機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

 ナデシコにあるプロスの部屋。

 そこではカタカタと小気味良い音が鳴り響いていた。

 

 勿論、鳴らしているのは部屋の主である。

 

「まさか皆さん、ナデシコに乗ることを選択されるとは。

 いやはや、まさに命知らずとはこのことでしょうなあ」

 

 カタカタと鳴らしながら、思わず口を開いてしまう。

 そう、言葉の通り、結局ナデシコを降りた人間よりも降りなかった人間の方が多かった。

 

 あれだけ危ない目にあってるにも関わらずである。

 地球から火星への道中で木星トカゲに襲われるだけでなく、艦内にまで危険が潜んでいたにも関わらず。

 

 やはりナデシコは奇人変人の巣窟だったのだ。

 

 命よりもギャラや、やりたい放題できる環境が気に入ったのだろう。

 そういう環境は、プロスとしては心外この上ないことではあるのだが……。

 

「ま、新しいクルーの慣熟にも時間が掛かりますからな。

 ここはどういう理由だったにせよ、良しとしましょう」

 

 フウと一息つく。

 それと同時に今まで小気味良く鳴り続けていた音が鳴り止んだ。

 

 替わりにポンポンと肩を叩く音が聞こえる。

 やはりプロスと言えど、大急ぎで仕事をこなすのは骨が折れるのだろう。

 

 実際、次のナデシコの出航までにこの仕事は終わらさないといけない。

 ナデシコを降りる人達に手渡す退職金、新しいクルーの配属場所、次の場所までの予定表の作成。

 やることはたくさんあった。

 

「いやはや、ナデシコの改修は終了してますからなあ。

 できればもう少し、ゆっくり進めて欲しいところではありましたな」

 

 またもや思っていることが口をついて出てしまう。

 様々な商談、契約の交渉役ネゴシエイターとしては、嫌な悪癖がついてしまったものだった。

 

「ふう」

 

 またカタカタと作業を開始する。

 

 この悪癖がついたのも、思い返すまでもなく、ナデシコに乗った結果であった。

 仕事をしない艦長、使途不明金をジャンジャン使う整備班長、バイオハザードを起こしかねない医務室の主。

 

 とにかく胃に穴を空ける旅であった。

 

(それでもやめる訳にはいきませんからなあ)

 

 できれば、これを機会に会社をやめるということも考えた。

 ネルガルは吸収され、胃には穴が空いている、だが、それでもやめられない理由があるのだ。

 

 火星にある遺跡、ボソンジャンプ、それらの利権を得る為に行った仕事。

 それらを実行するようにと、裏で色々と作業をしてきたのはプロス本人だからだ。

 

 そして、この戦争は遺跡の利権が絡んでいる。

 だから、その通った道がプロスに、この戦争に関わっていろと命令してくるのだ。

 

「しかし―――」

 

 ポンッと脳裏にクマのヌイグルミが思い浮かぶ。

 あの自称・遺跡は確かにボソンジャンプを実行する能力を備えていた。

 

 もしかしたらあのヌイグルミを確保した者が戦争後のボソンジャンプ大航海時代の鍵を握ることになるのかもしれない。

 

 言語機能を備えた高度な機械。

 つまり古代火星人の遺産の説明書とすることができるかもしれないのだ。

 

(ふふっ……遺跡、ボソンジャンプ、古代火星人の遺産、

 それらを手に入れる為に、どれだけの血と犠牲を払ってきたことか)

 

 直接手を下す仕事は、さほどなかった。

 だが、それらを命令、指示したのは自分なのだ。

 

(本当に……どれだけの汚い仕事に手を染めてきたことか。

 だから、最後の鍵があんなヌイグルミかもしれないというのはどういうことなんでしょうな。

 なんだか、とても納得がいかないような気がしますな)

 

 プロスが遠い目をする。

 その先には、キラキラと輝く星が辺りを漂うヌイグルミの姿が見えていることだろう。

 

 実に小憎らしい物体であった。

 

「ふう―――」

 

               コンコン

 

「いるかしら?」

 

「いますよ、どうぞ」

 

                 プシュ!

 

 部屋のドアが開く。

 そして、部屋の中へと入ってきたのは、エリナであった。

 

 医務室を出た後、そのままここへと向かったのだろう。

 

「おや、珍しいお客さんですな」

 

 キィッと座っていた回転椅子を回転させてエリナの方へと向く。

 その向くという動作をすると同時に、見られたらマズいウィンドウを消していく。

 

「ふん、どうも」

 

「元会長秘書ともあろう方がどうしてこんなところに?

