第17話 「鬼神?

×戦神?

                   ×機神?」

 

 








 ビィー!!ビィー!!ビィー!!

 アキトのユリカの覚悟を試す演説が終わってすぐに、警報が鳴り響く。


「艦長、月の衛星軌道上を航行中の地球連合艦隊からの救難信号です。」


「救難信号?敵の規模は?」


「それが・・・機動兵器一機だけだそうです。」


 連合艦隊が? アキトじゃあるまいし・・・


『ユリカ、俺が出るぞ。』


ヒュィィィン!!ガチャン!!


 アキトの乗るスーパーブラックサレナが飛行形態に変形合体をする。

 
 シュドォォォォン!!


 そして物凄い速度で戦場に向かうアキト。


「ルリちゃん、直ぐに追って。」


「了解。」


「カイト君、今回の敵は侮れないから貴方も行って欲しいんだけど。」


 俺は今回はその必要がないと言う事でここで待機していた。


「アキトはガイアを持って行ってしまった、俺が手伝う事は出来ない。」


「あの瞬間移動みたいので跳べないの?」


「無理だ、唯でさえ狭いコクピットだ。

 しかも座標が固定されていないのでは尚更だ。」


「そうなの?」 


 一度ボソンジャンプについても説明しなくてはならないな。



 俺達が救難信号が発信された場所に着いたときには

 そこには既に動く物は無かった・・・


 いや、ただ一つ、機動兵器が一機のみ動いているだけだった。


『早かったな、テンカワ アキト。』


 敵パイロットからアキトに通信が入る。


 ドックン・・・


 なに!!なんだこの感覚は!!


『実に・・・実に良い気分だ。

 こんな良い気分になれたのは、あの父親の目を抉りぬいた時以来だよ。』


 ドックン・・・ドックン・・・

 
 なんだと言うのだ!!体がおかしい!!


『ふっ、少し自己紹介をしようか?

 俺の名前は北斗・・・北辰の愚息よ。』


 ピキィィィィィィィィンン!!

 
 バタン!!


「?!カイト・・・どうしたの!!カイト!!」


 北斗と名乗る奴のセリフを聞いた俺の意識は

 闇の中に落ちていった・・・ 

 

 

「ストライクゥゥゥ!!」


『レェェェザァァァ!!』


「『クロォォォォォ!!』」



 ガキィィィン!!バチバチバチバチ!!!!


 ドゴォォォォォン!!


『チィ!!』


「くっ!!」


 今の衝突でお互いのクローが爆発する。

 今ので確信した、北斗が使っている機体はこのスーパーブラックサレナを参考にした物だ。

 あの鎧、あのブースター、形と設置のされ方からしてCASはカットされているな

 そして・・・


『ハァァァ!!』


「このぉぉぉぉ!!」


 ヒュン!!バチバチバチバチ!!

 DFS同士の激しい衝突。


「やはりDFSまでコピーされていたか!!」


『・・・それは違うな。

 ただのコピーでは無い!!』


 ヒュン!!ザシュ!!


 北斗のDFSが俺のDFSを貫き俺のエステは右腕を失った。


『こっちのDFSは強化されているんだ!!』


「そうか・・・だが!!」


 ザシュゥゥゥン!!


 俺はガイアのDFSを使い敵の左腕を切り落とす。


「シュナイダーには7本のDFSがあるんだぜ。」


『はっはっはっは、流石だな。

 ではそろそろ本気で行くぞ!!』


「『バーストモード!!』」



 キュィィィィィィィンン!!


 お互いの機体が真紅に染まる。


 そして隻腕の機体同士の死闘が始まる。



ドゴン!!

          ズガァァァァン!!

       バキィィィン!!

                    ガガガガガ!!

   ヒュゥゥゥゥン!!ズドォォォン!!
        


 北斗は強化されたDFS

 俺は残された6本のDFSを駆使し死闘が続く

 そして


「『ハァァァァァァァ!!』」


 ズガシャァァァァンン!!

 ドゴォォォォン!!

 お互いのDFSがそれぞれ残った腕を切り落とす。



『ふ。ふははははは!!

