< 時の流れに福音を伝えし者 >

 

 

 

 

 

第九話.『奇跡の作戦「キスか?」・・・してないって、マジで(汗)』

ジロ〜〜〜・・・

 

 

 

 

 

「ウッ、グッ・・・」

 

 エントリープラグのハンドル触れて手が高熱で焼ける。

 それでも僕はハンドルを回す。

 これは初めて綾波の笑顔を見た時の夢・・・

 

 ガコン!!

 

 エントリープラグのハッチが開く。

 LCLが排出され中では綾波がぐったりと気を失っている。

 

「綾波!! 大丈夫!?」

 

「あ、うっ・・・」

 

 綾波は僕の声に気がつき、僕の方に目を向けた。

 そして少しの間・・・

 次第に僕の目に涙が溜まる。

 

「サヨナラなんて悲しいこというなよ。」

 

 この時、自然に出た言葉・・・

 あんなふうに言われたことがなかったから僕は余計悲しかった。

 

「ごめんなさい、こんな時どんな顔をしたらいいのかわからない。」

 

 何も知らなかった彼女にはどうすればいいのか本当に分からなかった。

 

「・・・笑えばいいと思うよ。」

 

 僕がそう答えると綾波は一瞬の間を空けて僕に綺麗な笑顔を見せてくれた。

 その時から綾波と少しずつ分かり合える様になったんだ。

 そして、視界が闇に包まれた・・・

 

 

 

 闇が晴れた時、僕は昔の初号機のエントリープラグの中にいた。

 そして初号機の手には僕の親友が握り締められていた。

 そう・・・十七番目の使徒だったカヲルくんが・・・

 

「カヲル君・・・なんで・・・」

 

 僕はカヲル君に聞いた。

 何を聞きたかったのかは僕にもわからない。

 なぜカヲル君が使徒なのか?

 なぜカヲル君がこんなことをしたのか?

 この時の僕は冷静ではなかったと思う。

 

「これが僕の定めだったからさ。

 さあ、シンジ君。 僕を殺してくれ。」

 

「そんな!! 僕にはできないよ!!」

 

 こんな時でもカヲル君はいつもの笑顔をしていた。

 死のうとしているのにどうしてそんな顔が出来るのかわからなかった。

 

「シンジ君、やっぱり君は好意に値するよ。」

 

 カヲル君は僕のことを好きだと言ってくれた。

 別にそういう意味じゃないんだけど、

 誰かにそう言われたのは初めてで僕はただ嬉しかった。

 

「シンジ君、僕にとって生と死は等価値なんだ。

 だから、さあ・・・」

 

「カヲル君・・・」

 

 そして・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・

 

 ・・・

 

 ・・・グシャッ・・・

 

 ・・・バシャン・・・

 

 何かが潰れる音とその後に下のLCLの池に何かが落ちた後がこの空間に木霊した。

 

 僕はカヲル君を殺した・・・

 

 

 

 

 

「ウワァァァァァァァァァ!!!!

 

 ハァ、ハァ・・・あの時の夢・・・」

 

 僕の最も嫌な思い出・・・

 だけど僕はこの出来事を昔のように否定しない。

 これが今の僕に出来るカヲル君への償いなんだ。

 逃げずに立ち向かわなくちゃいけない。

 

 コン、コン・・・

 

 その時、僕の部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 

「イカリシンジ君、起きているかしら?

