物事には流れというモノが存在する。


 水の流れのように流動的で

 微風のように翻弄で掴み辛い。


 もっとも自然現象に限らず何かの弾みで

 空から唐突に降って来るというのもある。


 一言でいえば運気というもの、

 人から人へ流れ、

 ある者には禍を、

 ある者には幸運をもたらす。


 運気そのモノに意思はない。

 禍になるか、幸運になるかはその人次第。


 この場に満たされた流れは僕にバラゴムに、俺にまたバラゴムにと流れに流れ、

 今となっては双方から離れハナーに集まり掛けているのがわかる。

 それを察し、俺は舞台から静かに身を引き、過去の当事者にバトンを委ねたつもりでいた。

 だが・・・。



 (おいおい、これは一体何の冗談だ・・・)


 任せるつもりでいたにも関わらず、そう呟かずにいられない。

 誰がこんな事を予想したであろう。


 電動式医療ベットから何事もなかったように立ち上がた老人。

 その仕草に一変の淀みも震えもない。

 自然に流れるような動き。

 とても半身不随と云われた男、

 否、70歳を間直に控えた老人とは・・・とても思えない滑らかな動きであった。


 一体、今まで彼の者のためにあった医療器具と体中を繋いだコードは何だったのだろうか?


 確かに何かをしてくれるだろうと期待はしていたが

 現状を知る者として突っ込まずにいられなかった。



 「提督・・・あの?・・・本当に大丈夫なんですか?」


 ただ、もしかしたら俺達の闘いに熱くなって自らも奮いたっのかも知れない。

 精神が肉体を超えたのかと思い気遣うが・・・。



 「ガァハハー、心配は無用じゃ、

 隣でこんなに楽しい祭りが行われておるのにおちおちと眠っておられるか〜、

 そろそろワシも混ぜておくれ〜、でないと寂しくて凍えそうじゃ」


 屈託のない笑み、おどけるような仕草、

 気迫で強引に動かしている訳ではなさそうだ。

 突っ込みたいことは山ほど膨れ上がったが

 嘗ての懐かしい気持ちに包まれ、追求の手綱を緩めてしまう。

 もっとも隣の男は・・・。


 「・・・な・・・わ・・・わ・・・」


 気の毒なほど取り乱していた。

 人差し指でハナー提督を指しながらアングリ返っている。

 敵対していた者に背中を見せるほどの取り乱しぶり。



 当然だ。

 これは流れが向いたからの動きではない。

 その気になれば流れを自分で持ってくることも可能だということを示している。


 、等と男の驚きをそう勘ぐってたが

 どうやら俺が考えていたそれとはかなり違っていたようだ。



 「わ・・・我を・・・覚えているのか?」


 全身を隈なく震え上がらせながらの質問、

 それを受け取ったハナーは何を馬鹿なことと云いたげに呆れながら語る。


 「・・・変なことを申すのう、根暗バラゴム、

 ワシが殺されかけた男の貌を忘れる訳がなかろう

 ・・・ふむ、よく見れば姿も雰囲気も男前に変わったようじゃが・・・」


 と、男に近づいてはズイッと体をのり出し


 「もしかして、自慢したかったのか?」


 軽々と言い放つ。


 「・・・なっ!?」


 当然ながら当てられた男は呆然とするが話はそこで止まらない。


 「そうじゃろう?

 今までのパフォーマンスといい、犯行声明といい、

 過去を知るものとしては俺の変わった姿を見ろ、叫んでいるように見えたわ。

 怨んだものよ、呪ったものよ、カァーー、ワシも一度は云ってみたいものじゃ

 うん、カッコいい、カッコいい・・・」


 本当に老人か?と思えるほどのハジケ振りに傍観者の俺も呆気に取られるが

 隣の男は全身隈なく怒りに震わせ・・・ついに爆発する。



 「貴様!我を愚弄しているのか?」


 「とんでもない、ワシは心底驚いているのじゃ、

 あの根暗だった男がここまで男気のある存在に変わるとは・・・

 うん、長生きはしてみるものじゃ」


 「根暗、根暗っていうな!!

