赤き力の世界にて

 

 

 

 

 

 

 

第15話「それぞれの戦い・・・・《ゼフィーリア・サイド》前編」

 

 

 

 

 

 

 

アキト君がリナと共に旅立って八日目。

 

         リア・ランサー
今日はアルバイト先が定休日なので家で久々にゆっくりとしていた、そんなお昼前・・・・

 

            コミュニケ
アキト君から通信機というものを借りて以来、

私は暇なときにディアちゃんとブロス君に話し相手になってもらっていた。

二人とも喜んで話し相手になってくれた。結構退屈していたらしい。

 

私はアキト君のいた世界の事や彼の周りの人達のことについて聞かせてもらったり、

この世界でのアキト君の行動などを話したりしていた。

 

 

 

 

 

「へ〜、それじゃあアキト君は元の世界にいたときからかなりもててたんだ」

「うん。かなりね。正式な数は知らない・・・・というか誰も把握できてないと思うよ。多すぎて・・・・」

『だよね〜。アキト兄も自覚がないからね〜・・・人間磁石?』

「女性専用のね。実はフェロモンでもだしてるんじゃないのかって話聞いたことがあるよ」

『誰に?』

「セイヤさん」

『ただの負け惜しみにしか聞こえないね・・・』

「ふふふっ。まあ仕方ないわ、本当に魅力ある人ですもの。よくわかるわ」

 

 

初めてアキト君を見たとき・・・私はその瞳に魅了されていたのかもしれない。

人間の光と闇・・・その両方を内包し、かつ磨き上げている人。

 

 

私はその闇を感じ・・・・・理解し、支えてあげたいとすら思った・・・・

私はその光を感じ・・・・・暖かさを共に育み、歩んでいきたいと思った・・・・

 

私の全てをもって・・・・

 

 

「アキト君は確かに多くの人を魅了する・・・だけど本当に心をわかってあげている人は少ないんじゃない?」

「・・・・・そうかもしれない」

『ルリ姉も・・・精神がリンクしているラピ姉でさえ全部は分かってないと思う・・・』

「でもその人達はわかろうと努力してるんでしょう?」

「『それはもう!みんな頑張ってるよ』」

「ふふふっ。それじゃあ私も負けてはいられないわね」

「ルナさんもアキト兄のことが好きなの?」

「ええ、もちろんよ」

 

 

私は即答する。迷う気持ちは欠片もない。

 

 

「たとえ遠くに行くとしても?」

「どうやってでも会いに行くわ」

『誰かが邪魔をしようとしても?』

「どんな邪魔があってもね・・・好きになってもらうまで諦めないわよ」

 

 

私自身・・・ここまで人のことが好きになろうとは思いもしなかった。

でも・・・・嫌な気分じゃない。

それどころかこんなにアキト君を好きになったことを自慢にすら思う。

 

後悔なんてありはしない。

 

 

「・・・・ルナ姉、頑張ってね!」

『僕たちもささやかながらルナ姉を応援しているからね!』

「どうしたの?二人とも私のこと『姉さん』なんて呼ぶなんて」

「アキト兄のことを本当に好きになった人にはそう呼んでいるの」

『ルリ姉とかラピ姉、リョーコ姉とかメグミ姉ってね』

「そうなの?じゃあ二人は認めてくれたんだ・・・・ありがとう」

「『どういたしまして!!』」

 

 

「ところで・・・・隠れて乙女の会話を聞くなんてマナーがなってないんじゃない?」

「別に隠れているつもりはなかったんですけどね・・・・」

 

 

私の前の空間よりわき出る黒い影・・・その中より黒い神官服を着た一人の青年がでてきた。

 

 

「出てくるタイミングがなかなか掴めなかったもので」

 

「それでも会話を聞かないのがマナーってものでしょ。

                                グレーター・ビースト          しつ
あのまま黙って出てこなかったら 獣    王 にちゃんと躾けるようにいうつもりだったわよ」

 

 

                                  あぶらあせ
私のその言葉に青年の顔に冷や汗(脂汗?)が流れる。

 

 

