「少年・・・まさかあれからずっとここにいたのか?」


 「あれからといっても2時間も経っていないと思いますが・・・」


 浅ましいと思う。

 皆から逃げたくて必至だったものが、いざもう出会うことが出来ないと知ると絶望する己の浅ましさに・・・。


 「宇宙とはいえ今は真夜中じゃ。夜更かしはお肌の大敵じゃぞ」


 「いいんですよ。今更荒れても気にするようなモノじゃないですから」


 そう、やはり俺は終わったのだ。

 いかに全ての障害が取り払われ、心の底で会いたいと願っても繋がりは絶たれ・・・生きる希望も意欲も湧かない。


 そんな思いと共に俺は押し黙ってしまう。

 提督は一体何を考えているのか・・・そんな俺に付き合うよう居座り、同じく沈黙する。


 かなり時間が経ったと思う。

 その雰囲気に耐えかねず沈黙を破ったのは俺だった。


 「提督は何故、軍人になったのですか?」


 ほとんど衝動的な問い。

 当然何も考えてない。


 「敵がいるからじゃ」


 何かを期待しての問いではないとはいえ、さすがに続ける言葉が見つからない。

 そんな俺の様子を見てハナーは笑う。


 「一人で出来ることなどタカが知れている。

 時間と努力をかければマシになるとはいえ複数の人が合わせた結晶を超えるほど劇的になることはない。

 何より私の敵は一人で立ち向かうには巨大過ぎた。

 私は家族の命と財産を脅かす者たちを退けるために軍に入った」



 個人差はあるだろうが、その言葉は・・・この者が生粋の軍人だということを物語る。

 少し過去の感情に浸る。



 「軍人になって後悔したことはありますか?」


 何でこんな馬鹿げたことを聞いたのだろう。

 同類を探し求めての慰み行為なのか・・・。


 「少年は後悔しているのかね?」


 ほら、やっぱり言われた。


 言われて内心穏やかではいられなかった。

 心の臓を鷲掴みにされたように息苦しくなる。

 馬鹿げたことを聞いた。質問を返されることは予想できたはずなのに・・・。


 「一言で云うと後悔しておるよ」


 そんな俺の姿を見て意地の悪い微笑を浮かべると一言でそう答える。

 そしてそのまま天上を見上げ、独り言のように呟き始める。



 「若い頃には私にも夢があった。

 しかし、その夢は戦争によって破られ、たくさんの愛しい者達が死んだ。

 己の無力と憎悪に身を委ねたまま私は軍に入ったんじゃ」


 かつての想い出を思い浮かべるよう、

 天上を見上げながら語るその横顔は深い闇を覗かせる。話は続く。


 「圧倒的な物量、何より彼らの戦いなれた熟練振りに

 我々は翻弄され敗退を繰り返し、その度にいろんなものを犠牲にした。

 己の無力さと相手に対する憎悪を思わぬ日々はなかった。

 だが、いざ戦いに勝利しその憎悪をぶつけると今度は相手も仕返しに来る。

 歳をとり、冷静に見詰めることが出来るようになるとそのやり取りが堪えてくる。

 お互い奈落に向けて足を引っ張り合っていくのじゃ。

 これほど業の深い職業もあるまい・・・」


 天上を見上げた形で静かに両目を閉じて何事も無かったように溜息をつく。

 そこには普段、悪戯好きな提督の面影はどこにもない。


 「少年も自分のことが許せないのだろう」


 「!!」



 驚きに見開く。

 まさか、質問でもなく断定されるとは思わなかった。

 答えることの出来ない問い、俺の中では決まり切っている答え。

 提督は沈黙を肯定と捕らえたらしく一度ため息を吐きながら語り始める。


