「ふっふっふ……出来た。出来たわ!」

 

 深夜のナデシコ………そのとある一角。
 そこに、高らかに響き渡る笑い声……と言いたいところだが、夜遅いので声は控えめ。
 フラスコを持った金髪の女性が、達成感に浸かっている。

 

 その視線は、フラスコ内に満たされた液体(どギツいピンク色)に注がれていた。

 

「さて、あとはこれをどうやって人体実験……もとい、試験するか、だけど…………」

 

 言って、視線を横にずらす。

 

「あァ、そこにいるのは、アクアかい……この、オレを、…迎えに………?
 いや、キミは、オレが護ってやるぜ……………」

 

 そこには、何かうわ言のようなものを呟くミイラ男。

 

「………ダメね。まだ新薬の実験が終わってないし……。
  ―――そうだ! “彼”に飲ませてみようかしら」

 

 ……どうやら、かなりアブない考えに落ち着いたようである。

 

 その液体は、何なのか?

 

 どのような影響をもたらすのか?

 

 これから起こる悲劇…いや、喜劇を予測できた人間は、いなかった。

 

 

 

 

 

赤と黒の狂詩曲(ラプソディー)
前篇「ナゾのキノコと舞歌の陰謀(たくらみ)」

 

 

 

 

 

「エステバリス隊、発進してください!
 ルリちゃん、グラビティブラスト充填!
 北斗の相手は、アキトにまかせます!!」

 

 今日も今日とて、ナデシコは戦闘を繰り返している。

 

 連合宇宙軍最強だからとはいえ、そろそろ超過労働になりそうな気もしたりして………。
 しかも、今回の相手は、あの舞歌部隊だ。

 

 和平の意思を持っているとはいえ、一応舞歌たちは木連の部隊である。 
 まだ時期でない以上、ナデシコとの戦闘が起こることは当然のことだった。

 

 双方あまり被害が出ないよう、手加減をしての戦いではあるが。

 

 尤も、戦闘しないで済むならそれにこしたことは無い。

 

 だが、今の段階で

 

『ナデシコと舞歌部隊はツルんでいる』

 

 などといった噂を立てられるわけにもいかないのだ。

 

「了解! 行くぜ、サラ、ヒカル、マキ、イツキ、アカツキ!!」

 

「はい、リョ−コ!」

 

「おっけ〜!」

 

「温泉に入る千の動物……銭湯、千頭、戦闘………くくくっ」

 

「了解です」

 

「はいはい」

 

 ちなみに、ガイは医務室にいたりする。原因は……聞かぬが華だろう。

 

 アキトはといえば、既に『ブローディア』を全力で飛ばし、舞歌部隊へと突入している。

 

 しかし、アキトの相手はただ一人。
 北斗だけであった。

 

 いつもは先陣を切って飛来する『ダリア』が、今回は何故か後方に位置している。
 そこへ向かっているのだ。
 実際、茶番劇の戦闘とはいえ、アキトと北斗のそれは常に真剣勝負だ。
 彼らは、いつも全力で戦い、そのつど引き分けている。
 この二人の戦いとは、絶対に手を抜くことなど考えられないのだから。

 

 そして今回も全力で、そして一対一で戦うため、アキトは北斗のもとへと『ブローディア』
 を駆っているのだが………

 

(? どうしたんだ、北斗は)

 

 違和感を感じる。

 

 いつもは、目に見えるのではないかと思うほどの闘気を発している『ダリア』から、
 それをまったく感じない。
 それどころか、どこかふらふらとしていて、頼りなさげな印象を持ってしまう。

 

「北斗、どうしたんだ?」

 

 戦闘中(正確には直前)だというのに、思わずアキトは通信を開いた。

 

 そこに映し出されたのは………

 

「ア、アキト?」

 

 涙目の、北斗だった。

 

 

 

 

 

  少々時間は遡り………

 

  −約六時間前・舞歌部隊旗艦「しゃくやく」−

 

「こ、コレは………」

 

 高杉三郎太は、盛大に冷や汗を書きながら、目の前の物体を見た。

 

 深夜遅く、自室である。

 

 そこには、キノコがひとつ、でで〜んと置かれてあった。
 ケバケバしいピンクのまだら模様の、ブキミなキノコだ。
 しかもデカい。高さは約40センチ、傘の直径30センチ。
 こんなキノコがこの世にあるんだろーか、と思ってしまう。

 

「嫌な予感がしたんだよなぁ………どーするよ、コレ」

 

 大きな溜息。

 

 送り主が「イネス・フレサンジュ」と書いてあったのを見たときから、
 ロクなことにならねぇことはわかりきっていた。

 

 どうやって送ってきたのか、などということは、この際置いておこう。

 