                                    グレーター・ビースト
「そ、それは勘弁してほしいですね・・・ 獣   王 様も結構厳しいんですから・・・・

ところでよく僕のことや主がわかりましたね」

 

「貴方程の実力の持ち主はそうはいないからね。

それにリナから大体のことを聞いたから・・・むろん貴方のことも」

 

「どうせリナさんの事だからろくな話じゃないんでしょうね・・・・」

 

 

まあいいことは言ってはなかったわね・・・まあやっぱり魔族と人間だから・・・

 

 

「それで、私に何の用なの?あいにくとお茶ぐらいしか出せないわよ」

「いえいえお構いなく。今回の僕はただ単に用事を頼まれただけですので」

「用事?命令でなくて?」

 

「はい。今回のことに我が主は関係ありません。

           スィーフィード・ナイト
僕はただ『赤の竜神の騎士』である貴女に招待と案内役をしてほしいと頼まれただけです」

 

「それは誰に・・・って答えるわけないわね」

「申し訳ありませんがそれは秘密です」

「まったく・・・・あなた、リナの言った通りね」

「なんていったんですか?」

「パシリ魔族」

 

 

その言葉を聞いたゼロス君はショックを受けたようによろめく。

 

 

「ひ、ひどい!!・・・僕だってしたくてしているわけじゃないのに・・・酷いですリナさん!」

 

『ねえディア・・・この魔族、疲れてるのかな?』

「しっ!!話しかけちゃダメよ。こういうときの魔族ってなにやるかわからないんだから」

「あの〜・・・人を危険人物扱いするのやめてもらえませんか?」

「『(あんた)(お前)は人じゃない(でしょう)(だろ)!!』」

「はいはい、二人とも抑えて。しがない中間管理職の魔族いじめても何にもならないわ」

 

「シクシクシク・・・・」

 

「ゼロス君も泣き真似なんてやめてさっさと用件を言いなさい」

「やっぱりあなたはリナさんの姉妹ですね・・・よく似ていますよ・・・・色々と」

 

「いいからさっさと言いなさい。魔族が私を呼ぼうとするのだから

何かしら手をうってるんでしょう?人質とかとっていたりね・・・・」

 

 

私は若干迫力をこめてゼロス君を睨む。

この場での嘘を許さないと言わんばかりに・・・・・

 

 

「ご明察です。人質はこの国の女王と王女のお二人。招待場所は城の謁見の間。

そこであなたと闘いたいというお人がお待ちです。お急ぎを・・・では・・・」

 

 

ゼロス君は用件を簡潔に伝えると再び姿を消した。もうこの場から完全に去ったようだ。

 

 

(ちょっといじめすぎたかな?まあいいか・・・それより・・・・)

 

「ふざけたことを・・・・この私に喧嘩を売ったらどうなるか骨の髄までたたき込む必要があるわね・・・・

ディアちゃん、ブロス君。悪いけどまた後でね。ちょっと用事ができたみたいなの」

 

「それはいいけど・・・気をつけてねルナ姉」

『アキト兄に連絡いれとく?』

 

「いいわ。あんまり心配かけたくないし・・・仮に連絡したとしてもアキト君達にはこちらに来る手がないしね。

だったら心配かけるだけあっちの用事の邪魔になるわ。ありがとうね、二人とも・・・また後でね」

 

「『うん・・・・・・』」

 

 

私は二人との会話を終わらせるとすぐに動きやすい服に着替え、家を飛び出した。

あまり待たせると最悪の事態になりかねない・・・生きていることと無事なことはいつでも同じではないのだ。

 

 

「あれ?姐さんどうかしたんですかい?そんなにお急ぎになって・・・・」

 

 

私が家から出た直後、箒をもったスポットが目を丸くして私を見ていた。

おそらく掃除をしていたのだろう。

こういう事は頼まなくても自発的にやってくれるので助かる。

リナなどは言わないとやろうという素振りさえ見せない。再教育の必要があるかな?

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ブルッッ!!