 副操舵士のウォンだけどちょっといいかしら?」

 

 エリナさんか・・・

 多分アキトさんの言ってた通りボソンジャンプの話だろうな。

 

「ちょっと待ってて下さい。」

 

 僕は寝間着を脱いでコックの黄色い制服に着替える。

 座布団を敷いてお茶の用意をする。

 そして扉の鍵を外し、エリナさんを招き入れる。

 

 エリナさんを座布団に座らせると僕はお茶を出した。

 

「どうぞ。」

 

「ありがとう、気が利くのね。」

 

 そうお礼を言ってお茶を一口啜った。

 

「それに部屋も結構綺麗なのね。」

 

「家事は僕の得意分野ですから。」

 

 そんな感じで何気ない会話をしていたが

 何時までも続けるつもりもないのでこちらから聞きにいくことにした。

 

「それで何のご様なんです?」

 

「そうだったわ、用事を忘れるところだったわ。

 イカリシンジ君、あなた火星にいたのよね。

 占領された火星からどうやって地球へ来たの?」

 

「シンジでいいですよ、ウォンさん

 どうやってきたかと言われても、何時の間にか地球にいたんですよ。」

 

「私もエリナでいいわ。

 ところでこんな石を持ってなかったかしら?

 それか最後にいた場所の近くに落ちてなかったかしら?」

 

 エリナさんはイアりングと同じサファイアのような石を見せてくれた。

 多分これがCCなんだろう。

 

「持ってはいませんでしたね。

 最後にいた場所にはあったかもしれませんが。

 僕は火星を放浪状態でいろいろなところを回っていたんです。

 最後にいたのは火星の北極の辺りでしたけど・・・。」

 

「・・・そう、ありがとう。

 今日はもういいわ。」

 

「はい(今日は・・・ですか。

 まあどんどん詮索されるよりはいいか。)」

 

 そしてエリナさんはさっさとこの部屋を出ていってしまった。

 

「さてと、これからはどうやって誤魔化そう?

 またアキトさんと相談したほうがいいかな。」

 

 僕はこの後、アキトさんの部屋に行くことにしたが

 アキトさんは部屋にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

「うーん、アキトさん何処に行ったんだろう。」

 

 イロウルの力を使えばすぐわかるんだけど

 それはさすがにやりすぎだと思う。

 

 そんなときにミナトさんと通路ですれ違った。

 

「あ、ミナトさん。 アキトさん知りませんか?」

 

「アキト君なら医務室に向かってたわよ。

 あ、でもこの後ブリッチに集合だからアキトくんもすぐ来るはずよ。」

 

「そうですか、でも一応医務室に寄ってからブリッチに行きますよ。」

 

「そう、じゃ、また後でね。」

 

 そう言ってミナトさんはブリッチの方に歩いていった。

 でも、アキトさん、医務室なんて調子でも悪いのかな?

 

 

 

 

 

 

 僕は医務室の前に来て扉を開けた。

 

「すみませーん、アキトさん来てますか。」

 

 

「ふがが〜〜〜、ふがふがふが〜〜〜〜〜!!!」(シンジ〜〜〜、助けてくれ〜〜〜〜〜!!)」

 

 

 部屋に入っては最初に見たのは、イネスさんが怪しい色の液体の入った注射器を持ち

 縛り上げられて口を塞がれたガイさんに迫っているところだった。

 

「あら、シンジくん。 アキトくんならたった今ブリッチに行ったわよ。」

 

 僕はそんなことは気になっていなかった。

 それよりも目の前に広がるこの光景が気になった。

 

「?・・・あっ、これ? ヤマダくんで新薬の実験をしようと思って。

 あなたも試してみる?」

 

 この時イネスさんの両目が妖しく光った用に見えた。

 

 危ない・・・人でなくなった僕の体でもあれはヤバイと

 僕の使徒的とでも言うのだろうかそんなカンが訴えていた。

 

「い、いえ!! 結構です!!

