地球から巣立った人類は、宇宙コロニーでの生活に新たな希望を求めていた。

しかし、地球連合政府は、正義と平和の名の下に圧倒的な軍事力を持って各コロニーを制圧した・・・

 

隔壁を破壊し、コロニー内に侵入するMSリィオー

 

搭載可能なだけの爆弾を抱え飛ぶMSエアリーズ

 

倒れるビル・・・

                  爆発する民家・・・

                                            逃げまどう人々・・・

 

  全てを踏み潰していくMS・・・

 

 

アフターネルガル(A・N) 195年

作戦名 『オペレーション・メテオ』

 

連合に反目する一部のコロニー居住者達は流星に偽装した新兵器を送り込む行動にでた。

 

  各コロニーから地球へと打ち出される5つの流星

 

だが、これは既に連合本部に察知されていた。

 

 

 

新機動戦記 

ナデシコ W

 第07話 「流血へのシナリオ」

 

 

Aパート

 

 

 

 ゴォォォォォォ ・ ・ ・

爆音を響かせて、また1機のクリムゾン専用シャトルがニューエドワーズ基地に着陸した。

基地を見回すと、そこここにクリムゾンの専用機が並んでいる、本来の連合軍機は注意して見ていないと判らな

いぐらいだ。

『こちらニューエドワーズ基地、シャトルの到着を確認。

 これで、かなりの数がここに集結しました』

ニューエドワーズ基地からの通信に頷きながら、ハーリーは読んでいたファイルを閉じる。

「了解です、ご苦労様でした」

通信を送ってきた兵士の労をねぎらうと、通信を切る、

ここはニューエドワーズ基地に向かう途中のハーリー特佐専用シャトル内、通信が終了したのを見計らったよう

にユキが書類を手に現れる。

「ハーリーさま、クリムゾンの上層部全てがニューエドワーズ基地に集まると言う情報頻度を巧妙に増加させて

 おきました」

「少なくとも、僕達とユキさんが参加することは事実だよ」

「ハーリーさまご自身が囮ですか?」

普段なら、ハーリー自信を囮にするような作戦は絶対に阻止するユキだが、今回は余裕の笑みを浮かべてい

る。

「兵士、及びモビルスーツの配備は完璧です、これ以上の増員は必要ないでしょう」

そう言って、持っていた配置表をハーリーに渡す。

但し、それはニューエドワーズ基地の警備状況を示したモノではなく、全世界の連合軍基地に配備されている

クリムゾンの部隊を示すモノであった。

「 ・ ・ ・ 流石はユキさんです、完璧ですね、

 ? ラピスはナイロビですか?  ちょっともったいない気がするけど ・ ・ ・ 」

配置表にざっと目を通しながら、ナイロビにラピスの名を見つけて不思議そうな声を上げる。

「ナイロビ基地にはクリムゾンの兵はあまり配備されていません、そのため激戦区となるでしょうから」

「なるほど、確かにラピスが指揮すれば少ない兵力でも有効に使ってくれるでしょう」

納得したようにハーリーは頷く。

戦場の白き精霊、ヴァルキリーの異名を持つラピス・ラズリ特尉、その異名は卓越したMSの操縦技能の為で

もあるが、一番の理由はその指揮能力だ。

彼女が指揮した部隊が参加した戦闘は敵味方含めて殆ど死者が出ないのだ、そして必ず勝利する。

その様子から、戦いにおいて勝利を導く精霊、戦乙女ヴァルキリーの異名がついたのだ。

「確かに、これ以上は必要ないでしょう、後は歴史の流れを見定めるだけです」

ユキに配置表を返す、

「これで、人々は迷うことなく歴史に身をゆだねることが出来ます」

今まで影のようにハーリーの背後に佇んでいた月臣の言葉にハーリーは答えることなく、シャトルの窓から見える

街を見下ろした。

 

 

