第2部プロロ−グ

聞こえてくる、あの女の苛立ちが…………。

狂気と正気の狭間で己を見失っている女の声が………。

『俺は………!!………の……愚息よ!!』

俺の記憶に刷り込まれた女の狂気の記憶が……………。

『殺してやる………いつか貴様を………!!』

狂わんばかりの憎悪をたぎらせた女の記憶が………。

『クックックックックックックック………雑魚が!!』

俺と良く似た心を持つ女の記憶が………、俺を苛む。

俺の中にあるこの女の記憶は…………殺戮と破壊……血の化粧で彩られたものしかない。

幼い頃………この記憶を移された時、恐怖しかなかった。

もしかしたら。これが前世かもしれない………。

そう思った事もある。

そう思い良く怯えていたものだ。

だが、裏の訓練をして行くにつれ……その記憶が馴染んでいった。

最後の訓練をした時には……そうだな。

この女と同じ笑みを浮かべていたのかもしれない。

その女は特に、一人の男の顔を思い浮かべた時、良くその笑みを浮かべていた。

そして二人の女の顔を思い浮かべるとき、安らぎを見出す。

最後の一人………壮年の男の顔を思い浮かべるとき、嘲りと侮蔑の感情が浮かび上がっていた。

会話も思い浮かべる事も出来る。

思い出すのではない。

浮かべる事が出来るのだ。

これは俺の記憶ではないのだから…………。

しかし奇妙な事に、名前だけが聞こえない。

どんな記憶を浮かべても、名前だけは聞く事が出来なかった。

夢の中では、俺は何時も必至に、呼び掛ける。

『誰だ……貴様は誰だ!!俺と同じ顔の貴様は誰だ!!』

呼びかけども呼びかけどもその声は、夢の中にこだまするだけ………。

記憶はあちこち飛びながら、俺の前に姿を見せる。

苛立ち    期待    恐怖     

それらが、俺の心の中にざわめき立つ。

『誰だ………小さい頃から俺の中にいて……変わらずに俺の頭の中に這い回る貴様は!!』

何時もはそこで目が醒めていた。

だが……………。

『そんなに知りたいのか?』

睨みつけるような、目をした女が俺の目の前に立っていた。

黒いドレスを着ている。

其れに真紅のような髪が良く映えていた。

そこに誰からいたのならば、見惚れていたかもしれない。

だが、それは戦慄を伴う陶酔だろう。

その美しさは、磨き上げられた鋭い刃のそれに等しいものであり、華やかさはない。

その女から聞こえる声は、普段から良く聞きなれた声より、少し高い程度のものだった。

そして、刃のような鋭さも持っていた。

『知りたいのならば……何時でも教えてやる。耳を塞がずに良く聞く事だ。』

『耳を塞ぐ………誰が………。』

『自覚すらないとはな…………。まあ仕方が無かろう………自分に自信が無いお前の事だ。

 聞けばその名にのみ込まれるのは確実だ。』

『じ……し………ん?』

何時の間にか、俺の後ろに回りこまれていた。

後ろから囁く。

だが体が思う様に振り向けない。

声だけが聞こえて来た。

『自分が今誰なのか………お前は分かっているのか?』

『俺は……刹那…………と戦神の血を継ぐもの……。』

!!

声が………でない………。

馬鹿な……………真紅………が出ない。

『戦神と誰だって?』

溜息をつく様にして、俺に聞く女。

『だから………………!!』

二人の名前が……出てこない?

そんな…………。

『言うのが怖いのか……それでは聞けるはずが無い。さあもう一度聞くぞ……お前は誰なのだ?』

『俺は……………。』

俺は………刹那だ………。

『ほ……く……と………』

その名を聞いたとき、その女の顔に笑みが浮かんだ。

ニヤリ……と表現するのが相応しかろう。

それほどに凄絶な笑みだった。

そしてその瞬間……何かがはじけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

がばっ!!

「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ………。」

何時もの部屋………。

十畳間の何時もの部屋か。

汗で、服がへばりついている。

(ちなみに彼女の服装は、上半身白いシャツに、したズボンという格好です。)

また……あの夢か………。

くそっ!!

夜に雨なんぞ降るからだ!!

何時も見る……あの夢を………。

「研究者共め!!もう少し、苦しみを長引かせて吐かせれば良かったか。」

自分の短絡思考に、つくづく愛想が尽きる。

俺が殺した親父がスポンサ−をしていた、ある研究所でこの女の記憶を刷り込まれた。

最初ははっきり区別できていた。

今では………意識をしっかり持っていないと、それに取りこまれそうに成る。

そこであの修行だ。

たやすく心が崩壊した。

その礼として、四宝家―『朱雀』『玄武』『白虎』『青竜』の四家でその内『玄武』『白虎』は、

表に出て、銀河でも有数の多くのジムや道場を経営している―の長になった時に皆殺しにしてやった。

この女がちらつく度に、心がざわめく。

『テンカワ』の名を聞くときと同じざわめきだ。

コロセ

キリキザメ

ニクメ

ツブセ

その内自分自信を、切り刻みそうだ。

なんせ……俺も何故か、テンカワの名を持っているのだから……。

「こんな顔で……朝餉に出るわけにもいかぬな……・。」

ふと……外を見る。

まだ朝も空けていない………5時ごろか。

あの夢の後は、目が何時もさえ渡り、いっこうに眠れなくなる。

仕方が無い、少し体を動かすか。

寝床を後にし、俺は道場へと歩いていく。

途中で、水月の当たりが、痛んだ。

あの男にやられた場所がまだ痛い。

後で、ナオキに聞いた所、古式という技らしいが………。

「今度は………絶対に這いつくばらせてやる。」

あの技に少し興味を持った。

当身の類だろうが………本気を出していないのは明白だ。

しかし其の時、それと同じぐらいに大事な事を思い出した。

「ナオキといえば……また、何処かに行くみたいだが……。」

そうはさせるか………。

「暫くは……サトの側を離れなれない様にしてやる。」

ようは、宇宙に行く手段が、無くなれば良い訳だから……。

明案が浮かんだ俺は、それを練り上げる為に、道場へ急いだ。

体を動かすと、俺の場合良い知恵が浮かぶ様だ。

その計画により、あの男と再開する事を俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

そこ『地球』より250光年離れた場所にある、惑星『フロント』の首都タウのある喫茶店で、

三つ網をした黒髪の女が、窓際に座って紅茶を飲んでいた。

少しそばかすが残ってはいるが、男性十人中5人は振り向き、3人は「あ、いいな。」

と思うかもしれない。

そのぐらいの顔立ちはしている、女であった。

但し、胸が少し寂しいが……。

(馬鹿作者………余計な注釈は死因の元ですよ。)