 僕もブリッチに向かいますので、それでは!!」

 

 僕は即座に逃げ出した。

 ガイさんを気にしているような余裕はなかった。

 

 

「ふんがふんが〜〜〜〜〜〜!!!」(薄情者〜〜〜〜〜〜!!)」

 

 

 ガイさんの叫び声が聞こえたような気がしたけど

 僕は涙を呑んでそれを見過ごした。

 

 すみませんガイさん。 人間誰だって自分が一番可愛いんです。

 ごめんなさいごめんなさい、無力な僕を許してください。

 

 

 

 

 

 ブリッジに来ると・・・

 

「ほらほらリョーコ、チャンスチャンス!!」

 

「な、何を言ってるんだよ!! お前等!!」

 

「ラブラブ話しはもういいわね!!」

 

 リョーコさんのラブラブ話がムネタケ提督の一喝で途絶えたところだった。

 とにかく来たことを伝えた方がいいかな。

 

「すみません、遅くなりました。」

 

「遅いぞイカリ、早くこちらに来い。」

 

 ゴートさんに言われて皆のまわりに来る。

 

「とにかく、いい事!! 絶対にこの作戦は成功させるのよ!!

 解ったわね艦長!!」

 

「は、はい!! 絶対成功させましょう!!」

 

 ・・・勝手に話は了解の方に進んでるみたいだ。

 そして、あまり来た意味もなく僕達はムネタケ提督の檄を背中で受けつつ解散した。

 

 

 

 

 

 

「ふう〜、移動中は私達パイロットって暇よね〜」

 

「ま、現場につかないと俺達に仕事は無いよな。」

 

 食堂の机の上に寝転がるヒカルさん。

 そのヒカルちゃんの愚痴を聞き同意を返すリョーコさん。

 アキトさんは目を瞑って何か考え事をしているみたいだった。

 

 そこへアカツキさんがアキトさんに近づいてきて・・・

 

「やあ、テンカワ君。

 今暇ならちょっと付き合って欲しいんだ、け、ど・・・そんな意味じゃないよ君達。」

 

 周りから好奇の目で見詰められ、慌てるアカツキさん。

 

「過去に例があったじゃないですか。」

 

「あはははは・・・ほんとにそう意味じゃないんだってば。

 ちょっとテンカワくんにトレーニングルームまで来てもらおうかなと思って。」

 

 アキトさんの実力を見たのによくやる気になりましたね。

 

「お、そう言えば良い機会だな。

 俺もテンカワと模擬戦をやってみたかったんだ。」

 

「あ〜、私もアキト君と模擬戦してみた〜い!!」

 

「・・・私も興味があるわ。」

 

 一斉に活気付くウリバタケさん命名のパイロット三人娘。

 

「お、男同士の話がしたかったんだけどね・・・」

 

 諦めた方がいいですよアカツキさん。

 女性はこういう時強いから。

 

 

 

 

 

 そして、トレーニングルーム・・・

 俺対パイロット三人娘の戦い後・・・

 

 

 プシュー!!! × 4

 

 

「負けた負けた!! テンカワ、オメーすげーよ!!」

 

「むう・・・悔しいけど完敗ね。」

 

「・・・しかも、まだまだ余裕があるみたいだし。」

 

「そんな事無いよ・・・あれが精一杯だよ。」

 

 俺はリョーコちゃん達の言葉にそう返事を返す。

 ・・・俺は戦う力なんて、本当は必要無かったのに。

 しかし、この力が無ければこの先大切な人を守りきれない。

 

 矛盾・・・だな、本当に。

 

「さて、それじゃあ僕とも一応模擬戦をしてもらおうかな。」

 

「結果は見えたな・・・」

 

「・・・止めた方がいいんじゃないの、アカツキ君。

 手も足も出せずに終ると惨めだよ〜」

 

「シンジくんが絶対言うわね。 無様って・・・」

 

 三人とも一致団結して負けると予想している。 

 ・・・既に惨めだな、アカツキ。

 

「ま、まあ・・・男の意地だとでも思ってくれたまえ。」

 

「ふーん、じゃあ僕もその後に模擬戦してくれませんか?」

 

 なに? シンジくんと?

