PHASE02. 「それぞれの思い」
*ナデシコ艦内
「アキト~アキト~!」
物思いに耽っていた私はこちらのユリカさんの声によって意識を引き戻されました。
私の世界のユリカさんは今どうしているでしょう?
連れ戻すといいながら、一人残してしまいました・・・・。
心配です。
「困ったよね~ルリちゃん」
「何がですか?」
「アキトったら『私が艦長だから』って、遠慮して会いに来てくれないの!ぷんぷん!
『艦長が特定のクルーと仲良くしているなんてマズイだろ?』だって」
「・・・それって正論ですよね」
アキトさんは何も間違ったことをいってはいません。
「う。で、でもでも!アキトは私の王子様なんだもん!一緒にいてくれなきゃだめなんだもん!」
はあ、ユリカさん。幼児退行しちゃってます。ダメダメです。
一気にテンションダウンです。
「私は別に止めませんが・・・。いいんじゃないでしょうか?」
「ホント!さっすがルリちゃん、わかってるぅ!」
さすがユリカさん、プラス思考です。すぐに立ち直りました。
「そういえばルリちゃんはいつアキトと知り合ったの?」
「火星のネルガル研究所にいた頃です。たまたま知り合いになったんです」
適当にでっち上げます。プロスさん相手では難しいのですが、
普段のユリカさんなら楽勝で騙せます。へっちゃらです。お茶の子サイサイです。
「ふ~ん」
「艦長は大体私くらいの頃ですか?」
「そうだね、大体そのくらいかなぁ」
「どんな感じだったんですか?」
「ん~とね、火星じゃいつも私のことユリカユリカって追いかけて…」
「・・・艦長それ嘘ですね」
ユリカさんユリカさん、記憶捏造ですそれ。
「確かユリカさんがアキトさん追いかけてたって聞きましたけど」
「そうだっけ?(汗)まぁいいわ、ってなんで知ってるの?ルリちゃん」
「火星にいた頃、アキトさんが教えてくれました。
いっつもいっつも自分の後ろについて来る女の子の話を」
ここら辺はわたしも捏造です。
「アキトさん色々話してくれました。特にその女の子の話を。
ユリカさんだったんですね、それ」
「そうなんだ・・・」
「きっと忘れられなかったんじゃないですか?その女の子のことを」
ユリカさんはすごくうれしそうに目を細める。
まぁこれくらいOKでしょう。
私の大切な人へのおせっかいです。
そんなことを話していたらアキトさんの部屋の前に着きました。
「アキト~ッ!」
ユリカさんがドアに向かってノックをします。でも反応がありません。
「あれ~?アキト~!」
もう一度ノックしますけどやっぱり反応はありません。
アキトさんお留守みたいです。
「あ、そうだ!」
ゴソゴソ
ポケットから一枚のカードを出します。
「私艦長だから合鍵もってるんだっけ~♪」
ユリカさん・・・
「艦長、それ職権乱用です」
「固いこと言いっこ無し無し」
問答無用でキーを差し込みます。はぁ・・・
シュー
ドアが音を立てて開きますが中は真っ暗でした。
あ、そういえば・・・
「艦長、アキトさんはコックが本業ですからたぶん食堂です」
忘れてました。アキトさんコックさんです。
「あ、そっか~」
「ええ、だから食堂に行きましょう。もうお昼過ぎてますから」
「うんうん。そうしようそうしよう!じゃ早く行かなきゃ!
