どこまでだっていけるさ、君と一緒なら。

 え、なに。地獄? あ―――ゴメン、ちょっと急用を思い出したよ。

 

 

 

 

 

機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

               バシュンッ!!

 

 突如、強襲してきた無人兵器はミサイルを発射した。

 バシュン、という音と共に装甲がはじけ、ミサイルがクルーへと向かっていく。

 

 当然、クルーも当たってなるものかと走り去る。

 だが、もちろんミサイルよりも早く走れるわけがない。

 

 どんどん双方の距離が縮まっていく。

 このまま何事もなく時間が進んだ場合、ミサイルがクルーを吹き飛ばしてしまうことは火を見るよりも明らかであった。

 

 そして、時間が進む。

 

               ドカーン!!

 

 爆発が起こった。

 しかし、爆発が起こったにも関わらず、クルーは元気に逃げ回っている。

 

 クルーは助かったのだ。

 ミサイルが爆発する前と変わらずに、全員爆走しまくっている。

 

「ふっ」

 

 その光景を眺めつつ、ガイが銃口に息を吹きかけた。

 逃げていくクルーを尻目に、ポーズを決めながら突っ立っている。

 

 その腕の部分だけが銃口のように変形していた。

 

「……仲間のピンチに立ち上がる。

 くぅぅぅぅ―――燃え燃えの展開じゃねぇか!!」

 

 しかも相変わらずのテンションを維持している。

 元々、島の温度は高いが、ガイの周りはさらに暑そうであった。

 

 実際、むさ苦しい。

 

 こういうシチュエーションになると、勝手に盛り上がる性質な為、

 今のような誰もが逃げ回っている状況にも関わらず、敵と戦おうとして燃えまくっている。

 

「今、戦えるのは、貴方しかいないから、

 逃げる時間だけでも良いから、稼いでちょうだい」

 

 そんなガイへと、背後から声をかけられる。

 

 声のした方を振り向く。

 そこにはリモコンを白衣へと仕舞い、他のクルーと一緒に立ち去っていくイネスの姿があった。

 

 他のクルーもガイに声を掛けながら立ち去っていく。

 ナデシコが破壊されてしまった為、まったく武装がないので逃げるしかないのだ。

 

 むしろ、邪魔になる可能性がある。

 

 と、そちらにばかり気を取られている場合ではない。

 また敵がミサイルを発射してくるとも限らないのだ。

 

 空に浮かんでいる敵へと向き直る。

 

「相手になってやるぜ!!

 どっからでもかかってきやがれ!!」

 

 言葉のわりには、焦らずに敵との直線上へと歩いていく。

 ぐるぐると腕を回転させ、体をほぐしつつ近づいていった。

 

               ピピッ!!

 

 対する無人兵器も、怪しい動きをする人間に気付いたのか。

 それとも、攻撃を無効化した相手が、ガイなのだと分かったのか。

 

 どちらかは定かではないが、こちらへと迫ってくる。

 

 その迫ってくる姿を見つめながら、ガイは余裕たっぷりに待ちかえる。

 自分へと敵が迫ってきているというのに、それを望んでいるような様子であった。

 

 そして、お決まりのセリフを叫ぶ。

 

 

「   変   身   !!」

 

 

 叫び声と共に、上空の無人兵器に向かって飛びかかる。

 何人かの逃げ回っていたクルーの頭上を飛び越え、敵との距離を詰めていく。

 

               ピピッ、バシューン!!

 

 だが、その近づく前に、敵からミサイルが発射された。

 先程までの大安売りとは違っており、一発のミサイルがガイに向かってくる。

 

「へっ、甘いぜ!!」

 

               ガシャッ!!

 

 肘からノズルが発生し、炎を噴き出した。

 その炎の勢いを利用して慣性に逆らい、空中でミサイルを迂回していく。

 

「ヨッシャア!!

