< 時の流れに >
「ビーチ手前で着水。
各自、上陸用意をさせて。」
「は〜〜〜〜い♪」(ブリッジ全員)
「ルリルリ、貴方肌が白いんだから日焼け止めはコレ使いなさい。」
「すみません。
海、二回目なんです。」
「ふ〜ん、一回目は誰と行ったのかな?」
「・・・秘密です。」
そして、ナデシコはテニシアン島に到着した。
「パラソル部隊急げ〜〜〜〜!!」
「お〜う!!」
元気だね〜、リョーコちゃん達は。
「女子に負けるな〜〜〜!!」
「お〜う!!」
・・・アカツキ達も十分元気だな。
「ちょっと待ちなさい貴方達!!
貴方達解ってるんでしょうね!!
貴方達はネルガル重工に雇われているのよ!!
だから・・・遊ぶ時間は時給から引くからね。」
「はぁ〜〜〜〜?」(全員)
セコイぞ、エリナさん・・・
「はい、これ私が作ったシオリ。
よく読んでよね。
まず、海の深い所には・・・」
誰も聞いて無いって・・・エリナさん。
「・・・解った? って誰もいないじゃない!!
もう!! 私も遊ぶからね!!」
バッ!!
・・・十分遊ぶつもりだったんでしょうが。
制服の下に水着を着てるんだから。
「ふう・・・ユリカやメグミちゃん、それにリョーコちゃん達は海で遊んでる、と。」
「ちなみに私は隣で情報収集してますよ、アキトさん。」
・・・何時の間に俺の隣に。
「そ、そう。
ルリちゃんも少し日に焼けたら?」
俺の視線の先には日光浴をしている、イネスさん、ミナトさん、ホウメイさんがいた。
「・・・止めておきます。
私はアキトさんを見張ってますから。」
どう言う意味だ?
・・・いろいろと考えられるが。
ま、今回は大人しくこの場所で待機しておこう。
幾らなんでも、自分から進んで例の自殺願望少女に会いたいとは思わない。
「でも、アキトさんですからね・・・」
「何か言った? ルリちゃん?」
「いえ、別に。」
アカツキ達がパイロット同士で、ビーチバレーを開始した。
「テンカワ君はやらないのかい?」
「残念ながらパートナーがいないよ。」
ギンッ!!
・・・不用意な一言だったらしい。
「俺がパートナーになってやるぜ、テンカワ!!」
「私が一緒に組んであげるよ、アキト!!」
「私がアキトさんのパートナーになるんです!!」
「「「う〜〜〜〜〜〜!!」」」」
「・・・アキトさんの馬鹿。」
「はい・・・」
こんな所に来てまで反省している俺って・・・
ゴートさんとプロスさんは、ビーチパラソルの下で将棋をしている。
・・・いちいち浜辺でする様な事なのか?
「解ってませんな〜、テンカワさんは。
こういった趣きがいいんですよ。」
「・・・うむ。」
・・・あまり理解出来ないです、はい。
「さ〜、いらはい、いらはい!!」
・・・やっぱり浜茶屋を出すんだ、ウリバタケさん。
「海水浴場の三大風物と言えば!!
粉っぽいカレーに、不味いラーメン、そして溶けたかき氷!!
俺はその伝統を今に伝える、一子相伝最後の浜出屋師なのだ〜〜〜〜〜〜!!」
燃えてるな・・・ウリバタケさん。
客がジュンだけ、と言うのが涙を誘うが・・・
「ラーメン。」
「へい、毎度!!」
威勢良く麺を熱湯に放り込むウリバタケさん・・・
あ〜、そんな風に麺をほぐしたら駄目ですよ。
「へい!! お待ち!!」
ズルズル・・・
「・・・不味い。」
「あったぼ〜よ!!」
・・・いや、まあ宣伝の言葉に嘘が無いのは解ったけど。
そんなラーメン、誰も欲しいとは思わないんじゃ?
「・・・何やってんだか。」
「・・・反論できないよ、ルリちゃん。」
「ねえ、テンカワ君。
一つ聞いて良いかしら・・・君、火星から来たのよね?」
エリナさん・・・もうそろそろだと思ってたが。
そうか、過去でもここからアプローチが始まったんだったな。
「ええ、そうですけど。」
「どうやって激戦下の火星から脱出してこれたの?」
何処まで話そうかな?
