機動戦艦ナデシコ

 

〜ILLEGAL REQUEST〜

 

 

 

 

 

 

第7話      「歌う詩」って誰が!?

 

 

 

 

 

 

 

 

うざったい。
今の俺の心境はそんなところだ。
移動するたびにチューリップが撃ちこんであるはバッタが散歩しているはでおちおち外の空気も
吸えやしない・・・・。
久しぶり、って言っても1年と少しではあるが離れていたが紛れもなく火星は俺の故郷だ。
荒廃度を見ていると正直むかむかキテいる。
不幸中の幸いがユートピアコロニー。
チューリップ落下を阻止しただけだったが、後の攻防やら何やらで地上は壊滅しているが
地下はある程度無事だった様だ。
お隣のアガルタコロニーには大艦隊ならぬ大量チューリップが居座っていたし。

 

「いっそ喧嘩売ってくるなら買うんだが・・」

 

いや、ストレスを貯め過ぎた所為か思考が完全に攻撃モードに変わっている。
ちょっと前なら壊滅で許すところを今なら殲滅で終わらせる自信がある。
・・・・自制できてないって事さ。

 

「何もこんなに大々的に攻めてくる必要はないのに・・・・」

 

これでは只の侵略だ。
復讐なら解らなくもないがこれはやり過ぎである。
自分達がやっている事がかつて軍のお偉いさんが自分達のご先祖様にやった事と、
大して変わらないと分かっているのかね?実に恐ろしきは戦争、か・・・・・・。

 

 

ナデシコは既にユートピアコロニー跡から撤退をしていた。
戦艦、護衛艦を大量に引き連れながら。

 

「ナデシコは説明バカの確保に成功。俺のお仕事はサポートしかないんだよな〜」

 

まだ‘帰還者’達の目的を俺は知ってはいない。
ミリタリーバランスを何処まで拮抗させるかが最大の急務だった。
それも助けられる人間は確実に助けながら。
とりあえず地下に下りる。
火星の住民を説得ぐらいしておかないと俺の気分が悪くなる。
ここに残る言ったらそれまでだし、地球に行きたいと言ったらそれをしてやるまでだ。
ゼラニウムの D・Fは戦艦どころの厚さじゃないのでジャンパーじゃなくても問題はないのだ。

 

「しっかし、随分荒れてるな・・・」

 

天井に縦横無尽に張ってあるパイプは亀裂が入っているし(使い道がない物でもあるのだろうが)、
地面には火星独特の赤みのかかった土が舗装されたものから所々露出している。

 

「貴様何者だ!?」

 

まあ・・・・。勝手に入ったのは悪かったけど、貴様呼ばわりされる程度の事じゃないと思う。
それが嫌ならインターホンでもつけとけ!

 

「一つ・・・・言っておこう」

 

「・・・何を言っている?」

 

ぞろぞろと蟻のように奥から出てきやがる。

 

「あんた等、ここで死ぬつもりか?」

 

俺の機嫌と、蜥蜴さん達の侵攻の両方の意味で言っていた。
どちらの比率が多いかは考えたくない。
何万年生きても器の小さい男の寛容は何処まで行っても狭量でしかないとだけ言っておこう。

 

「お前も・・・地球から来たのか!?ドクターは如何した!?」

 

どうも殺気立ってると思ったらあのバカ(注:アキト)ちゃんと説明してなかったのか?
いきなりやって来て誰かを連れてって、その人が帰ってこなければこの人達にとっては
誘拐だよな・・・・。

 

「はあ〜〜〜〜〜」

 

この時ばかりは怒りのボルテージがマイナスになった。

 

「とりあえず、説明します・・・・」

 

 

〜ナデシコ〜
イネス・フレサンジュは医務室で薬剤の整理を行っていた。

 

「ホシノ・ルリ・・・何でやりたがらないのかしら?・・・・可愛いのに」

 

ブツクサと言いながらもテキパキとラベルの確認をして、品質状態を確認する作業を続けて行く。
その時・・・・

 

ピクククッ!