 ―――――って、あれ?」

 

 避けた先には、ミサイルが待ち受けていた。

 

 どうやら先程のミサイルは、フェイントだったらしい。

 なぜなら、まだ数発のミサイルが、後を争うように迫ってきているのが見えたからだ。

 

 

「んぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

               ドカドカドカーンッ!!

 

 大きな花火が上がった。

 

 

 

 

 

 そんな空で発生した爆風だったが、地上にも少なからず影響を与えていた。

 メグミも影響を受けた一人で、風に煽られたおかげで地面へと倒れそうになってしまう。

 

「おっと」

 

 転びそうになった体勢を立て直し、まだ黒煙が漂う空を眺める。

 すると、黒煙や火花を払い落としながら、ガイが空を飛ぶ姿が見えた。

 

 そんなガイに対し、敵は容赦なく追撃のミサイルを発射していく。

 

 それに、またガイはぶち当たってしまい、空で爆発が起こった。

 そんな押されぎみな姿を見て、思わずメグミはため息を漏らす。

 

「やれやれ、ヤマダさんは、

 時間稼ぎもできないんですか」

 

 少し呆れたように、走りながらぼやく。

 

 しかし、直ぐにそちらへ割いていた意識を戻し、逃げることに集中する。

 風だけでなく、敵の攻撃で焦土と化した大地は走るのには適しているとは言いがたい。

 

 あの攻撃のせいで、地表が削れて土が顔を出している為だ。

 

「もう」

 

 走る度に汚れがつく、その不快さからメグミが眉を顰める。

 

「ん?」

 

 気になるものが視界の隅に映ったのは、そんな時であった。

 遠くへ逃げようと動かしていた足を止め、視界の隅に入ったものを見つめる。

 

(……あれは)

 

 見慣れた瑠璃色の髪がナデシコの残骸付近でうろうろしていた。

 遠目からは定かではないが、地面に転がった残骸を見て回っているようである。

 

 そんなルリの姿を見つめ―――、

 

(まっ、私には関係がないか)

 

 そう考えると、再び足を動かし始めた。

 しかし、まだ数歩も歩かないうちに、足を止めてしまう。

 

「……うーん」

 

 そう声をあげながら首を捻る。

 体が黒く汚れていくのも構わず、泥濘に転がった残骸を探る少女が見えた。

 

 近くで戦闘が起こっているのに、ルリは逃げようともしない。

 

 そんな姿を凝視しつつ、自分の三つ編みをいじりながら唸る。

 周りを走っていたクルーが、次々にメグミを追い抜いて走っていく。

 

 そして、力なく首を左右に振ってから、メグミはルリの元へと走り始めた。

 

「お、おい!!」

 

 向かう方向を変え、転進し始めたメグミを見てリョーコが声をあげる。

 周りで逃げるのに集中していたクルーも声に反応してメグミの方を見ていた。

 

 それに対し、軽く手を振って応えておく。

 

「先に行ってください!!

 ―――やれやれ、私ってお人好し」

 

「そんなわけ行くか!!

 おい、コラ!! どこ行くんだよ、オイ!!」

 

 メグミを追って、リョーコも方向転換する。

 そんな二人の姿を見てか、慌てた様子で周りにいた何人かのクルーも連れ戻そうと走り始めた。

 

 上空からの黒い光条。

 近くにいる無人兵器。

 

 不安な要素はたくさんあったが、それでもメグミはブツブツ文句を垂れながら向かっていった。

 数名のお供を連れて、怒声を浴びながら。

 

 

 

 

 

 訝しげに目を見張る。

 

 やや首を傾げつつ、幾つかあるモニターの一つに映った光景を見て疑問符を浮かべる。

 そこに映っている物体が俗に言う、戦隊物や変身ヒーロー物に出てくる物体であるからだ。

 

 つまり、南雲には知るよしもないが、ガイのドUPである。

 

(ビッグバリアを破壊するついでに、相転移炉式戦艦を撃破できたが、

 まさか、このような者が艦内に乗っているとはな……いや、搭載か?)