 いや、そんな肩書きはなんの意味も成しませんでしたな」

 

「……まったく、とんだ皮肉ね」

 

「まあネルガルが吸収合併される決定的な打撃を与えたのは貴方でしょうからな。

 それ相応の態度を取られるものだと思っておいてもらわないと」

 

「……ふん、まあ良いわ。

 それにそんなことを言い出すだなんて、結構ショックだったようね」

 

「ショック?

 いやいや、さほど」

 

 実際は意識が遠のきかけるぐらいのショックであったが。

 

「ま、良いわ。

 それよりも……あのヌイグルミが言っていることは本当なのかしらね」

 

「はて、ヌイグルミですか?」

 

「とぼけなくても良いわ。

 既にあの遺跡と言っている変な物体には会っているから」

 

「……そうですか、それは……困りましたなあ」

 

「どうして、あれを会社の方に報告しないのかしらね。

 あれがもし本物だとしたらボソンジャンプのシェアの優先権を握れるかもしれないのに」

 

「隠しているわけではありませんよ。

 ただ、あれが本物だという確証が持てないだけです」

 

「確かに火星にある遺跡とは似ても似つかないわね」

 

「でしたら―――」

 

「だけど、報告をしないというのは貴方らしくないわね。

 まさか……あれを報告したことによって、会社にとって利益になるのが嫌なのかしらね」

 

「いえいえ、私はただのサラリーマン。

 会社の要請があれば、直ぐにでも報告しますよ。ただ、今は必要ないと判断しましたので」

 

「……」

 

「よろしいですかな?」

 

「ここにナデシコのデータがあるけど、ボソンジャンプを実行してるわね。

 だけど、火星にある遺跡に設置されている観測装置には遺跡活性化の報告はあがっていない」

 

「戦艦一隻だから観測される程の反応もなかったのでは」

 

「苦しい言い訳ね、得意の話術もさび付いたんじゃないかしら。

 貴方だって今まで火星の遺跡に設置されている観測装置があげるデータを見ているはず。

 そのデータがあげる遺跡の活性化はどれだけ顕著だったかしらね」

 

「…………木星トカゲが使用する度に、大小、差はありますが、

 遺跡が演算をしているという反応を観測装置が拾うことはできた」

 

「それが、今回はない」

 

「だからこそ、あれが偽者である可能性はありますが?」

 

「ボソンジャンプを使って、実際にナデシコが戻ってきているのに?

 そっちの方こそ可能性が低いんじゃないかしらね」

 

「しかし、本物であるとも断定はできませんな」

 

「……」

 

 二人共、相手の考えを読もうとするかのように対峙し合う。

 相手が果たして自分にとって都合の良い存在であるのかと黙考する。

 

「……」

 

「……ま、今回は見逃したげる。

 私としても、このボソンジャンプのデータをまとめあげ、報告しないといけないし。

 それにあれを調べるのにも、どうやらそれ相応の施設が必要になるようだから」

 

「その報告書で会社で成り上がるおつもりですか」

 

「さあ? でも、ネルガルの会長派だったというだけで、あまり良い顔はされないわね。

 いつ、寝首をかかれるんじゃないかと、社長派の連中はおどおどしているぐらいだから」

 

「彼等は小心者ですからな」

 

「ふん、意見が合うじゃない」

 

「そういうところは……ですな。

 貴方がネルガルを裏切らなければ、今もネルガルは存在していたでしょうに」

 

「―――――こっちにも事情があるのよ。

 あんな潰れかけの会社に固執する程、愛社精神があったわけでもないから」

 

「いや、残念ですな」

 

「そう、ご期待に添えなくて悪かったわね」

 

 その言葉と同時にエリナは部屋から出て行こうとする。

 もはや語るようなことはないとばかりに、頑なに相手を拒絶して出て行く。

 

               シュインッ!

 

 部屋に入ってきた時と同様、ドアが開き、閉まる。

 そして、部屋の中にはプロスだけが残された。

 

「いやはや、クルーの皆さんには見せられない舞台裏ですな。

 また胃の穴が広がりそうですが……ここは一つ踏ん張り時でしょうな」

 

 そう、プロスは一人愚痴った。

 だが―――。

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、そうだったんだ」

 

 

 情報は駄々漏れであった!

