アーチャーの突然の襲来、マキリ臓硯の暗躍、桜の救出、大聖杯崩壊。
 正直、一週間にも満たない短い時間の中でおきたその事件は、かつて新都を焼き払った聖杯戦争、俺が巻き込まれた聖杯戦争に匹敵する大事件だった。
 病院から戻ってきた一成や修行中のお坊さんたちが揃いも揃って、完全に陥没した柳洞寺の姿を見て呆然と立ち尽くした時、真犯人の俺は、かけるべき声を持たなかった。
 その後始末にてんやわんや。
 気づけば紳士協定ならぬ『淑女協定』なるものが出来ていて、アルトリアと桜は遠坂の家で三人暮らし、イリヤはやっぱり藤ねえとライガ爺さんの家で暮らして居る。この原因の『淑女協定』の内容について少なからず疑問は残るが、追求すると逃げられなくなりそうなので、気にしない事にした。
 少々家が遠い事も有り、しかも自分の部屋をこの家に持つ遠坂はたまに泊り込むときが有るが、その時は何故か桜とアルトリアも一緒だ。しかも、遠坂の部屋の両脇に陣取っている。
 ……追及するまい。俺だって命は惜しいのだ。

 しかし、そんな忙しい夏休みも昨日で終わって、今日から新学期。
 そう割り切って気分を変えようとした時、事件は起こった。
 起こって欲しくないと言うのに、何で起きるのか。それはこの家に残る衛宮切嗣の怨念の所為に違いない。……女好きだったからなぁ、オヤジは。


Fate偽伝/After Fate/Again
第二章第一話『夏は終わり、秋を経て冬へ』



 ぴん、ぽーん。
「勝手に上がってくれー」
 この時間に来る人間なんて限られているし、鍵を持っているのも身内だけ。だから気にもせずに声を飛ばす。
 ガラガラと戸を引く音に続いて、体重の軽い人間の床板を踏む音が聞こえてくる。
「おはよう士郎」
「おはようございます、先輩」
「遠坂、桜、おはよう」
 そう言って、一人足りない事に気づく。
「あれ、アルトリアは?」
 聞いただけなのに、いきなり二人とも困惑の表情に代わった。何かまずい事を聞いたのだろうか。例えば風邪をひいたとか、幾ら起こそうとしても起きなかったとか。
「でもまずくないか、朝食べないと、俺たちが戻ってくる昼までアルトリアは何も食べれないぞ」
 弁当に向いたおかずは無いし、そう思ったとき。
「シロウは私と食事を常に結び付けて考えているのですか……?」
 ちょっと怒った声。
 半分くらいは自分でも認めているんじゃ無いかという、アルトリアの声に――
「ごめんごめん、おはようセイ…アルトリア」
 つい、いつものつもりで言ってしまうセイバーというサーヴァントとしてのクラス名。この半月でだいぶ慣れたとは言え、彼女をセイバーと呼んでしまう癖はまだ抜けていない。
 とまあ、そんな事を考えながら、盆を台所から居間に移そうとして……それを見た。

 いつものように結われた髪。表情には柔らかい微笑みと凛々しさが同居し、いつものように泰然として其処に居る。
 そこまでは良い。
 白いブラウスに、シンプルなスカート。それがなんで、うちの学校の制服なのか。
「藤ねえだな、藤ねえの悪戯なんだなアルトリア?!」
 錯乱して悪いか?!
 そう内心で悪態をつきながら、その新鮮な姿に釘付けになっていた。



 でも学校まで平然として着いて来られた上、
「アルトリア・ペンドラゴン、友人からはセイバーと呼ばれています。半年に満たない期間ですが、よろしくお願いします」
 なんて挨拶をしてくれた。
 ニヤニヤしながら俺を見ている藤ねえ。その脇では、学校の教室だというのに学校の制服を着たアルトリアが居る。
 ……何故だ?!
 何故、一体、何がどうなってこうなった?!