 しかし、これは…………

 

「『料理にでもして食べてちょうだい』なんて……完っ璧な人体実験じゃねぇか………」

 

 ご丁寧に、アンケートまで添えてある。
 項目は一つ。
「このキノコを食べて数時間以内に起こった身体的・心理的変化を、
 400字詰め原稿用紙5枚以内でまとめること」とある。

 

 まるっきり、中学や高校の宿題テイストだ。

 

 だが、「身体的・心理的変化」とは………

 

(絶対、「変化」どころか「異常」だぜ)

 

 食べたくなど、無い。

 

 だが、食べなかったら……何かとてつもなくおぞましい『お仕置き』が待っているような気がする。

 

 ナデシコに乗っていないからといって安心は出来ない。
 和平実現のためいずれは乗るのだから、その時に『お仕置き』されるのは目に見えているのだ。

 

「………よし」

 

 悩んだ結果、三郎太は結論を出した。

 

(三十六計逃げるにしかず!!)

 

 スケープゴートを捜そう。

 

 よーするに、逃げたのである。

 

 

 

 

 −数分後・舞歌個室−

 

「あら、高杉クン。どーしたの?」

 

「い、いえ! 大した事ではないんですが……」

 

 夜遅く、突然私の部屋を訪ねてきた高杉くんは、なんというかもうロコツにアヤしかった。
 眼は宙に泳いでるし、怯えるようにきょろきょろと辺りを見回している。
 そして、その手には何かの箱が。

 

「じ、実は、ですね。珍しいものが手に入ったので、舞歌殿に御献上をばしたいというかさせて
 欲しいのでございましまして」

 

 ……言語中枢もキているみたいね。

 

 でも……何なの、その箱は?

 

「ふぅん……取り敢えず、見せて」

 

「は、はひ!」

 

 箱を受け取って、開けて見る。

 

 中にあったのは…………

 

「な、ナニ、これ………?」

 

 どギツいピンク色のキノコ。

 

 流石の私でも、引く。

 

「そ、それでは失礼させていただき………」

 

 慌てて部屋から逃げようとする高杉くん。

 

 しかし……

 

「あ、開かない!?」

 

 んっふっふ……逃げられると思ってるのかしら〜、高杉くん?

 

「さて……説明してもらいましょうか」

 

 その言葉に、高杉くんは、がっくりと肩を落とした。 

 

 

 

 

  −数分後−

 

 

 

「………面白そうね」

 

 オレから全ての事情を訊いた(訊き出した)舞歌殿は、なんとそう言った。
 なら、もしかして食べてくれるのか!?

 

 ……冷静に考えれば、絶対にそんな事はありえなかったのだが、
 思考能力も相当低下していたらしい。

 

「バカね。そんなわけないでしょう」

 

 へ?

 

 多分、オレの表情から考えを見抜いたのだろう、舞歌殿は言った。
 じゃあ…どうするつもりなんだ?

 

「うふふ……面白いことになりそうだわ〜。次の戦闘が楽しみね〜〜」

 

 このとき、オレははっきりと見た。

 

 舞歌殿の顔に、ニヤリという笑いが浮かんだのを。

 

 

 

 

  そして、時間は戻る。

 

  −『ブローディア』内・アキト−

 

 一体、どうしたんだ?

 

 北斗の様子は、どう見てもおかしい。
 なにか、怯えるような表情をして、目に涙まで浮かべている。
 北斗が、オレに怯えの表情を向けるとは……いや、これは…違う。
 オレに対してではない。なにか、戦いそのものに怯えているように見える。

 

(そんな、バカな。北斗が怯えるだって? 冗談にしても性質(タチ)が悪いぞ)

 

 しかし、いま目の前(正確にはウインドウ越しだが)の北斗は、紛れも無くそんな表情を
 浮かべている。

 

「おい、北斗! 一体どうしたんだ!?」

 

「ア、アキトさん……」

 

 オレの声に、漸く反応する北斗。

 

 ・…………え?

 

 ちょっと待て、いま、何か変な声を聞かなかったか?
 北斗が、オレに「さん」づけなどするはずが無い。
 だが、さっき聞こえたか細い声は、間違いなく北斗だ。
 しかし、あの北斗が『か細い』声を出すなど…………ああもう!!

 

 オレはもう、何がなんだかわからなくなってしまった。

 

「アキトさん、戦いなんて止めましょう! 殺し合いなんて、そんなの意味ないですよ!!」

 

 …………………は?

