科学の恩恵というべきか?

 前の世界ではあらゆる手を尽くしても手後れだと診断され、

 死ぬ日を数える日々・・・だったものが、

 今では障害を背負ったのが嘘のように五体満足で過ごしている。

 どうやら俺が意識を取り戻す前にほぼ完治させたらしいのだ。

 この世界の力(医学)には恐れ入る。

 だが・・・。



 「オラオラァーーー、アキ坊、お前の力を見せてみろ!!」


 宇宙暦6979年、0月0日、早朝。

 話の通じない大柄な軍人に訓練所まで強引に連れて行かれて

 訓練という名のリンチにあう。



 「アキト君〜〜、新しい薬だけど試させてね♪」


 同日の正午。

 脳のシナプスが数本焼き切れているマッドサイエンティストに拉致され餌食にされる。、




 サンドバックやら人体実験やら・・・

 これがこの艦(ふね)に来てからの俺の日課だ。

 大人しくしていれば好き放題。

 今の俺を励まそうといういう配慮から来るものだろうと思い黙ってやられていたが・・・

 全く手加減がない所が気になる。















 そして、最近になって己の立場を思い知った。

















 翌日の午後。


 「これは何の冗談だ?」


 ザック・マーティンと呼ばれる顔見知りの軍人に薦められた、とある一品。

 それを軽く一瞥した俺が心底疲れたようにいう。


 「冗談とは誠に心外なことをいう。

 一人寂しく過している君を不憫に思ったからこそ俺様の秘蔵の一品を公開したのに・・・」


 「だからといってあんな物を見せなくてもいいだろう」


 ちなみにタイトルはエOフを狩るOOたち。

 間違っても軍人が薦めるものだとは思えない。


 「何をいう!(力説) 異世界から偶然迷い込み、元の世界に戻るために手段を選ばず、

 なりふり構わず・・・(中略)・・・服を(放送禁止用語)・・・

 ウム、立場が似ているがアレと違って目標を喪失している君だからこそ

 自信を持って薦めた一品なんだぞ!それをあんなもの呼ばわりとは・・・」


 ギャグと下品モノを真顔で薦められても困るが・・・。



 「・・・少なくとも軍人が薦めるものではなかったので驚いた」



 「なんだ?そういったモノが見たかったのか? SF戦争物か特撮モノを・・・」


 ・・・勘弁してくれ。





 結局強引に押し付けられることになった。

 そして他のクルーに読み物を覗かれた事をキッカケに俺のことを白い目で見る乗組員が増えることになる。


 意外と痛かったな・・・心が・・・。






 同日夕方。

 艦内の廊下でビックと呼ばれるまた顔見知りの軍人に出会った。


 「アキト君」


 「何だ?」


 あのザックの兄という所が気になり出来れば関わりになりたくなかったが

 面と向かって呼ばれて無視する訳にもいかない。


 「男のロマンはなんだと思う?」


 いきなり突拍子のない話、俺の第六感が無視しろと警告を送り続けるが・・・。


 「何故そのようなことを聞く?」


 とりあえずあたりさわりのない所で適当に切り上げようかと思ったが・・・。


 「いや、どうもアキト君の辛気臭い顔を見ていると男としてなんとというか・・・

 何か大切なことを亡くしたのではないかと思うんでね」



 大切なものか・・・。



 俺は己の業に耐え切れず元の世界とナデシコの皆から・・・そして大切な人たちから背を背けた。

 そんな俺に大切な物が残っているはずがない・・・。





 その時、俺は一瞬でも心を許したことを後悔することになる。






 「ロマンか・・・でお前にとってロマンとは何だ?」


 「女だ」








































 「・・・はい?」


 俺の聞き違いか?

 てっきりゲキガンガーを代表した正義モノだろうと考えていただけに、

 余りにもストレートな彼の返事に無意識に呟いてしまう。


 「太古ギリシア神話でも人生とは自分の半身たる異性を求めての旅だと云う、

 我々は男だからその対象は勿論女になるね。

 しかし、アキト君はそれらを求める努力、じゃなくて正確には興味すら持っていないように見えるんだ。

 知人としては放っておく訳にはいかない」




 ビシッと俺を指しながら力説するビック・マーティン。



 聞き違いではなかった(汗;)

 これ以上突っ込まれるのは危険だ。



 「・・・これでも妻がいた身ですよ」


 返事も何時の間にか敬語になっていた。

 普段の不遜な態度は完璧に身を潜めている。



 「何故、それを早く言わん!」



 ガシッと俺の両肩を掴むビック。

 突然の迫力にさすがの俺も呆気に取られる。



 「そうか・・・そうなのか・・・」


 力強く俺の両肩を握りブツブツと呟く。



 なんか己の考えに酔ってないか?

