機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

 場所は変わって宇宙。

 

 その宇宙空間に浮かぶコロニー。

 この木連の領域に限りなく近い場所に造られている施設はアキトの私物であった。

 

 以前、草壁から許可を貰って造っている施設なのである。

 

 この建設中のもの。

 それを組み立てている人員は、火星の避難民であった。

 全員、火星の時と同じボロボロの衣服で作業に当たっている。

 

「くそっ、なんでこんなことになったんだ。

 俺達はあのまま火星にいた方が良かったんじゃないか?」

 

 その火星の避難民の一人が愚痴った。

 

「諦めろ、これも俺達が選んだ道だ。

 それに……生きているうちは火星に戻ることだって」

 

 愚痴った男の隣で淡々と作業に当たっていた男が答える。

 

「敵の本拠地が目の前にあるのに、悠長なことを言ってられるな。

 この施設だって、一体なんの為に造っているのやら……」

 

「しっ!」

 

               チュイン

 

 そんな無機質な音が聞こえる。

 どうやら火星の避難民を見張っているモノから発せられた音らしい。

 

 それは人型、虫型、箱型、犬型……と、千差万別な形をしている。

 決まった形状はしていないのだが、共通することは色が黒いことと赤いモノアイがあることだった。

 

 それらが順次、作業を見張っていた。

 

「……行ったか」

 

「……だいたいアレらはなんなんだ。

 あれは木星トカゲが使っていた無人兵器じゃなかったのか?」

 

「それに機械の癖に、妙に無駄なことが多いな。

 一機毎に見張れば良いのに、ぞろぞろと列を成して見張っている」

 

 ふむと考え込む。

 

「どういうことだ。

 それは……隙があるってことなのか?」

 

「ああ、時間帯は正確なんだが、まとめて見張りにくるものだから隙が多い。

 だが、どうやって他の皆と一緒に脱出するっていうんだ?」

 

「おいおい、この後に及んで全員で脱出するってのか?

 俺達だけでも脱出する方法を考えておくべきだ」

 

「なっ……置いていくって言うのか」

 

「俺達がここから脱出してから、他の連中を助ける方法を考えるってことだ。

 そうすれば、内と外、方法の幅だって広がる」

 

「……手遅れになるかもしれない」

 

「もう火星での惨劇を覚えていないのか?

 俺達がどれだけ駈けずり回っても、結局は手遅れだったじゃないか」

 

「だからって―――」

 

「諦めろ。

 今は自分のことだけを考えるんだな」

 

「くっ」

 

「だいたい木星トカゲの本拠地が目と鼻の先にあるんだぞ?

 地球や月、コロニーからは勿論遠い、一番近い火星はあの有様だしな」

 

「だったら、今のところ一番安全なのはこの施設ということになるぞ」

 

「ふん、どうだか。

 これが完成したら、俺達はどうなるんだろうな」

 

「どうにもならん」

 

「? 何か言ったか?」

 

「いや、俺じゃない。

 ―――――あそこだ」

 

 男が見上げると、黒百合を加えたアキトがライトアップされていた。

 相変わらず黒マント、黒い戦闘服、バイザー、さらにガスマスクを手に持っている。

 

「おいおい、何かの冗談かあれは。

 いい加減堪忍袋の尾が切れそうだ」

 

「そうか」

 

「ふっふっふ、バカな連中だ」

 

「二人だけどな」

 

「そうだ!

 だが、この複雑にして広大な施設から脱出するなど無理な話だ!

 貴様らは、俺が良しとするその日まで働き続けるのだぁ!」

 

 ふははとアキトが笑う。

 腰に手を当て、胸を傲然と反らしながらである。

 

「なあ、アイツ殴って良いか?」

 

「……見え見えの挑発に乗るな」

 

「よし、一発こっちに何かしてこい。

 ハンデでもないと、お前なんか相手してられないからな」

 

「おい、あんなこと言われて黙っていられるか!?

