はい! 今日、皆様にご提供させていただく商品は『我慢』です!

 どうです? この忍耐強さ、他の商品に比べればその違いは顕著に現れています。

 まず堪忍袋の尾がゴムへと変更され、血管が浮かびあがらないようにメッキでコーティング―――。

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

 朝日を背に、黒い点が海の彼方からやってくる。

 虫のように小さかったその点は、時間が経つにつれその姿を露にしていった。

 

 白亜の戦艦、ナデシコ。

 

 装甲が剥げ落ちたり、ところどころに修理の後があるが出航した時となんら変わりない。

 やや精悍さを増したというところであろう。

 

 

 

 

 

 そのブリッジ。

 

 ようやく帰り着いた場所を眺めながら一人物思いにふけっているものがいた。

 艦長のユリカである。

 

(これで艦長の仕事も一段落。

 初仕事はなんとか無事に終わったかな)

 

 にまにまと嬉しげに笑みを零す。

 どこか頭でも打ったのではないかと思われる程の笑顔の応酬であった。

 

 実際、普段から頭を打っているような奇行を取ってはいるが。

 

「あの、艦長」

 

 そんな嬉しそうなユリカとは対照的に、近くに立っていたプロスは暗かった。

 この世の終わりが迫っているとでも言うのか、見ているだけで落ち込んでいるのが分かる。

 

「なんです、プロスさん」

 

 仕事終わりの余韻に浸っていただけに、声に少しトゲが混じった。

 

「はあ、わかっていますよね?

 私どもが今現在、どのような立場なのかを」

 

「え、なんです」

 

 思い当たるふしがなく、そうユリカは返事をした。

 と、そんなユリカの様子に、さらにプロスは暗くなり、頭を抱え込んでしまっている。

 

「わからないんですか!?」

 

「はあ」

 

「はあ、じゃないでしょう!?

 艦長には前々から言おうと思っていたのですが、ナデシコの艦長としての自覚はあるのですか!?」

 

「あるに決まってるじゃないですか」

 

「だったら、それらしい態度を取ってください。

 私は艦長と話していると、だんだん頭痛が酷くなりますよ!」

 

 キーキーとどこかのキノコみたいな声を出す。

 ここにも仕事前と後とで違う人物が一人、やはり心労がプロスの余裕を無くしているのだろう。

 

 いと哀れ。

 

「落ち着け、ミスター。

 こうやって無事に帰ってこれたのだ、それだけでも良いのではないか?」

 

「ええ、奇跡だと思いますよ」

 

「悲観的過ぎるな。

 プロジェクトは終了だ、暫くは休暇でもとって心気を養ったらどうだ」

 

「……まったく、貴方に助言されるとは」

 

「むう」

 

「そうですよ、温泉にでも浸かったらどうです?

 体もあったまるし、疲れも一気に取れますよー」

 

「……温泉ですか。

 最近は風呂にもゆっくり入れない程、忙しかったですからなあ」

 

 プロスが冷たい視線を向けてくる。

 その冷たさにユリカは一瞬心胆が冷えるような思いをした。

 

 と言っても一瞬である。

 

「なんかプロスさんも怒ってますし。

 ルリちゃん、ドック内にナデシコを入れて」

 

 が、やはり何か感じるものでもあったのだろう。

 取り繕うようにユリカは、ドッグ内部にナデシコを入れるようにルリに指示を出した。

 

「了解」

 

「私は何時でも怒ってますよ」

 

 プロスの言葉がブリッジに突き刺さる。

 

 

 

 

 

 そんなやり取りをしながら、ナデシコは無事にドックへとついた。

 クリムゾンの用意したドッグは、やはりナデシコ自体が最新鋭の戦艦ということでドッグも相当なものである。

 

 ドッグに勤めている専任のスタッフが今ナデシコに取り付いて作業を行っている。

 その作業の早さ、それと補修、改修作業に使っている部品など、どれも最高級品ばかりである。

 

 やはりナデシコは機密情報の塊であるらしい。

 

「はぁ、凄いですね」

 

 そんな光景を呆然と眺めながらユリカが呟く。

 ウリバタケ達、整備班の仕事振りも早かったが、こちらは戦艦全体を改修しているので見栄えが良い。

 

