しかも自覚ゼロ)に、彼の後ろに控えていた
トビウメ副長のオオタ(35歳、独身)は心に涙した。

(アオイ君…君の気持ちは判るよ………痛い程に!!











ガヤガヤガヤ……


ナデシコクルーの心のオアシスことナデシコ食堂は、今日も繁盛していた。
そんな思い思いの食事を取る大勢の大人の中で、一人だけ目立つ少女。

ケイは、一人で座っていた。

「ん〜〜〜」

コミュニケから浮かび上がるウィンドウを眺めては……首を捻る。その繰り返し。
妙に雰囲気が張り詰めている。一種異様なその光景に、野次馬が溜まり始める。
一言で言うと、目立っていた。

「みょ〜〜〜」

今度は奇声を発し始める。何をしているのか覗きに来たホウメイガールズも思わず一歩引いて、
余りの怪しさに近づくのをためらっている。

「う〜〜〜〜〜〜」

頭を抱えて唸り出した。それを見かけたミナトは、声を掛けようか本気で悩んだ。

「よっし!!」

勢い良く立ち上がる。ガタン、と大きな音を立てて椅子が後ろに倒れていった。
吹き飛ばされた椅子が、直ぐ後ろまで来ていたミナトの向こう脛に激突。

ゴクリ……

誰かの喉が鳴る。遠巻きにしていた野次馬達は、何が始まるのかと息を呑んだ。
ミナトは声にならない悲鳴を上げて、ゴロゴロと床を転がっている。

そんな皆を無視して、ケイはスタスタとカウンターに近づいていった。
そして、調理場に居るホウメイの顔を見る。

「なんだい嬢ちゃん、注文かい?」

流石は料理長、このくらいでは動じない。
ケイは、真剣な顔でカードを取り出す。


「なーんだ、単にメニューで悩んでただけかぁ」
「ほら、ミカコもさっさと仕事に戻りなさいよ」
「サユリちゃん、ミナトさんまだ再起動しない………」

ホウメイガールズを始めとする野次馬も、何も起きないのでそれぞれ仕事に戻ったり、
食事を再開した。

その時。


「おばちゃん、杏仁豆腐いっちょー」


ピシィッ!!


ケイは爆弾を投下した。それもとびっきり強力なのを。

「…お、おば? アタシが、おばちゃん?」


「おばちゃん、耳が遠い? だから杏仁豆腐ちょーだい」


ピシピシピシピシピシ……











「ふんむぅ〜〜」

暗い部屋に、ウリバタケの声が響く。
彼の前にはいくつものウィンドウが広がっていた。
彼は、先程からこれらを眺めては悩み、悩んでは新たにウィンドウを開いて眺め、そしてまた悩む。
それを繰り返していた。

彼の後ろに有る扉が、軽い音を立てて開く。
扉からツナギを着た気弱そうな青年が入ってきた。

「あ、班長。ここにいたんスか。
コミュニケのスイッチが入ってなかったんで、探すのに苦労したっスよ」

「なんだヒヨッコその一。何か用か?」

ウリバタケは青年をチラっと見ると、すぐにまたウィンドウに目を戻した。
そんな態度にも、青年は苦笑するだけだった。
まだそれほど長い付き合いでもないが、この尊敬すべき上司は一度熱中すると他に全く意識が
働かなくなることを既に知っているのだ。

「ヒヨッコは酷いっスよ。俺にはちゃんとヤマダって名前が」

「あーあー、アニメ馬鹿の兄貴な」

「それを言わないで下さいよ、他人なんですから……」

青年はガクン、と肩を落した
。 彼の名前はヤマダイチロウ。自称ダイゴウジガイの本名がヤマダジロウなので、
事ある毎にからかわれるネタにされているのだ。

「はぁ…。そうそう、副班長からの伝言っス」

「あん?」

その一言に初めてウリバタケは青年の方へ向き直った。

「え〜っと、『班長の想像通りでした』だそうっス」

「……やっぱりか」

そう言うと再びウィンドウに向き直り、近くに有るコンソールをいぢり始める。
新たなウィンドウが開いては消え、凄まじい勢いで文字が流れていく。
暫くして、一枚のディスクが吐き出された。
それを抜き取ると、ウリバタケは立ち上がり、部屋を出た。