 最高だよ、テンカワ アキト。』


「やるな、北斗。」


 お互い動けなくなったところで。


『北斗様、敵の新造戦艦の奪取に成功しました。』


「なに!!」


『ふん、ナデシコも居なければ、テンカワ アキトも不在だったんだ。

 成功しない方がおかしいだろうが。』

 

『ご、ごもっともで御座います。』


 
『でわな、また会おう、テンカワ アキト。』


 そう行って闇の彼方に消えていく北斗とシャクヤク。


「・・・歴史は,もう修正不可能な所まで来てしまったか・・・」


 俺は一人コクピットの中で呟いた。

 

 

 そして、レイナさんとミナトさんの回収も終わり

 一段落着いた。

 格納庫では兄さん絡みで何かあったようですけど・・・


 これから急に倒れたカイトさんの様子を見に行こうと廊下を歩いていると。


「やあ、え〜〜と・・・」


 サブロウタさんと出くわしました。


「こっちへ。」


 私はサブロウタさんと連れて、人通りが無いに等しい廊下に来ます。

 あえて部屋に入らないのは、私には兄さんや姉さんみたいな気配探知能力が無いので

 部屋から一緒に出てくる所など見られては大変だからです。


「お久しぶりです、艦長。」


「ええ、本当に。

 でも今は私は艦長ではありませんよ。」


「それでは・・・アキラ・・・ちゃん、かな?

 なんか変ですね。」


「そうですか?始めてお会いしたときにはそう呼んでらしたじゃないですか。

 それに、元々貴方の方が年上なんですから。」


「はははは、そうですね。

 それにしても、申し訳無いです。

 『守ってみせる!!』なんて大口叩いたのに登場が遅れてしまいました。」


「いえ、いいんですよ。

 仕方の無い事です。

 それに、ここには兄さんがいますから。」


「テンカワ アキト・・・ですね。」


 今のセリフでサブロウタさんの表情が少し曇ります。


「そう、私の兄さんです。」


「やはり・・・!!」


 バッ!!タンッ!!


 サブロウタさんは急に真剣な表情になったと思うと

 いきなり私を抱えて飛びました。


「白兵戦も出来るのね。」


 私達がさっきまで立っていた場所には姉さんが立っていました。

 
 先日届いたばかりの姉さんの愛刀『血桜』を持って。


「姉さん!!何をするの!!」


「あの放射性廃棄物の兄貴分をしていた奴が

 大切な妹に何かしているのではないかと思いまして。」


「!!サブロウタさんはそんな人じゃありません!!」


「どうして言いきれるの?

 あれだって、そう思っていたんでしょ?」


「それでもサブロウタさんは大丈夫なんです!!」


「だからなんで言いきれるの?」


「それは・・・」


 私はサブロウタさんの顔を見る。

 因みに今だ私はサブロウタさんに抱かれたままだ。


「とにかく、この人はあんな物と違います。」


 多分今私の顔は赤くなっている事だろう。


「・・・ふ〜〜ん。

 まあ、いいでしょう、私もその様には思えませんし。

 それより、いつまでアキラを抱いているつもりですか?」


 半眼の姉さん・・・いろんな意味で怖いですよ〜


「お、これは失礼。」


 そう言って私を下ろすサブロウタさん。


「いや〜、あの時あれだけの死闘をした子が

 今ではこんなにかわいい子だとは。」


「それでは、あの時の私はどうだったんです?」


「あの時は絶世の美少女でしたよ。

 でも今はかわいい女の子かな。」


「誉めても何も出ませんよ。」


 因みに元の世界では姉さんの相手はサブロウタさん

 カイトさんの相手はリョ―コさんがいつも担当していました。


「じゃあせめてお茶でも。」


「今の私を誘ってどうするんですか?

 もしかしてそう言う趣味?」


「まさか。

 将来の姿を知る者としては当然の行為ですよ。」


「・・・それでも16歳ですよ?」


「16歳なら大人だと思いますけど?

 なあ、アキラちゃん。」


「どうして私に振るんです!!」


「あ、拗ねないでよ。

 拗ねた顔もかわいいけど。」


「もう知りません!!」


 私達がそんな会話をしていると。


「君がタカスギ サブロウタか?