 達識を披露したり勝手に暴走したり・・・。

 まあ、先ほどの話題から外れそうだからよしとする。



 「わかってもらえましたか?」


 とりあえず、一息ついて声を掛ける。すると・・・。



 「
妻から逃げてきたんだな!



 俺はその場でフリーズした。(勿論、内容の意味を処理できず・・・)


 「うむ、それならアキト君の奇怪な行動も全て納得がいく」


 「おい、ちょっと待て、もしも〜し、ビックさん〜」


 反論をはさむにも勿論聞く耳持たないビック。

 話は更にエスカレートしていく。


 「わかる、わかるぞ。

 男の甲斐性を理解しない妻、家庭のぬるま湯な生活、

 されど満たされない果て無き願望。

 そして自由を求めての逃亡。

 うむ、これぞまさに漢のロマン。

 今まで子供扱いして悪かった。

 君こそ男の中の漢、メンズ、オブ、メン

 さあ、利害が一致したところで共に女体の神秘を求めて旅立とうぞ」



 ちょっと待て、なんだその訳の分からない理屈は・・・。

 それといつ利害が一致した?

 こら、何処に連れて行くつもりだ。放せ。



 その後、俺の抗議は虚しく、彼の豪腕によって女湯の覗き穴まで引き連れて行かれ、

 お約束のように女性クルーに覗きがバレ、俺自身は彼のスケープコードとして差し出された。

 その後の俺は・・・言うまでもない。



 ・・・覚えていろ。



 同日の深夜。

 これまた馴染み(ドック・マーティン)の軍人を見つけて・・・無意識に追い込む。


 「あ、アキト君、どうしたの?

 ・・・ちょっと落ち着いて話し合おうよ

 その物騒な角材は降ろして・・・(汗)ね?」



 「別にドックさんに恨みがある訳じゃないんですよ(邪笑)

 ビックさんとザックさんの居場所だけ教えてくださればいいんです。

 あ、これは気にしないでください。向こうの通路で偶然拾ってきただけですから、ふふふ」


 拾った角材を地面にタンタンと軽く叩き続けながら笑う。


 顔はこれでもか、という位笑っていた。

 口元も微笑んでいた。

 けれど目は当然のように正気ではない。

 お約束のようにバックの背景には歪んだ影が映っていた。



 身の危険を感じ取ったドックが慌てて弁論する。


 「あわあわ、兄貴達は本当に悪気はなかったんですよ。

 ザック兄は数少ない仲間を増やすためにアキトさんを誘っただけで・・・

 ビック兄にしては今度見つかると殺されるから心を鬼にして見捨てただけなんですよ」



 「・・・さすが兄弟としかいいようがないな。

 兄の心理をよく知っている。

 とりあえずお前が奴等の代わりになるというのだな(怒)」



 ある意味、これ以上ないほど正直な弁明だ。

 奇特な人なら、もしかすると許されるかも知れない。

 しかし、話の内容は彼も共犯だということを暴露していた。

 今の俺にとって火に油を注いだようなもの、

 彼の待遇はその時点で決まった。



 「じゃ、死!?」


 ね、と続ける前に差し出された一つのプレゼント。


 「アキトさんの怒りはごもっともです、

 兄貴達の我が侭には僕も愛想尽かしているのですが、

 悪気があったわけじゃないんですよ。

 そのための謝罪の意味を込めたプレゼントを

 僕が預かっていたのでよろしければ収めてください」


 「・・・えっ、ああ」


 初めて接する真摯な態度に気をゆるしてしまったのだろう。

 呆気に取られながらもプレゼントを受け取る。


 「それとプレゼントを開ける時には密閉された自室であけるといいですよ。

 僕はこれで失礼しますね」



 しばしの別れ。

 俺はというと呆けながら彼の言う通り自室に戻っていた。

 勿論、ドアも閉めて・・・。



 自室の中で回想する。

 色んな事があった。

 サンドバックにされ、実験され、白い目で見られ、袋叩きにあって・・・

 なんでこんな艦に流れ着いたのか嘆きたくもなったが

 それでも心は温かい人たちばかりだった。


 そう考えると先ほどとは違う笑みが自然と浮ぶ。


 「俺も大人気なかったかな?

