2198年   木星宙域

 

ビィーッ ビィーッ ビィーッ

艦内に鳴り響く警報音。

 

「直撃っ!右舷虫型機動兵器格納庫っ」

紅の警告灯に染まる艦橋。

 

「第拾弐マジン部隊、全滅です」

「戦艦かづき、沈黙っ!」

耳を覆いたくなるような報告の数々。

 

「反乱軍、第弐戦線を突破!近づきます」

オペレーターの一人が提督席を仰ぎ見ながら報告する、その表情は焦りの色に染まっていた。

「徹底抗戦だっ!最後の一人となっても我々は戦い抜く!」

同じように焦りの色を浮かべた副提督が、その焦りを振り払うかのように叫ぶ。

「我々、木連の戦士が”真実の正義”を貫かなければ 誰が”理想の平和”を創りあげるのだっ! 信じるのだっ”正義”と”熱血”は、常に我等と共に有るのだ!」

「ハッ!」

副提督の言葉に、いくらか落ち着きを取り戻したオペレーターがコンソールパネルに向かうが、戦況が良くなるはずもなく被害報告が増えるばかり。

 

ズウウウ ウウ ウウ ウ  ウ ウ ウ

また、一隻の戦艦が断末魔の爆光を放ち、数百人の乗員と共に散った。

 

「・・・・・・もはや此処までか」

騒然とする艦橋の中 ただ一人取り乱すことなく戦況を見守っていた提督が何かを決意したのか、不意に立ち上がった。

「草壁閣下・・・?」

ただならぬ雰囲気を感じたのか艦橋にいる全ての目が草壁に集まる。

「全艦に打電っ、我が艦隊はこの戦域より離脱する!」

「「「「なっ!」」」」

想いもよらない草壁の言葉に艦橋は更に騒然となる。

「な、何をおっしゃるのです閣下!」

「そうですっ!ここで我々が敗北を認めれば誰が”真実の正義”を守のですか!」

「悪に屈してはなりませんっ」

「悪に屈するぐらいなら最後の一人になっても戦いましょう!」

「そうだっ!」「そうだっ!」

口々に反対の声が上がる、

「ならんっ!」

草壁の一喝

「・・・最後の一人になろうとも戦う、確かにそれで我々は”正義”を貫ける。

 しかし! 我々が”正義”を貫き全滅した後はどうなる!?

 我々が創るべき”理想の平和”は誰が創りあげるのだ!?

 我等を木星まで追いやった地球連合か?

 時空跳躍を独占しようとしたネルガルか?

 それとも、悪に心を売った反乱軍か?

 否! 我々以外に居ないのだ! 

 死を急ぐな 我等の”正義”を”理想の平和”を実現するまで皆の命、私が預かる!

                いいなっ! 

 

水を打ったかのように静まる艦橋、

「全艦180度回頭、この戦域を離脱する。」

「・・・了解しました」

地の底から響いてくるような草壁の命令に しばらくの沈黙の後、副提督が絞り出すように呻くとそれを合図に艦橋は動き始めた、敗北の屈辱に耐えながら。

 

 

 

 

 

こうして、『熱血クーデター』最後の戦闘は終わりを告げた

しかしこれは、新たな動乱の始まりでもあった。

 

 

機動戦艦 ナデシコ 

 

星ノ記憶・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     5年後・・・・・・

 

 

 

不快な湿気と夏の太陽が照りつける中、唯一そこだけは嘘のように澄んでいる場所・・・

広大な霊園、死者の眠りし安息の園。

宇宙軍の制服を身につけた一人の女性が、ある墓石の前に佇んでいた。

しばらく手を合わせ目を閉じていたが、やがて顔を上げた・・・その視線の先には、まだ少年の面影を残している青年の遺影があった。

 