 くそっ、一発思いっきりぶん殴ってやる!!」

 

「だから―――まあ、良い。

 気の済むようにするんだな」

 

 暗い宇宙空間において、アキトは愉快そうであった。

 

「オラァ!」

 

 男の拳が唸りをあげる。

 火星においてのゲリラ生活で男は鍛えていたのだろう。

 

 かなりのスピード、パワーであった。

 

 だが、残念ながらアキトには、携帯型ディストーションフィールド、

 防刃防弾のマント、多機能の丈夫で動き易い戦闘服、先行ボソンジャンプ、等々。

 

 とにかくアキトが卑怯にも圧倒的に優勢であった。

 

「……ぅぅ……」

 

 そんな訳で、あっさりと男は地面を這い蹲るはめになってしまった。

 しかも倒れている男は、アキトに足を乗せられ、あまつさえ上に指を差すことを許してしまっている。

 

「な、ハンデにもならなかっただろ」

 

「……くそっ、ふざけんな。

 そんな重装備でいるなんて」

 

「んなこと言ったって、仕掛けてきたのはそっちだろ?

 勝負ってのは、自分のペースに持ち込んだ方が勝ちなんだし」

 

「くそ!」

 

「という訳で、また仕事に戻ってくれ。

 ん?」

 

                ピピッ

 

 アキトの体から電子音が鳴る。

 どうやらコミュニケにセットしていたアラームがなった音だったらしい。

 

「おっと、飯の時間だ。

 早く行かないと、怖い家政婦さんに怒られるな」

 

 ユキナ、既に家政婦扱い。

 

「それじゃあ、頑張ってくれ。

 何、そっちにとっても悪い話じゃないんだ」

 

 そして、アキトはボソンジャンプをして二人の男の前から掻き消えた。

 

「くそ! 痛ぇ!」

 

「……ま、こうなるか。

 しかし、俺等に手伝わせているコレ……一体なんなんだ?」

 

 深い闇の中、その施設は少しずつ出来上がっていっていた。

 

 

 

 

 

「―――うん?」

 

 瞼を閉じていても感じる白光。

 その電灯の眩しさに、眠っていたアキトはシャットダウンしていた頭を起動させた。

 

 あの宇宙空間で愉快そうに笑っていたアキトと違う、

 元々、この世界にいたアキトはベッドの上で目を覚ました。

 

「ここ……医務室か」

 

 気だるい感覚に体を動かせない。

 意識は、はっきりしているのに体が言うことを聞いてくれないのだ。

 

 やはり出血量が多かったのだろう。

 

「……誰もいないのか?」

 

 まだ頭がしっかり働いていないので、口で言いながら確認する。

 

 と、その時。ベッドを取り囲むカーテンが開かれる。

 そのカーテンを開けた人物は、律儀にも看護婦姿をしていた。

 

「あ、起きましたか」

 

「メグミちゃん?」

 

 確認するようにアキトがその人物の名前を呟く。

 現在、ナデシコは修理中の為、ほとんどのクルーが暇を持て余しているのだろう。

 

 でないとわざわざ看病だからと着替えた意味がわからない。

 

「あの、メグミちゃん。

 俺、どうしてここで寝てるんだ?」

 

「覚えてないんですか」

 

 いぶかしげにメグミが問い掛ける。

 やはりルリに頼んで見ていた光景を知る限り、忘れるほど希薄な体験ではなかったと思われたのだろう。

 

「アキトさんはミナトさんにコテンパンにされたんですよ?

 いや、むしろミナトさんがかな……アキトさん、諦めてなかったし」

 

「あ、そっか」

 

「思い出しました?」

 

「うん、ちょっと寝ぼけていたみたいだ。

 思い出せてきたよ……ミナトさんにやられたんだっけ」

 

「もう血みどろで驚きましたよ。

 アキトさん、死んだんだなあって」

 

(血みどろ?

 そういえば、この服……)

 

 洗ったばかりのパジャマである。

 不測の事態に備える為に、直ぐ着脱可能な服を着せられているのだろう。

 

 しかし、アキトが気になるのはそこではない。

 

 一体、誰に着替えさせられたのか?

 

 そこが一番気になる。

 やはり意識がない時に、自分が着ていた服を着せ替えられたというのは気になる。

 

(もしかして、メグちゃんが?)