「どういう事だ衛宮、何故此処にセイバーさんが居る」
 一成の声には、戸惑いの色が濃い。
 さもありなん。
「信じてもらえないと思うが、それでも信じてくれ。今朝初めて学校に通う事を知ったんだ。この教室ってのも、今知ったばかりなんだ」
 まあ、一成なら『まあ、相手は藤村先生だ、おかしくはあるまい』とでも納得してくれるだろう。
 けれど。なんでHRの時間だと言うのに、廊下から桜と遠坂が俺を懐疑の眼差しで見ているんだ。第一、二人はアルトリアと一緒に住んでるんだから、俺なんかより詳しく知っているはずじゃあ?
 ……というか。なんで、食虫植物を連想させる笑みを浮かべているのか、その理由を教えてください。制限時間30秒、150文字以内で。


>interlude 1-1


 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
 彼女は非常に不機嫌だった。
 セイバーもリンもサクラもタイガも。シロウの周囲に居る女たちは悉く高校に行っている。なのに、何故自分ばかりが此処に居るのか。そんな事ばかりつらつらと考えているから。
「イリヤも、学校、行く?」
「や!」
 イリヤは自分がどんなに年嵩に見られても、せいぜい中学生くらいにしか見えない事を自覚している。それならどうやった所で、シロウの居る高校にはいけないだろう。
 それに何より、女性の年齢は秘密なのだ。例え、家族と言うべき人間が相手であっても。いやだからこそ秘密なのか。
「口を慎みなさいリーズリット。お嬢様の事はイリヤスフィール様と呼びなさい」
「セラ、それ、他人行儀」
 むむむ、と唸る。
 何時まで経っても怪しげなメイド服を着つづけるリーズリットとセラ。武家屋敷を思わせる日本建築が建ち並ぶこの辺りでは、最も目立つ二人として認識されている。何しろ買い物に行く時まで、この格好なのだから。
 リーズリットの怪しげな日本語、それを『萌へ』と称する感覚及び趣向に従い、藤村邸の盗撮を試み、ライガのボディーガードにどこかに連れ去られる事件など一体何度有った事か。もう、気にしたくも無い。
 セラの説教好きもそうだ。半ば以上家族であるはずの人間に『様』なんてつけて欲しくない。
 氷雪に囲まれた魔術の要塞アインツベルンに帰るつもりなど無いが、これでは冬木の街に残った甲斐が無いではないかと。
「それにしてもイリヤスフィール様、貴方こそ人が良すぎます。かつての敵セイバーに肩入れするなど、心の贅沢が過ぎるのではないですか」
「それ違う。イリヤ、敵に塩送っただけ、フェアプレー精神」
 確かに、そう言う考えも出来る。
 でも、彼女はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
 好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。自分の気持ちに素直になって物事を判断して行動する。
 そういった、裏表の無い少女こそがイリヤスフィールなのだ。

 だから、つまらないと感じれば、退屈を隠そうともしない。
 このつまらない日常を緩和するには、簡単な方法がある。一石投じればいいのだ。さて、投げ込む石はすぐに思いつく。後はタイミングとその規模だ。波紋は一気に広がるのだから、落とす場所とそのスピードの調整。
 ニヤリと。
「セラ。イリヤ、何か企んでる」
「ならリーズリット、貴方が窘めればよいでしょう」
「私するより、リズがすれば良い。説教得意でしょう」
 擦り付け合う二人。
 それを気にすることなどなく、イリヤは時計を見る。
 今日は都合よく二学期最初の日であり、授業はなくて始業式だけ。昼前に終わるだろうから、悪戯するに頃合いなのは今をおいて他に無い。
 さあ、今爆弾を仕掛ければ、沢山人が居る中に騒ぐのは憚られるだろうから、知った人間はやきもきするし、式が終わってから着信メールの確認をすれば、弾かれたように事実かを確認するだろう。
 彼女は最近はまり込んでいる、ライガに買ってもらった『最新型』の携帯を取り出す。テレビ電話どころか、懐かし――イリヤが生まれていない頃のも含めて――のゲームまで出来るスグレモノである。
 そこに文章を打ち込み、知り合いのところに片っ端から送信する。
 悪辣なチェーンメール発生の瞬間であった。