 「・・・まあ、少年がどのような過去を過ごしたかはワシ等にはわからんじゃろう」


 少し間を置く。

 そして、気持ちを切り替えるよう、陽気に語り始めた。


 「されどのたれ死ぬことなくこうして私たちと出会った。

 これは縁というものじゃ。この出会いには確かなる意味がある。

 少なくともワシ等にとってはのう。

 そうじゃ、少年がここに流れ着いて2週間、

 一体君がどれほどの影響を及ぼしたか今からワシと一緒に見てみるのはどうだ?」


 「・・・提督、気持ちは嬉しいですけど・・・今は真夜中・・・」


 「まだ、起きておる。と言う訳で善は急げじゃ」


 思い付けば即実行。

 良くも悪くもそれこそがこの者の最大の持ち味。

 ・・・そう良くも悪くもだ。








































 「・・・提督、やっぱり明日にしましょう」


 「何を怖じ気ついておる。ワシ等に後ろめたいことはないのじゃ。堂々と構えよ」


 「いえ、通風孔を匍匐前進で進んでいる時点でかなり後ろめたいのですけど・・・」


 今、俺たちは二人が同時に通れるか通れないかの狭い通風孔の中を進んでいた。

 当然、俺は何故この中を通るようになったのか知らない。


 「監視の目を欺くにはここしかなかったのでのう」


 フッと左45度に顔を背けながらカッコつけようとするハナー。

 しかし、匍匐全身の体勢での憂いは滑稽でしかない。

 後、腰につけているカメラモドキの装備が気になるのだが・・・。


 「秘密じゃ」


 どうせクルーの恥かしい写真でもとって強請るつもりだろう。

 ここ二週間で俺の中での提督のイメージは大々的に書き換えられていた。

 当初出会った時の超シリアスな提督はもはや幻と化したのだ。


 「ちなみに少年も共犯じゃ」


 「あなた・・・それでも提督ですか?」


 期待した訳じゃないが、俺をダシにして覗き行為を正当化しようとする提督になんだが情けなくなる。


 「まあ、少年をからかうのはこれくらいにして、ムッ!生体反応増大。

 彼奴等(きゃつら)メ、やはりワシに黙ってコソコソとやっていたな」


 「生体反応って・・・あんたそんなモノまで持ち込んでなにやってるんですか?」


 小型ニュートリノ検出器を持ち出した提督に呆れるが、ハナーは俺の言葉など無視してその場で押し黙ってしまう。

 怪訝に思い提督が覗き込んでいた所から彼をどかし覗き込むと・・・。



 「艦長、テーブルの配置完了しました」


 「クロスを確保してきました。何時でもご命令を!」


 「よし、手の空いた人員はクロスをテーブルに敷き、敷いた所からテーブルのセッティング開始!」


 「「「「了解!!」」」」


 「大将、飾り付けを忘れちゃ困りますぜ。艦内から集めた小物を好きにかざっていいですかい?」


 「悪い、その点は任せたマーティン特務曹長」


 「マサシ、舞台は造っておいたぞ。次は何をすればいい?」


 「隊長、そんなもの決まっているじゃないですか!取って置きの甲板、造り忘れてますよ」


 「おお、そうだった。アキ坊のため取って置きの歓迎幕を造らねば」




























 「俺のために・・・?」


 宴会設置に勤しむクルー達を驚きの眼差しで見る。


 正直・・・嬉しかった。

 例え、かつての仲間たちからの祝いではなかったとしても・・・。



 「許さん・・・」


 「は?」


 聞き間違いか?

