奴だ! 奴が来る!!

 奴の名前は―――――ッ!!

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

「それじゃあ、北極の方へ行きます!」

 

 その掛け声と共に、ナデシコが発進する。

 船体後部から火の軌跡を残しつつ、これからの任務の為に颯爽と走り出していく。

 

 まず最初の任務、それは人命救助である。

 

 クリムゾンのお偉いさんから送られてきた書類、軍の命令書には最初の項目にそう書かれていた。

 それを見たナデシコの面々は、つくづく人命救助に縁があると思ったことだ。

 

 しかし……、

 

 火星の避難民を救出する為に出発―――結果、先に誰かが助けていた。

 北極の遭難した親善大使を救出――――熊。

 

 なんとも報われない話であった

 

 人命を救ったのは、強いて言えばイネスぐらいなものなのである。

 それも希代のマッドサイエンティスト、曰く改造人間の大首領なんて人物をだ。

 

 まさに、まさに報われない。

 報われないのカーニバルサンバである。

 

 さて、そんなわけで、ナデシコは颯爽と熊命救助へ向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 移動中のナデシコ。

 そのブリッジでは、これからのルートについて話し合いが行われていた。

 

 以前、ここを訪れた連合が木星トカゲにボコボコな目に遭わされ、

 しかも逃げ帰る時に親善大使を置き去りにしてしまったということだからだ。

 

 実際、熊としては、いつも通りデータを観測していただけなのだろう。

 その境遇を悲しんでやるべきなのか、それとも怒ってやるべきなのだろうか。

 

「こちらのルートを通ると、敵に多く遭遇しますが直通ですな。

 しかし、もう一方のルートだと、敵に遭遇しにくいですが遠回りになります」

 

 床モニターのマップを指差しながらプロスがそう解説する。

 このルートの選択こそが、今後のナデシコの境遇を左右すると言っても過言ではない。

 

「艦長、どっちにするんだ?」

 

 ゴートが問い掛ける。

 

「うーん」

 

 その問いに対して、ユリカが唸る。

 やはり親善大使救助に関することなので、考えねばならないことがたくさんあるのだろう。

 

 ルートの選択。

 ここでナデシコの戦力と相手の戦力を見誤った場合、苦しい救助作業になりそうであった。

 

 だから、ユリカは必死に唸っているに違いない。

 

「ねえ、プロスさん」

 

 暫く唸った後、口を開いた。

 どうやら考えがまとまったらしい。

 

「はい、どちらになさいますか?」

 

 

「やっぱりパーティにドレスは付き物だと思うんですよ。

 そうは思いませんか?」

 

 

「は?」

 

 突然の言葉にブリッジに集まっていた全員の動きが止まる。

 概ね、その表情に浮かんでいるのは、またかという風であった。

 

「……あの、何ですか?」

 

「プロジェクトも一旦終了したんですからパーッとパーティするんじゃないですか。

 もうホウメイさんに料理を頼んでますし、会場もナデシコの一室を確保してありますよ」

 

「何をおっしゃられているのですかな?」

 

「だから、そのパーティで着るドレスのことですよ!

 そこでアキトが好きな方が良いと思いまして、そこでどういうのが良いのかと参考に」

 

「……」

 

「……あの、やっぱりダメですか?」

 

「艦長?」

 

「はい」

 

               がしっ

 

 肩をがっしりとプロスに掴まれる。

 

「私も達観してきたと思っていたんですが、まだまだ未熟のようでしたな」

 

「あの、プロスさん?」

 

「いやいや、実にユニークなことをおっしゃられる。

 未だに艦長は、御自分の艦の現状を知らないと見えますな」

 

「えぇっと、プロスさーん?」

 

「はっはっは。いえいえ、パーティ、大いに結構ですよ。

 その代わりと言ってはなんですが、艦長にこれからバリバリ働いてもらわないと」

 

「え、あの、それは、ちょっと。

 ほら、私ってアキトの看病もありますから」

 

「艦長が艦長の仕事を全うしてくれたら私も考えましょう。

 ただし、今の現状ではそういうわけには参りませんな……では」

 

「え―――」

 

「それそれそれ!!」

 

               ピピピピピピッ!!!!!