 その減らず口が叩けぬよう。

 この場で息の根を止めてくれる」


 「やってみろ、根暗バラゴム」



 唐突の展開、唐突の戦。

 訳の分からないまま始まった戦いは

 予想外の展開をもたらしていた。


 一言でいえばハナーの善戦に尽きる。

 彼の身動きが意外と俊敏であったこともその要因ではあったが

 あれほど恐ろしい器量を秘めた男を巧みに振り回す駆け引きは

 見方を変えれば見事としか云い様がない。



 しかし、これ以上真面目に解説する気は・・・沸き起こらない。









 「それ〜、いきなり秘密兵器、針ネズミの壁!」


 罠発動、

 文字通り男の側面の壁から襲い掛かる無数の針。


 「なんの」


 当然軽々とかわす、が・・・。


 「かかったな(ニヤリ)、秘密兵器パート2、落とし穴!」


 初めの罠はここに誘い込む布石だったのか、

 狙ったように誘われた男の体がその場から消え落ちる。


 「見たか!数年前に下のフロアをさり気無く買い上げ

 コッソリ創りあげた・・・とはいえ今では忘れられたギミック、

 ワシは嬉しいぞ〜、数年間ホコリを被っていたこのギミックに命を吹き込んでくれるとは・・・

 ワシの寝首を狩りに来た根暗男でもこの時ばかりは大感謝じゃ〜」


 「ほざけ!、取るに足らなぬ落とし穴で浮かれるのも今のうちだ。

 昇りきったら真っ先に葬り去ってくれる」


 「そうそう、早く昇った方がいいぞ♪

 でないと、ワシの特性ギミックの餌食になるからのう」


 「なに!?」


 「といっても手遅れなんじゃがな、ほれ、秘密兵器パート3、落ちる天井」


 本当に天井が落ちて来た・・・。

 落とし穴にガッシリはまるような規格の天井が落ち

 そのまま、落とし穴を塞ぎ降下し続ける。


 いくら敵相手とはいえエグイ(汗;;)

 このままいけば、男はプレス・・・。


 「ウガァーー


 ・・・されず常識外れの馬鹿力を発揮、ギミックを押しのけ破壊し、力尽くで脱出する。



 ここまでくればギャグ以外のなにものでもない。

 先ほどにも述べたように真面目に解説する気持ちなど沸き起こらないのだ。



 「うむ〜、少し古過ぎたかのう、根暗男ひとり押し潰せぬとは・・・」


 「はあはあはあ・・・・・

 相変わらず・・・人を食ったようなことばかり・・・、

 今度という今度こそ貴様の息の根を・・・」


 「まだあるぞい」


 その一言で彼の者の動きが大げさに止まる。

 何かトラウマでもあるのか・・・。


 「惜しい、封印された秘密兵器パート4が今復活されようとしたのに・・・」


 「パート4・・・だと!?」


 下らないことに何を大げさに驚くのやら・・・。


 「そうじゃ、文字通り死を司る、ワシの切り札。

 余りの危険な仕掛け故に刺客にさえ使うことが躊躇われた伝説のギミックじゃ。

 たった今、私とお主との間の床に仕掛けた。

 正しい手順で歩かないとそれは起こるぞ。

 まあ、効果は引っかかった時のお楽しみじゃ」



 ハッタリだ!!

 そこは今まで俺と男が争った所じゃないか。

 今更どんな仕掛けを・・・。



 「・・・正しい手順・・・正しい手順・・・」


 ・・・と声に出して突っ込もうとしたら

 隣の男は恐ろしく真面目な貌でブツブツと呟いていた。



 何時の間にか彼の者を包んでいた負の気配は消えていた。


 こんな子供地味たことで晴れるようなモノだったのか・・・?