 

「どうかしたのかリナ?」

「いや、ね・・・いまなんか背中のあたりがこうゾクゾクッとしたのよ・・・」

「風邪か?」

「なんというか・・・・もの凄い悪寒が・・・このまま永遠に旅に出たくなったような気が・・・」

 

「はぁ?なに突発的なこといってんだ?そんなの気のせいだよ気のせい。

まだ飯食ってないんで元気が足りないだけだって!」

 

「それもそうね!んじゃあ景気づけにこの店のメニュー制覇といきましょうか!」

「よっしゃぁ!待ってました!」

「おっちゃんメニューの右からあるやつ順にもってきて!」

「四人前ずつな!」

「俺まで巻き込まないでくれ!」

「僕は普通の定食一人前で結構です!」

 

 

リナはまだ(色々な意味での)危機が近づいていることに気がついていない・・・

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「悪いけどスポット私がいない間、家のことお願いね」

                店番しているお二人
「え?家には レナさんとロウさん がいるんじゃあ・・・・」

「万が一の時のためにね・・・じゃあ、頼んだわよ」

「あ!姐さん一体何が・・・・ちょっと姐さん!?」

 

 

私はスポットの言葉を最後まで聞かず走り出した。

 

途中、何事かと私に振り返る人もいたがそんな事に構っている時間はない。

 

 

 

 

 

 

 

間もなくして私は城門に着いた。

そこは不気味なまでにひっそりとしている。

 

まるでここだけ別の空間になったかのように・・・・・

 

 

「ゼロス君。二つほど頼みがあるんだけど?」

「はいはい、なんでしょうか?無理難題な注文は聞けませんよ?」

 

 

城門の前に姿を現すゼロス君。どうやら先回りをしていたようだ。

 

 

「簡単よ・・・人を殺さないように。それと誰もここを通さないように」

 

 

最初の注文は釘でもさしとかないと邪魔だからと言って城の全員皆殺しにしかねないしね・・・・

後の注文は場合によれば周りにかまえないほどの闘いになるかもしれないからだ・・・・

いま現在、魔族の中でも五本の指にはいるほどの実力者であるゼロス君がパシリをやっているのである。

待ちかまえている奴はかなりの実力の持ち主だろう。

 

 

「それだけでいいんですか?」

「幸いここの衛兵を無傷で倒しているようだけど・・・まあ念のためにね」

 

 

影の方から人の気配がする。それもたくさん。

おそらく城門の衛兵と控えにいた人だろう。動きはないが氣はしっかりとしているのを感じる。

 

 

「まあ、人を殺したら本命の戦いの前に僕を倒しそうな気がしましてね」

「賢明ね・・・・」

「ありがとうございます。それと門番の件ならお気になさらずに。最初からそのつもりでした」

「訳は聞かないわ。しっかりしなさいよ」

「お心遣いどうも・・・ではお気をつけて」

 

 

私はゼロスの言葉を聞きながら城に入っていく。

 

 

(お気をつけて・・・か。魔族が人間に対して言う言葉じゃないわね・・・・

それにしても最初から門番をする気だったなんて・・・・

私との戦いを望んでいるやつはどうやら正面からやりあいたいようね・・・・

どうやら気配を殺しているようだし・・・強さがまだわからない・・・・油断は禁物ね)

 

 

 

 

そして程なくして私は謁見の間の扉の前に立った。一応念のため気配は消してある。

私は感覚を澄まし、中の状況、人の数などを探る・・・・

 

 

(中の人数は合計十四人・・・・・・その内、玉座の近くに十三人も人がいる?

十三人のうち、六人は女王様とティシア・・・それに四騎士の面々といった知っている気配・・・・

残りは・・・・・少なくとも純粋な人間じゃないわね・・・

一人ずつ四騎士と女王様とティシアに張り付いている・・・

さらにそれぞれを囲むような力を感じる・・・・結界のようなもので閉じ込めているみたいね。

・・・・・それよりもっと問題なのは・・・・)

 

 

私は謁見の間の中央に立っているであろう人物に気を集中させる。

気配を完全に殺しているわけではないが力は完全に抑えてある。

それが逆に力量の程を感じさせる要因となっている。

 

 

          ルビーアイ
(まさか『赤眼の魔王』自らが来るとはね・・・・

ただ、何かが変わっているような気がするけど・・・・その何かがよく分からないわね・・・・・・

しかしゼロス君に門番やってもらって正解だったわ・・・

私と相手が本気で闘ったら最低でもこの城は吹き止んでしまうこと確実ね・・・・)

 

 

私は深呼吸をして気を引き締め、そして思いっきり力を入れて扉を開ける。

 

 

バターーン!!