 

「・・・・説明?何処かしら・・・?」

 

何やら電波を受信した様である。
きょときょとと辺りを見まわすが当然医務室には現在入院しているヤマダジロウこと、
ダイゴウジ・ガイしか居らず、その入院2度目か3度目か分からない男は彼女特製の睡眠薬で
お休み中である。五月蝿かったので黙らせたのだ、この女は。

 

イネスが意味不明の行動をしていたと思兼のログには記憶されていた。
これを後に知った俺は老けようが何だろうが

 

「イネスはどこまで行ってもイネス(説明バカ)のままか・・・・」

 

と、呆れながらも腹を抱えて笑ったものだ。

 

 

ユートピアコロニーの避難民は話せば分かってくれた。
長期にわたる潜伏には的確な判断力と情報の確かさが必要となる。
そうでなければ今まで生き残ってこれなかっただろう。
他には第六感のようなもので俺が敵性人物ではないと悟ったのだろうか?
特にこれといって反抗はしなかったし。
まあ、反抗したら俺は情け容赦なく黙らせただろう、死なない程度に。

 

「まぁ・・・・・そんな訳で100パーセント地球に帰還できますけどどうします?
 出来れば、地球に帰って欲しいって言うのが本音なんですけど」

 

「・・・・・・ドクターも居なくなっちまったし、これ以上ここに居るのは限界かもしれんな・・・」

 

どこぞの村の長老風の初老の男。
それはちょっと違うよ?
生きてくだけなら何とかなるかもしれないけど、人間として要求される条件の大部分を無くしてゆけば
何とかなる。盗賊とか、強盗とかそんなのだけど。

 

「それが全員の意思ですか?ちゃんと確認してください。
 後でここに戻せと言われても無理ですから」

 

地球での待遇などは既に話した。
事実上の軟禁生活ではあるが危険がなく衣食住は完備しているので、
ここよりマシだとは思うんだが・・・・。
俺の考えと同じらしくとりあえず反対意見は出なかった。

 

「じゃ、ちょっと待ってくださいね?あ、それと荷物の整理をお願いします」

 

旅行代理店の添乗員にでもなった気分だ・・。
右腕に付けているアームターミナルにゼラニウムの遠隔操作を指示する。
ちなみに指示できるのは犬に命令できる内容程度だ。

 

ズギャ・・・ガラガラガラガラッ!

 

ドゴォォォォォンッ!!!

 

天井を打ち破ってゼラニウムが現れる。
俺にはその勇姿が「どうだ見たか!」とでも言いたげに見えた。

 

「ステルス装甲、付けてて良かったかもな・・・・」

 

ここでウイングユニットを広げていたら、岩盤崩れてここは瓦礫の山だ。全員死ぬ、俺以外。

 

「こいつでどうするんだ?」

 

「もういいや。そこに一纏りになってくれ。」

 

掛けられた言葉を無視するといかにも面倒くさげに指示を出すと、指示に全員が従い、纏る。

 

「では健やかな生活を・・・」

 

ヒィィィィン・・・・

 

ゼラニウムがD・Fを避難民の周囲に展開し、
蒼銀の光の欠片がゆっくりとフィールドの上に舞い落ちる。

 

「所であんたは何なんだ?」

 

「時間軸固定・・・・・座標固定・・・・・ジャンプ」

 

フッ・・・・・。  

 

「何なんだろうな?やっぱり、火星の後継者って奴かね?」

 

忌々しい名前だが今の俺を体現するが如き名前に溜息を漏らした・・・。

 

 

 

ナデシコ内のとある一室にて光が集まり始める。

 

「よっと!」

 

軽やかに着地を決めると一応人が居ないか確認する。

 

「帰還完了。・・・ううっ、腹減った・・」

 

何か知らんがボソンジャンプするとやけに腹が減る。
普段使ってないナノマシン使ってるからか?
とりあえず、ホウメイさんから分けてもらった紅茶の葉
(確かフォートナム&メイスンって言ったと思ったが)を急須に入れ、ポットからお湯を注ぐ。
言っておくがティーセットではなく急須である。

 