 実際逢うのは始めてだな。」


 今度は姉さんの後ろから兄さんが来ました。


「始めまして、漆黒の戦神さん。」


 少し真剣な顔になるサブロウタさん。


「ああ、君には妹が世話になったそうだな。」


「いえ、大した事はしてませんよ。

 それより、俺はこれからどう動きます?」


「ああ、そうだな・・・

 それよりすまないな、巻きこんでしまって。」


「いえ、あんな未来、変えられるなら本望ですよ。」


「これからの事は後で皆でじっくり話したい。

 それから、白兵戦もできる様だから、鍛練にも付き合ってもらいたいな。」


「お手柔らかにお願いしますよ。」


「では、後で。

 ルリ、カイトが倒れたと聞いたが?」


「はい、今医務室にいます。」


「解った、様子を見てこよう。」


「お供します。」


 そう言って、医務室に向かう兄さんと姉さん。


「あ、待ってください。」


 私は二人を追いかけて、兄さんの腕を掴む。


「やはり俺ではアキトには勝てないのか、アキラ・・・」


 独り言のつもりだったのだろう,その声を私は聞いてしまった。


「ごめんなさい、サブロウタ。」


「ん?何か言ったか、アキラ。」


「いえ、なんでもありません。」


「・・・」


 私達は医務室に向かう。

 

 そして医務室


「多分疲れが溜まっていたからだとは思うけど・・・」


 そう、イネスさんに説明を受けた後カイトと面会した。


「もう良いのか、カイト?」


「良いも悪いも、なんで倒れたのかが解らない。」


「ほんとにどうしたんです?」


「解らない。

 ただ、あの北斗とか言う奴の声を聞いて意識が遠のいたのは確かだが・・・」


「もしかしたら、お前は北斗に逢っているのかも知れないな。」


「・・・そうだな、研究所にいた頃の記憶は全くと言って良いほどないから、

 アイツに関してなにかあったのかもしれないな。」


「そうですね、今となっては調べようがありませんが。」


「それよりルリ、アレの開発はどの程度進んでいる?」


「8割程度完成しています。
 
 後は殆ど最終調整です。」


「そうか・・・

 北辰に次いで北斗の登場だ。

 最早、出し惜しみなどしている余裕はない。

 完成を急いでくれ。」


「了解しました。」

 




  
 次の日、格納庫


「皆喜べ!!ついに完成したぞ!!」


「おおおお!!」(パイロット全員)

 ウリバタケさんに呼ばれて格納庫に集まったパイロット全員は

 ウリバタケさんのそんな声と共に見せられた物に感嘆の声をあげる。


「ついに完成したのか、俺達の専用機が!!」


「おうよ。

 まず、リョ―コちゃん専用機、『マルス』

 パーソナルカラーは赤。

 接近戦重視のため遠距離用の装備は無いが、

 この専用武器、『赤雷』はリョ―コちゃんの特技である居合を再現し、

 これ自体にディスト―ションフィールドを纏う事により、DFSと同等の威力が繰り出せるのだ!!」


「流石だぜ、ウリバタケ!!」


 リョーコが歓喜の声を上げる。

「ふ、あったぼーよ!!