 ピピピッ

「ドクターからの指令?」

森の中に隠したウイングナデシコのコクピット内で、ルリはイネスから送られてきた新たな指令を受け取って

いた。

「!!  クリムゾンの首脳部がニューエドワーズに集結する・・・

 任務了解 これより行動を開始する」

内容を確認しファイルを削除しようとした時、まだ続きがあるのに気がついた。

「これは     え?」

 

 

「エリナがまた居なくなっただと」

難しい顔をしたゴートが団員の居住トレーラーに入ってきた。

「ええ、また戻ってくるとは言っていたけど」

ゴートの様子を気にすることなく、レイナはコーヒーを入れる手を休めずに答える。

「まったく、どうしてあいつは単独行動を取るんだ?」

既に諦めているのか、それほど怒っている様子ではない、

「ホントね、普通ならとっくにクビだわ」

ゴートにコーヒーを差し出しながらレイナは苦笑する。

「確かにな、だがやめさせるには惜しい腕だ、多少の事は目をつぶる」

受け取ったコーヒーを飲みながらゴートは、やれやれと言った感じに言う、もっとも、傍目にはいつもと同じ顔

だが。

「ほぅ、  なかなか美味いコーヒーだ」

「あら わかります? これ私のオリジナルブレンドなんですよ」

ゴートの言葉に嬉しそうにレイナが答えた。

 

 

「しかし、ユリカ様も1人でリゾートに遊びに行くとは、まだ子供よ」

「ハハ、四六時中むさ苦しい俺達に囲まれていたら、そりゃ疲れも溜まるさ」

「違いない」

「「「ハハハハハハハッ」」」

男達の笑いが乾いた砂漠に広がるが、

「バカヤロウ!!」

マグアナック隊隊長のジュンの怒声が響く。

「ユリカは僕達を引き連れずに、1人で何かの作戦行動をとるつもりなんだ」

ジュンの言葉に兵士達は一瞬あっけに取られる、

「本当ですか!! 隊長」

「ああ、ユリカは僕達の身を案じて1人で行ったんだ」

「しかし、それではユリカ様の身が危険ではありませんか!!」

「はぁ    ユリカの配慮を無下には出来なかったんだよ・・・

 だけどユリカ せめて一言相談してほしかったよ」

もっとも当然そんな事をすれば絶対ユリカを1人では行かせないだろうから、黙って出ていったのだが。

 

 

「クチュンッ あれ? 風邪でもひいたかな〜」

港街の公衆電話でユリカがくしゃみをひとつ。

「え〜と、確か番号は ・ ・ ・

 あ、サンフランシスコスターリホテルですか? 部屋を予約したいんですけど、女の子1人でも構いま

 せんよね? あ、はい  はい、それじゃよろしくお願いしま〜す

 これで、よしっと」

受話器を置き、ボックスから出てきたユリカの目の前を1台の大型トレーラが横切った。

「!? 今のトレーラは」

見覚えのあるトレーラを目で追うと、そのトレーラはユリカが乗る予定の客船に入っていった。

 

 

「お久しぶりです、エリナさん」

「あら? ユリカじゃない、どうしてって・・・聞くまでも無いわね」

トレーラーから降りてきたエリナに待ってましたと笑顔で話しかけるユリカ、がいきなり登場したわりに、エリナは

それほど驚いていない。

「どうやら目的は同じみたいですね」

「そうみたいね、どちらにせよ私は1人でもやるわ」

「私だってそうです、でも助け合えば必ずうまくいきますよ」

「どうかしら?」

「きっと、うまくいきますって!」

「足を引っ張られるのが関の山じゃ無いかしら?」

「ブ〜〜 エリナさんひどい!」

からかい気味のエリナのセリフにたちまち不機嫌な顔になるユリカ、

『引き続きニュースをお伝えします、

 先日、J.A.P.ポイントで起こった反連合グループによる無差別テロにより襲撃された医療施設に入院中

 だった外務省外務次官 雪谷才蔵氏とその妻の死亡が確認されました。

 雪谷氏は、先のコロニー会議に出席中に爆発テロにあい、今回テロにあった医療施設で治療中でした。

 連続しての不幸に、1人残された息子の雪谷アキト氏には周囲からの同情の声が集まっています・・・』

船内を流れるラジオのニュースにエリナとユリカが反応していた。

【雪谷外務次官の死亡・・・これで、地球とコロニーを結ぶ者は完全にいなくなった・・・ 

 クリムゾンの考えそうな事ね】

【雪谷のおじさまとおばさまが!? そんな、どうして・・・

 アキト、大丈夫かな・・・】

 

 

 ドガァァァァァァァァ!!