 今までの熾烈を極めた戦いは何だったんだろう・・・。

 世の中の不条理をこれほどまで感じたことはない。


 バカバカしい。


 肩の力が抜けた。

 真面目に対応するのが馬鹿らしく思える。

 まあ、結果はどうあれ一連の事件が終局に向かっていることは確かだ。

 結果よければ全てよし・・・といえるだろう。

 しかし・・・。




 ピィーピィー

 <<警告!敵ミサイル照隼固定を探知、至急退避されたし・・・>>



 男が持ち出してきたある装置が警告を発していた。

 俺の感知しない所で、事態は新たな展開へと突き進んでいた。








 「大尉、ミサイルの標準固定完了しました。

 後は大尉の命令でいつでも発射可能です」


 「ご苦労、私も直ぐに行く、とりあえず下がってくれ」


 「ハッ!!」


 伝令はその命を忠実に移行し、即座に下がる。

 作戦車両内にいるのはヤマモト一人、

 しばらく、誰もいない車内でただずむように見えたが・・・。



 「クソッタレ!!」


 手持ちの端末を激情に任せ、勢いよく地面に叩き落す。

 端末は粉々に粉砕され破片が地面にバラバラと散らばる。



 事態は終局へと向かっている。

 それにも関わらず証拠隠滅のためにこんな馬鹿げた事を

 自らの手で行わなければならないとは・・・、


 やるせない気持ちになる。

 そんな気持ちを抱えたまま作戦車両を退出、部下達の居並ぶ現場に進む。





 「大尉、発射命令を!」


 現場の士官が自分の指令を促している。


 機械的で無感情な口調、

 聞いていて酷く不快な気持ちに見舞われる。


 貴様は人を殺すことに抵抗がないのか?

 それとも他人事のように思っているのか・・・。


 その場で怒鳴りつけたい衝動に駆られるが・・・抑える。


 上の命令は絶対。

 仮にも士官学校出身の者、軍事マニュアルを心得ているのなら

 いかに己の内に理不尽な想いを抱えていても

 それが通ることがありえないということがわかっているのかも知れない。

 故に心を鬼にして己の心を押し殺しているということも考えられたが・・・。



 「これ以上時間を掛ければますます都合が悪くなります。

 大尉、一刻の猶予もありません、ご命令を!」


 ・・・どうやら自分の思い違いであったらしい・・・

 沸々と沸き起こる不愉快な感情。



 上も上だが下も下だ。

 フジ参謀総長もそうだがこの者を見ているとそう思える。

 腐りきった上官、利己的で無能な士官、

 先ほどの工作員の言葉がここで証明されたようで不愉快だった。


 「大尉!!何を!?」


 いきなり拡声器を横から取り出す自分に士官が慌てる。


 「貴様は黙っていろ」


 一喝、その一言で士官を黙らせる。

 少しだけ晴れた気持ちになると、

 問題の場所を見上げ拡声器片手に力強く宣告する。



 「犯人に告ぐ!下手な茶番は一切やめて直ちに投降せよ!!

 たった今そちらに対し、ミサイル管の発射標準を固定した。

 これは演習ではない。我々の意志は断固である。

 少しでも不可解な行動に出た場合、躊躇いなく発射する」



 軍関係者を含めて辺りがざわめく。

 当然だろう、事態が好転したと思った矢先からミサイルだ。

 気でも狂ったのか、と思ったに違いない。

 そして関係者も公にするとは思ってもいなかったはずだ。

 だが、何の前触れもなくミサイルを発射したら、

 軍が口封じを敢行したという大きな傷を残すことになる。



 「大尉・・・私は知りません・・・

 事故で済ませられたんだ・・・

 貴方が勝手にやったんだ・・・

 私には何の責任もない・・・」


 とうとう本性を現したか・・・

 もとより貴様には何も期待していない。

 しかし、先ほどの無機質な貌はどこにいったのやら・・・。


 おめでたい奴だ。

 これほど多くの証人の前でミサイル発射準備し

 人質もろとも巻き込んでおいて誤射で済ませられると思っているのだろうか、




 ・・・思っているのであろうな・・・

 言う通りにすれば上が・・・組織がなんとかしてくれると思っている輩、

 事態の大局を眺めることなど出来ない組織に依存しきっている典型的な士官、

 しかし、今回ばかりは上の言う通りにすれば現場の者達は

 トカゲの尻尾の如く切られるだけだ。


 冗談じゃない。

 そうなる位なら自らの手で引導を渡してくれる。


 取り乱している士官を冷めた目で一瞥し、再度見上げる。

 しばらくすると黒衣の男が画面一杯埋め尽くすように現れた。



 「現場の責任者か?

