< 時の流れに >

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『咆えろ!! 我が内なる竜よ!!

 秘剣!! 咆竜斬!!!

 

 

 俺の目の前で・・・また、信じられない事が起こった。

 正直言って・・・もうコイツに驚かされる事は無いだろうと思ってた。

 しかし、コイツは・・・テンカワは、俺の物差しで計れる様な男じゃなかった・・・

 

「リョーコちゃん!!

 何をしてるんだ!! 早くバーストモードをスタートして!!

 この包囲網を抜けるよ!!」

 

「あ、ああ!! 解った!!

 バーストモード・スタート!!」

 

 

 フィィィィィィィンンンンンンン!!!

 

 

 俺のエステバリスが真紅のディストーション・フィールドを張る。

 そして、俺のエステバリスが先頭になり。

 先程の破壊の跡を刻み込まれた大地を疾走する。

 その俺の後ろを、テンカワのエステバリスが追い掛けて来る。

 

「しかし・・・何て野郎だ。」

 

 俺は自分が走っている場所を見ながら思う・・・

 アイツの敵にだけはなりたくない、と。

 

 俺の視線の先は・・・真っ直ぐな道。

 途中に立ち塞がる山脈すら・・・穴が穿ってある。

 どこまでも続く真っ直ぐな道・・・

 アイツが・・・テンカワ アキトがエステバリス一機で作り出した道・・・

 動く敵は勿論存在しない道・・・

 ただ・・・死と静寂に覆われた道・・・

 

 テンカワ・・・お前一体何者なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「さ〜て!!

 艦長!! ミナトさん!! メグミちゃん!! ついでにジュン!!

 コレを着てもらおうか!!」

 

 そう言ってウリバタケさんが持って来たモノは・・・過去と同じ物でした。

 ・・・私もやっぱりコレを着るんですか? ウリバタケさん?

 

「お〜〜っと!! ルリルリはコレだ!!」

 

 はあ・・・やっぱり私はコレですか。

 ・・・ま、別にいいですけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 ビシッ!!

 

 

「あら。」

 

 何とも言えない顔のエリナさん。

 

「艦長!! テンカワ達の様子は・・・新手のコスプレかね?」

 

 ゴートさんが冗談なのか本気なのか解らない表情で、そう言います。

 

「セイヤさんがコレを着た方が〜」

 

「作戦司令部みたいな気分でるからって〜」 

 

「コ、コレクションから持って来たそうです・・・」

 

「ビシッ!!」

 

 

 ビシッ!!(ブリッジ全員)

 

 

 上から、メグミさん、ミナトさん、ジュンさん、ユリカさん・・・で、全員敬礼で締めです。

 ・・・でも、どうして皆さん軍服のサイズがピッタリなんでしょう?

 ウリバタケさんも謎な人です。

 

 私はまた鎧を着てます・・・実は重いです、この鎧。

 

 

 

「まあ♪」

 

 何故そこで嬉しい悲鳴が出るんですか? エリナさん?

 実は軍事オタク?

 

「・・・こちらの作業は始まってる。

 ドクターが観測衛星から送られて来るデータを分析中だ。」

 

 ・・・ゴートさん、かなりナデシコのクルーに耐性が出来ましたね。

 動揺すらしないとは。

 それとも、諦めているのかもしれませんね・・・

 

 プロスさんは頭を抱えてますけど・・・まだまだですね、プロスさん。

 

「いずれ新たな情報が得られるだろう。」

 

 

「ビシ!!」

 

 

 ビシッ!!(ブリッジ全員)

 

 

 

 

「ほーんと、馬鹿ばっか。」

 

「もしかして・・・嫌?」

 

「いえ、十分楽しんでます、私。」

 

「そ、そうなの・・・ルリちゃんはまともだと思ってたのに(ボソッ)

 

 ジュンさんにそんな事を言われるのは心外です。

 

 

 

 

 

 かなりの距離をテンカワのお陰で稼げた。

 一番始めの作戦で予定されていた地点を、予定時刻通り通過する事が出来た。

 

 

 グラカーニャ村・・・同日20時10分通過

 

 

「なあテンカワ・・・お前さ、何処であんな技を身に付けたんだ?」

 

「あんな技?

 ああ、咆竜斬ね・・・俺のオリジナルだよ。」

 

「嘘だろ? よくあんな技を思い付くな!!」

 

「ま、訳ありでね。」

 

 そのテンカワの言葉が・・・凄く寂しそうに聞こえたのは、俺の気のせいだろうか?