 

 目にも止まらぬ速さでプロスが端末を操作する。

 すると、地面に設置されていたモニターがユリカの勤務予定表へと変わった。

 

 そこに今後の艦内にある雑務、蛍光灯の取替え、

 トイレの掃除、書類整理、倉庫の片付け、等々、諸々を付け加えていく。

 

 とても広い艦内を一人で出来るとは思えない量であった。

 

「プロスさん、酷い!

 鬼! 悪魔! 産廃! 胃液過剰!」

 

「別に一日でやれとは言ってませんよ!!

 それに艦長の方が酷いこと言っている気がしますけど!!」

 

「だってだってぇ、こんなのあんまりじゃないですか。

 アキトとオーロラを見ながら過ごすという私の計画が丸潰れですよ」

 

「良いですか、艦長?

 私も鬼じゃないんです。というかですね、艦長が仕事をこなしてくれたらそれで良いんです」

 

 穏やかな目つきでプロスがユリカを諭す。

 内心はそんな穏やかなものではなく、嵐の如く荒れ狂っているが。

 

 そんなプロスの仏の如き諭しに対し、ユリカはと言うと―――、

 

 

「仕事だったら、こなしてますよ?」

 

 

(((((それはないだろう)))))

 

 

 ブリッジにいる全員の心の声が聞こえてくるようであった。

 それ程、ユリカの普段の言動からは、遠い言葉なのだ。

 

 ユリカがクルーの信頼を得る日は遠い。

 

「……もう良いです。

 艦長を怒るだけ無駄ということは分かってきていましたから……」

 

 妙に煤けた背中をしながらプロスがそう呟く。

 そんなプロスを見かねたのか、周りで見ていたクルーが次々と励ましの言葉をかけてくる。

 

「プロスさん、元気出してくださいよ」

「そうそう、何事も諦めが肝心!」

「ふふっ、何もないぜ、ジョウ……無情」

「ミスター、良い胃薬を見つけておいた。飲め」

 

 微妙に励ましになっていないが、どうやら心配しているという気持ちは伝わったらしい。

 今一つ納得していない表情ながらも、プロスも気持ちが上向いたようだ。

 

「やれやれ」

 

 そう呟きながら、プロスが首を振る。

 

「まったく涙が出ますな。

 しかしですなあ、皆さん」

 

「はーい」

 

「作戦行動中に床に座ったりしないでくれますかな?」

 

「えー」

 

 二人のやり取りですっかりダラけてしまい、クルーの何人かは床に座り込んでいたのだ。

 そんなプロスの言葉に対し、やはり渋々という風に立ち上がり始める。

 

「まったく……皆さん、少しは精進という言葉を知っているのですか?

 このままだとナデシコは、さしたる成果もあげていない戦艦ということになるのに」

 

「っ」

 

 その言葉にルリが身を硬くするが、プロスはさらに言葉を続けようとする。

 そうして気にせずに進めようとしたのだが―――、

 

「ルリちゃん、まだ気にしてるの?」

 

「メグミさんには、分からないですよ。

 放っておいてください」

 

 ぷいっとルリがメグミの方向から顔を背ける。

 そんなルリの態度が気に食わなかったのだろう。

 

 メグミがルリの左右両方のほっぺを掴むとグリグリ動かした。

 

               ぐりぐりぐり

 

「このこのこの!」

 

「……痛いです」

 

 そんなメグミの暴挙に対し、ルリはそう呟き抗議する。

 だけど、そんな上目遣いで抗議されてもメグミとしては、さらに嗜虐心が掻き立てられるだけであった。

 

「おりゃあ!」

 

「メグミさん?」

 

               こちょこちょこちょ……

 

 メグミのダイナミックな手付きがルリの脇などを侵食していく。

 そんなメグミの攻勢に対し、ルリは顔を紅潮させながらも耐えている。

 

                こちょこちょこちょ……

 

「そろそろ限界なんじゃないのかなあ」

 

                 こちょこちょこちょ……

 

「―――――っ」

 

 