 嫉妬と憎悪が入り交じったような気がしたが・・・。


 「ワシを祝う時は嫌々と・・・しかも粗暴に造り上げ・・・少年の時はプレミアムじゃと・・・

 彼奴等メ、今日という今日は自分たちが誰の配下にあるのかハッキリさせる必要がありそうじゃな」


 不不不、と怪しげな擬餌音を洩らしながら不気味に嗤う提督。

 その様子に不覚ながらも怯んでしまい距離を置こうとした瞬間。





 
ドオォォン



 揺さぶるような振動が艦内を襲う。

 俺たちは狭く密閉された通風孔に潜んでいたから近くの壁にぶつけるくらいですんだが、

 下の者達は突然の激しい揺れにセッティングしたテーブルは崩れ、舞台は土台から崩れ落ちる。


 ビィー、ビィー、ビィー


 後に続く非常警報、

 それが今の状況が訓練でないことを物語った。

 しかし、さすが軍人。

 このような状況に陥っても阿鼻収喚の地獄絵図になることなく速攻で己の持ち場に走り出す。



 「やれやれ、これからというのに物騒なことだ。

 お開きじゃ、何が起こったのか分からぬ以上、ワシ等も戻るとしよう」


 さすがの提督も非常事態では自粛せざるをえなくなったらしい。

 ただ・・・。


 トントン


 パカ


 
ブシュ−



 「
ドワアアーーー



 提督が壁をトントンと軽くノックするといきなり横の壁が開いて提督と俺を飲み込む。

 不意にやられたこともあり俺は恥ずかしくも悲鳴をあげ続けるのだった。






















 真夜中の消灯時間だったこともありブリッジには必要最低限のクルーしかいない。

 そんな静まり返っていたブリッジに緊急警報を聞きつけた要員たちが続々と入室して自分たちの持ち場所に着席する。


 「オペレーター、被害状況は?」


 皆が持ち場所に戻り切っていない状況の慌ただしい中で

 入室したばかりの艦長が居残りのオペレーターを掴まえて問う。


 「ハッ!旗艦側面に被弾、4%破損、人員の被害は無し、

 他の艦隊への被害は今の所、皆無です」


 その応答にひとまず安堵する。


 「何かの事故ですか?」


 操舵手の隣に居座る若い女性通信士がオペレーターに問い合わせる。

 ヤマモトもデブリの直撃による被害だと思ったが、オペレーター陣の様子がおかしい。



 「いいえ、レーザー範囲外からの長距離攻撃です」


 オペレーターの報告にブリッジが戦慄する。

 そんな中でオペレーターの報告は続く。


 「補足は出来ませ・・・

 失礼、2時方向より艦隊らしき機影が接近してきます。

 補足完了、ラアルゴン艦隊です」


 「本当にラアルゴン艦隊なのか?」


 取り乱しはしなかったものの最悪のシナリオに目を暗ませ再度問い合わせてみるヤマモト。


 「はい、ラアルゴン艦隊です。

 総数は未知数、現在確認された先遣隊の規模は大型戦艦1隻を始め、巡洋艦6、駆逐艦12、護衛艦7、

 47分後に交戦可能領域に突入しま・・・!!高エネルギー波、急速接近!!」



 「バリアー全開!!