「班長、何すか、そのディスク」

「ん? あぁ、こいつはあの黒い奴の設計図コンプリートだ」

そう、それは先日レキから受け取ったディスクだった。
己の産物である巨人と同じ艶消しの黒一色に塗られたプラスチックの塊は、
ウリバタケの手中でまるで胎動しているかのような印象を放っている。

「ちっとばかり気になることがあってな、色々と調べてた訳だ」

「気になること?」

横目で青年を軽く見据える。

「お前は、あの黒い奴の整備に関わったか?」

「え、えぇ」

ウリバタケは、真剣な顔でヤマダに質問した。

「…何か気づくことは無かったか?」

青年は宙を仰いだ。
暫くしてポツリ、と言葉を洩らす。

「そういえば…後背部のバッテリーが取り付けられてる個所が、何か不自然でした。
他の何かを取り外した穴にバッテリーを詰め込んだ…みたいな」

「そうだ。それだけじゃねぇ」

「他にも?」

「あぁ…。エネルギーバイパスの許容量が異様にデカいんだ。
安全の為にある程度の余裕を取ったとしても、フルに使えばバッテリーが5分で切れちまう」

青年は、余りのことに呆れた。ネルガルはとんでもないモノを作ったもんだ、と。
ウリバタケもそれには同意見、といった感じだ。もっともそこで終わりではなかったが。

「サレナのバッテリー容量って、あのナントカって言う新技術のおかげで他のエステの
軽く5倍は有るんスよ!? それがたったの五分……」

「どう考えてもおかしいだろ? だから理由を調べてたんだ。副班長のヤツに頼んでたのは、
その関係だ」

ヤマダは己の伝えた伝言の意味を考えて、そして一つの結論に達した。

「……班長は、ある程度は予測済みなんスね?」

ウリバタケは、無言で頷いた。

「だから、これからその裏付けを取りに行く」

「裏付けって…」

サレナを最もよく知るであろう人物。つまり…

「そう、これを持ち込んだ奴に聞くのさ」











コポコポコポ……

「はい、どうぞ」

「ありがとごぜぇますだ」

ずずっ、とコーヒーをすする音が響く。

あの後再起動したミナトは、未だ己のしでかした事を理解していないケイを小脇に抱えて、
自室に逃げ込んでいた。
その背中越しにホウメイガールズの悲鳴を聞きながらも、振り返らずに。

呑気にカップに噛り付いている少女を見て、出てくるのは溜息だけだった。

「ケイちゃん、あんまりあーゆーコトは言っちゃダメよ?」

「あーゆーことって、おばちゃんとかクリスマスとか大晦日とか?」

「だから言うなって!!」

「うぃ」

一応は了承するケイ。だが、ミナトは今一つ信用出来なかった。
人の話を聞かないのだ、この娘は。

「はぁ……。ところでケイちゃん、ウィンドウを見て何を悩んでたの?」

「あつー、あついー、あついぃー、ミナトさんこれ熱いよ」

「人の話は聞くように!!」

「うぃ」

…やっぱり聞いていなかった。熱い熱いと騒ぎながらもカップを放さないその姿に
半ば諦めつつも、コーヒーを冷ましてやる為に牛乳を冷蔵庫から出すミナトだった。

「別にメニューを決める為にウィンドウを開いてた訳じゃいんでしょ?」

「うん。えっとね、モトちゃんのこと考えてたの」

聞きなれない名前に、少し考える。

「モトちゃんって、提督の事?」

「うん、そう。さっきの事で………」



* * *




ナデシコがチューリップを破壊した後のこと。

「警戒態勢解除。引き続き軌道上への進路を取ったら、皆さん休憩して下さい」


…何故か、艦長を差し置いて提督が取り仕切っていた。
その蔑ろにされた艦長は、というと……

「えぐ、えぐ」

はじっこでスネていた。
就任直後から急降下し始めた艦長としての信頼性も戦闘時の凛々しさで何とか持ち直していたが、
先程のマヌケな指示がその最後の砦も打ち砕き、周りから「アンタなんでここにおんねんな」といった
冷たい視線にさらされ。慰めてくれる筈のジュンも居ないのでスネるしかなかったのだ。

ちなみになんで彼が居ないのかまで考える暇人は居なかった。

進路が決定し、ナデシコがオートで動き出す。
これでビックバリア付近までは、完全に暇になった。
それを確認すると、ケイは席を立ってモトコへと近づいていった。

「えへへ、モ〜トちゃんっ!」

笑顔で話しかけるケイ。
だが、モトコは振り向こうとすらしなかった。

「モトちゃん、聞こえてる?」

パンッ!!

