逆行者+突破者

第十八話「死者−無情」

 

 

 ………深い意識の海から、

 浮かび上がるように私は目を覚ました。

 

 

「あう〜〜、だるい〜〜〜」

 

「あたりまえよ。一体何時間寝たと思ってるの?」

 

「それは言わないで〜、イネスさ〜ん」(泣)

 

 北辰の襲撃からやっと目を覚ました私は、

 寝ている間の事をイネスさんから聞いている所だった。

 

 

「………なるほどね、結構色々有ったんですね」

 

「ええ、だから今、ベッドがいっぱいなの。

 あなたが起きてくれて助かったわ」

 

 私の隣りにはアキトくんと不幸の友の会(ハーリー、ジュン、ゴート、カズシ)

 が揃って寝ていた。

 ……ある意味、いやな風景だね。

 

「そんで、メティちゃんは私のベッドに突っ伏してるし」

 

 なんでもアヤトが余計な事を言ったために、

 ずっと見張っていたらしい。

 まったく、純真な子を騙すんじゃないってのに。

 

「そんじゃ、メティちゃんは私が運んでいきます」

 

「ええ、そうしてくれると助かるわ。

 しばらく医療室使えなくなるから」

 

 そう言ってイネスさんは注射器を出した。

 うわ!その色はやばいって。

 下手に居座ってたら問答無用で処理されかねないね。

 

 私はメティちゃんを抱えて足早に医務室を去った。

 

 

 

 

 僕は目的の人物を見つけて声をかけた。

 

「どうも初めまして。タカスギ サブロウタさん」

 

「ああ、アヤトくんだったね。初めまして。

 もっとも、君の噂はよく耳に入っていたけどね」

 

 タカスギさんの言葉に苦笑いを浮かべる。

 どうせ、ろくな噂じゃないんだろうな。

 

「まあ、君の詳しい事情は、さっき艦長から聞いた所だから」

 

「艦長?………、ああ、ルリさんのことですか。

 それなら話は早いです。一つ質問が有って来ましたので。

 ………天狼 深雪って人の事なんですけど」

 

 その言葉を聞いて、タカスギさんは難しい顔をした。

 

「彼……か。正直、俺も詳しい事は知らないんだ。

 知っている事は彼が雑用から暗殺まで色々やっているっていう事。

 それと……一回目では特に彼の名前は出てこなかったという事。

 これぐらいかな、知っている事は」

 

 雑用から暗殺まで……か。

 それにタカスギさんの口振りだと付き合いやすい相手ではなさそうだ。

 

「なんでも戦ったそうだね。

 どうだった?戦ってみた印象は」

 

 僕はわずかに顔をしかめる。

 

「嫌いですね。とりあえず今はそれだけです」

 

 どうせ深雪は、また僕の前に立ちふさがるだろうから。

 

「実力では北斗殿や北辰殿の次の彼を相手にして、

 そこまではっきり言えればたいしたもんだ。

 あ……っと、そういえば医療室に行こうと思ってたんだ。

 じゃっ、たいした情報無くてすまんね」

 

「いえいえ、こちらこそ。

 でも、医療室になんのようですか?」

 

「いやなに、ちょっと戦神さんに文句の一つでも」

 

 瞬間、僕の顔がひきつる。

 

「そっ、ですか……気をつけてくださいね!

 じゃっ、僕はこの辺で!」

 

 すかさず、僕はタカスギさんと別れた。

 すいません、タカスギさん。

 でも、ナデシコの通過儀式だと思って諦めてください。

 僕も通ってた道ですので。

 心の中で形だけ、謝っときます。

 

 

 

 

 

 ナデシコは月に到着し、アキトはアリサさんとデートのようだ。

 そして俺は………、

 

「こちら『両刃』、ターゲットは特に異常なくデートを進行中」

 

 ……その二人の監視をしていたのだった。

 

 

 

 なんでも、アキトの慰安に一人付き添いを出したのはいいが、

 それでより親密になっては困ると言う某同盟から依頼されたのだ。

 まあ、報酬も良かったし引き受けたのだが、

 

「こら、そんなに近づくな。

 十メートル以内に入ると見つかるぞ」

 

「わ、わかってるわよ、そんなこと!」

 

 なぜかメティスと二人一組で行動する事になった。

 なんでもその方が目立たないらしいのだが、

 言ったのがファルなので、いまいち信用ならん。

 

「しかし、女の嫉妬ってのは怖いよな」

 

 現に俺達以外はさっきから凄まじい嫉妬の視線をアリサさんに送っている。

 

「そうだね。私はちょっと引いちゃうな」

 

「…………おまえね。何、他人事みたいに言ってるんだ。

 おまえだって、アキトを狙ってる一人だろうが」

 

 まったく、やる気有るのかね。

 少しは他の人達を見習えっての。

 

「えっ!?あっ、まあ、それは……そうだけど

 

 ?…………、変な奴。

 

 

 

 

「そういえばさ」

 

 喫茶店の前で張り込みしていた時に、

 メティスが飲んでいた午後ティーを置いて話し掛けてきた。

 

「ツバキの方は、その………どうなのよ?」

 

「どうって、なにが?」

 

「いや、だからその………好きな人とかさ………居るのかなって」

 

 …………何をいっているのだろう、こいつは。

 

「別に居ないよ。

 大体、恋愛沙汰自体が苦手な部類だからな。

 はっきりいって、今の所は興味ゼロ。

 まっ、こうやって高みの見物してる分には面白いけど」

 

「………でもさ、前に初恋がどうとか…」

 

 ガスッッッ!!