…………(汗)。

まあ、そんな彼女が、誰かを待っているのだろうか、外の景色を眺めつづけていた。

時々何か考えが浮かんだが、それも次の瞬間にはすぐ忘れる程度の物でしかなかった。

そんな事をしながらしばらく、ぼお〜〜〜〜〜〜〜と外を眺めていたが、

一時の鐘の音を聞くと自分のバックから、電話を取り出した。

何処かに電話を掛けると、出るまでの少しの間、鼻歌らしきものを歌い始める。

しかしそれも、相手が出るとあっさりと止めて、底抜けな明るい声で相手に向かって喋り始める。

「もしも〜〜〜〜し!!トレラちゃん元気?あ・た・し解る?」

『…………!!ね………姉さん……ぶ……無事だったのね……よかったあ。』

息を呑む音の後には、何処か上擦った安堵の声が耳に入った。

「そうですよ………。

 貴方のお姉さんの、メグミ=レイナ−ド=アステック=フヨウ=テンカワだよ〜〜〜〜。

 安心した?ちょっと今画面が送れない場所にいるの。声だけで御免ねえ………。」

その声は、安心させるためというよりか、ただ明るいだけというように聞こえる。

しかしその彼女のその言葉に、同調する様に言葉が返って来た。

『も………勿論よ……。だって、姉さんのアパ―ト爆発したって聞いたから………。』

「あれあれ?おかしいね………あたし、住んでいる場所貴方に、教えた事無かった気がするけど?」

『そんな物調べれば一発よ。顔が利かなきゃこの業界、やって行けないわ。』

「そうか………あたしの名前で調べてくれたのね?」

彼女は念を押すように、しかし聞き流す程度の声の調子で、問い返した。

『も………勿論、けど姉さんの名前って、結構多いから、大変だったみたいよ。』

その言葉を聞いて、ますます顔の笑みを深くする。

「そっか嬉しいな♪じゃあ、ご褒美上げちゃうね………。

 多分気にいると思うけど…………受け取ってくれる?」

『どんな物?』

本当に嬉しそうな声に、トレラといわれた女性も、安心したのかつられて楽しげな声で聞き返した。

少々引きつってはいるが…………。

「実はもう送ってあるんだ。本当は誕生日に、送ってあげれば良かったのだけど……。」

『え?本当に?でも、私の所には今、何処からも送られてきていないって……。』

「『夢から醒めなさい』」

その声は、今までの声とは対極的に、とても暗く冷たかった。

その声を聞いた瞬間、受話器を取り落とす音が聞こえた。

それを聞いた後、妙に艶かしい声で、受話器に声を吹きこむ。

「…………それじゃ、会えたら会いましょう………。」

そう言って電話を切ると、それをあっさり握りつぶす。

「御馬鹿さん………。

 あそこを借りていたのは、アルティシア=カ−ザスっていう、

 小さな劇団の女優なのに……………ね。」

この惑星の外側にある惑星『フィン』には、そこそこなの知れたある小さな劇団あり、

そこにメンバ−として在籍していた彼女は、その名前で姿と声、指紋も変えて生活していた。

そして、裏世界御用達の網膜パタ−ン変調コンタクトをつけて行動していたという徹底振りだ。

誰も気づくものはいなかった。

いや、気づかせなかったのだ。

それほどまでの、演技力を彼女は持っていた。

「やっぱり、大女優の代役を遣ったのが失敗だったみたい………。

 E・Jの奴、見つけたらただじゃおかないからね!!」

あの時彼女の部屋で焼死体となって発見されたのは、彼女の友達だったのだ。

同じ体格だったし、同じ劇団で初めての友達だった。

彼女のアパ―トは、劇場の近くにあったので、時々部屋を貸していたのだ。

まさか、そんな時に爆弾を送ってくるとは夢にも思わなかった。

(私が、もっと早く帰っていれば………。)