待っててね~アキト!あなたのユリカが今いくわ!」
すごい速さで行ってしまいました。
さすがユリカさん。アキトさんの事となるとすごいです。
あ、追いかけなきゃ。
*ナデシコ艦内、食堂
「変わってんなぁ、コックとパイロットなんてよ」
シミジミと俺の横で歩いている男、マサト・ニキという男が言う。
まぁ確かに。普通いないよな、そんなの。
「コックが本業だよ。パイロットは臨時」
「普通逆だろ~?変なヤツだよオマエは・・・」
呆れた顔でこっちを見てくるマサト。
マサト・ニキ。俺の世界にはいなかった、エステのパイロット。
「変なのはオマエもだろ?戦闘の時と全然違うじゃないか」
そう、驚いた。
まぁ俺が驚いたのは戦闘中に話をした時の口調と印象が、
エステを降りた後話したときと全く違ったことだ。
「そんなに違うか?みんな言うんだよ~、雰囲気が違うって」
「演技なのか?」
実際、 その豹変ぶりのギャップに驚いた。
整備班の人達やウリバタケさんもウインドウ越しとその後のギャップにあっけに取られてたからな。
2重人格か何かなのか?
「違う違う。なんていうのかな、切り替えてるんだ」
「切り替える?」
「今のオレは普段モード。お気楽な感じで少し軽薄なカンジ。そんな印象じゃない?」
「ああ、そんな感じだ」
「で、まぁさっきみたいにエステ乗ってる時はお仕事モードってわけ。
冷静沈着、少々するどい目つきに真面目な口調。ぶっちゃけていうとね、
頭ん中にスイッチがあってね、状況によってソレを切り替えるわけだ。
それこそボタンを押すように。オレから言わせてもらえば人格を変えるんじゃなくて、
性格を変えるってわけなんだ、これが」
「どう違うんだ?」
「そりゃオマエ、人格を変えるなんて2重人格だろソレは。性格かえるのとは違うぜ。
そうだな…、ま一種の自己暗示ってところか?くわしくは説明できねぇよ」
「へぇ~」
「それよりオマエの方が気になるぜ。
オマエ、エステ操縦すんのあの戦闘が初めてだったんだろ?
驚異的だぜ。コーディネイターかなんかか?」
「違うよ。生まれも育ちも普通の火星出身さ。IFSも火星にいたからつけてただけだし」
まぁ、ここ近年の人生は普通じゃなかったか。
「へっ、まぁいいか。どーでもいいことだし」
「マサトはそうゆうの気にしないのか?その…、コーディネイターとかナノマシンとか…」
一応どんなやつなのか探っとくほうがいいだろう。
前回と違うからできるだけ情報は多いほうがいい。
「そうだなぁ。確かにコーディネイターは生まれながらにしてすげぇ力持ってるっていうからなぁ。
でもオレはその点で別に困ったことなんてなかったしな」
「そうなのか?」
「ああ、オレの本業は『なんでも屋』っていってね。
早い話がペット探しから企業秘密、軍事機密の奪取・破壊とかなんでも引き受けるわけだ。
仕事柄荒事ばかりだし、コーディネイターのやつとも対峙したこともあるが負けたことないし。
そういう世界は実力主義だろ?ナチュラルとかコーディネイターとか関係ねぇよ」
「へぇ~、結構武闘派?」
「そりゃそうだ。殺し合いだってある。
まぁオレにはそうゆう才能があったんだろうな。おかげで仕事にありつける。
それに大体どんな人間にしたって学習や鍛錬無しには何も出来んぜ」
・・・それはもっともな意見だ。
努力も無しに結果など見えない。どんな才能を持とうとも、それを磨かなければ宝の持ち腐れだ。
俺もユリカを救うと決めた時、奴らに復讐すると決めた時、努力した。
それも血の滲む様な努力だった。
例え地べたにへばりつこうとも必死に足掻いて・・・
「そうゆうオマエも色々努力してんだろ?見た感じ、筋肉の付き方がいい。
なんか格闘技関係でもやってたのか?」
一瞬ドキッとする。
この男・・・、それをすぐに見破った…
「空手とかを少々ね。ほとんど趣味だよ」
「ふ~ん。暇があったら相手してくれよ、いいだろ?」
「ああ、でも今はコックがあるからね。それはまた今度」
「オッケ~」