ま、今更隠す必要は無いんだけどな。
・・・過去での仕返しを兼ねて、焦らすのも面白いかもな。
ルリちゃんがどうするんですか? と、目で聞いてくる。
ここは一つ・・・
「それはですね・・・」
「アキト!!」
「テンカワ!!」
「アキトさん!!」
「誰とパートナーになるのかアキト(テンカワ)(さん)が決めて下さい!!」
・・・まだ、その事で争ってたのか三人共。
結局、エリナさんの追及はうやむやのうちに終わった。
「・・・本当、何やってんだか。」
「・・・返す言葉もありません。」
ふう、今回は本当に何事もなく・・・
「アキト君。」
「何ですかイネスさん?」
「う〜ん、アキト君だから言うけど・・・
ヤマダさんが医療室から消えたのよ。」
・・・嘘、だろ?
「だって、全治一ヶ月の重症だった筈じゃあ?」
あの入院劇から、一週間位しか経ってないはずだ。
「それがね、新薬の実験結果が凄くてね・・・全治しちゃったの彼。」
・・・新薬の実験って。
隣のルリちゃんも呆れている。
ガイ、お前・・・本当に全治したのか?
「あ、多分全治してると思うのよ。
でも一応、って事でベットに縛り付けていたんだけどね・・・
今朝から姿が見えないのよ。」
それ、十分大事ですよイネスさん。
「・・・後で探しに行ってきます。」
「お願いね、アキト君。」
「・・・本当に人間ですか? ヤマダさん?」
「・・・さあ? 多分人間だと思うよ(汗)」
「ちょっと!! アンタ達!! これはどうゆう事よ!!」
・・・て、言われてもな。
遊んでるんだろ、全員で。
「新型チューリップの探索はどうなってるのよ!!」
誰もその声に反応しない・・・
「ちょっと!! わたしの話しを聞きなさいよ!!」
自由気ままに、それぞれの時間を過ごすクルー達・・・
「アンタ達・・・解ってるの!! この任務は・・・!!」
ズボッ!!
・・・落とし穴に落ちたな。
しかし、誰が作ったんだろう、あの落とし穴?
まあ、だいたい犯人の予想は出来るが。
「それ〜!! 埋めろ埋めろ!!」
「ちょっと!! 嫌!! 止めて・・・」
砂浜から頭だけを出した状態のムネタケ。
その髪の毛の形から見ても・・・
・・・本当にキノコになっちまったな、ムネタケ。
クルー全員のムネタケに関する意見は一致していた。
「でも・・・食べれませんよ、アレは。」
「俺もあんなキノコ、絶対に料理したくないよ。」
暫くして・・・俺はゴートさんが消えている事に気が付いた。
「・・・動いたのか? ゴートさん。」
「どうしたんですか、アキトさん?」
どうする・・・ゴートさん一人でも十分だと思うが。
・・・手助け位はいいだろう。
「御免ルリちゃん、ちょっとゴートさんの手伝いに行ってくるよ。」
「???? はあ。」
俺は水色のパーカーを羽織って森に入っていった。
ガンッ!!
「くっ!! 結構手強いな・・・」
敵の銃弾を避け・・・大木の後ろに隠れるゴートさん。
「・・・そうですね、クリムゾン・グループのシークレット・サービス。
しかも、精鋭部隊みたいですね。」
「な!! テンカワ!!」
後ろから突如現れた俺を見て、動揺するゴートさん。
「・・・どうしてここに?
それ以前に敵の正体をどうして知っている。」
「ここはクリムゾン・グループ会長の孫娘の島ですよ?
令嬢を守備するシークレット・サービスがいても、不思議じゃないでしょう。
・・・しかも、ネルガル重工とは敵対関係ですし、ね。」
俺の説明を聞いて、更に渋い顔をするゴートさん。
「その通りだ、テンカワ。
何も手を出してこなければ、このまま見過ごすつもりだったが・・・」
「島に上陸してから監視の目は感じてました。
先方の方が忍耐力が少なかったみたいですね。」
さて、彼等の数が思ったより多い・・・
ここは俺も参戦するしかないか。
「ああ、何でもその会長の孫娘とナデシコのクルーの誰かが接触したらしい。
それでアイツ等は俺に仕掛けてきたんだ。
・・・しかし、俺が見張っていた上陸クルー達は全員砂浜にいたはずだが?」
「・・・遭遇したナデシコクルー?