 

 

盛大な音を立て扉は開いた。

何事も勢いというものが肝心。人質をとられたからといって

こっちが最初から下手にでていれば相手が図に乗って無茶な要望を突きつけられかねない。

これはリナの教育の一環にも取り入れられていたりする。

 

ちなみに幼いリナが盗賊に捕まえられたときに実践したこともある。

助けた後、なぜか魔導士になるべく魔法を学び始めたが・・・まあこれは余談だ。

 

 

 

「待たせたようね」

「いや、そうでもないが?中の様子を探るのはもうよかったのか?」

 

 

 ルビーアイの欠片
『赤眼の魔王』をその身に宿す・・・いや、融合している人間・・・・女性はなんの驚いた様子もなく私を見ていた。

 

 

(最近、私の穏行も見破られてばかりね・・・・そこそこの自信はあったつもりなんだけどな・・・・)

「いくら探ったところで状況が変わるわけでもないしね・・・で?あなたが私と闘いたいというの?」

 

 

私は中央まで歩いていき、女性と相対するかのように立つ。

 

 

「そうだ。とあることを頼まれてな・・・貴女と闘うこととなった」

 

(頼まれた?裏があるというの?魔族の最高位に立つはずの存在がどうして・・・・)

 

「頼まれ事に命かけるなんてね・・・」

「どのような闘いであれ生き物は命を賭けている・・・」

「立場によるものなんて些細だとでも言うの」

 

「そうとまでは言わない。だが戦場に立つものとして・・・結果として命を奪う所業をしているのだ。

自分の命を闘いに賭ける。それは至極まっとうなことだ」

 

「戦士ね・・・・」

 

「それはどうかな?闘い続けるうちにこういう結論にたどり着いただけだ。

他に強制するつもりは無い。それぞれの真実はそれぞれが見つけるものだ」

 

「何だか説教くさくなってきたわね・・・」

「そうだな・・・これから闘うもの同士。無用な言葉は要らないか」

「そうね」

 

 

私は体内にある赤竜の力を使い、武具を創り出す。

 

体には下手な呪文を跳ね返し、普通の剣では傷すらつくことがない赤き鎧を・・・

                                                                             グレート・ソード
手には私がもっとも得意としている武器・・・刀身だけで私の身長を超えそうな赤き 大 剣 を・・・

 

 

私の武装を確認した後、女性も武具を創り出す。

私と同じ様な赤き鎧。形も同じ様なもので見た目は動きやすそうな赤いブレスト・プレートぐらいにしか見えない。

そして武器すらも同じ大剣だった。

 

 

ただし・・・・同じ赤でもそれは暗く、色濃い血の如き赤だった・・・・

 

 

「同じ武器で闘いたいとでも?」

「別にそういうわけではない。私の頼まれ事にあっているのがこの武器なだけだ」

 

 

(目的は一体なに?私と闘うことを前提としているみたいだけど・・・

そんな事考えてる場合じゃないわね・・・集中しないとやられるのは私ね・・・・)

 

 

私は考えていた事を頭の片隅に追いやり、思考を戦闘に切り替える。

 

 

「自己紹介がまだだったな・・・・私の名はニース。

                      ル ビ ー ア イ
貴女が感じてのとおり『赤眼の魔王』シャプラニグドゥの欠片を身体に宿す者だ」

 

 

 

ピッ!!