 その為、ユリカはぽうっと作業している姿を見学していた。

 だが―――。

 

「艦長! 何やってるんですか!」

 

「え」

 

「え、じゃないでしょう。

 直ぐにこちらの部屋へと来てください。上から今後について話がありますので」

 

 プロスの誘導に従いユリカは付いて行く。

 その案内に従い着いた場所はドッグの直ぐ隣にある個室であった。

 

 部屋はさほど広くはない。

 外部との通信だけを想定しているらしく、部屋の内装もそれだけに特化しているようである。

 飾り気はなく、どでかい通信機だけが部屋の中で鎮座していた。

 

「どこと連絡取るんですか」

 

「……お待ちください。

 直ぐに偉い人と連絡を取りますから」

 

 どこか苦々しい口調でプロスがそう告げる。

 二度説明をしたことが、面倒だとでも感じたのだろう。

 

 もっともだ。

 

「ほいほいほいっと」

 

 慣れた手つきでプロスが通信機をいじっていく。

 

               プルル――カチャ

 

 部屋に配置されているモニターに一人の男が映される。

 どうやら事前に連絡していたらしく、待つような徒労を取らずに済む。

 

 実際には、そうだからプロスは急いでいたということだろう。

 

「私だ」

 

「こちらスキャパレリプロジェクトに参加していたプロスペクターと申します。

 事前にアポイントメントを取っていたと思いますが、御時間よろしいでしょうか?」

 

「うむ、余計な心配だな。

 ……さて、それでは本題に入ろうか」

 

「はい、ほら艦長」

 

「あ、はい」

 

 プロスに促されて通信機の前に座らされる。

 どうやら会社の上からの話はプロスではなく、ユリカ自身が聞くことになっているらしい。

 

(プロスさんが連絡取っていたんだから、プロスさんがこの話も聞いてくれたら良いのに。

 ぶー)

 

 艦長としての自覚に欠けている。

 だが、そんなユリカの内心の葛藤、不満を余所にモニターに映る男は話始めた。

 

「まずナデシコだが、本当にボソンジャンプをしたというのかね?

 こちらで掴んでいる情報だと、とてもそうは思えないのだが……」

 

「それは間違いありません。

 そのことはきちんとデータでも残っていますので」

 

「……ふん、まあ良い。

 たとえ本当であったとしても、ボソンジャンプをした事実など関係はない」

 

「はあ」

 

「聞きたいことはそれだけだ。

 ナデシコの今後のことも会社の方では決定している」

 

「え、そうなんですか」

 

「そうだ。ネルガルは無くなった。

 プロジェクトも解散……というのが一番会社に混乱を招かなくて済むのだが―――」

 

「そんな! 待ってください!

 プロジェクトの目的は火星の避難民の救出、研究資料の確保でほぼ成功しているはずです!」

 

「どこがだね?」

 

「持ち帰ったデータを御覧ください。

 相転移エンジン、研究スタッフだったイネス博士、他にも研究データを持ち帰っています。

 ならばプロジェクトは成功に終わったのですから、その後を保証してくれても」

 

「何もナデシコを解散しろとは言っていないのだが」

 

「え」

 

「我々としては、解散させたい。

 だが、こちらにも事情というものがあってだね、そういう訳にもいかないのだよ」

 

「ということは」

 

「とりあえず、ナデシコは軍に預ける。

 軍内部や会社内からは払い下げと非難されるかもしれないが、あれでも最新鋭の戦艦だ。

 今後のクリムゾンの商品展開に貢献してくれることを祈っているよ」

 

「はい。わかりました」

 

「詳細については、そちらに資料を送っておいた。  口で説明するより、書類で確認した方が良いだろうと思ってな」

 

 そうモニターの人物が言った時、プロスが説明の追加をしてくる。

 

「艦長、書類はもうこちらで受け取ってます。  後で渡しますので、確認しておいてください」

 

「ああ、それと」

 

「なんでしょうか?」

 

「君等のところにエリナ女史が行く。

 くれぐれも粗相がないように気をつけてくれたまえ」

 

 笑いながらクリムゾンの幹部がそう告げる。

 何かを愉快そうに笑いながらそう告げ、そこで通信は途切れた。

 

「エリナ女史?