 ミサイル攻撃とは、偉く物騒なことよ、

 惑星連合もよほど後ろくらい事があるらしい・・・

 まあいいだろう、我は全てを成し遂げた。

 降伏しよう。

 条例に乗っ取って捕虜としての処遇を要求する」



 それはあまりにも呆気ない終わり。

 野次馬達は当然のこと、軍関係者ですら事態が無事に収束したことに安堵する。

 しかし、ただひとりヤマモト・マコトだけは己の失策を呪い

 両拳を力強く握り締め震わせるのだった。



 情けないことだがこういった事態を予測できなかった。


 宣告、公論、決裂、

 この三つの過程を想定して巡らされたシナリオが

 男の一言で粉々に打ち砕かれる。


 甘かった。

 大義を掲げようとしたことも、

 また、己の力がどこまで通じるか悪戯に駆け引きに没頭しようとしたことも、

 今となっては己の未熟を曝し出した結末でしかない。

 これでは初めから予告なくミサイルを発射した方がマシではないか・・・。



 「どうした?返事がないぞ。降参するといったんだ。

 まさか、今更受け入れないとは言うのではなかろうな?」


 そういって男は嗤う。



 見誤った。

 先ほどのふざけた争いを眺めている内に己のカンが曇ってしまったらしい。

 これが彼の者の最大の目的だというのに・・・

 全ては後の祭り。



 しかし、そのことでヤマモトを責めるのは酷というものだろう。

 修羅場も経験も圧倒的に不足しているのだから・・・、

 そしてヤマモトがダメならこの場の軍関係者は誰も彼の者の相手は勤まらない。

 いいように手玉に取られるだけなのだ。



 だが、このまま捕らえるわけにはいかないのは確かだ。

 口を封じねば・・・敵を前に取り返しのつかないダメージを受けてしまう。




 「名は何と言うかね?」


 唐突に自分に向けて語りかける音声、

 勿論、敵工作員からの声ではない。

 見上げると人質(のはずだった)であるハナー元中将が男を押し退けて自分に尋ねている。



 「・・・自分の名前でしょうか?」


 ビジョンを見上げ確かめた。

 予想だにしなかった台詞に自分でもかなり間抜けな声を上げたに違いない。


 「そうじゃ」


 すると画面の老人が儚く微笑み問い返す。


 「ヤマモト・・・ヤマモト・マコト大尉でございます」


 数々の思惑、沸き起こる気持ち、

 それらを跳ね除けるよう力一杯応えた。


 「そうか、ヤマモト大尉か・・・覚えておくぞ。

 では早速じゃがヤマモト大尉、そなたに頼みがある。

 この男の口を確実に封じることは出来るか?」


 突拍子のない台詞。

 その言葉の意味も意図も問われた自分にはわからなかった。

 次の台詞を聞くまでは・・・。


 「もし、それが適わず、この者の言葉から過去が語られる位なら、

 ヤマモト大尉、ワシ等もろとも消し去ってくれ」



 一体この驚きを何度経験すればいいのだろう。

 自分でも躊躇っていたことをハナーは気軽に解放った。

 話はまだ終わらない。



 「軍も人が集まって出来た組織じゃ。

 志に殉じる者もいれば利で動く者もいる。

 上手く行きもすれば歪みもする。

 それでも一つの正義を信じ、

 共に歩んだ掛替えない者達であることに変わりはない。

 じゃが、この男は敵じゃ。

 しかも悪意の塊ときている。

 例え真に迫る答えを持っていようとこの者の口から語らせてはならん。

 もしそれが適わず敵を目の前にしてバラバラになるようなことになれば、

 嘗て祖国を護る為に宇宙で散っていった惑星連合の将兵達が犬死なる」



 「死に損ないは黙っていろ・・・」


 口封じに襲い掛かる男、

 ハナーはそれになく懐から携帯用仕込杖を取り出し