「そこ、じゃれあわない!!」

 

 

 と、二人でじゃれあい始めた為に、またプロスは話を中断しなくてはならなくなったのだ。

 いい加減、頭の上からピーッと湯気が飛び出しそうな勢いである。

 

「あぁーぁ、怒られちゃった。

 ルリちゃんのせいだよ」

 

「……メグミさんのせいです」

 

「両方です」

 

「……チッ」

「……」

 

「まったく、皆さん何を考えていらっしゃるのやら。

 たった二つのルートを選ぶだけでこんなに大騒ぎをするとは」

 

 しかし、それはメグミとルリだけが例外ではなかった。

 他のブリッジに集まっているクルーも、各自でやりたい放題である。

 

 ウクレレの調整をしたり、妙なロボットをイジっていたり、

 と、まさに収拾のつかない状態になってしまっているのだ。

 

「ふう」

 

 そんないよいよもって、大騒ぎに発展しそうだったので、

 一旦プロスは場を静めることに決め、パンパンと手を叩いた。

 

 いや、床を叩いた。

 

 

               ドゴン!!

 

 

 さすがに金属製の床をへこますだけあり、大層な音であった。

 そんな音を鳴らしたかいはあり、全員不思議そうにプロスを見ている。

 

「良いですか!?

 こんなどっちを選ぶかだけで、こんなに時間を割かないでください!!」

 

「は、はあ」

 

「はい、ちゃっちゃと選んでください!!」

 

「お、怒らないでくださいよ。

 そ、それじゃあ、別にわざわざ敵に会いに行かなくても良いですよね。

 だから、ナデシコは遠回りのルートで行きましょう!」

 

「ようやく決まりましたね。

 それでは―――――、

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ったァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

「……何事ですか?」

 

 突然、会話を切り裂いたバカでかい声にプロスが疑問の声をあげる。

 そんなプロスを笑うかのように、さらに声は畳み掛けるように艦内中に流れていく。

 

「みんな、分かっちゃいねぇなあ!!

 虎穴に入らずんば、なんとかってなあこの事だぜ!!」

 

「えっと、ヤマダさん?」

 

「ダイゴウジ・ガイだ!!」

 

 

「艦長、ブリッジの真上に人の姿があります。

 どうやらヤマ「ダイゴウジ・ガイだ!」が、艦外へと出ているようです」

 

 

「なんで、わざわざ―――」

 

 

「格好良いと思ったからに決まっているだろ!!

 ビジュアル面ってのは重要なことだからな!!」

 

 

 無駄に暑苦しい顔がブリッジの大画面モニターに映る。

 今にも画面から飛び出すのではないかというぐらいの勢いであった。

 

「は、はあ」

 

 だが、そんな勢いとは別に、先程の台詞は情けないものがあった。

 

 と。

 そんなガイの突然の登場に面食らっていたプロスであったが、

 そんなところにガイがいてはいけないという状況にようやく気付いた。

 

「ヤマ「ダイゴウジ・ガイだ!」、妙に静かだと思ったらそんなところにいたんですか!!

 きちんと集会には参加してくださいよ!!」

 

「そんなことは置いとけ!!

 それよりもなんだ!? 今の決定は!!」

 

「流さないでください!!」

 

「んー、何か悪いことでもありましたか?」

 

「チッ、チッ、チッ!!(指振り)

 言っただろ!? えぇっと虎穴……うん、まあそんな感じだ!!

 良いか!? 人がそこで助けを求めているって言うのに、助けないなんてナンセンスだろ!?」

 

「は、はあ」

 

 全員を代表してユリカがぼけぼけっとした返答を返す。

 と、そんな返答がガイには許せなかったようであった。

 

 

「なんてやる気のない声だよ!! 腹から声を出せ!!

 意識をハッキリさせろ!! こころを熱く保つんだぁぁぁ!!」

 

 

「え、えぇっと」

 

 

「気合だぁぁぁ!! 気合を入れろぉぉぉ!!