 

「うわっ、コスプレか?」

「これが地球の強化服なのかよ……羨ましい」

 

 ざわざわと、ブリッジはモニターに映し出されたガイのせいで騒がしい。

 その為、南雲は否応なしにガイのことを意識せねばならなかった。

 

(さて、どうしたものか―――ん?)

 

               プシュンッ!!

 

「いやあ、やってるねえ」

 

 そう軽口を言いながら、ヤマサキがブリッジに入ってくる。

 スーツの上に白衣を羽織るという格好の為、木連の中では目立っていた。

 

「ヤマサキ博士」

 

「改造を施した兵器、有効利用できているみたいだね。

 これで地球のどこにある施設も長距離から狙撃できるんだから楽なこと」

 

「ええ、博士方には感謝してます。

 だが、今は戦闘中……何用でブリッジへ?」

 

「そんなこと言わずに、どうせ敵さん攻撃に対処できないんでしょ?

 だったら、新兵器の初披露も終わったんだし、せっかくだからこれをね」

 

 ヤマサキが白衣の下からワインを差し出してくる。

 それに南雲は、さらに困惑したように戸惑ってしまう。

 

「どう?」

 

「今は、そういう場合ではないのですが」

 

「まあ、まあ。

 カンパイだけでもしようじゃないの」

 

 そう言い、ヤマサキは軽く酒瓶を振るった。

 迷惑そうに額に皺を寄せるが、名目上は草壁の客を無碍に扱うことは南雲にはできなかった。

 

 その為、

 

「カンパイ!」

「乾杯」

 

 二つのグラスが合わさり、澄んだ音を奏でる。

 その音に釣られるように周りのグラスも次々に音を立てていった。

 

 結局、ヤマサキに押されるような形で南雲は飲むはめになってしまっていた。

 

 そのことを恥じ、渋い顔をしつつも南雲は一つの映像へと目を移す。

 そこに映っていたのは、ビッグバリアが消失して丸裸になった地球の映像であった。

 

 脆い壁だったとは言え、地球を覆っていた盾は存在しない。

 

 今やどこを長距離射撃で狙おうとも、邪魔をするものはないのだ。

 しかも今頃、地球側が混乱している事を思えば、南雲は益々酔いが強くなるのを感じた。

 

「これも博士のおかげです。

 敵の防壁を物ともしない兵器とは」

 

 顔をやや赤く染めながらそう呟く。

 

 

「ああ、何しろ僕は天才だから」

 

 

 その南雲の言葉に対し、ヤマサキが臆面もなくそう言ってのける。

 しかも、相変わらずの人をくったような笑顔付きであった。

 

 そんなヤマサキの態度に対し、南雲は訝しげにヤマサキのことを見つめる。

 

(天才―――か、

 だが、その言葉だけで、あれだけのものが作れるのはおかしくないだろうか?)

 

 目の前に存在する脅威の天才からは、畏怖の念しか出てこない。

 

(そもそも教典に存在していたゲキガンガー3を見よう見真似で模倣するとはな。

 しかも性能では、今や紛い物扱いされてしまっているジンタイプを凌駕していた)

 

 艦外の様子を映すモニターへと視線を移す。

 そこにはナナフシ改が宇宙の色を阻害していた。

 

 ごてごてと飾らない無骨にして長大な砲塔。

 その砲塔を支える砲台に至っては、反動を無効化する為にとても肥大化してしまっている。

 

 まるでダルマに棒を突き刺したかのようであった。

 

 だが、その鋼鉄製の滑稽なオブジェから発射される攻撃は本物だ。

 

 モニターに映る戦果には、さしもの南雲でも怖じ気が走った。

 連射ができないことが、せめてもの欠陥と言ったところであろう。

 

 その証拠に、ナナフシ改は先程行った攻撃の熱を冷ましているところである。

 

(しかも、どういう原理で動いていることやら。

 ヤマサキ博士、敵に回すと怖い人物なのやもしれんな。

 今のうちになんらかの手を打つべきゃにゃのひゃいひゃう。

 きゃひ? いひゃん、いはん、こへたはらさへはのふもひょのやいのら)

 

 ぐにゃりと景色が歪む。

 

 先程グラスに注がれていたワインを飲んだことによる結果だった。

 酒に強い性質ではない為、たったあれだけの量で世界が遠くなってしまうのだろう。

 

 というか、果てしなく弱かった。

 

               ひっく!