 ヴゥゥゥゥン…
 着信を知らせる振動があり、その次にはマナーモードにしたがって沈黙する。
 それを受け取った大半の人間は始業式中だということもあり、終わりを待つことにする。

 だがしかし。
 式の最中だろうと、教師であるならば何事か有ったときのため――生徒が負傷したり、不祥事を起こした時の為――に、即座に確認しなければならないという事情がある。
 それは英語教師、藤村大河にしてもそうだ。
 彼女は、隣に立つ葛木に軽く着信があったことを指し示しながら取り出した。
 携帯を開くと、液晶画面には組がらみで何かあった時用のグラフィックでメールの通知が一件。しかも最重要で。
 何事か有ったのだろうか。
 そう思って文章を開くと――

 藤村大河は、隣に立っていた葛木宗一郎が反射的に逃げるほど……怪鳥じみた凄まじい声を上げた。


>interlude out


 ああ、何時になったら校長の長ったらしい訓辞が終わるんだろう?
 そんな事を思った瞬間だった。

「何っ……じゃそりゃぁぁああああああ!!!」
 (ガオオオオン)!!

 …と。いつもなら一瞬で消える虎の幻影――魔術師でなくとも根源に至る道があるらしい。ならばあれも一種の奇跡か?――が消えることなく見える。
 しかも、隣に立っている葛木など、見事なまでに跳躍して間合いを取り、怪しげな構えを反射的に取っていた。

 普通なら、教師が奇声を上げるなどすれば他の教師も生徒も騒ぎ出したり止めたりするだろう。なのに誰もしない。今の藤ねえに近付く事は、まさに『虎穴に入らずんば〜』をその身で体現する事に他ならない。それがわかっているからに違いない。
 だだだーーと走り、ずざざーとブレーキをかける。
 そしてブレーキをかけて止まったのは、どうしてか俺のまん前だった。
「士郎、これ、どういう事なのよう!!」
「は? …うわぁ?!」
 ぐんぐん、ぶんぶん、ぐらんぐらん。
 前後左右上下、頭だけでなく全身がシェイクされる?!
「ふ、藤村先生、衛宮の首が絞まっています!!」
 い、一成、頼む、味方はお前だけだぁぁぁあ?!
 じろりと睨む藤ねえ。一成はうっ…とたじろぎ、藤ねえはポケットに戻していた携帯を取り出し、何か操作してから一成に見せる。
 ふ……と、溜め息らしきものを吐いた一成。
 そうして俺に顔を向けて、手を伸ばして、何故か襟を掴んだ。
「どういう事だ衛宮ぁぁぁぁぁ?!?!」
 おお、藤ねえよりもパワフル、体がなんだか浮いてるぞ! さすが男だ一成?!
 嗚呼きっと俺は錯乱しているさ、間違いない!!
 ザワリと、藤ねえだけでなく、冷静沈着を地で行く一成までもが錯乱した事が起爆剤になった。衛宮士郎を中心に突然真空地帯が発生し、そそくさと壇上から校長が逃げ出して行くのが視界の端に見えた。

 あー……何でこうなったのか知らないけど、意識を手放しても良いよな?


 そして。
 あの後何があったのか知らないけれど、保健室で目を覚ますと既に今日の予定は終わっていると言われたので、釈然と無しないものを感じながら家に帰り着けば……藤ねえと一成、美綴までもがやってきて、居間に陣取った。
 三人が三人とも、物凄い形相をしている。
 うん、バーサーカーと睨みあって勝てるくらい怖い。