 続いて、アリサちゃん専用機、『ルナ』

 パーソナルカラーは白銀。

 レイナちゃんは射撃も出来るが、あえて射撃を捨て、接近戦専用にした。

 この専用武器『バルキリーランス』は『赤雷』と同じく、ディスト―ションフィールドを

 纏う事でDFSと同等の破壊力を持つ事が出来る。

 また『赤雷』が『斬る』なら『バルキリーランス』は『突く』だ、

 フィールドを全て槍の先に集中すれば、貫けない物は無い!!」


「ありがとうございます、ウリバタケさん。」

「任せな。

 そして、アヤちゃん専用機『アルテミス』

 パーソナルカラーは純白

 この機体の専用武器は『アルテミスの弓』

 これは、フィールドを矢に変えて撃つことが出来る、つまり弾数は無限だ。

 フィールドを矢にするのも今のアヤちゃんなら出来る。

 そして接近された時はこの弓にフィールドを纏い、

 斬る事も出来る、まあ威力は『赤雷』には遠く及ばないけどな。

 そして、この専用の矢『アルテミスの矢』を使えば、僅か3発だが

 このナデシコすら貫くとことが出来てしまうのだ!!!!」

「期待以上ですね、流石です。」


「当然。

 そして、今回最も苦労した機体、ヤマダ専用機『ガンガー』

 パーソナルカラーは藍。

 この機体にはCASが使われ、3つの武装を選ぶ事が出来る。

 まず、『ドラゴン』、専用武器は『ガンガートマホ―ク』

 これも『赤雷』と同様の武器だ、このエステ本体よりデカイ戦斧は

 当たればまず確実に敵を真っ二つにするだろう。

 あと、これは3つの武装共通の武器『ガンガーハンマー』

 これもフィールドを纏い敵を砕く武器だ。

 そして、『ドラゴン』最強武装、頭部に付いている『ハイパー・メガ・キャノン』

 これはまだ開発中だが、一発限りで戦艦クラスの2倍の威力の

 グラビティーブラストが発射できる。

 次に『パンツァー』、聞いての通りだが、ブラックサレナの流用だ、

 この機体の武器はマイクロミサイルランチャーとレールガン、

 ライフルにビームカノン、そして必殺の『サテライトキャノン』

 『エデン』から送られるエネルギーウェイブを受信して超エネルギーを

 撃ち出す武器だ、エデンからのエネルギーウェイブが届く所にいれば

 3分おきに連射も可能だ。

 しかし!!この武器は使用する際にアキラちゃんからの許可が必要だ。

 撃ちたい時は「アキラ、俺に力を!!」と叫ぶこと。

 そして、最後の武装『ライガー』、こいつの武器は

 男のロマン『ドリル』だ!!

 普段はショルダーガードに付いているドリルを手にはめて使う。

 勿論フィールドを纏っている、これに触れた物は木っ端微塵!!

 更に!!こいつの腕は男の魂『ロケットパンチ』になる!!
 
 つまり、ドリルをつけた状態で撃てば『ドリルブーストナックル』となり、

 まさに、男の男による男のための夢の武器になるのだ!!」

「ウリバタケ班長!!」


 バッ!!