 

 と、妄想を働かせてしまう。

 今も目の前でテキパキと何かの準備をしているメグミを見ていると妄想が働いていく。

 

 メグミが手取り足取り、服を着替えさせる光景が。

 実際には包帯を替えたり、血みどろの服の為、色気も何もないのだが、

 そこは下世話な妄想が見事に働き、妙にピンク色の高い光景へと変わっていた。

 

「あ、あのさ」

 

 そんな妄想をしたからか、アキトの声は上擦ってしまう。

 

「はい、なんでしょう」

 

「この服、誰が着替えさせたのかな。

 ほら、俺の着ていた制服は血やら弾痕だらけになっていたからさ」

 

「ああ、ゴートさんですよ」

 

「は?」

 

「だから、ゴートさんですよ。

 やっぱり元軍人さんだから訓練を受けてますよね。だから、手際よかったですよ。

 応急処置も適切でしたし、イネスさんも褒めてました」

 

「……」

 

 アキトの妄想は一発で砕かれた。

 今やアキトの妄想はメグミからゴートへと代わり、妙に暑苦しい光景に変わっていた。

 

 まるで泥臭い野戦病院にいるかのようである。

 

「……と、ところでメグミちゃんは何をしているの?」

 

 そんな光景を振り払うようにアキトは、メグミに問い掛けた。

 先程より何かの作業をしているのは気になったが、ガスコンロらしきものが目に入ってしまったのだ。

 

「これですか?

 なんか艦長の思いつきで釣り大会になったんですが、その魚でも焼こうかなと」

 

「え、釣り大会?」

 

「そうですよ。

 今、地球に帰ってきたんですが、エンジンが壊れてナデシコが動かないんです。

 だから、その間は釣り大会になったんですけど。

 あっ、でもエンジンはさっき直ったとか言ってましたっけ」

 

「ふーん」

 

「ま、そんなわけでアキトさんに、私が釣った魚でも食べてもらおうかと」

 

 ボッとガスに火がつく。

 それと同時に油が乗った魚から旨そうな肉の焼ける音が鳴ってくる。

 

「でも、医務室でやっていいの?」

 

「さあ、良いんじゃないですか?

 ほら、イネスさんってそこら辺のことの対策ってしっかりしてそうだし」

 

「そうかな。

 それにしても大漁だね。この量を一人で釣ったの?」

 

「そうですよ。

 まあ艦の上とか、海の上とか調達方法も色々ですけど」

 

「え、艦の上?」

 

「ええ、大漁でしたよ。

 今時の魚って水がなくても生きていけるんですね」

 

 にっこりとメグミが微笑む。

 その笑顔と誰かが盗られたであろう魚が奏でる音にアキトはたらりと汗を流す。

 

「そ、それって―――」

 

「あ、良い匂いがしてきましたよ」

 

「……うん」

 

 ジューと魚が焼ける音と共に、魚がおいしそうな匂いを放つ。

 それをメグミは、眺めながらパタパタと持ち込んだんであろう団扇で扇いでいる。

 

 と。

 

               ビー! ビー! ビー!

 

「へ」

 

『エマージェンシー、エマージェンシー、化学薬品漏出ノ恐レアリ!

 エマージェンシー、エマージェンシー、繰リ返ス、化学薬品漏出ノ恐レアリ!』

 

「うわっ、酷いですね。

 私の焼いた魚が化学薬品だなんて」

 

「そ、そうだね。

 でも、これってヤバいんじゃあ」

 

「貴方達、ここが医務室だということをわかっているのかしら?」

 

「あ、イネスさん」

 

「まったくここで魚を焼くだなんて。

 一体どういうことなのか、説明してもらいましょうか?」

 

(ヤバい、怒ってるな)

 

 その証拠にイネスが説明を求めていた。

 あえて分かっているにも関わらず、弁明を求めているのは明白である。

 

「これは、その」

 

「アキトさんが魚を食べたいって」

 

「え!?」

 

「だから、私、仕方ないなあって。

 アキトさんの為に、私、魚を焼くしかないって」

 

「いや、あの、メグミさん?」

 

「ふーん、病人の訴えね。

 ま、それだったら仕方がないことかもしれないわね」

 

(えぇ!? 仕方ないの!?)