そんな話をしながら食堂につく。
マサト・ニキ。注意しておいたほうがいいな・・・
俺はノド元にナイフを突きつけられた様な感覚に陥る。
どうするか・・・
「テンカワ・アキトです。よろしくおねがいしまーす」
「よろしく、テンカワ。あたしはここのチーフのホウメイだよ」
「「「「「よろしくおねがいしま~す!!」」」」」
久しぶりに立つ厨房はとにかく懐かしかった。
数々の調理器具。
仕舞われた包丁や色々な鍋類、ボウルや調味料。
なにもかもが俺の心を躍らせる。
ホウメイさんは中華がメインだから中華包丁をよく使っていたな。
「テンカワは何が作れるんだい?」
ホウメイさんが聞いてくる。もちろん俺は、
「基本的にはメジャーな料理一通りです。でもメインは中華です」
「ふふ~ん♪なら、がんばってもらおうかねぇ」
「いえ、まだまだ未熟ですから。ご指導、よろしくお願いします」
「ああ!ビシバシ鍛えていくよ!それじゃみんな、そろそろ始めるよ!」
「「「「「は~い!!」」」」」
それから開店し始める。丁度昼時なので食事を取る人が多い。
「俺、鉄火丼!」
「わたしパエリアで」
「カレー3つくれ!」
「火星丼1つ!」
ガヤガヤと声が飛び交いながら食堂が賑わう。
それらのひとつひとつが俺の心を躍らせる。
「すげぇ繁盛ぶりだな」
マサトが周りを見ながら感嘆の声を漏らす。
キョロキョロと周りを見回すその姿は妙に愛嬌があったりする。
「まあね。クルーの人たちが一気に集中するわけだし」
「は~、これはメシはあとにしといたほうがいいな~。
いっちょメシ前に体を動かすか。あ・・・・、いっけね~(汗)」
急に頭を抱えてカウンター前で悩みだす。
「どうした?」
「…戦闘報告まだいってない・・・。またプロスさんにお小言くらっちまう(涙)」
・・・・、ご愁傷様。
「とにかくブリッジに行くか。ヤマダとかいうバカのトコにも行かんとなぁ、んじゃまた」
手をひらひらさせながらマサトは食堂を後にする。
それからしばらく仕事をし続けていたらユリカとルリちゃんが一緒に食堂に入ってきた。
どうやら2人で仲良くしているらしい。
「アキトーッ!!」
「お疲れ様です、アキトさん」
2人に声をかけられる。
この後、俺は休憩をもらい3人で食事を取りながら話をした。
お互い別れた後のことを話しながら。もちろん親父やお袋のことも。
ユリカの父親が何か知ってないか?ということも話す。
しかし…この時はまだ気付かなかったが、俺はどこかユリカと面と向かって話せなかった。
これが後々に響くことなど露知らず
しばらく話しているうちにユリカに呼び出しがかかり、食堂を後にした。
残ったルリちゃんと2人でまた色々と今後のことを話す。
すると、
「そういえばアキトさん」
「なんだい?」
「前に話されていた計画のことですが…」
あの事か・・・
「なにか問題でもあったの?」
あの場で考えたことをそのままラピスに伝えただけの計画だから不備はいっぱいあるだろう。
いったいなんの問題だろう?
「あ、いえ問題のほうはなんとでもなるんですが・・・。
その計画をラピスだけに任せるのは不安ですし、結構負担ですから補佐を1人付けました」
「補佐?しかし…現段階で俺達の話を信じ、なおかつ信用の置ける人物など・・・」
「それがいるんです。・・・ハーリー君って覚えてますか?」
「確かルリちゃんのサポートをしてた子だったような・・・まさか!?」
「ええ、彼もこの世界に来ていました。
覚醒してからすぐ私の所に連絡してきてくれたので」
「そうか・・・」
彼も来ていたのか・・・。
「…よろしく頼むよ。ラピス1人にして地球を離れるのは不安だったから。
ありがとう、ルリちゃん。彼にもよろしく言っておいてくれ」
「ええ」
そうしてこの話を打ち切り、俺は本業に、ルリちゃんはブリッジに戻っていった。
そういえばもうしばらくしたら発表があったな。
どう転んでいくかはわからないが・・・・、俺たちは火星に向かう。
再び起こるであろう悲劇を止めるために。