 

 

 スベイヌン鉄橋・・・同日20時45分通過

 

 

「テンカワってさ・・・もてるよな。」

 

「え? そうなの?

 ・・・よく解らないなそんな事?」

 

 多分・・・本気で言ってるんだろうなコイツ。

 そんな事を考えつつ俺達は絶壁を登っていった。

 

 

 カモフ丘・・・同日21時10分通過

 

 

「しっかしテンカワ!! よくオメーあのDFSを使いながら機動戦が出来るな!!」

 

「え? ああ、DFSね・・・

 慣れだよ慣れ。

 リョーコちゃん達もコツを掴んだら直ぐに使えるよ。」

 

 テンカワはそう言うが、俺達には絶対無理だな・・・

 悔しいけど才能、という絶対的な壁は存在する。

 俺やヒカルやイズミは今迄、人並み以上に才能があると思ってた。

 ・・・テンカワに会うまでは。

 

 テンカワの戦う姿を初めて見たのは、地球を脱出する時の戦闘記録だった。

 ナデシコ船外で第2防衛ラインのミサイルを、全て避けてみせるテンカワのエステバリス。

 正直、見ていて身体に震えが走った・・・

 初めて他人の才能に嫉妬した・・・

 しかし、その人物ときたら・・・

 

「リョーコちゃん・・・イールに着いたよ。

 早く携帯イカダを用意して。」

 

「あ、ああ!! 解った。」

 

 俺は携帯イカダを河に投げ入れ、渡河の準備をする。

 

 

 イール・・・同日21時30分通過

 

 

「・・・止まってリョーコちゃん。」

 

「どうしたんだ? テンカワ?」

 

「地雷原だ。」

 

「何!!」

 

 どうする? こんな所で下手に時間を潰すわけにはいかない!!

 

「・・・やるか。」

 

「何をだテンカワ?」

 

「時間が無い・・・一撃で決める!!」

 

 そう言ってDFSを構えるテンカワ!!

 おいおい!! まさか、さっきの技でまとめて地雷を吹き飛ばすつもりか!!

 

 しかし・・・テンカワはDFSを発動させなかった。

 いや・・・出来なかった、と言った方が正しい。

 

「くっ!! やっぱり秘剣クラスでも耐えられないのか?

 この肝心な時に!! 強度で欠点が出てくるとは!!」

 

 ・・・じゃあ何か?

 テンカワは最大の攻撃方法を失ったのか?

 

「・・・戻るかテンカワ?」

 

「・・・いや、今更引き返せない。

 それに、まだ手はある!!」

 

 そうか・・・お前は強いよテンカワ。

 心も身体も、な。

 

「じゃあ、今は地道に地雷原を抜けるとすっか!!」

 

「そうだね・・・ここで立っていても時間が勿体無いし。」

 

 そしてナイフを地面に突き立てつつ、俺達は地雷原を突破した・・・

 

 

 モアナ平原・・・同日22時30分通過

 

 

 

「一旦休憩しようリョーコちゃん。」

 

「何言ってやがる!!

 こちとら時間が無いんだぞ、テンカワ!!」

 

「でも、今焦ってナナフシに向っていっても。

 疲れが溜まった状態で勝てる相手じゃ無いよ、ナナフシは。」

 

「・・・そうだな、解った休憩にしようぜ。」

 

 何時も冷静に判断をするなテンカワは・・・

 なのに・・・何故あの時は暴走した?

 

 初めて見せたテンカワの感情の爆発・・・

 北極大陸で、あのふざけた親善大使を救出に向った時の戦闘。

 DFSが俺達の目の前で、全ての敵を切り伏せた・・・

 その鬼神の攻撃の前では、木星蜥蜴の軍はただの木偶人形だった。

 俺達はただその姿に恐怖し・・・見惚れた。

 

「リョーコちゃん!! 料理が出来たよ!!」

 

「おう!! 今エステから降りるぜ!!」

 

 綺麗だと思った・・・

 ミサイルが一発でも当れば死ぬ・・・

 その信じられない極限状態の中で舞う、テンカワのエステバリスが。

 

 だけど・・・エステバリスを降りたコイツは・・・

 普段の何気無い俺達や艦長達のやり取りを、まるで宝物の様に見詰める瞳。

 一人の時は何時も目を瞑って、考え事をしている。

 そんなに・・・何を考えているんだ?