 お互いの手を取るウリバタケさんとヤマダさん


「ガイ、存分に戦え!!」


「はい!!ありがとうございます、博士!!」

 ・・・

「暑苦しいのはほっといて、

 説明を続けるわよ。」


 私は何時までも見詰め合っている(凄く気持ち悪い)二人を無視して、前に出る。


「そうそう、なんかやたらとヤマダさんの機体だけ凄いように見えるけど、

 これは、その分動きが鈍くなってるの、

 まあ、それを補うために装甲と耐久性は上げてあるんだけど・・・

 言ってみれば、他のがリアル系でヤマダさんの機体だけスーパー系ってとこかな。

 因みに鈍いって言っても普通のエステなんかよりずっと早いんだけどね。」

 
 因みにアヤ、アリサ、リョ―コの機体には今説明した武器しか装備されていない、

 他の武器も持とうと思えば持てるが、邪魔になるだけだし。

 「次の機体、ヒカルさんの『煌』。

 パーソナルカラーはオレンジ。

 この機体はイズミさんの機体もそうだけど、専用の武器と言う物は無いわ。

 その代わり、あらゆる銃器に対応し、持ち替える事も簡単。

 そして、二人の必殺技、ヒカルさんの『ノイズ・クラッシュ』と

 イズミさんの『キル・ディフェンス』。

 必殺って言ってもやっぱり援護系の能力だけど。」

「そして、これがイツキさんの『白百合』。

 パーソナルカラーはピンク。

 この機体も2パターンだけだけどCASが使えるわ。

 まず一つ目の武装『アルトロン』の特徴は肩の二門の砲台。

 一つは『グラビティーランチャー』

 これは戦艦クラスのグラビティブラストを20秒おきに最大10連発できるわ。

 まあ、本当に10連発したら2度と使えなくなるだろうけど。

 そして、もう一つ、『フェザーランチャー』

 これは・・・これは、ルリちゃん達が戻ってきたら説明するわね。」

「そう言えばルリとラピス、カイトそれにメティは何処に行ったんだ?」


「ああ、今、月にいるのよ、明日には帰ってくると思うわ。

 説明続けるわね。

 もう一つの武装『ヘビーアームズ』

 これは最大の武器は、両腕のダブルガトリング。

 両肩、両足にはミサイルポット、そして胸部にもガトリングガンが隠されているわ。」

「なあ、それは良いけど、あれはなんだ?」


 リョ―コが機体の側に立てかけてある物を指す。


「ああ、これね、これは何故かラピスちゃんが

 『ヘビーアームズ』に着けなきゃいけないって、

 いって、作ったのもよ。」

「でもピエロの仮面だぜ。

 しかも左半分の。」


「一応、レダ―よ、これ。」


「あっそ・・・」


 呆れている様だ、私もそう思う。


「そう言えば、イツキちゃん、どうしたのその傷?」


 イツキさんの頬には擦ったような痕がある。


「ええ、ちょっと。

 なんか、ラピスちゃんに呼び出されて、

 『伸身前方一回転三回捻り』の練習をさせられたんですよ、

 これはその時にこけちゃって。」


「またなんで?」


「さあ・・・

 でもこれが出来ないなら、『ヘビーアームズ』は使わせないって言ってました。」


 今度は何を見たのかしら・・・


「さて、最後の武装は、ヤマダ機と同じ『パンツァー』よ。

 因みに『サテライトキャノン』の砲身は二つセットで一つしかないから。

 どちらかが使っていたらもう一方は使えないわ。

 そして、イツキさんの場合は艦長に力を求めるのよ。」


「『ユリカ先輩、私に力を!!』ですね。」


 ・・・やけに嬉しそうね。


「最後に、我がナデシコのエステバリス隊、仮リーダーの機体。」


「その言い方は酷いんじゃない?

 まあ、本当の事なんだけどね・・・」


 アカツキさんが『いいんだけどね』と言った感じで肩を落とす。

 本来はアキトがリーダーを務めるべきなんだけど、

 なんせ、彼、単独行動の方が多いから・・・

 その点、意外にも・・・でもない筈、一応ネルガルの会長だし、・・・一応

 アカツキさんには皆をまとめる能力があるわ、と言う訳で彼がリーダーを務める。

「このリーダー専用機『ジャッジ』の固定武装は

 脚部に格納されたカタール『ブラッド・ペイン』のみ

 この『ブラッド・ペイン』は『赤雷』を量産、二刀にしたと思ってくれていいわ。

 あとはヒカルちゃん達の機体と同じ、銃器はなんでも装備できるわ。

 まさに、近接から後方援護まで出来る、万能機ね。

 そして・・・ああ、これもルリちゃん達が帰ってきてからにしましょう。

 まあ、こんな所ね。」

「なあ、あの奥にあるやつは何だ?

 何かいじった跡があるけど。」


 リョ―コが格納庫の奥に置かれている予備のエステを指す。


「それは・・・」
 

「それは実験用に改造してあるんだ。」


 さっきまでヤマダと話をしていたウリバタケさんが戻ってくる。


「実験?なんのです?」


「ん〜〜〜ん・・・これは試した後、使えるようなら言おうと思ってたんだが・・・

 ま、いいか、お前にも試してもらおう。」

「だから何をだ?」


「この機体にはルリちゃん達が作った特別なシステムが積まれているわ。」


「その名は『アキト・リンク・インストレーション・コントロール・システム』

 略して『ALICE(アリス)システム』だ。」


「名前、おかしくありません?」


「ああ、これは『アリス』から無理やり当てはめた物だからな。」


「しかもEが足りないし。」


「友達にまで「なんでお前と同じ大学なんだ!!」と言われるほど

 外国語の成績がどん底の作者にこれ以上を求めるのは酷でしょう。」
  

「このシステムは過去のアキトの戦闘データを元に作った

 戦闘パターンをIFSを通して操縦者に送り、その時最も有効な手段を実行できると言う物だ。

 つまり、お前達でもアキトの様に戦える。

 かもしれないという事だ。」


「スゲ―じゃねぇか!!」


「ああ、だが、いろいろ問題がある・・・

 ま、それを試す実験だし。

 よし、まずリョ―コちゃんが試してくれ。」


「よし!!」


 意気込んで実験用エステに乗りこむリョ―コ。


 あら?あんな所にキノコが生えてる。

 後でウリバタケさんに刈っといてもらおう。







 数時間後、整備班休憩室


 バッ!!