なんの前触れもなく、連合空軍基地の一角から夜の闇を引き裂いて爆炎があがる。

「な、なんだ!!」

「敵襲!! 敵襲だぁぁっ!!」

最初の爆発を皮切りに、基地内の施設が次々と爆発炎上する。

近くにいた整備兵達が炎を消そうと集まってくる、警備兵は襲撃者を特定しようと辺りに注意を光らせる。

「ん? なんだ?」

「敵襲だってよ」

輸送機の格納庫近くでその爆発を目撃した整備兵がのんきな声をあげる。

「おいおい、またか?」

「まったく、いい加減にしてもらいたいねぇ」

数度の爆発音が響いて、それっきり収まったところを見ると多分時限式の爆弾なのだろう、ならばもう敵兵

(おそらくゲリラ)は撤退しているだろうと判断した整備兵はのんきに答える。

反連合ゲリラの多いこの地域ではこんな事は日常茶飯事、整備兵も馴れきっていた、そのため背後に忍び

寄って来ていた者に気づくはずもない。

「まぁ、あっちは向こうの連中に任せて、こっちは予定通り輸送機の離陸準備を・・・」

 バキッ!  ドスッ!

背後から1撃され、うめき声さえ上げることなく気を失う整備兵、その背後には黒い戦闘服を纏ったルリが

立っていた、普段のツインテールも動きやすいようにポニーテールにまとめている、

「いくら平和慣れしてるとは言え・・・」

軽くため息をつくルリ、格納庫内を見回すと他の整備兵達も既に夢の中、いくら何でも酷すぎる有様だ。

「まぁ その方が楽ですけど・・・」

気を取り直し目的の輸送機に乗り込む、ニューエドワーズ基地までの移動に使う為だ。

他の4機のナデシコと違って飛行できるウイングナデシコを輸送機で移動させようとするのは妙な感じもするが、

だからと言って堂々と飛んでいく理由にもいかない。

丁度発進準備をしていた輸送機のコクピットに潜り込み、素早く機体状況をチェックする。

「? 貨物ブロック?」

貨物ブロック部分の表示がレッドの点滅を繰り返している、どうやら貨物ブロックのハッチが開いているようだ。

腰に差していたブラスターを抜くと、ルリは貨物ブロックへと移動していった。

 シュンッ

軽い空気が抜ける音と共に貨物ブロックへの扉が開く、

「!! これは!?」

扉の向こう、貨物ブロックにはいつか見た死神、ナデシコデスサイズが機体を固定しようとしていた。

「よぉ、 お前も早く積み込めよ!」

固定し終えたデスサイズのコクピットから降りてきたリョウコが、ルリの姿を見つけて怒鳴ってくる。

「操縦室の方はオレが引き継ぐぜ」

「リョウコさん、どういうつもりですか」

「今回の任務は絶対失敗したくないからな、たまにはいいんじゃないか?」

ルリはブラスターを向け動きを牽制するが、そんな物を気にすることなくリョウコは平然と答える。

「 ・ ・ ・ わかりました、そっちは任せます」

しばらくリョウコを睨んでいたルリだが、ブラスターを降ろすと、ウイングナデシコを積み込むために輸送機から

出ていった。

「ヘヘッ あいつ、オレの名前覚えてたのか」

少し嬉しそうに呟くと、リョウコは操縦室に駆け込んだ、そろそろ基地の兵士達もここの異常に気づくだろう、

もたもたしている暇はない。

 