 

「ともかく、今後こんなことはしないように。

 私も鬼じゃないから、私に不利益をこうむるようなことをしなければ許してあげるわ」

 

「はあ」

 

「それと、嵐が来るそうだから出発は明日になるそうよ。

 これは本来、ナデシコは嵐をモノともしない性能だけど、大事をとった措置。

 だから、今のうちにこの近海の海の幸を食べるとか、できることはしておきなさい。

 それとスキャバレリ・プロジェクトは終了。

 今後の身の振り方というのも考えておかないとダメね。

 これからどうやって過ごすということを、この与えられた時間の―――――」

 

「あの、良いですか」

 

「何かしら」

 

「それだと……俺ってどうすれば良いんでしょうか。

 もしナデシコを降りたら病院に移送とかされるんでしょうか?」

 

「プロスさんに聞けばわかるかもしれないわね。

 ま、色々と考えておけば良いんじゃないかしら」

 

「はあ」

 

「それから薬品関係には触らないように。

 うっかり地球に住む人を殺さないようにもね」

 

「は、はあ」

 

 そう忠告をしてからイネスは用事は済んだとばかりにさっさと医務室を立ち去った。

 研究室以外の場所に何か用事でもあるのだろう。

 

(別の場所にもラボが?)

 

 そんな恐ろしい考えがふと脳裏を霞める。

 

「へえ、これってそんな威力があるんだ」

 

 そんなことを呟きながらメグミがイネスの忠告を無視している。

 そして、さも当然の如く、棚の中に入っていた薬品を懐に納めていく。

 

 とりあえず、アキトはそれを見てみぬフリをすることに決めた。

 今、アキトが何か言ったら注射でもされかねない。

 

 

 

 

 

 それから程なく、ナデシコは嵐と激突した。

 激突と言ってもナデシコの方が動かなかっただけではある。

 

 とにかく、今ナデシコは嵐の真っ最中。

 コミュニケで外の様子を伺えば、波は荒れ狂い、稲妻が轟いている。

 このような状況で艦の外にいたいと思う人間はいないに違いない。

 

「この嵐が通り過ぎるまでは、ここで休憩か」

 

 ベッドの上で、アキトは呟く。

 

「そうですね。

 それにしても、やっぱり海の上って揺れるもんなんですね」

 

 メグミがそう言う。

 

 通信士だから外部との連絡の為、仕事があるのかと思いきや。

 今回の外部との連絡はプロスが行っており、特に仕事はなかった。

 

 だから、こうしてずっと医務室で過ごしていたりする。

 

「うん、外は荒れてるみたいだし」

 

「酔いそうですね」

 

 やはり海面に船体が浸かっている為、ナデシコも波の影響を受けている。

 その為、船体が微妙に揺れているのが寝ているから余計にわかった。

 

(それにしても)

 

 このナデシコに乗ったのは、元々偶然の産物だった。

 情けないことにケガを負っている、ここで降りるのはアキトにとって悪くはない。

 

 それに火星にいた避難民を助けようと思い向かったが、結果は行動が遅かった。

 他の人間に助けられていたし、故郷が最終的にどういう末路を辿ったかも目にしてきた。

 

「降りるか」

 

 それがアキトの考えであった。

 

「アキトさん、ナデシコを降りるんですか?」

 

「うん、ケガもしているし。

 ナデシコにこれ以上いても意味がないような気がするんだ」

 

「はあ、意味ですか。

 でも、そうなってくると再就職先とか考えないといけませんね」

 

「そこが問題だよね。

 コック……と言っても腕はまだまだ見習いだし。

 どうしようかな」

 

「前の就職先に頼めば良いんじゃないですか?

 ナデシコには成り行きで乗ったんだし、事情を話せば雇いなおしてくれるかも」

 

「あ! 俺、クビになってたんだった」

 

「はあ、いよいよもって暗くなってきましたね」

 

「ど、どうしようかな。

 このまま乗るか……それとも」

 

「うーん。

 じゃあ、こうしましょう!」

 

 メグミがぽんっと手を叩く。

 

「もう少しアキトさんは、ナデシコに乗るべきですね。

 ここで貰ったお金を当面の生活費や営業費に当てるべきです」

 

「なるほど」

 

(それが一番良いかな。

 そういえば、ナデシコに乗ってから貰った給料って結構な額になってるはず。

 あー、でも仕事の過失でケガしたわけじゃないから治療費が……)

 

「ぅぅ」

 

「ん」

 

「どうしました?」

 

「何か声が聞こえたような」

 

「気のせいじゃないですか?