悔やまれて成らなかった。

そうすれば彼女は、死なずに済んだかもしれないのだ。

彼女は、その劇団の女優の傍ら、時々副業として代役を遣っていた。

しかし今回は、暫くその副業から離れて、劇に集中したかったのだが………。

ある事件で知り合ったハンタ−のE・Jと名乗る男に、見つけられてしまったのだ。

『こちらも商売柄、鼻が利くんでね。良い演技をする女優がいるって聞いて、ピンと来たのさ。』

『あなたねえ…………。』

呆れたとでも言いたげな声で、声を出す。

『あたしは今、代理女優をしていないの……そこのとこ分かってる?』

『そこをなんとか……人助けだと思って……お願い!!』

手もみだけならまだしも、土下座までされちゃ、無碍には出来ない。

3時間後、根負けした彼女が、不承不承承知する事となった。

不意に周りが騒がしくなり、彼女は思考の世界から抜け出した。

「おい。何があったんだ?」

「アステックビルの屋上から、飛び降り自殺した奴がいたんだってよ。」

「本当かよ、おい!!」

「本気!!本気!!」

「一体誰が………。」

「なんでも、女らしいぜ………。」

「アステックて言えば、芸能界では、かなり大手の会社じゃないの?」

「大御所だよ。あそこに睨まれた事務所は、悉く潰れたって聞いてるぜ。」

「結構有名な、歌手や女優を輩出しているところで銀河でも指折りよ。」

その様な事を聞いていると、何故か可笑しさがこみ上げてくる。

少しぬるくなった紅茶を啜りながら、彼女はボソリと呟いた。

「トレラ……貴方って、意外とロマンチストだったのね。鳥になる夢でも見たのかしら?」

、と………………。

「いやあ、超能力者とでも思ったんじゃないの?」

突然後ろから、何処かふざけた声が聞こえて来た。

その声に振りむかず、冷たい声を返しただけだった。

「あら?丁度貴方に聞きたいことがあったのよ。いいかしら?」

「はいな、はいな!!可愛いお嬢さんの奴隷ですよあたしゃあ。なんでも聞いて頂戴な!!」

彼女の前に現れたのは、底抜けに明るそうな表情をした、短くして髪をつんつん立てている、

26・7の青年だった。

「E・J…………貴方、もう一つ依頼を受けてたんじゃないの?

 あのくそ女優との依頼の他に………それとも………。」

やっぱりか、というような顔をしてその男―E・J―は口を開いた。

「本当に、ごめん!!まさか彼女が、あんなお喋りだとは思わなくてさ。

 何て言うのかな?この頃のガキって、危機感って物がなさ過ぎて困るよね。いや本当に……ね?」

そう言って、何度も平謝りしてくるその男を、彼女は無表情のままずっと見つづけていた。

「それにしても、今回の映画、あれ本当に良く出来てるよ、うん。

 『永遠なる愛の為に』の上映中、映画館がどんな状態か知ってる?」

「興味無いわ………他人の映画なんて。」

「またまた、ヒロインの『ナタリ―』を君の『ジェニ−=レ−ン』が演じているんだぜ?

 映画の評論家どもはこぞって、『ついに神の領域に彼女は辿りついた』だってさ。

 満員御礼状態ですがな。」

「それよりあの頭の軽い女、何処にいるのかな?教えてくれると嬉しいな♪♪」

ニッコリ笑いながら、彼女は聞いてくるが、彼にはそれが脅迫にしか聞こえなかった。

「か……彼女なら………、今まだ愛人と一緒に、旅行中だけど…………。」

「へえ………優雅ねえ………。

 本当に彼女プロの女優ですか?何か、我侭娘にしか見えないのですけど。」

口調が丁寧に成って来た。

しかし、何処か無邪気で話す仕草は相変わらずだ。

益々ヤバイ……………。

(あ〜〜〜あ………知らないよ俺…………。)

これであの子も、ダイビングかな?

そう思うと、背筋が寒くなる。

(それにしても、本当に怖いよ彼女…………。)

普段彼女は、本当に目立たない。

美人なのに、周りに何時も溶け込むように存在を隠す事ができるのだ。

一種の才能だろう。

そして頭も良い。

笑顔で笑いながら、悪辣な策謀を難無くやってのける。

(悪女とはこういうものなのだろう。これに比べれば、あの子の謀略なんて、子供のお遊びだな。)

冷汗をかきながら、なおも彼は笑顔を崩さない。

ここら辺は、たいしたものである。

「聞きたい?じゃあ、場報料として、一万ドルか、ベッドで一戦…………。」

そして、商売熱心だった。

お前ハンタ−じゃなかったのか?(「世の中……銭が一番強いのさ!!」)

一戦は?(「一々五月蝿いな!!気に入った女に声を掛けるのは男の義務だゾ!!」)

変わった声の掛け方だな………。

多分そんなナンパのしかたしたら、だれもついてこないと思うぞ…………俺は……。

(「したこともねえ、奴が言える台詞かああああああああああああああ!!」(怒))

「ベッドで一閃されたい訳?変わった趣味ですね。」

彼女のその笑いに一瞬、冷たい何かがかすめた気がした。

「……いえ……何でもありません。」

(字………字が違う………。(汗))一度一閃されてみれば?

(「俺はもっと平凡に死にたいの!!」)

「冗談ですよ………ハイ情報料……。」

そう言って、彼女は五千ドルを渡す。

それにしても、E・Jよ、意気地が無いなあ…………。

(「お前は如何なんだよ!!お前は!!」(怒))

「…………あの……………後五千は?」

でもがめついんだね………。

(「……………ほっとけ。」)

「これは前金、後の報酬は、私が聞いて、有益な物だったら、払ってあげる。」

「じゃあ、話さないって言ったら?」

「其の時は………貴方の手が、切れちゃうだけですよ。」

「!!」

その言葉に、慌てて手を確かめる。

そこには、幾重にも張り巡らされた、ワイヤ−が、かかっていた。

その先っぽが、心臓のある位置にくっ付いている。

「メグミ式『嘘発見器』。心音でワイヤ−が動いちゃいますからね。では、どうぞ。」

如何言う原理なのだろう?

(「貴方がそれ言って如何するんですかア!!」(怒))

「…………。」

(この子を恋人にした野郎って…………奈落の人生決定ですかね?)

何故かそんな事を考えながら、正直に彼女に話した。

安心しろ!!すぐ会えると思うぞ………。

「彼女は、惑星『サン・ブル−ス』の、ゴ−ルデンコ−スト・ビ−チにいるよ。

 後一ヶ月は、いるんじゃないかなあ。」

「ふうん。」

それを聞くと、彼女は紅茶を全部のみ干し、席を立った。

「それよりもさ。世間では、君が死んだ事になっているけど…………訂正しなくていいの?」

「あの子には、家族はいなかった……。

 知らない人でも、世話をしてくれる人がいたほうがいいでしょ?」

そう言って、もう一回微笑むと、そこから離れようとした。

「もう2・3聞いても良い?」

「手短にお願いしますね。」

「君の『絶対催眠』があれば、どんな人間だって思いのままだって言うのに、なんでそうしないの?」

「パス。」

「………………………………はい?」

行き成り質問を、パスされるとは思っていなかったのか、少し前につんのめった。

「な……何故に?(汗)」

「話すと長くなるから…………。次の質問どうぞ。」

そう言って、笑ったまま、彼女は聞いてくる。

(短くても答えられる物を…………かよおい。)

なんで突っ込まないの?