 

 一体コイツの頭の中は、どうなってるんだろう?

 狂った様に戦い。

 慈しむ様にナデシコのクルーを見詰める。

 そして・・・一人、悩み続けている。

 

 俺の興味は常にコイツ・・・テンカワの動向にあった。

 

「へ〜、流石!! 見習でもコック!!

 美味いじゃね〜か!!」

 

 そう言えば、テンカワって料理も得意なんだよな。

 いろいろと特技の多い奴だぜ、まったく。

 

「それ程でも・・・ないよ、俺の料理なんてさ。

 でも、自分の料理を人に褒めて貰えるのは嬉しいよ。」

 

 俺はこの時・・・テンカワと二人きりだという事を再認識した。

 

「なあ、テンカワ・・・」

 

「ん、何だい?」

 

 自分が食べていた料理の皿を地面に下して、笑顔で俺の顔を見るテンカワ・・・

 黒い瞳が笑ってる・・・コイツの笑顔って暖かいんだよな。

 

「俺の話し・・・聞いてくれるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺の話し・・・聞いてくれるか?』

 

「ルリルリ? 何を聞いてるの?」

 

「今大事な所なんです!!

 黙っていて下さい!! ミナトさん!!」

 

「は、はい(汗)」

 

 くっ!! サウンドオンリー、受信オンリーでは話しになりませんね!!

 邪魔をする事も出来ません!!

 

『ルリ・・・これがエステバリス周辺での、精一杯の受信範囲だよ。』

 

「ええ、それは解ってますオモイカネ・・・

 引き続き受信をお願いします。」

 

『・・・はい。』

 

 オモイカネの反応が鈍いですね?

 呆れているのでしょうか?

 

「ルリちゃん? ・・・ちょっとゴメンネ。」

 

 え!! ユリカさんそのスイッチは駄目です!!

 

 

 ポチッ!!

 

 

『なあテンカワ・・・お前好きな女の子とかいないのか?』

 

 

 ブリッジ内に限らず・・・

 ナデシコ船内に通信が入ります。

 

 ・・・私はもう知りません。

 アキトさん、運を天に任せましょう。

 

「・・・何よコレ!!

 リョーコさんと、アキトさんの会話じゃない!!」

 

「ええ、そうです。

 エステバリスからのダイレクト通信です。」

 

 私も開き直りました。

 

「ルリルリ・・・こ〜んな面白い事一人占めしたら駄目じゃない♪」

 

 ・・・怒られませんでしたが。

 複雑な心境です。

 

「ふっふっふっ・・・頑張るのよリョーコ!!」

 

「ここが攻め時、決め時、止めの時、ね。」

 

 ・・・毎度ながら。

 何時の間にブリッジに入って来たんですか、ヒカルさんイズミさん?

 

「むう〜〜〜〜〜〜!!!

 アキトは浮気なんてしないもん!!」

 

「そうですよ!! アキトさんに限ってそんな事!!」

 

 

『俺が好きな女の子?

 ・・・いる・・・いや違うな、いたと言うべきかな。』

 

 

 アキトさんの返事を聞いて全員が黙り込みます。

 どちらにしろ受信オンリー・・・後はアキトさんとリョーコさん次第です。

 

 

『じゃあ!! ・・・今、付き合ってる奴はいない訳だな。』

 

 

 ちょっとガッツポーズをするユリカさんとメグミさん。

 ・・・見ていて面白いかも。

 

 

『そうだね・・・俺には・・・いや、別に何でもないよ。』

 

 

 アキトさん・・・駄目ですリョーコさん!!

 それ以上アキトさんを追い詰めないで下さい!!

 

 

 

 ピーピーピー!!!

 

 

 誰ですかこんな大事な時に!!

 ・・・緊急信号? 誰からですか?

 

『ヤマダ ジロウさんからですね。』

 

「は?」

 

『お〜〜〜い!! 誰か助けてくれ〜〜〜〜〜!!』

 

 突然現れた通信ウィンドウ一杯に、顔を出すヤマダさん。

 

「どうしたんですか?」

 

 メグミさんが質問します。

 

『イネスさんが!! 何かアキト達の会話を聞いてから急に機嫌が悪くなって!!