 まあ、あの兄弟からの贈り物だからOOOO物じゃないだろうけど、

 一度覗いてみようか・・・」



 リボンに手を掛け包みを解く。

 そして・・・・・・・。



































 ボーン!!



 気持ちよく響く効果音。

 その正体は勿論、爆発。

 周りを見渡せば黒ゴケ、

 その光景を冷めた瞳で見詰めていた。




 ・・・痛い。


 物理的な痛みじゃない。

 心の臓をエグられ沈み流れるような痛み。



 本当に痛いな・・・。



 乾いた笑いが室内に響き渡る。


 「ふふふ・・・そうか、どうやら俺も人を見る目が落ちたらしい。

 ククク、悪気はないだろうと思って我慢していたんだけどな

 まさか使い捨てキャラにここまでコケにされるとは思わなかったよ、

 ふふふ・・・本当に楽しみだな〜」


 脳のシナプスが清々しい位気持ちよく綺麗に焼けた。

 後のことは何も覚えてない。





 まあ、心の赴くままボコったことは間違いないだろう。
























 ・・・とりあえず。


 「スッキリした」


 心はこれでもか!というほど晴れ晴れとした。

 ところが・・・。


 「いい気になるなよ」


 そんな俺を通りすがりの男が見下すように言葉を吐き捨てそのまま去っていく。

 突然のことだったので俺はまともな返事を返すことなくボンヤリと見送ってしまった。




 後でその男がこの艦の副艦長だということを知る。

 まあ、どうでもいいことだがな。
















 余談


 「ミフネ君、・・・意外と根に持たれたんだね」


 薄暗いとある会議室で細身の軍人、ヤマモト・マサシが左人差し指でメガネをグイッと持ち直しながら

 やれやれと言った感じでうち漏らす。


 「ほっといてくれ!」


 筋肉で覆われた鋼の鎧、怒髪天の如く真上に尖った黒髪、

 そして肉食獣を連想させる黄金色の視線で細身の軍人を突き放そうとするが、

 左手を包帯で巻かれて残った手で松葉杖を抱えた状態ではなんと云おうと格好がつかない。


 「ミフネ君のアキト君虐めは艦隊、全クルーの噂の的だからね。

 むしろ来るべき時が来たといった感じだったし・・・」


 親友の言葉にミフネ中尉の顔がみるみるうちに真っ赤になる。


 「ふざけるな!俺は純粋に強い奴と心の赴くまま戦いたかっただけだ。それなのに奴は・・・、

 まあ、悪ノリが過ぎたのは認めるが、何もここまですることもないだろう(涙;)

 というか、俺がここまでやられたのに何でお前だけ・・・」


 「そうなのよね。何で私の所にはこなかったのかしら?

