機動戦艦ナデシコ

『影(シャドウ)』

 

 

 

 

 

 ミユキは、医務室に引きずられながら連れてこられた。

 

 腕を強引に引っ張り、アクアは中へと入っていく。

 部屋の中には人がおらず、病人以外は出払っているようであった。

 

 ベッドの一つに向かう。

 締め切られた白いカーテンを、シャッと音を立てながら開ける。

 

 そこで寝ているのは、アキトだった。

 もう負傷したケガの治療は終えたらしく、ここで寝かせられているらしい。

 

 未だに顔の上には、ガスマスクが被せられている。

 

 ベッドに寝かされているアキトには、意識がない。

 ナデシコの医務室に来た理由、それが何かはミユキもわかってきた。

 

 アクアの目的は、何度も本人が語って来ている。

 

「さあ、貴方の出番ですよ」

 

 笑いかけながら、殺すように言ってくる。

 彼女の内には、世界に影響を与えるものとしてのアキトしか見えていない。

 

 そこにある関係も、他人の心も判らなかった。

 あるのは、影響を与える存在が不快であるということだけである。

 

「もちろん、殺すと言っても、普通に殺すわけではないんです。

 貴方が持っている世界の歪みを、この本人に返して欲しいんです」

 

「歪みを返す?」

 

「ええ、結果として、殺すことにはなるでしょう。

 世界の歪みを、人の身で受け入れるということはできませんから」

 

 白熱灯に照らし出された顔は、狂気が映し出されていた。

 

 目に見えないものに怯えている。

 世界の歪みや悲劇が訪れないこと、アクアは目に映らないものを追っていた。

 

 だが、縋るように見てくる目には、応えられない。

 

 聞かされている世界の歪みとは、何なのかを実感できていなかった。

 それに、実行した時には目の前で眠っているアキトが死ぬと言っている。

 

「そんなこと、私にはできませんよ」

 

「貴方は耐えられるというのですか?

 この世のありとあらゆる事象が、人の手による干渉で歪んでるんですよ?」

 

「……はあ」

 

 この言葉に付き合うことは、危険なことだった。

 眠る人間を世界の毒だと言うが、彼女の言葉は人の心を侵す毒でもある。

 

 毒をもって毒を制する、とはいかない。

 この毒は、そんな効果など期待できるような類ではないのだから。

 

「気の無い返事ですね。

 たとえば、事故でテラフォーミングが狂って、自然現象で人が死んだとします。

 他にも、不幸に嘆く人間を突き落とすような出来事があったとします」

 

「事故ですね」

 

「それが事故ではないんですよ!

 もしかしたら、この人が世界に与えた影響で、起こってしまった出来事かもしれない。

 いえ、他にも一緒に来た人達が、世界に与えたものなのかもしれない」

 

 話しているうちに興奮してきたのか、息が荒くなっている。

 弱々しく顔を手で覆いながら、罪深いものを見るような目付きでアキトを見ていた。

 

 運命を模倣するかのような人の業を、アクアは追求しようとしている。

 未来に起こる可能性があるからと、人が人を裁こうと言っていた。

 

「――そんなの」

 

 訳の分からないまま突きつけられた選択肢。

 でも、その選択肢をわざわざ望まれるままに選ぶ必要はなかった。

 

 未来の人為を怖がる女が縋ったのは、過去の罪業を悔いる女である。

 

 火を見るよりも、結果は明らかだった。

 今まで流されてきたことを振り切るように、首を横へと振る。

 

「しませんよ」

 

 その言葉を受けて、アクアは悪魔を見るような目付きで睨んできた。

 

「どうしてですか?」

 

「だって、怖いものなんて、そこら辺に転がっているじゃないですか。

 今更、何かが起こるからと慌てたからって、怖いものを避けれませんよ」

 

 自己の世界が、崩壊するような事など転がっている。

 この生活が始まってからのミユキにとっては、そのことだけが事実であった。

 

 胸の中に刻まれた亀裂は、関係ない。

 たとえ人の意が届かない場所から選択されたとしても、意味などなかった。

 

 そこにあるものは、受け入れないといけない。

 

「そんな。貴方が見てきたものこそ、干渉を受けたものなんですよ!」

 

「えっと、今まで私は逃げてきましたよ。

 意味が分からないものとか、怖いと思ったものからは。逃げ足だけは速いですから」

 

「? 何が言いたいんです」

 

「……でも、ずっと後悔してきましたから。

 これからは、流されるままだったことをやめていきたいと思うんです」

 

「ここまで私が頑張ったのは、この瞬間の為なんですよ?