 俺の後ろで動く音がしたので、書類を書くのを中断し振り向く。


「なんだ、起きたのか。」


 実験を終えた後、何故か格納庫の入り口で倒れていた提督を回収した。


「ここは・・・

 そんな事は今はどうでも良いわ。

 提督として命令するわ、すぐにあの新型を・・・」


「量産なら、無理だぜ。

 と言うか無駄だ。」


 提督は俺が全て言う前に答えた事に一瞬驚き、

 直ぐに怒りの表情を浮かべる。


「何よ!!どうしてよ!!」


「そうだな、簡単に言えば、

 5歳の子供に名刀を持たせる。

 そんなところだな。」


「どう言う意味よ!!」


 直ぐに怒鳴る提督。

 まったく、少しは考えろよ。


「つまりだな、まず、子供に刀なんて持たしても、危ないし、扱えない。

 そして、手入れも出来ない。

 何よりも、そう簡単に作れる物ではない。

 って、意味だ。」


「おちょくるのもいい加減にしなさい!!

 意味が解らないわよ!!」


 ・・・こいつ、本当に提督か?


「はぁ・・・いいか、アキトがいるせいで忘れがちだが、

 ここのエステバリスライダーは皆、超一流の腕だ、だからあの新型が扱える。

 ところがそこいらのエステバリスライダーがアレに乗ったら、加速でしぜつするわ、

 武器にフィールドを纏えないわ、武器の使い方を理解していないわで、

 使いこなせない。

 さらに、アレを整備するには俺達のような最高の整備員が必要だ。

 どんな機会もメンテナンスしなければ直ぐに動かなくなる。

 そして、なにより、アレを作るのには今までのあいつ等の死と隣り合わせの

 実戦のデータをルリ、ラピスのような最高のプログラマーがあいつ等に合わせた

 プログラムを組まなければいけない。

 よって、量産など不可能。

 ただ性能を上げたいのならリミッタ―を外せば済む。」


「な、ならさっき言ってた『アリスシステム』とか言うのを完成させなさい!!

 あれさえあれば、テンカワ アキトなど必要なくなるのよ!!」


「ああ、あのシステムなら最初から完成せれている。」


「なら直ぐに量産を!!」


「それは新型の量産より無理だ。

 さっきの実験で解った、あれはアキトになれるシステムじゃない。

 アキトに取り付かれるシステムだ。

 あのシステムを発動させるとアキトの戦術を強制的に実行させられるんだ。

 リョ―コちゃん、アリサちゃんは1分、アヤちゃんは1分半、

 あのヤマダですら2分で気絶した。

 それだけアキトの戦闘は凄まじいんだよ。

 それをそんじょそこらの奴に強制してみろ、実戦に出たら3分で精神崩壊間違いなしだ。」


「改良すれば良いでしょ!!

 やりなさい!!今すぐに!!」


「完成されてるって言ったろ?

 あれは手を加える所なんてないよ。

 仮に強制的に実行させる事をカットしたら、頭の中に他人の戦術が常に流れ込んできて

 混乱するだけだしな。」


「もう後がないのよ!!崖っ淵なのよ!!

 あんた最高の整備員なんでしょ、何とかしなさいよ!!」


 そう言って俺に掴みかかってくる提督。


「俺は最高の整備員である前に人間だ。

 できる事とできない事がある。

 大体、お前の為に努力してやるつもりは毛頭ない!!」


「なんですって!!私は提督なのよ!!」


「だからなんだ、このナデシコで何もせず、ただ叫び、怯えているだけの奴に

 誰が手を貸すものか!!

 甘ったれるのもいい加減にしやがれ!!」


 バッ!!


 俺は掴み掛かっていた手を跳ね除け、書類を持ち退室する。


 プシュ!!


 後には呆然と佇むムネタケだけが残された・・・






 次の日


 ビィー!!ビィー!!ビィー!!


 早朝からブリッジに警報が鳴り響く。


「敵接近!!シャクヤクです!!

 更に機動兵器8機出撃したようです!!」


  シュゥゥゥン!!バシュゥゥゥンン!!

 
 私達の前を青い機体が飛んでいく。

 
「あれって、確かアリスシステムを積んだ実験機じゃ?」


「アキラちゃん、アリスシステムって?」


 私が不信に思い、そしてミナトさんが問いかけてきた時。


『大変だ!!ムネタケの奴が実験機で出撃しやがった!!』


「な!!なんですって!!あのシステムの危険性を知らないんですか!!