それ、多分ガイです。」
・・・何て、タイミングの悪い男なんだお前は。
俺は頭を抱えたくなった。
暫く記憶を探ってから・・・ゴートさんが俺に質問する。
「ガイ? ・・・ヤマダか?」
「そうです。」
「そうか、現場に復帰してきたのか。」
ええ、不思議な事にね。
「さて、原因が解った所で・・・どうします?」
「どうもこうも無い・・・これは俺の仕事だ。」
自分のブラスターに弾丸を詰めながら、そう答えるゴートさん。
だが、一人で戦うには敵の人数が多過ぎる。
「しかし、ゴートさん・・・上か!!」
「何!!」
俺の言葉に反応し、その場から飛び退くゴートさん。
俺は既に上からの奇襲を感知していたので、三歩下がり余裕でナイフの一撃をかわす。
「テンカワ!!」
「大丈夫です、よ、っと!!」
ガスッ!!
敵の繰り出して来た、それなりに素早いナイフの一撃を・・・
自分の左手の甲でナイフを持つ敵の手首を打ちすえ、ナイフを弾き飛ばす!!
そして、驚いた相手が急いで逃げる態勢に入った、瞬間!!
「遅いよ・・・
相手の力量を確かめてから戦うんだったな。」
ドスゥッ・・・
一瞬で間合いを詰めた俺の膝と肘に、腹部と背中を強打されて敵は気絶した。
「さて・・・これで俺も敵にターゲットとみなされますね。」
「・・・見事な腕前だ、テンカワ。
お前には驚かされてばかりだな。」
どちらかと言えば、呆れた顔でそう呟くゴートさん。
何、諜報関係は貴方といつも組んでましたからね・・・
「で、武器はどうする?」
「こいつの持っていたナイフと・・・ブラスターが一丁、か。
これで十分ですよ。」
俺は敵の持っていたナイフとブラスターを取り上げ・・・残弾の確認を素早く行う。
ふむ・・・残り20発、か
十分だな、この程度の敵なら。
「手慣れているなテンカワ。」
「・・・残敵は8人。
右の4人、お願いしますね。」
「ああ、死ぬなよテンカワ・・・」
「まさか・・・まだ死ねませんよ、俺は。」
バッ!!
その言葉を最後に俺とゴートさんはその場から消えた・・・
「くっ!! 何処に行きやがった!!」
「・・・ニ流、こんな事で動揺するなよな。」
「なっ!! 後ろ!!」
ドスッ・・・
ナイフの柄の部分を敵の鳩尾にめり込ませる・・・
「グフッ・・・」
そのまま言葉も無く崩れ落ちる敵。
「さて、後3人。
おっと・・・」
殺気を感じた俺は素早く木の裏に隠れる。
バン!! バンバン!!
俺の隠れる木に、弾丸が着弾する衝撃が伝わる。
気配を殺したつもりか? それで?
まだまだ、だよ・・・
「そこ!!」
ダァン!! ダンダン!!
「ぐわっ!!」
俺の撃った茂みから、一人の男が腹を押さえながら出てくる。
そして、俺を信じられない者を見る様な目付きで見てから倒れる。
「ま、素人ではないからなこっちも。」
さて素早く状況確認・・・周りに他の敵影は、無し。
残弾17発・・・敵は残り2人、と。
「ん? そうくるのか・・・お生憎様、俺の五感は並じゃないんでね!!」
素早く横に転がりながら・・・俺は頭上の木の枝から、俺を狙っていた敵にナイフを投げつける。
ドシュッ!!
「ぐっ!! 何故俺の位置が・・・」
そして、俺の目の前に落ちて来る敵。
しかし、右腕の根元にナイフが刺さっている為に武器は持てない。
「簡単な事さ、俺は常人より五感が鋭いんでね。
昔は目も、耳も、鼻も、触覚も殆ど効かない状態で戦ったんだからな。」
そんな事を言う俺を、ふざけていると思ったか左手一本で男は挑みかかってくる。
「・・・信じられないのは解るが。
俺の執念はそのハンデを越えたんだよ。」
ガスッ!! ドッ・・・ゴォ!!