 
ドオォォン



 強力な粒子の余韻がプリッジを揺らす。


 「クッ、砲撃艦からの長距離攻撃か・・・被害は?」


 「バリアーにエネルギーを集中したおかげで完全に防げました。

 しかし、このままだとかなりのエネルギーを消費します」


 緊迫したオペレーターの報告を冷めた思考で受け止める。


 「困りました・・・作戦はまだ始まってすらいないのに・・・」


 やれやれ、と溜息つきながら肩の力を抜き、静かに艦長席に着席する。


 速度を上げれば砲撃艦の餌食、

 バリアーを強化すれば先遣隊と交戦してしまう。

 どちらにせよ損傷は避けられない。


 索敵範囲外に潜む敵も気になる。

 もしかして偶然に見つかったのではなく、待ち伏せされたのかも知れない。

 だとすれば損傷云々ではなく勝敗に関わる事態に陥るだろう。


 「やれやれ・・・、最近アキト君も来て楽しくなって来たと言うのに・・・」



 仕方ありませんね。と静かに呟く。

 そして決死の覚悟を決めた。































 「やはり敵か?」


 「あの〜、提督・・・そういう問題じゃない、と思う・・・」


 非常時のサイレンが鳴り響く中。

 俺達は何故か展望室でまどろんでいた。

 部外者の俺はともかく提督ともあろうモノがこんな所で油を売っていいはずがない。



 「いや〜優秀な幕僚を持つ提督というのは本当に暇でのう。

 ワシみたいな怠け者が動けば逆に彼らの邪魔になるだけなのじゃよ。

 飾りは密かにしておらぬと・・・」


 「例え、そうであろうとブリッジでドンと構えた方が士気にも良い影響を及ぼすと思いますが・・・」


 「ガァッハハ、私の部下は肝が太いんじゃ。

 よほどのことが起きなければ私など邪魔なだけ・・・」


 何も知らない第三者が聞けば大物か、救いようのない無能者かどちらかを選ぶだろう・・・。

 当然、俺は迷わず後者を選ぶがな。だってな・・・。



 「だったら俺を巻き込まないでください」


 じゃ、先ほどの大掛かりなダストシュートもどきのギミックは何?と問いただしたくなる。

 普通、ああいう仕掛けはブリッジに繋がるのがお約束のはずだ。


 「いや・・・さすがにいざと言う時に部下からの報告を受ける上司が

 通風孔から受信しているとなるとまずいじゃろう」



 タイミングを計ったかのように展望室前方のスクリーンが点灯する。

 光と共に映し出されるのはブリッジ。

 その中央に映ったヤマモト艦長が提督を確認すると簡潔に敬礼する。



 「ほれ」


 ワシのいう通りじゃろう。というニュアンスを含んで俺にいう。


 そりゃそうですよね。

 非常事態の時に提督もあろう方が覗き行為の最中に報告を受けたとなると銀河の笑いものになるのでしょうから。


 そう考えた途端、情けなくなる。



 「提督、お楽しみ中申し訳ありませんが一刻の猶予もありません。

 別働隊編成の許可をお願いします」


 そんな私たちの雰囲気などお構いなく、いやいつものことだとばかりに普段以上に素っ気無い態度で応答する。


 本当に雲行きが悪いらしい。

 先ほどまで冗談じみた提督もつられて真摯なモノに切り替わる。


 「君が連絡をよこすものだからよほどのことだろうとは思うたが・・・

 敵を振り切ることは出来ないのかね?」


 「敵の新型兵器です。

 レーザー索敵外からの長距離攻撃により艦隊の足は鈍りました。

 あれをどうにかしないと振り切るのは不可能です」


 暫しの沈黙の後、ハナ-提督がやれやれ、といった感じで身を振り、

 溜息つきながら愚痴を溢す。


 「・・・若い者はなんでこうも死にたがる者ばかりなのかのう。

 もうちょいと皆で生き残る道を探すとか、悩むとか・・・」


 「良い頃合でしょう。

 これを機に提督もそろそろ真面目に仕事してくださいよ」


 「いや、最近楽するのが癖になったんじゃ。

 作戦終えるまでキリキリ働いてもらうぞ」



 そう言ってお互い笑いあう。



 一体何を言っているんだ?



 それは日常と変わらない・・・自然な会話のやりとり。

 その中には年季と共に積み上げた、二人の付き合いの長さを感じさせる。

 そう、最近会ったばかりの俺には入り込むことの出来ないような・・・、

 ちょっとした寂しさを感じさせる、そんな会話。


 ただ、ノリとは別に会話の内容に含まれた危険な香りは

 数々の修羅場を潜り抜けた俺に現状がいかに切羽詰った物なのか物語ってくれる。


 冗談ではない非常に危険な状況。



 「マサシ、こっちは準備出来たぞ!」


 モニターには映らないが声だけでミフネ中尉だということがわかる。

 馴染みの3兄弟もその後に続く。


 「大将、内火艇、準備完了した!操舵は任せな〜」


 ビックの声。


 「ハマーの配備も完備したぜ」


 と、ザック。


 「ヤマモトさん、こちらの準備も完了しました。でも頼みますよ〜。

 敵のメインコンピュータを乗っ取る前にハリネズミになるのは勘弁ですからね」


 最後にドック、

 それは格納庫からの通信。


 5人の間でドッと笑いが響く。



 それは決死の覚悟を感じさせない明るさで・・・。



 「努力はしてみますけど、なにせ私たちだけですからね。

 私達の他に代わりの効く人材なんてこの艦隊にはいませんので我慢してください」


 「ヒデェ、俺たちってスクラップ要員だったのか?

 ちょっとショックだぜ!」



 「兄貴、いいじゃないですか、華々しく活躍出来るんですよ。

 胸糞悪い任務をこなすよりこっちの方が僕たちの性にあうし・・・」


 「貴様は二言多い」


 ドックのフォローなっていない言葉に突っ込みを入れるザック。


 普段のじゃれ合いと何ら変わらない今までのノリ。




 「マサシ、確かに辿り着く前にハリネズミは勘弁だ。勝算はあるのか?」


 「ミフネ君、誰にモノを言っているのですか?

 懐までは確実に導いて差し上げますよ。

 もっとも片道切符ですけどね」


 「上等だ!だったらさっさとコイ!!