 それで・・・ちょっと!! イネスさん!! その注射器は何ですか!!』

 

『黙ってなさい・・・ちょっと濃い目の栄養剤を試すだけだから!!』

 

『嘘だ!! そのアンプルに記入されてる髑髏マークはなんですか!!』

 

『え〜〜い!! 黙って注射されなさい!!

 私、ちょっとムシャクシャしてるのよ!!』

 

 その気持ちは解りますイネスさん。

 

『そ、そんな理由で人を人体実験するな〜〜〜〜〜〜〜!!

 誰か助け・・・』

 

 

 プツ!!

 

 

「煩いので通信を切ります。」

 

「ええ、全然!! 問題無いわルリちゃん。」

 

 ユリカさんも快諾してくれました。

 まあ・・・ヤマダさんの事だから生き延びるでしょう。

 

 それに今は、ヤマダさんよりアキトさんです。

 

 

『それじゃあ・・・テンカワ。

 もし、もしだぞ!!

 ・・・俺がお前と付き合いたい、って言ったらどうする?』

 

 

「やる〜、リョーコ♪」

 

「ま、リョーコにしては頑張ったわね。」

 

 そんなヒカルさんと、イズミさんの会話を・・・

 私達は聞いていませんでした。

 

「・・・ルリちゃんメグちゃん、グラビティ・ブラストのチャージ開始。」

 

「了解。」

 

「相転移エンジンからのバイパス開きます。」

 

 ユリカさんからの命令に、迅速に応える私とメグミさん。

 

「ちょっ!! ちょっと待ってよユリカ!!」

 

「や、止めなさいルリルリ!!

 今グラビティ・ブラストのチャージなんかしたら・・・

 ナデシコを守っているディストーション・フィールドが無くなるわよ!!」

 

「落ち付いて下さい!! メグミさん!!」

 

 ジュンさん、ミナトさん、プロスさんが必死に私達を止めます・・・

 でも。

 

 

「それでも・・・かまいません!!」 (ユリカ、メグミ、ルリ)

 

 

 私達を止める事は誰にも出来ません。

 しかし・・・

 

 

『・・・その、もしもには答えられないよリョーコちゃん。

 俺は・・・自分で自分を赦せない限り。

 自分だけ幸せになるつもりは無いんだ。

 それに・・・俺の何処がいいんだい? リョーコちゃんは?』

 

 

『・・・初めはテンカワの才能に嫉妬してた。

 次ぎに、テンカワのナデシコクルーを見る目に興味を持った。

 そして・・・北極の戦いで、完全に魅せられた。

 最後は・・・自分の気持ちに気が付いたのは・・・

 寂しそうにたった一人格納庫で自分のエステバリスを見詰める、テンカワを見て・・・』

 

 

 ナデシコは静寂に包まれました・・・

 それはクルー全員が知っている事、疑問に思っている事・・・

 自分の命を積極的に危険に晒してまで、ナデシコを守ろうとするアキトさん。

 食堂でクルーの人達が自分の料理を食べているのを、暖かい目で見詰めるアキトさん.。

 鬼神の如く敵を殲滅し・・・想像を絶する技を、強さを見せつけるアキトさん。

 

 誰よりもナデシコを守る人・・・

 誰よりもクルーを大切にしている人・・・

 誰よりも強い人・・・

 

 そして・・・誰よりも恐れられ・・・謎に包まれた人・・・

 それが、ナデシコクルーのアキトさんへの思い。

 

 

『じゃあ!!

 ・・・じゃあ、テンカワ。

 お前は何を赦せないんだ?

 何時・・・自分を赦す事が出来るんだ?』

 

 

『・・・それは解らない。

 もしかしたら、一生自分を赦せないかもしれない。

 でも・・・この戦争が終れば・・・』

 

 

『終れば・・・何なんだテンカワ?』

 

 

『何か・・・答えが見付かるかもしれない。

 ・・・時間だよリョーコちゃん。

 休憩は終り、ナナフシに向おう。』

 

 

『・・・ああ、解った。』

 

 

『・・・それと、御免。』

 

 

『・・・今は・・・その言葉だけでいいさ。』

 

 

 

 

 そこで・・・通信は切れてしまいました。

 結局、何も進展は無く・・・

 だけど・・・クルーの皆さんは少しだけ。

 そう少しだけ・・・アキトさんを理解してくれたかもしれません。

 私は、そう思いたいです・・・

 

 

 

 タイムリミットは・・・後、5時間ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

第十一話 その4に続く

 

 

 

 

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