(「君子危うきに近寄らず…………それが俺のモット―なの………。」)

それ言ったら、お前仕事やってられねえぞ?

(「それはそれ!!これはこれなんだ!!」)

あっそう………。

まあいいや。

暫く考えて、また問いかける。

「嬢ちゃんは、彼女の名前で、生きていくのか?」

「ん〜〜〜〜〜〜。暫くは………だけど………。」

すこし、首を傾げるような仕草をしながら、彼女は答えた。

(注釈付きとは………、何か考えているなこれは…………。)

「んじゃ、最後の質問を………ここの払いは………僕ですか?」

何も答えず去っていったが、そこに残された伝票が、彼女の答えを明確に現していた。

「……………。まあ、ダイビングしないだけましか………。」

はははははは………それよりも多分君には苦しいんじゃないかな?

伝票を良く見た方が良かったぞ。

見ていたら、君はもっと気楽だったかもしれない。

それにはこう書かれていた。

『暫くは女の子の代わりに、年下の少年に、心をときめかせてくださいね(はあと)』

それを見なかったために、彼にとっては地獄の日々が始まったのだった。

彼は彼女に再び出会うまでには、精神状態がボロボロになっていた事はいうまでも無い。

イと哀れなり………。(「うるせ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」(泣))

「それよりもこのワイヤ−…………どうやって外そうかね?」

その質問した方が良かったんじゃねえの?

(「俺もそう思ったよ………うん…………。」)

 

 

 

そしてはたまた、そこより、50光年離れた惑星「トピア」にある洋菓子店

「フェアリ−・ウインドウ」と言う店の中には、テ−ブルを囲って、3人の人物が屯していた。

「へえ!!なかなかいけんじゃん!!」

陽気な声が、背の高いオ−ルバックの黒髪の青年から、発せられた。

「一流の洋菓子店でも、これほどの腕は無いぜ。」

その声を受けるように、それより少し背の低い少年が喋る。

「全くですね………。甘いのにくどくなく、生クリ―ムの重たい感じがしなくて、

 サラッと溶けるような感じがしますし…………。」

「惜しむらくは………。」

その言葉を遮る様にかつ受け継ぐ様に、最後の人物が、話しはじめる。

「ここの店には紅茶のサ―ビスが無く、こんな広いスペ−スを無駄にしている事ですね。

 持ちかえり専門の店よりも、其の場でゆったりと食べたいお客様もいるでしょうに……。」

そう言いながらも、何処か高そうなティ−カップに手をつける黒がかった銀髪・金目の女性が、

そう評した。

「……………それが、あつかましくもテ−ブルなんぞを店に持って来て、

 許可も無く屯ってる人間の言う事か………。」

その声を聞いた、シェフの服を着た男は、思いっきり渋い顔で、そう毒ついた。

「別に私の物を、何処でどう使おうと、私の勝手だと思いますが………?」

「ここは俺の店だ!!(怒)」

「怒鳴らなくても聞こえますよ………。全く店の品格が知れますね。」

思わず怒鳴ったその男の声に全く動じず、軽く肩を竦めながらヤレヤレと言った感じでそうかえす。

「貴様だけには言われたくない。」

青筋を立てながら、低い声でうめき声を上げた。

「大体な!!軍人がこんな真昼間から、商店街をうろうろしているんじゃない!!

 しかも制服でだ!!制服で!!」

「仕方ないジャン………まだ勤務中なんだからよ。」

怒鳴っているシェフの言葉に、のんびりと返すオ−ルバックの青年。

「余計駄目だろうが!!(怒)」

「そんな事言っても、戦艦が動かないのですから、仕方がありません。」

更に声をでかくして怒鳴りまくる男に、静かな声が聞こえてくる。

動こうが、動かなかろうが………動かない?」

「はい。」

一瞬キョトンとしたシェフの顔を見ながら、無表情でその女性も頷いた。

「動かないじゃなくて、動けないと言うのが、正解なんだけどね。」

飲み干したカップの手で掴む部分に指を入れて、くるくる回しながら、答えるオ−ルバックの青年。

「『ブラッド・メイデン』達が、今回から、僕達の部隊に配属される事になったのですよ。

 それで彼女達が、来るまでここで待っているように、命令されましてねえ。」

(『ブラッド・メイデン』…………この時代の優華部隊だと思ってください。

 しかし、一癖も二癖もある性格の持っている連中なので、

 扱いに困っていた所、同じくかなり性格が悪い(と思われている)

 ヒスイの部隊にお鉢が回って来た。

 ある任務の後、この星で合流する予定である。)

そういって、気の毒そうに、そのシェフを見ていた少し髪の長い少年が言った。

「それまで待機って事になってね、そんでついでだからって、艦の総整備もしようって事になって、

 ここに来た訳。」

もはや思いっきり寛いだ格好の男が、椅子にもたれ掛かって、その後をついだ。

「…………何で俺の店なんだ?喫茶店なら、他にも沢山あるだろうが!!