 男の袖にかけ捻る。


 「・・・なに・・・?」


 空中を綺麗に一回転する男の体。

 原理はわからないが未知の技を綺麗に喰らい男は地を這う。

 それでも鍛えられた精神力で黒衣の男は這い上がろうとしたのだが・・・。



 「貴様は敗れたのだ。

 敗者は敗者らしく大人しく軍門に下れ!」


 鋭い眼光の一閃。

 その気迫が男の全身を絡め取り身動きを封じ込める。

 男に限ってのことではない。

 画面越しで見上げる我等もハナーの剥き出しの気迫に気圧され怯む。

 当然、ヤマモト・マコトも例外に漏れる事はない。

 しかし、金縛りのような状態にあっても一つの、

 いや、もしかしたらこの場にいる者全てが同じ想いを抱いたに違いない。



 これがハナー元中将閣下・・・。


 20年前の大戦経験者という履歴以外、彼の者を証明するモノは少ない。

 白紙の経歴、今思えば偽証の疑いが浮かび上がるほど不自然なモノであったが

 自分にとっては一番嫌いな者と一番尊敬する方の嘗ての上官であったこと。

 それだけの認識しか持ち合わせていなかったし興味もなかった。

 今までは・・・。




 先ほどのおどけるような外面は消え失せ、

 修羅場を掻い潜った軍人としての貫禄を惜しみなく露にしている。

 そして剥き出しの気迫に当てられ地面に蹲っている黒衣の男。


 心の震えが収まらない。



 制したのだ。

 あのような芸当が出来る方がミフネ中将閣下以外にいようとは・・・。



 腐りきった上層部、

 その中にもまだ英雄がいたことにヤマモトは不覚にも感動に溺れかけていた。

 そして、自分が惑星連合の掛替えのない英傑を口封じのために葬り去ろうとしていることに

 激しい葛藤を覚えた。




 「ヤマモト大尉」


 夢想気味のヤマモトがその一言で現実に返る。



 「はっ、はい!!」


 上擦った声をあげたに違いない。

 これが平時なら新米みたいだと、辺りが失笑に包まれるであろうが

 生憎、そのような輩は一人もいなかった。




 「君の行いは間違っていない」


 ビクッと震えた。

 顔を見合わせてもいないのに

 心の中を隈なく覗かれているような錯覚に落ちる。



 「己の信じた道を迷わず突き進めるがよい。

 例えどのような結末になろうとワシは受け入れる」


 その一言を最後にビジョンそのものがブラックアウトした。

 辺りがざわめく、関係者の間にも動揺が走るが自分はそれどころじゃなかった。



 認められた。

 真の軍人に・・・その英傑に自分は全てを託されたのだ、と。



 「大尉・・・」


 画面が唐突に途切れたことに士官が焦りを露に尋ねる。


 「落ち着け!我々の成す事は既に決まった。

 ミサイル発射用意、カウントダウンを開始しろ!」


 「了解しました。カウントダウン開始。

 発射2分前・・・」


 動き始めた流れをヤマモトは目を逸らさずに眺めていた。



 サイは投げられた。

 もはや後戻りは不可能、

 惑星連合の英傑をこの手で葬ることに未練が無いといえばウソになる。

 だが、自分は惑星連合の未来を託されたのだ。


 両拳を力一杯握り締める。


 貴方の意志、この不肖ヤマモトがしっかり引き継ぎます。

 そしてこの手で腐りきった惑星連合を変えて見せます。


 カウントダウンで一分を切った頃、

 ヤマモトはハナーがいると思わしき部屋を見上げて敬礼した。

 直立不動の綺麗な姿勢、

 多分、ヤマモトが今まで敬礼した中で一番心が篭っていたに違いない。


 彼だけではない。

 現場に居並ぶ殆どの関係者がハナーの雄姿に心酔し、

 ヤマモトと同様、最敬礼で見上げるのだった。






その5