 俺達のこの手に人の命が掛かってるんだからなぁぁぁ!!」

 

 

「あ、あの」

 

 

「ウォォォ!! バァァニィィングゥゥゥ!!」

 

 

「や、ヤマダさーん?」

 

 

 ガイの瞳の奥で炎がメラメラと燃え盛る。

 否! 背後にすら巨大な炎の幻影を背負っていた!

 

 この人命救助というヒーローに付きものの展開をこの男が見逃すはずがなかったのだ。

 そう、これは言わば必然! 起こるべくして起こったことなのだ!

 

 

「燃えてきたZEェェェ!!」

 

 

 拳を高々と天高く突き上げる。

 力が篭っているらしく、わなわなとその拳は震えていた。

 

「あ、あの、ヤマ「ダイゴウジ・ガイだ!!」

 あのですね……だから、どうしたいんですか?」

 

 そんな暑苦しい物体にユリカが尋ねる。

 すると、今まで無闇やたらに熱血していたガイがシュンと少しだけ熱が冷めた。

 

 赤く燃え上がっていた背後の炎の幻影も青い清浄な炎へと変色してしまう。

 

「見な!!(ビシィ!!)」

 

 そう言い放つと、流氷横たわる海の彼方を指差す。

 

「分かるだろ!? くぅ!!

 今もこの寒いところで誰かが俺達の助けを待っているということが!!」

 

「は、はあ」

 

「それなのに!! それなのにだ!!

 遠回りなんて悠長なこと言ってられるのかよっ!!!!!」

 

「!?」

 

 

「だから俺は行くぜ!!」

 

 

「ちょ、ヤマ「ダイゴウジ・ガイだ!」」

 

 もはやガイを止めるものは、何もない。

 艦橋部分よりダッと駆け出すと、そのまま宙へと身を乗り出す。

 

 その瞬間―――ッ!

 

 ガイの身を光りが包み込む。

 そう、それこそが地球から火星への道中で強制的に身につけた能力!

 

 

「変身ッ!」

 

 

 赤、青、黄の三色が彩る無骨なフォルムが誕生していく。

 そのガイの身を包み込むように展開していく装甲は、ナノマシンで構成されている。

 

 生身の体を中身とし、ナノマシンの装甲を外殻とした戦闘服なのだ。

 とても人類が開発したとは思えない、妙に高度なナノマシンであった。

 

「今行くぜ!!」

 

               ピュゥゥゥゥ、ザッポーン!!

 

 そして、そのまま海へと落下して行った。

 どうやらガイの予定では、空を飛んで行くはずが空を飛べなかったようだ。

 

「は、博士ぇー!」

 

 流氷へとしがみ付きながらガイが製作者を呼ぶ。

 もはやこうなると、ブリッジの面々はぼけっと成り行きを眺めているしかなかった。

 

 何のための集会だったのか、さっぱりである。

 

「はい、何?」

 

 ともかく、フラスコを振っていたイネスがコミュニケで応答する。

 ガイの方にもイネスの顔が映ったウィンドウが表示された。

 

「空は飛べないのか!?」

 

「飛べないわよ? 説明しましょう。そもそも空を飛ぶという機能自体が余分なのよ。良い? 貴方単体で飛ぶという機能をつけたら、一体何の為に巨大ロボットを製作しているのか分からなくなってしまうじゃないの。それに余分な機能をつけた場合、ナノマシンが覚えていられる形状の記憶というものにも限りがあるのだから不具合が生じてもおかしくないわね。補助脳を形成しているから、そこにデータを覚えこますとは言え、ナノマシンという微細な機械に命令を下すのにはかなりのデータ量が必要というわけ。まだまだそこのところは改良の余地があるし、もし飛行ユニットをナノマシンに覚えさせたとしても人間一人を飛ばすだけでもそれ相応のエネルギーが必要となるからあまり長距離の飛行には向いていないと思うわね。だから、現状の状態で満足しておくこと。今後、改良を加えていけば、それなりに希望通りの性能を持つことができるんじゃないかしら―――」

 

「も、もう結構です」

 

「あら、そう?」

 

               ピッ

 

「あの、で。

 ヤマ「ダイゴウジ・ガイだ!」は、何をされたいのでしょうか?」

 

 心底不思議そうにユリカが尋ねる。

 こんな海に落ち、流氷にしがみ付いている状態では、そう言われても仕方がない。

 

 とは言え、ガイにも考えがないわけがない。

 

「さっき言ったよな!?