 

 

「ルナ姉!」

「ディアちゃん!?一体どうしたの?」

「こいつ前にリナさんとガウリイさんが戦った奴!」

 

 

・・・・なるほどね・・・・確かに私と同じ赤い剣・・・・

    ニース
この魔族なら・・・・リナ達が完敗したのも納得がいくわ・・・・・

 

 

「どうやら妹が世話になったみたいね・・・・」

「妹?あの時の魔術師か・・・リナとかいったな。なるほど貴女の妹か・・・なかなか将来性がある妹だな」

「それはどうも(しかし私の妹だということを知らなかった?リナの件と今回は別なの?)」

 

 

私はどんどん事情が絡まっていくような気がした・・・が、

とりあえずこの件も頭の片隅に留めておくことにした。ややこしいことは後で考えればいい。

 

その時、私は街の方から感じる大量の魔の気配を察知した。

高位の存在はいないようだけど・・・・質から察するにデーモンの大群みたいね・・・・

 

 

「ご丁寧に街にデーモンを放ってくれて・・・・焦るのを誘ってるの?」

「私は与り知らぬ事だ。大方あそこにいる奴の仲間が呼び出したのだろう」

「ああ、あのよくわからないような奴等ね・・・・」

 

 

どちらにしてもデーモンのことは街のみんなにまかせるしかないけどね・・・・

伊達にゼフィーリアに住んでいるわけじゃないから何とかなるでしょ。

 

 

「さて・・・始めようか」

 

「そうね。ディアちゃん悪いけど闘いに集中しなくちゃならないから通信切ってね・・・

大丈夫よ。今頃きっと街のみんなも戦ってるはずよ。みんな強いんだから安心して」

 

「うん・・・気をつけてね(大変!アキト兄に連絡しないと!)」

 

 

ニースは大剣を片手で持ち、自然体のままで立っていた。

対する私も大剣を片手でかまえ、チラリと女王様達に注意を向ける。

 

 

女王様とティシア・・・そしてそれぞれに武器を突きつけている男が二人。

この四人は唯一人質をとっていない男が結界を張って閉じこめているようだ。

これは逆に言えば多少大きく騒いでもそう簡単には被害が及ばないということになるので

この場合は私的には助かる。

 

四騎士の方はそれぞれ二人ずつに別れて、喉元に刃を押しつけられて結界に閉じこめられている。

 

こちらの方は放っておいてもなんとか切り抜けられるだろう。

いまは人質がいるから下手に動けないだけ・・・そうでなかったらもうすでに片はついているはず。

伊達に騎士団長はしてはいない・・・私にそう思わせるほどの実力をあの四人は持ち合わせている。

 

しかし万が一ということもある・・・下手な邪魔が入って最悪の事態になる可能性も捨てきれない・・・・

 

私は剣を持っていない左手を上にかざし、組み上げた術を発動させる。

 

 

キィィィーーーン・・・・

 

 

辺りに金属がぶつかる様な澄んだ音が鳴り響く。

 

 

「結界か・・・」

「まあ気休めだけどね・・・余計な邪魔が入らないようにね」

「私は結界術が得意でないからな・・・余計な手間をかけさせる」

「いいの?そんな弱点をさらして」

 

 

                               アストラル・サイド
結界が得意ではないと言うことは精神世界面の攻防が苦手だといっているに他ならない・・・

 

 

(しかし魔王の一欠片をもっている者が結界を苦手とは・・・訳が分からないことだらけね・・・)

 

           アストラル・サイド
「構わない。精神世界面での攻撃をさせるだけの隙を与えなければいいだけだ」

 

(まったく・・・・それが強がりでもなんでもないんだから厄介よね・・・)

 

「ではいくぞ!!」

 

 

ニースはその場から私に一足飛びに斬りかかる!

私はそれを真正面から受け止める。

反発する力のためか剣を合わせた空間に衝撃波と共に赤い残光が広がる。

 

攻撃を二手、三手と繰り返したが私達の力が拮抗しているのか押されることも、押し返すこともできない!

 

 

(互いの力はほぼ互角・・・・後は技とスピード!)