 

「撃て、撃てぇぇぇぇ!!」

滑走を始めた輸送機に向かって警備兵が一斉に銃を撃ち始めるが、自動小銃程度ではたいした効果を期待

できるはずもなく。

「おらおらっ どかねぇと踏みつぶすぞ!!」

リョウコはわざと警備兵達に向かって輸送機を走らせ、一気に蹴散らす。

「ハッハッハッハッハッ 雑魚は引っ込んでな!!」

【派手ですね・・・ 今まで出番が少なかった反動でしょうか?】

リョウコの横顔を見ながらつぶやくルリ、輸送機でのドリフトなんて滅多に体験できないものを味わいながら、

少々呆れていた。

「おや?」

と、ルリの視界に何かが走ってくるのが見えた。

「・・・リョウコさん」

「ん? どうした」

リョウコがルリの指さす方向を見ると、輸送機の進行方向上に装甲車が回り込んで来ていた。

流石に、迫撃砲の直撃を受ければ一撃で終わりだ。

「でぇぇぇ!! 何か武器、武器は無いのか!!」

慌ててコンソールを見回すが、輸送機にそんな物は付いている理由が無く。

「だったら撃たれる前に離陸すれば・・・」

「滑走距離が足りませんね、寄り道しなかったらもう離陸できていましたが」

「ぐぅ・・・」

思いっきり油汗を流すリョウコ、その背中にはルリの冷たい視線が突き刺さっている。

「しかたねぇ、いったん止まる「このまま離陸してください」」

減速しようとしたリョウコに加速するように言うと、ルリは操縦室から出ていった。

「おい、このまま加速って・・・コラ!! どこ行くんだ!?」

ルリを追いかけようとするが、操縦桿を離す理由にもいかず、操縦桿を握り直す。

「ちくしょうっ もうどうにでもなれ!!」

【1人で逃げたら化けて出るぞ】

心の中で悪態をつくと、言われたとおり輸送機を離陸させるためにスピードを上げる。

 

 

 ガコンッ!

加速する輸送機の搭乗ハッチを、ルリは思いっきり開け放つ。

「目標確認、これより排除します」

風圧をものともせずに、輸送機の正面に停止して射撃準備をする装甲車を目視で確認すると。

 ガシャッ

対戦車無反動砲を取り出し、照準をつけ

「目標をセンターに入れてスイッチ」

どっかで聞いたことのあるような事をつぶやきながらトリガーを引く。

 ドウンンンンンンンンン        ゴガァァァァァァァァァン!!

白煙を引きながら放たれた砲弾は、装甲車の砲塔の根本に直撃し吹き飛んだ。

「目標の消滅を確認」

炎を上げる装甲車を確認するとルリはハッチを閉じて操縦室に戻っていった。

その直後、炎を上げる装甲車を掠めるようにして輸送機はその重たい機体を舞い上がらせた。

 

 

