「TV出演・・・ですか?」
「うむ」
今まで片手で数えるほどしか顔を合わせた事のないオカルトGメンの幹部に呼び出された西条はあまりにも予想外の話に引き締めていた顔が呆れの表情に崩れていくのを感じていた。
「い、一体、どういう事なんでしょう? 取材ですか?」
「そうではない これを見たまえ」
そう言って一冊のファイルを渡してくる。西条が訝しげにファイルをめくると、デカデカとした文字が並んでいた。
どっちの除霊ショー
民間GSvsオカルトGメン
「・・・なんなんですか、この著作権法か何かに抵触しそうな題目は」
「番組企画書だ、企画したのはGS協会らしいがな」
「はぁ・・・」
気のない返事をしつつ書類に目を通す西条。そのファイルの中身を要約するとこういう事らしい。
オカルトGメンが日本に設立されて以来、民間GSを高額と言いシェアを奪っているが、本当にオカルトGメンは民間GSよりも優れているのか?
(以下、50行程省略)
TV番組で徹底検証を行い、視聴者に真実を知らしめる必要があると思われる。
要するに「客返せ、コラ」という事だ。
「しかし、何故これを僕に?」
「美智恵君の娘は民間GSだからね、この件は君の手で片付けてもらいたい。我々のシェアを死守し、ついでに向こうのシェアを奪ってやってくれたまえ」
西条の表情がみるみる不機嫌になっていく。取材ならともかく、このような番組に協力しなければならない理由はない。そもそも「シェア」とは的外れではないか? 西条とて金儲けのためにこの仕事をしているわけではないのだ。
「申し訳ありませんが・・・」
ファイルを返そうとする西条だったが、男はそれを無視という形で遮る。
「これはすでにオカルトGメンの総意として決定した事だ、敗北は許されないよ西条君」
「………わかりました、全力を尽くします」
数十秒を要して返事を絞り出す。
西条は理解した。
ああ、なんて事はない 上層部同士の権力争いじゃないかと。美智恵に話を通さないというのもGS協会に勝利し、その手柄を自分だけのものにするつもりなのだろう。勝ち負けをつけるようなものでもないだろうにと男を見る西条の目は冷たかった。
「はぁ? TV出演?」
素っ頓狂な声をあげたのは横島。その日は仕事がなかったため、いつものごとく事務所のソファに寝転がりくつろいでいた横島だったが、突然訊ねてきたピートの言葉に勢いよく起き上がってしまった。
「と…」
「それで横島さんに協りょ…」
「とうとうアイドルにスカウトされて来たのかーッ! そして、俺にそれを自慢しに来たのかぁーーーッ!!」
いつぞやのように叫んではピートに掴みかかる…が、直後令子から怒涛のハリセンをくらって沈黙した。
「…で、何の話なの?」
「そ、それがですね こんな話がGS協会から…」
どうやら寝起きらしく、目のすわった令子に怯えながらもピートはおそるおそるGS協会から送られてきた例のファイルを見せる。それは西条が受け取ったファイルと同じ物なのだが、美神は西条程真面目に読む気がないのか流し読みしている。
「…何これ?」
「先生の元にGS協会の方がお見えになって協力を要請されたそうです」
それでも書類に目を通しているうちに目も覚めてきたのか、いつもの令子に戻り一同はそっと安堵の溜め息をもらす。
そして、当の令子はファイルのあまりにもな内容に呆れ返っていた。
「唐巣神父なら断りそうな話だけどなー」
これは横からファイルを覗き込んだ横島の言葉。今は美神の胸元を覗いた制裁を受け、壁のオブジェと化している。
「こんなの私だって断るわよ」
西条と同じく、美神もこの話は気に入らないらしい。無論、西条と違って「お金になりそうにない」と言うのが主な理由だが。
「先生も最初は断るつもりでしたが、協会の方から強く要請されて断りきれなかったそうです」
「で、ピートに話がまわってきたの?」
「協会の方から将来のための宣伝活動だと思えと言われてしまいました」
なんだかんだと言ってGSは客商売だ。世間に名前を売る事は決してマイナスではない。たとえ美神のような悪名だとしても、だ。
ただ、ピートが目指すのはオカルトGメンなのだからあまり意味のない説得ではあったのだが。
「結局、承諾しちゃったのね」
机に肘をつく美神の目は「なんてめんどくさい」と如実に語っていた。
「先生の立場もありますし、断るわけにはいかなかったんですよ」
唐巣はアシュタロスの戦いにおいて美智恵と並んでリーダーシップを発揮した…と業界では言われていた。本人が聞けば悲痛な表情を覗かせながら否定するだろう。何故なら、あの戦いにおいて真に中核を担ったのは他ならぬ令子と横島…そしてルシオラの三名だからだ。
しかし、ルシオラの存在はオカルトGメンにおいては報告書から抹消され、GS協会においても「人類と友好関係を結び、人類に味方した魔族」とだけ記されている。幹部級の者はその友好関係を結んだ人類と言うのが人類唯一の文珠使いである横島である事は知っているだろうが、それ以上の詳しい事情は関係者が揃って口を噤み秘中の秘とされていた。
マスコミ等に横島とルシオラの事を隠すためにアシュタロスを倒したのは令子であり、唐巣、美智恵がGS、オカルトGメンを率いてそれを援けたとされ、結果としてGS協会内におけて唐巣は注目される立場となってしまったのだ。
今まで教会からも破門され、GS協会からもただの一民間GSとして捨て置かれていた頃は組織に属さず己の信じる道のみを邁進してきた唐巣だったが、いざ注目されてGS協会そのものから依頼が来るようになると、なかなか断る事ができなくなってしまう。
何故ならオカルト業界と言うのはまだまだ狭く。日本においてはまだまだオカルトGメンよりもGS協会の方が影響力が大きく。そして、唐巣の行動は唐巣だけでなく唐巣の弟子であるピートにも影響するからだ。
「んで、俺に協力って何すりゃいいんだ?」
「それがですね。協会の方は3名のGSを揃えたいそうで、それに横島さんを推薦したいのですが…」
「俺も出演すんのか?」
「どうやら今回の人選には条件があるらしく高額の道具を使わないGSが望まれているそうです」
「なんだそりゃ?」
「美神さんのような破魔札や精霊石を使うGSは駄目と言うことです」
それを聞いて美神はおおよその事を理解した。つまり、GS協会は世間様に向かって『民間GSだって安価で仕事ができますよ〜』と言いたいのだ。
同時に完全に興味を失った。あきらかに自分とは相容れない話だ。そう判断すると美神は何も言わずに二度寝をするために自室に戻ってしまうのだった。
「まったく、あの人はいつものことながら…」
「それで、横島さん協力していただけますか?」
「んー…ま、いいぜ 他に用事があるわけでもないし」
「ありがとうございます!」
パァとピートの顔がほころぶ。目立つ外見をしながら人見知りするところのあるピートの事だ、この話を持ち掛けられた時はさぞかし不安だったのであろう。横島が協力すると答えただけですごい喜びようだった。
「ところで3人目はどうするんだ?」
「GS協会の方が僕達のような見習いではなく既にプロとしてご活躍されている方で、道具を一切使わない方を連れてくるそうです」
「…すごい人もいたもんだな」
文珠使いの言うセリフではない。