 歯向かうアキト君というシチュエーションに期待してトキめいていたのに・・・、

 せっかく準備したプランが台無しになったわ」



 彼女の言葉に部屋の温度が2度ほど下がる。



 「・・・アキト君はあれでもフェミニストですから

 女性に手をあげる拳なんて持ち合わせてないんですよ(汗;)」


 「ああ、マキシア・ヤザワ様に歯向かおうなんざアキ坊が思うはずないさ・・・

 そう、誰が好き好んで魔女の元に・・・(ブツブツ)」



 ・・・力関係は歴然だった。

 怒り狂ったアキトもそこまで命知らずではなかったらしい。












 「まあ、その話は置いておいてドクター、この診断書は本当なんでしょうね?」


 一枚の診断書を持ち上げながらヤマモト。


 「ええ、体のあらゆる異常はほぼ完治したわ、

 ナノマシンの競合いによる神経の圧迫が原因だったからそれを除いただけ、

 もっとも手遅れの神経は元通りとはいかなかったから何らかの形で誤魔化しているけど・・・、

 今でもそのための治療は続いている。でも・・・」


 「本人の精神的な面が問題ですか・・・」


 「そう、普通、体と心はお互い影響しあっているものだから障害を取り払うと精神も自然に快調するものだけど

 アキト君の場合、過去に犯した過ちが罪意識となって陰性症状を引き起こし、今では陽性症状まで引き起こしかけているわ」


 「生きることに意欲と興味をなくし、極めつけは幻聴と妄想ですか・・・確かに放っておくと危険ですね」


 「フン、今の世の中でそんな奴等などゴマンといる。

 過去の過ちを悔やんでも仕方ないだろう」


 「ミフネ君、私たちの物差しで判断しても仕方ないわ。

 何より私たちの悩みとは根本的なモノが違うような気もするしね」


 「いえ、例えそうだとしてもこのまま放っておく訳にはいきません。

 我々に残された時間は後僅かしかないのですから・・・」


 ヤマモトの言葉に残りの二人が押し黙ってしまう。

 そう、例え彼がどんな過去を背負ったとしてもこのままにしておく訳にはいかなかった。


 もう少しでハナー艦隊は敵との交戦領域に突入するのだから・・・。






























 旗艦『金剛』ブリッジの真上にある広い展望台。

 空宙公園とも呼ばれる広場で俺は大の字で寝転がっていた。

 地面と草の感触を素肌で感じ、スピーカーから流れる水の囁きを聞きながら軽く瞼を閉じる。


 「あれから二週間が経ったのか・・・」


 思い出したように目を開き、ボンヤリと天空の夜空を見上げながら感慨深く呟く。


 「全て終わったはずだと思ったのにな・・・」


 流れるように広がる焔色のガス星雲を見上げながら呟く。すると・・・。


 「人生が終わったような顔して何をブツブツと呟いておる?」


 不意に近付いてきた男が大の字で寝転がっているアキトを見下ろしながら言う。


 「ずっと隠れているのかと思いましたよ」


 茂みから現れたハナ−提督に向かっていう。

 隠れていたことなど初めから知っていたので特に驚かない。


 「中々痛いことを言う。

 じゃが、こうでもしないと皆が諦めてくれないからのう」


 「いい加減、真面目に働いたらどうですか?

 そのうち、艦長の胃の中に穴が空きますよ」


 「フン、あやつは年寄りを労わる気持ちが欠けておる。

 提督を仕事漬けにしようとするとは何事か!?」


 と拳を忌々しげに握りながら力説する提督。

 そんな男を俺は白い目で見る。


「艦長は仕事漬けにしていいのですか?」


 己の仕事すら艦長に押し付けた昨日のハナー提督が脳裏に浮かぶ。

 艦長は己の仕事を他人に押し付けるような性格じゃない。

 今ごろ提督の尻拭いも含めて事務処理に明け暮れていることだろう。

 ちなみに艦長とはヤマモト・マサシさんのことだ。


 「提督はいかなる状況に陥っても余裕を持って対処しなければならないのじゃ。

 仕事漬けで一杯一杯になってはイザという時に力を発揮できん」


 「はいはい、貴方は数百隻の艦隊を統べる提督様ですよ。

 大艦隊の提督ともなるということが違いますね」


 俺は相手するのも面倒になって適当にいう。


 「大艦隊??」


 「数百もの艦隊を統べているんだ。大艦隊じゃないですか?」


 何も驚くこともないだろうに、と訝しげながらも律義に答える。


 「ううむ、そんなこと考えたこともなかったがまあいい。

 今日は遅いからワシはもう寝る。少年も自室に戻るといい」


 などと言い残して提督が公園から退室する。

 俺はというと彼からそう言われても自室に帰る気はなかった。


 大の字に寝転がったまま、初めの時と同様、宇宙(ソラ)を見上げる。


 焔色のガス星雲。

 それは超新星爆発で発生した5千万度に及ぶ死の海。



 ここは太陽系じゃない。

 ラグーン星雲、S−200B、

 太陽系から5千光年も離れた辺境宇宙。


 目の前に広がる光景は太陽系では決して見ることの出来ないモノ。

 そして、星系間を自由に往来し、交流できるほど高い文明と科学力。

 俺はそんな世界に迷い込み、人生を絶望させた問題をいとも簡単に解決させられた。

 何よりここでは俺の過去を知る者はいない。

 復讐を果たして全ての束縛から解き放たれた俺にとっては楽園、純粋に嬉しい出来事のはずだ。

 しかし・・・。




































 喜びを分かち合うことの出来る者は側にいない。










つづき