 

「アキトとシンジがやるのか。 それなら俺も見てくか?」

 

「そう言えばシンジくんの実力ってエヴァの能力が気になってよくわからないんだよね。」

 

「世紀の対決って所かしら・・・」

 

「僕の時とずいぶん扱いが違うね。」

 

 見事なくらいにな。

 

「でもシンジくんはIFSを持ってないだろ

 どうする気なんだ?」

 

「大丈夫ですよ。 あれがありますから。」

 

 そう言って部屋の奥の方を指差すと

 見慣れないシュミレーターがあった。

 

「あれは?」

 

「あれは僕とウリバタケさんとで作ったエヴァのシュミレーターです。

 一応IFSにも対応してますからアキトさん達でも使えますよ。

 最も実物が使えないんじゃ遊べるだけみたいな物なんですけど・・・

 もちろんプロスさんの許可は貰ってありますよ。」

 

 あんなもの作ってたのか。

 シンジくんもよくやるよ。

 

「ねえねえ、シンジくん。 後で私に使わせてくれない?

 エヴァって一度動かして見たかったの。」

 

「な、なあ、俺もいいか?」

 

「ええ、かまいませんよ。

 勝手に使っていいですよ。」

 

 リョーコちゃん達はそう言うとシンジくんは簡単に許可した。

 俺にも使えるのか。 今度やって見たいな。

 

「すっかり忘れ去られてるみたいだけど、

 僕もテンカワ君と模擬戦ををするんだよ。

 ・・・やっぱり眼中にないのね。」

 

 アカツキの呟きにもパイロット三人娘は完全無視。

 ・・・やっぱり惨めだな。

 

「・・・僕って期待されてないな。

 まあ、あまり勝てる気がしないんだけどね。

 じゃあ、早速やろうかテンカワ君?」

 

 しかし、アカツキの目は本気だった。

 

「ああ、わかったよ。」

 

 そして、俺対アカツキの戦いが始まる・・・

 

 

 

 

 

 ガンガンガン!!!

 

 

 アカツキの先制攻撃を、全て華麗なステップでかわす俺。

 

『くっ!! 流石に普通に撃っては当ってくれないね!!』

 

 その場に留まる愚を犯さず、すぐに移動を開始するアカツキ・・・

 逃げるアカツキから一定の距離を保ち、俺は追撃をする。

 ・・・アカツキには俺が何処にいるかは、把握しきれていないだろう。

 

『・・・姿が見えないねテンカワ君。

 もっとも、君からは僕が丸見えなんだろうね。』

 

・・・その通りだ。

 

『二つ程質問していいかな?』

 

 二つ?

 何を聞くつもりだアカツキ?

 

『沈黙は了承と考えるよ・・・

 まず一つ目の質問・・・君は何故これ程の戦闘技術を持ちながら、軍隊に入らなかったんだい?』

 

「俺はコックだからな。」

 

 答えた瞬間・・・俺が先程までいた場所に銃撃が集中する。

 なかなかの腕だなアカツキ・・・通信方向を瞬時に割り出したか。

 

『それは詭弁だ!! 君は戦いを楽しんでる!!

 で、なければどうしてこのナデシコを降りない!!』

 

 ・・・否定はしないよアカツキ。

 戦いを楽しんでる自分なんて、信じたくは無いがな。

 でもこの力が必要なんだ・・・今は。

 

「守りたい人達がこの船に乗っている、それが理由だ。」

 

『なっ!!

 後ろだと!!』

 

 遅い。

 俺はアカツキの機体を後ろに引き倒しつつ、手に持つ銃を蹴り飛ばす。

 そして素早く自分の銃で、アカツキのコクピットをポイントし・・・

 

「二つ目の質問は何だ?」

 

『・・・何簡単さ、君は彼女達の誰が一番好きなんだい?」

 

「・・・は? 彼女達と言われても。

 誰と誰のことだ?」

 

『・・・本気で、言ってるのかい?』

 

 呆れた顔で俺を見るアカツキ。

 本気も何も・・・ユリカの事を聞きたかったんじゃないのか?

 

「ユリカの事か?」

 

『他にルリちゃんに、メグミちゃんに、リョーコ君に、イネスさんに、ホウメイガールズとか。

 君の事だから、まだ隠れて付き合ってる子もいるんじゃないのかい?』

 

 おいおい・・・それは全部誤解だろ?