「はぁ〜、極楽極楽・・・」

 

持ちこんでいたハッパセンベイに手を伸ばす。

 

「・・・・・・組合せとしたらあまり良くないかも」

 

ふと気付く。

 

「・・・・・緑茶にしておくんだったかな・・・・それともクッキーか?」

 

俺のプライベートルームはこんな感じで誰かから分けてもらった物や持ちこみ禁止の物、
見られては拙いもので溢れかえっている。
例えばアルコールとか。
主に整備班の連中が賄賂ではないが色々と持ってくる。
ここなら見つからないのだ、絶対に。
俺のプライベートルームにはネルガルとの契約段階でセキュリティーを含む全てのものからの干渉を
拒否すると伝えてある。
もし破ったら・・・違約金が貰えたりするのである。
額はかなり洒落にならない額とだけ言っておこう。
そんな事になったらネルガル重工は倒産は免れないだろう。

 

「ん?」
思い出した様に時計を見ると、洒落にならない状況だと理解した。既に交代の時間は過ぎている。

 

「遅刻だ〜!」

 

大急ぎで部屋を出て格納庫に向かった。

 

「こら、何をやってたんだ!」

 

「寝過ごしました」

 

「ま、いい。ほらお前等上がって良いぞ〜」

 

「「「「「っした!!」」」」

 

なんか、雰囲気変わってないか?気合、じゃない怨念?執念?
ほぼ全員が揺らめくオーラを背中にしょっていた。

 

「あ、あの・・・何かあったんですか?(変ですよ、絶対)」

 

嫌な予感がする。俺のこういう時の勘は外れた事がなかったな、そういえば。

 

「ああ。とてつもない事がな・・・フッフフフ・・・・」

 

「あー、お取り込み中すいませんけど、一体何が?」

 

ウリバタケ班長の様子を無気味に思いながらも一応付き合いって事で声を掛ける。

 

「書け」

 

「はい?」

 

出されたのは1枚の書類。

 

「何ですか、これ?」

 

「いいから読め」

 

「はぁ・・・」

 

なになに・・・・。テンカワアキト抹殺組合入会契約書・・・・って、はあ?

 

「何ですこれ?」

 

先程とは微妙にニュアンスが違う。
今度のは隠すまでもない「何考えてるんですか」との呆れを多分に含んでいる。

 

「内容の通りだ!」

 

「理由は何ですか!?仲間を抹殺なんて何でしようと思えるんです!」

 

「アイツは俺達ナデシコ男性クルー全体の敵だからだ!」

 

「・・・・・・何があったんです?」

 

「これを見てみろ!」

 

何やら会議用とのテープがついているディスクを用意し、内容が格納庫に小さくだが映る。

 

「両手に花だな」

 

「「「「「くうぅぅぅ〜〜〜〜っ!!
     羨ましいぞっ!!テンカワ・アキトォォ〜〜〜〜〜ッッ!!!!!」」」」」
その叫び声はまさに超音波。当然近場にいた俺はもろにその影響を受けた。
(あう・・。耳痛い・・・。意識が・・・薄れて・・・。)
俺は意識が薄れていくのを感じ取りながら・・・・
(これで死んだら、間違いなく人類史上最も嫌な死に方だろうな・・・・)
などと意識の端で苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

ゆっくりと目を開く。白いライト。染み一つ無い天井。消毒液の臭いが微妙に鼻をくすぐった。

 

「知らない天井だ・・・・」

 

「あら、目が覚めたの?」

 

ムクッ

 

「医務室、だな・・・。あんた誰?」

 

知ってるけど一応通過儀礼みたいななものだ。一応初対面ってことだし。

 

「イネス・フレサンジュよ。忘れたかしら、トウヤ?」

 

「イネス?イネス・・・・
 おおっ!人の事を実験に使おうとしたり、解剖しようとしたあのイネスか!」

 

これは本音。いや、あった事だ。

 

「それが10年ぶりの再会の言葉かしら?まあいいわ。何で貴方がここにいるの?」

 

「何でって・・・雇われたからに決まってるじゃないか。イネス君?」

 

「それはそうでしょうけど・・・。
 超A・I‘思兼’完成後、ナデシコ級戦艦の開発のメインスタッフの一人だったのに
 突如と姿を消した貴方が何で火星にいるのよ?」

 

「やらなきゃいけない事があったからさ」

 

「・・・・・変わらないわね」

 

「お前は変わったな?」

 

「そう、かしら・・・?」

 

「小皺が増えた」

 

ヒュッ!カツン!