「…え?」

余りの早業に、誰も彼女が何をしたのか直ぐにはわからなかった。
モトコが、ケイの頬を張ったのだ。

「その名前で呼ばないでっ!!
それに私は提督、貴方は只の一オペレーター。気軽く話かけないように」

「そん……な」

叩かれた頬を触り、立ち尽くす。
そんなケイを見ようともせずにモトコはさっさと出ていってしまった。

「私は自室で書類を整理していますので。何か有ったら連絡よろしく」

プシューーッ


扉が閉まった後には、立ち尽くすケイと、その後ろ姿を恐々と見るクルーの固まった姿しか無かった。



* * *




「…私に相談、してくれないかな」

そう言い、身を乗り出す。先程の事には興味が有ったのだ。
だが異性が相手なら思わず魅了されてしまいそうな「美人のおねいさん」も、
同性のケイには何ら感慨は起こせなかった。
それでもすこしづつ、ポツリ…ポツリ…と語り出す。

「モトちゃんは、昔はよく遊んだの」

「へぇ、それじゃ彼女は幼なじみ?」

ミナトの問いに、首を横に振る。

「違う…違うけど言っちゃイケナイの……」

深刻な顔になってうめくケイに、別の話題を振った。

「そ、それじゃどうして今みたいに……仲が悪くなっちゃったのかな?」

更に黙り込む。ミナトは己の迂闊さに気づいた。
(あっちゃ〜、地雷踏んじゃったのかしら)

「私が…」

ケイが語り始めたので、ホッと胸をなで下ろす。
少なくとも相談をしてくれる位には信用されているのだ。


「あの子が変わったのは、私が変わったから。
あの子の心が棘で覆われているのは、あの子の大切なものを私が奪ったから。
全部………私のせい」

「え?」

「あの子は、私のせいで私と同じ地獄を見てしまった……。
私には、彼が居たから耐えられた。でも、あの子には誰も居なかった。
当然よね、あの子のたった一つを私が奪ったのだから……」

ミナトは声が出なかった。
ケイの、雰囲気が突然変わったのだ。

「でも、もう返す事は出来ない……。
ぬくもりを知ってしまったから。寒さの中に一人で居続けられる程強くないから。
あの白い壁は、私には辛過ぎるから………」


「ケイちゃん………よね?」

目の前にいるのは、本当にあの騒がしいほどに明るい太陽のような少女なのか!?
その目は他の何処かを見つめ、耳にかかる髪をかきあげる仕種は艶やかさを感じさせ、
そしてその身体から漏れる雰囲気は、少女をまるで年齢よりずっと大人に見せていた。

声を出すのも躊躇われるような空気が、部屋を満たしていたが………。


ピッ

『ミナトさん、ケイさん。そろそろ大気圏外に出るので、ブリッヂで待機して下さい』

「はいは〜〜い。
すぐに行きますとも。えぇ、そりゃもう超特急で」

ウィンドウに向かって大声で返事をするその姿に、先程の大人びた雰囲気はどこにも無かった。

「あ、あらら?」

「さぁさぁミナトさん。お仕事お仕事!!」

その余りの変化に。
ミナトは驚きの余り、ケイがさっさと部屋を出ていったのも気づかないまま固まっていた。




後編へ続く



ちぃっす。日和見っす。今日は体育会系っす。うっす。
あー、今回前後編になった言い訳。

全部悪いのはM$社です。

実は、ちゃんと最後まで一本の話にはなっているんですけど、ねぇ……
容量がでかすぎて(テキストで30kb!)、アプリが凍っちゃうんです。これが。
っつ〜訳で、近く後編も送らせて頂きます。

それでは。

 

 

 

管理人の感想

 

日和見さんからの投稿です!!

そうですか、M$社のせいですか(苦笑)

うんうん、解りますよその気持ち!!

だって、Benもそうですからね。

いきなりフリーズだもんな〜

 

と、それはさておき感想いきます。

なんだかアキト君は既に主役じゃないですね(苦笑)

ついでにユリカも(核爆)

オリキャラが実にいい味を出してます。

その背景にある物語に実に興味が湧きますね〜

さてさて、彼(彼女)達の過去には一体どんな秘密があるのでしょうか?

 

では、日和見さん投稿有り難うございました!!

 

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