 格納庫の準備は万全であれ貴様が来ないと話にならん」


 不敵な面顔で死地に向かおうとしていた。



 やはり、そうなのか・・・ただ。



「ヤマモト艦長・・・何故あんたが内火艇に乗り込む?」


 当然の疑問をモニター越しの彼に尋ねる。


「何故って?当然、敵を食い止めるためだが・・・」


「いや、ヤマモトさん・・・あなた艦長だろう?艦長が艦を離れて何しようとするんだ」



 そう言われてポンと手を叩いて納得する。


「ああ、なるほど確かに常識外れだったね。

 単にこの任務の特殊性が原因だけれどね。

 任務達成のためには無駄な戦闘でいたずらに兵を割くことは出来ない。

 最低限、しかも内火艇一隻で敵の追撃を防ぐとなると私しか当確者がいなかっただけのこと。

 そして私の代わりはちゃんといるから安心して艦を任せられる」


 視線をハナ−提督に移し笑う。

 澄み切った笑顔。その微笑みを見て・・・全て察した。

 その想いに突き動かされるよう・・・俺は動き出す。



 「・・・ならば、俺に行かせてくれ」


 小さいが強い意志を秘めた声。

 意外な言葉にブリッジ全員の視線が俺に集中する。


 「俺は貴方達を死なせたくない。

 この中で俺ほど代わりの効く者もいないだろう。

 事情は大体飲み込めた。

 絶対に彼らの足止め役を果たしてみせる」


 この者達を死なせてはならない。

 例え、代わりに死ぬことになっても・・・それでも彼らには生きていて欲しい。


 ただ、その気遣いが彼のプライドを刺激したことを直ぐに思い知る。


 「・・・代わりの効く者はいないだと?

 アキト君、君は何か勘違いしていないか?」


 伊達メガネをグイッと持ち上げて真摯に見つめる。

 百戦錬磨の俺ですら怯んでしまう威圧感。

 だが、臆することなく艦長を見据え・・・語る。


「確かに勘違いしているかも知れない・・・しかし、それでも貴方達に死んで欲しくないんだ。

 俺のことは大丈夫だから気にしないでくれ。俺なら「
思い上がるな!小僧!!」」


 俺の言葉を最後まで聞くことも無くヤマモトさんが眼光をギラつかせ、怒声を持って話を遮る。

 普段の穏やかなヤマモトさんにしては荒々しい気質に呆気に取られる。


 「勘違いかも知れない?俺なら大丈夫?一体何が大丈夫なんだ??

 軍人でも何でもない君に全てを押し付けて私たちが何とも思わないと、本気で思っているのか?

 そんなに死に急ぎたいのか?」


 死に急いでいる?確かにそうかもしれない。

 この者達の代わりになれるのだったら死んでも良いとさえ思った。

 しかし・・・それだけじゃない!


 「俺の人生は後悔ばかりだ。

 どれだけ足掻いても後手ばかり踏む。

 どれだけ想っても守り通すことが出来なかった。

 そのことに絶望し、死ぬことを願ったことは確かにあった。

 ヤマモトさんの云う通り、その気持ちが無いとは言わない。

 だが!!」



 気持ちが高ぶる。

 血液が逆流して額に集中するような感覚。

 浮かび上がるのはナノマシンの光。

 緑色の模様が顔を覆い尽くすように照らし出される。



 「誰も死なせたくないんだ。

 貴方達には本当に感謝している・・・本当に役にたちたいだけなんだ!