 

「それは多分誤解だろ?

 だいたい彼女達が俺に好意を持ってるなんて、どうして解るんだ?」

 

『・・・これで全ての謎は解けたよ、テンカワ君。

 君はナデシコの男性乗組員、全ての敵だ。』

 

 は?

 

『今後はこのアカツキ・・・彼等の代表として君の敵となる!!』

 

 何を言ってるんだアカツキ?

 

『ウリバタケさんに誘われていた、某組織への加入・・・

 たった今、僕にも決心がついたよ。

 今後は暗闇に気をつけるんだね、テンカワ君!!』

 

 そう言ってアカツキは・・・自爆した。

 

 

 チュドォォォォォォォンンンン!!!

 

 

 ・・・俺も流石にこの至近距離では避ける事は出来ず。

 結果、模擬戦は引き分けに終った。

 

 一体何が言いたかったんだアカツキ?

 

『やっぱり・・・現状が解ってませんね、アキトさん。』

 

 

 

 

 

 

 アキトさんはアカツキさんと何かを話していたみたいで

 不意をつかれて模擬戦は引き分けに終わった。

 

 

 プシュー!!! × 2

 

 

「それじゃあねテンカワ君。

 僕は例の件の返事に行かなきゃいけないから。」

 

 そう言い残してアカツキさんはトレーニングルームを出ていった。

 何を話してたんだろ?

 

「アキトさん、いったい何を話してたんですか?」

 

「俺にもよくわからん。

 何かルリちゃん達が俺に好意を持ってるって誤解していたらしくってな

 それを否定したら急に訳のわからないこと言い出したんだ。」

 

「なるほど、そういうことですか。」

 

 またこれですか、アキトさんの鈍感さもどんどん酷くなってますね。

 

「?・・・どういうことだ?」

 

「別に・・・いつものことですよ・・・」

 

 僕がそう言ってもアキトさんは首を傾げて理解できない様子。

 鈍感極まりと言ったところですか・・・

 

「それより僕との模擬戦どうします?

 少し休んでからやりますか?」

 

「・・・いや、大丈夫だよ。

 それに俺も前からシンジくんとはやってみたいとは思っていたからね。」

 

 アキトさんもそんなに疲れた様子ではないので続けてやることになった。

 ついでに少し凝らしめてやりましょうか。

 

「なあ、いくらテンカワが強いと言っても

 エステとエヴァじゃ性能がちがいすぎるんじゃねえか?」

 

 そこへリョーコさんが会話に割って入ってきました。

 もちろん、それくらいわかってますよ。

 

「大丈夫ですよ。 エヴァの性能はエステに合わせて落としますから。

 その代わり、オプション装備を持たせてもらいますけど。」

 

「そんなもんあるのか?」

 

「ええ、実物もウリバタケさんと一緒に制作中ですよ。」

 

 という事で僕とアキトさんの模擬戦が始まる。

 

 

 

 

 

「エヴァの特殊能力は使いません。

 フィールド出力はエステバリスの出力と同じです。

 その代わりエヴァ専用ライフルを使用しますから。」

 

 僕はエヴァの装備をアキトさんに伝え、ライフルを構える。

 

『ああ、わかった。 とはいってもエヴァの地上戦能力は把握できていない。

 というわけで、こちらからいくぞ!!』

 

 アキトさんはライフルを撃ちながらこっちに向かってきた。

 当たるとは思っていないだろうし多分威嚇射撃だ。

 僕はエヴァの自慢の筋肉を使いかなりの瞬発力で右側へ跳んだ。

 そしてすかさずライフルで反撃する。

 

『なかなか早いな。 残像が見えたぞ。』

 

「そうですか? 普通の人ならGに耐え切れず気絶しそうですね。」

 

 僕はクスッと笑ってライフルで牽制しつつアキトさんに近づく。

 

 

 

 

 