 

 

私は大きくその場を飛びずさり、スピード重視の攻撃に切り替えながら隙をうかがう・・・・

ニースも同じ考えらしく力による叩きふせよりも確実な一撃という方法を選んだようだ。

 

私は不謹慎ながらも全力を出して戦える相手がいることに喜びを感じた。

 

 

 

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いま私の前に神と魔の戦いが再現されようとしている。

 

お互い自分の力を使った武具を用い、剣のみの戦いに集中しているようだ。

その戦いは私の目に写らないほどのスピードで繰り広げられていた。

時々部屋の至る所で発生する赤い残光・・・・それに伴う衝撃波・・・私が見える戦いはそれだけしかない。

 

 

 一 国 を 治 め る 女 王
この国の一番の権力者 とはいえ、今の私は無力な存在だ。

            レナ
せめて私に親友ほどの実力があればこの場を切り抜けることができるのに・・・・

 

女王とはいえ、万が一の時のために武術は学んである。

              アサシン  オブ  アサシンズ
音に聞こえし『暗殺者の中の暗殺者』ズーマならともかく、

並の暗殺者如きに何とかできるレベルではないとの自負もあった。

それは我が娘、アルテイシアといえども例外ではない。むしろ私より娘の方が強いくらいだ。

 

 

しかし・・・突如として空間を渡ってきた者に対しては対処しきれなかった。

 

 

異変を察知し、駆けつけてきた四騎士達も私達を人質にとられたのでは手が出せない。

なによりこの人間離れした気配・・・異様な気配が不気味に思えて手が出しにくいのだ。

 

                  ニース
結局・・・この場は女魔族が言う通り無駄な抵抗をせず・・・

私達の命運をあのニースとルナちゃんの闘いにゆだねるしかなかった。

 

 

 

 

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柱を蹴り、壁を蹴り・・・この部屋の中を縦横無尽に私は跳ぶ。

さながら部屋の中を飛び回っているかのようだ。

 

二人同時に壁を蹴り、中央で剣を合わせまた飛びずさる。

時には天井と床という場合もある。

 

剣を撃ち合わせるたびに私達のスピードが増す。

 

 

まるでついてこれるかと言わんばかりに・・・・・

まるでついてこいと言わんばかりに・・・・

 

 

今この場で私達の姿を視認できるのはアリスとレニスぐらいだろう。

ガイウスは気配で状況を察知しているかもしれない。

 

私もニースも決定打を繰り出す機会をうかがっている。

少しの油断が怪我を招き・・・・少しの隙が命を奪う。

 

そして・・・・なによりも私は今この瞬間を楽しんでいる。

殺すとか殺されるとかではない。純粋に力を競い合うのが楽しい。

 

 

私は知らず知らずの内に剣をもつ手に力がこもる。

それに応じて剣から赤い光が漏れだす。

私は天井を蹴り、加速と全体重をかけて剣をうち下ろす!

 

 

「「ハァァッッ!!」」

 

 

ニースの剣も暗い光を放ち、すくい上げるように剣を打ち上げる!!

 

私の神剣とニースの魔剣が真正面から撃ち合う!!

 

 

 

ギュィィィーーーン!!

 

 

 

今までの中でひときわ大きな衝撃波が部屋の中で暴れ回る!

衝撃波は逃げ場を求め、窓という窓、入り口の扉を粉々に破壊し外へと逃げてゆく。

 

 

(しまった!!今ので結界が破れた!!)

 

 

しかし今の状況では結界を張り直している暇はない!

 

私は再び床を蹴りスピードを上げた!

しかしまだ二人の早さに大きな差がでることはない!

 

私の剣撃はことごとく弾かれ、またニースの繰り出す剣も全て弾き返す。

 

 

力・早さ・剣技。どれをとってもほぼ互角。

            スィーフィードとルビーアイの力                      アストラル・サイド
残る勝負は それぞれが宿す力 を全力で使った闘いか精神世界面の攻防しかない。

 

後者はともかく前者は下手をすればこの街を消しかねない・・・・

 

 

闘いは徐々に・・・・しかし確実にエスカレートしてゆく。

このままでは他に被害を出さないように闘うことができなくなるのもそう遠くないことだろう。

 

 

(このままでは・・・・負けるのは私ね・・・・)

 

 

焦燥感が私の胸を燻り・・・・さらなる激戦のための闘志が全身に充ちる!!