 ロボを呼べば、空を飛ぶことができるって!!」

 

 そう、ユリカのウィンドウを押しのけて、イネスに尋ねる。

 

「そうね」

 

「じゃあ、呼ぶぜ!!

 宇宙以来だな……来い! ゲキガンガー!!」

 

               シーン

 

「あれ、来い! ゲキガンガー!!

 ……おい、博士!?」

 

「なんか気に入らなかったから、分解してしまったわ」

 

 

「なんですとぉー!!」

 

 

 巨大ロボ、描写もされないうちに変更である。

 だが、これでガイの気持ちとは裏腹に、この手は途絶えてしまった。

 

「くっ」

 

「まあまあ、ヤマダさんもナデシコで向いましょうよ。

 何も一人で突っ走っていくことは、ないんですから」

 

「くっ、ヒーローはな!!

 一人で駆けつけるもんなんだよ!!」

 

 フルフェイスを流氷にガンガンぶつけながらそう叫ぶ。

 

「そうだ!!

 ウリバタケ! こんな時の為に、何かないのか!?」

 

「あぁ?」

 

「あるだろ!? 作ってあるんだろ!?」

 

「―――班長、そういえばアレは」

 

「アレ?

 いや、んなことよりも、あいつがエステちゃんに乗れば済む話だろ」

 

「俺のポリシーだ!!

 この格好だと、リアルなタイプはダメなんだッ!!!!!」

 

 ガイの魂の叫びであった。

 

「なあ、俺が整備するエステちゃんを蹴るような奴に渡すのか?」

 

「良いじゃないですか。

 どうせ、合体機構のテストとかしてないんですから」

 

「んー、仕方ねぇなあ。テストを兼ねてだからな!?

 おらよ! お前なんかに勿体無いぐらいのベッピンさんなんだぞ!!」

 

 その言葉と同時に懐から出したスイッチを押す。

 

               ポチッ―――バシュン、バシュン!!

 

 すると、ナデシコの反重力リフトから大量の自動販売機が射出されていく。

 それもメーカーごっちゃまぜ、自動販売機というくくりでないといけないぐらいである。

 

 何故、自動販売機。

 それもどうやって射出口に来たのか。

 

 それは空を縦横無尽に駆け巡る自動販売機の下部を見れば分かる。

 そこには、巨大なエンジンが火を吹いており、しかも上下左右からは尾翼が発生していく。

 

 そして、ブリッジにいる全員、その光景を眺めている。

 

「……もしかしてナデシコにある自動販売機全部射出されたのかな」

 

 誰かがぽつりとそんな言葉を言った。

 

 

               ガキガキガキンッ!!

                  ジャキンッ! ジャキンッ!

                      ブブブッ―――ジャキーンッ!!!!!

 

 

 

自動販売機十六神合体爆誕!!

 

 

 

                 プシューッ!

                   シュシューッ!!

 

 今、新たな戦力がナデシコに生まれた。

 

 とても自動販売機が多数合体したとは思えない程、隙間のない装甲。

 さらに四角形だった元の形とは違う、ヘッド部分は無骨ながらも頼もしさすら覚える。

 

 そう、ゲキガンカッター、漫談(?)、GB、これまでの武装にも負けない。

 少し自動販売機で構成されているのが難ではあるが、ここに誕生したのであった。

 

「ふふっ」

 

 その自動販売機ロボを眺めながら、ガイが笑う。

 

「これならイケそうだー!!」

 

 流氷の上に立ち、叫ぶガイの声はどこまでも響き渡っていった。

 反面。

 

(((((うわぁぁぁ)))))

 

 と、成り行きを見守っていたナデシコは、溜息を深く漏らす。

 

「……あの人、絶対元気だよなあ」

 

 当然のことながら、溜息を漏らす集団に混じって、

 ミユキはガイの元気が有り余っている様子を見ながら呟いた。

 

 

 その2にジャンプ!