「ご苦労さん、相変わらず無茶苦茶だなぁ 普通あれだけ速度が出ていて外に身を乗り出すか?」

苦笑しながら、戻ってきたルリに話しかける。

「リョウコさんが普通に離陸していれば、無茶をしなくてもよかったんですが」

「ぐぅ・・・」

反撃されて撃沈するリョウコ、

「まぁ それは置いといて、今度の一戦 派手になりそうだな」

強引に話題を変えるリョウコ、ルリもそんなに追求するつもりは無いのか、そのまま話題に乗る。

「そうですね、今までと違ってクリムゾンと言う組織のトップを叩く絶好の機会です」

「おいおい 軽く言ってくれるな〜、今回の任務の重要性わかってるのか?」

「わかってます」

「そうか? オレの気のせいならいいんだけど、他になんか気になる事でもあるんじゃないか?」

「【鋭いですね】そんな事はありません、リョウコさんこそ少し浮かれているみたいですが?」

この前のテロを装って殺された雪谷夫妻、正確には1人残されたアキトの事を考えていたが、そんな事はおくび

にも出さない。

「そりゃそうさ、ここでクリムゾンを叩き潰せば、宇宙に帰れる」

「 ・ ・ ・ 」

嬉しそうに言うリョウコの横顔をルリは複雑な表情で見ていた。

【宇宙に・・・ ですか。

 この作戦が終わったら、本当に宇宙に帰れるのでしょうか?】

アキトの父、雪谷外務次官が殺された今となっては、コロニーと地球を結ぶ人物はいない。

たとえクリムゾンが消えても地球圏統一連合政府のコロニーに対する態度が変わるとも思えない。

【 ・ ・ ・ ふぅ、

 やめておきましょう、これからの事は今回の任務が成功して生きて帰ってから・・・】

これから始まる戦いを思い、ルリは正面を見据えた。

輸送機の外には雲一つない星空が広がっていた。

 

 

 

 

 

その日、地球圏統一連合軍ニューエドワーズ基地には、最高司令官のグラシス・ファー・ハーテット元帥

をはじめ、宇宙軍を統括するムネタケ・サダアキ将軍、地球軍のフクベ将軍など連合軍の最高幹部の人間

が会談を持つべく集結していた。

当然の事ながら、スペシャルズのマキビ・ハリ上級特佐、副官のユキ・キクノ弐級特佐、専属ガードの月臣元一郎

弐級特佐も同席することになる。

だがハーリーは密かに、この会談が連合軍ではなくクリムゾンの最高幹部が集結するものだと言う、ニセの情報

がコロニーを含めた全世界に流れるように工作していた。

 

 

「歴史はどう動くでしょうか?」

ハーリーの隣に立ち辺りを警戒しながら、月臣は問いかける。

「もちろん、ハーリーさまの望むままに」

ハーリーより先に、ユキが間髪入れずに答える。

が、ハーリーは首を横に振る、

「いいえ 連合しだいですよ、

 その結果 ボクがそれを正すかどうか     です」

「それが歴史、      ですか?」

月臣の言葉に、頷くと。

「さぁ、ボク達も行きましょう」

スペシャルズ特有の軍服のマントを翻し、ハーリーは会議場へと向かって行った。

 

 

 ゴォォォォォォォォォ ・ ・ ・

爆音を響かせながら、MS輸送機の編隊が夜の海を飛行していた。

パッと見には連合軍のノーマルMS輸送機だが、よく見ると全機にスペシャルズのエンブレムが刻まれている。

その中の1機に、白き精霊ラピス・ラズリ特尉が乗り込んでいた。

「ラピス特尉、ナイロビ基地から、我が編隊への問い合わせが来ております」

部下の報告に、ラピスはバイザーをかけた顔を上げて、

「演習だと伝えて、私達の編隊はモンバサ沖の上空でエアリーズによる模擬空中戦をおこなうって」

「ハッ!」

ラピスの言葉をナイロビ基地に伝える為に部下は通信機に向かう。

「まったく、ハーリーもこんな事がないように、前もって向こうに連絡してくれればいいのに」

既に、同じような問い合わせを山のように処理していたラピスは少々苛立っていた。

「また”お仕置き”?」

その横で、作戦ファイルに目を落としていたダッシュが苦笑いを浮かべてラピスを見る、はじめは面白がって

手伝っていたが、最近ではハーリーが気の毒に思えて仕方ない。

「モチロン♪

 それより、ダッシュ 疑問の残る戦いになるけど・・・いいの?」

「それを言うんだったら”貴女こそ”だよ」

「私? 私は・・・

 この戦いが必要と命令が出れば、戦うだけ」

少し戸惑った様子を見せたが、直ぐに言い切る

「だけどっ」

「前線の雇われ軍人に、拒否権は無いよ」

「・・・ 【ラピス もっと、心を開けないと駄目だよ、君は秘密を造りすぎる】」

バイザーで顔を隠しているため、何を思っているかわからないラピスの横顔を見ながら、ダッシュは心の中で

つぶやいた。

【連合とクリムゾン、たとえ入れ替わってもなにも変わらない・・・なら、どうして貴方はここに居るの?】

もう1人の自分に語りかけながら、ラピスは作戦開始の指令が来るのを静かに待った。

 

 

ニューエドワーズ基地 大会議場

壇上では最高司令官であるグラシス元帥が、集まった連合軍首脳部に向かって熱弁を振るっている。

「そもそも、連合軍は世界各国の軍事力に対する抑止力として設立された!