 この人が無駄な抵抗をしないように、私は痛めつけたんですから」

 

「それは、どうも」

 

 ぽりぽりと、頬を指でかきながら感謝の意を示す。

 人に何かをしてもらうということは、くすぐったいものがあった。

 

 それが下向いたものでなかったら、真っ当に受け止めることもできただろう。

 

「本来あるべき姿ではないから、歪なんです。

 貴方がそう感じるのは、歪みが干渉しているからのはず」

 

「私が考えたことには、誰も口を挟ませません」

 

「……そうですか」

 

 気落ちしたように、がっくりと肩を落とす。

 その姿にミユキは、一抹の罪悪感を覚えないでもなかった。

 

 不安に押し潰されそうな姿は、自分自身にも覚えがある。

 

 弱者は他者の痛みを知る。

 だからこそ、アクアが苦しんでいる姿には、己のことのように感じていた。

 

「なら、何もしないと?」

 

「ええ」

 

「――それで、諦められるわけないでしょう。

 私は、悲劇を望んでいるんです。完膚なきまでの、悲劇を!」

 

「ちょ、ちょっと?」

 

 但し、他者との間に横たわる溝は、とても深いものである。

 少なくとも、アクアの目に映える狂気は、到底理解には及ばなかった。

 

 体に力を漲らせるかのように、足を踏み出してくる。

 

 一歩、一歩、ゆっくりと。

 蛇のように、獲物を逃さないように、アクアは壁に押しやってくる。

 

「ほう、その後はどうするつもりなのかのう」

 

 そうして追い詰められているところで、声が上から振ってきた。

 二人とも見上げると、天井からぶら下がっているヌイグルミの頭が見えた。

 

 明後日の方向を向きながら、ぼけっとぶら下がっている。

 今まで何をするでもなく、二人のやり取りを聞いていたのだろう。

 

「この後ですか?

 もちろんクリムゾンの全精力を傾けて、特異点の抽出に取り掛かりますよ」

 

 がしっと肩を掴みながら、アクアが返事をする。

 

「あの、助けてもらえます?」

 

 暗い笑みを浮かべる相手を見て、天井に貼り付く遺跡へ助けを請う。

 

 このままでは、人体実験の検体として解剖されかねない勢いだった。

 二人の諍いに興味がなさそうな遺跡は、見知らぬどこかへ視線を向けている。

 

「ま、ワシとしてもそれは了承できんな。

 何しろワシが受けた命令は、そいつらを元の場所へ戻すことだからのう」

 

「これだけの影響を受けたら、貴方達も只では済まないでしょう」

 

「知らんよ。

 ワシらは、演算をすることができればいいんだからのう」

 

 理解できないと、額に手を当てながら首を振った。

 

 遺跡に同意を求めることはできない。

 意志を与えられはしたが、その根幹にあるものは人とは異なっている。

 

 その行動原理は、自身の勤めを遂行することのみに捧げられていた。

 

「それに、お前さんがワシに助けを求めるのは間違いだろう。

 ワシに助けを求めるのは、先程のお前の言葉を裏切ることになるぞ」

 

「――わかりましたよ」

 

 掴みかかってきている手を、片方掴み返してから上へと掲げる。

 それから、相手に背中を向けるように回転しながら、背後で固めてしまう。

 

 素早く壁に体を押し付け、掴まなかった方の手も掴む。

 

「くっ!」

 

「これで良いんですか?」

 

 どこか自信なさげに、遺跡へと問う。

 今まで過ごしてきた中で、選択してこなかったことのツケだった。

 

「はっ、ヘタクソじゃのう!」

 

「ちょっと、何をやっているの!」

 

 自分が管理している病室で暴れているので、咎めに来たのだろう。

 やや呆れた視線を三人に送りながら、イネスが室内へと足を踏み入れてくる。

 

 背後の方では、ミユキが連れて行かれたのを心配してきたのか、

 エステバリスのパイロット達が、イネスの背後から隠れるように覗いていた。

 

「ここがどこだか、わかってやっているの?」

 

「っ、わかりました。

 わかりましたよっ」

 

 慌てながら拘束している手を離す。

 ここの管理をしている人間が、イネスだということが決めてであった。

 

 言うことを聞かなかった日には、改造される可能性があった。

 実例も、目の前にいる。

 

 改造された場合、ガイのような対応を取る自信はなかった。

 

「まったく、呆れたわね」

 

 病人の横で騒いでいた三人に、冷たい眼差しが向けられる。

 

「まったく、ワシにとっても戻さんといけないから、

 そう易々と殺すようなことは、ワシとしても許さんというのに」

 

 一番最初に口を開いたのは、遺跡であった。

 ミユキをのせるのは遺跡本人だというのに、責任転嫁をしようとしている。

 

 もごもごと嘘臭そうに口ごもっていた。

 

「じゃあ、助けてくれても良かったじゃないですか!」

 

「知るかい!