 

「中佐ご機嫌だなあ」

「この後、地球側に降伏勧告をするはずだったのに、問題じゃないのか?」

「大丈夫だろ。まだあっちは地球からも飛び出せずにいるところだ」

 

(ひひゃのごひへい、へひゃひょんひょーひょーもいふんやはら、

 てんひゃいがいひゃとひょろでなんはもんひゃいがないか……)

 

 ぐるぐると視界が回る。

 もはや立っているのも辛いぐらいに、自分の足場が不確かになってしまっていた。

 

 そこで疑問にぶち当たる。

 

(むっ、こんなに酒に弱かっただろうか)

 

 バケツいっぱいの冷水を思いっきりかけられたように、意識が鮮明になっていく。

 だが、一旦浮上した理性も、ぐるぐる回転する視界にやられ、意識下へと押し戻されてしまう。

 

               ぐー…

 

「ま、モニタリングはしっかりしとけよ」

「おう、わかってるって。んじゃ、カンパイ」

 

                 どさっ…

 

 

 

 

 

 残骸を漁っている少女へと近づく。

 近づいてわかったのは、残骸の中から何かを探し出そうとしているということだった。

 

 それが何なのかは、メグミには思いつかない。

 追いついてきたリョーコも、訝しげな表情を浮かべながらルリを見ていた。

 

 他のクルーも似たような表情をしている。

 

(なにやってるんだか)

 

              ドカーンッ!!

 

 だが、直ぐにそう離れていない場所から起こる爆発音に飛び跳ねた。

 今は悠長に考えている場合ではないと言い聞かせ、黙々と残骸を見て回るルリへと声をかける。

 

「ルリちゃん、行くよ」

 

「……」

 

 黙々と作業を続けている。

 

「オイ、何やってんだ」

 

「……」

 

 リョーコが声をかけても返事をしない。

 

(―――ふぅん?)

 

 そこでメグミはルリの格好へと視線を映す。

 

 見れば、既にルリが着ている制服は泥まみれになっていた。

 白いブラウスもオレンジ色の上着もどこかしら泥が付着している。

 

 下半分など言わずもがなだ。

 この付近は、さらに海の近くの為に土が海水で泥状になっている為に付き易い。

 

(しっかし、洗って落とせるのかな)

 

               ぐちゃり

 

 残骸を一個ずつ確認していくルリの顔を見る。

 汚れることなんて、関係がないと言う風に作業を続けていた。

 

「はあ―――ここは、危ないから行くよ」

 

 言うことを聞いてくれないので、ルリの手を引く。

 力ずくで連れて行こうとするメグミの姿を見て、他のクルーは元の方向へ走ろうとした。

 

「っ」

 

               ずるっ

 

「あれ?」

 

 連れて行こうとしたメグミであったが、ルリの抵抗に合い、手が離れてしまう。

 その反動でルリは、地面と激突してしまった。

 

「ルリちゃん?」

 

 呼びかけるが、興味ないらしい。

 泥濘の地面を歩いていき、手近な残骸へと近づいていく。

 

「ルリちゃーん」

 

 仕方がないので、三度呼びかける。

 こんな状況下で逃げ出さないルリに、少し呆れたように鼻を鳴らす。

 

 そんなやり取りをしている二人に、足を踏み出していた他のクルーが振り返る。

 

「何やってんだよ!!」

 

 リョーコが振り返りざま、そう声を張り上げた。

 そこで、ようやくルリは作業を中断して周りへと声を掛ける。

 

「私はやることがあるので、どうぞ逃げてください」

 

 メグミの方へと振り向きもせずに、そう答えてくる。

 逃げることよりも、残骸をいじることの方が大切らしい。

 

「まあ、私は逃げる気だったけど。

 だったら、ルリちゃんはどうするの?」

 

 一瞬、動きを止める。

 

「ここでオモイカネを探します」

 

「は?」

 

 辺りを見渡せば、ナデシコの残骸はどこまで散らばったか定かではない。

 それを一人で捜して回り、AIが詰まった部分を探し当てることなど無理であった。

 

 いや、オモイカネが無事であるかどうかも怪しいところだ。

 

 加えて、

 

               ドカーン!!