 

 

 まだ出航時間まで時間がある為、人が少ないブリッジ。

 そこでメグミとルリが、先程の二人の会話を盗聴していた。

 

 あいも変わらず人の弱みを握るべく、情報集めを怠っていなかったらしい。

 実際には、盗聴の手伝いをしているルリは、したいと思っているわけではないのだが。

 

(ほうほう、本当にあれは掘り出し物だったということですか)

 

 顎に手を当てながら、愉快そうに口元を歪める。

 もう一方の手を手持ちぶさたなのか、ドクロマークの施された小瓶を弄ぶ。

 

 実に危なっかしい、今にも零れてしまいそうである。

 いや、このぞんざいな扱いではどこかで零れているかもしれない。

 

「あっ」

 

              ツルッ!!―――どくどく

 

「あーあ、こぼしちゃった。

 ま、少しぐらいだったら大丈夫か」

 

 良くないに決まっている。

 決まっているのだが――。

 

「よし、拭いておけばなんとかなるでしょ」

 

 なんてことを言って、メグミは片付けてしまう。

 そんな危ない行動を取っているメグミだが、ルリの方はチラッと見るだけで放っている。

 

 どうやらあまり係わり合いたくないのかもしれない。

 そんなルリの葛藤を余所に、メグミはウィンドウに映る映像を見ながら思う。

 

(まあ、でも。

 あれを売れば一財産ってことよね)

 

 なんとメグミは遺跡を売り飛ばすことを諦めていなかった。

 むしろ遺跡の意志など無視してしまって、売り払おうと企んでいたのだ。

 

(ま、何回も金儲けをする案は廃案になっちゃったけど、

 あれを高値で買い取ってくれそうなところを探せば良いか)

 

 脳裏を幾つかの会社が駆け巡る。

 

(どれにしようかな)

 

 普通の会社では、横流し品など訴えられて終了である。

 まだまだメグミは国家権力の御用になるつもりはない。

 

 それと売る物体がボソンジャンプを使用することができる意志を持ったものなのだ。

 だから、売り払う前にその意志を壊すことも考えないといけない。

 

(不穏な芽は取り除いておかないと。

 あのジジイくさいコンピュータは高値で売れそうにないし)

 

 実に正論であった。

 あの性格だけで商品価値を大幅に下げていそうである。

 

 と。

 

「あの、メグミさん」

 

「なぁに? ルリちゃん」

 

「プロスさんのお客さんも帰ってしまったことですし、

 もうオモイカネにプロスさんの部屋を覗き見させるのをやめさせても良いですか?」

 

「あー」

 

(―――ま、良いかな)

 

「良いよ、プロスさんの私生活を覗いても面白くもなんともないし。

 どうせカタカタ鳴らしているだけなんだから」

 

 そうメグミが言うと、なにやらルリが見詰めてきている。

 

「なに?」

 

「いいえ、なんでもないです」

 

「?」

 

 そうルリは言ったが、何やら考え事をしている様であった。

 いや、相変わらずの無表情なのだが、そういう心の機微にはメグミが敏感なのだ。

 

 腹黒いだけあり。

 

「何か悩み事でもあるのかな?

 お姉さんに話してみてよ」

 

「はあ」

 

「なんだか生返事だなあ。

 そんなに私に話すのが嫌だなんて、ショックぅ……」

 

「別に大した問題でもないですよ」

 

「それでも、私には話して欲しいかな。

 だって、ルリちゃんは私と共犯者なんだから」

 

「はあ」

 

 別にルリとしては、艦の中を覗くぐらいなんともないらしい。

 それは前いた研究所の研究では、実験体の精神状態、体調の管理の為、プライバシーはあまりなかったからである。

 

 だから盗聴の共犯者というところを言われても、中々口を割ろうとはしない。

 

「ほらほら、だから話してみてよ」

 

「……」

 

「……おいコラ、話せやゴラァ

 

「…………仕方が無いですね」

 

「うん、素直でよろしい♪」

 

「そうですか?」

 

「そうそう、ほらほら」

 

「ふう、じゃあ話しますけど」

 

「うんうん」

 

「さっき、プロスさんも話題にしていましたけど、クマのヌイグルミがいるじゃないですか。

 あれが悩みの種です」

 

「種?」

 

「そうです、英語ではSEEDですね。

 この間の戦闘で、あれは一気にナデシコの窮地を救いました。

 私がもっとナデシコをうまく扱えれば……」

 

 ルリの気持ちが現れているのか、顔を俯かせる。

 そんな態度を見ながら、メグミはフォローすべく口を開く。

 

「でも、あれはインチキくさいじゃない。

 ほらっ、ボソンジャンプっていう瞬間移動使ったんだから」

 

「それでも、本当だったらこんなに艦を大破させたらいけないんです!