 こいつをベッドごと移動させてしまえば済むんだからのう!」

 

「人の話を聞いているのかしらね」

 

 口ゲンカが激しくなる二人に、イネスの眉が連動して動く。

 その怒りが蓄積している様子に、背後にいた人間が一人ずつ遠ざかる。

 

 一応、伊達で白衣を着ているわけではない様子であった。

 

「ははは、ははははっ!」

 

 その時、壊れた声が部屋の中に響き渡る。

 

 声の主はアクアだった。

 アキトの傍にやってきて、まだ顔に付けているガスマスクへと手をかけている。

 

 先程のミユキによる拘束がよほど堪えたのか、

 アクアは息を荒くしながら、ガスマスクを持つ手に力を加えている。

 

 実際には、ボロボロの為に取らなくても取れそうだった。

 少しだけ力を加えるだけで、ガスマスクは自然に外れるだろう。

 

「やめ――」

 

 その行動が示すところに気付いたイネスが、叫ぶ。

 ガスマスクの中にある顔は、アキトと同じであることを知っていた。

 

 背後でのんきに覗いているアキトと、寝ているアキトは同じ人間である。

 その二人が顔を合わせるということは、タイムパラドックスが酷くなるだろう。

 

 必死に手を伸ばすが、どうすることもできない。

 

 

 そして、簡単にガスマスクは外された。

 

 

 本来のガスを吸い込まない機能を果たさずに、顔から離れる。

 それを手に持ちながら、アクアは面白そうに忍び笑いを漏らす。

 

 今まで隠されてきた素顔に、皆が覗きこもうとする。

 

「ちょ、待ちなさい!」

 

 イネスが慌てながら言うが、視界を塞ぐものがないのだから仕方が無い。

 

 忠告に従って見ないようにしたとしても、視界の中に入ってしまう。

 その場にいた誰もが、ガスマスクの取れた顔を見てしまった。

 

「こ、こいつ」

 

 リョーコが困惑した声を漏らす。

 他の人間も、似たり寄ったりの顔付きをしながら、アキトの顔を凝視している。

 

 ベッドの上に寝ている顔は、アキトと瓜二つのものであった。

 

「もしかして、やばいんですか?」

 

 元から知っているミユキは、場の異様な雰囲気に困惑していた。

 同じように、上で少し焦っているように見える遺跡へと問いかける。

 

「さっ、ワシは逃げるとするかのう」

 

「あー、ちょっと!」

 

 動転しているのか、歩いて逃げようとする遺跡をミユキは止めた。

 

 藁にも縋る想いで、逃げようとする遺跡の頭を掴む。

 遺跡は、ボソンジャンプすることも忘れて手を振り払おうとする。

 

「貴方、なんてことしてくれたの」

 

 そんな中、イネスは軽率な行動を取ったアクアを睨む。

 

「手に入らないものは要りません!」

 

 それに対してアクアは、己を咎めるものに悲鳴をあげるように叫んだ。

 

「私は、悲劇の中にありたいんです!

 それなのに、誰もがいけないというのなら、世界を否定するしかないんです!」

 

「……貴方は」

 

「なんです? 悔しいんですか?

 もう遅いですよ。同じ人間が、二人もいるという矛盾が生じたんです。

 世界はきっと崩壊します。ええ、崩壊するはずなんですっ」

 

 終焉の時が訪れることに酔いながら、アクアは微笑む。

 世界が崩壊することに興奮して、頬を紅潮させながらその時を待つ。

 

「あ、あのさ」

 

 そんな、緊迫した雰囲気の中。

 

 

 

 

 

「――こいつ、誰?」

 

 

 

 

 

 決定的な言葉が、吐き出された。

 喉につかえてしまっているように、名前が出てこないらしい。

 

 アキトの顔を見たものは、思い出せない苦しみを味わっていた。

 

「そんな。なんですか、これは」

 

 この世界を崩壊させるのは、アキトとアキトがいることにあった。

 同じ人間が二人いるということを、認識することが引き金となっている。

 

 それを認識できないのでは、崩壊など起きない。

 

「いや、見たことはあるんだけどよう」

 

「んー、ここまで出掛かってるんだけどねえ」

 

 リョーコやヒカルが首を傾げる。

 その疑問に単純明快な答えを出してあげようと、一人の男が手をあげた。

 

「ふっ、皆。考える必要はねえ!