 だが今では、我々が世界を脅かす軍事力その物なのではないか!?

 軍備拡張、新兵器の開発にもはや労力をかける必要は無い!!

 ・・・そうする事が、連合の取る正しき道でわないのか」

「つまり、軍縮をしようって事?」

グラシス元帥の意外な発言に、ムネタケ将軍が否定的な声をあげる。

「いや 軍縮は始まりに過ぎない、最終的には軍備その物も解除しなければならないと、私は考えている」

グラシス元帥の提案に、会議場全体にざわめきがが起こる、肯定的否定的両方を含めて。

「そうだな」

「フクベ将軍?」

ムネタケの隣に座っていたフクベ将軍が、重々しく口を開いた。

「かつて我々は、多くの血を流した・・・流さなければならなかった、統一の理想を実現させるために、

 ・・・だが いつの間にかに、その目的がすり替わってしまった、

 流血の時代はもう終わらせねばならんだろ、ムネタケ」

ムネタケに諭すようにフクベ将軍が言うが、

「終わらせれるものならねぇ」

一瞬 フクベ将軍を見下すようにして、グラシス元帥に視線を向ける。

「だけど、最近の一連の事件はなんなの!? 宇宙でしか精製できないって言うナデシニュウム合金製の

 モビルスーツの攻撃はどーするの!!

 地球は今、その圧倒的な力の前に危機に晒されているじゃないの!!」

ヒステリックに叫ぶムネタケ、その意見に何人かの将校が頷く、

「実際戦った、スペシャルズはどう考えているの」

いきなり話の矛先を向けられたが、ハーリーは戸惑う事もなく、

「コロニー側の破壊工作だと考えています」

ハーリーの発言に、再びざわめきが広がる。

「ハーリーさま?」

ムネタケを援護するようなハーリーの発言に、ユキが声(小声だが)を上げる。

計画では、この会議はコロニーとの和平を選択する方向にならなければならない、

「連合の役者が必要、と言うことだ」

ユキの疑問に、ハーリーではなく月臣が答える。

「連合の・・・役者?」

「ああ、連合の本音を語ってくれる役者がな」

「・・・そう言う事」

月臣の言葉に納得したのか、静かにハーリーを見る、視線に何か妙なものまで混ざっていたがこの際気にし

ない。

「コロニー側が、我々に対して不信感を抱くのも仕方ない事だと思ってもらいたい!

 その不信を拭うためにも、我々は彼らとの対話を早急に始めなければならない!!」

「同感ですな、人類の新たなる歴史を対話で始めようではないか」

グラシス元帥の言葉に続きフクベ将軍も、和平を後押しするように集まった将校に向かって言う。

「コロニーとの問題だけではない、私は全世界においても同じ対話を始めなければならないと考えている」

 ワァァァァァァァァァァァ ・ ・ ・

演説を終えたグラシス元帥に、会議場全体から歓声と拍手が送られる。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!