「さて衛宮、聞かせてもらおうか」
 そう言いながら美綴が出してきたのは彼女の携帯。ついで一成と藤ねえも自分の携帯を出す。ちなみに携帯など持たなかった一成だが、ついには度重なる柳洞寺を襲う怪異に、もしもの時の連絡用にと父親に渡されたそうだ。
 その三人の携帯の液晶画面は既にメーラーが起動されていて、同一の文章が表示されている。
『イリヤのひみつ情報♪ シロウがね、思春期用語で『(オトナ)』になりました……なんと相手は二人〜。しかも現在進行形っ』
 はて? 俺は一体、イリヤに此処まで憎まれるような事をしたのであろうか?
「士郎、お姉ちゃんは悲しいよう。まさかこんな子に育っちゃってるなんて……切嗣さんは喜びそうだけど……お姉ちゃんとしては納得できないよう…」
「衛宮。親鸞上人曰く、僧にもあらず、俗にもあらず。肉も酒も煙草も女も良かろう。だが、一夫多妻制は認められん」
「さあ衛宮。二人に手を出すくらいだ。その男の甲斐性は結構なものだろう? なのに全く私に興味を示さないとは……別に衛宮に対して恋愛感情は持ち合わせていないが、近くに居る女としての矜持に傷をつけられた気分だ」
 この三人、そんなに俺を追い詰めたいのか。
 というか、こんな怪文書が出回ったくらいで地の底に突き落とされるような信用しか無いのだろうか。
『さあ、このメールにある『二人』が誰か、洗いざらい吐いてもらおうか』
 ずずずいと迫る三人。
 此処に居るのが俺でなくて遠坂だったらきっと、適当に眠らせて記憶を消すんだろうなと。そんな事を思った訳で、しかしそれは現実逃避でしかない。支離滅裂だと自覚しながら対応を考える。
 1.嘘をつく
 2.真実を語る
 3.誤魔化す
 嘘はばれた時の反動が怖い。
 真実を語れば、まず間違い無く殺される。
 誤魔化した所で、イリヤが話せばそれでおしまいだ。
 ……だめじゃん。
 三択全部、BADEND行きじゃないか!

>interlude 1-2


 藤村邸にあるイリヤの部屋。
 そこは既に一種の亜空間と成り果て、組の方々さえ近寄ろうとはしなかった。
 何でこんなことをしたのかと、問い詰めに行った凛とアルトリア。しかし彼女たちは、そこで待ち受けていたイリヤと桜の前に劣勢になっていた。
「どういう事でしょうか姉さん、アルトリアさん」
 命の危険さえ覚悟したくなるような氷の微笑を浮かべた、桜の恐怖。
 そんなものに追いやられるのを感じながらも踏みとどまる。
「何のことかしら桜? 私は噂の真偽を確認しに来ただけよ」
「ええ。私もリンと同じで事の真偽を確かめに来ただけです。シロウがそんな不義をしているのなら窘めなければなりませんから」
 冷や汗を浮かべながらも滑らかに嘘を突き通す二人。
 なのに此処で追い詰めるタイミングを計っていたのは誰あろう、みんなが認める悪魔っこであった。
「アインツベルンの森でバーサーカーと戦った時。ラインが繋がっていなかったのに魔力回復していたよね、セイバー……」
 態々『セイバー』と呼ぶ辺りに悪意が篭っている。
「この間シロウが死にかけた時、リンがラインをつなげて助けたよね。魔術師同士でラインを繋ぐ方法なんてそんなに無いし……都合良く男と女……」
 有耶無耶に出来ていなかったのかと、今更ながら焦る凛。

 二人同時に一歩下がったのを見て、桜が切り込む。
「そうですか。まさかとは思いましたが、二人揃って先輩のご寵愛を…いえ、お情けを戴いていたのですね……」
 その言い方は古い。
 そんな冗談も言えない雰囲気に、ついにイリヤまでが後退する。内心、サクラを引き込んだのは失敗だったんじゃないかと。
 うふふふふ……と、墓場と白い着物と火の玉が似合いそうな笑い声。
 動きまでがそれに見合ったゆらりとしたものに変わり果てる。
「先輩……私の気持ちに全く気づかず、こんなことをするなんて……ふふふふふふふふ……」