 目で見るな、感じるんだ! 心の眼で見れば、総てがわかる!

 こいつがキョアック星人ってことがなあ!」

 

「はいはい、少し黙っててねえ」

 

「……お前等、無視するなあ!」

 

 駄々をこね始めたガイをよそに、名前を思い出そうと寝ている人間を見ている。

 

 ある種、異様な光景が完成させられていた。

 全員が知らない人間を見ながら、名前を思い出そうとしているのである。

 

「なんか、どっかで見たことあるんだけどなあ」

 

 アキトの顔を見ながら、アキトが呟く。

 頭に両手を当てながら、記憶の底から探り出そうとしている。

 

 

「貴方がわからないのは問題でしょうが!?」

 

 

「え、なんで」

 

 アキトの反応を聞いて、ミユキがツッコミを入れる。

 

 判るものには、アキトの顔はベッドの上にいる人間と一緒なのだ。

 鏡を見れば同じ顔があるというのに、わからないと言うのは信じられなかった。

 

「嘘」

 

 そんな光景を、アクアはただ呆然としながら見ていた。

 

「ふむ、馬鹿な女だ。

 悲劇で包み隠しておきながら、心が弱いのを晒してしまうとはな」

 

「――え」

 

「腑抜けめ、自身の歪みを認めぬとはどういうことだ?

 己が行為を正当化してしまい、挙句の果てが自業自得とは笑える」

 

 声は、アクアの背後から聞こえている。

 

 淡々と語りながら、心の中へと土足で踏む込む。

 そうして強盗のように心へ押し入り、北辰は舌なめずりをした。

 

「無邪気ならば許される罪があるとでも思ったか。

 己の穢れた手を蔑視しろ。その泥に塗れた時にこそ、強い心は生まれるのだ」

 

「この!」

 

「――そら、何も掴めはしない。

 確たるものを持たぬものが何を得る。目障りだ、貴様は寝ていろ」

 

「――」

 

「あれ、さっきの人」

 

 ミユキは、いつのまにか部屋の中に入ってきた男を見つけた。

 正確には、アクアが床に倒れた音を聞いてから気付いた。

 

 先程からアキトのツッコミに専念しており、

 何やら不穏当なことがあったらしい光景を見て、たらりと汗が落ちる。

 

「……医者、貧血だ」

 

「……ま、そういうことにしておいてあげる」

 

 あまりの白々しさに、嘘であることがバレバレだった。

 

 イネスがアクアを抱えて、ベッドへと運んでいく。

 その様子を見ていると、ふと近くに気配を感じたミユキは振り返った。

 

 すると、北辰がいつのまにやら間近にまで接近していた。

 

「世界の歪みか。

 どうやら存外、この世は歪みを許容できる程には寛容らしい」

 

「え」

 

「自身の胸を見てみろ、愚鈍め。

 そのようなものを抱えておきながら、今まで気付きもしないとはな」

 

「げっ」

 

 指摘に従って胸を見てみると、胸には見慣れた体ではなく、黒い穴があった。

 

 深遠へと続く闇のように、底が見えない。

 どこへ通じているとも知れない穴は、中心へと渦を巻くように回転している。

 

 時空を歪める回転を目視できることは、異常であった。

 異常であったが、世界が急に消えて大騒ぎするようなものではない。

 

「あわわ、どうしよう」

 

「つい先刻の影響のようだ。

 遺跡の浅知恵に踊らされた者の手によって、世界が滅亡せぬよう気を付けろ」

 

「ええ! 結局、大事になるんですか?」

 

 北辰は、嘆くミユキに興味が失せてしまったようである。

 先程からわからないで悩んでいるアキトの傍に近寄っていった。

 

「――うお!」

 

 アキトは、北辰の顔を見た瞬間にのけぞる。

 背後に近寄られるまで、北辰の存在に気付かなかったらしい。

 

 ジロリと、北辰は立っているアキトと、寝ているアキトを交互に見る。

 それから、まるで面白い事実を知ったとばかりに、口元を歪めながら笑った。

 

「貴様、名を名乗れ」

 

「え、は?