 クリムゾンの偉い人には詳しくないんだけど」

 

 などと思わず呟く。

 その呟き声を後ろで待機していたプロスは聞いたらしく、おもむろに溜息をついた。

 

「艦長、知らないんですか」

 

「知らないです。

 だいたいクリムゾンの人のことは勉強してませんでしたから」

 

「いや、エリナさんは元からクリムゾンの社員だったわけではありませんよ。

 ネルガル……いまや無くなってしまいましたが、ネルガルの会長秘書をしていた方です」

 

「そうだったんですか。

 私はてっきりクリムゾンの人かと」

 

「しかし、エリナさんは何をしに……」

 

「さあ、ナデシコの視察とか!」

 

「それでしたら、こちらに連絡があると思うんですが。

 まあ会社も替わりましたし、やり方を変えたのかもしれませんね」

 

「そうそう、プロスさんじゃないんですから」

 

「―――――怒りますよ?」

 

 プロスの顔つきが変わる。

 まさに般若、どうやら堪忍袋の尾がまたキレたらしい。

 

「そ、それじゃあ、アキトのところに行って来ます!!」

 

 ユリカもプロスの雰囲気に圧倒され、あっという間に席から立ち、部屋から脱出を図る。

 

「あ、待ってください!

 艦長、まだ話は終わってませんよ!?」

 

 そのユリカの背中でプロスが怒鳴った。

 当然のことながら、ユリカは振り返らず部屋から逃げおおせた。

 

 

 

 

 

 そんなやり取りを二人がしていた頃。

 

 ある一つの問題が発生していた。

 それは別に命が危ないとか、そういう危険極まりない話ではない。

 鼻の穴をほじりながら読み流しても良い問題である。

 

 ともかく、そんな問題を前にしてナデシコクルーは悩んだ。

 修理、処理、再利用、様々な解決方法が脳裏に浮かんでは消えていく。 

 

「で、結局……これどうします?」

 

 干からびた遺跡である。

 あの連続ボソンジャンプ以来、このような干からびた状態が続いていた。

 

 やはり無理が祟ったのだろう。

 手触りの良かった感触はいまや乾き過ぎでぱさついてしまい、等身も心持ち小さく見える。

 内蔵されている機械が過熱状態の結果このような形で表面に出たようだ。

 

「誰か詳しい人いませんか?」

 

「……詳しい人。

 あ、だったらイネスさんかな」

 

「い、イネスさん」

 

 その提案にどうやらメグミはしぶり顔である。

 

 というのも。

 あのボケ提督のヘンテコ発言以来、ユリカがいない時の問題はメグミが最終決定を下していた。

 

(だけど、この役目って他の誰かがしていたような?)

 

 と、ひっかかるものを感じながらもメグミはこなしている。

 とは言え、さすがにただの通信士が専門的な問題をすぐさま解決とはいかない。

 

 最終的な決定を下すだけであり、問題を解決するのは他の人間であった。

 つまり「やれ」と命令を下し、メグミはのほほんと通信士としての仕事をしているだけである。

 

 だが、ここで一つの問題が発生した。

 

「でも、本当に産業廃棄物?

 産廃の処理だなんてイネスさんに頼んだ方が良いとは思うけど」

 

「いや、危険なものではない。

 ただ、コレ自体が高価なものである可能性がある」

 

「はあ」

 

 つまりヌイグルミとは火星極冠遺跡の遺跡である。

 そんな古代火星人の遺産のブラックボックスとも言える存在に対し、しり込みをしていたのだ。

 

 そうなったのは、ゴートに責任がある。

 

 最初はもう役に立たないからと、ダストシュートにメグミが捨てようとした。

 そこにゴートが血相を変えてやってきて、とんでもないものだからと説明をし思いとどまらせたのだ。

 

「イネスさんに頼むんですか?