 だったら、あのモビルスーツの問題はどーするのよっ!!」

歓声を遮るようにしてムネタケが叫ぶが、

「我々の和平への意志を知れば、コロニー側も破壊活動の意味を失う、

 語り合おう、さすれば見失った道もまた見えてくる」

再び起こる歓声と拍手、それに押されムネタケも黙り込む。

その歓声の中、

「・・・やはり、歴史は間違った方向に進もうとしていますね」

「 ・ ・ ・ 」

月臣のつぶやきに頷くハーリー、

「それでは?」

ユキが膝に乗せていたケースを、開けようとするが。

「ユキさん、それはまだです まだ最後の役者がそろっていません」

ハーリーがそれを制する。

「最後の?   ナデシコですか」

「そう言う事です」

そんな彼らの会話は、歓声の中に掻き消されていた。

「それでは議題内容を、和平案に向けての具体案に・・・・・・」

 グォォォオオォォオォォオォォオォ・・・

突如、会議室全体が振動に包まれた。

「な、なんだ! いったい何事か!!」

振動で倒れないように踏ん張りながら、グラシス元帥が叫ぶ、

『元帥! 敵襲です!! この基地が敵に襲われています!!』

正面のモニターが開き、基地指令が映し出される、続いて外の状況。

「こ、これは!?」

そこにはバード形態で向かってくるウイングナデシコの姿が映っていた

 

 

 ドウッ ドウッ ドウッ ドウッ!   ゴガァァァァン!

リィオー部隊から狂ったように放たれる、対MS砲の直撃を受けウイングナデシコが地面に叩き付けられ、舗装

されたコンクリート上を滑走する、

「くぅっ」

墜落の振動に耐えながらルリはバード形態からMS形態へと変形させ、

 ヴィィィィィィン・・・     ギシッ

 ドウォォォォォォォォォォォォォ・・・

起きあがり様に、バスターライフルをリィオー部隊に向けてトリガーを引く。

直径数十メートルのビームの奔流が容赦なくリィオー十数機を飲み込み、蒸発させた。

 ガガガガガガガガッ!!  ズガガガガガガガガガガッ!!

しかし、そんな事はお構いなしに基地防衛部隊は攻撃をかけてくる、

 バシュゥ   ゴォォォン!

バスターシールドの直撃を受けたリィオーが爆発する、が1機減ったところで大差は無い、

「半端じゃないぜ、この防衛ラインは!!」

リョウコが今まで見たことが無いほどのMS部隊を前に、つぶやく。

クリムゾンの首脳が集結しているのだ(と、ルリとリョウコは思っている)、これだけの警備がついているのも納得

できる。

辺りを見回すと、この辺り一帯を埋め尽くすほどのリィオーが、これ以上は無いほどの濃密な弾幕を張ってい

る。

「普段の10倍以上・・・ 予想数値を遙かに上回っています」

ルリも予想外の数に、驚きの声をあげる。

「今日は後には引けないんだっ」

接近してきたリィオー部隊に飛び込むと、ビームサイズ一閃させ返す刀でもう1機切り裂く、

「数をそろえたって、オレ達は止められないぜ!!」

次々とリィオーを切り裂きながら、ナデシコデスサイズは防衛網を突き進んで行く。

「戦況分析、有効なヒットポイントは ・ ・ ・ そこっ!」

1番MSが密集している所へバスターライフルが放たれ、地面を抉りながら数十機が再び蒸発する。

 ガゴォォン!!

「きゃぁっ」

バスターライフルを放った直後の僅かな隙に、直撃を受けウイングナデシコがバランスを崩すが、

「まだですっ!」

倒れないように踏ん張るとバスターライフルの最後の一撃を放つ(バスターライフルは3発のみ)。

弾切れとなったバスターライフルを捨てると、シールドからビームサーベルを引き抜く。

「進撃に時間がかかりすぎるっ」

焦ったようにつぶやく、既にリョウコとあわせて50機近いリィオーを破壊したがまだ半分にもなっていないし、

基地施設までの距離も縮まっていない。

シールドを構え、銃撃をかわしながら接近するとリィオーを上下に分断する、

「突撃あるのみぃぃぃぃ!!」

リョウコがナデシコデスサイズがスラスターを全開にしてリィオーの壁を突破しようとするが、途中で地面に叩き

落とされる。

「こなくそぉぉ!!」

ビームサイズを振るい、リィオーを切り伏せると体勢を立て直し、再び突破を試みる。

 ドガァァァァァァァン!!

また1機のリィオーが砕け散った。

 

 

 

 

 

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