 

 

 

 

 

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今、俺の目の前でこの前、相対したニースとかいう魔族とルナさんが空中戦を繰り広げている。

厳密に言うと違うのだが・・・・

部屋の中を飛び回るその光景は空中戦といった言い方の方が近い気がする。

 

 

(他人から見たピースランドでの北斗との闘いはこういう感じだったのかもな)

 

 

しかしあの時は俺と北斗は素手での闘い。

この二人は二メートル近い刀身をした大剣をもっての闘いだ・・・

その迫力と危険性はこちらの方がはるかに高い。

 

 

「いや〜、かなり白熱した闘いになってますね〜。これでは迂闊に手は出せませんね」

 

 

俺の後ろから部屋の中を伺っていたゼロスが気楽そうに言う。

確かにこれだけの接戦をしていたら迂闊には手が出せない。

 

俺の良かれとしたことが敗北を呼ぶ可能性にも・・・勝利への近道にもなりえる。

 

それに俺は二人の闘いを見た瞬間から手を出す気はなくなっていた。

ルナさんもニースも・・・二人とも楽しそうに闘っていたからだ。

こんな顔をしている闘いを俺は止めたくない。

 

とはいっても、もし力を全開にして戦おうとしたのなら問答無用で止めるつもりではいるが・・・・

今のところ二人は剣のみの闘いに集中しているので(一応ではあるが)安心できる。

 

 

問題なのは六人の人質の方だ。ルナさんが勝とうと負けようと危険なのは確実。

せめて女王と王女の身柄をなんとかすれば後はあの四人に任せても大丈夫だろう。

 

その為の障害は・・・一番目に女王達を包んでいる結界。

結界を破るのに手間がかかっていたら助ける以前に話にすらならない。

 

二番目に当たり前のことだが女王達の喉元に刃を突き付けている二人。

片方だけを始末したとしても、もう片方が脅迫したら手が出せない。
         女王と王女
やるなら 二 人 同時に助け出すしかない。

 

三番目に結界を維持している人間。

あの距離では一足飛びでどちらでも殺害できる間合いにいる。

何かあった場合はどちらでも人質にとれるだろう。それなりの力量があるようだから質が悪い。

 

最後に・・・これは俺に限ったことなのだが・・・・

女王達がいる玉座までかなりの距離がある。

全力で走ったと仮定してもこの距離では女王か王女・・・片方だけになるだろう。

それにどう考えても走っている途中で二人の戦闘に巻き込まれることになる。

 

ルナさんとニースの戦闘が止まった時をねらい、瞬時にして結界を解除。

そして問答無用で女王と王女を人質にとっている三人を叩きふせる・・・・

 

問題が山積みな様な気もするがここは気にしないでおこう。

 

 

「何やらお困りのようですね?表だったお手伝いはできませんが手をお貸しましょうか?」

 

 

何やらさも親切心で話しかけましたと言わんばかりのゼロス。

 

 

「結構だ・・・・といいたいところだが・・・見返り次第では貸してもらう」

「話が早くて助かります。あなたの世界の技術・・・それをこの世界に広めないでほしいのです」

「??それぐらいなら別に構わないが・・・・」

 

 

元々俺はこの世界に自分の世界の技術を教えるつもりはなかったから問題はないが・・・・

どう考えてもこの世界にある魔法の方が物騒な気がするし・・・・

 

 

「それを聞いて安心しました。で?僕は何をやればいいんですか?」

 

 

あそこにいる人質を解放っていうのが理想的なんだけど・・・・駄目だろうな。

 

 

「あの二人をちょこっと止めてくれないか?」

「それは僕に死ねと言っているのも同義語なんですけど・・・・」

 

 

やっぱり無理か・・・今のレベルの闘いであれば止めるのは可能だが・・・・

今の俺の目的はまったく別だからな・・・・目的と手段を間違ってはいけない。

 

 

「今女王達を覆っている結界なんだが・・・一体どういうものなんだ?」

 