 イネスさんに頼んだら変なことになりそうな気がするんですけど」

 

 ちらりとメグミがガイを盗み見る。

 その視線を受けて、ガイが歯を光らせながらビッと親指を立てる。

 

 無駄に暑苦しい。

 

「うわっ、変なことになりそう」

 

 ガイの漢っ気に当てられてメグミが眩暈を起こす。

 イネスが修理をしたらヌイグルミは、何かヤバいものがキメまくっていそうな予感がムラムラする。

 

「本当にどうする?」

 

「さっさと修理するなら、修理しろよ。

 あのボソンジャンプをこっちが使えるなら戦術も変わってくるはずだぜ」

 

 などと、愚民クルーが言い合う中、メグミは黙考した。

 胸中でどす黒い地獄の計算機を回転させ、自身にとって最良な選択を模索する。

 

(わかってることは3つ。

 1.このヌイグルミが会社の方でも捨てることや潰すことを躊躇うほど高価なもの。

 2.運搬にはさほど労力を割かなくても良いということ。

 3.もしコイツを抱き込むことに成功したならば、詐欺で儲けまくれる。

 4.ついでにボソンジャンプ?とやらの力を持つことができる―――――あ、4つだ)

 

 そんな計算をしつつ、周りを見渡す。

 どうやらまだまだクルーの中ではどうするかという案は決まっていないようであった。

 

「ふふっ」

 

 あまりにも微笑ましい光景に笑ってしまう。

 あのボケている提督が気まぐれで言い渡した艦長代理、あれが有効な限り。

 

 メグミが艦長がいない時点では最高権力者なのだ。

 

(それに高価なものだと言うのなら。

 ケケケッ……これを他会社にでも横流しをしたら相当儲かるはず)

 

 どういう経路で他会社に売り渡すか、どう話を切り出して持ち出すのか。

 そのことを考えねばならない。

 

(だけど、その前に)

 

 周りの喧騒をよそに、メグミが遺跡へと顔を近づける。

 すると干からびてボサボサの毛並みの遺跡がガラス玉をメグミの方へと向けた。

 

 当然、他のクルーに聞かれないように注意深く話しかける。

 

「わかります?」

 

「ふん、嘗めるでない。

 こんなことで機能を停止せんわい」

 

「だったら、取引と行きましょ」

 

「取引?」

 

「簡単なことですよ。

 私が貴方を他会社へと話を取り付けて売り飛ばすんです」

 

「取引にもならんな。

 ワシになんのメリットもない」

 

「いいえ、貴方にはメリットがあるはずです。

 貴方が何かを探しにこのナデシコに来ていることは知っているんですから」

 

「なに?」

 

「このナデシコを運用している上で一番欠かせないのがルリちゃん。

 そのルリちゃんに頼んでここ最近は情報収集に精を出していましたから」

 

「情報収集? 弱みを握ろうとしたのじゃろう?」

 

「さあ。ふふっ。

 私がそんな酷いことを考えるわけないじゃないですか」

 

 綺麗な笑顔でメグミがそう言い放つ。

 

「ワシを他会社に売り飛ばそうという奴が何を―――」

 

「そう、それです。

 追っているものがある場所に近い場所に、貴方を売り飛ばしてあげようと思ったんです。

 ほら、実に効率的かつ貴方にメリットがあるじゃないですか」

 

「ふん」

 

「気に入りませんでした?」

 

「推測ばかりでものを語るでない。

 だいたいワシがあれを追うのに、そんなに時間が掛かるものでもないからのう。

 この世界はあれがいた世界に酷似している、だからそのうち情報が入るじゃろうしな」

 

「そうなんですか」

 

(交渉決裂か、つまんない。

 ―――それじゃあ、仕方ないし)

 

「イネスさんにお願いしましょう」

 

「なぬ?」

 

「いや、交渉決裂したんで。

 ここはイネスさんに直してもらおうかと」

 

 にやぁっと不気味な笑みが浮かぶ。

 その表情を見て、遺跡はヌイグルミにも関わらず背筋が凍る思いをした。

 

「この世界の奴にじゃと!?

 バラされるに決まっとる! やめろ! ワシはまだ新品同然じゃ!!」

 

「あ、でもたとえイネスさんと言えど、分解は専門外ですね。

 だからウリバタケさんに、念入りにバラすようにお願いしときますので」

 

 全然直してない。

 

「何故、バラす?!」

 

「いや、その方が直し易いかなって」

 

「くそっ!