 私のオペレートがもっと上手だったら、戦闘時にあんな無様なことにはならなかったかも」

 

「ルリちゃんは、ナデシコ全体のことをやってるんだよね。

 だったら、そんなに悩むようなことじゃないと思うんだけど」

 

「そういう重要な位置にいるんです。

 ―――――それに、私はそれを要求されてきたのだから」

 

「あ」

 

 思わず言葉を口をついて出てしまう。

 ルリが一体何を悩んでいるかがわかってしまったからだ。

 

 しかもその悩みは根が深い。

 これまで研究所で求められてきて応えて来た能力が役不足なのかもしれないのだ。

 

「……」

 

(なんか考え過ぎなんじゃないかな。

 確かにナデシコはボロボロになったけど、誰も欠員を出していないんだから)

 

 それに加え、多勢に無勢というものだった。

 幾らナデシコが最新鋭の戦艦だったとしても、あの宇宙を覆い尽くすような大軍勢を相手に無傷でいられない。

 

 いや、たとえ別の誰かであったならば、結果は変わっていた可能性もある。 

 つまりナデシコが撃墜されていたという可能性だ。

 

「もしかしたら私よりも上手にオペレートできる人がいるんじゃないでしょうか?」

 

 と、顔を俯かせたままルリが言葉を紡ぐ。

 

「は?」

 

「そもそも私がネルガルに選ばれたのだって、ただ年長というだけの話です。

 選考の時点では、私より幼いですけど、何人かの子があがっていたんですから」

 

 どうやって知ったのかは、言うまでもないことだろう。

 ルリに備えられた能力を用いれば、容易に知ることができるのだから。

 

「だから―――」

 

 だから、メグミはルリにハンカチを押し当てた。

 

「モ、モガ!?―――く、くしゅん!

 な、何をするんですか!?」

 

「ルリちゃんは本当になんでもできるんだね」

 

「は?」

 

「ルリちゃんは小さい頃から期待を背負ってそれに応えて来たんだよね。

 ルリちゃんにとって知れないことはない、どんな情報だって知れるんだよね」

 

「なんですか、それは」

 

「だって、そういうことなんだよね。

 今までこなしてこれたことが、できなくなったからって愚痴ってんだよね」

 

「そんなこと―――」

 

「いいえ!!

 ルリちゃんは確かにそういうことを言ってるんだと思うよ。

 ルリちゃんにとって、艦の操艦なんてものは出来て当たり前のものなんだって」

 

「だって、そうじゃないですか」

 

「私達から見たら、ルリちゃんは凄いことをしてるんだよ?

 もっと胸を張っても良いことをしたんだよ? だから、そんな風に考えなくても良いの」

 

 メグミはそう、ルリを諭した。

 だが―――。

 

 

 

 

 

 

 

「だけど、私からこれを取ったら何が残るって言うんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 その問いかけは、何度も自問したことなのだろう。

 常人と違う能力を抱えた体、それが齎す他者の奇異な目付き。

 

 果たして、この小さい体の中で何度自問したのだろうか。

 

「人より丈夫な体ですか?

 それとも普通持つことができない色ですか?」

 

 通常、人間が持ち得ない色彩を持ち合わせてしまった。

 その己の意思とは違うところで、体が作られてしまっている。

 

 しかも研究所では、実験を、成長を、成功を、能力を、これまで求められてきたのだ。

 

(ナデシコに乗ってから、うまくいっていない。

 そこをヌイグルミがうまいことやったものだから、スネてるんだ)

 

 そして―――。

 

「そっか、そんなことで悩んでたんだ」

 

 そう、メグミは悪い人なのだ。

 

「そんなことって」

 

「だぁかぁらぁ!!

 たった少しうまくいかなかったらからって文句垂れないの!!

 誰でもいきなり本番で完璧に事を済ませれるわけがないんだから!!」

 

「―――」

 

「だいたいまだ無くしてないでしょう!?

 そんなこと考えて、勝手に落ち込んだりしないの!!」

 

「―――」

 

「ルリちゃんに比べたら、私達大人のクルーは一体どうなるの!?

 ぜぇーんいん揃ってようやくナデシコを動かすのが可能だっていうのに!!」

 

 ガァッと言い募る。

 その迫力に押されたのか、ルリは言葉に詰まった様子であった。

 

「う―――」

 

「まったく、何を悩んでいるのかと思えば」

 

 目の前でこうべを垂れているルリを見る。

 

 小さい頃からの教育で大抵のことは、易々とこなしてこれたのだろう。

 それに加え、最近では盗聴という卑屈な作業をメグミがやらせてきた。

 

 そのことがストレスとなって噴出したのだろう。

 

(ま、良いガス抜きにはなったかな?)