「・・・なあ、さっきの動きはっきり見えたか。」

 

「・・・うんん、なんか分身して見えたよ。 あんな動き出来るの。」

 

「残像・・・サルとブタとカッパを従えたお坊さん。

 そりゃ三蔵(法師)・・・フッ。」

 

「「・・・・・・」」

 

 「・・・無視しないで」

 

 

 

 

 今度はシンジくんがライフルで牽制しつつ接近してきた。

 俺もライフルを放つがエヴァの動きが俊敏すぎて正確に当たらない。

 

「くっ、ライフルはほとんど効かないか。

 ならば接近戦に持ち込むか。」

 

 俺は前回敵の位置を知る為に使った手段を今回は煙幕代わりに使うことにした。

 エネルギーパックを取り出しシンジ君の方向に投げつけライフルを放つ。

 命中するとエネルギーパックが爆発して閃光を放つとシンジ君の動きが止まった。

 

『ワッ!!』

 

 俺はひるんだ一瞬の隙にライフルを捨てナイフを装備するとシンジくんの方に向かった。

 

「セイッ!!」

 

 俺はナイフを横薙ぎにして攻撃するがシンジ君はライフルで防御した。

 俺は追撃をかけようとする。

 

 ドゴーン!!

 

 だがライフルがナイフの傷で暴発し後退しざるをえなくなる。

 

『ふぅ、危なかった。』

 

「安心するのはまだ早いよ、シンジ君。」

 

 俺は再びシンジ君に切りかかる。

 

「ご心配なく!!」

 

 シンジ君がそう言うと両腕の手甲からナイフが飛び出した。

 

 ガキンッ!!

 

 俺の斬撃をシンジ君は両手のナイフで受け止めた。

 

「そんな武器があったのか。」

 

『ええ、今まで使う機会がなかったんですけどね。

 それよりもうそちらのナイフが持ちませんよ。』

 

「なに!!」

 

 みると俺のナイフが火花を散らしてシンジくんのナイフに切り裂かれつつあった。

 

「何だこれは!?」

 

『このナイフは高周波ナイフなんですよ。

 細かく振動してただのナイフより切れ味がいいんですよ。」

 

 俺はこのままではまずいと思い後退した。

 ナイフを見ると七割がた切り裂かれていて使い物にならなくなっていた。

 

『どんどんいきますよ!!』

 

 シンジ君は両手のナイフを連続突きで追い討ちを掛けて来た。

 

「クッ!!」

 

 俺はシンジ君の連続突きをバックステップで避け続ける。

 ・・・こうなったら!!

 

「この!!」

 

 バキ〜ンッ!!

 

 俺は拳にディストーションフィールドを収束させ、

 シンジ君の突いてきたナイフの腹に拳を打ち込む。

 さらに撃ちこんだ瞬間にフィールドを開放しインパクトを起こすことでナイフを砕くことに成功した。

 

『ウワッ!!』

 

 シンジ君が衝撃でひるんだところ俺は同じ方法でもう片方のナイフを破壊する。

 

『くそう!! この!!』

 

 体制を崩しつつもシンジ君は横薙ぎに俺を蹴り飛ばした。

 俺はスラスターでバランスを取って何とか着地した。

 

 だが、俺がシンジ君の方を向いた時、エヴァの両方の肩の部分が開いていた。

 

『くらえ!!』

 

 そして、エヴァの肩の部分から陽子砲が俺に向かって発射された。

 

 

 ドガァァアァァァァン!!

 

 

『・・・倒したかな?』

 

 

 ブワァァァッ、

 

           ゴウゥゥゥウゥゥウウウゥゥ!!

