地球大気圏、高度1万メートル。
そこに、巨大な構造物が浮かんでいた。
全長3キロメートル
幅1キロメートル
その幅一キロメートルの三分の二が巨大な大砲で占められていた
大砲は3連
それは、1900年代後半に作られた海上を進む戦艦に搭載されていた三連方を彷彿とさせた。
唯一違いがあるとするなら、本来砲弾を打ち出す穴があいておらず、
半円球をはめ込んだようになっていることだろうか。
それが左右に二つ。
下のほうに1つ。
下の砲身の下には更に巨大な砲身が1つ。
この時代の人間がその姿を見ればこの構造物は船と思い呼ぶだろう。
その船の名は…ガルツォーネといった………………………

 

 

 

赤黒の女神   ガルツォーネにて

 

 作:天砂

 

 

 

 マリルはひ弱だった
 ある日、薪割りをサボってカップ●ードルを……ッて違うねコレは
 いや失礼それではまじめに……

 

 

 私ことガルツォーネ副艦長、マリル・ファイアル・ベトラルカは退屈だった。
 やる事は無い。
 ほとんどの作業は総管理者のカスパー殿が行ってしまう。
 私の仕事は、部下に命令を下したり本を読んだりと言った艦内管理を行うのみ。
 それも臨時の。
 本来それを行う艦長は地上に降りて救出した子供達……
 私たちの姉妹達をこちらに移動させるために地上にいったきり……
 姉妹か……私と同じマシンチャイルド……
 私があの地獄から連れ出されたのは……
 もしあのままあそこにいたら…私はモルモットとして考えられる限りの実験に使われ、
 死んだら他の廃棄物と一緒に燃やされ……
 背筋に冷たいものが走った。
 そのことを思うと今の状況は雲泥の差だろう。
 あの人に助け出されてからはや数十年……

 

 

 表向きは禁止されたマシンチャイルド……
 しかし裏では公然と非道な実験が行われていた。
 未来のためと言っているが、その実彼らの科学欲求を満たすための建前だ。
 私もその犠牲になるかと思われた…………
 そんな時、あの人は私達の前に現れる。
 私達をあの地獄から救い出し、私達に生きた教育を人間として得られるものを全て得られた。
 チャンスをくれた……名前もくれた。
 数字でも番号でもない私の名前を。
 そして……数年の時を経て、私はあの人の船の副艦長になった。
 自分の為に行っていることは言うまでも無いが、
 あの人の役に立てることはやはり誇り高いことだと思う。
 ……でも退屈であることには変わりない。
 そういえば、以前あの人にこのことを見透かされた時に、

 

『退屈もいいものよ』

 

 と言われた。
 どういうことか未だに分からない。
 いつか分かるとも言われたが……

 

 

『副艦長、転移室に転移反応』

 

 あ、帰って来た。

 

「各員配置へ。
 医療班は直ちに転移室へ。
 指示は艦長が行う」

 

 私は的確に指示を出す。

 

 

 ガルツォーネのブリッジは卵上の空間になっている。
 その中央から少し前よりに球状のメインモニターが鎮座し、
 周りを幾つものウインドウが浮かぶ。
 それらを取り囲むようにU字型のデッキが段々畑のように3つの段になっている。
 一番上の段がキャプテンブリッジだ。

 

『艦長・ブリッジイン』

 

 小さく脇のモニターに表示されるとともに、
 その少し離れた両脇の扉からあの人が入ってきた。

 

「ご苦労様です、トワノワ艦長」

 

「ありがとう」

 

 そう言うと私の斜め後ろにある艦長席に座る。

 

「状況は?」

 

「艦内艦外およびイリュージョンフィールド異常ありません」

 

「よろしい。
 発進準備を。
 麒麟に戻ります」

 

「了解、発進準備に入ります」

 

 私は各員に指示を出す。

 

『反源転子炉出力、アイドリングモードからノーマルモードへ移行します』

 

『各員乗船確認完了』

 