 

「ほ、北斗…一体、ナニを言って………」

 

「人の命は、なにものにも代えられないものです!
 みんなで話し合えば、戦いなんて無くなります!!
 命の奪い合いなんて、そんな戦争なんて………無意味です!!!」

 

 オレは……いや、オレだけじゃない。

 

 いまここにいる人間全部が、硬直した。

 

「説明しましょう!!」

 

 あ。

 

 ひとり、無事な人がいた。

 

「今回の北斗の変容……これは、非常に簡単なことね」

 

「い、一体、北ちゃんになにがあったんですか!!」

 

 あれ、これは……舞歌部隊の娘だ。
 名前は、確か……零夜とか言ったか。
 同時に、たくさんのウインドウがナデシコブリッジに開いた
(別ウインドウでブリッジには繋げてあるので、ここからでも見ることが出来る)。

 

「じゃあ、単刀直入に言うわ。彼女は………」

 

『彼女は?』

 

「キノコを食べたのよ!!!」

 

『………………………………』

 

 ……沈黙。

 

『はぁ!!?』

 

 そして、奇声。

 

 かく言うオレも、そのひとりだった。
 ……キノコ? なんのことだ?

 

「さぁて………出て来てもらいましょうか、高杉くん」

 

「ぎくっ」

 

 あ。

 

 ウインドウの一つが、いま引いたな。

 

「高杉くん……あなたに送った、あのキノコ………食べなかったわね?」

 

「さ、さあ、ナンノコトデゴザイマショウ?」

 

 カタコトになる高杉。
 ……怪しすぎるぞ。

 

「あなたは、自分が食べたくなかったから、それを北斗に食べさせたのね?」

 

「い、いや、それは、その…………」

 

 冷や汗だらけの高杉。

 

 というか、だからキノコってなんだ?

 

「よくわからないけど、そのキノコのせいで北ちゃんはおかしくなったんですね!?」

 

「そうよ」

 

「高杉さんへのお仕置きは置いておくとして、そのキノコって、何なんですか!!」

 

「お仕置きってなんだ〜〜〜〜!!!?」

 

 零夜が、核心を突いた。

 

 恐らく、それがみんな一番知りたいことだろう。
 その前の発言は……まぁ、自業自得だな。

 

「あれは……」

 

『あれは?』

 

 緊張が走る。

 

 そして、イネスさんが口を開いた。

 

「セイカクハンテンダケよ」

 

『は?』

 

 なんだ、それは?

 

「かつて、20世紀…日本の隆山というところに生えていたという、伝説のキノコ。
 それを食べたものは、性格が180度反転すると言われているわ。
 私は、その復元に成功したのよ」

 

 誇らしげなイネスさん。

 

 だが、そんなもんが、本当にあるのか?

 

 ………いや、目の前の北斗を見れば、それが真実だということは明らかだ。

 

「それで、実験しようと思って高杉くんに送ったんだけど………」

 

「い、いやっ、これはオレのせいじゃなくて………」

 

「高杉さん!!!」

 

「は、はひっ!」

 

 零夜ちゃん……スゴい声だ。

 

 高杉は………怯えきってるな。

 

「覚悟してくださいね……」

 

 その声は、静かだった。いや、だからこそ余計にコワい。
 まぁ、それは置いておくとして。

 

 問題は、北斗の方だが………

 

「い、いやアアアアァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!」

 

 へ………………?

 

 すごい勢いで、『ダリア』が遠ざかっていく………。

 

「多分、みんなの視線が集まったから、恥ずかしくなって逃げたのね」

 

 舞歌さんの冷静な分析……って、ヤバいだろ!!

 

「オレ、北斗を連れ戻してきます!」

 

 『ダリア』に追いつける機動兵器は、この『ブローディア』以外にありえない。

 

 そう言うと、オレは『ブローディア』を急速発進させた。

 

 

 

 

 

   つづく

 

 

 

あとがき

 

 うあ。やっちまった。
 ………オコらないでくださいね。
 単に、女の子女の子した北斗が書きたかったんだけど……。
 セイカクハンテンダケについては、ノーコメントです。まぁ、元ネタは明白ですが。
 無茶やったなぁ、自分(笑)。
 木連(舞歌部隊)が何でコミュニケを持ってるのかというのは、三郎太が持ち帰ったって事に
 しといてください。
 一応、前後篇予定です。

 

 それでは。

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

昴さんから投稿第二弾です!!

なんだか、キノコが活躍してるな近頃(笑)

あの人の作品も、あの人の作品でもそうだったし(爆)

・・・皆さん、実はキノコが好きなんですね!!

まあ、例のキノコは別物として(苦笑)

さて、性格が反転した北斗の運命は如何に!!

と言うか、近頃皆さんに愛されてるね北ちゃんは(爆)

 

三郎太は・・・このさいどうでもいいや(核爆)

 

それでは、昴さん投稿有難うございました!!

 

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