 しかも、俺は貴様らのことを知らん!!」

「とは言わせませんよ………『ラブリ−・サイトウ』さん…………。」

その名を聞いた瞬間、そのシェフの動きが一瞬止まった。

「…………誰だ……その男は……全く聞いたことが無いな。(汗)」

明後日の方向を向きながら、言い訳するのは思い当たる事がある証拠です。

皆さん気をつけましょう。

(「さすが、経験者………良く分かってるじゃないか………。」)

……………。(汗)

そして、何を思ったのか、懐から、何やら取り出し始める。

掌に収まるほどの小さい、レコ−ダ−の様だ。

カチリ、と言う音と共に、良く聞いている声が、そこから聞こえ始めた。

『俺の事は『ラブリ−サイトウ』と呼んでくれ。』

その瞬間、何かが彼女の腕から、それをもぎ取った。

ちなみに脂汗を垂れ流している男は、そこから動いてはいない。

しかし、彼の手には、こなごなに砕け散った、レコ−ダ−の残骸が、見受けられた。

「………マキビさん……今………腕のような物が、僕達の間をすり抜けて行きませんでしたか?」

「腕のような物じゃなくて、間違い無く腕だ。あそこからだと………4メ−トルは伸びたんじゃねえの?」

「……………。(汗)」

「ついにここも、人外魔境の世界に突入か………。短い平和だったなあ………。」

「平然として、そんな事いっても、説得力ありませんよ!!」

「『慣れるが勝ち』さ。この艦長の下にいる事だし、速くお前も染まろうな?」

「……………そんな物……染まりたくありません!!(涙)」

「……………俺の先祖は、まともだとお前は言ったよな?」

「ええ……そうです。それが何か?」

「尊敬しているのか?」

「其れなりに…………。」

「なら見込みがない訳でもないか………。」

「な………何にです?」

「クックックックックックックックックックックック…………。」

「マキビさ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん(涙)」

 

 

 

とまあ、漫才のような物が、二人の間で行なわれている中、シェフと銀髪の女の会話?

(戦い?)は、続いていた。

「おや〜〜〜〜〜〜〜〜?壊れてしまった様だねえ……。

 珍しいから、ただ貸して欲しかったんだが………。まあ、仕方が無い、同じ製品で弁償するよ。

 中身は変わっちゃうかもしれないけど……。

 まあ、安いものでしょうあんなだみ声いりのディスクなんか。」

ざまあ見ろといいたげな声で、さわやかに言うシェフ。

はっきり言って、嫌な奴の一例である。

(「悪意なく遣る人間より………幾らかましだ!!」)

「いいえお気になさらずに……別に対した物ではありませんよ。

 お気遣い無く、軍の支給品ですから……。」

わずかに表情を和らげて、子供の悪戯を暖かく見るような目つきで、彼にそう返す彼女。

(「からかうと、面白いです。すぐいじける貴方と違って………。」)

…………(泣)。

「それに、まだコピ−は、沢山とってありますから………。」

そう言って、指で挟んだ、ディスクを彼に見せる。

「……何だと………。」

顔をひくひくさせて、うめくシェフ。

なんか声が変だ……。

「勿論写真もばっちりです………後で送り届けますよ……。」

《オモイカネ》

《………ご主人様………。》

《聞いたか?》

《聞きました。》

自分の相棒のその声を聞き、いくらか自分を取り戻したかれは、オモイカネに命令を告げた。

《全部破棄してしまえ……。》

《無理です!!》

あっさり即答されてしまった彼は、その言葉に再び固まる。

《何で!!》

《いくら私でも、クラッキング出来ない場所だってあるんですよ(泣)!!

 しかもなんか、身の危険も感じますし…………。》

「貴方の相棒さんがいくら優秀だからって、マシンチャイルド200人とオモイカネクラスのAI

 三千機には勝てませんよ。」

彼の心を読み取ったかの様に、ニィっと笑みを浮かべて、告げる彼女。

「貴様………こんな時にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…………。」

地獄の亡者でも、出て来そうな声で断末魔の絶叫を上げるシェフ。

(「まだ死ぬかあああああああああああああああああ!!」)

ああ、君死ねないんだったね。

失敬失敬。

(「貴様が作った設定だろうが!!」)

「サイズは、ポスタ−サイズから、ハガキサイズまで様々ありますけど………。

 おや?如何しましたか?ラブリ−さん?」

一瞬、本当に気が遠くなり掛け、倒れそうになった。

(ああ…………疫病神というのは、実は女の姿をしているのだな………。)

などと言う、埒も無い事を考えながら、意識を放棄し様としていた。

しかし………

「あの〜〜〜〜〜〜〜。」

別の人間の声に、意識を一気に覚醒させる。

「いらっしゃいませ。お客様。如何言ったご用件で?」

とても爽やかな声で、爽やかな笑顔を作りながら、入って来た女の客に笑いかけた。

「……………。(ボッ)」

その顔を見た瞬間、その女の人は、一気に顔を赤めれて、顔を下に俯かせる。

「ああ。埒もない事を言ってしまいましたね。さあどうぞ。」

そう言って、ショ−ケ−スの方へ促す男。

伝説の『テンカワスマイル』とほぼ同じ威力だ。

血縁の力……侮りがたし!!

(《二週間の特訓の成果ですね。この笑顔一つで、常連の女性客も多く成ってます。》)

(「余計な事を言うな………。また、課題が欲しいか?」)

(《……………(涙)》)

ほう…………味はそれほどでもないのか。

(「さっきから何を聞いている!!俺は、名人を何度も負かした事もある男だぞ!!」)

本当かねえ?

まあ、取り敢えずぼ〜〜〜〜〜〜とした顔のまま、ケ―キを買ってその女性は出て行った。

これで、彼女も常連決定だな。

「疲れません?その作り笑い。」

冷たい声が、彼の耳に届く。

笑顔のまま、彼は答えた。

「別に……疲れないさ。ケ―キを買ってくれる人は、お客サンだからね。」

口調まで変わってないか?

「心から笑ってない笑顔って、見ていて不気味ですよ。」

彼女の声も、何故か苛ついているような感じがする。

それに気づいた者は、恐らくシェフとスティンのみでだろう。

「…………気づく人間は……どうやら気づくか……。」

そう言ってまた顔を無表情のものへと変える。

「気づきますよ………。気づく人はね。」

そう言って、紅茶を入れ始める。

「………それはそうと………いつ帰るんだよ………お前等……。」

今度は心の底から、彼は言った。

「用事を済ませてからです。」

済ました顔でそう答える。

「用事?」

「ええ………。」

「だったらそれを済ませてとっとと帰れ!!商売の邪魔だろうが!!」

苦々しい声で、そう叫ぶ男。

お前の声も、相当邪魔だぞ?