男の突進を右のローキックで止め・・・その足を降ろさずに右ハイに繋げる。
そして棒立ちの男に最後の一撃、右のフックを顎に決める。
男は無言で白目を剥いて倒れた。
「これで3人、と。」
「ラストは俺かい?」
俺の背中に声がかかった・・・ほう、自分から身を晒すか。
「俺はどちらかと言うと武術家タイプでね・・・アンタの戦い方に興味を持ってね。」
「確かに武術家だな。
俺と一対一で戦いたいのかい?」
「ふっ、俺の隠れている場所なんて解ってたんだろ?
なら隠れるだけ無駄だ、撃たれて負けるより・・・拳で負けた方が納得出来るんでね。」
・・・悪く無い考えだ。
自分の全力を尽して戦える場に、俺を引きずり込む、か。
知らず知らず俺は笑みを浮かべていた・・・
「いいだろう・・・付き合ってやるよ、来い!!」
「では、お言葉に甘えて!!」
ザッ・・・シュシュ!!
男は一飛びで俺との間合いを詰めて・・・軽い牽制の左ジャブを放つ。
その攻撃を軽く避けながら、俺は右中段蹴りを放つ。
俺の攻撃を自分の足でブロックをして、男が笑う。
「おっと・・・へへ、やるねアンタ。」
「楽しそうだな、それによく喋る。」
「まあ、ね!!」
ブッン!!
男が裏拳を放つ・・・俺は避けずに逆に間合いを詰め、その裏拳をブロックする。
その態勢から男は片足を持ち上げ、俺の足を踏み砕こうとするが・・・
「甘い。」
軽く上げた男の足の逆・・・軸足を素早く刈る。
「ちっ!!」
男は逃げ様とするが・・・裏拳を放った右手を俺は掴んでいた。
そのまま地面に倒れた男の右肩の関節を極め・・・外す。
ゴリッ!!
「ぐっ!!」
「悪く思うなよ・・・俺も死にたくないんでな。」
「なら手加減しろよ・・・完全に肩の関節を外しやがって。」
この状態でも憎まれ口が叩けるか・・・面白い男だ。
「心配するな、殺しはしない。」
「解ってるよ・・・アンタの戦いはずっと見てたからな。」
「・・・なら俺に勝て無い事も解ってた筈だが?」
「こちとら仕事なんでね・・・怪我無しじゃ格好がつかんでしょうが?」
「良い返事、だ!!」
ドスッ!!
俺の踵が男の腹部にめり込む・・・
「ぐっ!! ・・・だから手加減しろよ、な。」
そして、4人目の男は沈黙した。
なかなか面白い男だったな・・・
気絶した男達を一箇所に集めて、ロープで木に括り付ける。
怪我をしている男には応急処置を施してやった。
「ま、こんな事で死なれたら寝覚めが悪いんでね。」
自分でも今更偽善だと思うが・・・
変わろうとする努力を放棄する事は無いだろう。
何より・・・ルリちゃんや、ラピスの希望に応えてやりたい。
最後に男達を一瞥してから、俺はゴートさんのカバーに向かった。
「流石ですね。」
ゴートさんの方も俺が到着する頃にはカタが付いていた。
「・・・テンカワ、お前何処で諜報戦や野外戦を習った?」
「例の火星での学習装置。
・・・信じてくれませんか、流石に。」
俺にブラスターを向け、睨みつけるゴートさん。
「お前は余りに強過ぎる。
俺もお前には多分勝てんだろう。
今・・・お前を俺は排除するべきかもしれん。」
「・・・排除、しますか?」
俺とゴートさんの間に無言のやり取りが展開される。
「止めておこう・・・艦長やその他の女性陣に恨まれたく無いからな。
それにお前の眼は曇って無い。
まだこの世界の人間としては、まともな眼をしている。」
そして構えていたブラスターを降ろす。
「・・・時がくれば、お話ししますよ。
奇想天外な話しですけど、ね。」
俺が肩をすくめながらゴートさんにそう言った。
「ああ、その話しを楽しみに待つとしよう・・・」
そして、俺とゴートさんの二人だけの戦いは終った・・・
次ぎになすべき事は・・・
「ガイ・・・俺にはお前が疫病神に見えてきたよ。」