 作業完了の報告が次々と届く。
 程なくして、全ての作業が終わった。

 

「艦長、準備完了しました」

 

「よろしい」

 

 ……余談だが、この『よろしい』と言う台詞。
 艦長は何度も使うのは好きではないらしい。
 以前、少し趣向を変えようと

 

『OK』

 

 と言ったことがあるのだが、クルーに不評だったためやめたみたいだ。
 随分落ち込んでいたが………

 

「発進!!」

 

 反源転子炉……相転移炉の進化系といったところだろうか?
 限定空間に次元の揺らぎを人工的に作り上げる。
 ごくシンプルに聞こえるが、これから生み出されるエネルギーは宇宙創生級のエネルギーだ。
 今、そのエネルギーを使った反源転子機関が唸りをあげる。

 

「速度第4標準速に設定」

 

「了解、第4表準則に設定」

 

 大体光速の4分の1くらいの速度だ
 現在、この船に使われているイリュージョンフィールドによって、
 地球の視覚的、電子的な監視網から身を隠している。
 艦長曰く

 

『天網恢恢租にして漏らさずというのがあるけれど、
 ここの監視網は天網恢々租にして漏れまくり』

 

 だそうだ。
 そんなわけで、まったく地球の監視網に引っかからず私達の乗るガルツォーネは月軌道に到達した。
 数刻の時間を経て、月軌道に沿って私達は小さな小惑星帯に到達する。
 高磁性の岩石が密生するラグランジュポイント。
 地球側もこのあたりはほぼまったくと言っていいくらい監視の目を置いていない。
 理由は、そこに利用価値が無い上に、
 先程も言ったように高磁性の岩石のせいで船の航行がままならなくなる。
 更に密集した岩石のせいでまともに航行するのは不可能だ。
 以上の理由から、この近くに近づく物好きはいない。
 とはいえガルツォーネにそんなもの関係ない。
 ここの岩石は全て細工済みで、私達の思うように動かせる。
 更に、幾つもの隠蔽システムがこの小惑星帯を覆っているので。
 たとえこの中で花火大会をしても、外からは何も起こっていないようにしか見えないのだ。

 

 ………しないけどね。

 

 ガルツォーネは人工的に開いた岩石の回廊を航行する。
 やがて、私達の目の前に巨大な構造物が見えた。
 深青色の結晶……BCと完全単一組織で作られた巨大なリング。
 ターミナルリング『玄武』。
 ここと幾つものコロニーを結ぶ空間の門だ。
 これのおかげで、私達は短時間で数光年の距離を行き来することが出来る。

 

「艦長」

 

「…………」

 

 私は艦長を呼ぶが……反応が無い?

 

『艦長!!』

 

………………

 

 後ろを振り向いてもう一度呼ぶが、何かボーっとしている。

 

『イヨ艦長!!!!』

 

 私はモニターを艦長のまん前に出し大声で呼ぶ。

 

「うひゃあ!!!」

 

 今度は聞こえたらしい。
 しかしかなり驚いているようだ。

 

「どうかなさったんですか?」

 

 私は質問する。

 

「なんでもないわ、ごめんなさい。
 ……で何?」

 

『まもなく、ターミナルリング『玄武』につきます。
 ナビゲートをお願いします』

 

「はいはい」

 

 手を振って艦長は作業に入った。

 

[マスター!!]

 

 この声は……カスパー殿?

 

「どうしたの?」

 

 艦長がそれに答える。
 カスパー殿は、やけに慌てているようだ。

 

[助けてください!!]

 

「本当にどうしたの?」

 

 あのカスパー殿が慌てる事態……何があったのだろう?
 私の身体に緊張が走った。

 

[子供達が…うわぁ!!]