 俺ならもっと上手くやれる。誰も死なせやしない。

 望むなら俺も必ず生きて返る。

 だから艦長たちが死に急ぐことはないんだ」


 ナノマシンに見慣れた者も初めて目のあたりにした者も不気味に思う者は誰もいなかった。

 逆に純粋な想いをぶつけられ、幻想的な光景がその美しさを際立たせ、誰もがその姿に見惚れる。

 ヤマモト艦長も例外ではなく、彼の心遣いに涙腺を刺激されて涙を流しそうになる。

 しかし、感情に流されず、理性的に見詰め返しては綺麗な微笑を浮か穏やかに言い返す。



 「ありがとう、アキト君にそういって貰えると純粋に嬉しいよ」


 穏やかに流れる綺麗な美声。

 言葉に偽りないことを証明するかのようにその口調は澄み切っていた。

 その美声が唐突に演説調に変わる。


 「でもそれとこれとは話が別だよ。

 私たちは死しても、残った仲間達に未来を託すことが出来る。

 でも、アキト君はそうじゃないはずだ。

 どのような形であれ、この戦争の意味も見出せない者に・・・

 悪戯に業を背負わすわけにはいかない」



 「悪く思うなよアキ坊。

 確かにお前は強い、俺たち5人が束になっても勝てはしないだろう。

 もしかしたら囮の役も俺たち以上に上手くこなし、あまつさえ生き残るかも知れない。

 だが、お前にとっては命を賭ける程のモノじゃないはずだ」



 「俺は大将達ほど立派な理由はないけど

 まあ、故郷のモノたちにはカッコよくありたいな。

 そうだ!俺様の秘蔵の物をやるからそれで勘弁してな」



 「そんなことをすればアキ坊の評価が落ちるだろう。

 というわけで俺の無修正ビデオを全部やるよ。

 まさか、いやとは言わないよな」



 「兄貴達、アキトさんが迷惑しますよ。

 ごめんなさいね。こんな兄貴達で・・・」





 言いたいことは山ほどあった。

 それでも自分達の戦いだと見せ付けられると何もいえなくなる。

 このまま、押し切られてしまうのか?等と絶望に捕われた時、助け舟が意外な所からやってきた。



 「却下じゃ」


 場違いな程響き渡る声。

 一瞬、提督を知り尽くしているはずのヤマモト艦長でさえモニター越しでもわかるほど呆気にとられる。


 「却下って・・・提督、私はあらゆる状況を想定して最善の人選で

 尚且つ最小限の被害で抑えようとしているのですよ。これ以上の・・・」


 「却下」


 「提督、あの・・・」


 「それも却下」


 「最後まで言わせてください。一体何が不満なんですか?」


 「君が居ないと楽が出来ない」



 楽??

 シリアスを極めたこの状況ゆえに提督の真意を計りきれなかった。

 俺とブリッジの混乱を他所に二人の話は続く。


 「楽が出来ないって・・・そんなに楽がしたいのでしたら

 副艦長に任せればいいじゃないですか!?」


 「副艦長は恐くて任せられない」


 「まあ、その気持ちはわかりますが・・・」



 その点は同意するのか!!??

 もしかしたら二人とも楽しんでいるのか?と深読みしそうになるが

 実際楽しんでいるのは一人だけのようだった。



 「・・・って違う!!じゃ提督はどうなさるおつもりです!?

 納得のいく名案を示して・・・」


 艦長の言葉が最後まで紡がれる事はなかった。

 提督が俺を指したのを見て理性が吹き飛んでしまったからだ。


 眼鏡を怪しく光らせながら、提督を睨むヤマモトさん。

 モニター越しでも感じ取れる。

 何も無い筈の空気にガラスの亀裂が裂ける音が靡くのが・・・。



 「ふふふ・・・提督♪♪

 己が楽をしがたいがために何の責務も義務もない民間人を

 戦のどん底に叩き落すと、今仰ったのですか??

 サボり癖は今に始まったことでないのでよしとしましょう。

 貴方の道楽に巻き込まれ貴重な時間を無駄に過したことも、

 まあ個人的な問題ですから気にしませんよ。

 ただ・・・。




























 己の趣味に我を忘れて守るべき者を見誤るとハァ

 とうとうもうろくしたな!このクソジジイ!!

 天が許してもこのヤマモトは絶対に許さぬぞ!

 軍法会議にかけてやる!

 
否!その場で銃殺刑だあああああああぁ・・・・・・









































 ブス。
















 バタン。



 ・・・・・・

 ・・・・・・


 ハッ!!



 ヤマモト艦長の壊れモードで俺の意識が宇宙の彼方に飛ばされた頃、

 ただ一人、ヤザワ女史がヤマモト艦長の背後に迫り、

 電動式注射器で妖しげな薬を首筋に挿入、艦長を即行で気絶させた。


 「やれやれ、ただでさえ非常時なのに手間かけさせるんじゃないよ」


 そう言えば攻撃を受けていたな。




 ドオォォン


 思い出させてくれるようなタイミングで放たれた敵からの長距離攻撃、

 バリアーで弾かれながらも流しきれなかった余波で艦が揺れ動くが・・・

 先ほどの艦長の怪音波(ごめんなさい。ヤマモトさん)に比べて

 威力が乏しく思えるのは気のせいだろうか?