 仕方がない! こんなことで使用するのは馬鹿馬鹿しいと思ったが―――ハァ!!」

 

 遺跡の体が輝き出す。

 虹色の光に包まれ、次の瞬間遺跡の姿は跡形もなく消え失せた。

 

「え?」

 

 消えた。

 影も形も無く、文字通りその場にいなかったかのように遺跡が消滅したのだ。

 

「嘘……勿体無いことした」

 

 ぽつりと本音が口を開く。

 

 と。

 あれだけ遺跡が光ったり、いなくなったりしていた中、ようやく周りのクルーが事態に気付き始める。

 

「あれ、ヌイグルミがいないよ」

 

「……バカばっか」

 

 どうやらルリ以外の全員は気付いていなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふっ・・・」

 

 

 そんな中、どこからともなく声が木霊す。

 

 

 

「馬鹿な連中よ。

 騒げ、騒げ、ワシがどこにいるのかも分からずにな」

 

 

 

 

 どっからどう聞いても遺跡の声であった。

 どうやら消滅したわけではなく、どこかに潜伏でもしているようである。

 

「ルリちゃん」

 

 そこでメグミがルリに声を掛ける。

 

「オモイカネ」

 

『艦内にボソン反応あり、直ぐ傍に微量な質量の増大を確認』

 

 それに対し、ルリとオモイカネが答えを出す。

 

「という訳です。

 ゴートさん、ひっとらえてきてください」

 

「わかった」

 

 ゴートが遺跡を捉えに向かう。

 と。

 

 

 

 

 

「なっ、何をする!

 ぎょわー! また簀巻きなんて酷過ぎるぞぉ!!」

 

そんな声がどこからともなく木霊してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局、何がしたかったんですか?」

 

「このピカピカの新ボディを見ても分からんのか!

 見ろ! さっきまでのダメになったボディを廃棄し、新しい体に乗り換えたのだ!」

 

「そういえば、元に戻ってますね」

 

 見れば、先程までのヌイグルミの体と違う。

 最初のふわふわのもこもこに戻っており、遂先程まで干からびていたとはとても思えない。

 

 だが、それも当然。

 先程までの体はボソンジャンプで文字通り夢の島に旅立ち、新しい体に乗り換えたのだから。

 

「ふふふっ、じゃろ?」

 

 と、クルーの反応を見ながら遺跡が胸を反らす。

 どうでも良いが、簀巻きにされてもどこか偉そうな態度は変わらない。

 

「でも―――――つまんないですね」

 

 そうメグミは思ったのか呟く。

 

「ナヌ?」

 

「どこか不具合もあったらいけないのでウリバタケさんに調べてもらいましょう。

 あ、ゴートさん、足の方を持ってください。私は頭を持ちますので」

 

「そうだな」

 

「や、やめんか!」

 

 遺跡が抵抗するが、簀巻きにされているので抵抗らしい抵抗ができない。

 そんな訳で結局、遺跡は整備班の元へと向かうことになったのであった。

 

 

 

 

 

 このようにナデシコのクルーがあちこちで働いている頃。

 一人、アホな輪の中から外れてコソコソとミユキは動いていた。

 

 監視役のイズミはいない。

 どうやら監視の目は振り切ることに成功したようだ。

 

「ふう、よしっと」

 

 そう呟き、背筋を伸ばす。

 

 ドッグの一角。

 そこでドッグ内部の端末に携帯端末を接続し、内部の監視情報を改竄していく。

 どうやらかなり高性能な代物らしい。

 

 あっという間に通信環境が整っていく。

 つまり、ここでミユキが誰と通信してもバレないということである。

 

               ピッ

 

「もしもし」

 

 モニターにアキトが映る。

 勿論、アキトはアキトでも黒ずくめのアキトの方だ。

 

 その黒っぷりをミユキはジッと見詰める。

 

(本当なら――――

 

 

 

 

 

「―――会長!

 この間のあれはなんですか!? 私はあのような扱いは納得できません!!

 良いですか!? 今後、あのような不当な扱いを受けた場合、私は即座に会社を辞めます!!」

 

「で、で、でもミユキくーん」

 

 

 

 

 

 ……………って、言いたいとこだけど)

 

 はあ、とミユキが溜息を漏らす。

 そんな大それたことができる程、ミユキの神経は図太くなかった。

 

 むしろそれができたら、ナデシコにはいなかったかもしれない。

 

「ミユキちゃん?」

 

 と、溜息を漏らすミユキの姿を見て、アキトは不思議そうに首を傾げた。

 部下に理解が少ない上司である。

 

 

 

 その2にジャンプ!