 

 子供達が?
 そしてモニターが消えた。

 

「何かあったのですか?」

 

 私は多少緊張して質問する。

 

「なんてこと無いわ……」

 

 しかし艦長は慌てることなく答え、
 モニターの1つを私の方によこした。
 子供達のいる生活エリアだ。
 先程、助け出したマシンチャイルドの子供達。
 その数名にもみくちゃにされているカスパー殿がいた。

 

 あ……コブラツイスト

 

「ま、ほっときましょうか」

 

「はい」

 

 艦長の言葉に私は内心ほっとしながら、モニターを消した。
 古代最強の戦艦を制御する方が、子供達にのされるとは……
 思わず苦笑する。
 しかしすぐに真剣になって作業を開始する。

 

「空間力場発生!!」

 

 ガルツォーネの周りに半透明の膜が張られる。
 別な言い方で、

 

 『ディストーションフィールド』

 

 これを張らないと、転移に耐えられない。
 …と言っても、私達の場合は必要ないのだ
 ないのだが、念のためとの事で張っている。

 

『玄武にアクセス……起動します』

 

 ターミナルリングが青い輝きを放ち始めた。
 この時がとても綺麗なのだ。
 黒い空間に輝く青緑色のリング。
 心惹かれる光景である。

 

『機動確認……朱雀へ空間ライン接続』

 

 リングの内側に虹色の膜が現れた。
 これでターミナルリング『朱雀』へ空間的に接続されたことになる。

 

『ルート最終確認…朱雀をファイナルポイントに設定。
 セントラルコロニー『麒麟』へ』

 

「よろしい、カスパー」

 

[は、はい]

 

 艦長がカスパー殿を呼び出す。

 

「これから転移しますから、彼女達をよろしくね」

 

[了解しました! あ、それはやめ……ぎええええええぃぃぃぃ!!!!!!]

 

 カスパー殿の絶叫。
 モニターを出すと、子供達に逆海老固めをかけられたカスパー殿が映った。
 彼女達の将来は有望だと思った。 何故か(笑)

 

『最終検査はいります』

 

「承認」

 

 艦長の許可が下りる。

 

『生活空間異常なし』

 

『通信回線を閉鎖』

 

『エネルギー系統問題なし』

 

『以下システム異常確認されず
 準備完了』

 

「よろしい。
 ターミナルリング転移ポイント突入ルートへ」

 

 ガルツォーネがリングの中心へ向かう
 艦長の身体が光り始める。
 それに呼応するように船が輝き始めた。

 

『空間転移開始しました
 深度レベル5・6・7・8・9』

 

 カウントが始まる…そして…

 

「転移」

 

 イヨ艦長の声と同時に起こった数秒のブラックアウトの後、船の前に巨大な構造物が現れた。
 巨大なリングが幾つにもあわさったような形。
 例えると、雪の結晶が幾つにも重なったようにも見える。
 そしてその周りを巨大なリングが何十にも取り囲んでいる。
 それらが金色の光をともしている。
 セントラルコロニー『麒麟』
 私達の家であり学び舎であり町であり、そして家庭用品、医療用品を牛耳るいまいち目立たない企業
『クロノスグループ』の裏総本山でもある。
 ちなみに表の総本山は日本にある。
『麒麟』の周りを幾つもの巨大な構造物が行き来している。
 この麒麟を作り管理するイヨ艦長……トワノワ・イヨの直接の部下が制御する幾千もの艦隊。
 最大のもので4キロのものまである。
 付け加えると、その船一つ一つが自家用戦艦。
 その内の4機は麒麟の4方3光秒……丁度三角錐が出来る位置に存在し、
 超強力なイリュージョンフィールドを張って、存在を隠している。
 ……ちなみにこの4機、12キロあるんだ。
『麒麟』は、地球の軌道から垂直線状に位置し、地球と太陽の距離と同じ位置に存在する。
 生物生存可能領域。
 太陽から一定の距離に存在し生命が存在できる許可が取れるというまさに聖域
 地球はこの中にジャストフィットしていた為に生命が生まれたのだ。
 この領域はリング状ではなく、球状に存在している。
 そんな球状の厚みの中に『麒麟』は位置している。
 理由は簡単で、太陽光などの調整が容易なため。
 後気分がいいではないか、と言うことだ。
 どういう意味かはわからないが。