「邪魔ですか?」

「当たりま………ん?」

その言葉を、不意に止め、外の方を見る。

そこには、十にも満たない少女が、物ほしそうに立っていた。

無言で彼は、外に出て行き、彼女の方へと歩いていく。

それを見た三四郎は、思わず立ちあがりそうに成ったが、

誰かの手によってその行為は中断させられた。

「マキビさん!!」

「取り敢えずは………止めておけ。あの親分の行動を見ていようぜ?」

「しかし……。」

「艦長も、そうして貰いたいみたいよ。」

「え………。」

その声に、艦長と言われた、女の方を見るが、彼女は彼のほうを見ていなかった。

最初その女の子は、怯えていた。

そんな経験があるのだろう。

しかし怖くて、足がすくんでしまった様だ。

しかし彼は、その顔のまま、腰をかがめ、暖かくは無いが冷たくも無い声で、彼女に尋ねた。

その女の子は、ブンブンと首を横に振って、俯いた。

しかし、その男はなおも言い募った。

その言葉に、首を縦にふる。

そしてその男の次の言葉に、すこしぽかんとしたが、やがて嬉しそうに、首を縦に振った。

そして、彼と共に、店に入って来た。

店にはいるやいなや、つっけんどんに、銀髪の女に向かって、尋ねる。

「女…………。その紅茶とカップ、暫く彼女に貸してくれ。」

「ヒスイです。構いませんが………如何するのです?」

「この子に飯を食わせてやるのさ。

 ここで働いてもらう為には、途中で倒れてもらう訳にもいくまい。」

「え?こんな小さな子を働かせる?学校は如何するのです!!親は?」

「三四郎!!」

抗議する三四郎をスティンは止めた。

「しかしですね、マキビさん!!」

「この惑星にはな。こういう子の方が、普通なのさ。」

「え?」

「工業水準は確かに高い。だがそれに伴って、貧富の差も激しくなってきている。

 更に戦争の影響で、ここの2大陸の開発も先送りになっている事だしな。」

「如何してですか!!だって、連邦史では順調に発展しているって………。」

「反銀河連邦の国『クリムゾニア』が戦争吹っかけてきているから、

 そっちの方に働き手が持ってかれちまう。

 残っているのは、老人女子供の集団ばかりと来たもんだ。」

そう言って、女の子を手招きする。

「そんなに深刻なのに………。」

「それだけじゃない。第三次人口爆発と呼ばれている今を予想していた奴等もいたが、

 即時移住可能は星を真剣に探そうとするよりも、戦争によって、ぶん取った方が速いと思ったの

 だろう。そのつけを俺達が払ってるんだから、堪ったもんじゃないよな。」

スティンを言おうとした事を、取るようにして、叫ぶ三四郎。

それは、女の子は、シェフが持って来た椅子に腰を掛けていた時とほぼ同時だった。

「スター・ハンターに星捜しを、任せている場合じゃないじゃないですか!!」

「良い部下を持ったじゃないか………。

 まあ、無能な上官どもの下での宮仕えってのは悲しいなあ。ヒスイ大佐?」

フンっと鼻で笑って、皮肉を言うシェフに、さらりと返すヒスイ。

「貴方ならば、如何にかできるのではありませんか?フォトビア=ラトウ。」

ようやく名前が出たな?

ラトウ………。

(「お前が早々にばらせば、良かっただけだろうが!!」(怒))

「俺と同じ意見だった奴もいたが、最後には憤慨してこう言っていたぞ?

 『首に縄が掛かっているのに、それに気づこうともしない、無能どもめ!!』とな。

 そいつは、今スターハンターとして、飛びまわっているぜ。」

そう言いながら、作って来たス−プとパスタを、女の子の前に置く。

「野菜のコンソメス−プとミ−トソ−スのパスタだ。ゆっくり食べていい。」

目をマン丸にして、見上げる女の子に、ラトウは安心させる様に少し笑った。

心なしか目も穏やかになっている。

それを見た女の子は、顔を赤らめながらも、食べ始めた。

それを見たスティンは軽く口笛を吹く。

(やるねえ。もう落としちまったよ。)

そして、ヒスイの方を見るが…………。

(う……嘘だあああああああああああああああ!!)

ラトウの顔を見つめたまま、固まっている彼女を見て、彼は意識を放棄した。

心なしか、頬が少し赤く成っているのが解った。

彼にはどうやら、彼女だけ、ある意味特別だと思っていたようだ。

ちなみに恋愛感情は持っていない。

(「そいつは、先祖に任せてあるんでね。」)

さいでっか。

二時間後、彼が意識を取り戻した時、その女の子は、眠りについていた。

話し声が聞こえたので、首をそっちの方へ向けると…………。

「その子は如何するのです?」

無表情で、ヒスイが彼―ラトウ―に話し掛ける。

「明後日から働いてもらうさ。明日は用事があるのでね。」

皿を片付けながら、答えを返す、ラトウ。

「過去にでも、行くのですか?」

何気なくいうヒスイに、苦笑しながら返答するラトウ。

「そんな物タイムマシンみたいなのがあったなら、誰も苦労はしないだろうな。」

「では、タイム・ゲート・システムなんて物も、ご存知ではないと?」

「……………。」

今度は完全に押し黙る、ラトウ。

「貴方の事…………調べました。骨が折れましたよ。

 何処の記録にも、のっていない人間何て始めて見ました。

 ただ一つ………………

 50年前の記録に貴方とおぼしき画像を見つけられただけでしたから………。」

「…………。」

「ハンタ−SSS犯罪人指定“黒い流血鬼”という二つ名のみの犯罪人。

 貴方ですね………フォトビア=ラトウ。」

「人を化け物扱いするのは……………止めてもらおう。

 “白き魔女”。現在に生きたる、“妖精”よ。」

「…………。」

今度は、ヒスイが口をつぐんだ。

「用件と言うのはそれだけか?」

「それと共に…………ここの宣伝をしてあげようと思いまして………。」

「はい?」

「さぞや賑やかに成ると思いますよ。商売繁盛……商人の夢でしょう?」

うん、確かに…………。

ここら辺一体、ハンタ−達の群れで一杯になる事請け合いだね!!