 外は嵐なんだし、もしかしたら外の風の音が聞こえたのかも」

 

「いや、それにしては人の声だったような―――「アキトー」―――ほら。

 これは……ユリカ?」

 

「はあ、変わった風の音ですね。

 まさか艦長の声にそっくりだなんて」

 

 と。

 

 そんな話をしていると、カーテンの下を潜るようにして人が這ってきた。

 それは先程の会話にあがった人物、ユリカである。

 

「ぅぅ……メグちゃん」

 

「あら、艦長。

 どうしたんですか」

 

「ふ、ふふっ、まさか私に毒を打つだなんて」

 

「―――――え」

 

 アキトの脳裏をイネス印の薬品が通り過ぎる。

 だが、別の薬品を使用したらしく、ユリカは既に元気に活動していた。

 

「なんのことですか」

 

「むっ、とぼけるっていうの。

 あれだけ堂々と真正面から注射しといて」

 

「そんなの何時あったんだ」

 

「もう! アキトもアキトだよ!

 私が直ぐ隣で倒れているっていうのに、気付かないだなんて! 冷血漢!」

 

「そうは言っても、カーテンで遮られているし」

 

「うっ―――もう良い!」

 

「え」

 

「休憩終わり!

 どうせ嵐も静かになってきた頃合だし、さっさと指定の場所に向かいます!」

 

「えぇ!? だって、この休憩は今後の」

 

「アキトが悪いんです!」

 

「なんだ、その理屈は!?」

 

「とにかく出発ッ!!!!!」

 

 というユリカのワガママは何故か通った。

 やはり艦長だからか、嵐も静かになっていたこともあり、クルーは全員慌しく所定の位置についた。

 

 そして――ー。

 

 

 

 

 

 ナデシコが飛び立つ。

 海水に浸かっていた船体より大量の海水が海面へと流れ落ちていく。

 

 そして、海面より浮き上がった後、ナデシコのエンジンがつく。

 後部より放たれるあかがね色の軌跡を残し、ナデシコは家路へと旅立った。

 

 と、そんな光景を呆然と眺めている男が一人。

 

「ユぅリぃカぁ!!」

 

 誰あろう、アオイ ジュンその人であった。

 

 哀れ、ジュン。

 ナデシコの誰からも忘れ去られ、このように海からナデシコが去っていくのを眺めているしかなかった。

 何故なら、ナデシコに帰ろうにもディストーションフィールドが張られていたからである。

 

 いや、それよりも嵐を乗り越えたことこそ、驚嘆に値する。

 まさに執念、人の執念が成し得た偉業とも言える挑戦であった。

 

 だが、そんなことはジュンには関係ない様子である。

 

「くそ、テンカワめ。テンカワのせいだ。

 全部、全部、ぜんぶ、ぜんぶ、ゼンブ、ゼンブ、ぜんぶぅ!!」

 

 それと些か壊れ気味になっている。

 やはり自然現象に対して挑戦したことが、ジュンの精神に変調を起こしてしまったのだろう。

 

「見てろよ、テンカワ!

 僕は復讐者だ! アベンジャーだ! Avenger! テンカワァァァ!!」

 

 ここに一人の復讐者が誕生した。

 名はアオイ ジュン、テンカワ アキトに人誅を下すもの。

 

「って―――サメ!?

 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 ジュンと鮫が一緒になって海を泳いでいく。

 

 

 

 

 

生き残れ、その魂!!

 

 

 

 

 

 第17話にジャンプ!

 

 

あとがき

『影(シャドウ)』第16話をお送りしました。

前回、地の文で冗長過ぎた気がしたので、スリムにしてみたのですが……スッキリし過ぎました。

 

むしろ、スッキリし過ぎで説明不足のような。

でも、それは次話以降、納得できるように治していこうと思います。

 

>代理人様

今後のガイの活躍にご期待ください(笑)

 

 

 

代理人の感想

うむむ、ジュン、アヴェンジャー宣言! 見よ、今こそ虐げられたものの今こそ復讐のとき!

Avenger(アヴェンジャー) Assemble(アセンブル)

 

・・・・ネタがわからない人はちゃっちゃと飛ばしちゃってください。

 

それはともかく、このシリーズも考えてみると長いですねー。

もうすぐ連載4年ですよ!(爆)

終わるのを楽しみに待ってますので頑張ってくださいね。

いやまじに。

 

>ご期待ください

ほほう。では期待しますよーw