 

「のへはぁぁ!!」

 

 何度も響き渡ってくる爆音と悲鳴が探す余裕を与えてくれない。

 どんなに探し出す決意を固めていたとしても、時間の余裕はなかった。

 

「ほら、行くよ」

 

 探せる見込みがないと判断し、メグミはさっさと見切りをつける。

 そうルリを促したメグミの言葉だったが、またもルリは無視して残骸を見て回っていた。

 

               ぐちゃり

 

 泥濘があげる音が耳にこびりつく。

 上空で巻き起こる爆音が心を削り、日光がジリジリと身を焦がしていった。

 

 時間はない。

 

「諦めなよ。

 さっさと逃げないと―――」

 

「―――オモイカネは友達なんです」

 

「ん?」

 

「私の友達だから。

 だから、こんなことで諦めたくない」

 

「無事かどうかもわからないのに」

 

「それでもです」

 

 周りを見渡す。

 

 大暴れしている無人兵器と、どうしようかと考えあぐねているクルーの姿がある。

 まさかルリが逃げずに残骸を見て回ろうとしていたなどと考えもしなかったのだろう。

 

(見捨てて逃げれば良かったんだ)

 

 そう考える。

 

 だが、それだとルリはどうなったのだろうか。

 そんな考えが浮かぶが、まだ連れ出していないことを思い出す。

 

「なら―――探すの手伝ってあげようか?」

 

 そう提案する。

 

(ま、逆方向に逃げるだけなんだけどね。

 皆ジャングルの方に逃げてるけど、むしろ海の方に逃げるのが正解かも)

 

 要するに逃げていた流れと別方向に逃げれば良いと考えたからである。

 他のクルーはジャングルへと向かっていたが、残骸が散った海の方へと誘導すれば良いと思ったのだ。

 

 むしろ、他のクルーと別方向に逃げればオトリになる。

 

 加えて、オモイカネを探し続けた場合、どちらにせよ海には入らないといけない。

 何しろナデシコが停まっていたのは、浅瀬の部分だったのだ。

 

 爆発の影響で、どこまで飛んでいったのかなど見当もつかない。

 

 だから、オモイカネを探しながら別方向へと逃げるつもりだった。

 にっこり笑顔を顔に浮かべながら、ルリが答えるのを待つ。

 

 そして、ルリは少し考えてからこう答えた。

 

「結構です」

 

「―――えっと」

 

「……手伝ってくれなくて良いです。

 早く逃げてください、私のことなんかに関わっていたら危ないですよ」

 

「へえ、決意は固いんだ」

 

 確認するように、口を開く。

 

「そうです」

 

 それで会話は打ち切りとばかりに、再びオモイカネの探索をルリが開始する。

 

「オイ!!」

 

 遂に怒りが頂点に達したのか、腕まくりをしながらリョーコが迫る。

 

 それをメグミは手で制す。

 戸惑っている様子であったが、構っている暇はない。

 

 そう、ここでメグミはひとつの決意を固めていた。

 内心のことだったので、ルリにはわからなかっただろう。

 

 いや、そもそも後ろを向いているから、分かりようがなかった。

 その後ろ姿をメグミは眺めながら、ポケットから注射器と薬品を取り出す。

 

 手馴れた様子で薬品を注射器へと詰め込む。

 コンコンと軽く叩いてから、薬品を尖端から押し出してみる。

 

 そして、それをルリに射した。

 

 

 

 

 

ドッカーン!!