「・・・・・・。」

その女性は無言のまま二歩ほど下がると、もう一人のために場所を空けた。

「さぁ・・・ルリちゃん・・・」

「・・・・・・ユリカさん」

ルリはユリカをすがるように見るが、ユリカは無言のまま前を見ている。

その視線に促されるようにルリは、一歩進みでる・・・

「・・・・・・。」

が、そこで足が止まってしまう、もう一歩が出せない・・・

「ルリちゃん・・・」

足が震えていた、いや、体中がガクガクと壊れたマリオネットのように震えだしていた。

琥珀の瞳からはボロボロと大粒の涙が流れ溢れ出している。

「ルリちゃん!」

ユリカは後ろからルリを抱きしめた。

「ッ・・・・・・」

はっとしてルリは目を見開き、そしてそのままユリカに抱きしめられたまま泣いた。

「ごめんなさい・・・ユリカさん、私は・・・私は・・・」

「いいの、いいのよ、ルリちゃん・・・」

母のように、姉のように、ユリカはルリが泣きやむまで抱きしめ。

 

「行きましょう・・・ルリちゃん・・・アキト、それじゃぁ行くからね」

そう言うと、ユリカはルリを支えるようにして、テンカワ アキトの墓を後にした。

蝉時雨と夏の日差しが再び 霊園を包み込んだ・・・。

 

 

『テンカワ アキト 享年20歳』

 

 


 

 

同時刻、統合軍所有実験コロニー『マサムネ』

 

ヴィー、ヴィー、ヴィー、ヴィー、

「ヤマブキ小隊は、Sフィールドのバックアップヘ!」

『ヤマブキリーダー、了解!』         『うわぁっ・・・来るなっくる・・・』

     「ヒイラギ小隊、全滅!」           「戦艦ヨウゲツ、大破!」

『こぉのぉ!!・・・ガッ』        「なんなんだよ!アイツは!」

一人のオペレータは、まるで悪魔でも見てるかのように、ウィンドに表示されている”敵”を見ていた。

 

統合軍所有の完全武装のコロニー、その防衛網を単機で突入、突破、そしてコロニーを殲滅。

わずか30分ほどで、これを成し遂げほぼ無傷で去っていく・・・

まさに、悪夢としか思えない事を成し遂げる”敵”、その存在が確認されてから、わずか二週間の間に三基のコロニーが殲滅され、そして今、ここ『マサムネ』が襲撃を受けている。

ほんの数分前までは、データとしてしか知らなかった”敵”が、今、目の前に現れているのだ。現に、この数分で『マサムネ』の超長距離、長距離、中距離防衛網は全て突破され、残るは、戦艦群と機動兵器による近距離防衛とコロニーの防衛部隊のみ。

 

「コロニー内の予備部隊を全部出せ!アイツをコロニーに取り付かせるな!」

「だめです!間に合いません!!」

コロニーと敵との間に居た、最後の戦艦が沈められた、もう遮るものはない。

コロニー周辺の部隊は・・・間に合わない。

ズズ〜〜ンッ!!

鈍い衝撃音が司令室に響き、警告のレッドランプの数が一気に増えた、敵に取り付かれたのだ。

「敵、第九番格納庫に進入!」

「九番格納庫の隔壁閉鎖!緊急パージ!」

「パージ間に合いません!敵、隔壁を破壊しながら移動しています」

「どこだ!どこに向かってる!?」

「第十三番格納庫・・・いや、なんだ?この動きは?」

「どうした?」

「各格納庫を全部まわっています!・・・まるで何かを探してるみたいな動きです!」

「かまわん!非常通路以外の全フロアを閉鎖しろ!」

「しかし、まだ避難していない作業員が・・・」

「いいからやれっ!今はこのコロニー自体が危険なのだ!!」

「・・・了解」

全フロアの隔壁を閉鎖すべくコンソールを操作するが、それでも敵の動きは止まらない。

コロニー防衛部隊もそこここで戦闘を仕掛けるが、鉄くずの山を築くだけ。

「・・・っ!動きが変わりました!・・・これは!?メイン動力炉に向かっています!!」

「馬鹿な!動力炉を破壊したら、自分も巻き込まれて誘爆するだけだぞ!!」

「そ、そうですが・・・」

当然、指令の疑問にオペレータが答えられるはずもない。

「敵、動力部に進入!」

 

 

その数分後、統合軍所有実験コロニー『マサムネ』は、宇宙の藻屑と化した・・・

 

 

 

 

 

                              続く

 

 

 

 

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