 

 

 閑話休題
 それはさておき

 

 

『ようこそ、セントラルコロニー……あれ?」
 モニターが現れ、中には14歳の少女が言葉に詰まっている。
 私より数年後輩の子だ。

 

「麒麟……まだまだね。緊張しすぎは失敗の元よ。
 気を楽にしてやりなさい。
 …相手が誰であっても。
 以後気を付ける事」

 

 艦長がやんわり注意する。
 ここのところが艦長のいいところだ。

 

『はい、分かりました』

 

「よろしい。
 …こちら、クロノスグループ基幹護衛艦隊旗艦『ガルツォーネ』。
 麒麟への着艦を願う」

 

 今度はてきぱきと作業をこなす。

 

『了解しました
 照合確認。 
『麒麟』への着艦を許可します』

 

「航行システム『麒麟』へ接続。
 後は任せる」

 

『了解しました』

 

「うん。やればできるじゃない。
 その感じを忘れないように」

 

『はい!』

 

 艦長の言葉に笑顔を浮かべたオペレータの卵のモニターが消える。
 その笑顔のせいで私まで笑っていた。
 見ると艦長も微笑んでいる。

 

「さて、しばらくひまになるか……
 各員、5時間の休憩を許可します。
 寝るなり好きにしなさい。
 但し、性行為はご法度。
 自慰行為も同様に控えること。
 以上」

 

 艦長が艦内放送を入れた。
 ……でも性行為って………

 

「艦長、それでは暫く仮眠を取ります」
 正直なところ結構眠かったのだ。

 

「あ、いいわよ」

 

「それでは……」

 

「わたしも………あれ? 何か忘れ………………あ!」

 

 艦長がいきなり大声を出す。
 何を思い出したのだろう?

 

「カスパー。無事?……あれ?」

 

 あ、そうか。
 カスパー殿の事を忘れていた。
 私もカスパー殿の映像を呼び出す。。
 大の字になって寝ているカスパーに折り重なるように子供達が寝ている。
 異常は無いようだ。
 良かった……

 

「起こすのもわるいか……」

 

「私もそう思います」

 

 お互い顔を見合わせて苦笑する。

 

「そうね、そっとしときましょう。
 わたしも寝る……麒麟オペレータールーム」

 

『はい』

 

 メインモニターに先程のオペレーターが映る。
 今度は落ち着いているようだ。

 

「着艦までの時間を5時間に。
 暫くわたし達は寝るから」

 

『了解しました。良い夢を』

 

「ははは。
 ありがとう」

 

 艦長が笑いながら礼を言うとオペレーターが一礼し、モニターが消える。
 それを確認して、艦長は目を閉じ眠りにつく。
 そして、わたしも目を閉じ、夢の世界へ旅立っていった………

 

 

 

 ≪中編へ続く≫

 

 

 後書き
 どうも、夏も本番プールで沈没(笑)の天砂です。
 赤黒の女神 ガルツォーネにて をお送りしました。
 いや〜長かったですよ本当に。
 さて、この次の話でイヨがテンカワアキトを観察しているのかと言う目的を明らかにします
 そして、彼女の目的もある程度は……
 期待している数名の皆様……もっと少なかったりして(汗)
 中編、ご期待ください。
 では。

 

 ………段々ストーリーが『時の流れに』から外れてきてるような……
 サイドストーリーのはずなのに…… 

 

 

 

管理人の感想

 

 

天砂さんからの投稿第五弾です!!

カスパーって人型だったんだ(笑)

今回の第一声はこれにつきます。

でも、新キャラが続々と登場しましたね。

さてさて、今後はどうなるのなか?

とりあえず、本編からは離れてしまったみたいですね。

ふふふ、次の展開が楽しみにです。

 

・・・でも、サラリと凄い事言うね、イヨさんって(苦笑)

 

では、天砂さん投稿有り難うございました!!

次の投稿を楽しみに待ってますね!!

 

感想のメールを出す時には、この 天砂さん の名前をクリックして下さいね!!

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