 戦闘の素人があのシステムを使うなんて自殺行為です!!」


『案外そうかもよ、今しがムネタケに降格の通知が来たわ。』


 静まり返るブリッジ。


『俺達も出るぞ!!』


 兄さんから通信が入る。


「うん、行って。

 ついでに提督も連れて帰ってきてね。」


『了解した。』

 


『アキト、前回の戦闘で壊れた『シュナイダー』は修理が終わってないんだ。』

 
「いいんですよ、新型の完成を急がせたのはおれですから。」


『すまねぇ。』


 とは言ったものの、困ったな、この暗礁宙域で『イェーガ―』は辛いな。

 でも、『パンツァー』や『ゼロ』で出るよりかましか・・・


「インストレーション・システムコール!!イェーガ―!!」


『スバル リョ―コ、『マルス』出るぜ!!』


『オオサキ アヤ。『アルテミス』出ます!!』


『アリサ、『ルナ』出ます!!』


『ヤマダ、『ドラゴン』はまだ未完成、『パンツァー』は障害物が多すぎて

 サテライトキャノンが使えない。

 『ライガー』で行け!!』


『解った!!

 チェェェェンジ・ライガー!!スイッチ、オン!!』


『インストレーション・システムコールってちゃんと言いなさいよ!!』


 ・・・急いでるんですけど。


 シュゥゥゥゥン!!バシュゥン!!バシュゥン!!バシュゥン!!・・・・
 

 

 

「実験機、後20秒で敵と接触します。」


 プシュ!!


「敵っすか?俺にとっては味方だけど。」


 サブロウタさんがブリッジに入って来た。


「そうよ。

 タカスギ君、うろうろしないでね。」


 ミナトさんはもう名前で呼んでる。

 向こうにいる時に話したからかな?


「いや、普通、捕虜が自由に艦内を歩ける時点でおかしいと思うんですが?」


 まあ、ナデシコですから。


「拘束されたい?」


「いえ、遠慮しときます。

 でも捕虜なのに自由だと暇なんですけどね。

 何か手伝いましょうか?」


「いいの?ちょうどよかった。

 今ルリちゃん達がいないからオペレーターがアキラちゃんだけなのよ、

 ルリちゃんの席使って良いから手伝ってくれる?」

                                                      「あの〜僕は?」
「いいですよ。」

                                      
 そう言って私の隣の姉さんの席に座るサブロウタさん。
                                                 「いいんだ、いいんだ・・・」

 いいのかな?木連にとっては利敵行為になるんじゃあ?

 

 

俺が戦闘宙域に着いた時には既にムネタケの乗ったエステはボロボロだった。


 バシュンバシュンバシュンバシュン!!!!


 ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!

 
 俺は実験機を囲んでいた敵機にレールキャノンを撃つ。

 が。


 ヒュゥン!!サッ!!


 全て避けられた!!北斗はともかくちゃんと当てる気で撃ったのに、

 他の7機も侮れないな。


『よう、アキト、こいつはお前の味方か?

 お前の真似事のような戦術だったが一人で突っ込んでくるとは馬鹿な奴だな。』


 北斗から通信が入る。


「悪いが今はそいつを回収したい。

 相手なら後にしてくれ。」


『はいそうですか。

 なんて言うわけ無いだろ!!』


 向かってくる北斗。


「ちっ!!皆、アイツを回収したい、援護してくれ」


『了解(オウ!!〉』


 ズガガガ!!
                       ザシュン!!
                     
    ガガガガン!!
                              ドンッ!!ドン!!!

         バシュゥゥウウン!!


 よし、皆が敵を引き付けてくれている間に。


 俺は実験機に近づく。


「こりゃ酷いな、もう、武器も破壊された様だな・・・

 よし、ガイア、分離。

 スーパーブラックサレナ、飛行形態へ変形!!」


『ダメだ!!アキト、そいつに近づくな!!そいつには機密保持の為の自爆装置が・・・』


 ウリバタケさんからの通信が入ったその時!!


 ガシィィィン!!


 半壊の実験機の腕がガイアと分離したブラックサレナを掴む。


「なに!!」


『ゼッタイセイギィィィィィィィィ!!!!』
 

 
  ドゴォォォォォォォオンンンン!!
 

 

 

 

代理人の感想

 

・・・・・趣味に走ったな〜。

ガイやラピスはともかくとして、ウリバタケよ、おまえもか(笑)。

いや、ウリピーが趣味人なのは前からだけど、コッチの世界にはまるとは(苦笑)。

TV版とは完全に別人だな〜。

とどめに自爆装置まで付けて・・・・・これでアキトが死んだらどうなる事やら(笑)。