 

「メス捌きに磨きが掛かったな・・・2本中1本は掠って血が出るし、
 もう一本は・・・刺さってるな?」

 

右頬に一筋、血で髭ができる。もう一本はギブスで固められたヤマダの足に突き刺さっていた。

 

「そんな事はどうでも良いわ。どこが変わったって?」

 

「だから・・・・」

 

ヒヤッ!

 

背筋に悪寒が走る。
でもここではっきりと言って置かなければ俺の復讐は完遂しない。
もうイネスのメスが怖くてここで妥協するようなクサナギ・トウヤは死んだのだ(笑)

 

「お前老けたんだよ。俺達はあんまり変わらないのに」

 

「(怒!!!!!!!!)って俺達?まだ他にも誰かこの艦に乗ってるの?」

 

「乗ってるわけじゃないけどカスミが地球にいる。」

 

「あら。一緒に暮らしてるの?」

 

「まあ、一応は(保護者同伴になってるけどね)」

 

「・・・・結婚したの?」

 

「いや?してないけど・・・・」

 

「そう・・・お互い縁が無いわね?」

 

「(それはお前だけだって言うの・・)」

 

「今、何か失礼な事考えなかった?」

 

「気のせいだろ?」

 

「ねえトウヤ?テンカワさん覚えてる?」

 

「覚えてる
(保護もしっかりとしたしカスミと一緒に夫婦揃って暮らしてるって言ったらどんな顔するかな?
 ・・・楽しみだ)
 俺がお前に紹介したんだったよな?確か・・・・俺が15ぐらいの時じゃなかったか?」

 

実質3年前になるけど。

 

「その息子のアキト君。乗ってるわよ、この艦に」

 

「知ってる。けど言うつもりは無いよ」

 

「・・・そう」

 

「・・・まあ、向こうが思い出して話してくるって言うんだったら別だけどな?」

 

 

「減俸です」

 

「えっ!?そんな・・・プロスさん勘弁してくださいよ。いくらなんでもそれはちょっと」

 

「ダメです!来月はしっかり働いてくださいね?」

 

「あうううううぅぅぅぅ・・・・・・・・(号泣)」

 

その他諸々の事情で見事に減俸になった俺だった。

 

 

 

その後、俺は拗ねた。
偵察から帰ってきたエステバリスを最高速度で点検して(スパナで叩けば大体何処が悪いか分かる)、
体調不良(メカニッククル−の所為)を理由に早々に部屋に引っ込んで不貞寝した。

 

まあその間にナデシコはチューリップ突入という無謀な試みをし、人類初の生体ボソンジャンプを
実現する事となる。厳密に言えばかなり違うけどね・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

漸く終わった〜!
最近は悠久のSS書いてたからペース落ちてたんですよね〜。
楽しみにしてくれている人(いるのか?)本当にごめんなさい。
まあ、政治的なお話が欲しくなる今日この頃。
連合軍の統制システムってどうなってるんだろうとか考えたり・・・・。
まあその内管理人さんが設定作るでしょ(笑)

 

まあこんなところです。では次回のあとがきでお会いしましょう!

 

次回、呆れ果てる「冷たい方程式」を気楽に読もう!(爆) 

 

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

 

久遠の月さんからの投稿第八話です!!

何だか、荒れてますね〜トウヤさん。

思考が超戦闘状態だ(笑)

何時でもかかってこい!! って具合ですね(苦笑)

しかし、イネスは覚えていたんだな〜

でも本当にアキトに両親を会わせてみたいですよね。

どんな反応をするんだろうか?

 

それでは、久遠の月さん投稿有難うございました!!

 

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