「リン、シロウは本当にサクラの気持ちに気づいていなかったのだと思いますか」
「……何しろ士郎よ、油断は出来ないわ」
「そんな議論より、二人とも、逃げるのが先よ」
「そうですねイリヤスフィール。確かにこの場からの離脱が先です」
「此処と士郎の家は駄目よ。私の家に逃げましょう」
 三人は頷きあうと、これから士郎を襲うであろう惨劇を想像しながらも、そそくさと逃げ出していった。

 遠坂の家に生まれながら、適性の無いマキリの魔術を教えられた桜。
 不完全ながらも聖杯として機能した事により得た強大な魔力があっても、彼女にはそれを生かす方法がなく、三人が逃げた事に気づき、そして追跡が不可能であることに気づくにはまだ少々の時間を要した。


>interlude out


 繰り返す。
 原因は一体何だったのか。俺はそれが知りたい。とくに、この場を一瞬で極寒地獄に変えた桜の表情の理由を。
「先輩、何であの二人に手を出しておきながら、私はスルーなのでしょうか」

 ランサーと対峙した時は、何も分からないうちに殺されたり、セイバーが召還されて助けられた。
 バーサーカーと戦った時は、生存本能が逃げろ逃げろと叫びつづけるような恐怖を感じた。
 アサシンと向きあった時は、抜き身の刃の鋭さが、殺意として俺を貫いた。
 ライダーに斬り付けられた時は、許せないという気持ちで恐怖を押さえ込もうとした。
 キャスターが襲撃してきた時は、その卑劣さにただただ怒りを感じた。
 ギルガメッシュには、恐怖よりも強い敵愾心を感じた。

 そんな経験は何の役にも立たない。
 目の前に居るのは、もっと根源的な恐怖そのものに他ならない。
「あ、そうだ士郎。今日はお祖父様の晩酌に付き合う予定があるから、ご飯はいいや。じゃあまた明日学校でね」
「衛宮、すまないが今日はこれから父に倣って読経をせねばならん。これにて帰る、南無」
「あ、そうそう。注文していた新しい弦が入荷したとかで、今日のうちに店に行かなきゃならないんだった。長々と居座って悪かったな衛宮」
 ちょっと待て三人。
 此処に哀れな子羊を置き去りにするつもりですか、此処はもう魔方陣の供物の祭壇の中なのですよ?!

「さあ先輩、私に魅力が無いのなら、そうといってくだされば結構ですよ」
 目の前には桜。
 中学生の頃に慎二に妹だと紹介された女の子で、本当は遠坂の妹だった、何時の間にか物凄く女の子らしく成長した、綺麗な後輩。
 外面似菩薩内面夜叉(げめんじぼさつないしんやしゃ)
 一成に教えられた、悪女の基本形のような言葉。外見は菩薩のように優しく美しく、中身は悪鬼の如く恐ろしい女性。さてはて、何故桜を見てそんな言葉を思い出したのだろうか。

 とりあえず、俺に神様の知り合いなんて殆ど居ないが。
 ギルガメッシュでもヘラクレスでも誰でも良いから、この俺に殺される為に降臨してくれ、頼む。





 俺の高校最後の二学期は始まりからしてこんなもので、最後までこんな滅茶苦茶な日々だった。
 けれど猶予期間はもう無い。
 遠坂は卒業と同時に時計塔に行くだろう。彼女は遠坂の魔術師として、本人の希望通り一人前を目指しているから。
 桜はまだ不安定な時がある。彼女を支えるのは遠坂が一番適任だ。けれどその遠坂は居なくなる。
 イリヤだって、オヤジと別れて過ごしてきたんだ。その彼女から家族である俺が居なくなっても良いのか。
 セイバーも。彼女は俺と一緒にいる事を選んでくれている。けれどそれに甘えて良いのか。

 家族や好きな女の子。
 だれを選んでも、後悔はしない。けれど、何かを切り捨てるような恐れがある。
 まるでゲームの選択肢。
 けれどこれは現実。誰も傷つかない終わりなんて無い。

 そして12月24日、クリスマス・イヴ。
 俺の中にある迷いを、全て打ち砕く事件はおきた。


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