 

 そんなことを思う。

 実際には、子供の癇癪を大人の理論で封殺したに等しいのだが。

 

「ん?」

 

 ふと薬を落とした場所が視界に入った。

 その瞬間、メグミの中で一つの考えが浮かんだ。

 

 手の中で弄んでいた小瓶を見る。

 

(もしかして今回の一件って薬のせいなのかな。

 このイネスさんの医務室から持ってきた薬が関係していたりして)

 

 それもある

 

 実はこの小瓶の中身、精神関係の薬だったりする。

 だから日頃、クールに振舞っていたルリがああいう態度に出たのだろう。

 

 実際、ルリは人との付き合いが希薄な為、あまり自分の悩みを人にぶつけるようなことはしない。

 精々がそっぽを向くぐらいのものであろう。

 

 それがあんな風に感情でぶつかってくるということは、

 やはり小瓶に入っている薬が微量ながら漏れ出ていたのかもしれない。

 

 その為、メグミは手の中で弄んでいた小瓶が急におどろおどろしさを増した気がした。

 

(まっ、私は耐性をきちんと付けてるし。

 こんな気分を落とすだけの薬に負けないわよ)

 

 と、気楽に考える。

 ていうか、耐性がついていたから粗雑に小瓶を扱っていたらしい。

 

 メグミ、恐ろしい娘!

 

(やれやれ、今回は解毒薬を染み込ませたハンカチを持っていて良かったかな。

 確信はなかったけど……)

 

 一応、ドンピシャリである。

 

(まあ……でも、もっと強力なものを持ち歩こうかな。

 イネスさんのラボから失敬した薬はまだ他にもあったことだし)

 

 ポンポンと苦笑いを浮かべながらメグミがルリの頭を撫でた。

 こんな微笑ましい態度を取りながら腹の中では、このような危険なことを考えている。

 

 と。

 

               シュインッ!

 

「ん、お前等何やっとるんじゃ?」

 

「げっ」

 

 原因の一つである遺跡がブリッジに入ってくると同時にメグミは嫌そうな声をあげた。

 

 

 

 

 

 その頃、地球にあるクラウン本社。

 

 そこでは、クラウンが連合に提供する新商品を用意しているところであった。

 新商品の名前、それはフラクタルという。

 

「エヘヘ、これを連合に提供することになったから」

 

 ラピスがそう言い、漆黒の巨人を指差す。

 それは以前、サツキミドリ2号を襲った時とは別の機体に見えるように処理が施されていた。

 

「どこかで見たことがあるような」

 

 そう、イツキは知っている。

 

 この機体がサツキミドリ2号でテロリストまがいのことを行ったということを。

 そして、その後、何処かへと姿をくらましてしまったということを知っているのだ。

 

「―――それで、これをどうするんですか?」

 

 しかし、遂にイツキは思い出すことができなかった。

 

「えぇっと、どうしよっかなぁ」

 

「はぐらかさないでください!!

 この機体、もしかして私が乗れ―――」

 

「それはないよ」

 

「少しぐらい期待持たせてくれても良いじゃないですか!!」

 

「これは軍が使うものだから。

 まあ、でも、そんなに長い付き合いにはならないと思うよ」

 

 そう言うと、ラピスはフラクタルを見上げる。

 漆黒の機体は、静かに出番が来るのを待っていた。

 

 

 

 18話にジャンプ!

 

 

あとがき

『影(シャドウ)』第17話でした。

前回よりも毒々しさが増しました。

 

まったく、メグ様のヤクは本当にシャレになりませんね!(核爆)

……イネス印ですけど。

 

でも、次話ではいつもどおりの予定です。

 

>代理人さん

もう連載を開始してから4年も経っているんですよね。

Benさんの「時の流れに」に触発されて投稿し始めてからそんなに経ちましたか。

 

待っていただいてるうちが華だと思いますし、完結に向けて頑張っていきたいと思います。

 

 

 

代理人の感想

実をゆーと、ガスマスク大活躍、ミユキくん不幸! のコメディ展開が好きだったので最近は少々寂しかったりしますが、ギャグを書くのはかなりの気力を必要とするのでしょうがないのかなぁ。

とまれ、続きは今でも待ってますので頑張ってくださいね。