 あの、俺の名前はテンカワ アキトですけど」

 

 手の甲に輝くIFSへと目を走らせてから、

 北辰は確認するように頷いてからこう続けた。

 

「機動兵器の操縦者か。

 修練を積み、腕を磨くがいい、貴様の未来には期待しているぞ」

 

「な、何を」

 

「また会おう、テンカワ アキト」

 

 もう用はないとばかりに、外套を翻して医務室から出て行く。

 その唐突に現れて去っていく姿に、部屋の誰もがぼけっと眺めていた。

 

 しかも、外から声が聞こえてくる。

 

 

「おっ、噂の親善大使様じゃねぇか!

 ようやく見つけたぜ。くそっ、廊下で倒れてた黒服どもの介抱に時間を食っちまった」

「……草壁め、何を考えている」

「ああ、それとこれリリーちゃん。

 なんかスピーチには不慣れらしいけど、この娘が手助けしてくれるって寸法だ」

「……仕方あるまい、命令には従う」

 

 

 そして、足音と共に声は聞こえなくなっていった。

 

「なんか変な人だね」

 

 ヒカルが、呆れたように言葉を発する。

 その言葉に同意するように、辺りで名前を思い出そうとしていた連中が頷く。

 

「……なんか俺は苦手だな」

 

 北辰が去っていった後を眺めながら、アキトが言った。

 

「お、テンカワ君。

 初対面の人間に対して悪口を言ってます」

 

「こら。陰口を叩くようなマネは感心しねえな」

 

 アキト自身も、自分の口にした言葉に驚いていた。

 あっとばかりに口を手で塞ぎながら、周囲で見ている相手を見渡す。

 

「まあまあ、いいんじゃない。

 テンカワ君は、艦長に好かれていればいいということでさ」

 

「バ! 何言ってるんだよ!」

 

「お、否定するのかなあ。

 まあそれだったら、好きな人でも発表してもらわないことにはねえ」

 

 どこから出したのか、扇を仰ぎながらヒカルが言ってくる。

 目付きまで先程出て行った男の目に負けず劣らず無駄に鋭かった。

 

 他の人に助けを求めようにも、毎度同じの孤立無援である。

 

「知るか! 好きな人ぐらいは自分で選ぶ!」

 

 恋愛ごとの厄介さが身に染みているアキトは、叫んだ。

 周りで何やら期待に満ちている視線を振り切り、腹の底から大声をあげた。

 

「えー、なんか私らが誘導尋問してるみたいな言い方だね」

 

 口を尖らせながらアキトに抗議する。

 その口による抗議にも飽きたのか、扇で突っついて遊び始めた。

 

 その横で、ミユキは胸にできたものが気になって触っていた。

 

 何度か触っては感触を確かめる。

 霞を触っているかのように不確かな触感が手から伝わってきた。

 

「あれ」

 

 突然、どんどん胸にできたものが小さくなっていく。

 ゆっくりと回転していた歪みの速度が、少しずつ遅くなっている。

 

 それと同時に、ベッドの上でボソンが弾けた。

 

 

「――会長?」

 

 

 たくさんの人がいる中、ベッドの上で寝ていた人間はいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 ――鬼ごっこはおしまいですか?

 

 

 懐かしい声が聞こえた。

 

 

 エピローグにジャンプ!

 

 

後書き

第一話から続いていた別世界での物語は、終了となります。

プロローグとエピローグだけ元の世界というヘンテコ構成になりました。

 

さて、今回というか前話からフラグの回収を行ってます。

その為、最終話その4ではあからさまなフラグ回収に走ってしまいました。

まだ残ってるのは、エピローグで回収となります。

本当に回収できるのかどうかは、エピローグの更新をお待ちいただければ幸いです。

 

>代理人さん

このような終わりとなりました。

元の世界から来た時とは違い、今後の展開が透けて見える構成になっています。

 

読んでいて盛り上がるような展開になったでしょうか?

アキトとアクアに関しては、このような結末になってしまいましたが。

 

○修正ver 1.01

句読点と目に付く矛盾を直してみました。

 

 

 

感想代理人プロフィール

戻る

 

 

 

 

代理人の感想

話は面白いんですが、文章に所々致命的な誤字脱字誤用係り違いが(苦笑)。

このその4でも冒頭でミユキが黒アキトの顔色を見ている割に

いつの間にか黒アキトがガスマスクを被っていたりと、矛盾めいた展開もあります。

さてはちゃんと文を寝かせず、推敲をやってなかったな?(爆)。

 

とは言え、強引でも意外に綺麗に話が纏まっているのも事実。

特にアクアの締めはかなり気に入ってしまいました。

エピローグも楽しみにしています。お疲れ様でした。