 

「……って、何、頭を電柱にぶつけてるのっ!!」

 

 …………お前のせいだ、お前の。

 

「…………よかった。ターゲットには気付かれて無いみたい」

 

 ………頭ぶつけたこっちの心配は無しか?

 

 とりあえず、気持ちを落ち着かせる為に、

 置いてあった午後ティーを一気に飲み干す。

 

「あのな、まず前提条件としてファルの言う事は信じるな。

 その上で言うがな、アレは恋っていうよりかはむしろあこがれに近くて、

 しかも相手がかなり特殊な奴だったんだ、だから一般的な初恋とはかなり違う、

 だからして、もうこの話題には触れるな」

 

 早口で反論する間も無く言い切ってやった。

 

「…………わかったけど、じゃあツバキって恋とかしないの?」

 

「さあな、今までがそうだっただけで、これからもそうとは限らん」

 

 あくまで可能性としては、だがな。

 

 

 

 

 しばらく監視していると不審人物を発見した。

 

「こちら『両刃』、ターゲットの近くに不審人物を発見しました」

 

『おそらく某組織の構成員です。

 即刻、排除してください』

 

「ラジャー、っとそんじゃいくぞ、メティス!」

 

「オッケー!!」

 

 エンタイトルツーベース君を取り出し、

 一般人に被害が出ないように構えて、

 

「魔神剣!!!」

 

 ついでにメティスが、

 

「刃拳!!!」

 

 ズガァァァァァァンン!!

 

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 よしっ!排除完了!!

 

 

 

 

 だが、調子に乗って某組織を排除していたら、

 いつのまにか、アキト達を見失ってしまった。

 うーむ、物量作戦にしてやられたか。

 もう時間も遅くなってしまった。しかたない、帰るか。

 

「おーい、メティス。そろそろ帰るぞ」

 

「うん、そうだね」

 

 二人で肩を並べて帰り道を歩く。

 

「まあしかし、むやみに疲れる一日だったな」

 

「でもなんか楽しかったよね。人を監視するなんてやった事無かったし」

 

 普通はやらないもんだぞ、監視なんて。

 

 

「…………あの……さ、なんか私達も、デートしてるみたい……だった、よね?」

 

 ………………なにを顔、赤くしていっているんだ、こいつは。

 

「まあ……、そう見えなくも無いかもな。

 もっとも、俺がアキトの代わりですまんがな」

 

「……………………」

 

 んっ、なんだ?

 いきなりメティスが、こっちの手を掴んできた。

 

「………アキトお兄ちゃんの代わりなんでしょ。

 だったら、手ぐらい…繋いだっていいじゃない……」

 

「…………まあ、別に構わないが」

 

 なぜか、妙な雰囲気に包まれながら、

 俺達は手を繋いで帰った。

 

 

「そういえばさ」

 

「ん?」

 

「………やっぱりその黒服、似合わない」

 

 ………………………うるさいやい。

 

 

 

 

 

 バチィィン!!

 ガキゥィィィン!!!

 

 アキトのDFSを何とかはじき返し、

 こっちの体勢を立て直す。

 

 

 アキトと俺の一対一勝負。

 もっとも、アキトはブラックサレナではなく、

 DFS付きのノーマルエステで戦ってる。

 もちろんこっちもDFSで対抗してはいるんだが、

 同機体、同装備ではモロに技量差が出てしまう。

 実際、アキトの的確なヒットアンドアウェイ攻撃で俺は防戦一方だ。

 

 漆黒の機体が迫る。

 初撃を受け止めず右にかわす。

 だが、アキトの返す刃は正確に俺のかわした方に向かう。

 

 バチィィィン!!

 

 かわしきれず受け止める、がっ!

 そこから怒涛の連撃っ!!一気に決めるつもりかっ!?

 しかしっ!こっちにも切り札はまだ残っている!!

 

「ひっさぁぁぁぁぁぁつ!!!!二刀流っっっ!!!!」

 

 左手に隠し持っていたもう一つのDFSが唸りをあげてアキトに迫る!!

 

 だがっ!!

 

 その攻撃をまるで読んだようにアキトはあっさりとかわす。

 そして、大振りな攻撃で隙だらけになった俺を、

 アキトは、情け容赦なく切り裂いた。

 

 

 

「あ〜あ、また負けた〜〜〜」

 

 バーチャル・エステバリスのコックピットから抜け出しながら僕は愚痴をこぼす。

 

「でも、どっちも確実に強くなってるよ。

 短所を補いつつ長所も伸ばしてるからね」

 

 アキトさんはそう言って慰めてくれてくれるけど、

 

「一撃も入れられない状態じゃ何言っても無駄ですよ」

 

 ほんと、こんだけやって汗一つかいてませんし。

 

「そういえば最後の攻撃、どうしてかわせたんですか?

 確実に意表を突いたと思ったのに」

 

「ああ、簡単な事だよ。

 俺も同じ戦法考えてたからね」

 

 うわっ、ネタかぶりだったとは。

 ……まあ確かに、二刀流自体は珍しくも無いですしね。

 使えるかどうかは別として。

 

「まっ、次は専用エステが来てからですね。

 そうすれば、もうちょっと善戦しますよ」

 

 あれが来れば、なんとかね。

 

 

 

 

 

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