軍や警察も大集合だ!!

ぱ〜〜〜〜〜〜〜っと行こうか?

(「そうしたければ、一人で遣って来い!!」(怒))

「SSSって言ったら、今までたった五人しか指定されていない、賞金首……。」

三四郎はあまりの展開に、頭がショ―トしているみたいだ。

「100億以上の賞金首って事だよな…………。」

うんざりしながら、スティンも同意する。

「きょ………脅迫する気か………。」

(そんな事されたら、店畳むしかないじゃないか。)

頭がフル回転でパニックを始める。

(如何する?まずこいつ等を人知れない所で消して、………死体は………消し屑にするしかない!!

 いやまて!!こいつ等の事だ………

 生命反応が消えた時点で、情報を一斉に流す手はずをしているかもしれん。

 オモイカネを使って、情報を止めるか?いや、生かさず殺さずで、脅迫して白状させる………。

 いや!!時間制かもしれん。だとしたら、今からオモイカネに全て破壊してもらうしかない。

 …………無理だ!!何か異様に怖がっている今の状態じゃ、まともに動かん!!

 ………うおおおおおおおおおお………どっちにしろ駄目ジャン!!)

混乱している一瞬を見計らって、彼女は妥協案を提示する。

「賭けをしませんか?」

ええと……今から、こいつ等を殺して瞬間的に……全ての研究施設を崩壊させて……って何か言ったか?」

「これから私が提示する条件を、クリアできたら、私は貴方の情報の一切を破棄します。

 それと報酬も用意しましょう。」

「報酬?」

「SSS指定の解除及び、航海の自由………こんな所でどうですか?」

「随分自信があるじゃないか………。いいだろう……。受けてやる!!」

「その代わり、失敗したら、私の命令に一回だけ従ってもらいます。」

「良かろう………。提示して見ろ。」

その言葉を聞いた瞬間、一瞬彼女は唇の端を吊り上げたが、彼は気づかなかった様だ。

「ボゾンジャンプで精神のみ過去の世界に行ったきり、戻ってこない人物を、

 連れて帰ってきてもらいたいのですが………。」

「時間跳躍か。あれは禁止されていた筈だが?」

「それでも、危険な物に手を出したいと思うのが人の常。彼はA級ジャンパ−でしたから、

 その装置を使って、精神のみを過去のナデシコに送ったのです。」

「何故?」

「自分の先祖が、気になったのでしょう。史実通りの女たらしなのかどうか。

 彼は常に悩んでいました。」

(………あれは、アキトが、優柔不断だっただけだ。)

「彼は自分の先祖を尊敬していましたので、その醜聞には耐えられなかったのでしょう。」

(本人が聞いたら、怒りそうな噂も確かにあるな。)

「だから、『おれが、真偽を確かめてやる』と言って、

 実験中の装置に乗りこんで過去の世界に………。」

(迷惑な話だ。そんなもん、アキトの問題なんだから、ハ−レムだろうがなんだろうが、

 好きにさせとけよ。)

ラトウよ………。

本人が聞いたら、

『叔父さんに俺の苦労が分かって堪るかあ!!』

と泣きながら、怒鳴ると思うぞ。

(「別にぃ…………。他人がそう言う事で苦しむのって、何か楽しいジャン♪」)

性格変わったね……。

(「地に戻ったのさ。」)

あっそ。

「という訳で、お願いしますね。」

「了解した。連れ戻そう。必ずな…………。」

いや無理だろう…………。

君はこれで、墓穴を掘ったぞ。

「連れ戻してくださいね。そして引き渡してください。お願いします。」

「任せろ!!」

そう言ってがっちり握手を交わす。

……………知らんぞ俺は…………。

 

 

 

 

 

 

「艦長……やっぱりあんたって外道だね。」

帰り道、スティンは、彼女をそう評した。

「そうですか?」

心外と言わんばかりの口調で、彼女は返事をする。

「外道も外道………。連れかえれる訳無いじゃん。自主的に帰らせる以外。」

引き渡す事も確かに無理だ。

「…………いいんです。私の物に成れば………。

「はい?」

「何でもありません。」

そう言って口をつぐむ。

(400年…………か。)

いつしか彼女は、誰かの記憶を思い起こしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

380年前

「ふうん………これが、量産型のエステバリス。」

アカツキの部屋でブロスとアカツキは相談をしていた。

「違いますよ……

 NAEP『ニュ−エイジ・エステバリス・プロジェクト』第一号機『ブロッサム』ですよ。

 会長、無論ここのエステバリスには劣りますが……、

 ピースランド到着前には、試作品が、前線に配給される予定に成っています。」

ひげをこすりながら、説明するブロスに、アカツキはどんどん質問してきた。

「けれど、かなり高性能じゃない?バーストモードもついるんだろ?」

「バッタやジョロもかなり高性能に成ってきていますし、

 何より、クリムゾンに遅れをとる訳には行かないでしょう、

 無論テンカワさんには承諾を貰っています。」

「後は、僕の『ゴ−サイン』だけって事?」

ふうっと、溜息をつきながら、苦笑いをするアカツキ。

「はい。」

「ふうん………。まあ、やって見る価値はありそうだね。」

「ありがとう御座います。それでは、早速。」

「期待しているよ。」

「………ところで……エリナさんは?」

その名前を聞いた途端、その会長はたそがれてしまった。

「ねえ……一体会長秘書ってなんだろうね…………。会長ってなんだろう……。」

「……………。」

余計な話題を振ったかもしれない……。

ブロスは、気まずい状況に振ってしまった事を悔やんだ。

十分後

話しが、某同盟の事にまで及びそうに成った事を察知したブロスは、

適当な用事をでっち上げて、早々に退散して来た。

(これで、NAEP00『マルペルチュイ』の事は、察知されていない事がわかった。

 さすが、タカトが作ったダミ−プログラム………よく働いてくれている。)