 気のせいだ。うん。



 「ほら、皆持ち場に着く!敵さんは待ってくれないわよ」


 ヤザワ女史の指示にいそいそと自分の持ち場に戻り

 テキパキと仕事をこなし始めるブリッジ要員の姿が目に映る。

 お堅い軍人が見れば越権行為でしかない光景だが

 それを口に挟むはずの軍人は現在の所、夢の中だ。



 「ドクターはハナ-提督の意見に賛同しているのか?」


 格納庫からの通信。

 呆然と見詰めていたミフネ中尉が彼女に一声かける。


 「あら?貴方達は死に急ぎさえしなければ賛同するのじゃなかったの?」


 「いや、まあ、賛同するというより・・・」


 「あれだけ言って置いて今更というか・・・」


 「でも我等の大将は夢の中、どうしよう・・・」


 ミフネさんは兎も角、他の3兄弟は後ろ暗さを体で示すよう

 バツの悪そうに頭をかく。



 「本当、悲しいことを云ってくれるわね。アキト君は仲間じゃなかったの?

 先ほどから軍人としてだの、戦う理由だの、よくもまあ奇麗事で飾っちゃって・・・

 苦楽を共にするのが仲間というものでしょう。

 全く、いいだしっぺどもが、最後の最後で裏切るんじゃないわよ」


 周りが慌しく動き続ける中でヤザワ女史と彼らの間に静かな静寂が訪れる。

 そしてモニターから覗き続けていた俺にも・・・。



 今更ながらこそ痒く思う。

 仲間、その呼び方も使い方もとっくの昔に卒業したはずなのに・・・

 未だ心を締め付けては離さない。



 その隣で提督が先ほどと打って変わった巍然とした態度でブリッジに指令を送る。


 「モニター越しで済まぬが提督の名に置いて命ずる。

 特等オペレーター、敵との交戦予想時刻は?」


 「37分後に先遣隊と交戦します。

 それと新しく第二の勢力を補足、

 その数は先遣部隊と同数、58分後に我が艦隊と重なります」



 「ちとヤマモト君で遊び過ぎたのう・・・。

 まあよい、通信士、全艦隊に通達!

 進路を11時方向に向けて進路変更、

 00の指定座標まで中速前進、

 我が艦の操舵手も同様に・・・」



 命令は即実行され、数百の艦隊が同様のタイミングで進路を変える。

 展望室で見渡せる数百もの艦隊が一律で動く様は壮観ですらある。

 コンピューターの制御のおかげといえばそれまでだが

 それを差し置いても精鋭だということに変わりはない。


 「少年」


 少し外の様子に気を取られていた俺に意地悪な笑みを含んだ提督が呼びかける。


 「持ち前の人型兵器で第一波の足止めを頼む。

 サポート情報は現場に送るが後は少年の好きなようにしてくれ」


 子供にお使いを頼むような気軽さで注文する。


 もしかしたら先ほどの茶番も俺を気遣ってのことだったのだろうか?

 だとしたら素直に嬉しい。

 例え、死ぬことになろうと・・・。


 「よ〜し、俺たちもいくぜ!!皆の者、アキ坊に続け〜」


 「「「オオ!!」」」


 モニターの奥で海兵隊の皆が盛り上がっていたが、そんな彼らの気持ちを提督が水を差す。


 「別働隊の許可は少年のみ許している。

 役たたずと足手まといは待機」


 役たたずと足手まといの言葉に反応した海兵隊の皆さんが何かを訴えるが

 モニターを強制的に閉じた今ではそのことを最後まで聞くことはなかった。



 「少年、餞別だ。持っていきなさい」


 提督が懐から取り出した16桁の記号が記されたアイアンペンダント、それを俺に渡す。


 「認識票だ。

 正式なモノではないが君がここにいた記念として持っていて欲しい。

 それと戻る必要はないが死ぬでないぞ。

 君が死ぬと私はヤザワ女史に殺されるからのう」



 「最善します。提督もお気をつけて・・・」



 別れの挨拶と共に勢いよく飛び出す。

 家の庭を走るように慣れた道を突き進み目的地に向かう。

 第4格納庫、そこに己の僕(しもべ)が安置されている。






つづく