 

 

『なっ!!』

 

 俺はスラスターを全開で吹かしシンジ君に突っ込む。

 

 陽子砲が命中するする直前、俺は咄嗟にエステのリミッターを外すと

 左手に出力のあがったディストーションフィールド収束させた。

 そしてスラスターを最大で吹かし右前方に跳ぶと陽子砲を左手に当て受け流した。

 

 だが受け流すことはできたが左手が持たず手の部分だけ消し飛んでしまった。

 

 それでもかまわず俺は俺は陽子砲で巻き上がった煙に隠れ

 今度は右手にフィールドを収束して一気に勝負にかける。

 

 

 

 

 たしかに手応えはあったはずなんだけど・・・

 アキトさんは巻き上がった煙の中からエステでは信じられないほどのスピードで飛び出して来た。

 だけど左手の部分が無くなってる。

 フィールドを収束して受け流した!?

 

「さすがですね、アキトさん。

 それなら僕も・・・」

 

 砕け残ったナイフを仕舞い僕もアキトさんと同じようにATフィールドを両拳に収束させる。

 そして僕も向かってくるアキトさんに走り出す。

 

 

『「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」』

 

 

 僕とアキトさんの叫び声が重なる。

 そして右手を引き、打ち込む体制を整える。

 

「ハッ!!」

 

 僕はATフィールドで収束された真紅の拳を打ち込むが・・・

 

 メキメキバキッ!!

 

 アキトさんは手の無くなった左腕を突き出して来た!!

 真紅の拳がエステの左腕にめり込む。

 アキトさんは使えなくなった左腕を盾代わりにしたのか!!

 

 そして時間差でフィールドの収束されたエステの右腕が打ち出された!!

 ちょうどコクピットのあるエヴァの腹部に・・・

 

 ドゴムッ!!

 

 強い衝撃音がなると目の前の画面には【ゲームオーバー】の文字が出ていた。

 

 

 

 

 

 プシュー!!! × 2

 

 

「はあ、負けちゃいましたね・・・」

 

「そんな事言ったって俺もぎりぎりだったよ。

 最後の方でリミッター外しちゃったから

 俺の反則負けだな。」

 

「そんなことないですよ。

 リミッター外したら扱い辛くなるから

 それを扱いこなしたアキトさんの勝ちですよ。」

 

 ・・・そうか

 だけど、まさか北辰の時と同じような決着になるとはな。

 まあ間違いなく北辰の時より危なかったけど・・・

 

 そこへリョーコちゃん達が俺達の方によって来た。

 

「惜しかったじゃねえかシンジ。 まさに紙一重だったな。」

 

「ほんと惜しかったね、カウンター返しって所かな。」

 

「カウンター・・・・・・思いつかない・・・」

 

 イズミさん、またギャグ考えてるのか?

 

 

「アキトさん一応待機中なんですし、この後はゆっくり休んでましょう。

 疲れを残しておくと、もしもの時にあぶないですし。」

 

「そうだな、じゃあ俺も部屋に戻るよ。」

 

 そして俺はトレーニングルームを出て自室へ戻った。

 

 

 

 

 

 もうそろそろ、北極海域に入った頃だな。

 ユリカが余計な事をしなければ・・・

 何事も無く、例の親善大使を救助出来るだろう。

 

 俺は自室でコミュニケを使って読書をしていた。

 戦術、戦略、情報戦の基礎など色々だ。

 別に軍人になるつもりは無い・・・だが今後、咄嗟の判断に有利になる知識が欲しかったのだ。

 このままでは所詮俺は、局地戦でしか役に立たない男になるからな。

 

「ア〜キ〜ト〜さん!!」

 

「ん? メグミちゃんか。

 どうかしたの?」

 

「今、暇ですか?」

 

「ま、暇と言えば暇かな?

 親善大使の救助は、イズミさんが行く予定だからね。」

 

「じゃ、ちょっと付き合って下さい!!」

 

「お、おい・・・」

 

 俺は過去と同じくヴァーチャル・ルームに連行された・・・

 シンジくんに言われた通り休んでいるつもりだったんだが・・・

 どうも・・・女性の押しに弱いな、俺は。

 

 

 

 

 

 

「解ってるじゃ無いですか、アキトさん(怒)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九話 その2 に続く