 

 

 

 

 

 上空で一際大きな爆発が巻き起こる。

 その音につられ、メグミは空を見上げた。

 

 空には今までよりも巨大な黒煙が、モクモクと大きく広がっていた。

 宇宙から放たれた攻撃のせいで、雲が少なくなった青空を塗りつぶしていく。

 

             ひゅー、ドグシャッ!!

 

 しかも、近くにガイが落ちてきた。

 爆発で空からぶっ飛ばされたガイは、受身も取れずに地面に首が埋まってしまっている。

 

 さらに敵もこちらへとやってくるのが見えた。

 

 その光景に、慌てて寝ているルリを背負って逃げようとする。

 だが、思っていたよりも軽かったから、勢いが付き過ぎて前のめりになった。

 

「うわっと、ふう」

 

 なんとか堪えたおかげで、倒れずに済む。

 だが、体勢を整えているあいだに、戦場は近くへと降りてきてしまっていた。

 

 連鎖するように巻き起こる爆発。

 地面を覆うように広がる煙。

 

「っ」

 

 チリチリと身を焦がす空気。

 

 背中の重さの感覚のなさに、落としたのかと体を冷や汗が伝う。

 いつ相手の目標がこちらへと変わるかもしれないかと思い、肝を冷やす。

 

 だから、目の前にいた味方へと声をかけた。

 

「ヤマダさん!!

 後はお任せしました!!」

 

 そう言ってから走り出す。

 振り向くこともしないで、一目散に戦場を脱した。

 

 周りを必死に走っている他のクルーの姿など気にしている暇もない。

 

 

 

 

 

「―――――」

 

 唐突なメグミの頼みだったが、残念ながらガイは聞いていなかった。

 まだ、この時には地面に突き刺さった状態だった為に、聞き取れなかったのだ。

 

 爆発が起こる。

 その衝撃で吹き飛ばされ、黒煙と一緒にガイの体が宙を舞う。

 

 その時であった。

 

 首が地面から離れた時に、逃げ始めた数人のクルーの姿を見てしまう。

 爆発に煽られるようにつんのめりながら、この場から離れようとしている。

 

 だが、いかんせん敵の速さに比べて遅い。

 このままだと、戦闘に巻き込まれてしまう可能性が十分にあった。

 

 

「俺がやられているからか。OK、OK、わかったぜ、子供達。

 へ、へへっ―――――やぁぁってやるよぉぉ!!」

 

 

 泥濘を蹴り付け、飛び跳ねるように敵へと突撃していった。

 まるでダメージなど受けていないかのように、素早い動きで敵を翻弄していく。

 

 空を駆け、敵の攻撃を避ける。

 否、もはやミサイルなど遅すぎて避けているとも言いがたい。

 

 敵の情報媒体の認識能力よりも疾く駆け、残像だけが敵のモニターにこびりつく。

 否、残像すら残すことすら飽き足らない。

 

 さらに、さらに光と音の世界へと走り抜けていく。

 

               ドゴンッ!!

 

 ガイの放ったアッパーが敵を捉え、上へと飛ばす。

 

 

 

 

 

「ガイ・スーパー・アッパーッ!!」

 

 

 

 

 

 些細な事からガイは、己の限界を超えた能力を発揮していた。

 ―――どこまでもヒーロー気質な男であった。

 

 

 その2にジャンプ!!

 

 

 

後書き

少しずつでも先に進むことに決めました。

来週にでも「その2」を投稿しようと思っています。

 

>代理人さん

最終回に関する情報は渡しませんよ(笑)

 

なにしろ、ラストは見えているのですがそこに辿りつくまでが長いので、

半端な情報を流した場合、自分で自分の首を絞めてしまう気がするんです。

 

感想代理人プロフィール

戻る

 

 

代理人の感想

おー。

真っ当に・・・ではないかもしれないけど、見せ場を貰うガイってこの話では初めてだったかも(笑)。

でも、これまで目立たなかったキャラがいきなり見せ場を貰うと命が危ないんですよね(爆)。

ガイが目立たなかったかどうかについてはかなり異論もあるでしょうが。