「そうですねぇ・・・・・見たところそう大したモノじゃないみたいですね。

黒魔術どころか強めの精霊魔術などでも突破は可能でしょう。

まあどちらにしても、中にいる人達ごと消し飛んでしまうほどの威力にはなるでしょうけど・・・・」

 

                  ち か ら わ ざ
「つまり・・・単純な物理的破壊力だけでも突破できるということだな」

「まあ有り体に言えばそうです。」

 

(ならば・・・・俺が取る手はただ一つ)

 

 

俺はこの状況を打破できるあるモノに手を伸ばし準備をする。

 

 

(後は・・・・この手が確実になるタイミングを待つだけだ)

 

「おや?お二人とも動きが止まったようですね」

 

 

中の様子をうかがっていたゼロスが声を上げる。

 

どうやら闘いは最終局面に入ったようだ。

動きは確かに止まったようだが代わり伝わってくる氣はどんどん高まっている!

 

どうやらこれの出番は思った以上に早めに回ってきそうだ。

 

 

 

 

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(そろそろ限界が近いかもしれないわね・・・・色々と・・・・)

 

 

私はニースとの間合いを計りながら頭の片隅でそう考えた。

 

私達が闘い初めてもうかなりの時間が経った。

 

一撃一撃が致命的な威力をもった闘いを続ければ誰だって心身共に疲労する。

いくら私とて体力、精神力が無限にあるわけではない。

ニースも同じだろう。氣や動作に衰えはなくとも疲労は顔にでている。

 

限界に近いのはなにも私達だけではない。この城もそうだ。

これ以上、戦闘を長引かせるとこの城が崩壊する恐れもある。

事実、この謁見の間は元の荘厳な姿の面影すらないほど破壊しつくされている・・・・

 

逆に手加減しているとはいえ、ここまで闘いに耐えることのできた方が称賛に値する事なのかもしれないが・・・・

 

 

(もう一回・・・もう一回だけ耐えてね・・・・)

 

 

私はそう祈りつつ最後の一撃を繰り出すべく力を練り上げる。

 

 

(力を刃に集中させて破壊力を増加させて武器を破壊する。

そうすればこの場は退くでしょうね・・・・たぶん・・・・)

 

 

私はたぶんとは言いつつもそうなるような予感めいた確信があった。

 

 

(後のことは何かに集中しているアキト君に任せて大丈夫でしょ。

私はこの一撃に全てを賭けるのみ!!)

 

 

     グレート・ソード
私が 大 剣 に力を込めてゆく度に赤い光が強くなり、

光の粒子が刀身を中心に螺旋を描くように渦巻いている。

 

力の威力を上げるのではなく、剣の威力だけを上げるだけというのは思った以上に集中力を必要とした。

二つ同時に高めるのは慣れているが片方だけというのはどうも勝手が違うみたいだ・・・・

 

 

対するニースの剣は私のように光が強くなるわけでもなく、光が鼓動のように点滅しているだけ・・・・

その感覚は徐々に・・・しかし確実に早くなっているようだ。

その様子はまるで光が振動していくかのようにも見える。

 

 

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

お互い会話はなく、意識を研ぎ澄ます。

たとえて言うならば弓を限界まで引き絞っている感じが近いかもしれない。

 

私達の雰囲気にのまれたのか辺りに静寂が立ちこめる・・・・

 

そして限界は不意に訪れた!!

 

 

私とニースはほぼ同時に床を蹴り、瞬時にトップスピードに加速する!

 

 

「神竜剣技 大地裂斬!!」

 

 

私は全てを両断するかの如く光の粒子を纏った大剣を縦に一閃する!

 

 

「魔影一式 残光刃!!」

 

 

ニースは全てを薙ぎ払うかの如く光を振動させた大剣を横に一閃する!!

 

 

 

強大な破壊力をもった線と線が交差する!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィィィーーーーン・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・・・高らかに宙を舞う半ばから折れた赤き刀身・・・

 

それは私とニースとの間に落ち、自らの墓標の如く床に突き刺さった・・・・

 

 

 

 

 

 

(後編に続く・・・・)