この時代では、『ルシファ−』では、性能がありすぎる。

故に彼はブロスにこの時代に乗る機体として『マルペルチュイ(悪夢館)』を作らせた。

これが真の第一号機なのだが…………。

これを乗りこなせるのは、タカトを除いて、3人ぐらいであろう。

(クレバヤシのオヤッサンに感謝ですね。)

ナデシコの改造魔ウリバタケの叔父にしてネルガルの改造魔と呼ばれている男、

65歳のこの男は、この計画を見せた時、二言で了承した。

恐らく彼がいなかったら、誰も作れない代物である事は察知していたが…………。

(彼にさえも、『難しい』と言わせるとは、どういうスペックですか。)

そして、タカトに連絡をとる為に、部屋に急ぐ。

戻る途中、足に地がついていない、ナオを発見する。

「嬉しそうですね。ヤガミさん…………。」

何時もの営業スマイルで話し掛けたブロスに、顔が崩れ掛けているナオが返事を返す。

「え?そ………そうか?ははははははは………そんな事無いさ。

 ミリアに会えるからって、喜び全開にしていると思ってるんですか?」

そう言いながら、足はステップを刻んでいた。

「は………はあ。」

「いくらなんだってそこまで俺も、お調子者じゃないですよ。

 では、失礼……ミリア〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」

………ナオってこんなキャラクタ−だったっけ?

まあ、いいや。

彼は、そう言って、去って行った。

「………春到来ですか…………。

 まあ、中には冬真っ盛りの人もいれば、夏真っ盛りの人もいますね………ねえアキトさん」

「しぃ〜〜〜〜〜……静かに………。お願いしますよブロスさん」

「今度は何をしたのです?」

自動販売機の影に隠れている、アキトに向かってそう質問するブロス。

「…………知りませんよ〜〜〜〜〜〜〜。なんか誰かを贔屓にしたって、行き成りつるし上げですよ!!」

「そうですか………。では、頑張ってください。」

そういって、すたすた去っていく、ブロスの肩をがっしり掴むアキト。

「つ………冷たいじゃないですか。ブロスさん。助けてくださいよ〜〜〜〜〜〜!!(涙)」

「ふう………今回だけですよ。」

「ブロスさ〜〜〜〜〜ん!!神様や!!あんた神様や!!」

「解りましたから、抱きつかないで下さい。」

(タカト…………貴方の甥は立派にジゴロに成れますよ。)

そう言って、深い深い溜息をつくのであった。

 

 

彼等が守るべき物  それは誇りか夢かそれとも…………愛か?

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

さあ、プロロ−グ終わったぞ!!

「ああ、終わったな馬鹿作者!!」

………おい。

「最後の台詞は、某作家のアキトの台詞をアレンジした物だろ?」

そ…………そうさ。

ここの投稿作家様方のを見ていただければ、解ると思うが……が!!

しかし!!

「しかし?」

あえて言おう!!アレンジは盗作ではないと!!

「一応謝っておけよ。」

あう………すいません。

「しかしあれだなあ。タカトって、性格壊れてない?」

いや………あれが何時ものレベル。

まあ、みとけよ。

第一話で、化けの皮はがれるから。

「お前は剥がれっぱなしだしな。」

おう!!

………って待たんかい!!

なんか私が、ヤバイ人間みたいじゃないか!!

いたって善良な一般市民だぞ!!

「一般市民である事はまあ認めてやるさ!!けど、善良ではないなあ。」

な…………何故に?

「何となく…………。取り敢えずサ。俺も過去に戻らせてくれよ。」

何する気だよ。

「女百人切り!!っていうのは嘘で、先祖の『ハーリー・ダッシュ』をこの目で見てみたくてね。」

自分の先祖を、からかいの対象にするかい………。

「だって面白そうジャン。」

う〜〜〜〜〜ん、確かにおもしろそうだけど駄目。

「なんで?」

いやあ………普通の人間には、そこまでのタイムリ―プは耐えられんぞ。多分。

「如何して?」

アキトですら、体を消滅させてしまったのだからな。

「じゃあ、タカトは如何して大丈夫なんだよ。」

彼、不死身だもん。

消滅する訳ないっしょ。

「成るほど……。」

それより、今の彼の名前はラトウだぞ。

「気にするなって。そんじゃ、俺の紹介済ませてよ。」

はいはい。

マキビ=スティン

マキビ家の長男

家族構成

父・母・弟・猫

現在は一人暮し

現在勘当の身

h+

179cm

65キロ

22歳

現在複数の女の子と交際中

黒髪・蒼い目

士官学校中退後、特殊部隊に入隊、数々の戦績も上げるもある事件により

西域軍独立『ナデシコ部隊』総司令の補佐官に任命させられる。

現在大尉

オチャラケているが、実はかなりク−ル。

容易にひとに自分の心を覗かせない。

マシンチャイルドとしての能力を持っているが、父親にさえも隠し通していた。

暗殺術の使い手

猫のチャウは、彼の部屋に居候

三四郎を良くからかって遊んでいるが、よく相談にも乗っている。

優秀な弟あり

「ま、こんなとこかな?じゃ、皆元気でな。」

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

ランさんからの投稿第五話です!!

相変わらず、面白い話を投稿してくれて有り難う御座います!!

でも、ケーキ屋を営んでるのか、タカトさん(笑)

流石、アキトの叔父・・・多種多芸な事で(爆)

それにしても、やはり女難は家系ですかね?

このままだと、また一悶着がありそう・・・

 

北斗とあの娘の関係って何だろう?

ついでに言えば、過去に戻ったのって誰だ?

 

ではランさん、投稿有り難う御座いました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

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